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32:道中

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 『……村ごと消してしまえば良かったのではないか?……』

 昨夜の話を死神にした後に帰ってきた第一声がこれだった。

 『いや、怖すぎますって』
 「この世界では人間の命の価値が低いんでしょうね。私たちが居た世界では人殺し何て……まぁ、無いとは言わないけど、少なくとも一般人にとっては無縁の話だったのよ。だから殺されそうになったからって、相手を殺したいとまでは思わないわ。でも、やっぱりペナルティが軽すぎなのよね。懲役10年は食らわせたいわ!」

 現在は昼過ぎ、多少なりとも大きな街だという目的地に向かって移動中だ。ちなみに移動手段は相も変わらず走り。
 昨夜の襲撃の賠償金代わりに馬車でも貰えないかと思ったけど、山羊が数匹いるだけで、馬すらいなかった。
 まぁ、死神曰く、

 『……馬車?……走った方が遥かに早いのに……そんなのがいるか?……』

 とのこと。

 ……確かに、今の僕たちは人間離れした(実際に灰田さん以外は人外だけど)身体能力を持っている。馬どころか新幹線より早いかもしれない。荷物の大半も死神の腕輪に収納出来てしまうので困らない。

 馬車要らないかも。

 「あのね。貴方たちは疲れないから良いかも知れないけど、私は走ると疲れるのよ!まぁ、疲れると言っても日中ずっと走ってたら息が切れるってぐらいになって来てて、ちょっと自分でも怖いけど」
 『……ならば問題なからろう……夜は拠点用魔道具で寝れば良いのだし……』
 「今回襲われた理由の一つがそれでしょ?あれ、人目があるところではあまり使わない方が良いかも。よっぽど高価な物なんでしょ?人里で宿とかが無い時に馬車の荷台を寝床代わりに出来るじゃない」
 『……そもそも、この腕輪には生き物は収納出来んぞ?……普段の移動に馬が付いてこれるとは思えんが?……』
 「うぐ!」

 論破された灰田さんが、ぐぅの音の代わりにうぐ!と声を漏らす。

 『でもカモフラージュ用のテントとかは要るかもですね』
 「そ、そうよね!」

 やはり、どうも僕は灰田さんの意見に肩入れしてしまっている気がする。
 実際、襲ってくるなら返り討ちにすれば良いだけなのでは?という考えも持っている。

 『……我の腕輪にも……あまり余裕はないのだがな……』
 『やっぱり、容量は小さくても良いので、自分たち用のその腕輪が欲しいですね』
 「これから行く街とやらに売ってないかしら?」

 ふむ、と死神は少し考える。

 『……あるかも知れん……馴染みの魔道具店がある……そこで探して見よう……』
 「いや、なんで村にすら入れない死神が、大きな街に馴染みの店があるのよ?」
 『……幾らでもやりようはある……ということだ……』

 死神がニヤリと笑った……ような気がした。実際は骸骨だから表情なんて分からないけど。
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