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第四章 動 乱

第二十九話 王都攻防戦

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 人智の月三十三日目、王国―三将侯軍、アルエディー&アレフ軍とキース軍、王国解放戦線軍の総てが王都前に本陣を置いてから約一月と半、エア城まで残り82ガロット。しかし、ヨシャ・ヤングリート元帥の元に集まった三将軍ソナトス・タイラー、コースティア・オリンズ、そしてイリス・チュートリアルとその兵約九万八千が街内に陣取って防衛陣を張っていた。
 
 街中での戦いをなるべく避けていた王国側の殆どは郊外で戦闘を続けている。メイネス帝国側の医療、食料などの物資は街の中から徴収していたためけして篭城戦とはならなかった。帝国が指揮しているわけでは無い異形のモノ達が王国兵と帝国兵が戦う中、ここぞとばかり街中で大暴れしていた。市民にも王国兵にも被害が出るだけであって・・・、いまだ誰一人として王城に辿りつく事が出来ず無駄に月日を過ごしていた。

◇ 共和国内帝国軍本陣―三日前 ◆
 イグナート大元帥、ウィストクルス元帥とその下の三将軍、オスティー、カティア、クリス達の軍は大きな損害を出さず戦いながらサイエンダストリアル領内の五分の一の距離程の場所、王国側へ後退していた。
「イグナート様、朗報をお持ちいたしました」
「もっ、若しや、二人が見つかったのかっ!」
 その大元帥は彼の副官オスカーから報じられる前に血相を変えてそう聞いていた。
「閣下、落ち着いてください・・・、ハイ、ナルシア皇妃様およびエアリス皇女様、お二人ともアレフ、アルエディー達と行動を共にしていると」
「それは本当に本当のことなのアルカー!?」
「確かな報告です。ファーティルでレジスタンスとして活動している友が彼等と接触した時にお二人様を確認したと・・・、それとこれがその時の映像です」
 オスカーは小型の立体映像装置を操作して友から送られてきた映像を二人に見せた。その映像を見てイグナートもウィストクルスも二人が抱えていた不安が取り除かれ胸をなでおろしていた。
「停戦協定の文を書く、オスカーその間に情報部から一人伝令兵を連れてきてくれ」
 彼の副官はそれを聞くと一礼をして素早くそちらに向かった。
「兄上・・・、ファーティルは停戦を受けてくれるでしょうか?」
「ウィスも嫌であろう、このままマクシスが言うまま無駄に戦いが続くのが・・・、二つの国が停戦要求を受け入れる際、多額の賠償金や難題を請求してくるであろう。しかし、それくらい聞いてでも戦いを停めるべきではないのか?・・・、我が国の民に負担は掛かるだろうがこれ以上血が流れるよりは良かろう?」
「そうですね・・・、停戦が上手く行く様に私はアルに親書を書きます。彼と現国王アレフはとても仲がよろしいとアルから聞いてる。アルに頼めば・・・、無理な要求なく上手く停戦できるかもしれない」
「そうか・・・、ウィス、それではその書を頼む」
 大元帥はファーティル国王、アレフ宛に停戦協定書を書き、元帥は彼の友のアルエディー宛に親書を紙に綴った。
 暫くして、オスカーが伝令兵を連れ戻ってきた。
「イグナート大元帥閣下殿、二日でこの書簡をお届けいたします」
「うむ、サレンダー、よろしく頼む。道中気を付けてくれ」
「ハッ!了解であります。それでは失礼します」
 伝令兵は馬を使いファーティル王国へと向かって行った・・・。それから約二日その兵は一日でサイエンダストリアル共和国を抜けアレフ達が戦っている王都付近まで近づいていた。
「あと少しだ、もう少し頑張ってくれ」
 その兵は酷使して乗ってきた馬にいたわる様な言葉を掛けさらに速度を上げる。突然、前方に人が現れそれに驚いた兵はその人物を馬で跳ね飛ばしてしまいそうになる。
「危ないっ!!」
 ぶつかる寸前に何とかその兵は馬の前足を上げさせ方向を転換して回避させた。
「貴方が持っているもの王国側に渡す訳には行きません。死んでもらいます」
 静かなる声、表情を変えず黒髪の少女は二本の暗殺用短剣を取りだし・・・
「なっ、なにをする!・・・・・・」
 その先の言葉は彼から聞く事は出来なかった。返り血を少しだけ頬に浴びた彼女はその兵を見て下唇を噛んで何かの感情を押し殺した。それから、その兵の腰にある書簡入れからアレフ達に渡されるはずだった文を取り出し、小さく呟くと赤々とそれらは燃え、灰となり塵となって風の中に消えて去って行った。
「・・・、任務完了・・・、たの任務を継続する」
 小さな声で独り言の様に唇を動かすとまた突然その場所からいなくなった。

◆   ◇   ◆

 王都とスウェル平原の境界で苛立ちながら戦うアルエディー。
「クッ、いつまでここで戦えばいいんだ!エア城まで二時間の距離だと言うのに・・・、こうなったら俺一人でもここを突破してっ」
「アルエディー様、そ探索探知器けはお止め下さいっ!城にはソナトス将軍率いる一万五千六百者兵が構えていると霧姫さんから報告があったとお教えしたではありませんか。いくらアルエディー様が強くてもそれらを相手にするのは・・・、むっ、無謀です」
 アルエディーの直ぐ傍で戦っていたその副官は苛立ち無謀な行いをしようとする上官に対して冷静にそう返していた。
「ルナッ、だったら何か策を俺にくれっ!」
「・・・、残念ながらありません」
 言葉でそう言っているが彼女は二つほど奇策を持っていた。だが、それを口にする事はなかった。何故なら、そのどちらも成功と同時に大きな被害、若しくは彼女の上官に対して大きな危険が及ぶからだった。一つはレザード、アルティアの二人が使う転送魔法で彼等と共にイクシオス隊や天騎馬隊を含めた限界ギリギリの兵七百を連れ王城に奇襲をかける。そして、その兵に二人を護らせ大魔法と竜機隊でソナトス将軍と共にその場にいる全兵を殲滅させる。その代わり二人の大魔法や竜機の威力に当然味方も巻き込まれソナトスの兵が布陣する場所によってはエア城を倒壊させてしまうかもしれなかった。
 もう一つはアルエディーにソナトスと一騎討ちをさせるため将軍を呼び出しその隙に将軍兵と呼応して他の帝国将軍にそれが気づかれる前に快速部隊を王城に移動させ城を取り返す。これまでの多くの戦いでソナトス将軍がアルエディーと一騎討ちをしたいと願っている事をルナは見抜いていた。そして、彼女の策によって将軍の願いは毎度悉く阻止されていた。そんな策をルナがアルエディーに言うはずがない。
「本当に何も考えつかないのか?」
「申し訳、御座いません」
「分かった・・・みんなぁーーーっ、これ以上ここでの戦いは無用ダッ!一時撤退する。下がれぇーーーっ」
 その騎士の声に彼の騎兵は規律よく後退して行った。アルエディーもまたルナと共に彼の馬が繋がれている場所まで戻ると本陣を立てている王都より15ガロット西の町ウィックスベルへと戻って行った。

* ウィックスベル入り口近くにある千騎隊の大組立式建屋 *

「ケリー、頼みがある」
「どうした急に?」
「帝国といっきに俺達の部隊で決着を付ける」
「本気か!?アルエディー・・・、その事ルナお嬢ちゃんには言ったのか」
「・・・まだ言っていない」
「だろうな、言えばお嬢ちゃんのことだ。必ず止めるだろう・・・、俺は構わない。部下達も何も説明しなくてもついてきてくれるだろう」
「俺達以外、誰か連れて行くのか?」
「そうだな、アレフ王とレザードの二人には一緒に来てもらう、それとあの九頭龍と言う部隊にフェディルナイツを当てる」
「そうなると俺達の部隊百五十の騎馬とアレフ王の三十の騎馬、それと諸々連れて二百って事か・・・、いつやるんだ?」
「今夜、夜襲をかける」
「一万以上いる相手にたったの二百で夜襲か・・・、危険は伴うがそれが無難だろう」
「無茶な事は分かっている。でもあと少しなんだ」
「分かってるよ・・・、それじゃ俺は部隊の召集に掛かるからお前はここで待っていろ」
「ルナには気付かれないでくれ」
 ケリーは鼻で笑ってそれに応じた。それから約1イコット、ぽつぽつと集まって来たアルエディーの部下達が彼の前に集う。その間、彼もまたアレフとレザードの所に向かい彼がやろうとする事を伝えていた。それに対してアレフは力強く、レザードは面白そうに答えを返していた。
「俺はこれ以上戦いを長引かせたくない。だから今日の夜それに終止符を打つ。これが最後だっ!みんな俺に力を貸してくれっ!命を預けてくれっ!!」
 組立式建屋の外に漏れない程度の声で目の前に集まった部下達に彼はその様に言葉を向け、彼等は口を閉じたまま鞘に収めていた剣を抜き、上に掲げてその意思を示した。
「みんな・・・、有難う」

 全ての部隊達が眠りについた頃、アルエディーの部隊だけひっそりと約束の場所に集っていた。
「よしっ、みんなそろったようだ。アルエディー出発準備は出来た」
「よぉおおぉしっ、みんな出発する・・・、レザード」
「分かってますよ・・・、ILLUSIONFAKE」
 レザードの唱えた魔法で部隊が薄い霧に包まれた。外から見ると二百近くいるはずの兵が僅か十人しかいなかった。イリュージョン・フェイク、光と水の精霊の力を借りた幻影を生み出す魔法。音や気配などは隠せないが少ない魔力でアルエディーの部隊くらいだったら十分覆い隠しその詳細を知られずに移動する事は可能だ。月明かりとレザードの無数のライトボールと言う光源魔法に照らされながら部隊は王城エアに進行して行く。

~   ~   ~
  ソナトス将軍は篝火の踊る炎に照らされながら静かに椅子に座り両腕を組んだ状態で正面の闇を見据えていた。将軍は何かを感じている。千人ばかり兵だけは寝せず王城の前に布陣させていた。まるでアルエディー達が夜襲を掛けて来るのを知っているかのように・・・。
「閣下っ、本当に彼等は来るのでしょうか?」
「案ずるな・・・、こ探索探知器け王都とその境で争いが続けば奴等とて強硬手段に出るであろう」
「それが今日でなくとも・・・、必ず来る。我が血が騒ぐ・・・、血が叫ぶ・・・ここに現れるであろうアルエディーと決着を付けろと」
「閣下・・・、了解でありますその言葉、信じて我々兵も待ちましょう」
「すまんな。他の連中にはあの者をやれんのだよ、武人として、フフッ」
 その将軍の血の勘は的中し約2イコット後にアルエディー率いる千騎隊とアレフ特別騎馬隊が襲来し、王国約二百の騎兵と帝国、歩兵三百五十、槍兵二百五十、弓兵二百、騎馬九十、それと九頭龍九人とソナトス将軍。合計約千の兵が戦いを開始しようとしていた。
「フフフッ、やはり現れおったか。これが最後となろう・・・、私の勝ちでな」
 将軍はそう言葉にすると立ちあがりアルエディーと戦うためにその場所から動き出した。

†   †   †

 その戦いから約1イコットと半前、ウィックスベル。心の中に不安を感じたセレナはアルエディーが寝ているはずの組立式建屋に足を運んでいた。その組立式建屋から明かりがもれている。
「セレナです・・・、アル様、まだ起きておいでなのですか?」
 中から返事はない。彼女は恐縮しながら布の扉を開け、中を覗いた。しかしそこにアルエディーはいなかった。言い知れない不安に踊らされながら彼女は辺りを探す。
「・・・、どこにもいない。それに・・・」
 セレナはアルエディーのいそうな場所をくまなくトレスと言う探索魔法を使って探したが彼は見つからなかった。そして、彼の馬や彼の部隊の馬達がいない事に気付いたセレナは血の気の失せた顔で自分の組立式建屋へと戻る。
「ルナさんっ、貴方一体アル様にどんな策を言いつけたのでスカッ!!」
「私はアルエディー様に策など言っていませんが・・・、セレナさんどうかいたしましたか?」
「嘘を言わないで下さい!アル様もアル様の兵士さん達も何処にも見当たりません!こんな時間いないなんって可笑しいです」
 セレナの言葉に驚きルナは下着の上にローブを羽織るとアルエディーの部隊の厩舎組立式建屋に向かった。馬がいない事を確認するとルナは下唇を噛み締め自分の失態に苛立ちを感じていた。なぜなら彼女の上官がもしかして夜襲を掛けるのではとルナは思っていたのにそれに気付けず見過ごしてしまったからだ。直ぐに組立式建屋に戻り、素早く鎧を身に纏うと王城へ向かおうとした。
「ルナさんっ、何処へ行くのですかっ!私も付いて行きますっ!!」
 二人は一体の馬を駆り王城へと向かって行く。

~   ~   ~

「アルエディー、今日こそ決着を付けてやる!」
「望むところダッ!手加減はしないぞソナトス将軍」
 今その騎士は精霊王の力を借りる事は出来ない。夕刻の戦いの時にデュオラムスの力を借りていて今は返還され休眠しているところだった。だが彼が強いにはけして精霊王の力を借りているからではない。アルエディーは大剣を両手で構え、ソナトスは巨剣を片手で握り締める。今までと違って相手の動きを探る事なく互いに剣を交え、力と力の押し合いが始まった。ソナトスは巨剣を軽々と持ち上げ上段から振り下ろす。かわされたそれは地面に突き刺さったがしかし強引に持ち上げ、今度は連続で左右に薙ぎる。
『ガギンッ、ガシュッ、ザンッ、グシュッ』
 月明かりだけに照らされた剣と剣が打ち合う音が闇の中にこだました。
「やるなっ、これならっ!!」
 大きな岩をも砕きそうな勢いでもう一度上段から巨剣をアルエディーに向かって振り下ろした。
『ズガンッ!』
「グッ、絶対、負けぇられぇないんだぁああああぁーーーーーーっ!」
 振り下ろされた巨剣をアルエディーは左手で柄を握り、右手で大剣の広い背の部分を押さえ地面に強く踏ん張り受け止めた。その体勢からアルエディーは強引にソナトスの剣を払いのけ攻撃に入り、巧みに斬と突き交互に繰り返し、ソナトスをその場から後退させる。
「テイッ、ヤッ、ハァアァアアーーーっ!」
「小癪なっ、この程度ぉっ!」
 巨剣を楯にしてアルエディーの攻撃を受け流す。
「まだまだっ、ソリャッ、トォッ」
「フンッ、ハァッ!!」
 25ヌッフほど互いの攻防が続く。そして、ただの剣の振り回しでは決着がつかないと思った両者は間合いを取り一撃必殺の体勢に入った。
「この一撃で決めルッ!そして勝つのは俺ダッ!!」
「フンッ、笑止、勝ちは譲ってやれんよ。そのかわり傷みなく彼《あ》の世に送ってやろう」
 アルエディーは正眼に構え、ソナトスは左手を開き相手の顔を掴む様に前に出し右手に握った剣の柄を顔の高さまで持ち上げ剣先を相手に向ける上段脇構え。
 相手の気配を探り一撃を加える絶好の機を待っていた。それから10ヌッフ、お互いその場所を動かずじっと構えているままだった。
 そして・・・、
「ウオォォォォーーーッ!!」
「ヤァァァァァーーーーーーッ!!!」
 ソナトスは咆哮をあげ、アルエディーは気合を籠めほぼ同時にその地をけってお互い前に飛び出し、お互いの剣が交差しその場を行き過ぎる。
『グシャッ、ズシュッ』
 二つの何かを切り裂く音がソナトスとアルエディー、お互いの耳に聞こえた。
「グハッ、ゲホゲホッ・・・」
「ウグッ、オォォオエエェェッ」
 アルエディーは持っていた剣を地面に突き刺し幅広い部分に頭をもたげ両膝を地面に突き、ソナトスは剣を持った手を水平に伸ばし仁王立ちしていた。お互い背を向けあったっままその場を動かないでいる。
「見事であった・・・、流石はその名を有名にした男、これが最後の戦い・・・に・・・・・なったが・・・、く・い・わ・・・な・・・・・・・・・・いっ」
「俺も・・・、アンタの・・・・・・様な・・・つ・よい・・・将軍と・・・たたか・・・えて・・・う・れ・し・い」
「フンッ、そうか・・・、次はあの世で剣を交えよう・・・、グハッ」
『ドスンッ!?』
 ソナトスの手から巨剣が落ち、彼は立ったまま息を引き取った。その者の顔は死を迎えたと言うのにとても満足げであった。
「・・・、それもいいかも・・・」
 突き立っていた剣と共に地面に吸い寄せられる様にその場に倒れこむ。命をかけて二人の剣が交わろうとした時、セレナとルナがその場にちょうど到着し、その結末をコマ送りのような速度で目の中に映していた。
「えっあっえっ???いっ嫌ぁあぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁっ、アル様ぁーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!」
 泣き叫びながら馬から飛び降りアルエディーのもとへ駆け寄って行くセレナと馬の上で眼前の光景を見ていたルナは蒼白となって数ヌッフ硬直していた。アルエディーの傍まで寄って来たセレナはその騎士にまだ息がある事を知るとその聖女は治癒魔法を唱え始めた。
「お願いです、四精霊よ私に力をお貸しください・・・、*****************************・・・・・・・・・・・******」
 セレナの両手が薄く輝き、アルエディーの傷ついた患部にそれを当てた。表面的な斬激の痕は見る見るうちに接合され消えて行く。数時間もすれば彼の大きく抉り貫かれていた右肩も完治するだろう。
「アルエディー様は・・・」
 いつの間にかセレナの隣に立っていた彼女は不安交じりの声で安否を確認していた。
「大丈夫です・・・・・・、今目を覚まさせます。・・・、もう一度、私に力を・・・*********・・・・・・*****」
 強力な気付けの治癒魔法を唱えると淡白い光がアルエディーの体を包んだ。その光が消えると彼がゆっくりと瞼を開きセレナとルナの二人に目を微かに動かしその瞳に映していた。
「・・・?俺は助かったのか・・・、痛うぅっ」
「アル様、完治している訳ではありません。余り動かないで下さい」
「また、セレナが俺を助けてくれたのか・・・」
「ハイッ、今回もお助けして差し上げました・・・」
 彼女は表情を柔らかくしながら目じりに少しばかり涙を浮かべそう答えていた。
「アルエディー様っ!!どうしてこのような事を・・・、どうして私に何の相談もなくっ!!」
 ルナは頬に涙を伝え、可愛らしい下唇を噛み締め、彼女の心配していたのだと言う意思を強く上官に示した。
「どうして泣くんだ?・・・、それより将軍は倒れた。直ぐに部隊に連絡し戦いを止めさせてくれ」
 その上官に副官の気持ちを察する事は出来なかった。そして、彼自身や彼女のことよりもまだ戦っている部下達の事を思いそう命令していた。
「ハイッ・・・、分かりました」
 ルナはアルエディイーに自分の意思が伝わっていない事を心の中で悲しみ、その感情のままその命令を受け戦場の中へ走って行った。それから、直ぐに戦いは止まりソナトス将軍が率いていた生き残りの兵はその場から撤退して行く。その中の何人かの兵がソナトス将軍の亡骸を涙し悲しみながら運んで行ったのだ。
「やったなアル、流石だよお前は・・・、さあ城の中へ行こうか」
「中に敵兵は伏せていないのか?確認はしたのか?」
「何を心配しているのだ?敵はソナトス将軍とその兵だけだったのだろう?」
「そうだが・・・」
「気の張りすぎだ。少しは楽にしたらどうなんだ?私達は勝ったのだぞ」
 アレフは友にそう口にしていた。しかし、その友はどうしてか勝利した気分に浸れなかった。そんな想いのままその王と他の仲間達と共にエア城の中に入って行く。
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