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第 四 章 晴れぬ迷い

第十八話 想いと言う名の重力

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 香澄が俺の事をどんなに想ってくれているか頭の中では理解していた積もりだった。だけど、どうしても春香に逢わずにいられなかった。
 春香に逢うたびにその気持ちはどんどんと強くなっていく。
 引き寄せあっていく。まるで引力か何かに惹かれるように。
 今を例えるなら地球と月みたいな関係。
 お互いを引き合ってるんだけど離れもせず、近付きもせず、だけど、互い切っても切れない関係そんな感じだった。でも・・・、それも徐々に・・・・・・、距離を縮めつつあった。春香の引き寄せる力が強すぎる・・・・・・・・・。

2004年9月9日、木曜日

 今日もバイトが始まる前に春香に逢っていた。そしていつもの様に春香に外の日常を聞かせていた。
「ほら、春香も知っているだろ喫茶店トマト。今そこで俺バイトしてんだぜ」
「へぇ~~~、そう何だ。でも何だか心配?」
「何が心配なんだよ!若しかして俺が仕事真面目にやっていないとでも思ってんのか春香?言っておくけどな、俺、店では結構信頼されてんだぜ」
「違うの、私の心配している事はそんなことじゃないよ」
「じゃぁ~~~、何だよ?」
「アッ、あのね、ほらトマトって可愛い子が結構多く来るじゃない。それに働いている女の子も可愛い子、いると思うし、だからその・・・、宏之君がその子たちに誘惑されちゃうんじゃないかなって・・・」
 春香は可愛らしく困惑する顔でそんな事を言ってくる。
 彼女のそんな言葉と表情に俺の心は強く惹かれている。
 そんな彼女に対して、
「うんなぁ心配いらネェよ」
 その言葉と共に俺は春香に口付けをしていた。
「あっ、うぅあぁうん」と彼女の甘い声が聞こえてくる。
 やがてそれも終わり、春香は確認するように俺のした行為について聞いてきた。
「宏之君、こんな事をしてくれるのは私だけなのよネェ」
「当たり前の事を聞くな」
 そんな事を平然と言っている。
 香澄にも似たような言葉や行為をしているくせに俺の口からはそんな言葉が出ているんだ。
 ここに来ると香澄の事をすっかり忘れちまっている。
 香澄と約束した事だって忘れちまっている。
 香澄それを果たせないままバイトの時間が迫るとここをあとにしていたんだ。
 最近、春香はリハビリをしているらしく、バイトにでる前の朝に逢える事は少なくなっていた。
 だから、今は週一回のバイト休みの日、それかシフトが午後から入る時にだけにしていた。それでも彼女に会えるのは週二、三回くらいだった。

2004年9月24日、金曜日

 今日は春香とここ最近出来たテーマパークやイベント会場について話していた。
 ウォーターワールド、ネオ・ジム・シティー、ネズミー・アドヴェンチャーそれとXYZランド。
 それらはどれも一度は香澄と一緒に行った事がある場所だった。
「ウフフッ、私がここを退院して自由に歩きまわれるようになったら宏之君と一緒にそのテーマパークに行きたいなぁ~~~・・・、でもね、一番初めに連れて行ってもらいたい場所は海かな」
「おぉ、当然連れて行ってやるぜ。春香が行きたい所何処へでも連れてってやるから、だから頑張れよ」
「うん、頑張るヨ私!」
 春香は強い意志のある顔を向けると同時に嬉しそうな笑みもこぼしていた。
「頑張れ、頑張れ」
 そんな表情の彼女を見たら余計に応援したくなってハッパを掛けていた。だが、その俺の言葉が不味かったのか暫く彼女は沈黙してしまう。だから心配になって彼女に声を掛けていた。
「どうしたんだ、黙ったりして」
「ウゥン、何でもない、心配しないで宏之君」
 春香の表情は直ぐに戻り、俺の不安も無くなっていた。
 だけど、急に彼女は話を急変させ俺のダチの事を聞いて来たんだ。
「ねぇ、宏之君、貴斗君の所には顔を出しているの?」
「・・・、いや、それが・・・・・・」
 春香のその言葉に声を詰めてしまった。
 貴斗のヤツも春香と同じ頃に生死の境から脱出したって聞いた。でもその貴斗は俺の事を忘れちまっているらしい。
 それに俺はヤツが入院する原因を作った人物だぞ。
 そんな俺はどんな面して貴斗に会えばいい?どんな言葉を掛けてやればいい?
 ヤツが俺の事を憶えていたのなら謝りついでに顔を合わせるなんて簡単に出来ただろう。しかし、俺にはそれが出来ない。
 弱い俺の心が貴斗に会うのを怖がってる。
「ハァ~やっぱり、宏之君、一度も彼の所に行っていないね?もぉ、宏之君、彼の親友なんでしょ?」
「そうなんだけど・・・」
「貴斗君、アナタと会いたがっていたのよ」
「・・・、それは本当なのか?」
「こんなこと嘘、言ってどうするの」
「・・・、確かにそうだな。判った、あとでヤツの所へよってみるよ」
 春香から段々とだけど貴斗の記憶が戻り始めた事を教えられた。
 それを聞いて心のどこかで何だかウキウキした気分になっていた。
 最後、強い口調で貴斗に会う事を念強く押されたけど、気分は何かをためらっていた。しかし、今はまだ春香と貴斗がとんでもない関係になっている事を俺は知らない。
 若しかしたらその事実を一生知ることが無いかもしれない。

2004年9月27日、月曜日
 今日は春香の退院の日だと知っていたからバイトは休ませて貰う事にしていたんだ。
 今は病院の玄関前にたっている。
 春香の奴は調川先生、他のここの先生、それと彼女の付き添いだったと言う二人の看護婦が彼女を取り囲んで何かを話していた。
 俺の周りには春香の両親と妹の翠、それと慎治がいた。
 香澄は仕事があるから来れなくてもしょうがないと思った。だけど、どうしてなのか春香のマブダチの筈の藤宮がここにいなかった。
 その理由を俺はこれからもずっと知る事はないんだ。
 やがて春香とここの病院の連中との話が終わったようだった。
 それが終わると彼女は俺達の方に振り返りとても眩しい笑顔を見せていた。
 そんな彼女にこちらの面々が迎え入れの言葉を掛けていた。
「春香おねぇちゃん、かり退院オメデトォ~~~」
「お帰り春香、退院したからって気を抜かないように」
「春香、ヤッと私達の元へ帰ってきてくれるのね。ママは嬉しいわ」
「凉崎、退院おめでとう」
「おめでとう春香、やっと仮だけど退院で来たんだな、これは現実なんだな?俺、喜んでいいんだな?」
 少しだけからかうように春香に皮肉を言ってやった。だけど、俺はこれが夢事じゃない、ってのを確認したくてそんな言葉も彼女に言っていた。
「モチロンだよ、宏之君」
 春香は満面な笑みで俺の言葉を肯定してくれる。
 もっと近くで彼女の存在を感じたかった。
 だからみんなのいる前でも恥ずかしがることなく彼女を強く抱きしめたんだ。
「キャッ、ハッ、恥ずかしいよぉ~~~宏之君」
「これくらい良いだろ」
「そう、そう、彼の言う通りそのくらいなんて事ないでショ」
「フフッ」
 春香の専属看護婦二人のうち一人が彼女に声を掛けると、もう一人のほうは愛らしく笑っていた。それに続くように調川先生が口を動かす。
「ハァ~、やれやれ貴女の彼氏は見せ付けてくれますね」
「ウフフフフッ・ハハハハハッ」
 そんな行動を祝福?するように周りのみんなが笑っていた。だが、俺の後ろにいた慎治や翠が俺に向ける視線に気付くなんってできなかった。
 二人ともどんな思いでそんな視線を向けるのか知る由もなかったんだ。
 その後、春香は俺と慎治に見送られ彼女の父親の運転する車でここを去って行った。
 それからこの場に残っていた慎治と少しだけ会話していた。
 それは貴斗の事だった。
「慎治、マジ言ってんのか?」
「こんな事冗談で言えるかよ。あぁ、貴斗本人から聞いた。間違いネェ」
 慎治の話しによると貴斗のヤツと藤宮の関係が記憶喪失回復の所為で壊れてしまったと言っている。
 何でその記憶喪失回復で二人の関係が壊れてしまうのか理解出来なかった。でも慎治はそれも説明してくれた。
 昔のヤツにとって幼馴染みの藤宮は妹のように護るべき存在であって恋愛の対象ではなかったらしい。
 慎治の〝妹〟と言う言葉を出した時、心の中で何かが引っかかった。だけど、それが一体何なのか今の俺には知る事は出来なかったんだ。
 最後に香澄の事で色々と慎治にお説教をされた。
 返す言葉もなく慎治を追い払いバイトへと向かった。
 春香の関係も香澄の関係も未解決なまま時間だけが過ぎていく。
 春香が退院してから三日後の9月30日、木曜日。
 慎治に誘われて貴斗の誕生会を祝う事になった。
 一人で貴斗に会うのを恐れていたけどみんなで会うなら。
 その時機会到来だって思ったんだけど・・・。
 俺は春香を誘い、それに出席したんだ。
 貴斗の病室に行ったとき既に藤宮、慎治、そして香澄は先に来ていた。
 慎治の奴が酒を持ってきたようだった。
 それを怪我人の貴斗以外のみんなで飲んでいた。
 酒を口にしちまった所為でやつに謝ろうって思ってた事をすっかり忘れちまっていた。
 でもその時のヤツの俺たちに向ける視線、俺と春香が楽しそうに話しているところを見ている貴斗の表情、とても嬉しそうにしていた。
 ヤツにとってその光景が在るべき形なんだろうな、今でも。・・・、その時だけ俺も心の中の何かの痞えが取れていたような気がした。
 そんな楽しかった雰囲気も春香の妹、翠の登場で思わぬ方向へと向かってしまった。
 俺の周りの連中はみんな何かに悩んでるって、いろんな想いがあるんだって知ったんだ。
 知ったからってどうこう俺が出来るわけじゃないんだけど・・・。
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