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前   章 閉ざされた聖櫃、開く時

第二話 謎のE‐mail

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二〇一一年十一月二十一日、月曜日
 俺が考え事をしながら、国塚駅前を歩いている日暮れが近い頃だった。俺の携帯電話に不可思議なメールが入って来た。発信者は『R1』、アール・ワンだかアール・イチ?って奴で?件名に『アダムを追う者へ』だった。あからさまに怪しすぎる。しかし、これがもしも、俺の探し求めていた答えに辿り着ける内容なら、確認しない訳にはいかない。即決、躊躇いもなく、その本件を覗こうとした。だが、開いてみると本文は何もない。
「なだよ、思わせぶりやがって・・・?」
 もう一度、よく見ると本文はないけど、添付ファイルがある。それを選択して開いてみたけど、携帯の機能ではそれを開けるもがインストされていなかった。
 俺は速攻で家に帰り自室のパソコンを立ち上げ、携帯電話の通信ポートとパソコンを専用のUSBケーブルで接続して、メールの内容添付ファイルを転送した。
「どれどれ、一体どんな秘密が・・・、・・・、・・・、がってむぅ~~~っ!マジで思わせぶり?誰だよ、こんな悪戯をしやがった奴は・・・」
 開いてみたけど、テキストの中身はASCIIコード見たいな羅列で全く文章になっていなかった。脱力した俺は机を叩くとそこから離れベッドに飛び込み天所を眺めた。
 少しばかり、時間が経って怒りが治まって冷静に考えられるようになった頃、ふと気が付いた。さっきの添付ファイル簡単に見られる代物じゃないのではとな。何か特殊な仕掛けが在ってそれを解決しないと見られないそんな工夫がされているのかもよ。
 よっぽど重要な事なのか、それともやっぱり俺をからかっているだけなのか現時点では解らないけど、試すだけ、試してみようぜ。
 しかし、俺がやる訳じゃない。だって、そんな解析得意じゃない。フゥ、貴斗がいてくれたら簡単に済む事なのによ・・・。
 俺は大学時代の友達で今、プログラマーを職業としている久慈直人へ連絡を取った。
 翌日、俺と久慈は母校、聖稜大の図書館で落ち合った。
「しんじ、久しぶり。一時はどうなるかと心配してたけど、今の君を見ていると、なんか心配して損したって感じがするよ」
「云ったな、直人」
 俺は笑いながら友人に遊びでヘッドロックを掛けていた。直人は痛がりもしないで俺の腕の中で笑う。
「で?僕に頼みごとってなんなのさ?」
 俺のヘッドロックから逃れた直人は少しくしゃくしゃになった髪の毛を直しながら聞いてきた。
「元々は文章なんだろうけど、中身が全く読めないんだ。それを解析して欲しい」
 ズボンのポケットから半透明のプラスティック・ケースに入ったmiro‐SDを取り出し、直人に渡す。
「出来るか、どうかやっては見るさ。でも、唯でやってあげる代わりに、慎治がどうしてこれの内容を知りたいのか、説明してくれるかな?」
 どうしようか悩むように俺は軽く眉間にしわを寄せ、自分自身に判断を迫った。貴斗の親友の中で唯一、あいつ等の死を知っていて随分前から貴斗や藤宮の死に疑問を持っていたんだ。嘘を言っても仕方がない。
「大学卒業の頃、直人云っていたよな?貴斗達の死に方は普通じゃないって」
「だってそうだろう?どうして、これからって時に藤原君が無残な死に方しなければならないんだ。不運だったって言葉で片付けちゃおかしいだろう?誰かの作為としてしか思えない。今だってそう思っているんだよ?・・・、・・・、・・・、もしかして、これって」
「わからない、わからないけど、何かが判るかもしれないんだ」
「この中のデータが藤原君達に関係しているかって決め手がない。でももしかしたらって奴ね・・・。判った、超特急で逆解析してみるよ」
「恩にきるな。全部終わったら、あの頃のメンバーと欠けちまった奴等が多すぎるけど、飲みに行こうぜ」
「うん・・・、じゃ、さっそく取り掛かりたいから」
 直人は終わったら連絡を入れてくれるって事で三戸から名古屋へ帰って行った。
 それから、九日後の十二月一日、木曜日の夕暮れ、直人の奴は電話で無くて俺ん処へ直接姿を見せた。直人の慌てている様子を見ると何となく唯事じゃなかった。
「なんで、電話で無くて俺ンチまで来たのか知らないし、そんな血相を変えた顔してるかもわからないけど、家あがれよ」
「まだ内容を知らない慎治はそうかもしれないけど、僕にとっては大事なだよ・・・。でも、慎治君にも見てもらわないと」
 友達を俺の部屋に通すと立ち上がっている俺のパソコンを見て、持ち帰って来たmiro‐SDをケースから取り出し、リーダーへ差し込んでいた。当然、俺なんかよりもマウスとキーボードを軽快に操作して、必要なファイルを呼び出していた。わずかな間で目的の場所まで来て必要なアプリで立ち上がる。そうするまで、直人は俺の理解出来ない異邦人の言葉って思う様な専門用語ばかりでどうやって解析したのかそのご高説を垂れていた。目的の者は動画だった。それが、始まるとまだ直人は説明を始めたばかりだと云うのに口を閉じた。画面に映るのはスーツを着た、造りからして男だろう人物の顔から下と腰より上の部分しか映っていなかった。スーツと同様の色の手袋をはめているその人物は何かを手に持ち前に打順繰りに出していた。単語が書いてあって。
『大河内星名』
『=』
『死んだ事になっている源太陽』
『ADAM/ARM・Project』
『関係あり』
『藤宮詩乃が全ての始まり』
 それが出切ると最後に『我が愛しき弟の親友と呼ばれた者へ』と書かれた物が出て画面がぷっつり消える。しかし、俺は最後の文字を見る間もなく考えに耽けていた。初めに出てきた人名が誰なのか判らない。でも、藤宮詩乃?藤宮と関係があるのか?
「直人が慌てる理由が俺には判らねぇけど」
「そりゃそうさっ、だって、大河内星名って僕の働いている会社の社長さんなんだよっ」
「ええぇ?云っている意味が理解できません・・・」
 俺は訝しがるように軽く眉を顰め、友達の言葉を理解しようとしない自分の脳内を無理やり納得させる。
「もし、大河内社長が藤原君達を殺した犯人なら、僕はそんな人の下で何も知らずに、ずっと会社の名声を上げる為に頑張って来たのに・・・」
 直人の気持ちが判らない訳じゃない。今俺はどんな言葉を掛けるべきなのか判断している。
「これだけじゃ何の証拠にもなりゃしない。直人の考えは早計だな。今見せてもらった物から判った単語から、また俺が調べるから、結果が出るまで、直人変な行動起こすなよ」
「わっ、わかった。でも、僕どうすればいいだろう。僕は社長の考えに賛同して今の会社に勤めているのに、もし・・・」
「だから、まだ、直人の結論を出すのは早いって、今は何も知らない、何も見ていない、聴いていないって普段通りにしてくれ。お前、もういない俺の貴斗以外の親友に似ていて、嘘とか付けない性格だろうけど・・・。今月いっぱいは何とか持ちこたえてくれ」
「柏木君の事?・・・、なら、有給でも取った方がいい?」
「だから、普通に仕事してろって・・・」
「うっ、うん」
 何とも自信なさゲナ返事に俺は嘆息し、直人に頑張れって意味で肩を叩いた。
 さて、これを誰に伝え、何を聞くべきか?やっぱり、母さんに聞くべきなのかな?そのアダム・プロジェクトに関わっていたんだから。
 あの文章の流れからすると母さんに聞くべき事は源太陽と藤宮詩乃って人物が誰かを、大河内星名って名前を知っているかどうかを聞くべきだろう。
 直人を帰してから約一時間、母さんが愁先生と一緒に帰って来た。愁先生とその車を買い物の足代わりにするとは自分の母親ながら凄いと思ってしまった。
 愁先生には聞かれたくない俺は母さんと二人きりで話したかったので何とかそうなる状況を見計らった。そして、父さんや愁先生、家族全員で初めての夕食を取ってから一時間過ぎた頃、折角、母さんが独りになっていると云うのに俺は余り気が進まなかった。だって・・・。
 俺は周囲を警戒し回りを見て誰も居ない事を確認し、脱衣所に忍び込んだ・・・?母さんの楽しそうに奏でる鼻歌が聞こえてくる。相変わらず陽気な人だ・・・。俺は脱衣所と浴室の扉越しに、
「かっ、母さんちょっと話したい事があるんだけど・・・」
「あら、なに、しんちゃん、皇女と一緒にお風呂に入りたいの?」
「一言も俺はそんなこと言ってない。俺だってもう成人過ぎて何年もたってんだ母さんと一緒に風呂なんぞ入れるものかよ」
「確かにしんちゃんは立派に育ってくれているけど、皇女にとっては何歳になってもしんちゃんは可愛い私の子・・・」
 聞いている俺が恥ずかしくなる様な言葉を嬉しそうに言う母親。このままでは母さんの思う儘に話が進んでしまいそうだ。だから、率直に、
「母さん、源太陽って誰?風の噂ではもう亡くなられているらしいけど、それと藤宮詩乃ってだれ?藤宮、俺の同級生だった藤宮となんか関係あるのか?」
 俺がそういうと暫らく、母さんは沈黙しているようだった。
「しんちゃん、誰からその人の名前を?」
「今は俺が質問してんだよ。何時もみたいに趣旨を変えないでくれよな」
 また沈黙する皇女母さん。
「ふぅ~~~ん、答えてくれないだ。別にいいさ、母さんがそんな態度取るなら、俺にも考えがある。愁義兄貴と何処へ行こうかな・・・」と口にしてみた。
 しかし、その瞬間、私の肩を軽く指で叩く誰かがいた。振り返る俺。にこやかな表情をする愁先生。
「慎治君、いったい、お義母さまとどのような会話をして、私の名前が出るのでしょう?しかも、こんな処で」
 にこやかな顔しているけど、絶対怒っているぞ愁先生。
「あっ、義兄貴こそ、今、母さんが入っているのに・・・」
「慎治君が入って行くのを見たので何事かと思いまして」
 俺が先生と話していると浴槽の硝子戸が横へ滑る音が聞こえる。俺は扉に背を向けていたが愁先生はそうじゃない。急に赤面すると脱衣所を速攻で出て行った。俺もその意味を理解し、同様の行動をとっていた。
 愁先生に母さんと何を話していたのかを詰め寄られるのは明白だ。隠した処で、隠しきれそうもない。ここはやっぱり先生も加わってもらって母さんの口を割る支援をしてもらう事にしよう。って事で、母さんに何を聞こうとしていたのかを愁先生に話すと、
「そうですか、流石にアダムに関係している方々を聞き出すには皇女お義母様から聞くより他は在りませんね」
 もう、家の母さんを義母さんって呼ぶ事になれたみたいで、以前の様に大先輩って言わなくなった。俺も努力しないとな・・・
「って、事でそれを聞き出すのに愁義兄貴も手を貸してくれるとありがたいんだけどな」
「しょうがないですね、義弟の立っての頼みとあれば」
 それから、母さんが話しを断ったらどうするか算段して、話を母さんへ持ちかけた。
「わかりましたっ、もぉ~~~、皇女の負けです。しんちゃんにもしゅぅ~くんにも悪巧みされたくないもの・・・。源太陽さん、ヨウちゃんは私と一緒にアダム・アーム計画のアダム計画に携わっていた一人。詩乃ちゃんは藤宮詩織ちゃんのお母さん、詩音ちゃんの双子の妹・・・、ヨウちゃんの花嫁さんになるかもしれなかった女の子・・・」
「で、二人はいまどうしてんの?」
「よっ、ヨウちゃんは・・・、にっ、二十一年前に亡くなられているわ・・・」
 その言葉を愁先生が聴いた時に痛みを感じるかの様な表情を造り、その顔を手で覆っていた。
「どうかしたんですか?愁義兄貴?」
「いいえ、なんでもありません、続けて下さい」
「で、詩乃さんの方は?」
 俺がその人の名前を告げても母さんは暫らく黙ったままだった。
「たぶん・・・、今もあの中に居るわ・・・」
「あの中って何だよ、俺に理解できる言葉ではなしてくれなくちゃわからないな」
「前、お話しましたよね、アダムがどのような研究なのかを」
「ああ」
「最後に残った献体が藤宮詩乃ちゃん。彼女の細胞を研究する事から始まって今も続くそれ・・・」
 どうして、母さんが言い淀んでいるのか俺は理解した。
「母さん、有難う。それ以上何も云わなくていい。俺が出来る事が判ったから・・・」
 俺はその言葉を残して、自室へ向かった。
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