CRoSs☤MiND ~ 背負いし咎の果てに ~ 第 四 部 源 太陽 編

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第 三 章 終わりなき怨舞曲

第九話 アダムを追う者達

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 私は会社経営者として、時には医者として、更にはアダム・アーム研究を狙う者を裁く者として多忙な毎日を送っていた。その所為で、あの八神慎治氏の記憶が戻り、涼崎翠氏とその友人、結城弥生氏が覚醒した事をしったのは二〇一一年十月に入ってからでした。
 あの調川愁が彼の記憶喪失と、彼女等の昏睡状態の原因がMACとDRAMである事を突き止め、その解決に当たったからだそうです。
 医者としての才がある方だとは思いましたが、研究者ではない彼がそれを突き止め解決したことには驚きましたが、あそこ、済世会には何人もその研究の第一人者たちがいるのです当然かもしれません、と私は考えたのですが、彼が解決に至って得た情報は全く別の処にあったようです。
 そして、更に知る。彼等彼女等が私を捜している事を、その理由を。
 八神慎治青年は記憶覚醒と共にその思い出した記憶から貴斗青年らの死に不自然さを覚え、藤原翔子氏と彼の姉、佐京氏の原因不明の事件から彼の友人等の死が事故ではなく、事件だったのではと疑いを持ち、それが本当に事件だったのか事故だったのか、調べ始めたようです。彼の推理量は鋭く、貴斗青年、詩織嬢、春香嬢、香澄嬢、宏之青年のいずれもが何らかの事件に巻き込まれたのだと考えに至った。しかし、その真相にはたどり着けず、ただ、事件の関連性のみが彼の頭の中に纏められたにすぎない。彼は更に時を遡り、貴斗青年の交通事故と記憶の覚醒、春香嬢の仮死状態から覚醒とその後の異常、一段古い過去、彼女が仮死状態になる原因となった事故や産技研の悲劇ですら一連の物であると推測した。そして、それがADAMという言葉に集約しているのではと多くの情報からそれを慎治青年はその言葉が何を意味しているのかを調べ始めたのだ。
 情報提供者を除外して初め彼独りでADAMについて情報を手に入れようとしたが、そこへ結城兄妹、結城将臣青年と弥生嬢、涼崎翠嬢が加わり、彼の行動を鈍化させた。彼の下に着くその三人がどのような理由で慎治青年の助けになりたいと思ったのか、私は知らないが彼にとって大きな足かせになっている事は間違いないだろう。
 八神慎治青年が調べる過去の事件、事故。そのどれも私が絡んでいるのは間違いない事は諸君も御存じだろう。
 しかし、その多くの場面で私は顔のつくりを変え、名前を変え登場している故に私、大河内星名、いや、この僕、源太陽であると辿り着くのは不可能。
「彼ら、彼女等にとって私は仇敵ですか・・・、それもそうなのでしょうね。彼の大切な友人等や彼女の姉の命を奪ったのは私なのですから・・・。しかし、私を見つけた処でどうもできないでしょう。私が行ったと云う証拠など見つかる筈がない。フフフっ、彼等は一体どのような結果を僕に見せつけてくれるのでしょう」
 私の中の僕は何かを思い久しぶりに嫌な笑みを作っていました。しかし、私が人である以上、私の辿ろうとするその未来の結果を事前に知るのは叶わない。だから、何故、私の中の僕がその様に呟いたのか理解できなかった。

 藤原龍一氏も、いまだに死んでいる筈の私を追っている。私が八艘と言う名で彼に会ってから今日まで彼の中の私の存在は全ての元凶と位置付けられていた。彼もまた最愛の者と共にADAM研究を糸口に私へ向かおうとしていた。更に彼の目的も理解していた。それは龍一氏が失った大事な方々の根幹である私を見つけ出す事。その後の彼の行うであろう行動は僕でない私が望むものでもあった。
 私が龍一氏へ望んでいる事とは一体どのような事なのか、それは彼が私の処へ姿を見せた時に自ずと明らかになる。無論それは私を追う者の中で誰よりも早く龍一氏が私を捕えた場合だが・・・。
 社屋の窓外を眺めやる。夜の帳が降りた商業・庁舎街、群生する高層建築物。どの建物も殆ど灯りが降りていた。私の処の様に照明が今も点っている処は少ない。幹線道路を走る車の波。自動車の前照灯と尾灯流れを目で追っていた。
「今年も、もう後一月。詩乃さんが聖櫃の中で眠りについて既に二十年近くもすぎてしまったのだな・・・。私が辿って来た道、その先々で冒してしまった過ち、それを知れば詩乃さんは私を許してはくれないだろう・・・。だが、現段階、私が生きている間で詩乃さんがあの場所から出される事はない。だから、詩乃さんが私の罪を知る事は叶わないだろう・・・」
 もう二度と埋める事の出来ない私の空いてしまった心の隙間の虚しさ、独りである事の悲愴を感じながら誰も居ない社長室で独り窓の外を眺めながらその様な事を呟いていた。
 どんなに仕事が忙しく、時間の流れが早く感じられ独り身である虚しさを忘れていても、不意に訪れる時の間隙がもう歳の数、五十を過ぎた私には酷く寂しいものに感じられずには居られなかった。
 その寂しさは友人や仕事の同僚では埋められないその様な心の隙間。それを埋めてくれる人はどんなに考えても詩乃さんだけ。彼女は私がどんなに手を伸ばしても、届かない場所。どれ程、僕が願っても、彼女がそこに居続ける事を望んだら私には何もできない。アダム・アーム研究が本格的に始まる前に、僕が強引にでもそれを停めていたら、一体、私は今頃、どのような場所に立ち、どうしていたのだろう・・・。
 しかし、どれ程望んでも、進んだ時を戻す事は出来ないし、私の中の僕が冒した罪を帳消しには出来ない、それが現実だった。
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