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終 章 言葉にする勇気
終 話 ラスト・トライアル
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貴斗さんは私に言ってくれた。
私も、詩織さんと同じ様に多くの皆に感動と何かに進む道の希望や期待になるんだって。
だから、それを始める前の私は金槌で、泳ぐ才能なんて無いんじゃないかなって思っていたけど、私はその為に一生懸命、頑張って今ここに居る。
でも、貴斗さんは知らない。私が水泳を始めた理由。
それが香澄さんに似ていて、貴斗さんにあの時、川で溺れそうになった、あの時が切っ掛けで水泳を始めた事を。
~ 2008年、第29回夏季オリンピック ~
国際間の諸々の事情と日本の景気復興を記念して、本開催地だった北京からそれが日本に急遽、移されることになったのは去年の話しで、東京オリンピックから数えて44年、北海道の夕張でそれは開かれていた・・・、訳ないよ。北京、北京ダック。
水泳女子の決勝戦も終わり金メダルを受け取ったばかりで水着を着たままの選手に記者達がマイクを片手に群がり言葉をかけていた。
『カシャ、カシャ、パシッ、シュッ』
写真機のシャッターを切る音やストロボの光がその選手を捉える。
「えぇーーーっ、翠選手、金メダル二つ獲得したご感想は・・・??」
「世界記録更新おめでとうございます。何か一言お願致しますっ!」
「今回、この様なとても素晴らしい結果を出せた理由何かおありですか?」
「100m自由形・・・、これは私の尊敬する二人の先輩、オリンピックに出れば絶対取れるはずだった二人の為にささげるものです」
それは姉、春香の事故の所為でそれを獲得する実力があるのにも係わらず、その道を断念することを余儀なくされてしまった詩織さんと香澄さんの代わりに頑張って取ったメダルだったんです。
「400m自由形・・・、これは私のことをずっと支えてくれた人のために、その人の期待に応えたくて頑張って取りました」
得意種目、400m、金メダルを取りつつワールド・レコードを塗り替える事ができたんですよ。タイムは4分3秒36です。
「それと・・・、この大会が私の最後です」
2004年のオリンピックの時も大会出場権を持っていたけど色々な事がありすぎて結局、その時は辞退してしまっていたんです。
貴斗さんの恋人さんをさせてもらう様になってから彼に今年のオリンピックに頑張って出場するって事をお教えしてみたんです。
そうしたら、両手に余ってしまう程、遣らなくてはいけない事があったはずなのに貴斗さんは態々、私のために水泳のトレーニングコーチの勉強をしてくれ、綿密に管理された指導を今日までずっと詩織さん、それと香澄さんと一緒になってしてくれていたんです。
「皆さん、彼女に色々と質問したいこと、あるだろうが疲れている彼女には酷だ・・・。後にして頂きたい」
サングラスを掛けているその言葉の持ち主はそう口にすると皆さんが見ている前で私を抱きかかえ、走ってその場を切り抜けたんです。
「たっ、貴斗お兄ちゃん、大勢の前であんな事されちゃったら私、恥ずかしいですぅ」
「手を引いて、走って逃げた場合、転ばれては大変だと思って・・・。翠ちゃん、すまない事をしたな」
「お兄ちゃん、心配してくれるの嬉しいですけど・・・、私の事〝ちゃん〟付けするの止めてよぉ・・・、ちゃんと名前だけで呼んで欲しいですぅ」
「駄目だ、見た目はこんなにも大人だが・・・、俺の事〝お兄ちゃん〟って呼ぶようじゃまだまだ子供だからな。それが直るまでは〝ちゃん〟付けだ」
「貴斗おにぃっ・・・さん、意地悪いわないでくださいよ」
「フッ、まだまだだな」
サングラス越しに私の愛しい人は鼻で笑い穏やかな顔でそんな事を言ってきてくれたんですよ。
まったく、酷いですよねぇ。貴斗さんはこれから先、いつまで私を子供扱いしてくれちゃうんでしょうね?
* * *
更に八年の歳月が進み、優しい木漏れ日の降り注ぐ木々に囲まれた教会で・・・。
「ホラッ、翠ちゃん・・・、そのようなお顔されてしまっては私、とても惨めな思いになってしまいます。ですから、笑顔をお見せしてください・・・。それとも私が貴女に代わりまして、貴斗とお式を挙げて差し上げましょうか?」
「ワッ、詩織先輩それは絶対駄目です。貴斗さんは私と結婚するんですよぉ」
「でしたら、そのようなお顔しないの」
「ハイッ・・・、それじゃ私、貴斗さんの所へ行きますねぇ。トロトロ春香お姉ちゃんも準備良い?」
「モオッ、翠ッたら私は昔みたいにもう間抜けではありません・・・、そんな事を言うと義弟の貴斗さんに叱ってもらいますから」
「ハゥ~~~、それは嫌。貴斗さん滅多に叱ったりしないですけど怒るとっても目が怖いんですよぉ。そんなの見たくないから、お姉ちゃん許してください」
姉の春香とそんなやり取りをしているともう一人の大切な先輩が言葉を掛けてくれるんです。
「ホラッ、あんた達。新郎、待たせてないでさっさとお行きなさいっハァ~~~、しっかしアタシもしおりンも寄りによってあんた達、涼崎姉妹にしてやられちゃったわね。宏之は結局、アタシからまた春香の所戻っちゃうし、貴斗はあれだし。フッ」
「そうですよねぇ、私の貴斗がよりによりまして、翠ちゃんに取られてしまいますなんて・・・、どうしてか自分に自信なくしてしまいそうです」
「詩織先輩、何気に酷いこと言っちゃってくれてません?」
「翠、しおりンのそんくらいの言葉、許してやりな。アンタの所に貴斗が行った時、しおりン〝ワンワンビィ~、ビィ~〟泣いて、宥めるの大変だったんだから」
「それをお言いいになります香澄でしたって柏木さんが春香の所へお戻りになったときこの世の終わりですよぉ~~~、って感じでお泣きになっていたくせに・・・」
「ハイ、ハイッ、私の二人の大事な先輩、ゴメンなさいネェ~~~、でもいくらそんなこと、言っちゃってくれましても貴斗さんはお返しできませんよぉ」
そんな風に悪戯っぽく詩織さんと香澄さんに口にしてから、姉、春香の手を引いて私達姉妹の一緒の結婚式を挙げるため、貴斗さんと宏之義兄さんの待つ教会の中央ホールへむかってその廊下を歩みだした。
貴斗さんと知り合ってから色々な事を学んだような気がする。
特に人の想いに付いてなんですけどね。
世の中には絶対叶わないって思って片想いのままで恋を終わらせてしまう人って多いんじゃないですかねぇ?
でも、結果が見えていても、それを黙っているよりは、その人に伝えた方が良い結果が生まれるかもしれないんですよ。
たとえ、どんなに悪い結果でも言わないままでずっと後悔するよりは、その人にちゃんと伝えて悔やんだ方がずっとましだと思うんですよね、私は。
だって、気持ちを閉じ込めたままじゃ、始まる物も始まらなくなっちゃうかもしれないでしょ?だったらねぇ、言葉にして、口から出して、声にして、ちゃんと言って、確り伝えて、スッキリと心を整理した方が私は良いと思うんです・・・・・・。
アハッ、アハハハァ~~~、願いが叶っちゃいました私が言っちゃってもなんの説得力もないかなぁ。
えっと最後に私の大切な人達の近状報告。
私と姉の春香ご覧の通り最愛の人とめでたく結婚することが出来てしまいました。
姉、春香は宏之お義兄さんと一緒の職場で働いています。
二人ともお医者さんやっているんですよ。
姉にどうしてその道に進んだのかってお聞きしたんですけど、意地悪して教えてはくれないんですよ。
『宏之さんの方はそのうち分かるから』ってやっぱり隠されちゃいました。
私の方はというとオリンピックが終わってから水泳の世界から身を引き、それから貴斗さんの仕事を近くでお支えしたかったから大学院まで進み経営の何たるかを学ばせてもらい、卒業後は直ぐ彼の傍で経営コンサルタントをさせていただいているんですよ。
貴斗さんは私の義祖父様になる洸大様の持っている会社の一部を引き継ぎ、社長さんをしています。
仕事をしている時の貴斗さんは無理をし過ぎ。
すっごく心配しているけど仕事中の彼は私の気持ちに全然、気付いてくれません。
でも、お家に帰った時は私に優しくしてくれるからその心配事も直ぐに消えちゃいますけどね。
詩織さんはと言うとハァ~~~、なんでかな、貴斗さんの専属秘書をやっちゃってくれています。
私の見ていない所で貴斗さんに手を出していないか、とっても、いっぱい心配。
でも、詩織先輩ってやっぱりすごいよ。
仕事をしながら、今じゃ、世界的に有名なピアニストでもあるんです。
よく、ゴシップに貴斗さんと詩織先輩の事が取り上げられるけど、そんなの嘘うそっ!
だって貴斗さんは私の旦那様になってくれるんですからっ!
何と何と、どうして、どうしてか?判らないけど香澄さんは高校卒業後からの仕事をずっと続けていたお仕事やめちゃって、春香姉さん達と頑張って勉強して大学に入ってからもずっと一緒で今はお医者さんしているんです。
でも、実はお医者さんに成る事が本当の香澄さんの夢だった、って事を香澄さんが中学二年くらいに語ってくれた事を思い出したのはつい最近になってからでした。
弥生は私と一緒にオリンピックに出場すると背泳ぎ100mで金メダルを獲得。しかも世界記録樹立。
その後は年だからっておばさんみたいな事を言って大学卒業と一緒に普通に就職?
まったく弥生もしつこいヤツで・・・、ハァ~~~、職場はおんなじなんです。
絶対何かたくらんじゃってくれていますよ、きっと。
何で人事の人達はこんな危険な人物を社員にしちゃったんだろう?有能すぎるくらい、有能なのは分るんだけど。
将臣は今でもボクシング・ウェルター級の世界で頑張っているようです。
確かそろそろ九回目のタイトル防衛戦があるとかないとか?
そんなものを防衛するより、もっと詩織さんのことを攻めて、攻めまくりでさっさと落としちゃってくれればいいのに・・・。
皆さんどんな意味だかわかりますよねぇ~~~。
そのお二人さんがくっ付いちゃってくれれば、貴斗さんに手を出そうとする人が一人減って、悩みの一つが解消されるんですけどね。
それと最後に八神さん・・・、彼もまた私と同じ会社で貴斗さんの為に頑張って仕事に励んでくれています。
海外回りが多く、八神さんの体調を何時も気にかけている貴斗さん。
貴斗さんの心労を増やしたくないですから、人事局に八神さんの海外出張が多い事に釘を刺しておかないとね。
はいっ、これで報告おしまい。
「翠、キスをするから瞳を」
「ハイ、優しくしてくださいね」
「はぅぅうぅ~~~、たぁかとぉさぁんっ、弥生の前でみぃちゃんなんかとそんなことしないでくださいよぉ」
外野から聞えてくるその様なおバカさんらしい弥生のお野次などは気にしないで、私と、姉の春香のために来てくださった大切なご来賓の方々の前で貴斗さんとそれを熱烈・・・、ではないですけど穏やかで優しいキッスを交わすのでした。
翠 編 END
私も、詩織さんと同じ様に多くの皆に感動と何かに進む道の希望や期待になるんだって。
だから、それを始める前の私は金槌で、泳ぐ才能なんて無いんじゃないかなって思っていたけど、私はその為に一生懸命、頑張って今ここに居る。
でも、貴斗さんは知らない。私が水泳を始めた理由。
それが香澄さんに似ていて、貴斗さんにあの時、川で溺れそうになった、あの時が切っ掛けで水泳を始めた事を。
~ 2008年、第29回夏季オリンピック ~
国際間の諸々の事情と日本の景気復興を記念して、本開催地だった北京からそれが日本に急遽、移されることになったのは去年の話しで、東京オリンピックから数えて44年、北海道の夕張でそれは開かれていた・・・、訳ないよ。北京、北京ダック。
水泳女子の決勝戦も終わり金メダルを受け取ったばかりで水着を着たままの選手に記者達がマイクを片手に群がり言葉をかけていた。
『カシャ、カシャ、パシッ、シュッ』
写真機のシャッターを切る音やストロボの光がその選手を捉える。
「えぇーーーっ、翠選手、金メダル二つ獲得したご感想は・・・??」
「世界記録更新おめでとうございます。何か一言お願致しますっ!」
「今回、この様なとても素晴らしい結果を出せた理由何かおありですか?」
「100m自由形・・・、これは私の尊敬する二人の先輩、オリンピックに出れば絶対取れるはずだった二人の為にささげるものです」
それは姉、春香の事故の所為でそれを獲得する実力があるのにも係わらず、その道を断念することを余儀なくされてしまった詩織さんと香澄さんの代わりに頑張って取ったメダルだったんです。
「400m自由形・・・、これは私のことをずっと支えてくれた人のために、その人の期待に応えたくて頑張って取りました」
得意種目、400m、金メダルを取りつつワールド・レコードを塗り替える事ができたんですよ。タイムは4分3秒36です。
「それと・・・、この大会が私の最後です」
2004年のオリンピックの時も大会出場権を持っていたけど色々な事がありすぎて結局、その時は辞退してしまっていたんです。
貴斗さんの恋人さんをさせてもらう様になってから彼に今年のオリンピックに頑張って出場するって事をお教えしてみたんです。
そうしたら、両手に余ってしまう程、遣らなくてはいけない事があったはずなのに貴斗さんは態々、私のために水泳のトレーニングコーチの勉強をしてくれ、綿密に管理された指導を今日までずっと詩織さん、それと香澄さんと一緒になってしてくれていたんです。
「皆さん、彼女に色々と質問したいこと、あるだろうが疲れている彼女には酷だ・・・。後にして頂きたい」
サングラスを掛けているその言葉の持ち主はそう口にすると皆さんが見ている前で私を抱きかかえ、走ってその場を切り抜けたんです。
「たっ、貴斗お兄ちゃん、大勢の前であんな事されちゃったら私、恥ずかしいですぅ」
「手を引いて、走って逃げた場合、転ばれては大変だと思って・・・。翠ちゃん、すまない事をしたな」
「お兄ちゃん、心配してくれるの嬉しいですけど・・・、私の事〝ちゃん〟付けするの止めてよぉ・・・、ちゃんと名前だけで呼んで欲しいですぅ」
「駄目だ、見た目はこんなにも大人だが・・・、俺の事〝お兄ちゃん〟って呼ぶようじゃまだまだ子供だからな。それが直るまでは〝ちゃん〟付けだ」
「貴斗おにぃっ・・・さん、意地悪いわないでくださいよ」
「フッ、まだまだだな」
サングラス越しに私の愛しい人は鼻で笑い穏やかな顔でそんな事を言ってきてくれたんですよ。
まったく、酷いですよねぇ。貴斗さんはこれから先、いつまで私を子供扱いしてくれちゃうんでしょうね?
* * *
更に八年の歳月が進み、優しい木漏れ日の降り注ぐ木々に囲まれた教会で・・・。
「ホラッ、翠ちゃん・・・、そのようなお顔されてしまっては私、とても惨めな思いになってしまいます。ですから、笑顔をお見せしてください・・・。それとも私が貴女に代わりまして、貴斗とお式を挙げて差し上げましょうか?」
「ワッ、詩織先輩それは絶対駄目です。貴斗さんは私と結婚するんですよぉ」
「でしたら、そのようなお顔しないの」
「ハイッ・・・、それじゃ私、貴斗さんの所へ行きますねぇ。トロトロ春香お姉ちゃんも準備良い?」
「モオッ、翠ッたら私は昔みたいにもう間抜けではありません・・・、そんな事を言うと義弟の貴斗さんに叱ってもらいますから」
「ハゥ~~~、それは嫌。貴斗さん滅多に叱ったりしないですけど怒るとっても目が怖いんですよぉ。そんなの見たくないから、お姉ちゃん許してください」
姉の春香とそんなやり取りをしているともう一人の大切な先輩が言葉を掛けてくれるんです。
「ホラッ、あんた達。新郎、待たせてないでさっさとお行きなさいっハァ~~~、しっかしアタシもしおりンも寄りによってあんた達、涼崎姉妹にしてやられちゃったわね。宏之は結局、アタシからまた春香の所戻っちゃうし、貴斗はあれだし。フッ」
「そうですよねぇ、私の貴斗がよりによりまして、翠ちゃんに取られてしまいますなんて・・・、どうしてか自分に自信なくしてしまいそうです」
「詩織先輩、何気に酷いこと言っちゃってくれてません?」
「翠、しおりンのそんくらいの言葉、許してやりな。アンタの所に貴斗が行った時、しおりン〝ワンワンビィ~、ビィ~〟泣いて、宥めるの大変だったんだから」
「それをお言いいになります香澄でしたって柏木さんが春香の所へお戻りになったときこの世の終わりですよぉ~~~、って感じでお泣きになっていたくせに・・・」
「ハイ、ハイッ、私の二人の大事な先輩、ゴメンなさいネェ~~~、でもいくらそんなこと、言っちゃってくれましても貴斗さんはお返しできませんよぉ」
そんな風に悪戯っぽく詩織さんと香澄さんに口にしてから、姉、春香の手を引いて私達姉妹の一緒の結婚式を挙げるため、貴斗さんと宏之義兄さんの待つ教会の中央ホールへむかってその廊下を歩みだした。
貴斗さんと知り合ってから色々な事を学んだような気がする。
特に人の想いに付いてなんですけどね。
世の中には絶対叶わないって思って片想いのままで恋を終わらせてしまう人って多いんじゃないですかねぇ?
でも、結果が見えていても、それを黙っているよりは、その人に伝えた方が良い結果が生まれるかもしれないんですよ。
たとえ、どんなに悪い結果でも言わないままでずっと後悔するよりは、その人にちゃんと伝えて悔やんだ方がずっとましだと思うんですよね、私は。
だって、気持ちを閉じ込めたままじゃ、始まる物も始まらなくなっちゃうかもしれないでしょ?だったらねぇ、言葉にして、口から出して、声にして、ちゃんと言って、確り伝えて、スッキリと心を整理した方が私は良いと思うんです・・・・・・。
アハッ、アハハハァ~~~、願いが叶っちゃいました私が言っちゃってもなんの説得力もないかなぁ。
えっと最後に私の大切な人達の近状報告。
私と姉の春香ご覧の通り最愛の人とめでたく結婚することが出来てしまいました。
姉、春香は宏之お義兄さんと一緒の職場で働いています。
二人ともお医者さんやっているんですよ。
姉にどうしてその道に進んだのかってお聞きしたんですけど、意地悪して教えてはくれないんですよ。
『宏之さんの方はそのうち分かるから』ってやっぱり隠されちゃいました。
私の方はというとオリンピックが終わってから水泳の世界から身を引き、それから貴斗さんの仕事を近くでお支えしたかったから大学院まで進み経営の何たるかを学ばせてもらい、卒業後は直ぐ彼の傍で経営コンサルタントをさせていただいているんですよ。
貴斗さんは私の義祖父様になる洸大様の持っている会社の一部を引き継ぎ、社長さんをしています。
仕事をしている時の貴斗さんは無理をし過ぎ。
すっごく心配しているけど仕事中の彼は私の気持ちに全然、気付いてくれません。
でも、お家に帰った時は私に優しくしてくれるからその心配事も直ぐに消えちゃいますけどね。
詩織さんはと言うとハァ~~~、なんでかな、貴斗さんの専属秘書をやっちゃってくれています。
私の見ていない所で貴斗さんに手を出していないか、とっても、いっぱい心配。
でも、詩織先輩ってやっぱりすごいよ。
仕事をしながら、今じゃ、世界的に有名なピアニストでもあるんです。
よく、ゴシップに貴斗さんと詩織先輩の事が取り上げられるけど、そんなの嘘うそっ!
だって貴斗さんは私の旦那様になってくれるんですからっ!
何と何と、どうして、どうしてか?判らないけど香澄さんは高校卒業後からの仕事をずっと続けていたお仕事やめちゃって、春香姉さん達と頑張って勉強して大学に入ってからもずっと一緒で今はお医者さんしているんです。
でも、実はお医者さんに成る事が本当の香澄さんの夢だった、って事を香澄さんが中学二年くらいに語ってくれた事を思い出したのはつい最近になってからでした。
弥生は私と一緒にオリンピックに出場すると背泳ぎ100mで金メダルを獲得。しかも世界記録樹立。
その後は年だからっておばさんみたいな事を言って大学卒業と一緒に普通に就職?
まったく弥生もしつこいヤツで・・・、ハァ~~~、職場はおんなじなんです。
絶対何かたくらんじゃってくれていますよ、きっと。
何で人事の人達はこんな危険な人物を社員にしちゃったんだろう?有能すぎるくらい、有能なのは分るんだけど。
将臣は今でもボクシング・ウェルター級の世界で頑張っているようです。
確かそろそろ九回目のタイトル防衛戦があるとかないとか?
そんなものを防衛するより、もっと詩織さんのことを攻めて、攻めまくりでさっさと落としちゃってくれればいいのに・・・。
皆さんどんな意味だかわかりますよねぇ~~~。
そのお二人さんがくっ付いちゃってくれれば、貴斗さんに手を出そうとする人が一人減って、悩みの一つが解消されるんですけどね。
それと最後に八神さん・・・、彼もまた私と同じ会社で貴斗さんの為に頑張って仕事に励んでくれています。
海外回りが多く、八神さんの体調を何時も気にかけている貴斗さん。
貴斗さんの心労を増やしたくないですから、人事局に八神さんの海外出張が多い事に釘を刺しておかないとね。
はいっ、これで報告おしまい。
「翠、キスをするから瞳を」
「ハイ、優しくしてくださいね」
「はぅぅうぅ~~~、たぁかとぉさぁんっ、弥生の前でみぃちゃんなんかとそんなことしないでくださいよぉ」
外野から聞えてくるその様なおバカさんらしい弥生のお野次などは気にしないで、私と、姉の春香のために来てくださった大切なご来賓の方々の前で貴斗さんとそれを熱烈・・・、ではないですけど穏やかで優しいキッスを交わすのでした。
翠 編 END
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