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第 二 章 ハイスクール・ライフ

第五話 彼(カ)の人が住む場所

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 夏の大会も無事に好成績を修め、夏休みが終わると今度は冬のインターハイに向けて必死になって部活に取り組んでいた。
 家のお姉ちゃんは相変らずホントォ~~~に呑気に恋人を取られちゃったのも知らないで眠ったままでいる。
 こっちの気も知らないで、まったくいつになったら春香お姉ちゃんは目を覚ましてくれる事やら。

        ~ 2003年9月20日、土曜日 ~

「弥生ちゃん、一緒にかえろぉ~」
 既に着替え終わって屋内プールの外に立っていた彼女にそう呼びかけていた。
「うん、一緒に帰りましょ・・・、でも、少しだけ待ってて、もう少しで将臣お兄ちゃんもここに来るから」
 彼女がそういうから待って上げる事にした。
 二年生になってから将臣のヤツ態度を急変させて私の事をあまりからかわなくなっていた。
 将臣の性格を知っていた分、彼のその身代わりは不気味に思えた。
 でもねぇ、理由は知らないけど本当に心を入れ替えている様だった。
 だけどぉ、それは私だけで弥生に対してはその態度も変る気配を見せていない。
「よっ、弥生、待ったか?・・・、おお、翠も若しかして僕の事を待っててくれたのか」
「弥生と一緒に帰るのに将臣を無視するのは可愛そうだと思って」
「ほぉ~~~、翠がそんな優しい心を持っているなんて僕は気付かなかった」
「それはそうでしょ、あんたの感覚なんってお猿さん並みなんだからぁ~~~」
「誰がサルだ!」
「アンタ以外にいないでしょ」
「二人ともおふざけしてないで帰りましょ」
 弥生は呆れた仕草を見せてくれちゃってそう私と将臣に言ってきた。
「そうね、馬鹿ザルなんってほっといて行きましょッ」
「まったく、よく僕のこと馬鹿なんて言えるな!このまえのテスト、僕より点数、低かったくせに・・・って言うか比較するのも可哀想だけど」
「別に気にしてないもん、その分、部活で頑張ってるから」
「そうよねぇ、大会中、色々ぶつぶつ言っていたのに。みぃちゃん結局、全国大会優勝しちゃったもんね。弥生はそんなみぃチャンが羨ましいなぁ~~~」
「何言ってんのよ、よっぽど弥生ちゃんの方が羨ましいよ」
「なんで?」
「なんでぇ~じゃなぁ~~~~イッ、何でじゃっ、弥生ちゃんテストの成績は片手の指に入るし、今年レギュラーになってすぐに全国大会出場、おまけに優勝しちゃってるじゃない」
 弥生と私の仲の良い関係もあって周りの先輩達は私のことを第二の香澄、弥生のことを第二の詩織、って風に囃子立て、ていた。
 でも、私はそんな風に言われるのがスッごく嫌だった。
「ハァ~~~」とそんな事を思ったら溜息が出ちゃった。
「あれ、あれぇ、どうしちゃったのみぃちゃん?」
「自分の凄さを知っていない弥生ちゃんのバカさに呆れて溜息吐いちゃっただけ」
「ぅうぅっ、将臣お兄ちゃん、みぃちゃんが私のことバカって言ったぁ」
「だって、お前、天然系バカだろ?」
「ふぇ~~~ンっ、お兄ちゃんも私のことバカにする」
 それから暫く駅まで将臣と一緒に弥生のことをからかいながら歩いていた。
 駅の近くに到着すると私は二人と別れようと思って言葉をかけた。
「それじゃァ、二人ともバイビィ~~~、まったあしたぁ」
「なんだよ、僕たちと一緒に立教台まで帰るんじゃないのか?」
「みぃちゃん、どこ、行くの?」
「ひ・み・つぅぅぅ~~~っ」
「もっ、もしや男でも出来て今からでっ、ででででっデートでもするのかぁっ?」
 私の言葉に驚いて将臣のヤツなんだか急に慌てる様にそんな風に聞いてきた。
「ハァ?何言ってんだか。そんなわけないじゃない・・・、今からお知り合いの所に遊びに行くだけ」
「遊びに行くんだよな?だっ、だったらその・・・僕もついていてもいいだろ?」
「あぁ~~~、だったら弥生もついてくぅ~~~」
 将臣がそんな事を言うから弥生まで嬉しそうにそうついて来るって言ってきた。
「ハァ~~~、それは別に構わないけど今、行く所に居るか、居ないか、分らないけど良いの?」
「なんだ、連絡とかして約束したのと違うのか?」
「連絡とかしないで、突然お邪魔するのが面白いんじゃない、クックック」
 悪戯な笑みを浮かべながら将臣の疑問に答えて上げた。
 そう言ってから私は止まっていた歩道から再び動き出しその場所へと向かう。
 駅から十分くらいかけて三人でその目的の場所に到着する。
〈ニヒヒヒッ、一体誰が出てきてくれるのかなぁ・・・、それとも取り込み中で出て来られなかったりして。もしかして、詩織さん以外の女の人とか・・〉
 心の中でそう思いながらドア脇に有ったインターフォンを押した。
『ピィンポォ~~~~~~ンッ』
「ハイ、どちら様でしょうか?」
 それを押すと直ぐにスピーカから声が聞こえて来ました。
 しかも女の人の声。でも、即応だったのでちょっとつまらなかったかな・・・
「アッ、その声は詩織お姉さまァ~~~、翠でぇ~~~ッスッ、遊びに来ちゃいましたぁ」
「あらっ?翠ちゃんなの直ぐ玄関に向かいますので少々お待ちしてください」
『ガチャッ』と扉が開き直ぐに詩織さんが姿を見せてくれました。
「こんばんはぁ~~~ですぅ」
「こんばんは翠ちゃん。エッと、そちらのおふたりは?・・・?あなたは・・・」
「ぇえぇっ?あっふじみ・・・」
 弥生が詩織さんの苗字を言葉に出そうとしたとき、将臣がそれを邪魔し名乗りを上げた。
「ハイッ、ぼっ、僕は聖陵高校二年生化学科の結城将臣って言います。よろしくお願いします。綺麗なお姉さん!それとこっちはオマケで僕の双子の妹の弥生っていいます」
「将臣、何よその態度の急変は!鼻の下伸ばしながら自己紹介すんなぁ~。あんたが何考えてるか手に取る様に分かっちゃうわ!詩織先輩とお近づき仕様なんて無駄よ、無駄、ムダァ」
「なっなんでだよ!」
「詩織先輩は既に彼氏持ち」
「なっなにぃーーーっ、そんな一発ケーオーなこと言うなよ」
「みぃちゃぁ~~~ンっ、弥生のことを無視しないでちゃんと紹介してよぉ」
「確か、結城弥生ちゃんでしたわよね?・・・今年の全国大会、拝見させていただきましたよ。聖陵の女子背泳ぎで始めての全国優勝、凄かったですね。おめでとう御座います」
 将臣のいびりと私の無視に半泣き状態になろうとしていた弥生を褒めるような言葉をかけて詩織さんは慰めていた。
「わぁ~~~、尊敬していた藤宮大先輩に褒められちゃった。それにちゃんと弥生のこと、知っていたのが嬉しいです」
 そうそう、弥生の聖稜への進学願望が強かったのはこの子の尊敬している詩織さんがいた学校だったから、ってことをすっかりど忘れしちゃってましたね・・・。
 いまの弥生が詩織さんに向けるまなざしはまるで、憧れのお姐様と出逢えて最高って感じだね、こりゃぁ。
「皆さん、いつまで玄関にいるのかしら?どうぞ中にお上がりください」
 私達が外で騒いでいるともう一人玄関に姿を現した人がいた。
「詩織、どうし・・・?なんだ、翠ちゃんが来たのかそれと・・・、そちらの二人・・・、まぁいい三人とも中に入れ」
 中に移動しながら貴斗さんに弥生と将臣のことを紹介した。
 彼は突然、私以外の訪問者に訪れたことに驚きを表してなかった。
 随分前に詩織さんから記憶喪失の貴斗さんは彼の知らない人とは殆ど打ち解けることがないって言っていたけど弥生とも将臣ともちゃんと楽しくお話しているようだった。
 まぁ、そんな事を聞いたのは二年も前のことだから今の貴斗さんが変わっていても可笑しくないのでしょうけどね。
 私達が訪れたとき詩織さんは貴斗さんのために夕食を作り始めようとしていた所みたいだった。
「三人とも今から夕食を作るところですけどご一緒にどうかしら?貴斗よろしいですよね?」
「自由にしてくれて構わない」
 詩織さんの問いかけに彼は私達に顔を向けてそんな風に答えを返していた。
「藤原さん、良いんですが突然訪問して夕食までごっそうになちゃって」
「僕は遠慮なく頂きますよ」
「ハァ~~~イ、私も遠慮しませぇ~~~ん」
「弥生ちゃん、二人もああ言っている。気にしないでくれ。それでも何か遠慮に思うのなら詩織の手伝いでもして、それの代償に夕食を食べていきな」
「うわぁ~~~ン、今の貴斗さん、とっても優しい言葉を弥生ちゃんなんかにかけてるぅ・・・、ずるいですぅ」
 貴斗さんが甘いマスクで弥生に言葉を掛けたから、拗ねるような仕草でそう口にしていた。
 だけど、彼は全然気にしてくれる様子はなかったです。
 弥生はその貴斗さん言葉で詩織さんのいる台所へと向かっちゃっていた。
 なんだか弥生だけに手伝わせるのも癪だから私も手伝うことにしたの。
「ネェ、みぃちゃん、ずっと前言っていた〝お兄ちゃん〟って藤原さんの事だったんだネェ」
「弥生ちゃん、まだそんなズッち昔のこと、覚えてたわけ?」
「えぇ~~~、だってとってもぉ気になってたんだもん。藤原さんってとても優しそう。藤原さんと親しいみぃちゃんが羨ましいよ」
 台所で詩織さんのお手伝いをしながら弥生とそんなお喋りをしていた。
「将臣君、弥生ちゃんのお兄さんなんでしょ?貴女にお優しくないのですか?」
「お兄ちゃんはいつも弥生のことからかって苛めるんですよ」
「詩織先輩、弥生ちゃんが言ってる事なんて気にしないで良いでよぉ~~~ニュフフフッ、兄妹喧嘩捨て猫も舐めないって言うくらい仲が良いんだからネェ」
 悪戯な表情で弥生ちゃんを詩織さんの前でからかっていた。
「酷いよぉ~~~、藤宮先輩、今の聞きました?みぃちゃんまで弥生のこと、からかう・・・、それに言葉も意味も間違っているぅ、夫婦喧嘩犬も食わないだもん」
「翠ちゃん、お口ばかり動かしていないで弥生ちゃんみたいに手も一緒に動かしてくれると私も嬉しいのですけど」
「ハァァァァ~~~イッ」
「もお、お返事だけは良いんですから」
 手を動かしながらも呆れた表情を詩織さんは私に向けてくれちゃいました。
 詩織さんに嫌な思いもさせたくなかったし、弥生もからかい過ぎると嫌われちゃいそうだから真面目にお手伝いをする。
 出来上がったものをテーブルの上に並べて貴斗さんと将臣を呼ぶと二人して楽しそうに台所にやってきた。
「なんか、貴斗さん将臣のヤツと仲よさそう」
「将臣君、今までの友達とはタイプが違う。話していて新鮮だ」
「ウゥ~~~、なんか悔しいです、将臣!貴斗さんにあんたのバカ、うつさないでよね」
 将臣のヤツに指をさしてそう言ってやった。
「僕よりバカな奴に馬鹿って言われたくないネェ~~~」
「なんか、すごぉ~~~くムカつく言い方」
「翠ちゃん、いい加減、席に座ってくれるとありがたいんだけど」
「将臣、貴斗さんがああ言うから今回は引いて上げる」
「何を言ってんだか」
 呆れたような口調で将臣はそう言って返してから席に座っていた。
 将臣の所為で貴斗さんの前でとんだ醜態を晒しちゃったよ。
 そしてみんなが席に座ると食事の前の挨拶をして夕食を食べ始めた。
「将臣君、弥生ちゃん遠慮しないで食べてくださいね」
「詩織先輩、私には言ってくれないんですかぁ?」
「結城さん達はお客さんですよ、翠ちゃんは私と貴斗の妹なのですからお口にしなくてもいい事でしょ?」
「アハッ、そうでしたネェ~~~」
 貴斗さんも詩織さんも春香お姉ちゃんが目覚めるまでは私のお兄ちゃん、お姉ちゃんになってくれるって言っていたんだよね。
 だから、最近は特に甘えさしてもらっていた。
「貴斗さん、いいですね、こんな綺麗な人が彼女で・・・、しかも料理が上手みたいで・・・、弥生では絶対作れないな」
「将臣君、お褒め頂き有難う御座います。どんどん召し上がってくださいね」
 貴斗さんが答えるのではなく先に詩織さんが嬉しそうに将臣のヤツにそう答えていた。
 先輩の恋人さんは詩織さんの事を褒められて少しばかり照れているようだった。
 更に、将臣のそれを聞いた弥生は不満そうな表情で双子のお兄さんに口をはさむ。
「ひどぃよぉ、お兄ちゃん、私も手伝ったのにぃ」
「お前が手伝ったのは材料切るくらいだろ?120%正解どうだっ!」
 さも当然の様に将臣のヤツは弥生にそう言っていた・・・。
 でも、それは正解で彼女も私も材料を切るのと食器を出すのを手伝っただけで料理を作ったのは詩織さん本人だけ。
 凄く手際がよくて弥生も私も詩織さんのそれについてはいけなかったの。
「ウゥぅ~~~、将臣お兄ちゃん、そんなこと、言うともうお家でご飯作って上げないんだから」
「ハッハッハ、僕は別に構わないぜ、そん時はここにお世話になるから」
「馬鹿マサ、アンタ、図々しすぎ」
「将臣君、余り弥生ちゃんにそんな事、言ったら可哀想だ。妹なんだからもっと大切にしてやったらどうだ?こんなに可愛らしいのに」
「ハァ~~~、貴斗からそのようなお言葉が聞けますなんて珍しいことですわね・・・。明日の天気予報は大雨です」
 詩織さんは貴斗さんの事を見据えてそう言葉にしていました。
「なんだ?詩織その目は?」
 その言葉と詩織さんの訴えている目の真意を理解できていなかった貴斗さんは不思議そうにそう聞き返していた。
 確かに詩織さんが言っていることは本当だと思う。
 だって言葉を曲げて褒める事はあってもストレートで言うのは珍しいからですよ。
「グスンッ、藤原さん、弥生にとっても優しいですね・・・。こんな私のことを何時もからかって苛める将臣お兄ちゃんなんていらないです。だから代わりに弥生のお兄ちゃんになってください」
 親友なんかに大事な貴斗さんをとられたくなくて、つい、親友のその馬鹿げた言葉直ぐに反応しちゃって、
「弥生ちゃんなに言ってんのぉ~~~、駄目に決まってるでしょ、貴斗さんは私だけのお兄ちゃんなんだから絶対駄目!」
 何て事を口ばしちゃっていました。
「ハァ・・・、頭痛してきた」
 弥生はウルウルと目を潤ませ私だけの貴斗お兄ちゃんにそんなことを言うから顔を膨らませ彼女にそう言っちゃった。
 それから、私と弥生ちゃんのやり取りを見ていた貴斗さんは右手人差し指、中指の二本を額に添えて溜息を短くついて苦笑しながらそう言葉にしていた。
 将臣なんか妹、弥生の事なんて無視して独り、美味しそうに詩織さんが作った料理を食べていた。
 なんか異様な雰囲気の場になりかけたのをまとめたのは詩織さんだった。
 それ以降は普通にお喋りしながら楽しく夕食を食べる事が出来ました。
ご飯を食べてからも貴斗さんの家にしばらくご厄介になり弥生と私は貴斗さんを賭けてファン・ロードって名前のデュエルカード・ゲームで勝負をしていた。
 弥生も私も、地方大会では上位にいけるぐらい強いだよねぇ、これがっ!
 将臣のヤツは詩織さんと一緒に格闘ゲームをやっている。
 貴斗さんは何か調べ事があるらしく彼の部屋に行ってしまいました。
 弥生との何度目かの勝負に決着が付こうとした頃、貴斗さんが再び私達の前に現れた。
「なんだ?君達まだいたのか・・・、今何時だと思っているんだ?」
 貴斗さんにそう言われたので部屋にあった時計を確認してみた。
 吃驚、もう少しで日付の変る時間に差し迫っていた。
「詩織・・・・・・確り未成年たちを監督してもらわないと困る」
 貴斗さんは何か不機嫌そうにそう詩織さんに諭していた。
「グスンッ・・・、ゴメンなさい」
「貴斗さん、藤宮先輩を叱らないでください、僕達が勝手に今までお邪魔してたから悪いんです」
 詩織さんお得意の演技ですまなそうな表情を貴斗さんに見せると、何も知らない将臣のヤツが詩織さんを庇うようあざとくでしゃばってそう口に出していた。
「別に詩織を叱ってるわけじゃない・・・、君達の親が心配しているだろうとおもって・・・」
「私はへいきぃ~~~、貴斗さんが自室に戻った時にちゃぁ~~~んとママに連絡したもん」
「弥生の所も大丈夫です、お父さん仕事、忙しいらしくて殆ど帰ってくる事ありませんから」
「そうそう、家の親父は僕達のことなんかほったらかしで仕事の鬼になってるから大丈夫です。日本にいないし」
「そういう問題では、ないのだが。まあいい、もう遅いし、俺の車で送って行く。狭いが我慢してくれ。さぁ~~~、みんな準備してくれ」
「私も帰らないといけないのですか?」
「当然な事を聞くな!」
「そんないい方したら詩織お姉さまが可哀想ですぅ」
「そうですよ、そんないい方してると他の人に藤宮さん、取られちゃいますよ」
「別に構わん、そうなったら俺の魅力がなかったって事で諦めるから」
 将臣の言葉に貴斗さんは本気なのかそうでないのか分からない様な調子で淡々と答えていた。
 それを聞いていた詩織さんはとても呆れたご様子でした。
 貴斗さんを好きになるのって気苦労が絶えないのかもって思っちゃいました。
 だけど、それでもこの先、貴斗さんに対する想いは募っちゃうんですけどね。
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