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第 四 章 弥 生

第十話 親と子

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 十月になって弥生達は晴れて、聖稜大学へ正式な出入りができるようになりました。その入学式の時にやっと将臣お兄ちゃんも無事に合格できていて安心したけど、何も知らなかった翠ちゃんが驚くのに弥生がそうしなかったら変に思われると思って、合わせて、驚いたふりをする。
 その時、将臣お兄ちゃんは何も口にしなかったけど、弥生を見て知っていたくせに見たいな表情を弥生へ向けていました。
 翠ちゃん、本当に驚いていたけど、それと同じくらい嬉しそうだった。そんな親友を見るとやっぱり弥生も嬉しくなってしまいます・・・。
 三人で同じ講義を受けながら日々を過ごし、毎日の様に将嗣お父さんに、お父さんが携わっていたお仕事について尋ねるのですけど・・・、チャンと答えてくれます。でも、弥生達が知りたい事、アダム・プロジェクトを聞こうとすると、左眉をピクリと動かして、お茶の入っていない湯のみを立ち上がりながら啜るふりをして、口に付けたまま書斎へ逃げてしまっていました。
 知らないとも言わないし、知っているとも口にせず、ずっと判らず仕舞い。お父さんの知らないはずの藤宮大先輩や貴斗さんの事、八神さんの事や、柏木さんの事を口にするたびに左眉を微妙にひくひく動かしていました。どのように考えても、将嗣お父さん、先輩達の事を知っています。でも、どうして、教えてくれないのでしょうか?
 一月してから、将嗣お父さんがアダム計画に携わっていた事だけは否定しなくなりました。仕事の内容を聞かせてほしいと願っても弥生達では理解できないと言ってお話を終わらせてしまう。仕事によっては守秘義務があるから仮令、親子でも話す事が出来ないと頑なに内容の開示をしてくれません。
 ああだ、こうだしているうちにもう十月が終わりに近づいたころ、弥生のお兄ちゃんは・・・。
 
2011年10月29日、土曜日

 俺、結城将臣は夕食が終わった後、食器を洗っていた。遠くの方で、弥生が将嗣父さんにお風呂へ入る事を促す声が聞こえて、親父と風呂入りながら、またアダム計画の事について聞き出すか、そう思うと、直ぐに洗いごとを済ませ、食器乾燥機に速攻放り込んだ。
 親父が浴室へちゃんと入った処を見計らい、
「あっ、将臣お兄ちゃん、今、将嗣お父さんが入ったところ」
「別にいいよ、狭い訳じゃないから」
「そんなことあるよぉ~、お兄ちゃんも、お父さんも結構体大きいじゃないですか。大人二人なんてありえません」
 そんな妹の言いなんか無視して、
「のぞくなよ!」とからかいの笑いを浮かべ、脱衣所へのドアを開け中に入った。
「のっ、のののぞくなんて、そんなことないです。お兄ちゃんの馬鹿っ!」
 浴室から鼻歌が聞こえる・・・、お堅い親父もそういう事するんだな、と思いながら服を脱いで脱衣所と風呂の仕切りを開けて、中へ侵入した。将嗣父さんは頭を洗っている最中で、
「親父、背中流してやろうか?」
「将臣か・・・」と鼻歌を聞かれた事も恥ずかしがらず、驚きもしない冷静な声で答える親父だった。
「今の曲って、いつの奴?」
「今の将臣と同じくらいの年頃だったから・・・、四十年くらい前になるな、その当時、流行っていたイギリスのハード・ロック・バンドのDPの唄さ・・・」
「ふぅ~~~ん後で聞いてみようかな・・・」
 そろそろ、頭にお湯掛けてもいいかなと思い、シャワーを使って、父さんの頭の泡を流しながらそう答えた。
「すまんな」
「いいんじゃねぇ、このくらい。いままで、ずっとできなかったんだからよ」
 俺はタオルかけに引っ掛かっているボディー・ウォッシュ・タオルを腕を伸ばしてとり、脇にあったボディー・シャンプーを付けて、泡立てた。それを親父の背中に当て自分が背中をこする時と同じくらいの力加減で擦っていた。
「なあ、親父、そろそろ教えてくれてもいいんじゃねぇ?アダムって何なんだよ?」
 親父は答えてくれず、俺が渡したボディータオルで胸や腕を洗い始めた。全部が終わって、背中の泡を風呂の湯を使って流した。今度は親父が俺の背中を流してくれると言ってきたので将嗣父さんに背中を見せた。
 無言のまま、背中を流してくれる親父に、
「なあ、本当はさっ、アダムって親父にじゃなくて、母さんの仕事に関係していたんじゃねぇのか?」と当てずっぽうに言うと一瞬親父の手の動きが止まるが直ぐに動き出した。
「ほら、前は自分でやれ」
 親父はお湯を含んだタオルを絞り、それを頭に乗せ、先に風呂へと浸かった。
「将臣も、弥生も、私に似なくてよかった・・・、その悟さは神奈譲りか・・・」
「そうかい、俺の頭の出来は親父譲りだと思うぜ。親父はすげぇ~開発者だって、慎治さん、八神慎治さん言ってたから。何せ、俺も頭いいからよ」
「尊大な事を言う・・・、私はそんな事、思ったためしはないぞ・・・。慎治君か・・・、皇女さんの処のご子息か・・・」
 親父は何かを思いつめる表情で風呂の天井を眺めてから掬った湯を顔に掛けた。
「頼むよ、親父、弥生には黙っておくから、教えてくれよ」
「その押しの強さも、神奈譲りだというのだよ・・・、まったく。はぁ・・・」
 何かを諦めきった様な表情でポツリポツリと語り始める将嗣父さん。それは・・・、
「以前見せた、神奈の写真が弥生に普通の親子以上に似ていたのを覚えているか?」
「だから、母さんの方がよっぽど綺麗だって」
「弥生だとて、地が良いのだからちゃんと化粧を覚えればいくらでも化けられる・・・」
「それとアダムと何の意味があるのさ・・・」
 それから親父が答えてくれたのはアダムというのがどんな計画なのか?研究なのか、だった。ここではその説明を省くから、親父の章か慎治さんから聞いてくれよ。
「神奈はその中で研究主任の藤原美鈴君の次に優秀だった。これは私の評価ではなく回りの評価だからな・・・、神奈はアダム・プロジェクトの中で一つの可能性を見出した。それはどんな親子でも生まれてくる子供が健康であってほしいという願い。それを遺伝子の段階、生まれてくる段階で欠落を発見して補完しようというものだった。将臣、お前はよく小説を読むようだがその中のサイエンス・フィクションなどで、出てくる強化人間や遺伝子操作の試験管ベービーに当たるのかもしれない」
「ああ、その手の話はわりと漫画やアニメとかにもあるぜ」
「違いがあるとすれば、全てが母体内で完結する事だろう・・・」
「それと弥生と母さんの何の関係が・・・、もしかして?」
「矢張り聡い。だが、お前本人も含まれているとは思うまい・・・。私と神奈が結婚した後、神奈が一番嘆いた事があった。それがお前には判るか」
「わかるかよ・・・」
「少しは考えてから物を言いなさい。お前が答えをせかしている事が丸見えだ。絶対に弥生には悟られるな。お前達二人は普通の双子以上に共感性があるのだからな・・・」
「何で、親父が弥生と俺がそういう変な力を持ってるの知っているだ?」
「それが、アダムに連なるからだ・・・。本来なら私と神奈の間に子供が生まれる事など絶対あり得なかった。なぜなら、私の精子には私の遺伝子情報がなかったからだ。そこで、神奈が当時研究中だったアダムの成果を確認する意味で私の精子に適用したのだ。結果、生まれてきたのがお前と弥生。二卵性双生児になるようにしたのも神奈の考えあっての事だ・・・。私がその事実を知ったのはステーツに立つ前に神奈の仕事書類を整理した。時の事だ」
 それからも、親父の言葉が続き、今まで黙っていた事が嘘の様に流れていた。その内容は俺と弥生の臓器の100パーセント互換性。何かの事故で失ってしまった臓器の完全再生。俺達二人は生後、間もなくして片方の肺を交換され、今もなんの支障もなく生き続けているし、その時、切除したはずの臓器が再現しているみたいだ。それが普通以上の共感性を生んでいると親父は推測している。やはり母さんの考えていた事を全部理解している訳じゃないので書類にはそれについて書いていなかったから、憶測の域の話しだそうだ。更に俺にだけ、アダム技術の応用の弊害、って親父は言いながら、渋い顔をする。何故なら、弊害というマイナスの印象ではないから、らしい。まあ、簡単にまとめて、今の判りやすい言葉にすると自己復元可能なクローニングに近いんだろうよ。
 それは男だけが得られる弊害らしくて、肉体強度と常人より、幾分身体能力が上がる事だった。幼少のころから訓練を積めば、成人の頃には銃剣などの武器を持った相手が数人がかりでも、素手でどうにかなるとのこと・・・、ホントかよ。
 とは思う物の、俺はそれを聞いて納得してしまう。流石に無敗で俺が世界チャンプになれるはずがないし、試合の最中、何度も感じた俺が思う以上に早く反応する俺の動きがあったからだ。
 そんな俺でも敵わなかった人がいる。俺が高校二年生になった夏休みの時、俺どうしてもって、一度、貴斗さんと手合わせをお願いした事があったんだ。渋る貴斗さんを何度か説得して試合をさせてもらう事になった。でも、結果は一発も当てられずに全て躱され、俺は知らないうちに気絶させられた。実は貴斗さんが相当強かったのはアダム技術を受けていたから・・・って事はないよな、さすがに。尊敬できる貴斗さん見たいな人のお母さんが研究していた事を自分の子供に平気でする様なマッドな人じゃないだろうし。
「なあ、女の子にはそういう特典つかないの?」
「売り物じゃないのだから、そういう言い方はよくないぞ、将臣」
「いいの、俺と親父だけで話してんだからよ、で?」
「初期の頃はその弊害は男だけの物だと考えていたようだが、最近の検証ではそれに性別は関係ないそうだ。ただ、それもあくまで、母体内でアダム治療が行われた場合に限るらしい」
「ふぅ~~~ん、そうなら、弥生が運動神経いいのはそのせいか?でも、なんで親父の言い方は、らしいとか仮定なんだ?」
「当たり前だ、私が直接携わって研究していた訳でもない。報せられる結果しか知らないからだ。その真偽を図る為の検証を私が行っていない物を断定で語る事は出来ぬ。しかし、あまり驚かないのだな、将臣」
「まあねぇ、俺、これでも肝据わってる方だし、ボクシングやっていたから、精神も鍛えてきたからよ。そう簡単には動じないぜ、へへっ」
「よく言う・・・、私の背中を見て育ってきたわけでもなしに、動じうない冷静さは私と同じだとは・・・」
「だろうよ、ぶっちゃけ、俺って親父のクローンなんだろう?」
 俺の言いに親父は苦い笑いを見せて、
「そうなのかもしれないが、私の話の続きを、聞きなさい・・・。現代では性格も遺伝子の影響を受けるという研究結果がでているから、クローンとかは関係ないのだよ」
 この時、親父が人の話を最後まで聞かないのも、自分に似てしまったかと嘆いたなんて、俺が知れるわけがない。
「・・・、・・・、・・・、それ以上私に似るなよ・・・。私に似てしまうと女性の気持ちに疎くなるからな・・・」
「ぐっ、それは・・・、無理っぽい。弥生にも翠にも、何度も駄目だし喰らってるから、はぁ~・・・」
「なら、諦めるしかあるまいて。ただ、それも心の持ちようだ。翠君の事しっかりと考えて、私と同じ過ちを犯さぬようにな・・・。私は秋人君の処のご息女とお前が付き合う事を否定はしない。恋愛は自由だ」
 将嗣父さんはその言葉を最後に湯船から出て先に脱衣場へ移動した。
 俺の、いや、俺達兄妹の出生の秘密が想像しがたい技術で出来ていたんだな。でも、俺は驚かない。何故なら、そんな生まれ方をしても、チャンと俺は両親の遺伝子を引き継ぎ、神奈母さんのお腹の中から生まれてきたんだから、今までこうやって生きてこられたんだから、何も俺自身を特別視、軽蔑視する必要はないよな・・・。
「よっし、これで情報ゲット。正式に慎治さんのお手伝いできるぞっ!弥生ぬきで」
 俺はその言葉と一緒に拳を握って浴槽から勢いよく立ちあがった。

 と将臣お兄ちゃんは弥生の知らない処でちゃっかり将嗣お父さんからアダム計画を聞き出していたのでした。それと、共有意識の対策見たい物も聞いていたみたいなので、私は偶然という必然がなかったら、将臣お兄ちゃんがその話しを知っているという事実を知る事が叶わなかったんです。それじゃ、またお兄ちゃんの視点に戻します。

 俺は運がいい。部活やサークルに所属しなかった俺は翠達のそれが終わるまで暇つぶししようと、ドレスデンに向かっていた。そして、また、慎治さんが喫茶店内で誰かと話している様だった。真剣に話している様なので俺の到来に気が付いていない。慎治さんの背中合わせの席へこっそり移動して、その内容を拝聴することにした。こういう時、席と席の間に仕切りがある喫茶店っていいよな。まるで、事件を追う探偵や私服警官になったみたいだ。
「だめもとで、行ってみた方がいいんですかねぇ、やっぱり?」
「そうですね。今は核心に迫る情報を得るために少しでも可能性がある事は調べておいた方が宜しいでしょう」
「だな、アメリカには親友と言っていい奴がいるし、ちょっと足を延ばしてみてもいいのかもな。それじゃ、引き続き、神無月先輩は出来る事をお願いします」
「ええ、わかりました。でも、あまり、無茶をして、兄さん、愁兄さんに心配を掛けさせないように注意してくださいね」
「へいへい判っていますよ。内の姉貴との仲を悪くさせたくないからな」
 そこで会話が一段落したみたいだ。俺は仕切りに寄りかかり、
「慎治さん、面白そうっすねぇ、俺もアメリカ一緒に行かせてくださいよ。去年海外遠征でアメリカに行った事があるから少しくらいはお手伝いできますよ」
 俺が突然、話しかけると慎治さんは頭を抱え、失態した風な仕草を見せてくれる。そんな姿をする今じゃ、大学のOBのその人を小さく笑う。
「アメリカ?さて俺はそんな話していたかな?してませんよね、神無月先輩?」
「え?そうでしたっけ?」と慎治さんが名前を告げるその人は眼鏡のずれを直しながらおどけていた。
「それでは、私、忙しい身ですので、これにて失礼させて頂くとしましょう。あとは二人でごゆっくりと話し合ってください。では」
 去ってゆく紳士的な笑みをこぼす神無月さんって人が座っていた椅子に俺がからかいげな笑みで座ると、渋い顔をしている慎治さん。
「翠達には内緒にしますから、つれていってくださいよ。一人よりは二人の方が探し当てる確率あがりますよ」
「本来、確率ってのは理論でしかないんだ。いろんな要素を混ぜて考えなきゃならない現実では複雑すぎて一人増えた処でどうにもなりはしないのさ」
「・・・」
 慎治さんの言葉に、反撃できる言葉を探すけど何も思いつかず沈黙する俺。
「ほら、俺を納得させることのできる言葉でないだろう、だから諦めな」
「そっそれは・・・、ほら、あのそうさ。えぇと」
「無理に考えるなよ、唯、諦めるだけでいい事な、この話は。若し、俺が将臣君を連れて行って、君に運が悪い事が起きた場合、勝手に着いてきたんだって言い逃れはしたくない。そういう責任を俺は放棄したくないだ。だから、俺の肩の荷を重くさせないでもらいたいな。な、将臣君」
「そっ、そうっすけど、俺だって手伝いたいんですっ!」
「その気持ちだけで十分、ありがたく受け取っておくな。俺のやる気の足しにして。おごってやるから何か頼んでいいぞ」
「そうやって話を終わりにしないでください。俺諦めるって一言も言ってないですよ」
「それじゃ俺は承諾すると一言も言わない事にしよう」
 慎治さんは不敵に笑う。口のうまさではこの人に叶う訳ない。でも、何とか押しとおさないと、くそっ!こんな時、弥生や翠が一緒にいてくれれば、慎治さんも折れてくれる可能性が高くなるのに・・・。俺はちらりと腕時計を見た。二人がここに来るまで、後、一時間とちょっと、慎治さんに帰ってもらわない様に粘って、三人になってからもう一度、仕掛けてみようと算段した俺は。
「それじゃ、おれ、まだ、少し早いけど昼飯にします、遠慮なくたのんじゃいますよ」
「人の食べられる限界なんて、決まっている。どんなに将臣君が大食漢でも俺の財布に穴が開く事はないだろうから、好きにしな」
 よし、これで俺が食っている間に慎治さんがここから離れる事はないだろう。俺は翠ほど大喰らいじゃないけど、二、三人分くらいはイケる。って事でおれはパスタの大盛りとサラダ盛りとサンドウィッチを頼んで、おまけにデザートのケーキも一つ頼んでいた。
 俺は時間を見ながら、調子を合わせて、食べていた。時折話しかけてくる慎治さんの内容に相槌を打ったり否定したり、平凡な意見を述べたり、受け答えをした。・・・、・・・、・・・、勝負あった。俺がゆっくり全てを平らげて、コーヒーを啜り始めた頃、ドレスデンの玄関の金物のカミング・ベルが響いた。そっちに目を向けると、翠と弥生が入ってくるところだったんだ。俺はコーヒーカップを置いて、よしっ!
「慎治さん、さっきの話の続きですけど」
「なんだよ、諦めたんじゃなかったのか?」
「だから、諦めるって一言も言ってないっすよ、ふっ」
「何を笑ってるんだ、可笑しな奴め」
「慎治さん、こんちわですぅ~~~、ついでに将臣もぉ」
「こんにちは八神さん。ウチのお兄ちゃん、八神さんになんか失礼な事、しませんでしたか?」
「やっ、やぁ~~~、二人とも元気そうだねぇ」
「失敬な事を言う妹だぜ」
 二人に受け答えしながら慎治さんは二人の到来に頭を抱えていた。
「どうしたんですか、慎治さん?気分でも悪んですかか?こいつ、本当に慎治さんになんかいやらしいことでもいったんですか?」
「おい、お前等、何で俺じゃなくて慎治さんの味方するんだ?マジで大事な話で、俺達にも関係する事だって言うのに」
「いいや、まったく無関係」
 全力で否定する慎治さんの真面目な顔。
 そんな翠の声に俺は始め素直に答えず。慎治さんをやりこむためにしらばっくれる様な会話を続け、途中で態と諦めたそぶりをみせた。それからまた、翠達が食事を終えた頃、
「お前ら二人を巻き込みたくなかったんだけど、やっぱそうもいかないか」
 思わせぶりの口調で妹と翠へそう言うと慎治さんは、マジ勘弁してくれよ、って顔で答えを返してきた。
「おい止せ、将臣君」
「慎治さんが素直になってくれないからですよ、慎治さんが悪いんです。ええとなぁ」
 ケーキを食べ終えて満足げな翠達へ、二人が来るまで慎治さんと、どんな事を話していたのかを伝えると二人とも、表情ががらりと変わって正反対になり、不平を口にしていた。
「また、そうやって慎治さんは独りで何かしようとするっ!私達を危険に巻き込みたくないって気持ちはすっごくわかりますけど、被害者の私達なんだから、当然、真相を知る権利あるんですよっ!昔の貴斗さんみたいに独りで何でもかんでも抱え込まないでくださいっ!慎治さんから見たら、私たちの見識なんて、幼すぎるかもしれませんが、それでも、何か、慎治さんのお役には立てるはずです。少々の危険くらい、怖くありません。弥生と私には強力な盾があるんですから」と言い俺を見ていた。
 翠のその言葉に俺は苦笑いを浮かべていた。だって、確かに翠や弥生の盾になっていいと思うけど、かなりすばしっこいその二人、被弾率は少ないだろうから、盾となる意味が薄い。そんな訳で苦笑してしまっていた。
「そうです、みぃ~~~ちゃんの云う通りです。三人寄らば文殊の知恵。一人多いんですから、八神さんが思っている以上の事が見つかるかもしれませんよ」
「本当に口達者だな、翠ちゃんは。その親友である弥生ちゃんも、やはり同類ってことか・・・、三人寄れば、何とかじゃなくて、君達の場合、女三人寄れば姦しいの方だろう」
「失礼な、俺は男っすよっ!」
 慎治さんは三人って処を強調したかったんだろうけど、その言葉に反応してしまっていた。
「いくら、言ってくれても、やっぱり三人を連れていくわけにはいかないな。俺が君達に与えた課題もまだ未回答。それにアメリカに行くんだから、パスポートが必要なんだな、これが」
 それでもな承諾してくれない慎治さんはそんな事言うけど、全く問題ない。なぜなら!
「へっへぇ~~~ん、それなら大丈夫ですよぉ~~~。弥生と私は運転免許とか持っていないから、公式な身分証明書うとしてパスポ作っていたんですよねぇ~」
 渡航経験が既にある俺は持っているしまだ、有効期限も切れていない。更に、
「それに、弥生とお兄ちゃんのお父さんがアダム計画でどんなお仕事をしていたのか教えてもらっていませんが、関わっていたことは事実ですし、みぃ~~~ちゃんの方はもう、ばっちりなんですからっ」
 翠だけじゃない、俺だって・・・、でも二人には内緒さ。
「それ、私が言う処だぞ、弥生っ!」
「また、こうやって、俺はこの年下連中に丸め込まれちまうのか・・・、数年多く生きている先輩として情けないぜ・・・」
「そんな事ないですって、慎治さん。慎治さんは頼れる先輩だし、尊敬だってしてるんすよ」
「どうせ、将臣君のことだから、貴斗の次とか言うんだろう」
「ええ、分かってるじゃないですが、流石慎治さん。でも、確かに俺にとって貴斗さんは一番尊敬している人ですけど、一番信頼しているのはやっぱ、慎治さんっす」
「私、翠も慎治さんの事、すっごく信頼してます。だって、貴斗さんは隠し事とか多くて、それに比べて、慎治さんは裏表なく、私達の思いに答えてくれますからね」
「そうです、八神さんはリーダー的存在なんですよ」
「おだてたって、何もくれてやるもんなんぞ無い」
「ええ、何もくれなくてもいいですから、私達も一緒にアメリカへ同行させてくれるだけでいいんです」
「多数決で八神さんの負けです。弥生達もお供させて下さるのは決定ですね」
「駄目押しか・・・、はいはい、わかった。もう、君らの口の上手さには、舌を巻くよ。観念した・・・、いいか、遊びじゃない事を忘れるな」
 やっと承諾を呉れた慎治さんへ、トイレに行くそぶりを見せて、慎治さんを誘った。
「つれしょん、なんて趣味ないな」
「そんな事言いながら、ちゃんと来てくれたじゃないっすか。後でちゃんと話しますけど、あの二人には聞かれたくない事なんで」
「まさか・・・」
「ええ、やっと親父、将嗣父さんが話してくれました」
「君がここへ来た時はそんな気していたんだが、やっぱりそうだったのか・・・」
 慎治さんは必然ととらえているが、偶然偶然。他の処へ行っていたら、慎治さんは俺達の知らないうちにアメリカに行っていて、その内容も知る事はなかっただろう。
 それから、翠達の処へ戻り、渡米がいつなのか、その計画などを一時間談議した。
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