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第 弐十七 話 神・天地創世
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奈落での壮大な戦いの終局は詠華達が手にし、武と経司を救い出し、現世界に無事、舞い戻れていたようだった。
彼女たちは奈落の時間の流れで千年にも及ぶ死闘の末、八岐蟒蛇を完全に消滅させる事に成功していた。常世の世界のそれだけの時の刻みも現世界では一時間にも満たっていない。
変わり果てた姿のままの二人を連れ黄泉の国まで戻った者達。詠華がどんなに力を使ってもその二人が受けていた傷が癒える事はなかった。
そして、その様な状況で再び菊理姫神に出会う、彼等彼女達。
約束を果たし還って来た者達に告げたその神の言葉は酷く悲観に打ち拉げられる程に衝撃的なことだった。その言葉とは奈落にて現世で存在する為の器に被った大きな傷は治らないと言う事だった。其れを耳にして絶望する一行。
だが、一つだけ治癒する方法があるとも、悲観的感情とそれを表現する顔を見せる奈落から戻ってきた者達へ淑やかに笑みを向け、菊理姫神は言葉にしていた。
その方法とは禊の誓約と呼ばれる儀式。
その儀式とは一体どの様な物かと、詠華達が菊理姫神に訪ねると、彼女は次の様に答えたのだ。
この世の物とは思えない程に醜く穢れた武と経司の顔の三箇所、耳、目、唇に一箇所一人ずつ接吻を交す事。其れを行う対象者は男でも女でもそれらの人物を強く思うものなら誰でも構わないと言う。
本当に心が強い者でなくてはその様な儀式を行うなど恐怖に怯え、嫌がり、避け、逃出してしまいそうな程に叶える事が皆無に近かっただろう。
だが、其れにも係わらず武の方には直ぐに名乗りを上げる男一人と女四人。しかし、経司の方には・・・、誰一人其れをやろうと名乗りを挙げる者はいなかった。
黄泉の国まで連れ帰って来たと言うのに最後の最後になって経司は酷い仕打ちを受ける。武が晴れて黄泉還り、誰も経司の事を助けなかったと知ったら、武、彼は酷く、悲しむだろうし、詠華達へ向ける思いも大きく変わったに違いない。だが、そんな経司、彼にも救いの手は差し伸べられた。それは・・・、
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、まお、麻緒とっても、とってもお兄ちゃんの事心配したんだよっ!今までどこに逝ってたのぉーーーッ!」
「経司さん・・・、今お救いします。大切な政人さんの子、愛しい私の義子。亜由美が貴方をお救いして差し上げます」
その世界に姿を見せたのはなんと経司の妹、麻緒と義理の母、亜由美だった。経司が現世界から離れた事により二人の中に押さえ付けられていた二神が覚醒していたのだ。その神の名とは聖母神、豊玉姫乃神と経津主の母神である磐筒女乃神。
麻緒が経司の爛れた唇へ自身のそれを重ねようとした時、武側に居た一人の女の心が動揺を見せる。本当の気持ちを、心の奥底にあった真実を知るその女子。そして・・・、瞬転して経司の妹を押し退け彼に深い口づけを交していたのは美姫だった。
大事な兄を奪われた様な気分になった麻緒は膨れた顔を美姫に見せてから二つ残った場所の内、目の部分に義母の亜由美は耳に接吻を交してた。禊の儀式を受けた経司の身体が幽かに淡い光を放ち始めた。しかし、傷が癒える気配が無い。次第に経司を包む光は彼の姿を見えなくした。
その様な状態の経司に菊理姫神は梔子の花の中に溜まっていた露を垂らすと光は収まり満身創痍、それは嘘だったように綺麗な姿になっていた。そこにいた殆どの者達は安堵の笑みを作っていたと言うのに其れをよそに醜い争いを続ける四人の男女。
そのいざこざを収束させたのは牧岡大地で何とか武も息を吹き返す。どの様にして武が助かったのかというと・・・。
こうして完全に救い出す事が叶った二人を連れ皆は現世界へと戻って行った。そんな彼等彼女等を待っていたのは出雲琢磨率いる天国津神全員。
「やっと戻られたのだな、詠華君・・・・・・。総ての者はそろった我々が願う真の国の復興計画を始めましょう」
「私のわがままで勝手に常世の国まで向かってしまい申し訳に御座いません。琢磨さん、私達が願う本当の日本の有り方、この世界に生きる総ての者達の為に新しい天と」
「地の『創世を!』」
天国津達が望む真の天地創世とはあらゆる生命との共存協和。日本の国土の破壊され失われた自然環境、絶滅した種の完全修復。付け加えて人々と人間が神々の信仰と言う大きな大きな揺り籠から身を乗り出し、真理の一人立できる世界へと向かわせ、そして更に多くの時を越えて彼等彼女自身が次なる神々になれるようにその精神を高めさせる事だった。
口するは易し、実現するは難し。その様なことが果たして出来るのであろうか?それを知る事が出来るのは先の未来に生きるその世界の者達だけだ。
どれだけの時の流れが必要なのかとても壮大な計画だった。しかし、其れもいつかは実現するだろう。そこに多くの仲間達、同じ意思を持つ多くの同志同胞達が集まれば可能になるであろう。
だが、其れを計画しようとした神々は気付いていない。この世界の平穏はまだ先だと言う事に、其れが訪れるのはまだ先だと言う事を知ってはいない。それは神眼を持つ事代主も月読も見通す事の出来ない将来の大きな動乱の来訪。
日本だけではなく、世界でもなくて、地球全土、太陽系を巻き込む大きな戦いの火種が降り注ぐ、その日が訪れるまでこの国を思う多くの神々よ、其れを宿す者達よ、とても短い日々の中で小さな安息を享受せよ・・・・・・、その大いなる禍が訪れる、その日までは・・・。
彼女たちは奈落の時間の流れで千年にも及ぶ死闘の末、八岐蟒蛇を完全に消滅させる事に成功していた。常世の世界のそれだけの時の刻みも現世界では一時間にも満たっていない。
変わり果てた姿のままの二人を連れ黄泉の国まで戻った者達。詠華がどんなに力を使ってもその二人が受けていた傷が癒える事はなかった。
そして、その様な状況で再び菊理姫神に出会う、彼等彼女達。
約束を果たし還って来た者達に告げたその神の言葉は酷く悲観に打ち拉げられる程に衝撃的なことだった。その言葉とは奈落にて現世で存在する為の器に被った大きな傷は治らないと言う事だった。其れを耳にして絶望する一行。
だが、一つだけ治癒する方法があるとも、悲観的感情とそれを表現する顔を見せる奈落から戻ってきた者達へ淑やかに笑みを向け、菊理姫神は言葉にしていた。
その方法とは禊の誓約と呼ばれる儀式。
その儀式とは一体どの様な物かと、詠華達が菊理姫神に訪ねると、彼女は次の様に答えたのだ。
この世の物とは思えない程に醜く穢れた武と経司の顔の三箇所、耳、目、唇に一箇所一人ずつ接吻を交す事。其れを行う対象者は男でも女でもそれらの人物を強く思うものなら誰でも構わないと言う。
本当に心が強い者でなくてはその様な儀式を行うなど恐怖に怯え、嫌がり、避け、逃出してしまいそうな程に叶える事が皆無に近かっただろう。
だが、其れにも係わらず武の方には直ぐに名乗りを上げる男一人と女四人。しかし、経司の方には・・・、誰一人其れをやろうと名乗りを挙げる者はいなかった。
黄泉の国まで連れ帰って来たと言うのに最後の最後になって経司は酷い仕打ちを受ける。武が晴れて黄泉還り、誰も経司の事を助けなかったと知ったら、武、彼は酷く、悲しむだろうし、詠華達へ向ける思いも大きく変わったに違いない。だが、そんな経司、彼にも救いの手は差し伸べられた。それは・・・、
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、まお、麻緒とっても、とってもお兄ちゃんの事心配したんだよっ!今までどこに逝ってたのぉーーーッ!」
「経司さん・・・、今お救いします。大切な政人さんの子、愛しい私の義子。亜由美が貴方をお救いして差し上げます」
その世界に姿を見せたのはなんと経司の妹、麻緒と義理の母、亜由美だった。経司が現世界から離れた事により二人の中に押さえ付けられていた二神が覚醒していたのだ。その神の名とは聖母神、豊玉姫乃神と経津主の母神である磐筒女乃神。
麻緒が経司の爛れた唇へ自身のそれを重ねようとした時、武側に居た一人の女の心が動揺を見せる。本当の気持ちを、心の奥底にあった真実を知るその女子。そして・・・、瞬転して経司の妹を押し退け彼に深い口づけを交していたのは美姫だった。
大事な兄を奪われた様な気分になった麻緒は膨れた顔を美姫に見せてから二つ残った場所の内、目の部分に義母の亜由美は耳に接吻を交してた。禊の儀式を受けた経司の身体が幽かに淡い光を放ち始めた。しかし、傷が癒える気配が無い。次第に経司を包む光は彼の姿を見えなくした。
その様な状態の経司に菊理姫神は梔子の花の中に溜まっていた露を垂らすと光は収まり満身創痍、それは嘘だったように綺麗な姿になっていた。そこにいた殆どの者達は安堵の笑みを作っていたと言うのに其れをよそに醜い争いを続ける四人の男女。
そのいざこざを収束させたのは牧岡大地で何とか武も息を吹き返す。どの様にして武が助かったのかというと・・・。
こうして完全に救い出す事が叶った二人を連れ皆は現世界へと戻って行った。そんな彼等彼女等を待っていたのは出雲琢磨率いる天国津神全員。
「やっと戻られたのだな、詠華君・・・・・・。総ての者はそろった我々が願う真の国の復興計画を始めましょう」
「私のわがままで勝手に常世の国まで向かってしまい申し訳に御座いません。琢磨さん、私達が願う本当の日本の有り方、この世界に生きる総ての者達の為に新しい天と」
「地の『創世を!』」
天国津達が望む真の天地創世とはあらゆる生命との共存協和。日本の国土の破壊され失われた自然環境、絶滅した種の完全修復。付け加えて人々と人間が神々の信仰と言う大きな大きな揺り籠から身を乗り出し、真理の一人立できる世界へと向かわせ、そして更に多くの時を越えて彼等彼女自身が次なる神々になれるようにその精神を高めさせる事だった。
口するは易し、実現するは難し。その様なことが果たして出来るのであろうか?それを知る事が出来るのは先の未来に生きるその世界の者達だけだ。
どれだけの時の流れが必要なのかとても壮大な計画だった。しかし、其れもいつかは実現するだろう。そこに多くの仲間達、同じ意思を持つ多くの同志同胞達が集まれば可能になるであろう。
だが、其れを計画しようとした神々は気付いていない。この世界の平穏はまだ先だと言う事に、其れが訪れるのはまだ先だと言う事を知ってはいない。それは神眼を持つ事代主も月読も見通す事の出来ない将来の大きな動乱の来訪。
日本だけではなく、世界でもなくて、地球全土、太陽系を巻き込む大きな戦いの火種が降り注ぐ、その日が訪れるまでこの国を思う多くの神々よ、其れを宿す者達よ、とても短い日々の中で小さな安息を享受せよ・・・・・・、その大いなる禍が訪れる、その日までは・・・。
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