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第 弐十五 話 跳 梁 跋 扈(ちょうりょうばっこ)
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十二人が全員、奈落の底の何処かに辿り着いて、武たちを探してどのくらいの日数が過ぎたのであろうか?清志狼の鼻の導きで彼等の向かう場所は根柢と呼ばれるその地の都の一つ。
奈落という場所の昼と夜の変化はとても不規則だった。その世界全体を照らすほどの大きな爆発が上空で起き光を発し輝き続ければ昼、それが消滅すれば夜。
現世での時間の流れなど通用しない常世の国、その爆発がいつ起きて、いつ夜から朝を迎えるのか?奈落を光、照らすそれはいつ消えるのか神眼の役に立たないこの場所で勇輔も照神もそれを知ることが出来ない。
昼の光は地上界に居る時よりも眩しく夜の闇は間近な隣に居る相手の気配すら感じられないほどの場所。明るい時は月読である照神の作る程よい闇で先を進み、光の無い夜は天照である詠華の生み出す穏やで小さな光で一行は安息しながら眠りに就く。
光が上空にあるときに見える奈落の世界は荒涼とし荒れ果てた世界ではなく鬱蒼とした密林が広がる世界だった。そして、大小さまざまな集落も存在していた。しかし、その場所に住まう者達は光がある時も無い時も休む事もしないで異種族同士で争い続け、勝った側の長がそれ等一帯の支配者となり、負け側の種族たちは完全服従する。支配者と従属者は留まる事を知らないのか、常に変わり続ける。支配者になったからといって見下すように従属の者達を虐げ、軽んずれば寝ている内にその首を狩られ命を落とす。眠る事すら許されない戦いだけの世界。ただ、種族間の結束団結の強さと固さは人、人間、天上界に住まう神々などより遥かに勝っていた。
奈落の世界に住む種族たちにとって大地達の団体は忌むべき排除すべき存在だったようだ。否応なしに那波たちに襲い来る奈落の住人。力だけで総てが決まってしまう場所、言葉での話し合いで和解する事など出来なかった。
それらの者と戦い傷つけ、傷付けられる日々が続く。勝利しては前進し、敗北しては後退する。その繰り返しだった。しかし、着実に彼等、彼女達は前方へは進んでいるようだった。
「はあぁ~~~、しんじられねえ。こいつらいったいなに考えてやがんだ。しかもつえぇし。武と経司を助ける前にくたばっちまうかも」
「大地、何弱音吐いてんのよ。あんた武さんや経司さんの親友なんでしょ?だったらもっと確り働きなさいよ!だらしないわねっ」
「うっせえぇよ、サユサユ。俺はもとから戦いのエキスパじゃねえんだよ」
大地は守護の祝詞を謳いながら現在親友の形見となっている経司の刀、その一刀を媒体に天之御影神と言う天津神を降ろし戦っていた。妹の沙由梨に酷い言われようだがその神を降臨させ戦っている時の大地は地上で十握剣を持って戦っていた頃よりも何倍も、十数倍も奮戦していた。其れは偏に親友を助けたく思うが故の事である。
大地の妹、沙由梨はと言うと兄に負けたくない一心で自分を鍛え闘う毎日。
定期的に回ってくる食事を作る当番。面白い事に奈落の国にある食材を使い彼女が作るそれは現世にいる時とは打って変わって見栄えが良くなっていた。
外見が良くなって味が悪くなっているんじゃないかと思った彼女の兄だがそうでなかった事に悔しがる。皆を囲んで食べる食事の席で清志狼は沙由梨の作る其れを〝神の作る芸術〟とまで称していた。人間国宝に褒められた沙由梨は嬉しそうな顔を作りそんな表情を大地に見せつけると彼は嘲笑うが心の中では天児屋根と共に褒めていた。
戦いが続く日々でもそんな和やかな時間だってある。そして、また日は過ぎる。
現世とはまったく違う時間の流れの奈落の底でどれだけの時を過ごしたのだろうが今日も武、経司救出部隊は戦い進行して行く。
休む暇さえあれば修羅の如く戦うための修練をする黒髪の乙女。
「那波、そんなに体を鍛えてゴリラになっちゃったら武君、見向きもしなくなっちゃったりして・・・、そんなコトしてるよりもあっちのテクニックでも上達させたらニュフフフフフフフッ」
「勇輔お兄様、邪魔をしないでください。あちらに行っててください。でないと・・・」
寸止めで勇輔の眉間まで霊剣を振り降ろしキツク睨む彼の妹。しかしいたって動じなくなった兄。
「ハァ、僕の妹何年やってるのかな那波は?ほんの冗談なのに・・・、そのくらいで目くじら立てて怒っちゃ駄目だよ」
「お兄様の言葉は冗談でも何を想像しているのかくらい理解できます。変態、スケベ、どエッチ」
「変な想像ってなぁ~~~にぃっかなぁ~~~ななみぃ?クックックっくっく・・・、ウワッ、危ない!首が飛ぶところだった。そんな物むやみに振り回すな。僕をこんな場所で殺す気?」
「勇輔お兄様が其れを望まなくてもそうして差し上げます。お覚悟ください!」
「高校生になる前までは那波はこんな危ない子じゃなかったのに一体どこで足を踏み外しちゃったんだか?僕はとっても悲しいよ・・・」
「それは勇輔お兄様がいけないんです。お兄様のバカっ!」
「バカっていった方が馬鹿なんだぞ、那波。それに僕が行ったテクニックって言うのは家事全般の事だよ。美姫さんから拝借した武君の好みだけど家庭的な女の子だってぇ~~~、今の那波じゃね」
「そのくらい私にだって出来ます」
「僕より出来ないくせに何を言っているのかなぁ~~~?出来るっていうなら三保さんくらいになってみな。そうしたら認めてあげても良いけどぉ」
「平潟さんと比較するなんてずるいです。あの方は天照の侍女だった神様が降りているのでしょう?人間として其れだけの腕を持つ者でなければ後継者として認められないのに・・・」
「那波は何でそうやって真に受けるのかなぁ?悪までも三保さんは頑張るための目標みたいな物でそこまでなれって一言も口にして無いじゃないか」
どの世界に居てもその二人の兄妹の関係は変わらないようだった。
今、那波は武器を持って闘う仲間の中で一番強くなっていた。総合的な強さは鬼神の王である卜部賢治の次。そこまで強くなれている那波。それは武を早く助けたいという想いの強さの現われでもあった。
そんな彼女の兄である勇輔はと言うと神憑りをして戦闘に加わる彼の存在はなくてはならないくらい重要な存在だった。周りの状況によってさまざまな力を有する黄泉の柩で眠る神々の力を借りて仲間の戦いを有利にする。
地上にいるときとは違い、ある程度体に憑依させる者を選定できるようだった。それはここへ来る前に彼が菊理姫から柩にどんな者達が眠っているのか詳しく聞いていたからである。
今日もまた奈落に住む強者と戦う月読女神と櫛名田姫神、照神も美姫も後方支援。だが、鹿嶋武の姉は後方支援でも攻撃の援護。そして、美姫の親友であり彼女から密かに武を奪ってやろうと企てている照神はひたすら守護の力で皆を守る。
照神は先読みの力を使い敵となっている相手総ての行動を予測し、明晰な頭脳で緻密な戦術戦略を立て其れを仲間に伝えこちら側の被害を最小限に抑える事に勤めた。
たまに美姫は前線まで出て経司のもう一振りの形見となっている刀を媒体に通常よりも強力な十握剣で応戦する事もあった。
「テルッ、ちゃんと私の事も支援して!・・・、若しかして貴女わたしをこんな場所で野垂れ死にさせる気?そうやって私と武をあわせない様って思っているのでしょう」
「ミッキーをそうしちゃってあげたいけどぉ。そんなコトしたらタケちゃんに恨まれちゃうからしませんよぉ~~~ダッ!それに私はミッキーと違って心狭くないもんねぇ~~~。・・・・・・、ミッキー危ないッ皆連れて後ろまで下がって」
かなり離れた場所からの神気を使った会話、其れを耳にした美姫はすぐさま前線にいた沙由梨や紘治、愛美たちと一緒に大きく後退をする。その瞬間、彼女等のいた場所一帯の地面に底の見えない大きな穴が出現していた。
その穴は奈落の地表と同化している化け物の口。その中に飲み込まれ口を閉じられば恒久的に抜け出きる事は出来ないような感じだった。しかも上空にいても地上との距離が小さければ吸い込まれてしまう様でもあった。
いつ姿を見せるのか分からないし、実はそれは地表からだけじゃなくあらゆる空間に出現するその化け物、しかも倒す方法を知らない美姫達にとって先読みの出来る照神の重要性は現世にいた時よりも高かった。
しばらくその化け物がその一帯にいる事を意識しながら戦いを挑んでくる敵と戦いを繰り広げる現世から来た者達。
相手の方には照神のような先読みの力を持っている者が居なかった所為だろう。無差別に吸い込む巨大な穴の化け物に食われてしまう事もあった。
「フゥ~~~、どうにか片付いたようね。テル、貴女がいなかったら皆、あれに吸い込まれてしまったかもしれませんね」
「ミッキー、少しはワタシノ有り難みわかったかなぁ~~~?」
「武と経君を連れて現世に変えるまではその後は用済みです」
「なに言ってくれちゃうのかなぁ~~~、ここからタケちゃんとケイちゃん連れて戻ったらミッキーはちゃんとタケちゃんから卒業してケイちゃんに入学してください。そうして、タケちゃんが私のところへ来てくれるんですよぉ~~~」
「そんなコト、テルには関係ないでしょう!それに貴女なんかに、ハナちゃんなんかにも武は譲りません。そうするくらいなら・・・」
「エェエエッ!そんなコト絶対駄目に決まっているでしょう。そんなコトいけない事だよっ!」
いったい照神はどんな事を美姫から読み取ったのであろうかとても驚いた表情を作ってから蔑んだ眼を美姫に向けていた。仲が良いのか、悪いのか複雑な友達関係。それはこんな場所に来ても変わらない。だが、二人はそれでも互いに親友だというから不思議な物である。
奈落に足を踏み入れて数年くらい経ったのではないかと思う今日この頃の大地。
「清志狼、本当にこの方向であってんのか」
「貴方達には解からないだろうがこの方向からあの二人の少年の器の臭いを感じる。あとどれだけの道を歩まねばならぬのかそれは知らんが、この方向なのは確かだ。若し間違いであればもう二度と俺は陶芸家をやらない」
「お前のやりたい事まで賭けてもこっちが当たってるって言うんだな?だったら信じてやるさ、もうしばらく」
「大地、何回注意すればわかるのよ?里美さんは年上でとても立派な方なんですからね!もっと言葉を慎みなさいよ」
「沙由梨さんよ、気にする事はない。俺もそんなに口のいい方ではない。いいたい事を言う俺だから大地の様な輩を口うるさく言うのは可笑しかろう」
「へっ、どうだ!清志狼は俺のことちゃんと判っているみたいだな。少しは見習え、サユサユ」
「何をえらそうにアンタ・・・本当に御免なさい、里美さん。あっ、そうだ。さっきそこら辺見てまわっていたらこんなものを見つけたんですけどね焼き物の染色に使えるかなって」
「ほぉ~~~、中々いい物を持ってきたな。これならいい白が出せそうだ。ありがたく戴く」
今大きな集落の支配者に打ち勝ちその場所の一時的な統治者となってしまっていた大地達一行はしばらく寝首をかかれないようにその街で休息していた。
ここに辿り着くまで何回か似たような形で一つの町に滞在していた。そして、その度に里美清志狼は暇さえあれば工芸品を創作して時間を潰していた。極稀に彼の作る作品を見て気に入った者が彼を襲い其れを奪おうとしてきた。しかし、獣化している時の彼は現世界にいた頃とは比べられないほど強靭になっていた為、強奪者を簡単に追い払っていた。もし、彼が勝てない場合でも作品を態と壊してしまえば相手は直ぐに諦めて帰って行く。
陶芸品を地面に投げやるときの清志狼の行動、其れを目の当たりにする仲間達。皆が彼に見せる顔は酷く残念そうな感じであった。
奈落に来て清志狼が作ったそれらの数は三百を下らない。だが現存しているのはその十分の一にも満たなかった。そして、残っている物で彼自身が自分で太鼓判を押すような作品は何故か、総て大地の妹である沙由梨に手渡されていた。
其れをもらう彼女はとてもご満悦のようだった。更に彼女は奈落の底も住めば都などと思い始める今日この頃でもあった。
奈落という世界でどれだけの集落を天照の統治下に置いた頃だろうか?詠華、彼女が平潟と共に戦っている時のことであった。
「詠華さんは攻めに参加しないでくださいとあれ程申したではありませんか。さがって後方援護だけをしていてください」
「そういうわけには行かないです。私だけ後ろで・・・。皆さんだけ戦わせて、守ってもらって何もしてい無いような感じがして嫌なんです」
「其れで宜しいのでス詠華さんは。私達は貴女の剣であり楯。それだけではありません、ワタクシ個人としては・・・、貴女がこれ以上怪我をさえるのが困ります。鹿嶋さんでしたって傷付いた詠華さんを目にすれば良い顔してくださいませんよ」
マネージャーの言葉に渋々従い後方へと戻って行く詠華。そして、仲間の治癒と敵を弱体化させる力を神気に乗せた歌声で響き渡らせていた。
詠華はどんな時でも肩身離さず持っていた物があった。それは武が最後の戦いで使っていた十握剣の柄。それは初め大地から美姫に手渡された物であり其れを照神が騙し取り、彼女から隙を見て手にした平潟から詠華に献上され廻ってきた物であった。度々、其れを媒体に詠華は十握剣を形作ろうとした事があったが一度たりとも刀身を見せた事が無い。それは本来の所有者しか扱えないという事実を彼女に証明していた。
刀身の無い柄を強く握り武に想いを馳せながら戦いを続ける詠華。そして、今日も町の覇権を賭けた戦いに勝利する。
統治下に納めた町に降り立った後の彼女の行動といえばそこに住む住人たちに歌を聞かせることと情報収集。何をたずねているのかと言うとこの世界での蟒蛇の存在についての事だった。そして、遂に一番聴きたかった事をその街で手に入れる。
それは蟒蛇の住む場所。奈落の都、根柢の正確な位置と距離について。更にその距離はここからそう遠くはない。遠くないといってもこの世界の住人の距離感と詠華等が感じるそれとは大きな開きがあった。だが、それでも確かな情報を得られたの事実だ。
その事を仲間全員に伝えてしばらくの間、詠華は馳せる気持ちを抑えながら蟒蛇との戦いに向けてその街で精気を養う。小さな孤島が幾多も点在する超大河を渡り、その向こうに奈落世界の大都市の一つ、根底がある大陸の海岸線が視界から眺められる距離まで辿り着いたのだった。そして・・・、養う。そして・・・。
奈落という場所の昼と夜の変化はとても不規則だった。その世界全体を照らすほどの大きな爆発が上空で起き光を発し輝き続ければ昼、それが消滅すれば夜。
現世での時間の流れなど通用しない常世の国、その爆発がいつ起きて、いつ夜から朝を迎えるのか?奈落を光、照らすそれはいつ消えるのか神眼の役に立たないこの場所で勇輔も照神もそれを知ることが出来ない。
昼の光は地上界に居る時よりも眩しく夜の闇は間近な隣に居る相手の気配すら感じられないほどの場所。明るい時は月読である照神の作る程よい闇で先を進み、光の無い夜は天照である詠華の生み出す穏やで小さな光で一行は安息しながら眠りに就く。
光が上空にあるときに見える奈落の世界は荒涼とし荒れ果てた世界ではなく鬱蒼とした密林が広がる世界だった。そして、大小さまざまな集落も存在していた。しかし、その場所に住まう者達は光がある時も無い時も休む事もしないで異種族同士で争い続け、勝った側の長がそれ等一帯の支配者となり、負け側の種族たちは完全服従する。支配者と従属者は留まる事を知らないのか、常に変わり続ける。支配者になったからといって見下すように従属の者達を虐げ、軽んずれば寝ている内にその首を狩られ命を落とす。眠る事すら許されない戦いだけの世界。ただ、種族間の結束団結の強さと固さは人、人間、天上界に住まう神々などより遥かに勝っていた。
奈落の世界に住む種族たちにとって大地達の団体は忌むべき排除すべき存在だったようだ。否応なしに那波たちに襲い来る奈落の住人。力だけで総てが決まってしまう場所、言葉での話し合いで和解する事など出来なかった。
それらの者と戦い傷つけ、傷付けられる日々が続く。勝利しては前進し、敗北しては後退する。その繰り返しだった。しかし、着実に彼等、彼女達は前方へは進んでいるようだった。
「はあぁ~~~、しんじられねえ。こいつらいったいなに考えてやがんだ。しかもつえぇし。武と経司を助ける前にくたばっちまうかも」
「大地、何弱音吐いてんのよ。あんた武さんや経司さんの親友なんでしょ?だったらもっと確り働きなさいよ!だらしないわねっ」
「うっせえぇよ、サユサユ。俺はもとから戦いのエキスパじゃねえんだよ」
大地は守護の祝詞を謳いながら現在親友の形見となっている経司の刀、その一刀を媒体に天之御影神と言う天津神を降ろし戦っていた。妹の沙由梨に酷い言われようだがその神を降臨させ戦っている時の大地は地上で十握剣を持って戦っていた頃よりも何倍も、十数倍も奮戦していた。其れは偏に親友を助けたく思うが故の事である。
大地の妹、沙由梨はと言うと兄に負けたくない一心で自分を鍛え闘う毎日。
定期的に回ってくる食事を作る当番。面白い事に奈落の国にある食材を使い彼女が作るそれは現世にいる時とは打って変わって見栄えが良くなっていた。
外見が良くなって味が悪くなっているんじゃないかと思った彼女の兄だがそうでなかった事に悔しがる。皆を囲んで食べる食事の席で清志狼は沙由梨の作る其れを〝神の作る芸術〟とまで称していた。人間国宝に褒められた沙由梨は嬉しそうな顔を作りそんな表情を大地に見せつけると彼は嘲笑うが心の中では天児屋根と共に褒めていた。
戦いが続く日々でもそんな和やかな時間だってある。そして、また日は過ぎる。
現世とはまったく違う時間の流れの奈落の底でどれだけの時を過ごしたのだろうが今日も武、経司救出部隊は戦い進行して行く。
休む暇さえあれば修羅の如く戦うための修練をする黒髪の乙女。
「那波、そんなに体を鍛えてゴリラになっちゃったら武君、見向きもしなくなっちゃったりして・・・、そんなコトしてるよりもあっちのテクニックでも上達させたらニュフフフフフフフッ」
「勇輔お兄様、邪魔をしないでください。あちらに行っててください。でないと・・・」
寸止めで勇輔の眉間まで霊剣を振り降ろしキツク睨む彼の妹。しかしいたって動じなくなった兄。
「ハァ、僕の妹何年やってるのかな那波は?ほんの冗談なのに・・・、そのくらいで目くじら立てて怒っちゃ駄目だよ」
「お兄様の言葉は冗談でも何を想像しているのかくらい理解できます。変態、スケベ、どエッチ」
「変な想像ってなぁ~~~にぃっかなぁ~~~ななみぃ?クックックっくっく・・・、ウワッ、危ない!首が飛ぶところだった。そんな物むやみに振り回すな。僕をこんな場所で殺す気?」
「勇輔お兄様が其れを望まなくてもそうして差し上げます。お覚悟ください!」
「高校生になる前までは那波はこんな危ない子じゃなかったのに一体どこで足を踏み外しちゃったんだか?僕はとっても悲しいよ・・・」
「それは勇輔お兄様がいけないんです。お兄様のバカっ!」
「バカっていった方が馬鹿なんだぞ、那波。それに僕が行ったテクニックって言うのは家事全般の事だよ。美姫さんから拝借した武君の好みだけど家庭的な女の子だってぇ~~~、今の那波じゃね」
「そのくらい私にだって出来ます」
「僕より出来ないくせに何を言っているのかなぁ~~~?出来るっていうなら三保さんくらいになってみな。そうしたら認めてあげても良いけどぉ」
「平潟さんと比較するなんてずるいです。あの方は天照の侍女だった神様が降りているのでしょう?人間として其れだけの腕を持つ者でなければ後継者として認められないのに・・・」
「那波は何でそうやって真に受けるのかなぁ?悪までも三保さんは頑張るための目標みたいな物でそこまでなれって一言も口にして無いじゃないか」
どの世界に居てもその二人の兄妹の関係は変わらないようだった。
今、那波は武器を持って闘う仲間の中で一番強くなっていた。総合的な強さは鬼神の王である卜部賢治の次。そこまで強くなれている那波。それは武を早く助けたいという想いの強さの現われでもあった。
そんな彼女の兄である勇輔はと言うと神憑りをして戦闘に加わる彼の存在はなくてはならないくらい重要な存在だった。周りの状況によってさまざまな力を有する黄泉の柩で眠る神々の力を借りて仲間の戦いを有利にする。
地上にいるときとは違い、ある程度体に憑依させる者を選定できるようだった。それはここへ来る前に彼が菊理姫から柩にどんな者達が眠っているのか詳しく聞いていたからである。
今日もまた奈落に住む強者と戦う月読女神と櫛名田姫神、照神も美姫も後方支援。だが、鹿嶋武の姉は後方支援でも攻撃の援護。そして、美姫の親友であり彼女から密かに武を奪ってやろうと企てている照神はひたすら守護の力で皆を守る。
照神は先読みの力を使い敵となっている相手総ての行動を予測し、明晰な頭脳で緻密な戦術戦略を立て其れを仲間に伝えこちら側の被害を最小限に抑える事に勤めた。
たまに美姫は前線まで出て経司のもう一振りの形見となっている刀を媒体に通常よりも強力な十握剣で応戦する事もあった。
「テルッ、ちゃんと私の事も支援して!・・・、若しかして貴女わたしをこんな場所で野垂れ死にさせる気?そうやって私と武をあわせない様って思っているのでしょう」
「ミッキーをそうしちゃってあげたいけどぉ。そんなコトしたらタケちゃんに恨まれちゃうからしませんよぉ~~~ダッ!それに私はミッキーと違って心狭くないもんねぇ~~~。・・・・・・、ミッキー危ないッ皆連れて後ろまで下がって」
かなり離れた場所からの神気を使った会話、其れを耳にした美姫はすぐさま前線にいた沙由梨や紘治、愛美たちと一緒に大きく後退をする。その瞬間、彼女等のいた場所一帯の地面に底の見えない大きな穴が出現していた。
その穴は奈落の地表と同化している化け物の口。その中に飲み込まれ口を閉じられば恒久的に抜け出きる事は出来ないような感じだった。しかも上空にいても地上との距離が小さければ吸い込まれてしまう様でもあった。
いつ姿を見せるのか分からないし、実はそれは地表からだけじゃなくあらゆる空間に出現するその化け物、しかも倒す方法を知らない美姫達にとって先読みの出来る照神の重要性は現世にいた時よりも高かった。
しばらくその化け物がその一帯にいる事を意識しながら戦いを挑んでくる敵と戦いを繰り広げる現世から来た者達。
相手の方には照神のような先読みの力を持っている者が居なかった所為だろう。無差別に吸い込む巨大な穴の化け物に食われてしまう事もあった。
「フゥ~~~、どうにか片付いたようね。テル、貴女がいなかったら皆、あれに吸い込まれてしまったかもしれませんね」
「ミッキー、少しはワタシノ有り難みわかったかなぁ~~~?」
「武と経君を連れて現世に変えるまではその後は用済みです」
「なに言ってくれちゃうのかなぁ~~~、ここからタケちゃんとケイちゃん連れて戻ったらミッキーはちゃんとタケちゃんから卒業してケイちゃんに入学してください。そうして、タケちゃんが私のところへ来てくれるんですよぉ~~~」
「そんなコト、テルには関係ないでしょう!それに貴女なんかに、ハナちゃんなんかにも武は譲りません。そうするくらいなら・・・」
「エェエエッ!そんなコト絶対駄目に決まっているでしょう。そんなコトいけない事だよっ!」
いったい照神はどんな事を美姫から読み取ったのであろうかとても驚いた表情を作ってから蔑んだ眼を美姫に向けていた。仲が良いのか、悪いのか複雑な友達関係。それはこんな場所に来ても変わらない。だが、二人はそれでも互いに親友だというから不思議な物である。
奈落に足を踏み入れて数年くらい経ったのではないかと思う今日この頃の大地。
「清志狼、本当にこの方向であってんのか」
「貴方達には解からないだろうがこの方向からあの二人の少年の器の臭いを感じる。あとどれだけの道を歩まねばならぬのかそれは知らんが、この方向なのは確かだ。若し間違いであればもう二度と俺は陶芸家をやらない」
「お前のやりたい事まで賭けてもこっちが当たってるって言うんだな?だったら信じてやるさ、もうしばらく」
「大地、何回注意すればわかるのよ?里美さんは年上でとても立派な方なんですからね!もっと言葉を慎みなさいよ」
「沙由梨さんよ、気にする事はない。俺もそんなに口のいい方ではない。いいたい事を言う俺だから大地の様な輩を口うるさく言うのは可笑しかろう」
「へっ、どうだ!清志狼は俺のことちゃんと判っているみたいだな。少しは見習え、サユサユ」
「何をえらそうにアンタ・・・本当に御免なさい、里美さん。あっ、そうだ。さっきそこら辺見てまわっていたらこんなものを見つけたんですけどね焼き物の染色に使えるかなって」
「ほぉ~~~、中々いい物を持ってきたな。これならいい白が出せそうだ。ありがたく戴く」
今大きな集落の支配者に打ち勝ちその場所の一時的な統治者となってしまっていた大地達一行はしばらく寝首をかかれないようにその街で休息していた。
ここに辿り着くまで何回か似たような形で一つの町に滞在していた。そして、その度に里美清志狼は暇さえあれば工芸品を創作して時間を潰していた。極稀に彼の作る作品を見て気に入った者が彼を襲い其れを奪おうとしてきた。しかし、獣化している時の彼は現世界にいた頃とは比べられないほど強靭になっていた為、強奪者を簡単に追い払っていた。もし、彼が勝てない場合でも作品を態と壊してしまえば相手は直ぐに諦めて帰って行く。
陶芸品を地面に投げやるときの清志狼の行動、其れを目の当たりにする仲間達。皆が彼に見せる顔は酷く残念そうな感じであった。
奈落に来て清志狼が作ったそれらの数は三百を下らない。だが現存しているのはその十分の一にも満たなかった。そして、残っている物で彼自身が自分で太鼓判を押すような作品は何故か、総て大地の妹である沙由梨に手渡されていた。
其れをもらう彼女はとてもご満悦のようだった。更に彼女は奈落の底も住めば都などと思い始める今日この頃でもあった。
奈落という世界でどれだけの集落を天照の統治下に置いた頃だろうか?詠華、彼女が平潟と共に戦っている時のことであった。
「詠華さんは攻めに参加しないでくださいとあれ程申したではありませんか。さがって後方援護だけをしていてください」
「そういうわけには行かないです。私だけ後ろで・・・。皆さんだけ戦わせて、守ってもらって何もしてい無いような感じがして嫌なんです」
「其れで宜しいのでス詠華さんは。私達は貴女の剣であり楯。それだけではありません、ワタクシ個人としては・・・、貴女がこれ以上怪我をさえるのが困ります。鹿嶋さんでしたって傷付いた詠華さんを目にすれば良い顔してくださいませんよ」
マネージャーの言葉に渋々従い後方へと戻って行く詠華。そして、仲間の治癒と敵を弱体化させる力を神気に乗せた歌声で響き渡らせていた。
詠華はどんな時でも肩身離さず持っていた物があった。それは武が最後の戦いで使っていた十握剣の柄。それは初め大地から美姫に手渡された物であり其れを照神が騙し取り、彼女から隙を見て手にした平潟から詠華に献上され廻ってきた物であった。度々、其れを媒体に詠華は十握剣を形作ろうとした事があったが一度たりとも刀身を見せた事が無い。それは本来の所有者しか扱えないという事実を彼女に証明していた。
刀身の無い柄を強く握り武に想いを馳せながら戦いを続ける詠華。そして、今日も町の覇権を賭けた戦いに勝利する。
統治下に納めた町に降り立った後の彼女の行動といえばそこに住む住人たちに歌を聞かせることと情報収集。何をたずねているのかと言うとこの世界での蟒蛇の存在についての事だった。そして、遂に一番聴きたかった事をその街で手に入れる。
それは蟒蛇の住む場所。奈落の都、根柢の正確な位置と距離について。更にその距離はここからそう遠くはない。遠くないといってもこの世界の住人の距離感と詠華等が感じるそれとは大きな開きがあった。だが、それでも確かな情報を得られたの事実だ。
その事を仲間全員に伝えてしばらくの間、詠華は馳せる気持ちを抑えながら蟒蛇との戦いに向けてその街で精気を養う。小さな孤島が幾多も点在する超大河を渡り、その向こうに奈落世界の大都市の一つ、根底がある大陸の海岸線が視界から眺められる距離まで辿り着いたのだった。そして・・・、養う。そして・・・。
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より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

のほほん異世界暮らし
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霖空
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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
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俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
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