上 下
25 / 30

第 弐十四 話 冥府の底へ、大切な仲間の為に

しおりを挟む
「エイちゃんのばカッ!エイちゃん天照大神なんでしょうっ!とってもとっても凄い神様なんでしょう?どうして、どうして・・・、どうしてタケちゃんが死ななくちゃならないのよっ!どうしてケイちゃんもユウちゃんも。ウグッ、ひぅクッ・・・、うぅ、ぅぅうわぁわぁーーーーーーん」
 照神は目の見えない瞳で妹の詠華を睨みながら涙を流していた。その場には彼女が良く知るものだけが集まっている。その場に居る全員の怪我は意識を取り戻した詠華によって癒されていた。
「ショウちゃんが、ショウちゃんがこんな風な」
「こんな風な結末になるって知っていたら別な方法があったって言うのかよ、詠華っ!甘ったれてんじゃねえよっあんな化け物、勝てたのが不思議なくらいだ。くだらねえ事で喧嘩すんじゃねエッ!武も香取も、勇輔の野郎もそんなんじゃ浮かばれねえよ・・・、クソッたれガァーーーッ」
「ダイ君。・・・・・・テル、貴女には本当にこうなる事が見えていたの?」
「武さんのお姉さん、そういうことは分かっていても言葉にしてはいけないようなんです。伊勢野先輩と同じ神眼を持つ勇輔お兄様は・・・・・・、多分こうなるとは思って居なかったようです。だから、こんな風な最後を迎えてしまったのは私達の力が足りなかったせい・・・」
「那波ッチ、何でそう思うんだ?」
「勇輔お兄様の見えていた未来では私とた」
「何言ってくれちゃってるのナナちゃん。貴女とタケちゃんがハッピー・ベル鳴らせる訳無いでしょう。そんな未来なんか・・・」
「ああぁぁあぁぁっ、もう喧嘩すんじゃねぇ。これ以上時化た面してても余計時化ちまうだけだ。帰ろうぜ、他の仲間達が待っている。児屋根かえ・・・・・・、そうだったな。俺は人足で帰っからよ。うんじゃ・・・」
 大地は親友の形見を手に独りその場から離れてゆく。

「賢治さん、男の子の犠牲、三人も出ちゃいましたね。いい子達だったのに・・・」
「何言ってやがんだ愛美、三人で済んだんだぞ、たった三人で。それにどれだけの人様が勝手におっちんで逝きやがったか・・・・・・、どうしたんだ賢治、そんな面しやがって?」
「いいえ何でもありません。愛美さん、賢治さん、私の力、しばらく封じないで置きます。ですから傍から離れないでくださいね」
「どうしたっていうんだ、いったい」
「王の命令ですよ、紘治さん。私達はそれに逆らっては駄目です」
「しゃあぁねぇなぁ~~~、その理由もそのうち分かるだろう。俺達も京に帰るとスッか。・・・、あの娘っ子たちはどうする?」
「私達が心配する必要はありません。直ぐに天国津のお仲間の迎えが来てくれますよ」
 その三人の鬼神は会話を交わし終えると八雲村から姿を晦ました。
 卜部賢治が言ったとおり彼等が去った後直ぐに詠華たちの前に平潟と琢磨、それと大地の妹である沙由梨が姿を見せていた。
「あれれれぇ?大地、うちの兄貴知りませんか?」
「さゆちゃん、ダイ君なら十数分前に歩いて先に帰ってしまいました」
「アッ、有難う御座います、美姫お姉さま。・・・、詠華先輩どうしたんですか?そんなふて腐れた顔しちゃって?先輩のファン減っちゃいますよ。・・・、それじゃ、アタシ大地を追いかけますから帰らせてもらいます」
 彼女等の心境など何も知らない沙由梨。兄の中に居る天国津の神気を追って大地の場所まで移動しようと思った沙由梨だがそれを捉えることが出来なかった。仕方がなく、彼の歩いていった方向を美姫に尋ねると神速移動でその道を辿ってゆく。
 彼女が去った後、詠華は戦いの総ての結末を琢磨に話していた。更にそれを終え、みんなして東京の地へと帰省していった。

~   ~   ~

 八岐蟒蛇を倒した多種の神々、それが再び地上から去った時、それと一緒に多くの日本全土を覆っていた瘴気も消え去っていた様だ。魑魅魍魎事件もこれにて終息を見せる。
 牧岡大地が島根から東京に戻ってから約一週間、中止されていた全国サッカー大会選抜地区予選が再開されていた。主将である武を欠いた靖華城サッカーチーム。戦力、士気共に大幅にダウンしていた彼のチーム。だが、チーム・メイトには主将不在の理由を適当にごまかして大地が武の代わりを務め大会に挑んでいた。蟒蛇と戦う前に大地は武と交わしていた約束、全国行きの切符を手にするために勇猛果敢に試合に臨んでいた。そして、九月の終わり、靖華城学院のサッカーチームはそれを手に入れる。

 大切な弟を、大事な年下の幼馴染みを、愛する男を同時に三人も失った鹿嶋美姫。彼女の毎日といえば、最後の最後に武達の助けに成れなかった事を悔やみ、そして失った悲しみのために陰で泣くばかり。大学もここ数週間通っていなかった。しかし、悲しみに打ち付けられ嘆いているのは彼女ばかりではない。祖父母の双樹も操子も同じだった。嘆く双樹はよく〝ワシ等の子等はどうして蟒蛇の犠牲にならねばならないんじゃ?これが我が血筋の運命だとでも言うのか?呪わしい事じゃ、クソッたれじゃよ、まったく〟と呟く様に口にしていた。

 伊勢野姉妹、姉の方である照神は経司の親が経営する病院で眼の手術を受けていた。何のためにそうしていたのか誰も知る事はない。だが、照神の見えるようになったその双眸に彼女が異性として愛しく思う武の姿も実は弟のように思っていた経司の姿も映ることはなかった。照神は真面目に学校にも出て大学の友達と交遊。その時の彼女の表情は笑顔だった。だが、それは嘘の笑顔、その下に隠れる本当の照神の顔はそれとはまったく正反対の物。
 彼女の双子の妹、詠華。現在持って歌姫として大地の父親が経営するプロダクションに所属しているが活動は彼女の我侭で休止中だった。武を失った事で不機嫌で不貞腐れる毎日の詠華。だけど、天照との使命は大国主である出雲琢磨、それと他の天国津たちと協力して確りと遂行していた。彼女、異性として好きになった彼との約束はちゃんと守っているようだった。

 諏訪那波。肉親である勇輔、恋人関係?になり始めた武を同時に失った彼女の今は?那波はまだ天津と争っていた頃に琢磨の命で東京に移動してきた時に与えられたマンションの部屋の隅でずっと泣いていた。数週間、陽の日差しを浴びていない。そして、今も泣いている。
「何いつまで泣いて腐ってるのかな?ななみ」
「・・・?!勇輔お兄様っ!どうして、どうして?」
「言っておくけど僕は幽霊じゃないからね。そんな格好してないで余所行きの準備して」
「説明してください、どうしてお兄様だけ生きているのですか?武さんも経司さんも・・・」
「良いから早く着替えてきてよ、那波。直ぐだよ、すぐっ!」
 那波は突然現れた勇輔の言葉に従ってパジャマ姿から外出用の服に着替えていた。
「準備できたね、さあ、武君たちを迎えに逝こう、黄泉の更に下の国へ」
「逝くって?どうやってどうやってその様なところに・・・、やっぱりお兄様死んでいるのですね?」
「ちがうって、ちゃんと僕は生きてるよ。ホラ見て見な、足だってついてるでしょ?僕は自分の命を使って大きな力を放ったって思っていたけど・・・、僕に降りていた驪刃威荒って神様がその代わりをしていてくれたんだ。だから僕は命を落とさずにすんだ」
「死んだ人に足がないなんってただの迷信です・・・・・・・・、お兄様の莫迦、バカ・・・ばか馬鹿バカァーーー、那波とっても心配してんですからね。うぐっ、ひくっ」
「ハイ、ハイ、御免なさい。泣くのは良いけどソンなのは武君に逢ってからにして。この地球にはね、どうしてなのか黄泉の国に通じる転穴てんけつがいっぱい有るみたいなんだ。ここ日本にもね。そして、奈落には黄泉の国から堕ちて行けるんだよ・・・、多分」
「私とお兄様でその様な場所に行って大丈夫なのですか?」
「武君を救いたくないのかい?もちろん経司君もだけど・・・、クックック、わかったみたいだね。それじゃ逝こうか。僕の神憑り多分地上よりも黄泉や奈落の方が強くなれると思うんだ。・・・、一つだけ忠告しておくよ、那波。帰ってこられるか解からないよ、奈落には本当に化け物の中の化け物、化け物ばかりらしいから。・・・それでも僕と一緒に逝く?」
「くどいです。経司さんも、武さんも助けるのはこの私、諏訪那波です。他の人には譲りません」
「それじゃ、他の友達たちにさき越されない様にさっさと向かおう」
 兄が生きていた事と那波が想う人を助ける事ができる可能性を知って彼女の顔に鋭気が再び宿る。そして、その兄妹は転穴と呼ばれる黄泉の国と繋がっている場所へと向かって行くのであった。

 大地は自宅の自室の寝台で横になっていた。TCDカメラに収められている画像データを眺めていた。彼が見ている物は二人の親友の間抜けな一面。だが、笑う事はない。その逆の表情を作る。
「ちくしょぉーーーっ、なんでだよ、なんで・・・、俺だけが残ってこんな良い奴等が先に逝っちまわねぇといけねぇんだっ!どうして・・・クソッたれぇーーーッ!」
〈大地様、いつまで不貞腐れているのですか?そんなんでしたら武様も経司様もお笑いになりますよ、きっと〉
「ハハハッ、やべえぇな。もう高天原に還っちまったはずの児屋根のヤツの声が聞えやがる。俺の気狂っちまったか」
〈大地様の気違いはもとからでしょう、ウフフフッ〉
「本当に児屋根?天児屋根なのか?チッ、言ってくれやがって!それよりもどうして?」
興台産霊神ははうえに大地様のもとへ再び下る事をゆるして頂いたのです。武様を、経司様を、そして僕の神友を救いに行きましょう、大地様〉
「死んだヤツを生き返らせようって言うのか?・・・、へえぇ~~~、何だそういうわけか。ウンじゃ逝くか!」
〈言葉が違いますよ、僕たちは死に逝くのではなくて迎えに行くのです。それではまた、大地様の中に入らせてもらいます〉
「今度は俺様の許可なく勝手に向こうに帰ることは許さねえからな」
〈はい、僕も大地様から離れる気は有りません。母上に勘当されてきたようなモノですから・・・〉
 大地は天児屋根の再降臨で真実を知る。肉体、器に宿ったままの魂が天上に居る神々の力で奈落に落とされる事、封印される事は死と同義ではないという事だった。封印を解いて武達を救い出そうとすればまた蟒蛇も共に出て来てしまうが黄泉の国を通り、奈落に向かってそこより連れ帰れば現世で再び生きる事が可能だという。
 誰にも気付かれないように裸足のまま自室の月明かりの射し込む窓から出ようとした時、
「大地、独りでどこへ行く積り?」
「どこだっていいだろう?よい子はさっさと寝ちまいな。まっ、サユサユはよい子じゃねえから、関係ねえだろうけど」
「天児屋根さん帰ってきたんでしょう?アタシの中には神大市姫が居るからそういうの解かるの。天児屋根さん、大地とどこへ行くつもり?」
〈武様たちをお迎えに上がります、奈落の都まで。ですが、沙由梨様は付いて来ては駄目ですよ。向こうはとても危険なところですから〉
「こやねっ!バカ正直に答えんじゃねえよっ」
「ソッ、そんな危険なところでアンタ独りでいく積りだったんだ。それじゃ、アタシも付いていく。武さんや経司さんにはいつもバカ兄貴が迷惑かけてるからね。こんな時にでもそのお礼しておかないと・・・」
「チッ、ついてクンのはいいけど・・・、戻ってきたとき今以上に不細工な顔になっても知んねえからな」
「言ってくれちゃって・・・」
 大地は妹に小さく笑って見せると彼女を連れ、黄泉の国へと繋がっているとある場所へと向かっていた。

 丁度その頃、平潟三保は歌姫活動の再開をお願いするために伊勢野詠華の自宅へ足を運んでいた。
「いらっしゃいませ、エイちゃんのマネージャーさん」
「照神さん、目のお具合はいかがですか?」
「大丈夫見たい、まだちょっと違和感あるけど・・・、エイちゃんに会いに来たんでしょう?」
「はい、そうなのですけど。詠華さんご在宅ですか・・・ってその様な聞き方をしなくても天照大神様の神気を感じるのですから・・・」
「エイちゃんね、さっき私と一緒にタクちゃんのお手伝いをして帰ってきた所なんです。でもそれが終わると・・・、いつも家でゴロゴロしちゃってブゥー、ブゥー泣いて豚さんしてますよ」
「私があって詠華さんを説得しましたら活動再開してくれるでしょうか?」
「取敢えず会って話してみれば良いじゃないですか・・・、結果は目に見えなくてもわかりますけど、私は・・・」
「月読様が降りています照神さんがその様な事を言われてしまったら」
「ショウちゃん、玄関でいつまでお話してるのですか・・・?!平潟マネージャーさん、帰って下さい。私、今歌手として活動再開する積りはないです。天照であるうちは・・・」
「詠華さん、そんなに鹿嶋さんのことが・・・、若し、若しもですよ。若しも鹿嶋さんが帰ってきましたら活動再開してくれますか?」
「平潟マネージャーさん、いくら私でも不可能な事、死んだ人、人間を生き返らせることなんって出来ないのに・・・、どのようにするというのですかっ!」
「天照大神様、第三十六代伊邪那岐尊様と伊邪那美命さまの黄泉帰りの話をご存知ですね?」
「・・・、はい。でも・・・それは・・・」
「第三十六代伊邪那岐の皇は二津の乱で后であらせられました伊邪那美様をお亡くしになり、生の理に逆らって皇后を黄泉の世界から連れ戻そうとその国に向かったのです。ですが黄泉には伊邪那美様はご存在されていませんでした。その方は火之迦倶槌の持つ封炎の力で奈落まで落とされてしまっていたのです。その場所まで追いかけて行った伊邪那岐様の見た伊邪那美様のお姿は・・・、言葉では言い難いほどに醜かったそうです。若し、鹿嶋さんや彼と一緒に堕ちて逝きました香取さんがその様な姿になっていても取り戻したいですか?」
「かまいません、私は武さんの」
「姿なんって関係ないの、私はいく、その場所にいくの。エイちゃんのマネージャーさん、とっても良いお話聞かせてもらって有難うなのです。エイちゃんは来なくて良いよ、私とミッキーだけでいくから」
「そうやって武さんの気を惹くお積りなのですね、ショウちゃんは?そんなコトさせません、私も行きます!」
「エイちゃんなんて来なくて良いですよぉ~~~、封陽戒陰」
 黄泉の国への行き方を知っている詠華は直ぐにその場所へ降りるための場所へ瞬転しようとしたが姉の照神に月読の力を使われ邪魔をされる。動けなくなった妹の隙を見て姉は親友の美姫の所へと向かっていた。
「月読様も酷い事をするものです。・・・、陰陽滅離。詠華さん、私もお供させていただきます。心配ですから・・・、照神さんを追いましょう。私達だけでは心許無いです。鬼神の方達のお力添えを戴きましょう」
「そうですね、あのときに交わしました約束も一緒に行ってしまいましょう」

 その二人は賢治たちが居る神社へと向かい彼に面会していた。
「私の鬼眼が告げたとおりになりましたね。私の力、お貸しいたします。では奈落より戻りますとき封印された隠忍達が地上に出たいと言って来ましたらお連れして宜しいのですね?」
「はい、それが約束ですから・・・、ですが、その約束どおり、その方達が人々や我々に害するのであれば・・・」
「それは分かっています。その時は私、温羅王の手でけじめはきっちりと付けさせて頂きます。それでは奈落へと参りましょう。紘治さん、愛美さん。私の御供をお願いいたします」
「奈落って所には一体どんな奴等が住んでんのか楽しみだぜ」
「紘治さん、何を嬉しそうな顔をしているのですか?その場所はとっても怖いところですよって祖先様達は言ってるのに・・・」
 
 詠華が京都に向かっている事、その姉は・・・
「今晩ワァ~~~、伊勢野照神っていいまぁ~~~すっ!ミッキー、いるんでしょぉ~~~?でてきてちょうだぁ~~~いっ!いい事教えに来て上げちゃったよぉ~~~」
「うるさいッ!今何時だと思ってるのテル!近所迷惑でしょ?大声出さない。一体何しに来たのですか、こんな時間に」
「言ったでしょ、いいこと教えにきたって・・・、そのままの格好でも私は良いんだけどォ~~~、ミッキー、タケちゃんを助けに行くの」
「武を助けに行く?いったいどこに・・・・・・、まさか、奈落に堕ちようって言うの?」
「別に嫌なら付いて来なくて良いですけどォ~~~行かないんだったら、私もう行っちゃうよ。時間無駄にしているとお邪魔さんが来ちゃうから」
「私、行きます。着替えてきますからちょっと待っていてください」
 美姫は快速の速さでパジャマから道着に身を包むと照神の前に姿を見せていた。
「ミッキーとっても勇ましいね。かっこいぃ~~~よっ、それじゃいこうか・・・」
 二人の女は顔を見合わせると黄泉の通じる扉がある場所へと向かった。
 
 諏訪兄妹、牧岡兄妹、伊勢野姉妹とその親友鹿嶋美姫、そして平潟三保、更に鬼神三人、卜部賢治、酒門紘治、神奈愛美、そして何故か里見清志狼が・・・、計十二人。総ての役者はそろった。そして、その者達は一同、同じ場所で顔をあわせお互いに驚きを見せた。
 黄泉の国、更にその下にあるという奈落へ旅行く者達が集まった場所とは富士の樹海の真っ只中、葦原あしはらと言う所。
「どうして里美清志狼さんが?」
「天抜戸の頼みだ。黄泉や奈落には焼き物するのにいい材料ものが有るらしい。故、大きな力になることは出来ぬが俺も貴方達に同行させて頂く」
「力ネェンだったら帰んな。邪魔だぜ」
「奈落は広大無限だ。貴方達で探し人を探せるか?貴方たちより俺の鼻は比べる事が馬鹿らしいくらい利くのだぞ」
「清志狼さん、その力、私達に貸してください」
 詠華の言葉の後、その場に居る幾人かは黄泉へ行く為の儀式を執り行い始めた。
 事代主と天児屋根の言葉の力で黄泉に通じる門の封印を解除し、月読の持つ鍵でその門を開き、天照の声でその国に足を入れる許可をその国の主に伝えていた。入降にゅうこうの許しを得た一行は道なき道、暗闇の中を突き進む。どのくらいの時が刻まれたのかなど彼等に知る事は出来ない。しかし、どのくらい経った頃であろうか?完全の闇から少し明るい闇に変わっていた。例えるなら月夜が綺麗に浮かぶ夜道のような明るさ。
 その場で一行が目にした光景は梔子くちなしが先の見えないくらい広がる園だった。更にその場には柩らしき物が輻射状ふくしゃじょう、画一に並んでいた。その空間をしばらく皆が眺めていると人影が差し、その者から言葉を投げかけられていた。
「そなたが第三百六十九代伊邪那岐尊と伊邪那美命の子、天照の意志を宿した者であらせられるな?」
「はい、私は天照を宿した伊勢野詠華と申します。先ほどもお伝えしましたが奈落に降ります許可を戴きたいのです。宜しくお願いいたします、菊理姫神様。どうか・・・」
「それは構わぬのですが、生きてここに戻り保証が無くともそなた等はよいと申すのですか?奈落でその魂を収める現世での肉体うつわ穢せ失えば二度とこちらへも現世へも還れぬのですよ?それでも向かうと言うのですか?」
「なに言ってんだっ!そんな覚悟が無かったらこんなとこまで態々来るか!」
「・・・、こんなに菊理姫が美しい神様だったなんって・・・、僕もっとババアかと・・・、でも僕たちの決心は大地君の頭より硬いですよ」
「そなたよ、失礼な事と面白い事を言う。そうですか・・・・・・、若しそなたらが無事、ワタクシのところまでそなた等の探す魂と肉体を無限に広がる奈落から探り当て戻ってくる事が出来たのなら・・・」
「戻ってきらら何をしてくれるというのですか?」
「決まってるのナナちゃん、菊理姫の女神様は私達に玉手箱呉れてドロンと御爺ちゃんと御婆ちゃんに・・・」
「何バカいってんのテルは・・・、こんなところでグズグズしている場合ではないんです」
「この国から奈落へと続く道はこの者達に案内させましょう。こちらへ参られよ、神漏岐かむろき神漏美かむろみ
 黄泉の国の管理者である菊理姫が二つの従者を呼び出す。すると朱と藍の二つの揺らめく炎がその神の両脇に姿を見せた。
「奈落に行きたいと口にする方々、我々が辿る道に付いてきてください。我々が引く火の道標から漏れてはなりません。それから一歩でも外れればここで眠る者達の怒りを買い、その者の代わりにそなた方が柩の中で共に眠る事になるでしょう・・・」
 一行はその二つの炎の忠告を守り奈落への道を歩み始める。果たして、彼等彼女らが目にする奈落とは一体どのような所なのだろうか?それは辿り着くまで解かるはずが無い。
しおりを挟む

処理中です...