転 神 ~ 人類の系譜・日本神話 編 ~

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第 弐十 話 甦る禍つ神の皇

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 緩やかに安穏な日々を送り始めた武達の知らない所でそれは起こっていた。
 天国津神や鬼神達によって命の火を消された筈の蜘蛛神、高位の者達。その炎は完全には消失することなく地表の下で小さく燻ぶっていた。蜘蛛神達との決戦の地、京都の嵐山。
 その場所に行者風の姿をした一人の老人が現れた。其の者は暫し、厳しい視線で周囲を見回していた。目的の何かを察知した老いし男、右手を拝むように顔下まで上げ、左手で握る錫杖棍を巧みに頭上で旋回させた後、それを力強く、地面へと突き刺した。
「ここか・・・、アキヒサ、みきひさよ・・・・・・、フッ、いつまで土に還っている積りじゃ?ワシは異邦の地より帰ってきたのじゃぞ、迎えよ。姿を見せぬかっ!ぬしらが天津、国津の力で倒される訳がなかろうて。・・・、さあァ、その姿を見せぬか、彌蛇裸あみだらよ、志多羅しだらよ。ワシは遂に見つけたのじゃぞぉっ!我等が神皇の命と言うべきこれを」
 嵐山の地に現れたその老人はそう口にすると何かを地面につきたてた。そして、その行動の後に一陣の突風が吹き抜けるとその男の前に死んだはずの安倍陽久と賀茂幹久が姿を現したのだった。
「役小角、遂に見つけたかそれを!フフフフフッァアァアァッハッハッハッハッハ。見つけたか?やっと見つけおったか」
「これでとうとう僕等の計画が・・・、失った多くの同胞達が悲願した僕等の世界がやってくるのですね?僕らが態とあの者達に破れた事も知らずに・・・・・・。僕等の太祖の復活はもう無いと思っているあの者達の驚く顔が手にとるように分かる」
「小角、一体それをどこで見つけたというのだ?この地をすべて探したというのに・・・」
「そんなコトをしても見つかるはずが無いのじゃ。これはこの日本の南も南、海のど真ん中、海中深くの海の神ぬしの腹ン中にあったわ。其奴を倒すのに一年も掛かったぞ。幾度となく死にかけながらな。・・・、さあ、行くぞ。ワシ等が太祖の眠るその場所へ」
 その三人が向かった場所は旧世の時代に神魂かもす神社と呼ばれた処。生物が住まないその地域一帯、荒れ果てた神社の境内、崩れ落ちていている建物群。
 小角達の一行は殆ど倒壊していた本殿を消し去るとその下にあった大きな穴倉の中に降り立っていた。
 人一人が通るのには十分な広さの岩穴。所々、人の手が加わった様な形跡が有るその穴倉を下って突き進むと巨大な天然洞へと達する。
 群生するヒカリゴケ、岩窟の何処からか差し込む僅かな光を浴び、原糸体が空間内に其の受けた光を反射させ仄かに三人の視界内に洞窟の背景を映らせていた。
 陽久達は目に見える情景の圧巻さ等に目も向けず、唯只管、更にその中を奥に、奥にへと進行して行く。その歩みはゆっくりだった、何かをまるで楽しむように。
 洞窟の最終地点に達するとそこには・・・!?
「貴様ッ!何故ここに」
「フんッ、この場所に張っていて正解のようだ。貴様ら蜘蛛がそう易々とこれの復活を諦める筈が無いのだからな。仕方がなく、姉上の命でここに居たのだよ。何奴かがそれを、俺が姉上に献上してやった筈のそれを持ってくるのを待ってな」
「クッ、八坂ッ!そうではなかったな。あの時の戦いで姿を見せぬと思ったらこのような所に身を潜めていたとは・・・、我とした事がぬかったわ。武甕槌などより、遥かにも力強い其方が嵐山に現れぬと思ったら。ぇええぇいっ、忌々しい奴よ」
「その男とはワシ、小角が相手をしてくれよう。二人はワシ等が太祖の復活の準備を急げ」
「クソ爺が粋がるんじゃねぇっ!俺に力で勝てると思ってんのか!愚かな。この俺に戦いを挑んだ事を冥府の都で悔やめよ」
「言ってくれるワっ、確かに素盞鳴よ、主の力はワシ等よりは強かろう、遥かにな。だが、力ではなかったらワシは主を凌ぐぞ。シン、ゼンッヌヲゥ、セッツルゥン、イヤァ、ワンヌ、ガァウワ」
 役小角と呼ばれる老人は手を組み印を作り不可思議な言葉を唱え始めていた。
「念仏でも唱えているのか?姉上と大国主がいる今、仏羅譜摩の力などこの国では無意味だぞ。それが唱え終わる前に死に逝け」
 素盞鳴尊はその場から動かずして洞窟が落盤しない程度の神気を込めた波動球を三つ作り蜘蛛神三体に投げつけていた。しかし、余りにも力を抑え過ぎた為それらには掠り傷程度しかつけることが出来なかった。
「チぃーーーッ俺独りだけでここを動かずして戦うのは無理か・・・」
 天国津の中で最も強大な力を持つその神、それがその場を動く事が出来ない理由がある。それはその下には八岐蟒蛇の封印を解き放つ鍵穴が有るからだ。そして、それを開く鍵を持っているの者は陽久。互いに瞬間的に移動できる者達。素盞鳴尊がそれを使って陽久の前に出れば、陽久はその動きを予測し素盞鳴尊から逃れ、手に持つ鍵を封印の穴に突き刺すであろう事は素盞鳴尊にとって簡単に予想出来うることであった。
 素盞鳴尊の化身、八坂はたいした力も使えずにただ、三人を睨む事しか出来なかった。
「クゥカァッカッカッカッか、ワシのこの力、仏の物ではないぞ・・・、ワシ等の勝ちじゃな。ワシと共に消えようぞ、素盞鳴よぉーーーっ!」
「ウッ、ぐワァーーーーーーッ!姉うえぇえぇえええぇぇえぇぇえぇえぇぇえっ」
 役小角のなんらかしらの力によりその者と一緒に素盞鳴尊の姿はどこかに消え失せていた。そして、それを見てほくそ笑む陽久と幹久。安倍陽久は勝ち誇ったようにゆっくりと今まで素盞鳴尊が居た場所へ歩み寄り手にする彼の身長よりも長い真っ赤な紅蓮に輝く剣をそこに突き立てた。皇の復活。彼等の念願が今まさに叶おうとしてしまう。今、陽久達の見せる表情は嘸かし悦に満ち居るものであろう。
「さぁ~~~、我が太祖、八岐蟒蛇様よ。我々の前にその神々こうごうたる姿とその甚大なるお力を示してくれられよ」
「僕らに太祖の力の恩恵を・・・、この国すべての瘴気を取り込みそれを太祖、蟒蛇様の力に」
 二人の言葉に呼応するように数回洞窟内が少し揺らぐ、その度に頭上からは小さな石や土砂が降り注いでいた。
『吾が名は・・・八州神乃邑智やすがみのおおち・・・・・・・・・、他者は吾を八岐蟒蛇と呼ぶ。吾が心臓を得てワレは悠久の時、幾星霜の刻みを隔て再び奈落の底から甦りし、この日本せかいまことの支配者・・・、神皇邑智なり。吾等が子、蜘蛛よ、獣よ。己が摂理の侭に生きよ。この地に巣食う人ども新たな命よ、吾が意思聞えしならばが本来の姿に還りその摂理欲情の儘に走り至れ。吾が意思に逆らう者等、吾の怒りを受け、吾が大地の中に還れ血肉となれ。吾を犯せし愚かな天上人てんじょうびと(天国津)。その愚かさ吾が力を持って知れ。我を堕せし奈落の世界へとワレに代わりて導かれるがよい・・・、汝等が産みし人間等と共に・・・・・・サア、吾が復活を祝え、ワレが甦りを喜べ吾が海よ、大地よ、空よ。木々草花よ、川よ、山よ。すべての自然よ。われの昇臨に歓喜せよ』
 陽久の手によって復活を遂げた八州神乃邑智、その自らを神皇と名乗るそれは日本全体の禍々しく空気を震わすようにその者がいだく意思を伝えていた。
「我が子、彌蛇裸よ、志多羅よ。ワレが真にこの現世に姿を戻すには汝等の力が必要だ。ワレの中に還られよ、六王りくおうと共に・・・」
「我等が命は皇の為に・・・」
「神皇の願いは僕等の願い。土に眠りし六の王よ、再び僕等の太祖の御前に・・・」
 葉月、陰暦の八月に八岐大蛇の復活により日本全土が揺らぐ。そして・・・。
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