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第 拾壱 話 闘将の血を受け継ぎし者
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俺達が神と崇める国津神や天津神、それ以外にも人の常識を逸した力を有した人間達がいる事を知ってしまう。しかし、その大きな力を持つ者はそれを我欲に行使するんじゃなくて他者を護るために揮っているようだった。
人を守護するのは別に神様だけじゃないって事を知った。そして、それを知ったことで神様、って一体どんな存在を言うのだろうかと疑問に感じ始める切っ掛けでもあったんだ。
― 江戸川高校 ―
その高校の生徒会室で生徒会役員とそうでない数名の者達が普通に椅子に座っていたり、室内をうろついていたり、机の上に腰を据えていたりしていた。
「みんな、これからどうしようか?今のままなら僕たちだけでも内の生徒たちやこの地域くらいなら化け物から護っていけるけど・・・、はぁ~~~、僕もみんなのような力があればなぁ」
「会長、そんなコト言うな。今は俺達が頑張るからサッ!」
「そうよ、私達の力を見出してくれたの将徳君じゃない」
「平、心配すんなってよ。僕たち、サイキッカー江戸川生徒会組があんな奴等の自由にゃさせないさ」
「あたし、生徒会の役員じゃないけど・・・」
「生徒会役員、役員じゃない、ってそんなコトどうでもいいさ」
「どうしようもない時は噂の神様に神頼みしようぜぇ~~~」
「ハァ~~~、噂の神様ねぇ。そうしたいけど・・・、やっぱり僕もみんなと同じように闘える力がほしいよ」
そう言葉にする役員会長の名は平将徳(たいら・まさのり)、ここ東京府新中央区千代田にある江戸川高校三年生の生徒で、全校生徒と多くの教師からも人望の厚い青年。三年生だというのにも係わらず、いまだ生徒会長に推される程の人気者。
将徳のいる地域一帯は彼が集めた特殊な力を持つ同士で化け物から治安維持を図っていた。
天津神等が張る結界が完全な物でないため、いまだに瘴気に取り付かれたモノ達は少なからず蔓延っているし、結界の効力など効かない妖怪などはまだまだ夜な夜なその神等の目の届かないところで人に危害を加えていた。
「平会長、早く今日の巡回経路、立てて行動しようぜ!」
執行員の一人が言葉に出して将徳に伝えると彼は器用にディジタル・ツールを操作し、立体映像白板に彼等の学校を中心とした地図を映し出した。それから、どれくらいの組を作り、何人構成で、どのように巡回するか的確に、そして素早くその場にいる全員に言い渡し、決定付ける。
「各自、気をつけて行動するように以上。よっし、みんな解散!」
将徳の言葉に生徒会役員とそうでない生徒は彼から言われた組み分け編成にしたがって部屋の外へと移動して行く。そんな彼等彼女等を羨ましそうな視線で眺めながら見送る生徒会長。
「将徳君、私達は帰りましょう。・・・・・・・・・、何を心配そうな顔しているの?大丈夫、ちゃんと私が将徳君のコト、護ってあげるから」
「有難う・・・、帰りちょっと寄り道したいところ僕あるんだけど、そこも付き合ってくれる?」
「モチロンよ。私の役目は今のところ、私達の頭脳の要、将徳君の護衛だから」
将徳は同じ生徒役員副会長の女の子と一緒に学校を後にする。彼は護衛を伴って向かった先はどこかの墓地。
将徳は同じ生徒役員副会長の女子、杉田若菜と一緒に学校を後にする。
時は夕暮れ、ひっそりと静まった霊園。
彼等以外、人気はない。彼岸などの時期でもない限り、墓地に賑わいなど訪れる事などない。薄暗い時間の墓地。低木や高木など周囲が囲まれているでもなく、鬱蒼とした気配はないが普通の人であれば、余り訪れたくない時間だ。
だが、彼、平将徳は特に怯える風でもなく普段と変わらない表情だった。
墓苑の入り口で水を張った桶と其の中に柄杓を挿し、墓参りに必要な物を揃える。
まばらな大きさで敷かれた石畳を渉り、彼の目指す墓石へと向かった。
場所に到着すると先ず、墓石をぬらした布で拭き、石の頭から柄杓ですくった水を丁寧に掛けていた。それが終わり将徳は花と線香を上げ、拝む動作をする。同伴していた若菜も彼に倣って同じ事をしていた。そして、それが終わった頃に彼女の方から彼に話を掛けていた。
「ねぇ、将徳君?ここのお墓って」
「ご先祖様のお墓。・・・、それと若菜ちゃんも知っているはずだけど僕の兄さんも・・・」
「あぁっ、ごめんなさい。・・・、そうだったの義孝さんがこの下に・・・」
将徳の三つ上の兄、義孝(よしたか)は新中央区で妖怪に命を奪われた最初の犠牲者だった。そのことがあって将徳はあやかしから人々を護る組織の結成を決意したのだ。
「あのね、聞いて良いかなぁ?将徳君のご先祖様って、どのくらい昔で、どんな人だったの?」
「歴史の教科書にも載っている人物だって父親はいうけど・・・、それが本当かどうか?でもそれが本当で僕にもそのくらいの力があったらなぁ。・・・・・・、ハァ~~~ッ。ここにいてもしょうがない、帰ろうか?若菜ちゃん」
彼が彼女にそう言葉を掛けて、墓の前から背を向けようとした時のことだった。
「えぇっ?この感じはなに・・・、将徳君、私の裏に下がって!」と言って、彼女は将徳の前に出ると、臨戦態勢に入っていた。そして、若菜と呼ばれる女の子が彼にそう口走った時、二人の前に淡い黄緑色の炎が現れ、それが次第に形を作り、人のような姿を見せたのだ。
その炎は人型を作ってもゆらゆらと揺らめいていた。
「我を敬いし、我の子孫よ。我が討たれて千と数百年・・・、いまだこの国に争いは絶えんようだな。我が子孫よ。お主は時の平穏を望むか?そうするための力を欲するか?」
「ええぇえぇ?僕の事を言っているのか?」
「そうだ・・・、我等が血に宿る力を欲するか、お主は」
「僕の血に宿る力?でもそうすればみんなみたいに・・・、欲しい!僕は力を手に入れたい」
「そうか・・・、ならその力を目覚めさせよ。この刀と共に」
二人の目の前に現れた炎の人影は言術の様は物を呟き始め、炎の人影と将徳の間に闇をも吸い込む空間の亀裂が生じると一振りの刀がその裂け目からゆっくりと彼等との間に出現した。
「さあ、これを手にするがよい」
「アナタはいったい誰なんですか?そして僕に流れる血って?」
将徳は宙に浮く刀を手にしながらそう目の前の不可思議な炎に問いかけていた。
「我が名はマサカド、人と人非ざるモノの血を受け継ぎし人と魔の間、人間。我が子孫よ、この現世で我と同じ過ちを繰り返すなかれ」
マサカドと名乗るその炎の人影は最後にそう言葉にすると二人の前から消え去ってゆく。
「・・・、私達幻でも見ていたの?」
「そんなことないよ、若菜ちゃん。ほら見てみなよ、僕の手にはご先祖様が授けてくれたこれがあるじゃないか」
将徳は刀を鞘から少し抜き出して、それを彼女に見せた。さらにそれを完全に抜き出した時、彼の中に何か、先祖の記憶のようなものが流れ込んでくる。
「僕は・・・、僕は人であって人じゃないみたいだね。でも・・・、僕が人じゃなくてもみんなを護れる力があるのならそれでも構わない」
「何、将徳君独りでそんな事を言っているのよ。私は異能力って力を持っているのよ、他の人たちから見たら十分人じゃないわよ。それにサイキッカー江戸川生徒会組のみんなだって」
「・・・、若菜ちゃん、そのネーミングやめてぇ~~~、なんか力が抜けちゃうよ」
「駄目だよ、将徳君。多数決してみんなで決めたんだからこの名前」
「ハイ、ハイそうでしたね。やれやれ、まったくみんなはどういうセンスをしているのだか」
「あぁ~~~、なんだか将徳君不満そぉ~~~」
「名前って言うのは大事なんだよ、色々な意味で・・・、でも、まあいいや、力を手に入れた事でみんなと一緒に戦えるし、これから先陣切ってみんなの指導が出来るぞ、僕が持つ力がどれ程のものなのかわからないけどね」
「エェエ~~~ッ、それじゃァ~、これからの私の役目ハァ?」
「僕のお供はこれからも変わらないよ。ただ一緒に戦ってもらう事になるけどね」
「ハイ、解かりました。それではさっそく妖怪退治に出かけましょう!」
彼女の言葉で二人はそこから動き出す。
それから、若菜の持つ探知能力のようなモノであやかしの探索、近場にそれがいる事を知るとそちらに向かって行く。
残念ながら武達の様に瞬間移動や神速で移動できる訳ではないからそれなりに時間は掛かる。しかし、それでもチカラを手に入れた将徳は常人の数倍の速さで走って現場へと急行していた。
将徳だけが若菜の言った場所に先に到着すると彼は刀を鞘から取り出して、戦闘体勢を取ると、
「・・・・・・、闘い方が解かる。そうか、相手にも色々な種類が・・・、間違って人に憑依しているのを殺さない様にしないとね・・・、だけど、そんなこと僕に出来るのだろうか?」
将徳の来た場所には瘴気に取り付かれた人や物が十数体とそれを操る妖怪三体が存在していた。
「高が、人如きが俺らに勝てると思うなよ」
「残念だけど、ボク人じゃないみたい。そこの人たちに取り憑かせた何かを除いてくれたら無理に貴方を倒そうとは思わないけど、どうする?」
「ザレゴってんじゃねぇよ!手前らの言うことなんか聞くか、者共っ、殺っちまいな」
妖怪の一人がそう言うとそれの周りにいた魍魎が将徳に襲い掛かってゆく。
「僕の中に流れる血よ、先祖将門よ。どうかその力の加護を!でやぁーーーッ!」
彼は相手に向かって突っ込んで行き、頭に描かれる戦いの動きに従って無意識に込めていた闘氣の刀を振っていた。
少ない動作、僅かばかりの時間で魍魎に取り付いていた瘴気だけを切り祓って行く。
「クッ、やるな。だがそんなもの倒したところで俺達は倒せまい!」
使役していたモノ達がすべて倒されてしまった妖怪の一人が将徳に向かってそう口走り三体同時に彼に攻撃を仕掛けていた。だが、・・・。
「つっ、つよい・・・、オマエ・・・、若しかして、あ・・・、つ神のやつら・・・か」
斬り倒された三体のうち一体が将徳に向かって言葉を掛けていた。それが言い終わると息を絶えて逝く。
「神様?残念だけど、ボク神様じゃないよ・・・、でも地獄でその業を償いなさい」
彼は言葉と一緒に刀を鞘に収めていた。
「はぁ、はあ、はぁ~、将徳クゥ~~~ンッ!ハァア~、私を置いて先に行っちゃうなんて酷いですよ・・・?スゥ~~~~~~、ハァ~~~、あら、もう片付いてしまったんですか」
「若しかして若菜ちゃん、走って追いかけてきたの?」
「そうですよ。だって何も言わないで急に将徳君、走り出してしまうんだもん」
「はははっ、ごめんね。そうそう、結構僕って強いみたい。・・・???まさか、あの人達が神様?」
将徳がそう言葉にした時、瘴気を辿ってきた武達と顔を合わせ、
「おまえら無事・・・、誰だ一体こんなことした奴は」
「武、こいつ等、あれが憑いていたみたいだけど命には別状ないみたいだぜ」
「こっちもそのようだな」
「そうか・・・、よかったぜ。若しかして、お前たち二人がこれを?」
上空から降り立った経司と大地はその場に倒れている人々の生死を確認し、そう言葉に出していた。そして、それに答える武だった。
「エッ、私は違います。将徳君が・・・」
「僕がやったんだけど、何か不味かったのかい?アッ、それとボク平将徳、彼女は杉田若菜ちゃん」
「俺は武、鹿嶋武・・・、どう見てもお前、人にしか・・・、武甕槌何かわかるか?」
〈天津とも国津とも違う・・・、人の様にしか感じられぬが〉
〈武甕槌様、もしや祀ろわぬ神々の血を受け継いだモノでは〉
〈天児屋根殿よ、若しそうであれば、あの特有な気の流れを持っているはずです〉
「経津主、そういった物は何代、それを重ねても変化しないものなのか?」
〈天津や国津は変わることはありませんが土着の者達はどうであったのかは私には分かりません〉
「そんなこたぁ~~~、どうだって言いだろ?武、香取。ここでの俺達の仕事がなくなった、ってコト。こんなとこさっさとオサラバして次に行こうぜ」
「そうだ、牧岡の言う通り。行こうか、武」
「えっ、あっああ~、うん、わかったぜ。平って名前だったよな?余り首突っ込んで命落とすなよ」
武達はそう言葉を残し、将徳と若菜がいた場所から飛び去ってゆく。
「あぁ~~~っ、待って!鹿嶋君・・・、ハァ~~~、行っちゃったよ。聞きたいことあったのに」
「将徳君、私の能力で探して追いかけてみる?」
「無理だろう、三人とも飛んで行ってしまったんだよ。しかも、一瞬の裡に・・・、彼等にまた会えるかな?」
「どうだろうね?でも会えるかもしれないよ、将徳君」
「若菜ちゃん、それって予知能力?」
「私にそんな便利な能力ないよ。・・・、なんていうのかなぁ~~~、女の勘、って物ですかね」
「女の子の勘ほど信憑性のないものは・・・」
「アァ~~~、失礼ね。私の勘って高い割合で当たるのに」
若菜は不満そうな顔を作ると将徳は苦笑いで答えてからその場から動き出し、倒れている人を起し始めた。
若菜の勘、それとも本当は予知能力があってもそれに気付かないだけなのか?将徳達と武達は三日と経たなくしてその顔を合わせる事になった。
それはいつものように武達が上空からあやかしを探していたときだった。
「おい、あれってこの前の奴じゃないか?」
「本当だ。あの時、首突っ込むなって言ったのに・・・、数が多い大地、経司、助けに行こう」
「待て・・・、少し様子を見よう、どれほどの力を持ったものなのか」
「香取がそう言うんなら俺は別のそれでもいいけどさぁ、武は?」
「お前ら二人がそう言うなら・・・、その代わり危ないって思ったら直ぐ助けるぞ。・・・、武甕槌それでいいか?」
〈汝の望むままに行動せよ〉
「武、いつまでオマエは内に宿る者の確認を取っている。彼等は俺達の意志に力を貸してくれる存在。そして俺達はその力の継承者。自分がそう思うなら聞かずして、そうしろ」
「でも・・・」
〈経司の申すとおりだ。武よ、私は汝であって汝は私、武の思いは私の思いであって、その逆も然り。そうである事を忘れるな〉
空中で三人がそんな会話をしていると将徳とその仲間達があやかしに戦いを挑み始めていた。
人に取り憑いた魍魎の数、約九十、妖怪の数約三十。それに対してサイキッカー江戸川生徒会組の旗を掲げる一行は将徳を筆頭に彼を含めて男女合わせて十二人。この前彼と一緒にいた若菜と言う女子も交ざっていた。
誰かが誰かに攻撃を加えたあたりから経司は兄から譲り受けた高価そうな腕時計で時間を計り始めていた。決着がつくのに約十五分、人の方に死傷者なし。だが、少なからず怪我を負っている者達が数名いた。
「・・・、平将徳って奴かなり強いぜ。俺達に比べれば非力だけど・・・」
「そうなだ、殆どはあの男一人で倒したようなもの」
「中々やるじゃないか、あいつら・・・、ちょっとだけ興味、湧いてきた。降りて話してみよう」
大地はそう言葉にすると二人の確認を取らず、地上へと降って行く。
「将徳君、まさのりクン、上見てこの前の三人よ!」
「あのときの人達!若菜ちゃん、凄いよ、また会えた。やった僕って運がいいのかな?」
「傍観させてもらっていたが中々のお手並みだ」
「エッと、この前キミは名乗ってくれなかったね?名前はなんって言うんですか」
「おい、平っ!こいつら一体何もんなんだ?」
「俺達のコト知りたいっていうのか?だったらそっちから教えるのが礼儀だろう」
〈大地様からその様なお言葉を聞けますとは・・・、少しはご成長なされたのですね〉
「うっせよ、児屋根」
「僕たちは江戸川高校の・・・」
「オレ達、サイキッカー江戸川生徒会組だぁっ!覚えておけ」
将徳が普通に自己紹介の言葉を述べようとしたが他の仲間が自信満々にそう声にしていた。
「だっせぇ~~~、ネーミング。いかれてんじゃねぇの、お前ら?」
〈あわわゎ、大地様、いくらなんでもそれは失礼ですよ〉
「やっぱり、・・・、やっぱりそう思いますよね・・・」
「はぁ~~~、平会長まで・・・、それではアナタ様たちは何とおっしゃるのですか?」
「ウン名の決まってんだろう。この俺様、天児屋根と牧岡大地、それと奇々怪々な仲間達って奴さ」
「何を莫迦な事を言っている牧岡?経津主の神‐香取経司とその下僕共」
「大地ならともかく、経司までそんなこと口にしやがって二人していい加減な事を言うな。それと誰が〝下僕〟だよ、まったく」
「俺達に呼び名なんってないぜ。強いて言えば神社で祭っている神様、天津神って所か?」
「そうなんだ、やっぱり君達が噂の神様たち・・・」
「う・わ・さの神様?なんだよそれ」
武が訝しげな表情を作ると将徳はその言葉の説明をし始めた。
人々があやかしに襲われし時、天上より、現れし者。それらを救いて、また天に帰って行く。武達の事がそんな感じに東京府近隣に伝わり広まっていたようだった。
そのように噂が広まっていても報道や記事に取り上げられていない理由は時の首相、思兼の継承者がそれを表に出る事を抑止しているからだ。
「フゥ~~~ん、俺達がそうな風にか?全然知らなかったぜ」
「そんなことはどうでもいい、さっきも言ったが俺は香取経司。平さん、あなた達は一体?」
「ボクは人とキシンと呼ばれた人とは違う生き物との間に生まれた子の子孫らしいんだ。僕以外のメンバーは全員、特殊な力を持った生徒たち。超能力って言って良いのか、わからないけど・・・」
〈キシン・・・、鬼神ですってぇ~~~、経津主様、武甕槌様。これは大変なことですよ〉
「何を慌てている、児屋根っち?今更ドタバタしてもしょうがないだろう。お前らが取り逃した連中の末裔なんかじゃないのか?」
「フフフッ、牧岡にしては中々の推測だな」
「大地も経司もそんなこと言っている場合じゃないだろうが・・・、こいつ等のこと詠華さんに報告に行こうぜ」
「えぇ~~~、もういかれてしまうんですか?もっと聞きたいことがあるのに、僕は」
「相棒がそう言ってる事だし、帰るとスッか?ウンじゃな江戸組の連中」
「あぁあ~~~、私達の名前勝手に短くされちゃったよぉ」
「そんな名前、どうでもいいぜ。だけど、力を過信して、命を落とすなよ。またいずれどこかで・・・」
武達はそれぞれ将徳に言葉を言ってからその場から姿を消す。
「また、三人とも行っちゃったね、将徳君」
「ハァ~~~、今回も彼等がどんな力を持っているのか見ることは出来なかったのか・・・、物凄く残念な気分だよ。出来ればボク達に協力してもらいたかったのに」
将徳が最後その様な言葉を口にしたなどと知らずに武達は天津神主神のいる場所へと向かってた
移動した所は宮城県仙台市にある演劇場。現在、その建物内で詠華のライヴが行われていた。彼女の付き人兼天津神一員の平潟に控え室まで通され、そこで公演が終わるのを待っていた。
「アッ、武さん!こんな場所まで歌を聴きに来てくださったのですか?私、すごくうれしいです」
「何を言ってるんすか、詠華さん?報告したいことがあってここまで来ただけです」
「そうですよね、武さんが私のことなんかを好きになって下さって、こんな所にまで態々、来てくれるはずありませんものね。・・・、どうせショウちゃんの彼氏ですものね、グスン」
「何でそうなるんですかまったく・・・、これが俺達の主神だなんて・・・、頭痛くなってきた。経司、大地、詠華さんに説明、頼むぜ。オレ、外で冷たい風に当たって頭冷やしてくる」
「駄目だ、報告はお前の仕事だろう。なっ、香取?」
「牧岡の言うとおりだ。武、ちゃんとさっきの事を報告しろ」
武は二人に言われて渋々と不機嫌そうにしている詠華にここへ来た理由を語り始める。
「詠華さん、可愛らしくそんな顔しないでくださいよ。俺、別に詠華さんのこと嫌いってコトないっすからいじけないで下さいっす・・・」
そう彼が言葉にすると彼女は笑みをこぼし、聞く体勢に入っていた。そんな詠華を見た武は小さな溜息をついてから将徳の事を彼女に話していた。
「たいら・・・、まさのりさん?平将徳さん・・・、武さん、その方の像を私の中に映してくれますか?」
「・・・、こんな感じだったと思うぜ」
「はぁ~~~、まさか将徳君が私達と相反する者達の血を受け継いでいただなんて」
「それじゃ、あいつらは俺達の敵って事になるのか?それとその人物の事を知っているみたいな感じっすね、伊勢野さん」
「大地さんが言うとおりそうなりますけど・・・、将徳君のお母様と私のお父様はご姉弟の関係にあるのです」
「それって、従兄妹同士って奴だよな?これ以上血の繋がったもの同士で争おうだ、なんって絶対間違ってるぜ!」
「分かっています、武さん。・・・、このことは一度全員を集めてお話し合いをしましょう」
「そうだな、彼女の言うとおりみんなで集まってから話した方が無難だ」
「報告終わった事だし、仕事に戻ろうぜ」
「もう、行ってしまわれるのですか・・・、若し・・・、その・・・、よろしければ・・・」
その後、武は詠華に一緒に東京まで彼女の事務所の者達と車で帰りましょうなどと言われたが、武は即行で拒否の言葉を出して、経司達と共に彼女の前から姿を晦ませたのだった。
彼等が向かった場所は岩手県の南部富士辺りの場所。その地域一体の魍魎達や妖怪をあらかた締め上げてから彼等の住む東京まで戻ってから、解散していた。
「なあ、武甕槌?神様って一体なんなんだ?」
〈汝らの言葉の定義によれば〝人を超越した威力、能力を持った人智を越えた者達〟のようだな〉
「それじゃっ、あの平将徳ってやつもやっぱり、人以上の力を持っているから神様なのか?」
〈超越という尺度がどの程度のものなのか・・・、私には推し量ることは出来ぬがあの者が鬼神の末裔なのであれば・・・、それは矢張り神か〉
「鬼神って一体なんだ?」
〈我々と違う能力を有した巨躯をした者達だった〉
「そいつらは一体どこへ消えたんだ?・・・、そうか・・・、そうなんだ・・・・・・」
武にはその答えを武甕槌に聞かずして、それを知ったようだった。
人を守護するのは別に神様だけじゃないって事を知った。そして、それを知ったことで神様、って一体どんな存在を言うのだろうかと疑問に感じ始める切っ掛けでもあったんだ。
― 江戸川高校 ―
その高校の生徒会室で生徒会役員とそうでない数名の者達が普通に椅子に座っていたり、室内をうろついていたり、机の上に腰を据えていたりしていた。
「みんな、これからどうしようか?今のままなら僕たちだけでも内の生徒たちやこの地域くらいなら化け物から護っていけるけど・・・、はぁ~~~、僕もみんなのような力があればなぁ」
「会長、そんなコト言うな。今は俺達が頑張るからサッ!」
「そうよ、私達の力を見出してくれたの将徳君じゃない」
「平、心配すんなってよ。僕たち、サイキッカー江戸川生徒会組があんな奴等の自由にゃさせないさ」
「あたし、生徒会の役員じゃないけど・・・」
「生徒会役員、役員じゃない、ってそんなコトどうでもいいさ」
「どうしようもない時は噂の神様に神頼みしようぜぇ~~~」
「ハァ~~~、噂の神様ねぇ。そうしたいけど・・・、やっぱり僕もみんなと同じように闘える力がほしいよ」
そう言葉にする役員会長の名は平将徳(たいら・まさのり)、ここ東京府新中央区千代田にある江戸川高校三年生の生徒で、全校生徒と多くの教師からも人望の厚い青年。三年生だというのにも係わらず、いまだ生徒会長に推される程の人気者。
将徳のいる地域一帯は彼が集めた特殊な力を持つ同士で化け物から治安維持を図っていた。
天津神等が張る結界が完全な物でないため、いまだに瘴気に取り付かれたモノ達は少なからず蔓延っているし、結界の効力など効かない妖怪などはまだまだ夜な夜なその神等の目の届かないところで人に危害を加えていた。
「平会長、早く今日の巡回経路、立てて行動しようぜ!」
執行員の一人が言葉に出して将徳に伝えると彼は器用にディジタル・ツールを操作し、立体映像白板に彼等の学校を中心とした地図を映し出した。それから、どれくらいの組を作り、何人構成で、どのように巡回するか的確に、そして素早くその場にいる全員に言い渡し、決定付ける。
「各自、気をつけて行動するように以上。よっし、みんな解散!」
将徳の言葉に生徒会役員とそうでない生徒は彼から言われた組み分け編成にしたがって部屋の外へと移動して行く。そんな彼等彼女等を羨ましそうな視線で眺めながら見送る生徒会長。
「将徳君、私達は帰りましょう。・・・・・・・・・、何を心配そうな顔しているの?大丈夫、ちゃんと私が将徳君のコト、護ってあげるから」
「有難う・・・、帰りちょっと寄り道したいところ僕あるんだけど、そこも付き合ってくれる?」
「モチロンよ。私の役目は今のところ、私達の頭脳の要、将徳君の護衛だから」
将徳は同じ生徒役員副会長の女の子と一緒に学校を後にする。彼は護衛を伴って向かった先はどこかの墓地。
将徳は同じ生徒役員副会長の女子、杉田若菜と一緒に学校を後にする。
時は夕暮れ、ひっそりと静まった霊園。
彼等以外、人気はない。彼岸などの時期でもない限り、墓地に賑わいなど訪れる事などない。薄暗い時間の墓地。低木や高木など周囲が囲まれているでもなく、鬱蒼とした気配はないが普通の人であれば、余り訪れたくない時間だ。
だが、彼、平将徳は特に怯える風でもなく普段と変わらない表情だった。
墓苑の入り口で水を張った桶と其の中に柄杓を挿し、墓参りに必要な物を揃える。
まばらな大きさで敷かれた石畳を渉り、彼の目指す墓石へと向かった。
場所に到着すると先ず、墓石をぬらした布で拭き、石の頭から柄杓ですくった水を丁寧に掛けていた。それが終わり将徳は花と線香を上げ、拝む動作をする。同伴していた若菜も彼に倣って同じ事をしていた。そして、それが終わった頃に彼女の方から彼に話を掛けていた。
「ねぇ、将徳君?ここのお墓って」
「ご先祖様のお墓。・・・、それと若菜ちゃんも知っているはずだけど僕の兄さんも・・・」
「あぁっ、ごめんなさい。・・・、そうだったの義孝さんがこの下に・・・」
将徳の三つ上の兄、義孝(よしたか)は新中央区で妖怪に命を奪われた最初の犠牲者だった。そのことがあって将徳はあやかしから人々を護る組織の結成を決意したのだ。
「あのね、聞いて良いかなぁ?将徳君のご先祖様って、どのくらい昔で、どんな人だったの?」
「歴史の教科書にも載っている人物だって父親はいうけど・・・、それが本当かどうか?でもそれが本当で僕にもそのくらいの力があったらなぁ。・・・・・・、ハァ~~~ッ。ここにいてもしょうがない、帰ろうか?若菜ちゃん」
彼が彼女にそう言葉を掛けて、墓の前から背を向けようとした時のことだった。
「えぇっ?この感じはなに・・・、将徳君、私の裏に下がって!」と言って、彼女は将徳の前に出ると、臨戦態勢に入っていた。そして、若菜と呼ばれる女の子が彼にそう口走った時、二人の前に淡い黄緑色の炎が現れ、それが次第に形を作り、人のような姿を見せたのだ。
その炎は人型を作ってもゆらゆらと揺らめいていた。
「我を敬いし、我の子孫よ。我が討たれて千と数百年・・・、いまだこの国に争いは絶えんようだな。我が子孫よ。お主は時の平穏を望むか?そうするための力を欲するか?」
「ええぇえぇ?僕の事を言っているのか?」
「そうだ・・・、我等が血に宿る力を欲するか、お主は」
「僕の血に宿る力?でもそうすればみんなみたいに・・・、欲しい!僕は力を手に入れたい」
「そうか・・・、ならその力を目覚めさせよ。この刀と共に」
二人の目の前に現れた炎の人影は言術の様は物を呟き始め、炎の人影と将徳の間に闇をも吸い込む空間の亀裂が生じると一振りの刀がその裂け目からゆっくりと彼等との間に出現した。
「さあ、これを手にするがよい」
「アナタはいったい誰なんですか?そして僕に流れる血って?」
将徳は宙に浮く刀を手にしながらそう目の前の不可思議な炎に問いかけていた。
「我が名はマサカド、人と人非ざるモノの血を受け継ぎし人と魔の間、人間。我が子孫よ、この現世で我と同じ過ちを繰り返すなかれ」
マサカドと名乗るその炎の人影は最後にそう言葉にすると二人の前から消え去ってゆく。
「・・・、私達幻でも見ていたの?」
「そんなことないよ、若菜ちゃん。ほら見てみなよ、僕の手にはご先祖様が授けてくれたこれがあるじゃないか」
将徳は刀を鞘から少し抜き出して、それを彼女に見せた。さらにそれを完全に抜き出した時、彼の中に何か、先祖の記憶のようなものが流れ込んでくる。
「僕は・・・、僕は人であって人じゃないみたいだね。でも・・・、僕が人じゃなくてもみんなを護れる力があるのならそれでも構わない」
「何、将徳君独りでそんな事を言っているのよ。私は異能力って力を持っているのよ、他の人たちから見たら十分人じゃないわよ。それにサイキッカー江戸川生徒会組のみんなだって」
「・・・、若菜ちゃん、そのネーミングやめてぇ~~~、なんか力が抜けちゃうよ」
「駄目だよ、将徳君。多数決してみんなで決めたんだからこの名前」
「ハイ、ハイそうでしたね。やれやれ、まったくみんなはどういうセンスをしているのだか」
「あぁ~~~、なんだか将徳君不満そぉ~~~」
「名前って言うのは大事なんだよ、色々な意味で・・・、でも、まあいいや、力を手に入れた事でみんなと一緒に戦えるし、これから先陣切ってみんなの指導が出来るぞ、僕が持つ力がどれ程のものなのかわからないけどね」
「エェエ~~~ッ、それじゃァ~、これからの私の役目ハァ?」
「僕のお供はこれからも変わらないよ。ただ一緒に戦ってもらう事になるけどね」
「ハイ、解かりました。それではさっそく妖怪退治に出かけましょう!」
彼女の言葉で二人はそこから動き出す。
それから、若菜の持つ探知能力のようなモノであやかしの探索、近場にそれがいる事を知るとそちらに向かって行く。
残念ながら武達の様に瞬間移動や神速で移動できる訳ではないからそれなりに時間は掛かる。しかし、それでもチカラを手に入れた将徳は常人の数倍の速さで走って現場へと急行していた。
将徳だけが若菜の言った場所に先に到着すると彼は刀を鞘から取り出して、戦闘体勢を取ると、
「・・・・・・、闘い方が解かる。そうか、相手にも色々な種類が・・・、間違って人に憑依しているのを殺さない様にしないとね・・・、だけど、そんなこと僕に出来るのだろうか?」
将徳の来た場所には瘴気に取り付かれた人や物が十数体とそれを操る妖怪三体が存在していた。
「高が、人如きが俺らに勝てると思うなよ」
「残念だけど、ボク人じゃないみたい。そこの人たちに取り憑かせた何かを除いてくれたら無理に貴方を倒そうとは思わないけど、どうする?」
「ザレゴってんじゃねぇよ!手前らの言うことなんか聞くか、者共っ、殺っちまいな」
妖怪の一人がそう言うとそれの周りにいた魍魎が将徳に襲い掛かってゆく。
「僕の中に流れる血よ、先祖将門よ。どうかその力の加護を!でやぁーーーッ!」
彼は相手に向かって突っ込んで行き、頭に描かれる戦いの動きに従って無意識に込めていた闘氣の刀を振っていた。
少ない動作、僅かばかりの時間で魍魎に取り付いていた瘴気だけを切り祓って行く。
「クッ、やるな。だがそんなもの倒したところで俺達は倒せまい!」
使役していたモノ達がすべて倒されてしまった妖怪の一人が将徳に向かってそう口走り三体同時に彼に攻撃を仕掛けていた。だが、・・・。
「つっ、つよい・・・、オマエ・・・、若しかして、あ・・・、つ神のやつら・・・か」
斬り倒された三体のうち一体が将徳に向かって言葉を掛けていた。それが言い終わると息を絶えて逝く。
「神様?残念だけど、ボク神様じゃないよ・・・、でも地獄でその業を償いなさい」
彼は言葉と一緒に刀を鞘に収めていた。
「はぁ、はあ、はぁ~、将徳クゥ~~~ンッ!ハァア~、私を置いて先に行っちゃうなんて酷いですよ・・・?スゥ~~~~~~、ハァ~~~、あら、もう片付いてしまったんですか」
「若しかして若菜ちゃん、走って追いかけてきたの?」
「そうですよ。だって何も言わないで急に将徳君、走り出してしまうんだもん」
「はははっ、ごめんね。そうそう、結構僕って強いみたい。・・・???まさか、あの人達が神様?」
将徳がそう言葉にした時、瘴気を辿ってきた武達と顔を合わせ、
「おまえら無事・・・、誰だ一体こんなことした奴は」
「武、こいつ等、あれが憑いていたみたいだけど命には別状ないみたいだぜ」
「こっちもそのようだな」
「そうか・・・、よかったぜ。若しかして、お前たち二人がこれを?」
上空から降り立った経司と大地はその場に倒れている人々の生死を確認し、そう言葉に出していた。そして、それに答える武だった。
「エッ、私は違います。将徳君が・・・」
「僕がやったんだけど、何か不味かったのかい?アッ、それとボク平将徳、彼女は杉田若菜ちゃん」
「俺は武、鹿嶋武・・・、どう見てもお前、人にしか・・・、武甕槌何かわかるか?」
〈天津とも国津とも違う・・・、人の様にしか感じられぬが〉
〈武甕槌様、もしや祀ろわぬ神々の血を受け継いだモノでは〉
〈天児屋根殿よ、若しそうであれば、あの特有な気の流れを持っているはずです〉
「経津主、そういった物は何代、それを重ねても変化しないものなのか?」
〈天津や国津は変わることはありませんが土着の者達はどうであったのかは私には分かりません〉
「そんなこたぁ~~~、どうだって言いだろ?武、香取。ここでの俺達の仕事がなくなった、ってコト。こんなとこさっさとオサラバして次に行こうぜ」
「そうだ、牧岡の言う通り。行こうか、武」
「えっ、あっああ~、うん、わかったぜ。平って名前だったよな?余り首突っ込んで命落とすなよ」
武達はそう言葉を残し、将徳と若菜がいた場所から飛び去ってゆく。
「あぁ~~~っ、待って!鹿嶋君・・・、ハァ~~~、行っちゃったよ。聞きたいことあったのに」
「将徳君、私の能力で探して追いかけてみる?」
「無理だろう、三人とも飛んで行ってしまったんだよ。しかも、一瞬の裡に・・・、彼等にまた会えるかな?」
「どうだろうね?でも会えるかもしれないよ、将徳君」
「若菜ちゃん、それって予知能力?」
「私にそんな便利な能力ないよ。・・・、なんていうのかなぁ~~~、女の勘、って物ですかね」
「女の子の勘ほど信憑性のないものは・・・」
「アァ~~~、失礼ね。私の勘って高い割合で当たるのに」
若菜は不満そうな顔を作ると将徳は苦笑いで答えてからその場から動き出し、倒れている人を起し始めた。
若菜の勘、それとも本当は予知能力があってもそれに気付かないだけなのか?将徳達と武達は三日と経たなくしてその顔を合わせる事になった。
それはいつものように武達が上空からあやかしを探していたときだった。
「おい、あれってこの前の奴じゃないか?」
「本当だ。あの時、首突っ込むなって言ったのに・・・、数が多い大地、経司、助けに行こう」
「待て・・・、少し様子を見よう、どれほどの力を持ったものなのか」
「香取がそう言うんなら俺は別のそれでもいいけどさぁ、武は?」
「お前ら二人がそう言うなら・・・、その代わり危ないって思ったら直ぐ助けるぞ。・・・、武甕槌それでいいか?」
〈汝の望むままに行動せよ〉
「武、いつまでオマエは内に宿る者の確認を取っている。彼等は俺達の意志に力を貸してくれる存在。そして俺達はその力の継承者。自分がそう思うなら聞かずして、そうしろ」
「でも・・・」
〈経司の申すとおりだ。武よ、私は汝であって汝は私、武の思いは私の思いであって、その逆も然り。そうである事を忘れるな〉
空中で三人がそんな会話をしていると将徳とその仲間達があやかしに戦いを挑み始めていた。
人に取り憑いた魍魎の数、約九十、妖怪の数約三十。それに対してサイキッカー江戸川生徒会組の旗を掲げる一行は将徳を筆頭に彼を含めて男女合わせて十二人。この前彼と一緒にいた若菜と言う女子も交ざっていた。
誰かが誰かに攻撃を加えたあたりから経司は兄から譲り受けた高価そうな腕時計で時間を計り始めていた。決着がつくのに約十五分、人の方に死傷者なし。だが、少なからず怪我を負っている者達が数名いた。
「・・・、平将徳って奴かなり強いぜ。俺達に比べれば非力だけど・・・」
「そうなだ、殆どはあの男一人で倒したようなもの」
「中々やるじゃないか、あいつら・・・、ちょっとだけ興味、湧いてきた。降りて話してみよう」
大地はそう言葉にすると二人の確認を取らず、地上へと降って行く。
「将徳君、まさのりクン、上見てこの前の三人よ!」
「あのときの人達!若菜ちゃん、凄いよ、また会えた。やった僕って運がいいのかな?」
「傍観させてもらっていたが中々のお手並みだ」
「エッと、この前キミは名乗ってくれなかったね?名前はなんって言うんですか」
「おい、平っ!こいつら一体何もんなんだ?」
「俺達のコト知りたいっていうのか?だったらそっちから教えるのが礼儀だろう」
〈大地様からその様なお言葉を聞けますとは・・・、少しはご成長なされたのですね〉
「うっせよ、児屋根」
「僕たちは江戸川高校の・・・」
「オレ達、サイキッカー江戸川生徒会組だぁっ!覚えておけ」
将徳が普通に自己紹介の言葉を述べようとしたが他の仲間が自信満々にそう声にしていた。
「だっせぇ~~~、ネーミング。いかれてんじゃねぇの、お前ら?」
〈あわわゎ、大地様、いくらなんでもそれは失礼ですよ〉
「やっぱり、・・・、やっぱりそう思いますよね・・・」
「はぁ~~~、平会長まで・・・、それではアナタ様たちは何とおっしゃるのですか?」
「ウン名の決まってんだろう。この俺様、天児屋根と牧岡大地、それと奇々怪々な仲間達って奴さ」
「何を莫迦な事を言っている牧岡?経津主の神‐香取経司とその下僕共」
「大地ならともかく、経司までそんなこと口にしやがって二人していい加減な事を言うな。それと誰が〝下僕〟だよ、まったく」
「俺達に呼び名なんってないぜ。強いて言えば神社で祭っている神様、天津神って所か?」
「そうなんだ、やっぱり君達が噂の神様たち・・・」
「う・わ・さの神様?なんだよそれ」
武が訝しげな表情を作ると将徳はその言葉の説明をし始めた。
人々があやかしに襲われし時、天上より、現れし者。それらを救いて、また天に帰って行く。武達の事がそんな感じに東京府近隣に伝わり広まっていたようだった。
そのように噂が広まっていても報道や記事に取り上げられていない理由は時の首相、思兼の継承者がそれを表に出る事を抑止しているからだ。
「フゥ~~~ん、俺達がそうな風にか?全然知らなかったぜ」
「そんなことはどうでもいい、さっきも言ったが俺は香取経司。平さん、あなた達は一体?」
「ボクは人とキシンと呼ばれた人とは違う生き物との間に生まれた子の子孫らしいんだ。僕以外のメンバーは全員、特殊な力を持った生徒たち。超能力って言って良いのか、わからないけど・・・」
〈キシン・・・、鬼神ですってぇ~~~、経津主様、武甕槌様。これは大変なことですよ〉
「何を慌てている、児屋根っち?今更ドタバタしてもしょうがないだろう。お前らが取り逃した連中の末裔なんかじゃないのか?」
「フフフッ、牧岡にしては中々の推測だな」
「大地も経司もそんなこと言っている場合じゃないだろうが・・・、こいつ等のこと詠華さんに報告に行こうぜ」
「えぇ~~~、もういかれてしまうんですか?もっと聞きたいことがあるのに、僕は」
「相棒がそう言ってる事だし、帰るとスッか?ウンじゃな江戸組の連中」
「あぁあ~~~、私達の名前勝手に短くされちゃったよぉ」
「そんな名前、どうでもいいぜ。だけど、力を過信して、命を落とすなよ。またいずれどこかで・・・」
武達はそれぞれ将徳に言葉を言ってからその場から姿を消す。
「また、三人とも行っちゃったね、将徳君」
「ハァ~~~、今回も彼等がどんな力を持っているのか見ることは出来なかったのか・・・、物凄く残念な気分だよ。出来ればボク達に協力してもらいたかったのに」
将徳が最後その様な言葉を口にしたなどと知らずに武達は天津神主神のいる場所へと向かってた
移動した所は宮城県仙台市にある演劇場。現在、その建物内で詠華のライヴが行われていた。彼女の付き人兼天津神一員の平潟に控え室まで通され、そこで公演が終わるのを待っていた。
「アッ、武さん!こんな場所まで歌を聴きに来てくださったのですか?私、すごくうれしいです」
「何を言ってるんすか、詠華さん?報告したいことがあってここまで来ただけです」
「そうですよね、武さんが私のことなんかを好きになって下さって、こんな所にまで態々、来てくれるはずありませんものね。・・・、どうせショウちゃんの彼氏ですものね、グスン」
「何でそうなるんですかまったく・・・、これが俺達の主神だなんて・・・、頭痛くなってきた。経司、大地、詠華さんに説明、頼むぜ。オレ、外で冷たい風に当たって頭冷やしてくる」
「駄目だ、報告はお前の仕事だろう。なっ、香取?」
「牧岡の言うとおりだ。武、ちゃんとさっきの事を報告しろ」
武は二人に言われて渋々と不機嫌そうにしている詠華にここへ来た理由を語り始める。
「詠華さん、可愛らしくそんな顔しないでくださいよ。俺、別に詠華さんのこと嫌いってコトないっすからいじけないで下さいっす・・・」
そう彼が言葉にすると彼女は笑みをこぼし、聞く体勢に入っていた。そんな詠華を見た武は小さな溜息をついてから将徳の事を彼女に話していた。
「たいら・・・、まさのりさん?平将徳さん・・・、武さん、その方の像を私の中に映してくれますか?」
「・・・、こんな感じだったと思うぜ」
「はぁ~~~、まさか将徳君が私達と相反する者達の血を受け継いでいただなんて」
「それじゃ、あいつらは俺達の敵って事になるのか?それとその人物の事を知っているみたいな感じっすね、伊勢野さん」
「大地さんが言うとおりそうなりますけど・・・、将徳君のお母様と私のお父様はご姉弟の関係にあるのです」
「それって、従兄妹同士って奴だよな?これ以上血の繋がったもの同士で争おうだ、なんって絶対間違ってるぜ!」
「分かっています、武さん。・・・、このことは一度全員を集めてお話し合いをしましょう」
「そうだな、彼女の言うとおりみんなで集まってから話した方が無難だ」
「報告終わった事だし、仕事に戻ろうぜ」
「もう、行ってしまわれるのですか・・・、若し・・・、その・・・、よろしければ・・・」
その後、武は詠華に一緒に東京まで彼女の事務所の者達と車で帰りましょうなどと言われたが、武は即行で拒否の言葉を出して、経司達と共に彼女の前から姿を晦ませたのだった。
彼等が向かった場所は岩手県の南部富士辺りの場所。その地域一体の魍魎達や妖怪をあらかた締め上げてから彼等の住む東京まで戻ってから、解散していた。
「なあ、武甕槌?神様って一体なんなんだ?」
〈汝らの言葉の定義によれば〝人を超越した威力、能力を持った人智を越えた者達〟のようだな〉
「それじゃっ、あの平将徳ってやつもやっぱり、人以上の力を持っているから神様なのか?」
〈超越という尺度がどの程度のものなのか・・・、私には推し量ることは出来ぬがあの者が鬼神の末裔なのであれば・・・、それは矢張り神か〉
「鬼神って一体なんだ?」
〈我々と違う能力を有した巨躯をした者達だった〉
「そいつらは一体どこへ消えたんだ?・・・、そうか・・・、そうなんだ・・・・・・」
武にはその答えを武甕槌に聞かずして、それを知ったようだった。
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