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第 拾 話 荒ぶる魂、比類なき力
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俺達、天津神の後継者、十四人は詠華さんに降りた天照大神の言葉でそれぞれの分野において各々に活動をする事になった。彼女に降りた天津主神は俺に降りた武甕槌や他のみんなに降りたそれぞれの神様と違って初めての降臨の時以来、会話を交わすことは出来なくなっている。
その理由はと言うと、詠華さん曰く、その神様と完全に一体化して、彼女の言葉そのものが天照の意志そのものになっているとの事だった。しかし・・・・・・、若しかしたら、って心のどこかで照神先輩あたりが天津神の元締めになるのかなって予想していたけど見事に裏切られたぜ、まったく。
でも、武甕槌が言っていた様に月読神と天照大神は最も近しい存在、双子の姉妹に降臨してもいた。
俺の中にいる天津神に月読とはどんな神様なのか尋ねたら先輩がその後継者であるのを疑うことが出来なそうな事を語ってくれた。
詠華さんの方はと言うと国民を歌や彼女の行動で明るく導き照らすって点ではやっぱり天照の後継者であるせいなのかとも思ってしまう。
そして、何故かその二人は俺が傍にいると姉妹喧嘩を始めてしまう。だから、与えられた役目の行動をするために彼女らから離れている時の方が気分が楽だった。
現在、天照大神―伊勢野詠華さん、月読神―照神先輩、邇邇芸神―霧島新太郎校長、天宇受売神―岸峰椿先生、今の首相、思兼神―須賀原智弘(すがわら・ともひろ)総理大臣、大宮能売神―平潟三保さん等六人と六神は日本全土に大きな守護結界を張ると共に新たな皇の下でこの国、先の将来を担う優秀な人材発掘に当たっていた。
天太玉神―佐枝美野里さん(さえぐさ・みのり)は完全な結界を張るために必要な三種の神器の一つ、本物の八尺瓊の勾玉の探索を。
石凝姥神《いしこりどめのかみ》―加持瞭子さん(かじ・りょうこ)は強大な結界を張るために必要な神器の一つ草薙の剣の探索を。
そして、最後の一つ、八咫鏡を探すのではなく、新しく作るために工芸神、天抜戸《あめのぬかと》の後継者と天津麻羅《あまつまら》と呼ばれる鏡職人達を探す事を担当する天石門別神《あめのいわとわけのかみ》―山石健吾さん(やまいし・けんご)。
武甕槌の後継者の俺、経津主神―経司、天児屋根神―大地、天手力男神―徹哉、暗霎神―護の五神五人はあやかしとの退治を任されていた。
天津神《おれたち》、国津神達が総出になっても勝てそうにない程の強大な力を持った神、それの力の一端を目にしたのは俺達の主神が見付かって一週間も経たない内の事だった。そして、その時に現実に見える姿を疑ってしまいそうな者を目にしていた。
経司はその人物を見て驚愕、悲しみ、そして、大きな憤りのようなものを表情に表していた。
幼馴染みの経司と親友の大地の三人で九州地方まで足を運んでいた時だった。
その地域は大戦の頃に最も大きな被害を受けた場所で大都市以外殆ど人は住んでいない。
戦争の所為で生じた莫大な瘴気のためか?あやかし、特に魑魅魍魎の数が本州に比べると異常なほど多かった。
「よっしゃぁ~~~、ここはあらかた片付いたなぁ。次に行こうぜ、香取、それと武」
「大地、調子乗り過ぎ。そんな事だといつか足元掬われるぜ」
「武からそんな言葉が聞けるとは武甕槌神が降りて呉れたおかげか?フッ」
「なんだよ、経司。その俺をバカにした様な顔をしてくれやがって」
「悪かった。そのくらいで機嫌を損ねないでくれ」
「もお、いいよ。それより大地の言う通り、さっさとここから離れようぜ」
そう言葉にして俺達三人は大きな瘴気の流れを辿って、次の目標を探し飛んでい行く。
彼等が僅かな時間で移動し、新たな地に降り立つ少し前の頃だった。
小さな町、一帯を埋め尽くしてしまいそうな数の魑魅魍魎とそれを操る陰陽師が一人。それと向かい合うように男女一組が武達の向かおうとしていた場所にいた。
「アナタはその様なモノ達を使役し、この国を混乱させて、何を望むというのだ?」
「そうです、あなた達のおかげでどれだけの人々が苦しんでいるか・・・、それにもし貴方達のような人がいなければ私の大事な弟は・・・・・・、神様になんて選ばれなかったかもしれないのに」
「知れたことよ。・・・、貴様等人間たち天津の子々孫々の血を受け継ぐ、貴様たちが許せんだけの事だ。貴様等のお陰でどれだけの苦しみを我々は味わったか」
「我々とて、貴様らと同じ人間として、この現世に生きようと願ってその形に転生を繰り返すのに・・・・・・、貴様等はそんな我々を・・・、我々を無意識に迫害しヨって!何がいけないというのだ我々が今まで人たちにどんな迷惑を掛けた?どんな危害を与えたというのだ?」
「今こうして、人々にそれをしているではないか?」
「それは今までの恨みの所為だ。それさえなければ・・・、天津などこの地に現れなければ・・・」
「アナタの気持ちは解かる。今でも私はすべてのものとの共存を願っている。だが、それでも精一杯生きようと願うモノに危害を与えようとする今のアナタ等、蜘蛛神の行動を許すわけには行かない。命が惜しくば生ならざる物だけ置いて行け。・・・、いいか?姫よ、あのモノ等に掛かるぞ!・・・、いでよ、我が力」
「ハイ、素盞鳴尊様。・・・、櫛名田姫様、私にその力の加護を」
素盞鳴尊の神と呼ばれたその男は言葉と共に一振りの剣を具現化させ、櫛名田姫と言葉にする女は左手の弓、右手に幾束かの矢を出現させた。
「高が脆弱な現代人如きに降りた二神など恐るに足らん。この数に勝てようと思うな」
陰陽師安倍陽久が一番弟子、大城繁(おおしろ・しげる)は確信に満ちた表情を対峙するその二人に向けていた。
「フッ、たいした自信だ。だが、ワタシを・・・、荒神と呼ばれたこの力を侮るな!ハァーーーッ!」
男はその場で気合を掛け、全身に神の気を巻きつかせる。それを行っている瞬間、彼の 男はその場で気合を掛け、全身に神の気を巻きつかせる。それを行っている瞬間、彼を中心には凄まじい烈風が巻き起こっていた。
空に昇る風口。それは上空、二、三千メートルに漂う高積雲にまで届き、渦巻く風口は積雲を蹴散らし、其の更に先の空を地上に拝ませた。
産まれ立ての頃の竜巻は素盞鳴と同等の太さだった。だが、数十秒も満たない時間の中でそれは竜巻とは呼べぬ代物で無くなる。
其の暴風域は小型の台風と読んでいい程の規模だった。だが、台風とは根本的な性質が違う。上空に群がっていた冬雲が霧散し、陽光が差し込むほど晴々していたからだ。違いはそれだけではない。風の流れとは基本的に不可視な存在。素盞鳴が発生させた陣風内に潜む彼の放つ神気によって編まれた大気元素の高群集密度、それが見えざる姿を見ゆる姿へと変えていたのだ。
男の放つ暴風の流れにどの様な存在も逆らうことなど許されない。
触れれば其の勢いに彼方へと弾き飛ばされ、弱き物は其の命を詰まれ、人が知りえる最小単位の物質よりも細かく崩され、虚構の塵へと帰す。
それだけの場を威する力を放ちながら、素盞鳴は下方に向けていた腕、左拳に意識を集中させ、地面に擦れるか擦れないかの長さの渦巻きを出していた。だが、すぐにそれは消え去り、何かを握り締めていた。それは両刃の剣。
遂に男は厳かに歩みだす。ゆっくりとした足取り、力強く踏み絞める大地、烈風にもまれる魑魅魍魎。
其の圧倒的な力の差に勝敗がどちらに転ぶなどと選択で来うる未来は存在しない。助力など必要としなかった。
男の脇にいた女は風の流れに巻き込まれないようにかなり後ろの方へと身を移動させていた。だが、それは唯単に後退するためだけでない。女は後ろに退きながら神の速さで幾多もの矢を放つ。その数、一秒間に千を下らない。そして、その魑魅魍魎達《まと》を射る正確なこと神の如く、すべて相手を捕らえ浄化させていた。然れど、そんな彼女の弓から放たれる矢よりも男から放たれる一撃の方が凄烈だった。天に掲げた剣に巻かれる様に凝縮する彼の放った暴風。周囲の風が消え、一転に集中する荒れ狂う風の力。
荒ぶる神の化身は横薙ぎに一閃、剣を払うとそれより出る神気の疾風怒濤の波がたちどころにその場に居たすべての瘴気に取り憑かれたモノ達から穢れを祓い除けていた。その数おおよそ一万と弱。それほどの数をたった一度の動作でやってのけたのだ。
そして、浄化されたモノ達の中には人間も多く交ざっていた。しかし、それらの命を奪うような力を男は放ったわけではない。
「これが・・・、台風の具現化、荒神、闘神と恐れられた天津の力か・・・」
「あなたの命を奪う気はない。私の力の凄まじさが判ったのなら退け、生きたモノでも同じ事を出来るのだぞ」
「ウグッ・・・、だがここで我は退けんのだ。我とて蜘蛛神と呼ばれたもの、その力を見せてくれようぞ」
陰陽師―大城は全身を震わせ姿を変えて行く。
「フンッ、それがあなたの本来の姿か?それでは人が恐れても仕方があるまい」
「これは我の力の具現、好きでこのような醜い姿になったのではない」
大城が姿を変えたもの、それは百足。その胴回りは男九人が腕を伸ばし囲んでも、囲みきれないほど、更に頭から尾の長さは優に三十三丈。
「悪までも私と戦う気なのだな?なら容赦はせぬ、来世で、作り変わった世で安寧を享受せよ。・・・・・・、櫛名田姫、生きた者達の守護を頼む」
「仰せのままにです」
大百足となった大城と須佐の力を受け継ぎし者の決着は刹那の時間よりも短い間に終わってしまう。男が上から振り上げた剣が大百足になった大城の頭に触れるか、触れないかの瞬間に武達はその上空に到着する。そして、三人がその一撃の凄さを目のあたりにした瞬間でもあった。
大城を切り裂いた力はそのまま地面を走り、地表を割って行くのだ。そして更に力の最終到達地点にあった人の住まない小さな廃墟の町を消滅させていた。
「・・・・・・・・・、おい、いったいなんだ、あの力はよぉ?」
「武・・・、俺は目がおかしくなってしまったのかもしれない。どうしてだ?どうして二人が八坂師範代と・・・」
「経司、俺の目にも同じ風に映っているぜ。・・・、何で美姫姉ちゃんが?・・・」
〈武、汝の姉は無事だったようだな。・・・、だが、彼女が・・・〉
〈今ここで論議していても意味はないのです。あちらへ向かいましょう。経司殿お気を確かに〉
〈素盞鳴尊様とそれを宿したお方はボク達に力をお貸ししてくれるでしょうか?〉
俺達は姉の美姫と家の道場の師範代、二人がいる所に降り立った。
「姉ちゃん、それと八坂さん。どうして今まで俺に連絡をくれなかったんだよ!」
「武・・・、それは・・・・・・」
「彼等との会話を交える必要はない。行きますよ、美姫さん」
「待てッ!八坂師範代。何も説明せずに行く気か?」
「経司君。・・・・・・、君達の主神天照大神と私、素盞鳴尊は姉弟でありながら、考え方の違いから相容れないのだよ」
「アンタ、武と香取の知り合いなんだろう?その誼《よし》みでそんなこと関係なしに俺達に力を貸してくんないのか?」
「アナタ達の主神の考えが昔と変わらぬのなら、いくら乞《こ》われようとそうする気はない。そして、この現世でも同じ事を繰り返すというのなら・・・、持てる力すべてを持って天津神等《あなたたち》を討つ」
〈三貴神―素盞鳴尊、武甕槌だ。汝は今もその考えのままなのか?〉
「武の中に降りた天津よ、私の中に宿るそれに話しかけても無意味」
〈八坂殿と言いましたね?それはどのような意味なのでしょうか〉
「フッ、解からないのですか?・・・、フフフフフッ、アァ~~~ハッハッハッハッハ、解からんのか、馬鹿どもが。我は宿ったのではない!その神その者だ」
八坂徹さんの声質と口調が急に変わり、俺達を嘲る様に笑いながら強くそんな風に答えを返してきた。
「我は天津等《おまえら》が成そうとする愚行を予期して、それを止めるべく八坂徹と言う肉体《うつわ》を作り、この現世に降りたのだ。脆弱な者のそれを借りるのではなく、生まれながら鍛えに鍛えたこの体をな」
「天照《あねうえ》に伝えろっ!今もその考えを改めぬなら、我はお前らの敵にまわると・・・、行くぞ、櫛名田姫」
「待てッ!八坂師範代。何故、美姫さんまで連れてゆく。美姫さんを返せ!」
「知れた事よ、美姫に宿るそれは我が終生の伴侶。そして、この娘は我の考えを理解してくれた上で一緒にいてくれるのだ」
「姉ちゃん、それは本当なのかよッ!」
「経君、武・・・、徹さんが言っていることは・・・、本当なの。徹さんが語ってくれたアナタ達の中に宿った神様達は・・・」
「美姫よ、あの者達に何を話しても無駄だ。所詮はおのれ等を天の上の〝神〟等と名乗る愚か者どもの操り人形にしか過ぎん」
「おいていけ・・・、美姫さんを置いていけ、八坂ッ!俺は俺の意志で経津主を受け入れた仮令、オマエが知る天津神がどんな者でも俺達の祖先であることには変わらない。そして、俺はそれがどんな存在なのかも知っている。だが・・・、だが、美姫さん、美姫さんだけは巻き込むなっ!」
「経司・・・・・・」
幼馴染みの経司は言葉と一緒に今もてるすべての神気を解放させていた、憤怒の表情を浮かべながら。そして、まるで相手を倒してでも俺の姉ちゃんを取り戻そうとする感じだった。
「経津主に操られるものよ、汝の命を摘む積りはない。総ての生命を強大な力で摘み取ってしまう事を我が伴侶も望んではいない。ゆえ、汝とは闘う気はないぞ」
今まで八坂徹という人間の振りをしていた?素盞鳴の神、そのモノは冷静に経司にそう言葉を返していた。
「俺は操られてなどいないッ!俺は香取経司であり、経津主だぁーーーッ!」
〈武、経司を止めろ!絶対素盞鳴尊には勝てん。見す見す、彼の命を散らせるわけにはいかん〉
俺の中にいる武甕槌にそう言われたから瞬転して、素盞鳴尊の化身である八坂さんに挑もうとする経司を止めるため俺もまた神速で彼を追った。しかし、僅差で遅れてしまい経司は抜いていた刀を八坂さんに振り下ろしていた。
「フッ、その程度の力で我に挑もうとは愚かだな、経津主の操り人形よ」
経司の一撃を左手で簡単に受け止めると鼻で嘲笑い、右手中指で本当に軽く小突いているように見えたが実際その力は神の物だった。俺の幼馴染みは元にいた場所より数百倍も後ろに吹き飛ばされていた。
「このクソぉーーーーーーーーッ!」
「やめるんだ、経司。相手が悪すぎる。俺がいくらバカでも八坂さんの力は・・・」
「はなせ、放せよ、武、美姫さんが、美姫さんがぁーーーーーーッ!」
「俺だって美姫姉ちゃんのこと心配じゃないわけないぜ、だけど・・・、姉ちゃんは生きていてくれた。それだけで俺は・・・」
神気を込めた力で俺は経司を羽交い絞めして、それ以上動かないよう拘束した。そんな俺達の所に八坂さんと姉の美姫が移動してきた。そして勿論、経司の事を心配してくれた大地も。
「経司君、武君に助けられましたね。次ぎ合う時までにアナタ達の主神の考えが変わってい様なら私の気持ちも変わるでしょう。美姫さん、もうこれ以上ここにいても・・・」
「武・・・、経君・・・・・・・・・」
八坂さんは俺が知っている八坂さんの声と表情に変わると両目を閉じた状態でそう言葉にしてきた。姉ちゃんは悲しそうな顔を俺達に向ける。そして、その二人は俺達の前から姿を消した。
「放せーーーッ。武、恨むぞ。美姫さんが行ってしまう。また俺達の力では探れない場所に・・・、ミキサぁーーーンッ」
「香取。・・・、オマエ、本当に鹿嶋先輩の事を・・・・・・」
「なんでだぁーーーーーーーーーっ、ちくしょおぉーーーっ!答えろ、ふつぬしぃーーーッ」
〈・・・・・・・・・、経司殿〉
経司は俺に羽交い絞めされたまま悔しそうに声を出さないで涙を流していた。
美姫姉ちゃんが俺達の対局する側の後継者だなんって信じられなかった。だけど・・・、それは大地も同じ。そして、八坂さんが同じ天津神だというのに離反している神様だったなんて驚くとかそんな言葉じゃ表現が足りない、って感じを俺は受けていた。
八坂さん、それとも素盞鳴尊神?が言っていた天津神は〝神様〟じゃないって事、経司はその意味を理解しているようだった。
俺に降りている武甕槌もそんな事を後継者に選んでくれた時、言っていたのを今でも覚えている。だけど、それを俺はどんな意味なのかを分かってはいなかった。
「なあ、経司・・・、天津神とか国津神とか、って一体なんなんだ?」
「神は神だ。それ以上それ以下でもない・・・・・・・・・・・・、日本と言う国で生まれた人間にとっては」
真実など教えてくれそうもなく、経司はそう言葉にしていた。そして、最後聞き取れないくらいの大きさの声で何かを呟いていた。
「香取、いつまでもそんなシケた面してんじゃねぇよッ!もっと明るく前向きに行こうぜ大丈夫、大丈夫だ。総ては俺達の思い通りに事は運ぶって」
「そうだったな、牧岡。・・・、オマエは妹とその・・・」
「気にすんなって、サユサユがどんな国津神の力を得ていようが絶対俺に屈服させてやる」
〈大地様、また変なご想像してくださいましたね。その念は僕にも届くのですよ、まったく。・・・、それよりも皆様、この事を早く詠華様達にご報告しておかなければ・・・〉
〈そうですね、天児屋根殿の言うとおりです。戻りましょうか〉
三人、三神は素盞鳴尊の神との接触を知らせるため、詠華達がいる東京へと一度舞い戻って行く。
武達の前から姿を消した徹と美姫は有明の海の近くにいた。
「美姫さん、このような事に巻き込んでしまってすいませんね」
「その様な事を言わないでください、徹さん。私は櫛名田姫の意志ではなく、私の意志で貴方についてきたのです。だから、そんなことは言わないで」
「有難う、美姫さん。今しばらくは私の傍にいてくれ」と彼女は彼の言葉に頷いて返していた。
「ねえ、徹さん?私と同じ国津の者達にはその力を貸さないのですか?」
「私は強大な力しか持たされていない者だ。政ごとなど出来はしない。だから、人間だけじゃなく、平穏に生きる事を願っている総ての生き物達の邪魔をするモノ達を討つ事に徹する」
「それではしばらくお休みしてから、またそれらのモノを退治に行きましょうね、徹さん」
「願い、叶うなら、すべての天津国《同族》等の子々孫々、そして、この土地縁《ゆかり》の者達と共存する未来があって欲しいですね」
「そう思いますよ、本当は争いなんかしたくありませんから、私は」
美姫がそう言葉にすると二人はまたその場所からどこかへ移動して行った。
徹等が有明の海辺から移動した頃、天津神の本拠地を間借りている新中央区に武達は戻っていた。そこの場所に彼等が姿を見せると内務を司る六人六神が顔をそろえていた。
「詠華さん、報せたい事があったので仕事途中放棄して帰って来たっす」
「お帰りなさい、それとご苦労様です、武さん、経司さん、大地さん。どういったご用件で?」
天照大神が詠華さんに降りて完全同調してしまった所為なのか幾分男性恐怖症のような物が改善されているみたいだった。それのお陰で俺達、天津神の後継者の男だけには普通に喋ってくれる。
「タケちゃん、エイちゃんには声掛けて、私にはお帰りの挨拶してくれないのぉ」
「あのねぇ、照神先輩。俺達緊急報告があって急いで戻って来たんすよ。それに俺達がどんな気分でこのへ現れたのか、それくらい月読神の継承者ならわかるっしょぉ~~~」
「ウン、タケちゃん達がどうしてここに戻ってきたか、私知ってるよ。でも、タケちゃんたちには明るくしてて欲しいから・・・」
「それでも余計なこといわないでくださいよ。しかも現首相様がいる前で恥ずかしいぜ、まったく」
「いいではないか鹿嶋君。穏やかに行こうではないかね、はっはっはっはっは」
「はうぅ~~~、ごめんちゃいです」
思兼神の叡智を授かった現首相様は現状の厳しさを知っているのか、それとも知っている積りなのか、はたまた、知らないのか?温和な顔と優しい口調でそう俺とお供二人に言った。
先輩と首相様に溜息と呆れた顔を造って見せてから詠華さんに素盞鳴尊神を声に出して報告していた。
「そうですか天照《わたし》の弟が・・・、こまったものです、どうしましょうか?平潟マネージャー」
「その様なことワタクシにお振りになられても答えなど返せるはずがありません、詠華さん」
「須賀原首相様、霧島様、それと岸峰様、何かご案は?」
「はぁ~~~、そうですねぇ。邇邇芸の神様殿、どうすればよろしいのでしょうか?」
「難しいですわね、素盞鳴尊様のあの強大な力を何とかしますのは・・・」
「もう、伊邪那岐様のお力を借りることも出来ませんし、ましてや黄泉の国でお眠りなる伊邪那美様などは・・・」
「何でエイちゃん、私には何も聞いてくれないのォ~~~ッ!」
「ショウちゃんに聞いたってまともな答えは返ってきませんから」
「あぁ~~~ッ、それって酷いよぉ、エイちゃん。これでも私、月読女神よ!」
「それでは何か良いご案があるんですか?どうせないでしょうけど」
何故かそこから詠華さんも照神先輩も睨み合いを始めてくれやがった。何でこの双子姉妹は俺がいるときに限って喧嘩してくれやがるんだよ、まったく。
二人のその喧嘩にみんながしばし傍観していた。俺も勿論そうしていたけどその間、他の誰にも悟られないように武甕槌に話しかけていた。先輩、喧嘩中は俺のこと其方退けにしてくれるから心を勝手に読まれる心配はないぜ。
「なあ、武甕槌。天照大神様と月読の・・・、女神?様って仲悪いのか?」
〈あれは彼女等が素で喧嘩しているだけだろう。天照と月読はどちらかと申せば非干渉だ〉
「そんじゃっ、八坂さんは素盞鳴尊神、本人だって言葉にしていたけど、どんなに頑張っても俺や経司では戦って勝てないのか?」
〈私とて、闘うために生み出されし存在、経津主もまた同じなのだが・・・、それでも矢張り彼《か》の者の力を凌ぐのは・・・〉
「凌ぐのは何だ?言いはぐるなよ、武甕槌。俺はまだまだ上手く同調できていないようだからお前の意識すべてを理解できるわけじゃないんだ。だからはっきり答えてくれよ」
〈わかった、確《しか》と答えよう。汝と経司のもつ生命力《たましいのちから》、経津主と私が魂の力、己《お》のがすべて解き放てば、勝てるやも知れぬ。だが、然為《さす》れば・・・〉
「武甕槌、それ以上言わなくてもわかった。まだまだ遣りたいこといっぱいあるから、そればっかりは勘弁だぜ」
命完全燃焼させてそれを武甕槌の力に換え、経司もおなじことをさせて二人力を合わせれば勝てる〝かも〟しれないって言うんだろう?さらにそうすれば=死って図式だぜ。
確証がないのに命を落としてしまう、っていうのも嫌だし、何より経司にも道連れにしなければならないってのがもっと嫌だぜ。
〈武、一つ勘違いだ。私も汝も〝死〟ではなく、〝消滅〟だ。高天原へ昇臨することも許されず、黄泉の国で就臨《しゅうりん》することも出来ぬ、完全なる無となるのだぞ〉
「それってどんなに頑張っても次の機会に現世に転生できないって事か?」
〈無ハ無、無からは何も生じぬ。武、汝も私も永劫に転ずることはない〉
「まっ、まじっすかぁ~~~?それは絶対嫌だ。まだ奈落の底の落とされる方がましだぜ。それじゃ、どうするんだ、そんなおっそろしいのと対立しようなんて正気の沙汰じゃないぞ」
〈このたびも、言葉ではああいってくれたが静観してくれると良いのだが・・・〉
武甕槌と独り一神の会話をしているといつの間にか姉妹喧嘩を終えた照神先輩に背中から抱きつかれていた。俺は今までその事に全然気付いていなかった。
「ウワワぁッ、先輩を何してくれてんですか?はなれてくださいっすよ。美姫ねぇちゃんが見てないからって勝手してくれやがって」
「ショウちゃん、なに武さんにその様なフシダラ事をしてくれているのですカッ、離れて下さい」
「エイちゃんにそんなこと言われる筋合いないよォ~~~だっ!」
このままだとまた有識者たちの皆様の前でこのバカ先輩と国民的歌姫が喧嘩してしまいそうだ。そんなのがゴシップネタに載ってしまっては詠華さんが可哀想だな。
「タケちゃん、酷いよォ~~~、私のことそんな風に思うなんてぇ~~~」
勝手に俺の心を読んでくれている照神先輩に言葉も掛けず無視して、詠華さんにはお辞儀をしてその場から別の場所へと瞬移する。月読の女神?はこの力を持ってないから追いかける事は出来ないんだぜ。どこの場所に出たのかわからないけど、俺の行動を予期していたのか?経司と大地が付いて来ていた。
「ハハッ、武も大変そうだな。伊勢野先輩と美少女歌姫の詠華に好かれちまってよ」
「笑い事じゃないぜ、大地。こっちの身にもなってくれよ、まったく」
「贅沢言うな、武。あんな可愛らしくて綺麗な二人に好かれているのだぞ。どっちが好みだ?二人とも双子で顔同じだけど」
「経司、オマエまでいい加減にしロッ!」
そんな風に言葉にしてから幼馴染みに神の速さで頭にチョップしてやろうとしたけど、難なく受け止められちまったよ。
「まだまだ、修行が足らんな、武。フンッ」
受け止めた俺の手を払い、言い終わりの最後に鼻で笑ってくれやがった。その顔は姉の美姫との突然の邂逅時に渦巻いた色々な感情を吹っ切っる事が出来たようなそんな感じだった。
これから先、天津神後継者である俺達はどんな風な未来に進んでいくんだろうか?少しくらいの未来見ができる力を有した月読女神の後継者の照神先輩は何かを鮮明に見通せているのだろうか?
聞いてきゃ、よかったかな?そんな事を思いながら、俺は経司と大地と一緒に朝焼けまであやかし退治を続けてゆくのだった。
その理由はと言うと、詠華さん曰く、その神様と完全に一体化して、彼女の言葉そのものが天照の意志そのものになっているとの事だった。しかし・・・・・・、若しかしたら、って心のどこかで照神先輩あたりが天津神の元締めになるのかなって予想していたけど見事に裏切られたぜ、まったく。
でも、武甕槌が言っていた様に月読神と天照大神は最も近しい存在、双子の姉妹に降臨してもいた。
俺の中にいる天津神に月読とはどんな神様なのか尋ねたら先輩がその後継者であるのを疑うことが出来なそうな事を語ってくれた。
詠華さんの方はと言うと国民を歌や彼女の行動で明るく導き照らすって点ではやっぱり天照の後継者であるせいなのかとも思ってしまう。
そして、何故かその二人は俺が傍にいると姉妹喧嘩を始めてしまう。だから、与えられた役目の行動をするために彼女らから離れている時の方が気分が楽だった。
現在、天照大神―伊勢野詠華さん、月読神―照神先輩、邇邇芸神―霧島新太郎校長、天宇受売神―岸峰椿先生、今の首相、思兼神―須賀原智弘(すがわら・ともひろ)総理大臣、大宮能売神―平潟三保さん等六人と六神は日本全土に大きな守護結界を張ると共に新たな皇の下でこの国、先の将来を担う優秀な人材発掘に当たっていた。
天太玉神―佐枝美野里さん(さえぐさ・みのり)は完全な結界を張るために必要な三種の神器の一つ、本物の八尺瓊の勾玉の探索を。
石凝姥神《いしこりどめのかみ》―加持瞭子さん(かじ・りょうこ)は強大な結界を張るために必要な神器の一つ草薙の剣の探索を。
そして、最後の一つ、八咫鏡を探すのではなく、新しく作るために工芸神、天抜戸《あめのぬかと》の後継者と天津麻羅《あまつまら》と呼ばれる鏡職人達を探す事を担当する天石門別神《あめのいわとわけのかみ》―山石健吾さん(やまいし・けんご)。
武甕槌の後継者の俺、経津主神―経司、天児屋根神―大地、天手力男神―徹哉、暗霎神―護の五神五人はあやかしとの退治を任されていた。
天津神《おれたち》、国津神達が総出になっても勝てそうにない程の強大な力を持った神、それの力の一端を目にしたのは俺達の主神が見付かって一週間も経たない内の事だった。そして、その時に現実に見える姿を疑ってしまいそうな者を目にしていた。
経司はその人物を見て驚愕、悲しみ、そして、大きな憤りのようなものを表情に表していた。
幼馴染みの経司と親友の大地の三人で九州地方まで足を運んでいた時だった。
その地域は大戦の頃に最も大きな被害を受けた場所で大都市以外殆ど人は住んでいない。
戦争の所為で生じた莫大な瘴気のためか?あやかし、特に魑魅魍魎の数が本州に比べると異常なほど多かった。
「よっしゃぁ~~~、ここはあらかた片付いたなぁ。次に行こうぜ、香取、それと武」
「大地、調子乗り過ぎ。そんな事だといつか足元掬われるぜ」
「武からそんな言葉が聞けるとは武甕槌神が降りて呉れたおかげか?フッ」
「なんだよ、経司。その俺をバカにした様な顔をしてくれやがって」
「悪かった。そのくらいで機嫌を損ねないでくれ」
「もお、いいよ。それより大地の言う通り、さっさとここから離れようぜ」
そう言葉にして俺達三人は大きな瘴気の流れを辿って、次の目標を探し飛んでい行く。
彼等が僅かな時間で移動し、新たな地に降り立つ少し前の頃だった。
小さな町、一帯を埋め尽くしてしまいそうな数の魑魅魍魎とそれを操る陰陽師が一人。それと向かい合うように男女一組が武達の向かおうとしていた場所にいた。
「アナタはその様なモノ達を使役し、この国を混乱させて、何を望むというのだ?」
「そうです、あなた達のおかげでどれだけの人々が苦しんでいるか・・・、それにもし貴方達のような人がいなければ私の大事な弟は・・・・・・、神様になんて選ばれなかったかもしれないのに」
「知れたことよ。・・・、貴様等人間たち天津の子々孫々の血を受け継ぐ、貴様たちが許せんだけの事だ。貴様等のお陰でどれだけの苦しみを我々は味わったか」
「我々とて、貴様らと同じ人間として、この現世に生きようと願ってその形に転生を繰り返すのに・・・・・・、貴様等はそんな我々を・・・、我々を無意識に迫害しヨって!何がいけないというのだ我々が今まで人たちにどんな迷惑を掛けた?どんな危害を与えたというのだ?」
「今こうして、人々にそれをしているではないか?」
「それは今までの恨みの所為だ。それさえなければ・・・、天津などこの地に現れなければ・・・」
「アナタの気持ちは解かる。今でも私はすべてのものとの共存を願っている。だが、それでも精一杯生きようと願うモノに危害を与えようとする今のアナタ等、蜘蛛神の行動を許すわけには行かない。命が惜しくば生ならざる物だけ置いて行け。・・・、いいか?姫よ、あのモノ等に掛かるぞ!・・・、いでよ、我が力」
「ハイ、素盞鳴尊様。・・・、櫛名田姫様、私にその力の加護を」
素盞鳴尊の神と呼ばれたその男は言葉と共に一振りの剣を具現化させ、櫛名田姫と言葉にする女は左手の弓、右手に幾束かの矢を出現させた。
「高が脆弱な現代人如きに降りた二神など恐るに足らん。この数に勝てようと思うな」
陰陽師安倍陽久が一番弟子、大城繁(おおしろ・しげる)は確信に満ちた表情を対峙するその二人に向けていた。
「フッ、たいした自信だ。だが、ワタシを・・・、荒神と呼ばれたこの力を侮るな!ハァーーーッ!」
男はその場で気合を掛け、全身に神の気を巻きつかせる。それを行っている瞬間、彼の 男はその場で気合を掛け、全身に神の気を巻きつかせる。それを行っている瞬間、彼を中心には凄まじい烈風が巻き起こっていた。
空に昇る風口。それは上空、二、三千メートルに漂う高積雲にまで届き、渦巻く風口は積雲を蹴散らし、其の更に先の空を地上に拝ませた。
産まれ立ての頃の竜巻は素盞鳴と同等の太さだった。だが、数十秒も満たない時間の中でそれは竜巻とは呼べぬ代物で無くなる。
其の暴風域は小型の台風と読んでいい程の規模だった。だが、台風とは根本的な性質が違う。上空に群がっていた冬雲が霧散し、陽光が差し込むほど晴々していたからだ。違いはそれだけではない。風の流れとは基本的に不可視な存在。素盞鳴が発生させた陣風内に潜む彼の放つ神気によって編まれた大気元素の高群集密度、それが見えざる姿を見ゆる姿へと変えていたのだ。
男の放つ暴風の流れにどの様な存在も逆らうことなど許されない。
触れれば其の勢いに彼方へと弾き飛ばされ、弱き物は其の命を詰まれ、人が知りえる最小単位の物質よりも細かく崩され、虚構の塵へと帰す。
それだけの場を威する力を放ちながら、素盞鳴は下方に向けていた腕、左拳に意識を集中させ、地面に擦れるか擦れないかの長さの渦巻きを出していた。だが、すぐにそれは消え去り、何かを握り締めていた。それは両刃の剣。
遂に男は厳かに歩みだす。ゆっくりとした足取り、力強く踏み絞める大地、烈風にもまれる魑魅魍魎。
其の圧倒的な力の差に勝敗がどちらに転ぶなどと選択で来うる未来は存在しない。助力など必要としなかった。
男の脇にいた女は風の流れに巻き込まれないようにかなり後ろの方へと身を移動させていた。だが、それは唯単に後退するためだけでない。女は後ろに退きながら神の速さで幾多もの矢を放つ。その数、一秒間に千を下らない。そして、その魑魅魍魎達《まと》を射る正確なこと神の如く、すべて相手を捕らえ浄化させていた。然れど、そんな彼女の弓から放たれる矢よりも男から放たれる一撃の方が凄烈だった。天に掲げた剣に巻かれる様に凝縮する彼の放った暴風。周囲の風が消え、一転に集中する荒れ狂う風の力。
荒ぶる神の化身は横薙ぎに一閃、剣を払うとそれより出る神気の疾風怒濤の波がたちどころにその場に居たすべての瘴気に取り憑かれたモノ達から穢れを祓い除けていた。その数おおよそ一万と弱。それほどの数をたった一度の動作でやってのけたのだ。
そして、浄化されたモノ達の中には人間も多く交ざっていた。しかし、それらの命を奪うような力を男は放ったわけではない。
「これが・・・、台風の具現化、荒神、闘神と恐れられた天津の力か・・・」
「あなたの命を奪う気はない。私の力の凄まじさが判ったのなら退け、生きたモノでも同じ事を出来るのだぞ」
「ウグッ・・・、だがここで我は退けんのだ。我とて蜘蛛神と呼ばれたもの、その力を見せてくれようぞ」
陰陽師―大城は全身を震わせ姿を変えて行く。
「フンッ、それがあなたの本来の姿か?それでは人が恐れても仕方があるまい」
「これは我の力の具現、好きでこのような醜い姿になったのではない」
大城が姿を変えたもの、それは百足。その胴回りは男九人が腕を伸ばし囲んでも、囲みきれないほど、更に頭から尾の長さは優に三十三丈。
「悪までも私と戦う気なのだな?なら容赦はせぬ、来世で、作り変わった世で安寧を享受せよ。・・・・・・、櫛名田姫、生きた者達の守護を頼む」
「仰せのままにです」
大百足となった大城と須佐の力を受け継ぎし者の決着は刹那の時間よりも短い間に終わってしまう。男が上から振り上げた剣が大百足になった大城の頭に触れるか、触れないかの瞬間に武達はその上空に到着する。そして、三人がその一撃の凄さを目のあたりにした瞬間でもあった。
大城を切り裂いた力はそのまま地面を走り、地表を割って行くのだ。そして更に力の最終到達地点にあった人の住まない小さな廃墟の町を消滅させていた。
「・・・・・・・・・、おい、いったいなんだ、あの力はよぉ?」
「武・・・、俺は目がおかしくなってしまったのかもしれない。どうしてだ?どうして二人が八坂師範代と・・・」
「経司、俺の目にも同じ風に映っているぜ。・・・、何で美姫姉ちゃんが?・・・」
〈武、汝の姉は無事だったようだな。・・・、だが、彼女が・・・〉
〈今ここで論議していても意味はないのです。あちらへ向かいましょう。経司殿お気を確かに〉
〈素盞鳴尊様とそれを宿したお方はボク達に力をお貸ししてくれるでしょうか?〉
俺達は姉の美姫と家の道場の師範代、二人がいる所に降り立った。
「姉ちゃん、それと八坂さん。どうして今まで俺に連絡をくれなかったんだよ!」
「武・・・、それは・・・・・・」
「彼等との会話を交える必要はない。行きますよ、美姫さん」
「待てッ!八坂師範代。何も説明せずに行く気か?」
「経司君。・・・・・・、君達の主神天照大神と私、素盞鳴尊は姉弟でありながら、考え方の違いから相容れないのだよ」
「アンタ、武と香取の知り合いなんだろう?その誼《よし》みでそんなこと関係なしに俺達に力を貸してくんないのか?」
「アナタ達の主神の考えが昔と変わらぬのなら、いくら乞《こ》われようとそうする気はない。そして、この現世でも同じ事を繰り返すというのなら・・・、持てる力すべてを持って天津神等《あなたたち》を討つ」
〈三貴神―素盞鳴尊、武甕槌だ。汝は今もその考えのままなのか?〉
「武の中に降りた天津よ、私の中に宿るそれに話しかけても無意味」
〈八坂殿と言いましたね?それはどのような意味なのでしょうか〉
「フッ、解からないのですか?・・・、フフフフフッ、アァ~~~ハッハッハッハッハ、解からんのか、馬鹿どもが。我は宿ったのではない!その神その者だ」
八坂徹さんの声質と口調が急に変わり、俺達を嘲る様に笑いながら強くそんな風に答えを返してきた。
「我は天津等《おまえら》が成そうとする愚行を予期して、それを止めるべく八坂徹と言う肉体《うつわ》を作り、この現世に降りたのだ。脆弱な者のそれを借りるのではなく、生まれながら鍛えに鍛えたこの体をな」
「天照《あねうえ》に伝えろっ!今もその考えを改めぬなら、我はお前らの敵にまわると・・・、行くぞ、櫛名田姫」
「待てッ!八坂師範代。何故、美姫さんまで連れてゆく。美姫さんを返せ!」
「知れた事よ、美姫に宿るそれは我が終生の伴侶。そして、この娘は我の考えを理解してくれた上で一緒にいてくれるのだ」
「姉ちゃん、それは本当なのかよッ!」
「経君、武・・・、徹さんが言っていることは・・・、本当なの。徹さんが語ってくれたアナタ達の中に宿った神様達は・・・」
「美姫よ、あの者達に何を話しても無駄だ。所詮はおのれ等を天の上の〝神〟等と名乗る愚か者どもの操り人形にしか過ぎん」
「おいていけ・・・、美姫さんを置いていけ、八坂ッ!俺は俺の意志で経津主を受け入れた仮令、オマエが知る天津神がどんな者でも俺達の祖先であることには変わらない。そして、俺はそれがどんな存在なのかも知っている。だが・・・、だが、美姫さん、美姫さんだけは巻き込むなっ!」
「経司・・・・・・」
幼馴染みの経司は言葉と一緒に今もてるすべての神気を解放させていた、憤怒の表情を浮かべながら。そして、まるで相手を倒してでも俺の姉ちゃんを取り戻そうとする感じだった。
「経津主に操られるものよ、汝の命を摘む積りはない。総ての生命を強大な力で摘み取ってしまう事を我が伴侶も望んではいない。ゆえ、汝とは闘う気はないぞ」
今まで八坂徹という人間の振りをしていた?素盞鳴の神、そのモノは冷静に経司にそう言葉を返していた。
「俺は操られてなどいないッ!俺は香取経司であり、経津主だぁーーーッ!」
〈武、経司を止めろ!絶対素盞鳴尊には勝てん。見す見す、彼の命を散らせるわけにはいかん〉
俺の中にいる武甕槌にそう言われたから瞬転して、素盞鳴尊の化身である八坂さんに挑もうとする経司を止めるため俺もまた神速で彼を追った。しかし、僅差で遅れてしまい経司は抜いていた刀を八坂さんに振り下ろしていた。
「フッ、その程度の力で我に挑もうとは愚かだな、経津主の操り人形よ」
経司の一撃を左手で簡単に受け止めると鼻で嘲笑い、右手中指で本当に軽く小突いているように見えたが実際その力は神の物だった。俺の幼馴染みは元にいた場所より数百倍も後ろに吹き飛ばされていた。
「このクソぉーーーーーーーーッ!」
「やめるんだ、経司。相手が悪すぎる。俺がいくらバカでも八坂さんの力は・・・」
「はなせ、放せよ、武、美姫さんが、美姫さんがぁーーーーーーッ!」
「俺だって美姫姉ちゃんのこと心配じゃないわけないぜ、だけど・・・、姉ちゃんは生きていてくれた。それだけで俺は・・・」
神気を込めた力で俺は経司を羽交い絞めして、それ以上動かないよう拘束した。そんな俺達の所に八坂さんと姉の美姫が移動してきた。そして勿論、経司の事を心配してくれた大地も。
「経司君、武君に助けられましたね。次ぎ合う時までにアナタ達の主神の考えが変わってい様なら私の気持ちも変わるでしょう。美姫さん、もうこれ以上ここにいても・・・」
「武・・・、経君・・・・・・・・・」
八坂さんは俺が知っている八坂さんの声と表情に変わると両目を閉じた状態でそう言葉にしてきた。姉ちゃんは悲しそうな顔を俺達に向ける。そして、その二人は俺達の前から姿を消した。
「放せーーーッ。武、恨むぞ。美姫さんが行ってしまう。また俺達の力では探れない場所に・・・、ミキサぁーーーンッ」
「香取。・・・、オマエ、本当に鹿嶋先輩の事を・・・・・・」
「なんでだぁーーーーーーーーーっ、ちくしょおぉーーーっ!答えろ、ふつぬしぃーーーッ」
〈・・・・・・・・・、経司殿〉
経司は俺に羽交い絞めされたまま悔しそうに声を出さないで涙を流していた。
美姫姉ちゃんが俺達の対局する側の後継者だなんって信じられなかった。だけど・・・、それは大地も同じ。そして、八坂さんが同じ天津神だというのに離反している神様だったなんて驚くとかそんな言葉じゃ表現が足りない、って感じを俺は受けていた。
八坂さん、それとも素盞鳴尊神?が言っていた天津神は〝神様〟じゃないって事、経司はその意味を理解しているようだった。
俺に降りている武甕槌もそんな事を後継者に選んでくれた時、言っていたのを今でも覚えている。だけど、それを俺はどんな意味なのかを分かってはいなかった。
「なあ、経司・・・、天津神とか国津神とか、って一体なんなんだ?」
「神は神だ。それ以上それ以下でもない・・・・・・・・・・・・、日本と言う国で生まれた人間にとっては」
真実など教えてくれそうもなく、経司はそう言葉にしていた。そして、最後聞き取れないくらいの大きさの声で何かを呟いていた。
「香取、いつまでもそんなシケた面してんじゃねぇよッ!もっと明るく前向きに行こうぜ大丈夫、大丈夫だ。総ては俺達の思い通りに事は運ぶって」
「そうだったな、牧岡。・・・、オマエは妹とその・・・」
「気にすんなって、サユサユがどんな国津神の力を得ていようが絶対俺に屈服させてやる」
〈大地様、また変なご想像してくださいましたね。その念は僕にも届くのですよ、まったく。・・・、それよりも皆様、この事を早く詠華様達にご報告しておかなければ・・・〉
〈そうですね、天児屋根殿の言うとおりです。戻りましょうか〉
三人、三神は素盞鳴尊の神との接触を知らせるため、詠華達がいる東京へと一度舞い戻って行く。
武達の前から姿を消した徹と美姫は有明の海の近くにいた。
「美姫さん、このような事に巻き込んでしまってすいませんね」
「その様な事を言わないでください、徹さん。私は櫛名田姫の意志ではなく、私の意志で貴方についてきたのです。だから、そんなことは言わないで」
「有難う、美姫さん。今しばらくは私の傍にいてくれ」と彼女は彼の言葉に頷いて返していた。
「ねえ、徹さん?私と同じ国津の者達にはその力を貸さないのですか?」
「私は強大な力しか持たされていない者だ。政ごとなど出来はしない。だから、人間だけじゃなく、平穏に生きる事を願っている総ての生き物達の邪魔をするモノ達を討つ事に徹する」
「それではしばらくお休みしてから、またそれらのモノを退治に行きましょうね、徹さん」
「願い、叶うなら、すべての天津国《同族》等の子々孫々、そして、この土地縁《ゆかり》の者達と共存する未来があって欲しいですね」
「そう思いますよ、本当は争いなんかしたくありませんから、私は」
美姫がそう言葉にすると二人はまたその場所からどこかへ移動して行った。
徹等が有明の海辺から移動した頃、天津神の本拠地を間借りている新中央区に武達は戻っていた。そこの場所に彼等が姿を見せると内務を司る六人六神が顔をそろえていた。
「詠華さん、報せたい事があったので仕事途中放棄して帰って来たっす」
「お帰りなさい、それとご苦労様です、武さん、経司さん、大地さん。どういったご用件で?」
天照大神が詠華さんに降りて完全同調してしまった所為なのか幾分男性恐怖症のような物が改善されているみたいだった。それのお陰で俺達、天津神の後継者の男だけには普通に喋ってくれる。
「タケちゃん、エイちゃんには声掛けて、私にはお帰りの挨拶してくれないのぉ」
「あのねぇ、照神先輩。俺達緊急報告があって急いで戻って来たんすよ。それに俺達がどんな気分でこのへ現れたのか、それくらい月読神の継承者ならわかるっしょぉ~~~」
「ウン、タケちゃん達がどうしてここに戻ってきたか、私知ってるよ。でも、タケちゃんたちには明るくしてて欲しいから・・・」
「それでも余計なこといわないでくださいよ。しかも現首相様がいる前で恥ずかしいぜ、まったく」
「いいではないか鹿嶋君。穏やかに行こうではないかね、はっはっはっはっは」
「はうぅ~~~、ごめんちゃいです」
思兼神の叡智を授かった現首相様は現状の厳しさを知っているのか、それとも知っている積りなのか、はたまた、知らないのか?温和な顔と優しい口調でそう俺とお供二人に言った。
先輩と首相様に溜息と呆れた顔を造って見せてから詠華さんに素盞鳴尊神を声に出して報告していた。
「そうですか天照《わたし》の弟が・・・、こまったものです、どうしましょうか?平潟マネージャー」
「その様なことワタクシにお振りになられても答えなど返せるはずがありません、詠華さん」
「須賀原首相様、霧島様、それと岸峰様、何かご案は?」
「はぁ~~~、そうですねぇ。邇邇芸の神様殿、どうすればよろしいのでしょうか?」
「難しいですわね、素盞鳴尊様のあの強大な力を何とかしますのは・・・」
「もう、伊邪那岐様のお力を借りることも出来ませんし、ましてや黄泉の国でお眠りなる伊邪那美様などは・・・」
「何でエイちゃん、私には何も聞いてくれないのォ~~~ッ!」
「ショウちゃんに聞いたってまともな答えは返ってきませんから」
「あぁ~~~ッ、それって酷いよぉ、エイちゃん。これでも私、月読女神よ!」
「それでは何か良いご案があるんですか?どうせないでしょうけど」
何故かそこから詠華さんも照神先輩も睨み合いを始めてくれやがった。何でこの双子姉妹は俺がいるときに限って喧嘩してくれやがるんだよ、まったく。
二人のその喧嘩にみんながしばし傍観していた。俺も勿論そうしていたけどその間、他の誰にも悟られないように武甕槌に話しかけていた。先輩、喧嘩中は俺のこと其方退けにしてくれるから心を勝手に読まれる心配はないぜ。
「なあ、武甕槌。天照大神様と月読の・・・、女神?様って仲悪いのか?」
〈あれは彼女等が素で喧嘩しているだけだろう。天照と月読はどちらかと申せば非干渉だ〉
「そんじゃっ、八坂さんは素盞鳴尊神、本人だって言葉にしていたけど、どんなに頑張っても俺や経司では戦って勝てないのか?」
〈私とて、闘うために生み出されし存在、経津主もまた同じなのだが・・・、それでも矢張り彼《か》の者の力を凌ぐのは・・・〉
「凌ぐのは何だ?言いはぐるなよ、武甕槌。俺はまだまだ上手く同調できていないようだからお前の意識すべてを理解できるわけじゃないんだ。だからはっきり答えてくれよ」
〈わかった、確《しか》と答えよう。汝と経司のもつ生命力《たましいのちから》、経津主と私が魂の力、己《お》のがすべて解き放てば、勝てるやも知れぬ。だが、然為《さす》れば・・・〉
「武甕槌、それ以上言わなくてもわかった。まだまだ遣りたいこといっぱいあるから、そればっかりは勘弁だぜ」
命完全燃焼させてそれを武甕槌の力に換え、経司もおなじことをさせて二人力を合わせれば勝てる〝かも〟しれないって言うんだろう?さらにそうすれば=死って図式だぜ。
確証がないのに命を落としてしまう、っていうのも嫌だし、何より経司にも道連れにしなければならないってのがもっと嫌だぜ。
〈武、一つ勘違いだ。私も汝も〝死〟ではなく、〝消滅〟だ。高天原へ昇臨することも許されず、黄泉の国で就臨《しゅうりん》することも出来ぬ、完全なる無となるのだぞ〉
「それってどんなに頑張っても次の機会に現世に転生できないって事か?」
〈無ハ無、無からは何も生じぬ。武、汝も私も永劫に転ずることはない〉
「まっ、まじっすかぁ~~~?それは絶対嫌だ。まだ奈落の底の落とされる方がましだぜ。それじゃ、どうするんだ、そんなおっそろしいのと対立しようなんて正気の沙汰じゃないぞ」
〈このたびも、言葉ではああいってくれたが静観してくれると良いのだが・・・〉
武甕槌と独り一神の会話をしているといつの間にか姉妹喧嘩を終えた照神先輩に背中から抱きつかれていた。俺は今までその事に全然気付いていなかった。
「ウワワぁッ、先輩を何してくれてんですか?はなれてくださいっすよ。美姫ねぇちゃんが見てないからって勝手してくれやがって」
「ショウちゃん、なに武さんにその様なフシダラ事をしてくれているのですカッ、離れて下さい」
「エイちゃんにそんなこと言われる筋合いないよォ~~~だっ!」
このままだとまた有識者たちの皆様の前でこのバカ先輩と国民的歌姫が喧嘩してしまいそうだ。そんなのがゴシップネタに載ってしまっては詠華さんが可哀想だな。
「タケちゃん、酷いよォ~~~、私のことそんな風に思うなんてぇ~~~」
勝手に俺の心を読んでくれている照神先輩に言葉も掛けず無視して、詠華さんにはお辞儀をしてその場から別の場所へと瞬移する。月読の女神?はこの力を持ってないから追いかける事は出来ないんだぜ。どこの場所に出たのかわからないけど、俺の行動を予期していたのか?経司と大地が付いて来ていた。
「ハハッ、武も大変そうだな。伊勢野先輩と美少女歌姫の詠華に好かれちまってよ」
「笑い事じゃないぜ、大地。こっちの身にもなってくれよ、まったく」
「贅沢言うな、武。あんな可愛らしくて綺麗な二人に好かれているのだぞ。どっちが好みだ?二人とも双子で顔同じだけど」
「経司、オマエまでいい加減にしロッ!」
そんな風に言葉にしてから幼馴染みに神の速さで頭にチョップしてやろうとしたけど、難なく受け止められちまったよ。
「まだまだ、修行が足らんな、武。フンッ」
受け止めた俺の手を払い、言い終わりの最後に鼻で笑ってくれやがった。その顔は姉の美姫との突然の邂逅時に渦巻いた色々な感情を吹っ切っる事が出来たようなそんな感じだった。
これから先、天津神後継者である俺達はどんな風な未来に進んでいくんだろうか?少しくらいの未来見ができる力を有した月読女神の後継者の照神先輩は何かを鮮明に見通せているのだろうか?
聞いてきゃ、よかったかな?そんな事を思いながら、俺は経司と大地と一緒に朝焼けまであやかし退治を続けてゆくのだった。
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