転 神 ~ 人類の系譜・日本神話 編 ~

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第 玖 話 陽と陰、二人の女神

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 霜月の初め、武達一行は新たな形の瘴気の取り憑きを垣間見る。
 今まで、其れは無生物に憑き、魑魅魍魎と化していたけど・・・、それが人の持つ欲望に取り憑いてしまうという事件が相次いで起こっていた。そして、その憑依されてしまった者達は化け物になってしまい人間の命を脅かしてしまう存在へと成り果ててしまう。
「詠華さん、早くこちらのお車へお乗りください」
「え・い・かっ、詠華ッ、エ・イ・カッ!」
 詠華と呼ばれるその人物は熱狂的観客を警備員に押しのけてもらい車の中に導かれていた。
「平潟マネージャーさん、有難う御座います」
 芸名・緋榁詠華(ひむろ・えいか)、十七歳。本名は・・・。現在、老若男女に問わず人気がある国民的超人気歌姫。性格は裏表なしでとても誇れる物であったが彼女自身、名声やその性格を鼻に掛けない本当に良い躾の女の子だった。ただ、歌姫であるのに何故か舞台の上に立っているとき以外は極度の男性恐怖症。

 詠華が車に乗ると運転手は警笛を鳴らしながらそれを発進させた。
「今日も本当に遅くまでご苦労様でした、詠華さん」
「ハイ、今日も頑張ってお仕事をさせていただきました。私が歌うことで皆様が元気になってくださるなら体調を崩したって歌い続けます」
「其れは困ります、事務所の上の者達がなんと言ってこようと私は詠華さんにそこまで無理をさせるつもりありません」
「心配しないで平潟マネージャーさん。体調にはちゃんと気をつけますから・・・、それに今はこの国で大変なことが色々と起こってしまっていますから、危険な中で態々、会場まで足を運んでくれました皆様、テレビを見てくれている皆様を明るく導きたいのです」
「ウフフフッ、本当に詠華さんって優しい子なのですね。私はそんな貴女のマネージャーをやらせてもらって嬉しく思います」
「もォ~~~、平潟マネージャーさん。詠華をそんな風におだてないで・・・、キャッ!」
『ズガッシュッ、ズババババッバババぁッ』
「はぁウッ、運転手さんどうしたんですか・・・、きゃあああぁぁぁああああっ」
 何かの異変が起きた事に詠華は可愛らしく驚きの声を上げ、彼女の付き人兼仕事交渉担当は運転手の方を見ると大声で驚きの声を上げた。
 車が人通りのない場所の信号待ちで停車している時、暗闇の中から突然、巨大な物体が現れ車の前方動力室をぶっ潰し、拳らしき者で前面ガラスを砕いて運転手の首根っこを捕まえ圧し折っていたのだ。
 そして、その者を力任せに外へ放り出すと、車の上部外壁を取っ払い詠華や平潟に目を向け、涎を垂らしながら近付こうとする。
「いヤァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
 詠華は頭を抱え、その化け物を見ないようにしながら大声で叫んでいた。平潟の方は失神してしまったようだった。
 化け物が彼女らの着ていた物に手を掛け、それを引き千切り、少しばかり露わにした彼女たちの玉の肌を見て、にやけた表情のような物を作っていた。
 そして、今にもその怪物が次の行動に移ろうと手を動かそうとした時だ。
「やらせるかぁーーーッ!武甕槌〈武、いいぞ!〉『瘴は消と帰せ、雷昇拳』でやぁーーーーーーっ!」
 その言葉とともに神気を込めた手刀を化け物の中心に突き刺す。
「しョォおぉオオーーーっ、メツッ(瘴滅)!」
 そんな風に叫び終えると俺はその化け物の体内に神気を放出させてやった。
 すると、其れは化け物全体を覆い霧のようなものを発生させた。
 更にそれが霧散すると相手は徐々に人に姿を変えて行く。
「たけるぅ~~~、こっちは片付いたぞォ~~~~~~」
 そう呼びながら移動してくるのは大地だった。それとほぼ同じくして経司も姿を見せてくれる。
「・・・、フゥ~~~、こっちも何とか人に取り憑いた瘴気を浄化できたけど、また一人救えなかった人がいるんだ」
「武、悔やむな。俺たちだって万能ではない。だから、助けられた者達だけでも今は保護してやろうな」
「分かってる、湿っぽいのは俺のキャラじゃないから」
 経司にそう言葉にすると助けたる事が出来た二人の方を確認していた。・・・がしかし、俺は目のやり場に困り直ぐにそれを逸らしてしまう。
「おい、武?何だ顔赤くなってるぞぉ」
 大地は口に出してそう言ってから俺の背の後ろにいる者達を眺めた。そして、目を瞑ってから俺を鼻で笑ってくれやがった。
「経司、その・・・」
「言葉にしなくても分かってる」
 俺と経司は上着を脱ぎ、俺は背を向けたまま、経司は瞳を閉じて服を彼女達に投げ渡していた。そして、大地も同じような事をしていた。
「それ着てくれよ・・・」
「アッ・・・、その・・・、有難うございます。・・・、平潟さん、平潟マネージャーさん。起きてください。私たち助かりましたよ。平潟さん」
 詠華はいまだ残る恐怖心からぎこちなく武に答える。
 そして、現実に自分が助かったのだと知り、それを刻々に実感し泣き出してしまいそうな波が心に押し寄せていた。だが、泣いてしまいそうになる表情を堪えて、マネージャーを軽く揺すって起そうとした。それから少しして、平潟は小さな呻き声を上げてから頭を振って身を起こす。
 その間、武達は大地の中に居る天津神に呼びかけていた。
「なあ、天児屋根神様、彼女たちの服直すことは出来ないのか?」
「おい、武っ!勝手に児屋根に話しかけるな!」
〈宜しいではないですか大地様。武様のその問いのお答えですが可能ですよ、私の主がそれを願ってくだされば〉
「ッてことで頼むぜ、大地」
「嫌だめんどくせぇ~~~、そんなこたぁ。それに俺、この格好でも別に我慢できなく無いし」
 大地の奴はそう答えてくると着替え終わっている二人の方を覗いていた。
「???、若しかしてあんた等、緋榁詠華とその御付かぁ?」
「だれだ、それは?」
「ひ・む・ろ・え・い・か?聞いたことないぜ、俺も」
「武も香取も二人とも知らないのか、マジで?彼女、今を時めく国民的歌姫だぞ」
「知らん。俺、そういうの興味ないしな」
「俺も経司と同じ、そういうのどうもね・・・」
 幼馴染みの経司も俺も芸能関係には余り興味を持っていなくて、そういうのには疎い。本当は経司の場合、女の子は美姫姉ちゃん一筋だから・・・、なんて口にしたら無言で殴られるだろうから言葉にしないことにする。
「ふぅ~~~、そうでしたねぇ、すっかりわすれてましたぁ。相手は国民的歌姫だ。無償で服し立て直してやるか・・・、児屋根どうするんだ?」
〈それではいつものように神降ろしします。経司様も、武様も、大地様にお力をお貸しくださいね〉
『我、天児屋根、姉神、織神、天羽槌雄神、言乃神命有里手、我其礼乎下須。下里麻世、降里麻世、此処辺下里麻世』
〈妾を呼ぶのは天児屋根かえ・・・、あらあら、今のあなたの主はそのお方かえ?可愛らしいお子様だこと〉
「俺をお子様って言うなぁーーーッ!ってそれより早く済ましちまって呉よ。なんだか気分重いぞ」
〈天羽槌雄様、目の前の婦女子様の方のお服をお仕立て願えないでしょうか〉
〈妾は今しばらくこの坊やの中におりたいのですがねぇ、いたしかたあるまいか・・・・・・〉
 大地の中に下りた織物の神、天羽槌雄は彼の体を動かし何かの動作をさせようとする。彼は左腕を伸ばし親指、人差し指、中指、を伸ばした状態で何かをぶつぶつ言い出した。
 何かの言葉を唱えている間、中二本の指の間から光の糸が詠華達に伸び絡みつく。そして、その言葉の終わりにその光は一瞬眩しく輝きだし、その光が収束すると脱ぎ捨てないで中に来たままだった彼女らの其れは復元していた。
 そんな大地の行動を俺も経司も黙って見ているだけだった。
「天羽槌雄の神様だっけ?ありがと、サンクス」
〈ワラワノ力が必要なら、いかような時でもよんでくだされな〉
 大地にそんな言葉を言い残すと彼の中からその存在を消し去った。
「よっし、服直しも済んだ事だし、俺達が送ってやるから安心してくれていいぜ」
 大地が言葉と一緒にその二人に手を差し伸べるとどうしてなのか彼女は身を竦めて丸くなってしまった。
「あなた方は一体何者なのですか?・・・、でも、助けてくださって有難う御座います。わたくし、彼女のマネージャーの平潟といいますが・・・、その詠華さん、男の方にその・・・・・・、なので。ごめんなさい」
「ああそうだったなぁ、売れっ子歌姫が男恐怖症ッテ奴だろう?ちっ、それっておかしいんじゃなぇのかぁ。何でそんなんで舞台たてんだ?」
「別にそうならしょうがないじゃないか、岸峰先生でも呼んで送ってもらうぜ」
 その歌姫の子の一番傍にいた俺がそう大地に答えると、何故か彼女は俺の袖のすそを引っ張っていた。
「アッ、あのぉ~~~、武さん、って呼ばれていましたよね?あの・・・その、あなたとなら・・・、その大丈夫です」
「オイッ、何で俺様が駄目で、武が大丈夫なんだ。納得いかねぇえぜぇっ」
「其れは武と牧岡の日ごろの行いの違いだろ、フッ」
 経司は瞳を閉じ感慨にめいた表情で大地に言葉を投げていた。そして、最後、鼻で笑う。
「詠華ちゃんっていうんだっけ?もう大丈夫か?」
「えっ、はい・・・、なんとか」
 俺は柄になく顔を赤らめ彼女を無残な形の車の中から地面に立たせてやっていた。
「おい、武。言っておくけど彼女お前より一つ年上だぜ〝ちゃん〟付けは失礼だぞ」
「大地の口からそんな言葉が出るとは明日で俺達の未来は終わりだな」
「言っちゃってくれやがって」
「平潟さんて言いましたね?これからあなた達を俺たちで送り届けてあげます。出来ればご自宅の場所を・・・」
 経司が平潟って言うマネージャーにそう聞いている間、俺は隣に立っていた詠華さんの顔を失礼だけどまじまじと覗いてしまっていた。そして、不思議な顔を作ってしまってもいた。
「なァ、大地、経司。俺、何かに憑かれているかもしれない・・・、幻覚を見ているようだ」
 最近は瘴気を宿した者達とばかり戦っていたから、その瘴気に当てられ精神的に弱ってきたのかもしれない・・・、それにいまだに姉ちゃんの美姫は行方が知れずだし。
「何を言っている武?」
「どうしたんだ、顔引き攣ってるぜぇ」
「だって、その・・・、詠華さんが・・・・・・・・・、照神先輩の顔に見えるんだよ」
 俺の言葉にこんどは彼女の方が不思議そうな顔を作って俺達にとんでもない言葉を出してきた。
「エッと・・・、その・・・あの・・・、そのショッ、ショウカ?・・・その先輩って方の苗字はなんっておっしゃるので・・・すか?」
「い・・・せの?伊勢野・・・、だったとおもうぜ」
「・・・、そうですか・・・・・・、えっとですね、ワッ、私の本名は・・・あの、その、伊勢野詠華っていいます。多分、ショウちゃんは私の双子の姉」
 何故か顔を紅潮させた状態で彼女は震えながら最後までそう言いきった。
 それを聞いて俺は驚愕の顔を作り、他人の空にだとは思っていたが言葉には出さなかった経司は鼻で笑って納得顔に変え、大地は平然としていた。そして、
「そうだったのか・・・、これ、いちおう照神先輩の彼氏だから」
 嫌味な笑みを作りながら経司は親指で俺を指していた。経司の奴はそんなにも俺と先輩をくっつけたいのかよ、まったく。
 で、経司がそんな事を口にした時、一瞬だけ、詠華さんが不機嫌な顔を作っていた事なんか俺が気付くはずないで弁明の言葉も思いつかず、親友に食って掛かっていた。
「バッ、莫迦言ってんじゃねぇぞ、経司、張った押すぞ、電撃喰らわずぞッ!」
「怒るな、怒るな、冗談だ、武。照神先輩の家なら聞かずとも分かるな・・・、さっさと送ってやろう」
 今にも経司に雷撃を降ろそうとする俺へ、奴はそんな言葉を口にして背を向け歩き始めた。そして、それを追うように俺は歩みだそうとした。
「アッ、あの・・・、その武さん。手をお繋ぎしてもらっても宜しいですか?」
「潔癖症なんだろ?良いのか、俺で」
「エッ、ハイ、お願いいたします。・・・・・・其れに私潔癖症ではぁ・・・」
 最後彼女なんて言ったんだか知らないけど詠華さんの言葉に俺の方から彼女の手を握ってやっていた。それから車を放置して俺達は人の足の速さで送り主の家の方向へと進路をとった。そして、歩きながら自己紹介をする。
 二人を助けた場所から歩き始めて約一時間、初めに到着したのは照神先輩の自宅だった。
 移動している間、一度も俺達の倒すべき敵は一人、一体も現れなかった。それは広域結界のお陰と凶悪な物の怪や人に取り憑く魑魅魍魎が少ないからだろう。だが、俺達、いや俺に限定であやかし以外にも襲い掛かってくるモノが居た事を忘れていた。
 その家の敷地内に足を踏み入れた時だった。俺の到来を予期していたのか躾の悪い猛獣が一匹襲いかかってくる。
「タケちゃぁ~~~ん、今晩は。はうぅ~~~、こんな時間に私に愛に来てくれたのねぇ」
 字間違いの言葉を発しながら伊勢野照神先輩は俺に抱きついていた。俺の逞しくも何ともない胸中で頗る嬉しそうに頬ずりする先輩。そして、更に彼女は俺が握って上げていた詠華さんの手をはたき、強制的にその行為を止めさせてくれていた。
「ウワッ、照神先輩。何すんですか。離れてくださいっす、マジで、本当に」
「ショウちゃん、いたいよぉ。なにするの?」
「決まっているでしょ、エイちゃんが勝手に私のカレと手を握っているから」
「オイ、オイ、いつから俺は照神先輩のそれになったんだよ。願い下げだぜ、そんなこたぁ」
「酷いよォ~~~、タケちゃぁ~~~ん」
「ショウちゃん、武さんが嫌がっているじゃないですか、止めてください」
「ところで、何でエイちゃんがタケちゃんと一緒なの?お仕事は?平潟さん今日はどうして・・・」
 先輩は妹の言葉など無視して、俺に抱きついたまま、平潟さんにそう尋ねていた。
 詠華さんも平潟さんもその説明をどう口にしようか困惑した表情で考えていた。そんな二人を見て言葉を出したのは大地の奴だった。
「ああ、それなら俺達が街でぶらつき遊んでいる時に彼女たちを軟派したのさ」
「其れはウソですねぇ、ハイッ。ダイちゃんは女ッたらしのように見えますガァ~~~、とても堅実なこと私は知ってまぁ~~~っす」

 大地と照神の言葉の遣り取りをただ黙って聞いていた経司と武は何かを感じ取っていた。其れは二人の中にいる武甕槌神と経津主神も、そして大地の中にいる天児屋根神も。
「どうしちまったんだ、二人とも黙ったりして?」
「どうしてなんだよ。・・・・・・、どうしてなんだ?これも偶然なのか、武甕槌?」
「経津主、今までこれに気付かなかったとはどういう了見だ?」
〈武よ、その説明は二人を覚醒させてから、聞いてみればよかろう。我の知るところではない〉
〈経司殿。・・・、憶測の域です、このお二方がそろったからこそ感じ取れたのです〉
「詠華さん、聞きたいことがある。いいか?」
「エッ・・・、ハイ・・・・、その・・・、経司さんでよろしかったですね、なんでしょうか?」
「仕事で今までここに帰ってこなかったのか?」
 経司のその問いに詠華はモジモジとしながら答えを返していた。
 彼女は文月の頃から地方巡業で九州の方から上京してきて今日が最終日でそれが終わってからここえ帰ってくる予定だったと述べていた。
〈武、彼女ら二人の中に眠っている天照様と月読を目覚めさせるぞ〉
「どうすんのさ?どうやってそんなことするんだよ?」
「武、そんなこと決まっているさっ!伝説の話と同じなら天の巌戸のなとやらで、椿先生がストリップショーするんちやうのかぁ?」
 大地は締まりのない顔で伊勢野家の自宅前にいる者達にそんな事を口にしていた。
〈その様な馬鹿な事を申していませんで、邇邇芸様たちをここへお呼びしましょう、大地様〉
〈天照様を完全に目覚めさせるには天津達みなの力が必要だ。国津の者や他の邪魔者達が感付く前に事を成し終えねば〉
「経司、大地、お前ら校長先生の電話番号とか知っているか?」
「武、そんなこと必要ないぜ。俺様が児屋根を使って直接交信してやる」
〈大地殿、其れはよくありません。気の波を用いて交信を行えば国津の者が必ず察知してしまいます〉
「それじゃ、牧岡と俺でばらばらにみんなを呼びに行こう」
「経司、何で俺は含まれていないんだよ?」
「分かりきった事をいうな、オマエは彼女たちのお守りとしてここに残るだけのことだろう?」
「やっ、ヤダ、絶対嫌だよ、そんな事できるかっ!照神先輩と一緒に居たら何されるか、分かったもんじゃないよ」
「私、タケちゃんに変なことなんってしないよォ~~~。それとみんなしてわたし達を除け者にしてくれちゃって何を会話してるの」
 困惑した表情の武を経司も大地もせせら笑って人前にて神速移動で二人は姿を晦ましてしまった。
 消えてしまった二人の事をどう説明しようと悩んでいた武だが言葉を出す前に役者は全員そろってしまった。
 伊勢野家の邸宅前に十一人と十一神が姿を見せたのだ。それらの人物達の登場で目の見えない照神は何かを悟ったように、その双子の妹と彼女のマネージャーはたじろぐばかりだった。
「やっと天照様をお見つけになったのですね。でかしましたよ、三人とも」
〈流石は武甕槌、経津主、天児屋根の後継者たち。この邇邇芸、感服いたすところだ〉
「霧島校長、労いの言葉は後にしてください。私達が一箇所に集まれば国津の者達が気付かないはずありません。直ぐに儀式を・・・」
〈天児屋根、天手力男、天太玉、石凝姥、天石門別、それと大地さん、天児屋根と共に天羽槌雄を降ろしてくださいな〉
「エッ、マヂデェ~~~、さっき降り下ばっかなにのぃ・・・、あの神様降ろすと何故か精気を吸われていくようで気分が重くなんだよなぁ・・・」
 天津神達の後継者等が今にも天照を降臨させる儀式を始めようとしたとき、とある一角の陰でその様子をアタフタと慌てた表情で頭を悩ませている少年がいた。
「あわあわわあぁぁわ、どうしよかな?天照と月読の後継者を見つけたのはいいけど・・・、あの中に飛び込んで彼女だけを仕留めるなんて、僕には絶対出来ないよ。それに武君たちと顔を合わせたくないし。・・・、どうしよう。でもあの子が天津神主神のあれだったなんって。学校の中だけを探していたんじゃ見付かるはずなかったんだね。あああっぼくぅ~~~、彼女の大ファンなのに・・・本当にどうしようかなぁ?」
 国津神、事代主の神を宿している諏訪勇輔は頭をぐしゃぐしゃと掻き回しながら算段を練っていた。彼自身ではどうにもならない事に気が付くと同族しか察知できない念を琢磨に送っていた。
 それから、十を数えない裡に国津神主神―出雲琢磨と天津甕星を宿したままの八幡七星、その仲間達が勇輔の前に姿を見せた。そして、その中には無論、彼の妹の那波もいた。さらに・・・。
「ウム、ご苦労であったな、勇輔クン。儀式が完遂する前に奴等を叩く」
「しかし、琢磨様、こんな場所で戦ったら周りに被害が」
「事代主よ、心配はいらん。我々と一緒に別の場所に強制転移させればよかろう」
「矢張りわたくしたちは彼等と・・・」
「那波、それ以上言っちゃ駄目だ。僕だって嫌なんだ」
「二人ともすみませんね。ですがこの国の明日のために・・・、お願いいたします」
 国津神の後継者たちは各々の顔を見合ってその意志を確かめ合った。
「それではみな参るぞ」
 大国主の神―琢磨、少彦名の神―井齊博志(いさい・ひろし)、天津甕星の神―七星の三人はその場に居る天津、国津神を強制転移させるほどの強大な神気を練り上げ始めた。
「〈この気の流れはっ!〉」
 霧島新太郎とその中の邇邇芸の神が国津神の神気を感じ取ったときは既に遅く、全員が国津神の意志どおりにどこかに移動させられてしまった。
「いってぇーーーッ、なんだってんだよ。いったい何が起きたってんだ?」
〈武、直ぐに臨戦体勢に入れ。国津の者やつらが姿を見せたぞ!〉
「本当かよ、これからって時に・・・?詠華さん、大丈夫?」
「アッ、有難う御座います、武さん。何が起きたのですか、いったい?」
「はうぅ~~~、何でタケちゃん、私じゃなくてエイちゃんにだけそんなことするのよぉ」
 武の近場に倒れていた詠華に彼は手を差し伸べ、優しく抱き起こしてやっていた。そして、ヤッパリ近くにいた彼女の姉、照神が彼に愚痴をこぼす。
 目が見えないはずで可愛らしく地面に座り込んだままのそんな彼女に武は溜息をついて見せ、詠華と同じ事をしてやっていた。
「フフッ、ヤッパリタケちゃんって優しいぃ~~~」
「だから、抱きつくなって、照神先輩!」
 彼は彼女に抱き付かれたままの姿勢であたりを見回すと、どこかの山中のようだった。
 周りに二人しかいない事に気が付いて彼女らを抱え、上空に飛び立った。
「武甕槌、みんなはどこだッ!」
〈慌てるな、武。いつものようにみなの気の波を感じるのだ〉
「照神先輩、詠華さん、俺に確り摑まっていて」
 彼が二人の女の子にそう言葉にすると姉は嬉しそうに力強く、妹は恥ずかしそうにするけど矢張り可能な限り力を入れて、しがみ付いた。それの行為が分かると同族の気の波を辿ってその場所へと向かって行く。
 山のすその辺りまで来るとその場所で既に国津と天津が戦闘を始めていた。
「二人を抱えていちゃ戦えないぜ、霧島校長は?岸峰先生はどこだ?・・・、あそこか?」
 目視で確認できる場所に居た二人の先生のところへ急降下してゆく。
「鹿嶋君、無事だったのですね。・・・、それと彼女ら、お二人をお守りしてくださったようで」
「先生、そんなことより、天照大神ってのはすぐに降ろせないのか?移動中、武甕槌に言われたんだけど向こうには主神がいるみたいだぜ」
「武君でしたね、儀式は数分くらいで終わりますが・・・、その間、キミと経司君二人だけで向こう側と戦わねばならないのですよ。それでもいいのですか?」
「でも、どっちにしろその神様降ろさないと俺達の本気出せないんだろう?だったら経司と死ぬ気で死守してやるさ」
 武はそう新太郎に言葉にすると経司の戦っている場所へと飛んで行った。
「やっと戻ってきたか、武。他のみんなは?」
 武が最初に接触したのは経司だった。そして、国津の者達の攻撃を回避しながらその幼馴染みにこれからどうするのかを簡潔に伝えていた。

 その二人が丁度顔を合わせた頃に別の場所で血を分けた兄弟が対峙していた。
「大地。・・・、お願い、アタシ達の邪魔をしないで。アタシは大地とは戦いたくないの。もし叶うなら国津神の仲間あたしたちのところへ来てよ」
「沙由梨・・・、仲間になれだ?ふざけたこと言ってんじゃねぇよッ!オマエが俺様の前に立ちふさがるなら仮令どんなに可愛い大事な妹でもぶっ潰す。それだけだ」
〈だっ、大地様。その様な事をしては沙由梨様が・・・、ああぁア、何故、僕は沙由梨さまのお傍にいたのに国津の魂の波動を感じられなかったのでしょうか?よりにもよりまして素盞鳴尊様の・・・、大地様、僕は沙由梨様とあなた様がお闘いになるというのなら力を貸したくありません〉
「児屋根、ふざけた事を言うな。俺は天津神の後継者だ!そして、お前はその天津神だろう?これが運命だって言うんなら俺は抗いわしない。その使命に殉ずるだけ」
〈大地様・・・、お強いですね。矢張り貴方様は紛れもなく、この天児屋根の正当な後継者です〉
「よっし、解かってくれたな、児屋根。沙由梨を生け捕りにして、引ん剥いてお尻百叩きの刑にして進ぜ様かぁ。そして、〝お兄様ごめんなさい、許してください〟って言わせてやるぜ」
「莫迦言ってんじゃないはよ、馬鹿大地。もう怒った、アタシに絶対服従させてやるわ。そんな妄想を二度と口に出来ないようにしてあげる」

 大地と天児屋根神のその刹那な会話が終わって、最後はそんな事を妹に向かって言い放っていた。それから沙由梨がそれに言葉を返した時に丁度、椿がその二人の前に現れた。
「牧岡君、天照様をお呼びするのにあなたの力が必要なの直ぐに来てくださる?」
「椿センセっ、今から面白く戦おうとしたところなのに、横槍入れないでくださいヨッ!」
「そんな事を言っている場合ではありません」
 椿は大地の腕を掴むと、沙由梨に方に顔を向けニッコリと微笑んでから瞬転して消え去った。
「大地・・・、アニキ」
 独り、残された彼女は兄の名を告げ、最後に姿を消してしまった彼を〝兄貴〟と小さく呼んでいた。そして、沙由梨も仲間の気配を探り、その場所がわかるとそちらに向かって移動してゆく。

 武と経司以外の者達が二人の見える範囲、一箇所に集まり天照大神を降臨させる神儀に取り掛かろうとした。
 その儀式を阻止しようとその場に集まっていた大国主の神以外の国津の後継者達が攻撃を仕掛けようとする。
「お前らは俺達がまとめて相手してやるっ!」
「武、あの子供には注意しろ!」
「何を冗談言ってんじゃないぜ、経司?」
〈まさかい・・・、あの子供が?武、油断するな。経津主いいな?〉
〈経司殿、武甕槌殿も私と同じ者を感じたようです〉
「武、あの子供に降臨しているのは最兇の神、天津甕星って奴だ」
「何で国津神なのに〝天津〟甕星なんだよ、経司」
「そんな事を考えている暇はない、来るぞ!」
 経司は言葉を言い切る前に鞘から刀を抜いて、それに神気を込めていた。
 武の方は気合を入れるために大きな雄たけびを上げ、全身に神気を纏わりつかせる。
 この時代において、幾千年ぶりの天津〝神〟と国津〝神〟の両神がその神の力を持って戦いを始めようとする。其れは人智を越えた、戦いであることは言うまでもない。
 両神が放つ神気がぶつかり合えば周囲の大気は悲鳴を上げ、その神々の握る剣の刀身や拳が触れ合えば爆音と共に激しい光と凄まじい熱が周囲を焦がす。
 それらの人に神と呼ばれる者、特に武甕槌、経津主、天津甕星、建御名方が放つチカラは第三次世界大戦時に使用されたどの武器の威力をも軽く凌駕していた。ここに若し大国主の神がいなかったら周りの空間が消え去ってしまうほどの破壊力だった。
 国津神の主神を受け継ぎし、出雲琢磨は闘いによって破壊される周囲の自然をその神が持つ自然創造の力によって瞬時に修復してゆく。
「どうして、キミが?なぜだっ、那波ちゃん!」
〈汝が建御名方の継承者だとでも言うのか?なら、今一度、我々のもとへ〉
「武さん、お願いです。私はあなたとは戦いたくないのです。ですからその拳を引いてください。国津神わたしたち天津神あなたたちと違って一つの肉体うつわに二つの魂を共有しているのではなく、一体化しているのです。いくら武甕槌神のアナタが私の中にいる建御名方に呼びかけても答はしません」
〈何たる事だ・・・、なら汝に問う。我々に従う気はないか!〉
「其れは・・・」
 彼のけんと彼女の剣が激しくぶつかり合う。お互いが闘う事にためらいを持っているのか?二人とも存分に出し切れていなかった。
「武ッ、何をやっている!戦いの最中さなかの迷いは命取りになるぞッ」
 経司は七星と勇輔の攻撃を返す刀で受け流しながら武に注意の言葉を掛けていた。
 天照の存在がなくてその力を十分に発揮できない天津神のその二軍神、完全な後継者に宿っていない天津甕星の力、躊躇いがちに戦う、武神と一体化している那波。矢張り闘う事に躊躇いを持っている勇輔。
 その様な不完全な力のままで闘う両神、両者。それでもその威力は常識はずれだった。若し、完全な力を完全なるままに引き出し全面衝突でもしようものなら、小さな国など消え去ってしまうかもしれない。人の目に捉えることが出来ないほど高速で激しい戦いが十数分間続いている。そして、其れは今にも天照が降臨しようとした時だった。
〈武、迷うなっ!〉
「ダメダッ、やっぱり彼女を傷付けることなんって・・・」
「武ッ、何をやっている!」
「そちらへは行かせません、経司君」
「しつこい、邪魔だッ、ゆうすけえぇーーーーーーーーーッ!」
 勇輔が神言を唱えて放った巨大な火球は通過点の大気を焦がし、空間視界を歪めていた。
 その飛来する大火を経司は水属性の剣技で切り払い、裁断する。
 崩れて散り散りになった火の粉は経司を中心に四方八方へと降り注ぎ、其の地表を焼き、辺り一面に炎の叢を急速に繁殖させた。
 其の状況に構わず経司は上空で戦っている武のもとへ急ぎ飛翔してゆく。そしてそれを追う勇輔と七星。
「武さん、全力で闘う気がないのなら・・・、ここから去ってください!でないと私、本当にアナタをこの手に・・・」
 どうして、那波は武と戦う事を拒もうとするのか?・・・、それは武が知らない過去、覚えていない過去に理由があった。たった一度の邂逅とその時に彼から受けたほんの小さな優しさが今の彼女の行動に歯止めを掛けていた。
 そして、武が本気になれない理由は神の力を宿していても相手は人であることには変わらないからだった。あやかしの命なら簡単に摘むことは出来ても人には同じ事を出来ないようだった。
 武は那波の剣閃を読んでそれを拳で払い除けるだけ、彼の方からはけして攻撃を仕掛けなかった。経司が那波と武に割って入ろうとしたとき、それよりも早く七星は武に体当たりを食らわそうとしていた。そして、
『ヅバッ!ズブシュッ』
 何かが何かにぶつかる音と何かが何かを貫く音が周囲にこだました。
「えっ?!」
「タケルぅうぅうぅぅうぅうぅぅぅうぅぅぅぅっぅうぅうっっーーーーーーーーーッ!ゆぅ~るさんっ!」
「でかしたぞ、我が同族きょうだい、建御名方の力を受け継ぎし者よ」
 七星は武の背後から体当たりを食らわし、その丁度飛ばされた先に那波が突き出そうとした霊剣の刃先があったのだ。そして、それにより武の胸部は深々と突き刺されてしまっていた。
 ぐったりとし、己の身に何が起こったのか理解出来ていない表情を作る武。彼の強く噛み締めている唇脇からゆっくりと垂れる体内から逆流する血吐。経司は血相を変えて、七星に宿る天津甕星はそれを見て嘲り笑い、勇輔は驚愕の表情を浮かべ、そして那波は、
「武さん?・・・、いやアぁーーーーーーーーーーーーーーッ!」
 叫びながら握っていた霊剣から手を放し、頭を抱え震えてしまった。彼女の手から離れた武に突き刺さっていた其れは一瞬の内のその存在をけす。そして、彼の胸部から消え去ったその部分から鮮血が噴出し、血の雨を降らせ、神気の波が漏れはじめる。
「うっ、うぅうっぅうううううう」
 力を失い姿勢制御など出来るはずもない武は呻きながら地表へと落下しようとする。そんな状態の彼を助けようと経司は勇輔をなぎ払い、七星を強力な蹴りで明後日の方向へと飛ばし武を捕まえ、血が噴出している胸を手で押さえ止血する。
「オイッ、確りするんだ、武!ちくしょおぉーーーーーーーーーーーーッ!何で武がこんな目にあわないといけない。応えロッ、経津主ぃーーーーーーーーーッ!」
 経司が裡に宿る天津神のそう叫びの声を上げた時、曇天模様の空から暖かく、柔らかく、そして優しい一筋の大きな光が降り注いだ。儀式を行っていた天津神の中心に其の光は届き何者かが降来した。
「私が・・・、そうなのですね?皆様、今までご迷惑をおかけして申し訳に御座いません。天照様もみなにお言葉を・・・」
〈みなのもの悠久の時を隔ててイマ妾は再びこの地に下りた。これがどのような意味かミナにはわかっておろうな?〉
「アマテラスさまぁ~~~、タケちゃんが、タケちゃんが早く彼を助けないと・・・」
〈私の主よ、大丈夫です。姉上はその様なこと言葉にしなくともお分かりしています。さあ、貴女様も彼をお助けするためのその力を姉上に〉
「皆様、これから皆様の力を解放します。その力であの者達を・・・、天照様、よろしいですね?」
〈すべての決定権はワラワノ後継者である汝が下せばよい。妾はそれに力を貸すだけだ〉
「有難う御座います」
 天津神主神―天照大神をその身に宿した伊勢野詠華は神気を乗せた声で歌い始める。
 大気を揺るがし広域に伝わる彼女の声。
 産まれる前の赤子が母親のお腹の中、羊水内で過ごす様な、すべてを暖かく包み込む心地よさが、彼女の歌声に乗っていた。その声を聞いた同族の者達の封印されていた力が完全解放してゆく。解き放たれた力、本来の力を発揮出来る事を感じ取った天津たちは国津に反撃を開始しようとそれらがいる方角へと飛んでゆく。
 月読神の力を継承した詠華の双子の姉、照神は瞬足で経司が抱える武の場所に移動し、彼から傷付いた者を譲り受けると妹の前に再び舞い戻っていた。
「エイちゃん、早くタケちゃんを助けるのっ!」
「その様なことショウちゃんに言われなくても分かっています。・・・、武さん」
 詠華は照神が地べたに寝かせた武を抱きしめ涙を流していた。
「こらっ、なにそんなことしてるのぉ。ショウちゃんにそんなことする権利ないのよぉっ!」
  妹は姉の言葉を無視して、小さく何かを唱えていた。
それがどんな言葉だか姉は知ると彼女もまた何かをぶつぶつと続く。
 双子の姉妹は対極に立ち上がり胸元に片手を添え、もう片方の手は腕を水平に伸ばし、その手、両手に別々の印を組んでいた。鏡合わせの様に向き合う少女等が今、始めようとするのは癒儀の識。
 詠華と照神が言葉を唱えている間、武の胸から流れ出していた血と気の流れが徐々に弱まり、その二人が言葉をやめた頃には傷は綺麗さっぱり、血痕すら消え失せていた。
 色を失い掛けて死人の様だった武の表情が次第に、生の色を徐々に取り戻してゆく。
 それから程なくして武は詠華の膝に頭を乗せた状態で目を覚ます。
「・・・?俺、助かったのか」
「武さん、ご無事で」
「タケちゃん、いつまでそんな格好してる積り?私、機嫌損ねるわよぉ」
「どうぞ、ご自由に」
 武は身を起こしながら照神にそう言葉を残し、再び戦いの戻ろうとした。しかし、もうそうする必要はなかったようだ。
「みんな、どうして戻ってきたんだ?」
「逃げられちまったヨォ~~~、ここからが俺様の本領発揮って所でなぁ」
 天照の降臨を知った国津の主神は体勢を立て直すために撤退したようだった。
「皆様、お疲れ様でした。私の中に降りた天照からみなにお言葉があるそうです」
 詠華の言葉を聞いてみながそちらの方を向く。
 今までその姿を形にして現すことがなかった天津神たちが天照大神の力によって各々の宿り主の背後にそれを見せていた。後継者たちはその様子に一様して驚きの色を顔に出す。
 大地は天児屋根の神がどのような姿をしているか確認しようと後ろを振り向いたり、上を向いたりしてみたがその姿は彼と一緒に見えない方向に動き捉えることが出来なかった様だ。
〈フフフッ、大地様。僕はあなた様の背中と一緒なのです。いくら僕の姿を見たくても見ることは叶いませんよ、どのような方法をお使いになりましても、悪しからず〉
「オイッ、武、経司!俺の後ろにいる奴どんな姿してんだぁ~~~」
「さあなぁ、相手は神様だ失礼なこと、俺は言えないぜ」
「フッ、まさにオマエのあるべき姿をしているようだ、天児屋根の神は」
 武も経司も苦笑を顔に作って大地に見せていた。
「なんだぁ、自分たちには格好いい神様が憑いているからってそんなこと言いやがってぇ」
「そうか・・・、俺の経津主と武の武甕槌神はかっこいいって、武」
「そりゃァ~~~、そうだろう。俺や経司は主役中の主役だからな」
「経司さん、それと武さん。あのっ・・・、そのぉ~~~、私の中ノ天照様が・・・」
〈詠華、少しぐらいの時間の戯れくらいよしなにしておあげなさい〉
「あっ・・・、ハイ、解かりました・・・」
 それからしばらく人同士が雑談してから天照が新太郎の中にいる者に問いかけていた。
〈邇邇芸、汝に問う。我々がこの世界のまつりごとを任せた者の末裔は何処に消えたか?〉
〈それが・・・・・・、足取りがつかめんのです〉
「掴める訳ない。それについて俺が説明する」
 経司は邇邇芸の神を裡に秘めている新太郎の顔を覗いてから、詠華の方を向いた。そして、その理由を語り始めた。
「お前らが言う、天照大神あなたの直系、皇と呼ばれる者達は約千年以上前、鎌倉時代と呼ばれた前の時代の頃にその姿を消した。どこへ姿を晦ましたのかは不明だがな・・・、それとお前らがその皇に遣わしたとさえる三種の神器のうちの一つ草薙の剣、現世にある其れは紛い物。それもさっき言った時代の頃に大海へと消失している」
「どうして、そんな事を経司が知っているんだ?」
「武、そんな不可思議な顔をするな、古代史は俺の趣味だ。経津主が降りてから色々と調べたんだ、天津神や国津神について・・・」
〈その者よ、その言葉偽りないな?そうなのだな経津主よ〉
〈ワタシの主の言葉に偽りはありません、それは確かな事のようです〉
〈そうか・・・、道理である年から高天原に政の役目を終えた者達が昇臨してこんのだな。ゆえに妾達が平定したはずのこの国がここまで荒れてしまったということか・・・〉
「ゆえにか・・・、それはどうかな・・・・・・」
「経司、何を言っているんだ?」
〈ナンジよ、妾の言葉に何か問題でもあると申すのか?〉
「人間としての考えの憶測の域だ。確証はないから答えたくはない」
「ケイちゃん、何を一人納得したような顔をしているの?教えてくれないとココロ、読んじゃうよ」
「月読の神の力を遣ってそんなこと勝手にしたら・・・、武を苛める」
「何でそこで俺が出て来るんだ、経司ッ!」
「はうぅ~~~、其れはだめです。タケちゃんにお痛はしないでください」
「其れは先輩しだいだ」
「皆さんそこまでにしてください。天照様のお言葉が続きません。・・・、すみません内の生徒は躾が悪くて・・・・・・」
 椿は詠華の背後にいる天照にそう言葉にしてから頭を下げていた。
〈よい、それよりも・・・、これからまたこの国を平定しなおすために・・・妾たちは力を揮わねばならん。どのようにしたらよいのであろうか・・・、思兼よ、何かよい案はあるか?〉
 天照の言葉に思兼は思案をする。そして・・・、その案をその場にいる者達に語り始めた。
 こうして、伊勢の姉妹に降りた三貴神のうち二人、天照と月読、さらに平潟に降りた主神の侍女神の大宮能売神おおみやのめのかみの三神が新たに加わり、現在、天津神側は十四人と十四神となった。
 しかし、まだ国土を再制定するには天津神なかま達の数が足りなかった。其れは無論、国津神達にも言えることだった。だが、互いがその雌雄を決する日はそう遠くはないであろう。
 更に国津神たちは人にあだなす悪しき存在を感じていたがそれの存在に天津の後継者達はいつ気付くのだろうか?
 天津神や国津神、そして他の人と異なる存在。それらがこの時代の日本の中でいったい何をしようというのだろうか?
 この先の未来がどう流れて行こうなどとは人々が予知できることはない。それが仮令、神の力を受け継ぎし者達でも彼等が望む将来の展望を確実につかめるわけでは・・・・・・・・・、ない。
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