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第 壱 話 静かなる平穏

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 天孫降臨暦から現在の陽暦換算で、大凡、三千年後、今で言う西暦二一四二年、主要国家は地球地下層に眠る残り少ない資源の所有権をめぐって第三次世界大戦を勃発させてしまった。
 有りと有らゆる兵器の投入と闇雲な戦術、戦略により地球上の環境は大きく変わってしまう事となった。
 大凡、その大戦は六年にわたって続き、所有権争いを始めた主要国家達の自滅により戦いの終局を見る。そして、大戦によって当時、地上に於ける百二十億にものぼっていた世界人口は一割以下となってしまったのだ。月面都市やSDD(Space Dwelling Direct)と呼ばれた宇宙空間人工居住区に住んでいた者達まで、巻き込み一世紀近く掛けて成層圏場外に築き上げた技術の結晶までも徒爾にしてしまっていたのだ。
 第二次世界大戦の遺訓から日本の国はこの戦いに自ら参戦する事も他国と共同戦線を張る事も無く、ただひたすら自国を防衛するために軍を動かしていた。
 しかし、仮令、他国からの流れ弾的な攻撃を防げても大戦による環境破壊から生じた大きな自然災害を防ぐ事は出来ず成す術なく多くの人命が奪われてしまっていた。
 当時、累計で地上と宇宙上に六億三千万人近く昇っていた日本人達。地上界は約六千九百万人、宇宙圏SSDに至ってはほぼ壊滅的、十万人程度が存命であれば奇跡に近い。これ等が大戦から生き延びる事が出来たその国の人口だった。
生存者達は先の未来に、それから先に育つ子等の為に自分達に活を入れ、戦争とそれによって起きた自然災害の傷痕がまだ残る大地に再び命を吹き込もうと動き出した。
 西暦二二一八年。第三次世界大戦から六十年半世紀弱の月日が経つ現在、人口の増加は然程ないが日本人が大戦前まで持っていた生活水準まで立て直す事が出来ていた。
 さらにある程度の自然環境も科学と呼ばれる力によってある程度だけ回復を見せていた。だが、所詮それは人による力。本当にある程度でしかなかった。
 大戦で生き残った国家はどこも似たような物で安寧を取り戻しつつあった。利権の絡む欲望の先にある大戦がどれほど、愚かしいものなのかを人々は悟り、人の浅ましさを胸に刻み、二度と同じ過ちを繰り返さないようにと誓い、生存した人類らは日々を生きていた。しかし、その平穏な世界もこれから先に起こる激動のほんの小休止にしか過ぎないのかもしれない事を知らず、人々は生きていた。
そして、その激動の一幕は今も尚、巨大過密都市であり続け様とするここ日本の東京から始まろうとしていた。









「クッ、何で追っかけてくんだよ・・・、ちきしょうっ!!くッ、来るなぁあぁあぁあああぁぁぁあぁーーーっ」
 夢の中で一人の少年らしき人物が何者か、から逃れるようと必死になって暗く道なき道を走り続けていた。余りの必死さに走る間の呼吸、飲み込む息で何度も咽そうになる少年。
走る少年の身体から滲み出、全身へ伝わる汗は恐怖から来る物と、運動代謝から出るものが混ざり合い、不快な気分を少年に与え、逃げる辛さに拍車を掛けているようだった。見えない出口に向かって只、前方だけを視野に入れ余計な事を考えず、脚を動かしていた。必死に走り続けていた。
 だが、追う者は不気味な音を鳴らしながら地を這い空を駆り、執拗にその少年を捉えようとしている。
 暗闇でその姿は良く確認する事は出来ないがおおよそ我々の知る物ではない。
 少年は彼を遮る物総てを掻き分け一筋の光の射す方へと向かって全力疾走していた。
「来るなっ!こっちに来るなよぉーーーっ。ひっ、うわっ『ズグシャッ、ズルルルルルッ』痛ててててててぇえっ」
 気懸かりになって少年が追って来るモノを確認しようと一瞬後ろを振り向いた時に足元にあった何かの出っ張りにつまづき慣性の勢いで前方に大きく吹っ飛び倒れこんでしまった。
〔苦苦ッ、フッ捕らえたわ・・・・・・、幾千幾星霜、我等が受けし深淵の迫害とその怨みそのに持って知れ〕
「うわぁーーーーーやめてくれぇーーー、どうして俺なんだぁーーーーーーーーーーっ」
『トントントンっ』
「どうしたのぉ~?朝から武、そんなに大声出しちゃって。入るわよぉ~~~・・・???」
「きゃっ!!はぁ~~~、いきなり何するのこの子はっ」
 姉の声でその少年は悪夢の最後で目覚め、その夢のあまりの怖さに震え目の前に現れた彼女に抱きついたのだった。
「姉ちゃんに迷惑かけるのは弟の務め・・・・・・、って溜息吐きながらそんな呆れた顔するなよ」
 少年は現実に安堵し、おどけた表情で姉に向かってその様な声を掛けていた。
「モオッ、武ッたら馬鹿なこと言って・・・、それよりどうしたの、うなされていたみたいだけど?」
 その姉は最初に叱るような言葉を弟に対して向けるが、表情は心配している様だった。
「ちょっとね。悪い夢、見てたみたいだけど・・・、夢だから何の心配も要らないぜ、多分」
「そう、なら早く支度して下まで降りてきなさい。朝食の準備はもう出来ているのよ」
「ウンじゃぁ、着替えるから部屋、出てくれよ」
 彼がそう言うと姉は少し微笑んでからその部屋を後にした。

 しっかし、いったいあの夢は一体なんだったんだろうか?今までの俺のした悪行がばれて神様が怒ってあんな夢を見せたのだろうか・・・・・・・・・、ってそんな酷い人間じゃないぞ!まっとうな高校生だ、俺は。
 そうそう俺の名は鹿嶋武(かしま・たける)十六歳、今日から高校二年生。そんでさっき部屋に無許可で侵入してきたのはちゃんと血の繋がった姉ちゃんで美姫(みき)って言うんだぜ、覚えてやってくれよ。
 歳は一つ違い・・・・・・、よしっ、着替え終わったぞ。一階に降りようか。

 武と名乗る少年は制服に着替え終わると学習机の隣に置いていた学生鞄と部活用のスポーツバックを手に下へと降りていった。
 一階のリヴィングのソファーに荷物を置き、台所に足を運びそこへ彼が到着すると一番に声を掛けて来たのは祖父の双樹(そうじゅ)、それから、祖母の操子(みさこ)だった。
「ほぉ~れっ、武、さっさと席に着かんか。爺ちゃん待ちくたびれて腹と背がくっ付きそうじゃ」
「双樹さん、武ちゃんにそんな事を言う物ではありませんよ。お恥ずかしい」
「ミサおばあちゃん、ついでに爺ちゃんもおはよう」
「武ちゃんおはよう御座います」
「朝の挨拶などええわい。さあ早くご飯にしよう。ご飯」
「爺ちゃんいじきたねぇなぁ~、まったくぅ!」
「何が意地汚いじゃ。朝食をとらねば一日の仕事ができんのじゃ馬鹿モン」
「双樹お爺様も武も朝からくだらない事で喧嘩しないでください。・・・、いただきましょう」
 美姫の声で四人は朝食を食べ始まった。
 今、俺の正面に居るのは操子ばあちゃん。その隣が爺ちゃんの双樹。二人は俺の母親の両親に当たる人だ。
 両親は姉ちゃんが三つの時、事故で亡くなった。俺はまだ一歳になったばかりでその事故がどんなものだったか分からない。だから、俺は両親の事を良く知らないし、覚えてもいないし、どうして、母方の両親に引き取られたか、その理由も判るはずがなかった。まぁ、もちろん姉ちゃんの美姫もだろうけどね。
 姉ちゃんと俺は母親の方の両親であるミサおばあちゃんと爺ちゃんの二人に何不自由なく育てもらっている。そんな訳で両親が居なくて悲しいな、って思う事はなかった。それに頼りになる姉ちゃんも居るしね。
「武ッ!ほら食べ終わったら早く歯を磨いて学校へ行きましょう」
「姉ちゃん、そんなに慌てなくても遅刻しないだろ。まだ十分間に合うって」
「今日は始業式よ、いつもより早く行って色々とやる事あるでしょう?」
「ハイ、はい分かった、わかった」
 武は姉に適当に返事して洗面所に歯を磨きに向かった。

*   *   *

「それではお爺様、お婆様行って参ります」
「それじゃ俺も行って来る」
「おぬしたち二人とも部活が終わったら寄り道せんで真っ直ぐ帰ってくるのじゃぞ」
「そうですよ、ここずっと物騒ですからね。わたくし、二人が心配で・・・・・・・・・」
「心配ないって、俺も美姫姉ちゃんももう子供じゃなんだから。それになんかあったら姉ちゃんは俺が守ってやるから」
「もう、なに言ってるの武ッたら。いつも口ばかりなんですから。・・・、さあもう行きましょう」
 俺と姉ちゃんはミサおばあちゃんと爺ちゃんの二人に見送られながら外へ向かって歩き始めた。
 今、二人で向かっている俺達の学校は家から歩いて大体三十分位か?自転車で通学したかったんだけど爺ちゃんが〝若いもんがそれ位の距離歩けんでどうする〟ってそれに乗って行くのを許してくれなかった。
 爺ちゃん、歳の割にかなり強いからその事に反抗できなかった。だから、こうして姉ちゃんと二人一緒に徒歩でそこへ向かっている処だ。
「武、どうしたの?」
「ウンにゃッ、自転車通学したかったなぁ~~~って思っていたんだ」
「ハァ~。武、男の子でしょう?これくらいの距離自転車に乗らなくても良いじゃない」
「ハイそうですね。ごもっともです」と姉ちゃんも爺ちゃんと同じ考えだったから今思ってたことを声に出しても意味がなかったんだよな・・・。
 家を出てから十五分位していつも通る交差点を曲がろうとした時、いつもの様にまるで時間を見計らったように知っている奴が俺達の前に現れる。
「武、美姫さん、おはよう」
「よっ、いつも出てくるタイミング良いな」
「経君、おはよう御座います」
 今俺達が挨拶を交わした相手は香取経司(かとり・けいじ)と言う俺の親友であり幼馴染み。かなり理屈っぽいけど頼りがいのある良い奴だぜ。
 経司の家は総合病院で怪我とかすればよく世話になっている。
「会う早々、こんな事を言うのもなんだが休み中に出された課題、全部終わらせたのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「武?あなた、あれほど勉強しなさいって言ったのに」
「アハハハハッ・・・・・、すっかり忘れてたよ」
「予測どおりだ。休み中も部活から帰ったら勉強もせずにゲームでもやってたんだろう」
「正解ッ!分かってるジャン経司。見せてくれるんだろう?」
「そういうと思ってたよ。分かってるさ・・・、お前と同類項の奴にも見せてやらなければならないからな。武にだけ見せないでそいつにだけ見せるのは不公平だろう」
「経君、弟を甘やかさないで。ちゃんと学校でしかるべき罰を貰ってください」
「美姫さんがそういうのなら・・・・・・、仕方がない諦めろ、武」
「いきなり見放す気かよ」
 経司は俺の肩を軽く叩きながらそう言うと目で何かを訴えていた・・・。なるほどそういう事か。
 俺は奴の目の合図でその意味を知る。やっぱり持つべき者は親友。美姫姉ちゃんの手前、口を合わせているだけだという事を理解。
 残りの道を三人で昨日見ていたテレビ番組のことで笑いながら歩いていた。
 あと数十歩、足を動かせば俺達が通う私立・靖華城(せいかじょう)学院の校門前に到着。
 学校に近づくたびに辺りを警戒して歩いていた。理由はここ数年、この近辺に出没し始めた凶悪な猛獣に襲われない様にするためだ。
 十二歩前・・・・・・・・・、六歩前・・・・・・、三歩前・・・、零。〝よしっ〟何事もなかった。そんな風に心の中でガッツポーズを作る。
「武、どうしたの?立ちとまったりして」
「急に止まるな、あっ・・・、どわっ・・・、チッいってぇなぁ」
「グフェッ・・・・・・・・・」
 言葉の言い掛け途中で経司は何かに強引に弾き飛ばされ武の正面から脇にそれてしまい、武は猛獣か何かに捕縛され、その力の入れ様に情けない声を上げていた。
「いてぇっすよ照神先輩・・・って言うか朝っぱらから何すんですか?この往来で恥ずかしい。人目を気にして欲しいっす、人目を。まったく」
「タケちゃん、おっハァ~~~っ。それとミッキーもケイちゃんもおはよう」←猛獣
「先輩おはよう御座います」
「『おっはぁ~~~』、じゃねえよっ、さっさと放れてくれ。他の生徒が笑いながら通り過ぎて行くじゃないっすかぁっ!」
「テルちゃんおはよう。それよりいつまでそうしているつもり?たとえ親友の貴女でも武をおもちゃにするのは許しませんからね」
「タケちゃんをおもちゃなんかにしてないよぉ~~~。ねえぇ、タぁ~ケっちゃぁ~ん?」
「もろ、されてるっす」
「ああ、俺にもそう見える」
「ケイちゃんまで酷ぉおおぅいっ」
 照神は渋々と武に巻き付けていた両腕を解き彼と距離を置いた。
「それよか、マジで照神先輩って目ぇ見えないわけ?いつもそこを通り抜けると決まって先輩、俺たちの所に現れて・・・、まるで犬か何かみたいっすよ」
「クゥ~~~ン、私は目の見えない哀れな捨て犬でぇ~~~す。拾って優しく育てて下さぁ~いっ」
 このちょっと変わった性格の先輩のフルネは伊勢野照神(いせの・しょうか)。
 姉ちゃんとは中学校からの同級生でなんとずっと学級も一緒と言う、とそんな訳で今二人は親友関係にあるようだ。
 俺が先輩と知り合ったのも勿論、中学の時でなぜかその時からずっと妙に気に入られて今に至っている。だから、先輩と一緒に居ると何されるか分からないから気苦労が絶えない。照神先輩は盲目で他の奴より大変な事も多いだろうけどそれを感じさせない陽気な正確な人だ。
「テル、馬鹿なこと言ってないで校舎に入るわよ」
「タケちゃんとケイちゃん、それじゃまぁったねぇ~~~っ、バイビィ!」
 先輩は姉に引きずられながら手を小さく振り、微笑みながら俺達の所から去って行った。
 教室に向かいながら経司に先輩の盲目について話しかけていた。
「なぁ、経司。本当に照神先輩って目が見えないのか?」
「何か?家の病院、診察の誤診だというのか?心外だな、まったく。先輩は視神経が生まれつき欠落してるらしいんだ」
「そんな物、今の医学なら何とかなるんだろう?」
「無論、nesって言う手術で治るらしいんだけど。先輩不自由していないからそんなの受けなくてもいいって我侭を言うみたいだ」
「そうなのか?せっかく治るなら治した方が良いと思うけどなぁ~~~、俺は」
「だったら武、お前から言ってみたらどうだ?案外お前が何か言えば照神先輩、手術受けるかもよ」
「駄目、駄目、俺がそんなこと言ったら先輩変に勘違いするだろうから俺からは絶対言わないぞ」
「良いじゃないか先輩と付き合っても頭も良い、可愛い、性格だって面白いし」
「そんなの関係ねぇよ。くだらない事いってな」
「ちぃっ、つまらんなぁ」
 丁度、俺達はその会話の終わりに教室の中に入って行く。
 中に入れば春休みぶりの連中や休み中の部活練習登校で顔を見合わせた友達に挨拶をして始業式の為にその場に居る学級みんなと体育館へ移動して行った。

 *ワンスと発音。the optic nerve electrical stimulation aidの略で、視神経電気的刺激補助装置と言うナノチップを目の中に埋め込む手術。機械的補助で無く、有機的な補助で視力を戻すBAS(The Biologically Aid of Sight)、ベイスと発音する医療技術もある。


― 放課後・部活の練習 ―

 武は放課後の掃除が終わると同じ学級の部活仲間と一緒に部室へと移動していた。彼はサッカー部に所属しており、中学時代の実績も買われて一年の頃から正選手を務めさせられていた。ポジションはライト・フォワード、アタッカーである。
 レフト・フォワードも武と同じ二年生で彼の同級生、経司とは別の親友でもあった。名前は牧岡大地(まきおか・だいち)。経司とは違い高校になってからの友達ではあるが馬が合うのか武、経司、大地の三人はよく一緒になって行動を共にしていた。
 今朝、経司が言っていた春休みの課題を見せなければなら人物とは牧岡大地の事だ。
 頭の出来は良いのだがけして自分から学業に関する努力はしない、宿題などはしないと言う怠け者。現在、武もその大地も部活の仲間達と一緒にウォームアップを終え二チームに分かれゲームをしていた。二人の連携を保つ為と言う事でその二人は同じチームでプレイしていた。
 武も大地も司令塔である主将の神村の指示通りに大きく両サイドに分かれチーム・メイトと共にパス・ワークだけで敵サイドに切り込んで行く。
「武ッ!インサイド」
 神村の声にゴール前まで詰めていた武は内側に入りチーム・メイトからのパスをディレクトでシュート。タイミングよくボールを蹴り込み良い角度の場所にそれを放ったが相手側のゴールキーパーの反応が素早かった為にパンチングで弾かれてしまう。
「チッ、木崎先輩反応よ過ぎるっす」
 弾かれたボールを見ながら彼は独り呟くと逆サイドから駆け込んできた大地がその高く上がったこぼれ球をヘディングで木崎と言うゴールキーパーの跳んだ逆のコーナーへと叩き込んだ。
「バッチタイミング!流石、俺だね」
「ナイスフォロー大地ッ!」
「当たり前だろ、相棒。そん代わり俺がミスったときは頼むぜ」
「その時はな。よし戻ろうぜ」
 二人は彼らの陣地に戻り、再びゲームを開始していた。
 普通の試合時間どおり前半後半合わせて九〇分間、両陣営を行ったり来たりを繰り返していた武も大地もそれが終わった頃には汗グタグタになり芝生のフィールド上に寝っ転がって居た。
 ゲームの結果は四対三で武達が居るチームが勝っていた。武、大地共に得点一、主将の神村が二点を決めていた。
 しばらくして、コーチと主将の収集の声がかかり部員全員がそこに集まって行く。その二人からの幾つかの連絡事項を受けたあとは終わりの合図と共に皆解散して行った。
 武と大地は着替え終わると直ぐに校門前に向かい別の部活動に所属している経司と美姫を待っていた。
 経司は武の祖父、双樹が開いている剣術道場にも通っているのにも関わらず、学校でも剣道部に所属している。
 美姫の方は家の道場で剣道を経司と共にしているが部活では中学の時から弓道部に入部していた。付け加えておくと武も小さい頃から祖父の道場に通ってはいるのだが剣術の才能が有りながらもあまり好きではない様だった。
 校門の外で武と大地が最新ゲームの話題で盛り上がっていると待っていた二人が小走りで駆け寄り、
「二人とも待たせて悪かったな。今日は俺、道場の掃除当番だったんだ」
「武、お待たせ。ダイ君も一緒だったのね、今晩は」
「まあねっ、部活も学級も一緒だから。それより鹿嶋先輩、いつ見ても可愛くて美人ですね。武、お前が羨ましいよ」
「またぁ~~~、ダイ君冗談ばっかり言ってぇーーー、私をからかわないで」
「残念だけど大地みたいなチャラポラな奴に、俺の大事な姉ちゃんは譲ってやれないぜ。ほらほらこんな所に突っ立ってないで帰ろうぜ」
 彼はその言葉の後直ぐに歩き始めた。三人も直ぐにその後に続きまた会話をし始める。
「ああ、そういえば香取、課題写させてくれてサンクスなぁ~。おかげで担任のセンセにとやかく言われずにすんだ」
「別に気にするな、何時もの事だからな」
「ねえぇ~~~、経君その課題、私の弟には見せていませんよねぇ?」
 彼女はそう言ってから威圧的な微笑を彼に向けていた。
「ハハハッハイ、あさ美姫さんに言った事は守らせてもらってます」
「経君いい?もし、嘘を吐いていたら・・・・・・」
「なっなななな何、そんな殺気立って俺を睨むんだよ・・・・・・・、姉ちゃん。あぁそういえば課題出すの忘れて少しだけ量増やされたんだ。さっさと帰ってそれやらなきゃなぁ~~~」
「武・・・・・・、声が上擦っているのはどうして?嘘を吐いているわね」
「なっ何を証拠に?」
「貴方のその仕草を見ればわかります。今日の武の夕飯のおかず三分の一・・・・・・・・・、やっぱり抜きにしますからね。それと経君、次の道場での練習日・・・・・・、たっぷりと武を助けてくれたお礼させていただきますね♡」
「姉ちゃん勘弁してくれよ。部活でめちゃくちゃ腹減ってんだ。白いご飯だけなんて嫌だ、おかず抜きってのは酷すぎるぜ」
「えっ?おっ、おいっ、武何とか言ってくれよ。お前のせいだぞ。こっ、殺されるっ!」
「くッ、おい大地、お前がこんなとこで余計なこと言うから、お前のせいだぞ!」
「俺はただ、香取に感謝の言葉を言っただけだ。関係ないだろう?」
 朝の事を知らない彼は飄々とした顔で武に答えを返していた。
「そうだ、牧岡、お前のせいだ。別に礼なんか要らなかった」
「香取までそんなことを言うのか?ちっ、わかったよ。・・・・・・、まあまままあ、鹿嶋先輩そんな目くじら立てたら可愛らしい目元に皺寄ってせっかくのチャームポイントが台無しですよ。そんくらいで俺のフレンド達を許してやってくれよ」
 にこやかな顔を作って大地が胡麻擂り手つきで美姫にそう言うと彼女はその怖い表情のまま彼に振り向いた。
「・・・・・・、なんでもないです。口を挟んだ俺が悪かったです、ハイ。どうぞどうぞ二人を煮るなり、焼くなり先輩のご自由に」
 その後、しばらく歩きながら武と経司は美姫に説教され、大地はその三人の遣り取りを影で小さく笑っていた。
 説教が終わるとまた大地と武は経司を加えて校門前でしていたヴィデオ・ゲームの話題を始めていた。
「ホントォーーーニッ、男の子ってそのテレビゲームすきねぇ。そんなに面白いのかしら?」
「何知らない風に姉ちゃん言ってんだよ。俺知ってんだぜ。隠れゲーマーって事」
「・・・・・・・・・・・・・」
「へぇ、鹿嶋先輩もゲームやるんだ。どうしたんですか黙ったりして別に恥ずかしいことじゃないじゃないですか。今は大人子供女男、ジジイとババアまで関係なしに誰でもやってることなんですからね。でっ?どんなゲームすきなんですか?」
「・・・、格闘アクションのゲームとパズルやクイズ・・・それと育成シミュレーションかな」
「えぇ~~~、そうだっけぇ?女向けの恋愛シミュレーションの間違いじゃないの?ボーイズ・ラヴぅってぇやつ。しかもみんなが寝静まってからやるんだよねぁ、ヘッドフォンかけてぇ」
「育成シミュレーションも恋愛シミュレーションどちらもSLG。意味的大差はない・・・、へぇ~~~、美姫さんがねぇそんなゲームを以外かなぁ。ふんふんあぁ~~~なるほど」
「鹿嶋先輩は擬似世界の男をどういう風に・・・・・・・・・。うっ、羨ましいぞ擬似三次元人めっ!」
「経君もダイ君も二人して変な想像しないでよぉ~~~っ」
「でもなぁ、こう何かゲームみたいなわくわくする事、起こらねぇかなぁ~~~。そうどっかの異世界に召喚されてそこの勇者になって大暴れ」
「なにを言ってる牧岡。そういう事態が起きてもせいぜい、お前は脇役が関の山だ」
「脇役だって大事なんだぞ。最近のものはヒーロー独りだけのってあんましないからな」
「何二人ともどうしようもないこと言ってんだ。そんなこと起こってたまるかよ。俺たちの生まれる前に大きな戦争あったんだろう?せっかく普通の生活できるようになったのにそんなゲームや小説のストーリーみたいなことが起こったら・・・、俺は嫌だぜ。こんな世の中でも今が一番。それが良いに決まっているんだ」
「何をそんな真面目なこと言ってんだ、武。似合わねえな、に・あ・わ・な・い」
「牧岡と同じ、俺もそう思う」
「武、風邪でも引いた?熱でもあるの?」
「姉ちゃんまでそういうかよ。チェッ、どうせ俺はそんなキャラじぇねぇよぉーーーだっ」
「おっと、ここで俺はお別れ、それじゃまた明日ぁ~~~、鹿嶋先輩ゲームの攻略ならどんな種類のものでも俺に聞いてください」
 大地は途中の交差点で別れの挨拶をしてから彼の住む商店街の方へと向かって行った。
 それから、武と美姫は経司とも朝会った場所で別れて行く。
「あらっ?もうこんな時間。武、急いで帰りましょう。双樹お爺様も操子お婆様もきっと心配していますから」
 美姫は待たせている祖母と一緒に夕食の準備をするために急ぎ家に向かって走り出した。そしてそれを追う弟の武。
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