CRoSs☤MiND ~ 過ぎ去りし時間(とき)の中で ~ 第 二 部 八神 慎治 編 ◎ 二情の狭間 ◎

Digital&AnalogNoveL

文字の大きさ
上 下
18 / 22
第 四 章 ながされるままに

第十八話 舞い降りた不死鳥

しおりを挟む
~ 2004年8月31日、火曜日 ~

 今日、藤宮から連絡があって貴斗が目を覚ました事を伝えられた。
 ヤツは一度人としての機能を完全停止させその場にいた人達すべてを混沌へと導いたらしい。だが、ヤツはまるでフェニックス、不死鳥が如くこの世界へとリザレクションを果した様だ。それだけではなく、時を同じくして涼崎が完全覚醒したとも藤宮は言葉にしていた。奇跡、ミラクル。これをそう呼ばずしてなんて言うのだろうか。

*   *   *

 藤宮の報せを受け、歓喜の余り、飛ぶが如くヤツが再び降り立った場所、今、病院の前へ立っていた。
 彼女から通常面会できる事を聞かされたからだ。
『病室が移動しているのでお気をつけて下さい』と彼女にそう付け加え言葉にしていた。
 藤宮が教えてくれたその転移されたと言う病室へ向かう。
 その場所に付くと俺はナンバープレートと名前を確認。
 該当!ヤツのいる病室である事は間違いないな。
 涼崎の病室から3つはなれた場所。
 ノックしてその病室へと入った。
 痛々しい包帯に包まれながらも貴斗は恋人である藤宮と楽しく喋っているようだ。
「ヨッ、貴斗!具合は如何だ?」
 ヤツに見舞いの言葉を掛けた。しかし、
「君は?」
 俺の事を知らないような口ぶりでそう言って返してきた。
 チぃッ、コイツ、俺が見捨てしまったからって嫌味の積りで言ってんのか?だから、
「馬鹿、何を言ってんだ。気でも違ったのか?」
 苦笑交じりでヤツにそう口にしてやったが、
「気は確かな積もりだが・・・」
 ヤツの言葉はそこで詰まる。
 俺とヤツのやり取りを見かねた藤宮が申し訳なさそうな表情で口を挟んでくる。
「八神くん、・・・。貴斗ですね、三年間の記憶をおなくしに・・・」
〝記憶をなくした〟?〝三年間の〟?
 何を言っているんだ、藤宮?記憶をなくしたって?じゃ、何故そんなに楽しく談話なんてしていられるんだ?そう思っているとヤツは彼女に言葉をかけた。
「俺は彼と二人だけで話しがしたい、詩織、席を外してくれ」
 今までの俺の知っている貴斗の喋り方とは微妙に違う。淡々とか感情の篭もっていないとかそう言うのではなく。ヤツの言葉は冷静だが感情を感じる。なんとなく大人びいている、そんな口調。
「どうして?」
 藤宮の表情が不安に満ちているそんな感じがした。
「詩織」
 ヤツは藤宮に優しく諭す風に彼女の名を呼ぶ。
 彼女はそれに応じたのか不安な表情を変えないまま退室して行った。
「スミマセン、見苦しいところをお見せしてしまって・・・」
「どう言う事だ、説明しろ!」
「そう言葉を荒立てないでクダサイ、マズはお互い自己紹介から」
 何を言っているんだ、マジでコイツ俺の事を忘れちまったって言うのか?
「高校三年以来、ずっとお前のダチ、やってる八神慎治っ!」
〝ダチ〟と言う言葉を強くしてコイツに自己紹介してやった。
「そうですか、俺の事を知っている方なのですね。君の事を忘れてしまって申し訳ない限りです」
 コイツは言うと包帯の下に隠れた表情を変化させた。悲しみの色に。
「貴斗、お前に聞きたい事がある」
「俺も君、イヤ・・・、八神クンに聞きたい事がある」
「他人行儀な呼び方スンな!シンジ、慎治だ!」
「フッ、分かった、慎治」
 コイツと楽しく喋っていた藤宮の事について聞いた。
『三年間の記憶』がなくなっているはずなのに。
 その前の記憶だってあるはずないのに、コイツは彼女を〝詩織〟と呼んでいたのは何故か?しかし、疑問は直ぐに晴れた。コイツはその〝三年間の記憶〟を失う事でその〝前の記憶〟を取り戻したのだと口にした。
「それじゃ貴斗、お前の両親は?」
「慎治、君は俺の事を色々知っているようだ・・・。思い出したくもない、あんな悲劇、俺がそこに行かなかったら・・・・・・、父さんも母さんも龍一兄さんも死なずに済んだ・・・・・・・・・、今はもう変えられない過去。・・・悔やんでも悔やみきれない」
「オイ、貴斗、それ以上自分を責めるな」
「判っている、俺がどんなに望んでも還ってくるはずないから。だから、龍一兄さんの言いつけ通り、祖父ちゃんと姉さんを守っていかなければならない。それに詩織や香澄を護らなければ。だから俺は悔やんでいられない」
 コイツ、両親と兄の死に対して前向きに考えているようだ。
 昔思っていたのとは随分違う結果だ。そんな言葉を聞いてかなんとなく安心した。若しかすると奇跡の復活を遂げて何かがコイツの中で良い方向へ変わったのかもしれない。
 だったら、藤宮に対するコイツの気持ちも、コイツの中で最も心を痛めているであろうあの事も前向きになっているかもしれないと思ってしまった。だが、しかし、全てうまく事は運ばない。
 世の中そんなに甘くない事をこれから知らされる。

*   *   *
 貴斗に三年間の出来事を伝えてやっていた。こいつを苦しめてしまうと思った出来事意外な。
「そうか、道理で詩織の俺を見る目がなんとなく違っていたのかを理解できた」
「藤宮のヤツはお前に言っていなかったのか?その事を」
「聞いていたらこんな聞き方しませんよ」
 コイツの言う事はもっともだな。
「貴斗、それが何かお前に不味い事でもあるのか?」
「詩織には申し訳ないが彼女の気持ちには応えてやれない」
「何を言ってるんだ!?」
 ヤツの冷静な口調でそう答えてくるからつい自分の感情を露にしてしまった。
 俺が知っている寛恕なコイツの言う言葉ではない。
「・・・何を言っているって?俺は何か不味い事でも言ったのか?」
 貴斗と、藤宮の関係。俺に出来ることは・・・、
 ここではっきりと俺の気持ちを伝えておくことだろうな、だから、
「考え直せよ、貴斗!」
 矢張り、あの事だけは貴斗にとって大きい事なのだろう。だが、もっと前向きになって欲しいから、あえてコイツの考えを改めてもらうようそう言葉にしてやった。
「無理だ、俺の詩織に対する気持ちは昔から変更の余地はないので」
「お前、藤宮の事、どうでもいいとおもっているのか?」
「そんな事あるはずがないだろ・・・・・・。歳は幾分、正確に言えば3週間、俺の方が下だが、俺にとっては妹のような存在だからな、無論、香澄もだ。二人は私の命と等価、それ以上に大切に思っている・・・・・・、これ以上、慎治、君にこの事について論議する気はない・・・。早々にお引き取られよ!付け加えて言っておきます、他言無用」
 帰ってくれと言う感じでヤツはその言葉と同時に鋭い視線を向けてきた。
 包帯の下から覗く、その眼光は酷く冷たい物を感じた。
「今はこれ以上俺も言わない。早く、残りの記憶も取り戻せ!その時その答えが変わっている事を俺は望んでるぜ。んじゃまた見舞いに来させてもらう、良いだろ?」
「退屈だろうが・・・、また宜しく頼む。喋り疲れた・・・・・・、爆睡、それではまた後ほど」
 貴斗はそう言うと即行で睡眠へと入って行った。
 しょうがない貴斗も復活した事だし、また完全にヤツの記憶が戻るまで観察者になろう。
 今度こそ中立の立場でヤツも奴もカノジョも彼女もそして、かのじょとも接して行こう、出来るだけな。しかし、貴斗はその場を離れる俺に重大な事を隠していた。
 それはヤツが涼崎の事だけは覚えていると言う事をな。
 それを知る事が出来ずにこの場を後にしてしまった。
 それが、これから再び巻き起こる男と女の関係の悲劇の幕開けである事を今は知る由も無かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】大江戸くんの恋物語

月影 流詩亜(旧 るしあん)
ライト文芸
両親が なくなり僕は 両親の葬式の時に 初めて会った 祖母の所に 世話になる 事に……… そこで 僕は 彼女達に会った これは 僕と彼女達の物語だ るしあん 四作目の物語です。

もう一度『初めまして』から始めよう

シェリンカ
ライト文芸
『黄昏刻の夢うてな』ep.0 WAKANA 母の再婚を機に、長年会っていなかった父と暮らすと決めた和奏(わかな) しかし芸術家で田舎暮らしの父は、かなり変わった人物で…… 新しい生活に不安を覚えていたところ、とある『不思議な場所』の話を聞く 興味本位に向かった場所で、『椿(つばき)』という同い年の少女と出会い、ようやくその土地での暮らしに慣れ始めるが、実は彼女は…… ごく平凡を自負する少女――和奏が、自分自身と家族を見つめ直す、少し不思議な成長物語

僕の目の前の魔法少女がつかまえられません!

兵藤晴佳
ライト文芸
「ああ、君、魔法使いだったんだっけ?」というのが結構当たり前になっている日本で、その割合が他所より多い所に引っ越してきた佐々四十三(さっさ しとみ)17歳。  ところ変われば品も水も変わるもので、魔法使いたちとの付き合い方もちょっと違う。  不思議な力を持っているけど、デリケートにできていて、しかも妙にプライドが高い人々は、独自の文化と学校生活を持っていた。  魔法高校と普通高校の間には、見えない溝がある。それを埋めようと努力する人々もいるというのに、表に出てこない人々の心ない行動は、危機のレベルをどんどん上げていく……。 (『小説家になろう』様『魔法少女が学園探偵の相棒になります!』、『カクヨム』様の同名小説との重複掲載です)

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

君はプロトタイプ

真鳥カノ
ライト文芸
西暦21XX年。 大地も海も空も、命すらも作り物の世界。 天宮ヒトミは、『天宮 愛』のクローンとして生まれ育った。 生涯を愛に尽くすために存在すると思っていたけれど、それはかなわなくなってしまった。 自分が『ヒトミ』なのか『愛』なのか、迷う曖昧な心を持て余す中、一人の少年と出会う。 以前、『愛』が想いを寄せていた少年『深海尚也』だ。 そう思っていたけれど、少し様子が違う。 彼もまた、尚也のクローンだったのだ。 オリジナルを失ったクローンの二人が目指すものは、オリジナルの完全複製か、それとも……? 目指すものすら曖昧な未完成のクローンたちの生きる道とは……。 ※こちらの作品はエブリスタ様、Solispia様にも掲載しております。

再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜

長岡更紗
ライト文芸
島田颯斗はサッカー選手を目指す、普通の中学二年生。 しかし突然 病に襲われ、家族と離れて一人で入院することに。 中学二年生という多感な時期の殆どを病院で過ごした少年の、闘病の熾烈さと人との触れ合いを描いた、リアルを追求した物語です。 ※闘病中の方、またその家族の方には辛い思いをさせる表現が混ざるかもしれません。了承出来ない方はブラウザバックお願いします。 ※小説家になろうにて重複投稿しています。

ひきこもり×シェアハウス=?

某千尋
ライト文芸
 快適だった引きニート生活がある日突然終わりを迎える。渡されたのはボストンバッグとお金と鍵と住所を書いたメモ。俺の行き先はシェアハウス!?陰キャ人見知りコミュ障の俺が!?  十五年間引きニート生活を送ってきた野口雅史が周りの助けを受けつつ自分の内面に向き合いながら成長していく話です。 ※主人公は当初偏見の塊なので特定の職業を馬鹿にする描写があります。 ※「小説家になろう」さんにも掲載しています。 ※完結まで書き終わっています。

看取り人

織部
ライト文芸
 宗介は、末期癌患者が最後を迎える場所、ホスピスのベッドに横たわり、いずれ訪れるであろう最後の時が来るのを待っていた。 後悔はない。そして訪れる人もいない。そんな中、彼が唯一の心残りは心の底で今も疼く若かりし頃の思い出、そして最愛の人のこと。  そんな時、彼の元に1人の少年が訪れる。 「僕は、看取り人です。貴方と最後の時を過ごすために参りました」  これは看取り人と宗介の最後の数時間の語らいの話し

処理中です...