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第 二 章 虚構と言う名の現実

第八話 光明、変わりだした親友

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~ 2002年10月25日、金曜日 ~

 部屋でステレオを大音量にしてゲームをしていた。
 最近のゲームは画像ばかり良くなってゲーム内容やゲームの操作性は質が落ちてきたような気がする。はっきり言って面倒くさい。数年前の様なやり込み要素が無い。一回やったら飽きる。出版社と結託しているのかと思わせるほど直ぐに攻略本を出す。友達との情報交換の面白みがなくなってきた等など・・・。全国12.3%のゲーマーはそう思っているだろうと勝手に事故統計・・・・・・・・・、今の言葉は不味いな、訂正。と心の中で自己統計して見た。
『ピロピロピロッ!!』と不意に、部屋の電話の子機が内線音を鳴らして来た。
 手元にあったので直ぐ応答してやる。
「シンちゃん、お友達からお電話ぁでぇ~~~すよぉ~~~っ!」
〈母さんその変な喋り方、何とかならないのかよ〉と思った、が、しかしガキの頃からずっとそんな感じだ。
 だから、いまさら直してくれって言っても変わる事ないだろうな。
「シンちゃぁ~~~ん、聞こえておりますかぁ?」
「誰からだ?」
「シンちゃんの親友の藤原貴斗くんでぇすよぉ、そしてミコの患者さん!」
 ずっと前、母さんは患者の事は秘密厳守だって言っていたが俺にマンマトその正体を暴かれると手のひらを返すように教えてくれた。
 教えてくれた理由は貴斗のカウンセリングに俺を利用するためだとハッキリ言われた。
 それから、内線で母さんにヤツの事を色々聞かれる事、おおよそ一〇分。
 慌てて電話を切り替えるように母さんに言った。
 貴斗、怒っているかも?
「ヨッ、貴斗じゃないか、珍しいなお前の方から電話、遣すなんて」
 何もなかったように冷静にヤツに応答した。
「用件だけ伝える」
 思っていたのとは裏腹に何分も待たされていたコイツの声はいつもの淡々とした口調だった。
 だからこちらも普通に対処。
「やっぱそう来たか、で?」
「明日暇か?」
「サークルの後、午後からオールオーケーっ!」
 マジで何も予定がなかったのでコイツに即答してやる。
「そうか、喫茶店トマトで1時PMに待つ」
 簡潔だ!相変わらず。俺も簡単に答える事にした
「了解!」
「用件、終わりじゃァ」
「オッ、タカ・」
『プチッ!ツゥー、ツゥーっ!』
 次の言葉を続けようと思った瞬間ヤツは電話を切りやがった。
何時ものパターンだからイラツキはしないが何だか、ちっと深いお友達として淋しい気分になった。
 翌日、サークルのあと十分時間があったんだけど、直ぐに貴斗の所に行こうと思っていた。しかし、サークルの終わりが遅れ、しかもクライフに捕まってしまっていたんだ。
「クライフ、放せ、マジで俺、用事あるんだ!」
「ノー、コンシュウ、マンデーにドヨウビはニホン語レッスンとミーはミスターに言った」
「オーケーした積もり無いぞ」
「ノー、コマッタ人、ミステルですか?」
 本当に強引なやつだ、クライフは日本の礼儀も教えないといけないかもしれない。
「分かったから放せ、クライフ!」
「Oh!分かってくれた、ミスター・ヤガミ!」
「マジで用事があるから30分だぞ、それでいいか!」
「イッツ、イナーフっ!」
 クライフに三〇分だけ日常会話を教えてやった。しかし、日本語の日常会話は常に変化している。
 俺が教えている事が常に正しいとは限らない。難しいところだな。だけど、今必要な事だけはちゃんと考慮して会話につきやっていた。
 時間ピッタリ、切り上げる事をクライフに告げてやるとそこでちゃんとやつもナイス・ガイなスマイルで切り上げてくれたな、助かったよ。
 それからは貴斗の待つ喫茶店トマトへと急行した・・・。
 三〇分の遅刻。遅刻と言う行為はアイツを否応にも責めてしまう手段の一つだった。
 それは涼崎さんの事故の所為、避けたかった。だから、できる限り急いだ俺自身事故に遭わないように注意を払って。
 やっとの事で店に到着!喫茶店トマト、ネーミングがなんとも言えネェ。
 ここは現在、宏之がバイトをしている場所。
 貴斗がここで奴が働いているのを偶然、発見し俺に教えてくれた。
 藤宮さんが作る絶品な料理を食っている貴斗のヤツはどう思ってんのか知らないけど、俺は高校の時からチョクチョク利用している。
 美味いし値段もリーズナブルだからな!
 サッソク店に入りヤツを探す。
 直ぐに見つかった。
 ヤツは考えてあの席にしたのだろうな。
 店に入って直ぐ見える窓際の席。
 店員に連れが待っている事を告げヤツの席へと向かった。
 貴斗の顔が少なからず暗かった。
 遅れたのはやっぱ、不味かったかな。
 電話を入れてやるべきだったかもしれない・・・。
「ヨッ、遅れてゴメンな」
 席の前に立ちヤツに軽く頭を下げそういって謝った。
「別にいい、遅れた理由も要らない」
 ヤツの顔に安堵の色が戻ったようだ。やっぱり俺の事を心配していたんだな。
「ソッカ、ありがたい」
〈マジで悪かった〉と心の中でもう一度謝罪。
 余計な事を言えばこいつがまたどうにかなっちまうかと思って口には出さなかった。
「突っ立ってないですわれよ、奢るから」
 コイツは俺が遅れて来たのにも拘らずそんな事を言ってくるが素直に受けておく。
 無駄に断らない事、コイツと付き合っていて最近、全部じゃないけどある程度の行動パターンを読めるようになってきた。結構わかりやすいやつなんだよな。
「サンキュウー」
 腹が減っていたのでランチスペシャルに直ぐ決定した。俺が決定した事が貴斗に伝わるとヤツは店員を呼んだ。
「ご注文は、ハッ、八神さん?!アナタの待ち合わせの人って、八神さんだったんですね」
「慎治、この子と知り合いか?」
 ここをチョクチョク利用していたので彼女の顔と名前を知っていた。
 桜木夏美ちゃん。
 姉妹でここに働いているしかもここは彼女の両親が経営している喫茶店。
 店舗はない。しかも彼女は高校、二つ下の後輩だった。
「彼女の事、知らないのか?」
「俺はここ時々しか来ないから・・・、・・・、・・・・、それに興味ないし」
 なんともコイツらしい答えだな。
「八神さん、私に彼の事ご紹介してくれませんか?」と貴斗ではなく俺にそう聞いてきた。
 貴斗のヤツ、転校生だったけどある意味有名だったから校内の知名度は結構あったはずなんだけど彼女、コイツの事を知らなかったのだろうか?
「オット、悪い、こいつの紹介、まだだったな、こいつは藤原貴斗、俺のダチでもあり宏之、柏木宏之のダチでもある」
「藤原貴斗だ、よろしく」
 いつもコイツの自己紹介は簡潔、名前と挨拶だけ、聞かれなかったらそれ以外は絶対自分から口にしないし、聞いてもその答えが返ってくる確率は極めて稀。
 ガードが硬すぎる。
 無口だが顔は中々いい方だ。
 学内でもクールでカッコいいと結構人気がある。
 たまにクールだけど優しい人だとも耳にする。でも、ヤツはその事を知らないだろう。
 コイツはこう言うヤツだから誰かに貴斗が獲られると言う心配を藤宮さんはする必要はない。
「初めまして、桜木夏美、って言います。貴方が藤原さんだったんでね」
 なんだか確認するかのように彼女は言ってきたぞ。
 夏美ちゃん、若しかしてやっぱり知っていたのか?
「???それより、宏之には俺の名前を絶対口にしないでくれ」
 しかし、ヤツはそれを気にしている風でもなく宏之の事を口にしていた。
 何故かここでヤツは宏之に自分の存在を知られないようにしている。
「どうしてですか?」
 そんな事を言われたら彼女だって知りたくなるだろう。
 俺だって知りたい。だが、それを聞かない事にしていた。
「理由は言えない、それより注文お願い」とお決まりのセリフ!
「アッ、ハイ、済みませんでした」
 夏美ちゃんは謝り、慌てて俺達の注文を聞いて来た。
 暫くして俺たちがオーダーしたものが来る。
 それを口に運びながら貴斗に今日、俺を呼んだ理由を聞いていた。
 ヤツの用件とは今、コイツのバイト先の男子店員を募集中。しかし一向に応募の来る気配がない。
 だから、コイツが俺を連れてくるって店長に口約束をしたと言っていた。
 まぁ~~~、しょうがないだろうな、貴斗の男友達といえば俺を含めて五人しか居ないからな。しかし、ヤツにしては随分増えたな。
 はじめは藤宮さんにお近付きするため、多く集まっていたようだけど、彼女とヤツの関係を邪魔しようとする、そんな不届きものはオレが追い払ってやった。
 今、残っている連中はマジで貴斗の友達として付き合っているやつ等だけ。
 表面的な性格と内面性のギャップが面白いそうだ。
 それとなんか一緒に居ると心強いって所も。
 そこら辺の考え方は俺と一緒だけど。
 そいつ等は貴斗が記憶喪失である事を知らないし、ヤツ自身言っていない。
 それを考えると今日の貴斗の頼みごと、俺を選んでくれたって事はヤツにとって都合のいいヤツなのか俺は?
 それとも信頼されているのか?でも、後者の方で有って欲しいと話を聞き続けた。
「なぁ、慎治、俺を助けると思ってそこでバイトしてくれないか?バイトの女の子、オマエ好みの可愛い子、いるからさぁ」
 コイツの口からそんな言葉が聞けるとは思わなかった。
 だいぶ精神的に安定しているのかもしれない。
 母さんに報告!
「貴斗、オマエ俺の好み知ってんのか?」
 どうせ出任せで俺の好みなどと言っているのであろうからそう聞き返してやった。
「知るわけが無い」
 あっさりと肯定する。ここら辺はやっぱりコイツであると痛感。
「だったら言うなっつぅ~の。でもどぉ~~~すっかなぁ?」
 貴斗の頼みだ、聞いてやろうと即刻思ったがしかし、突っ込みしてから考えている振りをして見せた。
「頼むっ」
「あぁ、わかった、わかったから。よせ、そんな事スンナよ」
 貴斗自身どう思ってんのか知らないけど、コイツいつも冷静で自分に厳しいくせに親しい人の事となると必死で健気。
 俺や藤宮さんの前だけでは素直に色々と打ち明けてくれる。
 やっぱ信用?信頼されているんだな、コイツに俺は。と再び、そんな風に思ってしまった。
 コイツはこんなにいいヤツだからもっと交友関係を広げて欲しい。だが、コイツは簡単にそれを断るだろう。しかし、さっきも言った様にちょこっとだけ増えたのがオレとしては嬉しいんだな、これが。
「マア、お前には何かと結構、貸しがあるからな、いいぜ」
 確かにこいつには山ほど貸しがある。
 特に金銭面で、ハハッ。
 後は大学内の理数系も世話になっている。
 藤宮さん、貴斗、そして、俺、俺達三人は出来るだけ同じ科目を取っていた。
「マジか?本当か?」
 ヤツは大げさなリアクションをして来た。何か新鮮!
「マジで、それに最近何かと銭が要るし、小遣いじゃ、ままならんしな」と素直にそう答えた。
「何だ、まだ親から小遣いなんてもらっていたのか?」
「あったりぃめぇだろ、お前だって、こっ」
「『こっ』?何だ、それ」
「いや、何でもない、気にするな」
 コイツは知らないだろうけど、コイツの祖父、藤原洸大は小遣いを含めた彼の生活費などをコイツの銀行口座に振り込んでいるんだよ。しかし、コイツは知らない人間からの金は使えないと頑なにそれを使っていない。
 払えるものは全部コイツ自身で払っている事を知っている。
 その事を翔子先生と洸大理事長に報告した事があった。
 酷く嘆かれていた。
 しょうがないよな、肉親なのに肉親だって言えない辛さ。
 何時になったらその関係は修復されるんだろうか?貴斗も翔子先生、洸大理事長もマジで可愛そうだ。
 それでも今の貴斗に記憶を取り戻して欲しくなかった。
「慎治がそう言うなら何も聴かないさ」
 貴斗はケシテ人の心に深く侵入したりしてこない、それはコイツが自分自身もそうされたくないからだろう。
「それじゃ、慎治バイトの件はOKでいいんだな」
「ノー、プロブレム!」
 ヤツはそう確認を取ってきたので答えを返した・・・、
英語?クライフの影響か?
「いつから出来る?」
「なら、今から面接に行ってもいい、どうせ暇だしな」
 別にやる事がなかったので即答でそう答えたやった。
「助かる、今から店長に連絡するから暫し待たれよ」
 電話をかけるからコイツは待てと言ってきた。
 当然待ってやる。
「藤原貴斗と言うそこのバイトの者ですが、店長はいらっしゃるでしょうか?」
 コイツの電話が終わるまでスプーンを口に銜え待っていた。
ホントにこいつは電話を掛けている時、口調が丁寧だ、別人かと思う。
 やっと話が終わったようだ。
コイツにストレートに、
「相変わらず、即行電話だな」と口にしてやった。
「長電話、耳が痛くなって嫌。連絡、取れたし、行くぞ」
 ヤツは促すように席を立った。
 俺もここにいても何の意味もない。移動するか。
「有難う御座いました、そろそろ新メニュー、出す頃ですからまた食べに来てくださいねぇ~」
「オウ、来る、来る」
 夏美ちゃんの可愛い挨拶についそう答えてしまった。
「考えておく」とコイツは素っ気無い態度。
 そして、俺たちは店を出て行った。
 コイツのバイト先に向かう途中、
「慎治、答えろ!」
 コイツらしからぬ、感情?がこもった口調でそう何かを聞いてきた。
「なんだ?急に」
「皇女さん、お前の母親なんだろ?何で隠していた」
 俺は貴斗のその質問に、からかうような態度をとっちまったよ。
「はてぇ?なんのことかな?」
 コイツは俺と母さんの関係について言っているのだろう。
 お遊びで知らん顔してみるか?
「しらばっくれるな、ネタは上がっている」
 こう言う貴斗を見るのも面白い。感情剥き出し!
「お前が聞かなかっただけだろ」
 冷静になってこいつにそう答えてやった。
 何だか何時もと立場が逆かもしれない。
「いや、それはそうなんだが」
「俺も・・・、最近まで知らなかったんだ、最近まで」
 口にしている事は本当だ。
 コイツがそんな事を聞いてくるからコイツの過去を思い出しちまった。
 知りたくなかった過去。俺の口からは絶対、語りたくない。
「悪かった、変な聴き方して」
「別に気にしてねぇよ」
 ヤツは自分が悪いと思って謝ってくる。
「そろそろ、バイト先に着くぜ」
「分かっているよ、お前がいない時によく行ってたから」
「そうだったのか?俺が要る時ならジュースくらい奢ってやったのに」
〈そう言うと思った、だからなるべくお前がいる時間を避けているんだ。その分その金を藤宮さんに使ってやれよ〉
 コイツの脳内にテレパを送ってみた。
 何の効果もなかったが、別の反応が返ってきたぞ。
「アッ、とそれと今日は今から行けば、綺麗なお姉さんが働いている」
・・・駄目だ。俺の意志は全然届いていないけど返って来た反応が面白い。
 こいつの口から〝キレイなお姉さん〟と言う単語が出てきた。
「えっ、マジ、マジ」
 キレイと言われたら男である俺のその反応は当然の事。
 そうじゃ無いやつも少なからず居るかもしれないが、そんな風にコイツに言葉を返してやった。
「嘘を言っているつもり無いが」
「そりゃ、楽しみだ、さっさと行こうぜ」
 どんな人かなぁ?楽しみだ。
「何を言っている、もう目の前だろ」
 ヤツは己の顎で俺にその場所を示してきた。して、店に入ると初めに聞こえてきた声は、
「ァあ、貴斗君!いらっしゃい」
 それは連れの名を呼ぶ声だった。
 その方を見て見た・・・、貴斗の審美眼は標準が高いようだ。
 美女と可愛い、二つをバランスよく持ち合わせたそんな顔付きの店員さん。
「井澤さん、仕事中!客に馴れ馴れしくしてはいけません」
「ミっ・ユっ!」
 彼女は名前で呼べとヤツに強要している、そう感じる口調だった。
「魅由さん、ダチを連れてきた。店長に合わせてくれ!」
 コイツは〝渋々〟そんな感じを受ける表情で彼女の名前を呼んでいた。
「店長に合わせる前にワタシに紹介してよ!」
「否!後で店長に紹介してもらえ!俺達の相手をするより他の客の相手をしろ、って言うか仕事しろ」
「貴方達以外にどこにお客さんいるのかなぁ~~~?」
 店内を見回す。確かに俺達以外、客は誰もいなかった。
 ここら辺に来る時、俺はこの店に結構通っている。高校に行っていた時も必ずと言って良い程利用していた。立地条件もよく品揃えが抜群のこの店。普通ならもっと客がいてもおかしくない。今、俺達以外、不思議なくらい誰もいない。
 貴斗と魅由って呼ばれている人は不毛な言い争い?をしている。
 俺が自ら自己紹介しないと終わらないかもしれない。そんな感じであった。
「初めまして、こいつのダチの八神慎治です。コイツに強制連行されてここに来ました」
「井澤魅由よ、慎治くんだっけ?宜しくねぇ」
 彼女は俺に可愛らしく微笑みながらそう挨拶して来た・・・。可愛い、惚れちまうかも・・・、なぁ~~~んてね。俺にはすでに好きなやつがいる。叶わない恋、片思いってやつだけどな。
「自己紹介、終わったなら、さっさと店長呼んできてくれ!」
 貴斗のヤツ、不機嫌そうな口調で魅由さんに言っている。
「ハァ~~~い、待ってテネェ、二人とも!」
 彼女は軽く手を振りながらニッコリとした表情で奥に駆け込んで行った。
「オイ、魅由さん、キレイで可愛いな!お前の観察眼は中々の物を感じるぞ」
 コイツは照れているのか俺から顔を背け、項を掻いていた。
「藤宮さんに、彼女とお前の関係言ってみようかな?オヒレ、ハヒレ付けて。彼女の事だ、絶対妬くゼェ~~~、クックックっ」
「わぁっ、やっ、止めてくれ!」
 貴斗は動揺しながら俺のシャツを掴み、『グラッ、グラッ』と身体を揺さぶってきた。
「グッ、苦しい、ジョ、冗談だよ、冗談!だから放してくれ!」
「アッ、悪い、苦しかったか?」
 コイツはそう言いながら俺から手を外した。
「大丈夫だ、この位でくたばるか」
 俺達がそんなやり取りをしていると店長らしき人が奥からやってきた。
 貴斗を店内に残し俺はその人と面談した。
 とても優しい面をしている。中々そんな面、出来るもんじゃない。そんな男の包容力を感じる人だった。
 店長、鹿島明さんは店内から店で売られている真新しい履歴書を持って来て、それに書いてくれと手渡してくれた。
 即行で書き上げる事、約三分。
 店長にそれを渡すと、彼はニッコリと笑い、言葉をくれる。
「それでは、宜しく御願い致しますよ、八神君。急に頼んだりして申し訳ないですが、明日から頑張って働いてください」
「バイト初めてっすけど頑張ります。鹿島店長!こちらこそ宜しく御願いします」
「言い返事ですね。期待しています」
 店長はこの不景気だと言うのに初任の俺の時給を950円からスタートしてくれた。
 これなら働き甲斐がる。
 店長と魅由さんに別れを告げ、貴斗と一緒に街をぶらつく事にした。
「美味しい仕事紹介してくれて、サンクス!」
「男手が少ないから、お前が思っているほど仕事楽じゃいから、覚悟して置け」
 コイツは淡々とした口調で俺にそう言って来た。
「あれだけ給料良けりゃぁ、少しぐらいの事でヘコタレはしないさ」
「そうか・・・・・・・」
「当然!」と貴斗的に言葉を返してやってみた。
 くだらない会話をしながら共通の趣味の店を転々とし街をぶらつく。
 A&Cと言う店で新機種の携帯を片手に突然、脳裏にフッとどうでも言い疑問がわき起こってきた。答えてくれなくても良かった。だがコイツに聞いて見る事にする。
「なぁ貴斗、何でお前は用件が終わると直ぐに電話を切るんだ?」
「・・・・・・・・・・・・」
 押し黙ってしまった。やっぱり何か理由があるのか?教えてくれないようだ。
「わリィ、変な事、聞いちまったな。答えなくていいよ」
「・・・・・・・・・・・・、笑わないか」
「ハッ?」
「笑わないかと言った!」
 今度は俺にハッキリと聞こえる声でそう言って来た。
「そんな事をするか!」
 こいつの表情、真剣になっているマジだ。笑い事じゃないのだろう。
「怖いんだ、恐いんだよ、人と顔を合わせて話す事が出来ないのが・・・、大事な奴等の顔が見えないのが・・・・・・、声だけじゃ・・・、嫌なんだ。話している相手が見えないと独り言をしているようで、俺しかこの世界に存在していないのではと感じてしまうから・・・、寂しくて辛い」
 コイツはそう答えを返してくれた、目を瞑った状態で。
 外から貴斗を見たらこの体格とクールな性格。
 恐怖なんて言葉は似つかわしく思える。だが今、コイツの外面や言動からケシテ推測できる事のないコイツの内面的な感情を訴えてきた。こいつの内面的弱さを知る。
 相手を分かってやれるそれは親友として嬉しい事だった。
 コイツの過去は今のコイツにいらないのかも知れないと急に最近思い始めた感情が湧き上がっていた。
「貴斗!じゃ、何で携帯とか持ってんだ?」
「これはただの道具、生活を便利にするただの道具だ。利用できるモノは何でも利用するのが俺の主義」
 コイツは閉じていた瞼を上げ、店に展示してある模造携帯を見詰めながらそんな事を口にした。
「・・・分かったよ、電話でお前に連絡するときは出来るだけ手短にする」
「・・・・・・・・・、別に強制しない」
 弱い一面を見せたくせに直ぐこれだ。素直さと頑固さが同居した変わった性格のヤツ。
「ククッ」とそんなコイツに苦笑してやった。
 今日はまた色々なダチの一面を見た。
 母さんに報告しないといけないな。
 母さんは既にこんな貴斗の一面を知っているかもしれない。
 こう言う風に貴斗を見る、観察?出来るのは俺が中立的な立場にいるからだろうか?・・・、考えても結果など到底見えてこないだろう。
 誰かが欠けてしまったこんな現実でもこのまま続いて欲しいと願った。
 酷い言い方かもしれないが、カノジョはもうこの現実に必要ないのかもしれない。
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