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第 一 章 見透かせない心の壁

第一話 遅れてきた報せ

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 貴斗が話してくれるまでその事実を知らなかった。
 知らされていなかったと言うべきなのかもしれないな。
 俺の親友の一人、宏之、その恋人の涼崎春香の事故と入院。
 涼崎さんは俺とフランクに話が出来る隼瀬の友達であり、貴斗の恋人の藤宮さんとも仲がいい。
 アッ、それと藤宮さんと隼瀬は幼馴染みで実は貴斗の奴もそうなのだが・・・、アイツは現在進行形で記憶喪失だからそれを覚えていないんだ。
 ヤツのそれの御陰で隼瀬も藤宮さんも随分と苦労していようだ。
 俺も涼崎さんとは彼等、彼女等の関係により、結構仲良く話したりする。
 オット、いけなねぇ話がそれちまったよ。
 俺は涼崎さんの容態を言おうと思ってたんだけっけな。

~ 2001年9月10日、月曜日 ~

 今日も俺は周期的に回ってくる教室の掃除当番をしていた。
 下校前のホームルームが終わると内のクラスの生徒は一斉に教室から出て行った。
 まるで蜘蛛の子を散らすような感じでな。
 現在、教室には俺を含む数名の掃除当番と深刻な顔をした、貴斗のヤツがいた・・・。
 深刻な?ッて言うかアイツの余り変わらない表情を理解できるのはかなり少数の人間、本当にごく少数だけ。
 表情で感じるんじゃなくて、なんてぇ言うのかな、雰囲気、って奴か?
 学校の中でアイツは何時も無愛想で鉄面皮。でも、最近その理由をなんとなく俺は理解し始めた。俺が箒を片手にそんな事を考えていたら、
「慎治!」とさっきまで考えていたヤツの声が聞こえてきた。
「ぅん?どうした、貴斗!・・・そういえば、今日も宏之の奴学校に来なかったな」
 ヤツの名を呼びながら、不思議と宏之の名前が出てきた。
「慎治、予備校で忙しいの、分かっている・・・、がお前に頼みがある」
 ヤツはやぁ~さん、顔負けの物凄い形相、睨んでいる?
 知らない奴が見たら俺が脅されているような感じ。
 そんな形容が当てはまる状態で貴斗はそんな風に口にしていた。
「何だよっ、急に!」
 ヤツの形相に驚いた俺の口から出た言葉はそれ。
「宏之を・・・、強引にでも学校に連れてきて欲しい」
 ヤツの口から宏之と言う単語が出てきた。
 ヤツが俺以外に学校と違った顔を見せる、貴斗の数少ない友達の名を出していた。
 貴斗の口にした言葉からついヤツが何か知っているのではと勘ぐってしまったが冷静に返す事にした。
「そうだな、それじゃ今日の帰り二人でアイツ家、行ってみるか。何であいつ先週ずっとサボってんのか知らないけどな。まあ、奴のことだ、まだ夏休み気分に浸っているんだろうけど・・・」
「俺は駄目・・・、なんだ。それに・・・」
 ヤツはうなだれ、気不味そうな顔でそう言って来た。
「なにゆえ?」と即、聞き返した。
 そんな顔されたら当然その真意を知りたくなる、ってのは人情だ。と思うのは俺だけかもな?
「たのむ!」
 ヤツが土下座をしながら俺に必死に頼み込んできた。
「分かったから、土下座はなんかするなよ」
 その行動を制止させるためにそんな言葉を言ってやった。
ヤツが土下座するって事はよっぽどの事情なんだろう。
それにヤツが土下座するなんて見たくないしな。
〈周りの目もあるし・・・、それに余りにも似合わなすぎ〉
 心の中で苦笑しておいた。でも、今、俺だけだし、この広い教室にはコイツと俺以外誰もいないんだけどな・・・。
 ああ、因みに、他の教室掃除当番の連中は貴斗の野郎が土下座をする前にゴミ捨てに行ったところだ。だから、ヤツのそんな姿を見れたのは俺だけ。
 暫くの沈黙が訪れた。
 その間、俺は持っていた掃除用具を片付けていた。
 やっとの事でヤツは口を開き言って来た言葉は単純なもんだった。
口少ない貴斗の言葉だ、そこら辺の奴等が言うよりは重みがある。
「本当にすまん!」
「もういいって、それじゃ今から俺アイツん、とこ行くから。デモ、なんで宏之のヤツ学校に来ねぇんだろうな?」
 どうせ答えてくれないだろうけど、そんな言葉を口にしてみた。
「それは・・・・、聞かないのか、俺が行かない理由?」
 案の定ヤツは言葉を濁し宏之の事ではなく自分の事について言ってきやがった。
「お前が自分から話してくれるまで気長に俺は待っているさ。そんじゃっ掃除も終わったことだし帰るわっ!報告は明日な。さいならぁ~~~!」
 どうせ、それも答えてくれないだろうと思い、貴斗のヤツにそう答えてやると鞄を持って、さっさと教室を立ち去った。どうして、さっさと立ち去ったかって?
 貴斗との付き合いは今年に入ってからでそんなに長くないがあれで案外洞察力に長けているのを知っている。
 まぁ、勘違いかもしれないけどね。
 ゼミ、今日もあるんだけど仕方がない、休ませてもらうか?
 然し、貴斗のヤツも無理を言ってくれるよ、ホントに。
 宏之の家と俺の家どれだけ離れていうると思っているんだ。
 優に片道一時間はあるぞ。学校の帰りに直接出向くからいいけど、家からだったら面倒甚だしいぜ。後でヤツに奢ってもらにゃ、話にならん。
 それから、約三五分を掛けて宏之のマンションへと向かった。
 奴のマンションに辿り着き、玄関のインターフォンを押しても、扉を叩いての何の反応も示さんかった。
 暫く、その前で突っ立って待っていると扉の下の隙間から〝誰にも会いたくない、帰れ〟と書かれた紙が滑り出してきた。
 その紙を拾い上げ、苦笑する。
 何とか交渉の手口を考え、彼とご対面したかったが、何も思いつかなかった。
 何せ、宏之のエスケの理由を知らなかったからな。
〈しゃぁねぇ、やっぱ貴斗のヤツに理由を聞かない事には、始まらないな。明日あって、ちゃんとゲロってもらうしかないな〉
 そう思って今日は引き返すことにした。
 家に帰ったら直ぐに貴斗に連絡入れようと思ったがヤツは〝今日〟もバイトだろうと思って午前12時少しを過ぎてからヤツに電話をかけた。
「もしもし、貴斗か?慎治だけど」
「私、本人だ、慎治か?疲れているから、用件だけ聞く」
 ヤツの電話の態度は常に素っ気無く、無駄話をしようものならヤツは即電話を切ってしまう。
 そのくらい長電話が嫌いである事を知っていたが今日はそうも行くまい。
「宏之の事だけど、顔すら合わす事無く、交渉は一方的に失敗した。単刀直入に言う、知ってること全部吐け!」
 交渉など、微塵にもしてないが口調を強めヤツに問いただしてみた。
「・・・わかった。明日の放課後クラスに誰もいなくなったら話す」
『プチッ、ツゥー、ツゥーっ!』
 ヤツはそれだけ言うと、こちらの返事も聞かず電話を切りやがったぞ。
 人に頼んでおきながらなんだよ、まったくあの態度は。
 なんて身勝手なヤツだ。
 何であそこまで電話が嫌いなのか謎だよ、まったく信じられないぜ。だが、然し、ヤツの口調は凄く重そうに感じてもいた。
 気のせいなのだろうか、それともマジで言い難い事なのか?
 しゃぁ~ないっ、そんなことで憤慨するほど心も狭くないし、明日会えば判る事だからもう俺も寝るとしよう。

*   *   *

 翌日の放課後、話の切り出しに昨日の電話の態度に文句を言ったが貴斗のヤツに軽くあしらわれた、歯牙にもかけないって感じでな。
 だが、ヤツの口から全てを知った時、それは電話で話せる事でないと理解するのにさして時間を要しなかった。
 それは時間にして〈コンマ007、ククッ。あれじゃないよ〉と自分に突っ込んでみた・・・虚しい、話を戻すな。
 宏之の恋人である涼崎さんは夏休みの終わり頃に起こった事故が原因で現在、入院中だそうだ。ただ、入院しているだけなら宏之だって学校をサボったりしない。
 ならどうして?
 彼女は軽傷でありながら事故で入院して以来、一度も目を覚ます事がないからだと貴斗は言っていた。
「なんだぁ?それじゃ、俺だけ除け者だったって訳か?オマエも、隼瀬も、藤宮さんも知っていて、俺だけが知らなかったってぇのか?」
「悪いと思っている。だが、話すタイミングが掴めなかった。慎治は俺と違い交友範囲も広い。それに塾通いで・・・、俺らに構ってられないと思っていた・・・」
 貴斗は淡々と冷静な口調で語ってくる。
 然し、ヤツの表情から依然として翳りを拭い切れてない。
 何故?それはヤツが涼崎さんの事故の加害者であると思い込んでいるからだろう。
 その事実を知っているのは現在、俺だけ。
 宏之、隼瀬、恋人である藤宮さんにさえ言っていないと俺に聴かせてくれた。
 多分、俺に聞かせてくれたのは信用、それとも信頼?してくれているからだろう。
 三人には絶対言わないでくれと睨まれながら・・・、ヤツにとっては懇願のつもりだったのだろうけど。そう頼まれた。
 それを表面上OKしたが約束し切れなかった。
 コイツをこのまま放って置けば貴斗自身が潰れてしまうかも、と思ったからだ。
 何でそう思うのかは・・・・・・奴の過去、記憶喪失になる前の貴斗を知っちまったからだ。その事について誰にも話す積りは無い。たとえ貴斗の恋人である藤宮さんにもな。
 やばっ、また話がずれちまった。もどすな。
 目の前に居るコイツの話を要約すると事故当時、宏之がデートの約束に遅れていた為、電話で涼崎さんとヤツには珍しく長電話をしていたそうなんだ。
『俺が何時もの様に簡単に会話を切り上げていたらそんな事故など起こり得る筈もなかった』とコイツは主張している。
 然し、悪いのは貴斗ばかりじゃない様な気がするぞ。
 遅刻した、宏之だって当然その加害者と言えなくはない。
 事実、宏之が遅刻をしなければ起こらなかったかも知れない事だからな。だが、謎はマダある。
 宏之は相手が男でおあれ女であれ待ち合わせの時間には滅多に遅れて来る事はない・・・。
 ところか、常に約束の時間よりも早く現れている。
 何故その日に限ってヤツは遅れたのだろうか?だけど、その真相を知るのにさして時間は掛からなかったけどね。
「そう、自虐的になるなって。全てお前が悪いわけじゃないだろ?」
 ヤツの気分を軽減させてやろうと思った。だがヤツは言い返し、
「フッ、駄目だ、そう思えない。どう言われ様と自分が許せない」
 ヤツは自嘲気味な笑いを浮かべそんな風に口を動かしていた。
 ハッ、駄目だ、まったく取り付く島もない。
 こういう風に答えてくるのはヤツの深層心理に何か深い霧が覆い被さっているからだろうと推測した。
 総ては忘れちまっている奴の記憶の中にな。
 マダ、宏之と顔を会わしていないがその事故とやらで、相当ダークな気分になっているだろう。だが、貴斗の人生は更にそれを凌駕する程、悲惨な事を知っている。
〈ハァ〉と心の中で小さく溜息を吐く。
 このまま、ここでこうしていても無駄に時間を費やすだけだと思って、さよならの挨拶を交わす事にした。
「今日も宏之の所に行って来るよ。お前から頼まれた仕事ちゃんと遂行したいしな、それじゃ」
 話を切り上げる様にヤツに言ってやった。
「慎治、これ持って行け」
 すると言葉と一緒に何か、カードらしきものを投げてきた。
 それを落とし損ねそうになるが何とかキャッチ!
「おっとっと、何だ?このカード」
「宏之のマンションのカードキー。昨日、やつの部屋に入れなかったんだろ。お前の言葉から推測してそう思った」
「何でオマエがこんなものを」
「昨日あれから徹夜で作った。それを使えば、あのマンション全てのドアと言うドアを開けられるだろう。だが・・・、犯罪に使うなよ、フフッ」
 ヤツは、鼻で軽く笑いながら俺にそう言って来た。
「ハハッ、マスターキーね、これ・・・・・・、ってオイ、そうじゃねぇだろ?こんなもん作るお前の方が犯罪者だっちゅ~のッ!」
「そうかもな」
 今度は表情の形を幾分変え少し笑ったように見えた。
「それじゃ、これは最終手段、ファイナルウェポン的に使わせてもらう」
「そうか、判った」
「俺、行くぞ。時間無駄にしたくないからね。それと、成功したら何か奢れ!じゃあな!・・・・・・ッて、もう一つ言う事があった。藤宮さんに心配かけさせるなよ」
「了解・・・、それと努力する」
 最後のヤツの口癖を聞いて苦笑しながらその場を立ち去った。
 カードキーを眺めながら〈これ、マジで使えるのか?〉と疑問に思った。
 ずっと前、宏之に聞かされた事だけど奴のマンションはセキュリティーとやらが万全らしい。
 カードキーも特殊なものでマグネティカルではなくオプティカルで作られているから偽造は不可能って言っていた。
 本当に大丈夫だろうかと一抹の不安に駆られたが、行って試してみればいい事だ。
 使えなかったらそれでも良いかと直ぐに気分を入れ替えた。そして、奴のマンションへと貴斗の依頼を達成させるために今日も向かっていくのであった。

慎治 編 完



































ってオイ、話はこれで終わりか・・・?んぅなぁ~~~わけねだろっ!
 ギャグ路線を暴走驀地、突っ走りながら最後はあの人とラヴラヴのエンドを向かえる事になっているぞ・・・、多分だけど。
 本当は話がブルーなだけに俺も気が滅入りそうなんだ。だが、ソンな事を言っていてもしょうがない。
 それでは次に行ってみようか!
 レッツ・ネクスト・チャプタァ~~~にっ、ゴぉおぉおーっ。
 さて、俺がぼけキャラのままで最後までとうせるか不安だ・・・。
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