語れや勿怪

片里 狛

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-水の女と耳噛む男-2

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 くるくる回ってから、引掻くように先端に爪で擦ると、タイラさんが首を逸らして息を飲んだ。ぷるぷる震えながら、浴槽に腕をついて片手の甲を口に当てる。噛んでんのかな、押し付けてるだけかな、どっちもでエロいことには変わりない。
 ……声、殺してんのもかわいいね?
 でもおれは、もっとアンアンしてほしいなぁ。
 タイラさんのちょっと掠れた声、すごく耳に気持ちいいから。
「タイラさん、わかるー? 人差し指でさ、ピンって弾くと、タイラさんの腰揺れんの。ふは、えろーい。えーこれきもちいー? おれ乳首責めうまいー? もっとつまんでほしい? こりこりしてほしい? それともー……押しつぶしてぐりぐりしてほしい?」
「…………っ、ふ……」
「お、いま想像した? 想像しただけでちょっとえっちな気持ち上乗せされちゃった? タイラさん、おれのことコワイのに乳首虐められてコーフンしちゃうんだねぇ。いいね、人間って感じ。すごいグッとくる。ていうかチンコまた勃ってない? さっき出したばっかなのにえっちじゃん?」
「だれの、せい……っ、おまえだって、硬いの当たってんだからな……」
「ん? ああ、おれのチンコ、タイラさんのケツに当たってる? まあそりゃ、コーフンしてっからね、おれ。ダイジョーブ、こればっかりはタイラさんの言葉信じてるから、いきなり女の子にするみたいに準備ナシでつっこんだりはしないよー。別におれ、タイラさんの中で擦りたいって思ってないし」
「ぁ、待っ、や、……っ、やだ、それ……っ」
「んーつまんでコリコリすんの好きなんだねぇーかんわい……」
 こりこり、容赦なんて一切なくタイラさんの両の乳首を虐めたおす。
 ついでに後ろから左の耳を噛むと、『ひゃっ』みたいなすっとんきょんな声が上がって腰がびくんと震えた。背中がふるふるしてるのがわかる。ぴたってくっついてるからね。
「……耳、後ろから噛まれんの、すき?」
 ひたすら乳首ばっかりを弄っているうちに、タイラさんは結構無理なくらい興奮してきちゃったらしい。
 もうだめむりーってなると、この人は容易に理性を飛ばす。なんていうかなー、そういう風に性格が曲がっちゃったのかもしんないけどさ。見たくないものを見ないための、防衛本能? なのかも。
 理性ぶっ飛ばしたタイラさんは、若干だけ素直になる。口ではやめろとか嫌だとかダメとか言いながら、おれが『これ好き?』って訊くとちょっとだけ頷いたりする。
 タイラさん、耳噛まれんの好きだって。ふふ、じゃあいっぱい噛んじゃお。
 おれはタイラさんに嫌われたいけど、痛い事をしたいわけじゃない。ずっとずっと気持ちいいことをして、タイラさんに怖がられたい。だからおれは、タイラさんの綺麗な耳に歯を立てて、きもちいい? って訊く。
 タイラさんはだんだん前かがみになって、ついには浴槽のへりにどうにかしがみついているみたいな体勢になった。
 よいしょっと抱えなおして、湯船の中に引っ張り戻す。
 膝立ちも結構きつい。風呂の中でタイラさんを抱えるように座っても、結構余裕がある。一軒家のお風呂って広くていいなーって初めて思った。おれの家も一軒家だったけど、おれはほら、なんでか風呂が嫌いだったから。
 膝の間にタイラさんを抱えるようにすると、くったりともたれかかってくる。
 ぷっくりと立ち上がった乳首が丸見えだ。別に見た目に興奮したりはしないけど、でもエロイなーとは思う。そもそもおれ、女の子の胸とか尻にそこまで興奮しないし。それよりタイラさんの嫌そうな声や我慢できない甘い息とかのほうが興奮する。
「……なが、……っ、ちくび、ばっか、……も、やめ……」
「えー? いいじゃん、あと一時間くらい頑張ろうよー。そしたらおれもきっとのぼせちゃってさぁ、お布団に戻ったら襲う元気無くすかもよ? 体力削るチャンスじゃん?」
「おまえ……このあとまだなんかヤる気なの……」
「え、毎日寝る前はワンチャン狙ってるよ? 寝る前におれから逃げるタイミング窺うタイラさん、かわいいんだもん」
「だもんとか言うな二十三さ……、ぁ、ばか、だから、乳首、摘まむなって、言っ、」
「んーふふふ。えろいね、いいね。腰、びくびく動いてるじゃん。タイラさん乳首だけで射精できんのー?」
「い、いやそれは、さすがに……したこと、ねーけど、」
「ん、そっか。じゃあ試してみよ?」
「…………む、むり……」
「えーいけるって。何事もチャレンジだよ? ファイト! タイラさんならできるって! すげーえっちだもん!」
「スポーツの応援みたいに言うんじゃねーよ……」
「じゃあどうしたいの? やめろ以外のおねだりないの? ねーねーおれねー結構ねーべたなやつが好きみたいなんだよねー。タイラさんさー結構さー空気読むじゃん? じゃあわかるよね?」
「…………いいたくない……」
「えー。じゃあ自分でする? いいよ? おれこっから見てるし乳首弄ってるから、タイラさん自分でチンコ扱いて射精してもいいよ?」
「…………………………」
 うわ、嫌そう。ていうか屈辱って感じ。すごい。すごいかわいい。最高。最高にかわいい。
 嫌がるけど、でも我慢できないんだよね? 大人で男だもんね? 我慢するなんてきついもんね? 一人でトイレで出すのも無理だもんね?
 ね、ってもっかいねだって耳を噛むと、タイラさんは口元に手を当てて震える声でちいさーくちいさーく『……いかせて』と言った。
 んー。んー……ま、いっか。もっと大きな声でもっと卑猥に言ってほしいけど、こういうのってやりすぎるとしらけるしね。
「ん。……じゃ、いかせてあげるね?」
 タイラさんが自分でおねだりしたんだから、おれは悪くないよね。うん。チンコの先っぽだけぐりぐりしても、耳を噛みながら乳首こりこりしても、おれは悪くない。だっていかせて、って言われたし。
 ……タイラさん、いっぱい虐められて達くの、だいすきだもんね?
 って感じでこのあと三十分くらい散々焦らして弄って嬲って虐め倒して寸止めして、ぱんぱんに膨れたアレの中身をお湯にぶちまけたタイラさんは、流石に目を回して倒れてしまった。
 冬のお風呂で倒れるなんてのはさすがのおれもヒヤッとするからやめてほしいよね。おれのせいなんだけどね! はは!
 はー……うん、ちゃんと生きてるし血管とかそういうアレじゃないっぽいし大丈夫。ほんとにただのぼせてちょっと脱水みたいになっただけっぽい。
 濡れたタオルで身体を拭いて、乾いたタオルでまた拭いて、さっさと抱き上げておれの部屋のベッドの上で毛布巻き付けて横にポカリだしといた。
 叩き起こすのもよくないかな。そう思って先に汚れまくった浴室を掃除することにする。終わるころにはタイラさんも目を覚ましてることだろう。たぶん。そしたらご飯つくろ。そういや今日はなんも食べてない。
 空腹で無茶したからかも? うーん今度からは、お風呂入る前に水と食べ物用意しとこう。
 しかしタイラさん、ぬるぬるでよかったなー。
 泡ぶろってなんかそういう素みたいのあったっけ? ああいうの、好きそうかも。風呂はいまでも一人で入るのは嫌いだけど、タイラさんとならいくらでも長風呂できる。たのしい。最高。
 鼻歌歌いながら、あータンパク質最初に救わないとこれ詰まっちゃうんだっけ? と思い出して洗濯槽のゴミ取りようの網を片手に、ざぶん、とお湯の中に手を入れた時だ。
 お湯は白く濁っている。たぶんタイラさんの精子じゃなくて、おれがぶっこんだ入浴剤とかボディーソープとかのせいだ。
 底が見えないお湯の中で、誰かがおれの手を掴んだ。
「…………へぇ」
 お湯の中から、ゆっくりと浮かんできたのは長い髪だ。黒い、長い、女の髪。
 その中からゆっくり、ゆっくり、女の顔が浮かびあがる。
 それは紛れもなくさっき、浴室の外で奇声を上げていたアレ。……『ママ』だ。
「なんだ。……あなた、おれに、干渉できるんじゃないの」
 ママの顔は無だ。表情がない。相変わらず目が小さくて、口が気持ち悪い程横に伸びている。能面のような、いびつな無表情。わかるのは、憎くて憎くて仕方ないことだけだ。
「おれさ、あんたはおれのことが憎いのかなぁってずっと思ってたの。でも、ちょっと違うのかもね。おれとか、タイラさんとか、主語はそんなに大切じゃないのかもね」
 ママは能面を崩さない。憎しみで無になった顔を崩さない。半開きの口から、あーーーーーー、という声が零れる。
 お湯の中でおれを掴む手は、爪をたてながら湯の中に強く引っ張る。
「キシワダトワコ」
 ぴたり、と、腕をひっぱる力が止む。
 あーやっぱり、正解だった、とおれは笑う。
「あなたのこと、調べたよ。まあ、全部はわかんないし、たぶんまだ語る程の言葉は足りないんだけどね。でも、あなたの名前は、たぶん、キシワダトワコ。三十年前に行方不明になった、この家の前の前の隣人だ」
 能面のような顔に特に変化はない。が、お湯の中の腕ががくん、ととんでもない力で引っ張られた。
 うは、びっくりした!
 ちょっとひっぱりこまれそうだった! よくふんばったおれ! タイラさんに貸してもらいっぱなしのジャージ、濡れたらやだもんねーと思って湯の中に入らなかったんだけど、これ絶対正解だったね。ありがとうタイラさんのジャージ。
「家の因縁を調べても、家系の因縁を調べてもなんも出てこないわけだよ。だってあなた、ただの隣人だもの。でも、あなたがそうなった理由はまだ、よくわかんないんだよなぁ……これは藍ちゃんの続報待ち。藍ちゃん、すごいでしょ? あの人ね、調べもの、うまいんだよ」
 藍ちゃんの本業は探偵だ。
 探偵って言うと恥ずかしいから調査会社って言えっていつも言われるけど、ハードボイルドなアニメキャラみたいな外見してる藍ちゃんのほうが悪くない? って思う。
 おれはむかーし、藍ちゃんを助けて、藍ちゃんはそれからずっと、おれを助けてくれている。
 友達って言われて思い浮かぶ顔はひとつもない。藍ちゃんは友達じゃなくて藍ちゃんだからだ。おれにとって、藍ちゃんという名前は職業であり、存在そのものだ。
 今回も藍ちゃんはため息一つでおれにはできない方法で、たくさんの調べものをしてくれた。
 あんまわかんなかったよ、と言われたけど、まあまあだ。
 だって『ママ』の名前はわかった。こいつはママなんかじゃない。キシワダトワコだ。
 まあでもこのくらいじゃ無理かなーとか言いつつ、おれはケツポケットに入れている塩の袋を取り出す。
 ジップロックで小分けにして持ち歩いている『除霊グッズ』だ。七つ道具とかほしいけど、残念ながらおれには塩しか必要じゃない。
 濡れた片手でどうにか塩を取り出し、つまみ、えいやっと浴槽の中にぶっこむ。
 ワンチャンいけないかなぁ。無理かなぁ。
「……ま、無理だよね。だよね」
 ぼこっと一瞬で沈んだ顔が見えなくなった瞬間、おれはお湯から解放された腕をひっこぬく。
 うえー爪のあとつんてんだけど。さいあくだ。ちょっと血滲んでんじゃん。あとでタイラさんが目を覚ましたら、恩着せがましく看病してもらお。
「トワコつよーい」
 わは。と笑うのは別に強がりじゃない。
 本当に何もわからない一切わからないみたいな霊障が多い。理由なんか、わかる方が稀だし、死んだ人間の名前が残っている方が稀だ。
 そんな中、藍ちゃんはドンピシャ正解を引き当てた。流石本業。ていうかあの女、ヒントがありすぎる。
 いつも同じ制服(タイラさんは気が付かなったみたいだけど、あれはデパートの制服だ)。
 いつも同じ香水の残り香(ま、生臭い臭いのほうがつよいんだけど)。
 いつも同じ方向を向いて立つ(キシワダトワコはキシワダトワコの家にいつも背を向けている)。
 こうしてわかった情報をもう少し集めていけばもしかしたらまじでおれの力でもいけるんじゃない? トワコやれるんじゃない? って思うけど。
「……あ。タイラさん起きたかなー?」
 いますぐどうにもならないものをどうにかする努力は面倒なので、おれはさっさと現実にシフトした。
 トワコ、ほんと強いからさ。あんな強いやつ、なかなかいないからさ。……あんなつよいのは、まあ理由があるんだろうしさ。
 別に知りたくないけどタイラさんをトワコのもんにしたくないから、仕方ない。藍ちゃんに当たりだったよって言わなきゃなーと思いながら、とりあえずおれは固まった精子掬ってお湯の栓を抜いた。


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