ずっと隣にいます

三条 よもぎ

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第5話 これは運命かも

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侑人のことが気になりながらも自分から行動する勇気を持てなかった千景は、結局以前と変わらない日々を過ごしていた。
そんな生活が続いたある土曜日、自分の部屋で宿題をしていた千景はふと侑人のことが頭に浮かんだ。

侑人くんは今頃、何をしているのかな。

ちょうど区切りのいいところまで宿題を進めた千景は、椅子に座ったまま両手を上に伸ばして背中を軽く反らす。
休憩がてら侑人の家の方を見ようと立ち上がってレースカーテンを開けると、窓際で肘をついて立っている侑人が見えた。
千景のことに気付いた侑人と視線がぶつかる。

「えっ!いるっ!」

ドキッとして心拍数が上がった千景は驚きの声を上げながら、思わずレースカーテンを閉めた。
そして、そのまま窓の下に身を隠す。

今、侑人くんと目が合ったよね!?
あれは偶然……、それとも……。
もしかして侑人くんも私のことを考えてくれていたのかな。

窓枠の下の壁にもたれて座り込む千景の心臓は未だに鳴り止まない。
少しして気持ちが落ち着いてから再び立ち上がった千景がレースカーテンを開けると、向こうには既に人影が無かった。

「本当に偶然だったんだ」

独り言を呟きながらしばらく待ったが、侑人の姿が再び見えることは無かった。
諦めた千景はカーテンを元に戻すと、机に戻って宿題の続きを始めた。
しかし、頭の中が侑人のことでいっぱいになって集中出来ない。

さっき、同じタイミングで窓際に立ったのは運命だったんだ。
きっと侑人くんも息抜きに外を見ようとしていたのに違いない。
示し合わせた訳じゃないのに同じタイミングになるなんて、なんて気が合うんだろう!

その日は寝るまで千景は舞い上がった気持ちのままであった。


そして3日後、恋の熱が上がったのか夏風邪で熱を出した千景は学校を休むことになった。
薬を飲んでベッドの上で1日過ごしていると、夕方に千景の母が扉を叩く。

「千景、起きてる?入るわね」
「はーい、お母さん。いいよー」

返事をしながら千景が上体を起こすと、母が何かを持って来たのが見えた。

「お母さん、その袋はなあに?」
「隣の侑人くんからよ。後でお礼を伝えなさいね」
「えっ、そうなの?うん、分かった。ありがとう」

千景は驚きながらも部屋まで持ってきてくれた母にお礼を伝える。
千景の母は枕元のサイドテーブルに侑人からの差し入れを置くと部屋から立ち去った。
中身が気になった千景は直ぐ様確認する。

「これはミカンで……、あっ、スポーツドリンクもある!もしかして、私が風邪を引いたのを知ってるの?」

中身は風邪の時にあると嬉しい物ばかりで助かった気持ちもあったが、何も伝えていない侑人から差し入れがあったことに千景は疑問を抱いていた。

でも、いきなり何で風邪を引いたことを知っているのかとは聞けないよね……。

問い詰めたい気持ちのあった千景であったが行動には移せず、結局お礼を伝える当たり障りの無い内容のメールを侑人に送った。
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