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第37話 対峙

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「ジョエル様、騙されないで下さい。嘘をついているのはお姉様の方です。私を突き落とした上に嘘をつくなんてお姉様が怖い。私を信じて!」

ソフィアから話を聞きたいジョエルは取り乱すジーナに落ち着くよう宥める。

「まあ待って、ジーナは落ち着いて。君の話は今まで十分よく聞いた。今日はソフィアの話を聞く番だ。何かを判断する時はまず両方の言い分を聞くことって、エクトル君から学んだからね」

その言葉を聞いてソフィアは少し安心する。

ジョエル様がまだジーナに洗脳されていなくてよかったわ。
最初から拒絶されたらどうしようかと心配だったけど、ジョエル様が私の話を聞こうとしてくれて嬉しい。

ソフィアの話を聞きたいジョエルは、ソフィアの方に向き直ると話の続きをするようにお願いする。

「この前はジーナの手当てに夢中でソフィアの話をきちんと聞いていなくてすまない。体調不良にも気付けなくて婚約者として不甲斐ない。今日はきちんと聞くからソフィアの考えを聞かせて欲しい」

真っ直ぐソフィアを見ながら述べられたジョエルの言葉を受けて、ソフィアは自分の考えを話し始めた。

「いくら私がやっていないと言っても証拠が無ければ説得力が無いと考えました。そこでどなたか目撃者がいないか探したところ、役所の2階にいた方が偶然ジーナが落ちるところを見ていました」

そう話すとソフィアはエクトルに目配せする。
それを受けたエクトルは立ち上がると、部屋の外に消えていった。

「今、証人の方を呼んで頂きますので、しばらくお待ち下さい」
「うん、分かった」

エクトルの帰りを待つ間、先にソフィアが目撃者の男性が語った証言を簡単に説明する。

「証人の男性はその日、役所の2階のバルコニーから見ていました。その方の話によると、ジーナが階段から落ちる時、躓く素振りが無かったことから自作自演の可能性があると言っていました」

そうソフィアが説明すると、黙って聞くことが出来ないジーナが再度口を挟んできた。

「そんなの出鱈目ですわ!証拠というから何かと思えば、証人なんて信用出来ませんわ。その方が嘘をついていない保証はあるの?」

そう言われるとソフィアの耳が痛い。
確かに1人だけの証言だとソフィアのでっち上げと言われても反論出来ない。

でも、ジーナにも証拠は無いわ。
このままだとまた決着がつかなくてただの口喧嘩になってしまう。

どうしようかとソフィアが考えていた時、エクトルが証人の男性を連れて戻ってきた。

「お待たせしました。この人が目撃者の方です」

そう紹介された男性が部屋に入ってくる。

「失礼します。ジョエル様、お久しぶりです」
「あっ、君は野菜おじさんのところの息子さんじゃないか!あの時は僕を呼びに来てくれてありがとう。なるほど、最初から見ていたからジーナの怪我に気付いたんだね」

どうやら目撃者の男性はジョエルが畑仕事を手伝っている家の息子のようで、ジョエルと顔見知りであった。
素性を知っているジョエルは男性の発言の信憑性を保証する。

「彼は嘘をつく人間じゃないよ。それは僕が保証する」

そのジョエルの言葉がソフィアの心を温かくする。

ジョエル様に信じて貰えてよかった。
後はジーナが嘘をついたことを認めさせるだけね。

しかし、それが1番手強いことは重々承知している。
まずはエクトルが男性に目撃した女性がジーナで間違っていないか確認する。

「あなたが目撃して踊場で声を掛けた女性はこの方で間違いないですか?」
「ああ、間違いないぜ。あの時、役者の2階のバルコニーで葉巻を吸いながら外を眺めていたんだ。そしたら……」

男性は以前、ソフィアとエクトルに説明してくれた当時の様子を証言した。
やがて、証言が終わったがソフィアの予想通り、これだけ証拠を並べられてもジーナは決して認めようとしなかった。

「そうやって結託して私1人を苛めるなんて酷いですわ。私は怪我までしているのに……」

次は泣き落としで同情を誘う作戦に出たようだ。

本当に面倒くさい子ね。
ジョエル様は私の言うことを信じているのだから、諦めたらいいのに。

次は何と言って問い詰めようかとソフィアが考えていると、今度は今まで静かに話を聞いていたジネットが口を開いた。
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