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第30話 屋敷の外

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今日はジーナが屋敷に来て3日目。
ソフィアは屋敷でジーナと共に過ごすことに耐えられず、今日はジョエルの公務の手伝いをすることにした。

「ジョエル様、今日は共に参ります」
「ありがとう、嬉しいよ!ソフィアが一緒にいてくれたら仕事のやる気が出るからね」

ジョエルの承諾が貰えたため、共に家を出ようとするとジーナが追い掛けてきた。

「お姉様、ジョエル様が一緒なんて聞いていませんわ!」
「あら、今朝、私は仕事に行くと伝えたら、働くなんてみっともないから屋敷で優雅に過ごすとあなたは言ったじゃないの」

仕事と言えば付いてこないことは分かっていたため、ソフィアは先手を打っていた。


それは今朝、ジーナと廊下で顔を合わせた時のことであった。
ソフィアのことを無視して通り過ぎようとするジーナを呼び止める。

「おはよう、ジーナ。今日は私は屋敷にいないからね」
「突然、何よ。どこに行くつもり?抜け駆けなら許さないんだからね」

周りに人がいないからと、朝の挨拶も無しに喧嘩腰で話すジーナに苛立ちを覚えながらも、ソフィアは淡々と連絡事項を伝える。

「今日は仕事に行くの。教会の改築の手伝いよ。ご飯はジネットさんが用意してくれるから、1人で食べて」

仕事と聞いて、ジーナはがっかりする。

「何だ、そんなことか。働かないと価値の無い人間は大変ね。私はそんな生活、ごめんだわ」
「じゃあ、あなたは屋敷にいるのね?」
「当たり前じゃない。私は働かなくてもいい貴族なんだから、ここで優雅にお茶するわ」

用が無いならソフィアと話す時間は無駄と考えるジーナは、話が終わると足早に去って行った。

本当に傲慢な人間ね。
まあ、屋敷にいてくれる方が別行動出来ていいから、これで今日は一安心ね。

心の中の怒りを我慢し、今日は妹に関わらずに済むことを喜ぶようにソフィアは努めた。


そう安心していたのに、妹はジョエルを見た途端、心変わりする。

「ジョエル様のお仕事の手伝いなら私も参ります。お世話になっているから、何かお手伝いがしたいですわ」

甘えた声で話すジーナを見て、目論見が外れたソフィアは内心、気が沈む。

口ではそう言いながら何もしないのは分かっているから、来ないで欲しいわ。
せっかくあの子と離れられるチャンスだったのに。

そんなソフィアと対照に、人の裏の顔に鈍感なジョエルはジーナの発言を言葉通りに受け取る。

「良い心掛けだね!助かるよ。さすがソフィアの妹だ。ソフィアに似て真面目なんだね」

簡単に騙されるジョエルに呆れながらも、根拠も無く人を悪く言うことは憚られるため、ソフィアは黙って2人のやり取りを見ていた。
こうして3人で改築中の教会に出向くことになる。
いつもならジョエルとソフィアは手を繋いで仕事に向かうが、今日は妹の手前、遠慮することにした。

私達の仲を見せつけてやればよかったのに。

黒い感情がソフィアの心を支配するが、ジョエルに醜い自分を見せることは出来ないため、心の中に留める。


やがて教会に着き、挨拶と今日の作業の割り振りを確認すると、早速皆、作業を始めた。
しかし、1人ジーナは動かず、周りに甘える。

「こんな重い煉瓦は持ったことが無いから運べないわ。どなたか持って下さらないかしら」

周りの男性に目配せしながら独り言を言うジーナを見て、すかさずソフィアが牽制する。

「それなら私が運んであげるわ。代わりにあなたはお茶を用意して下さい」

そう言うとジーナから煉瓦を奪い、素早くソフィアは煉瓦を運んだ。

だから、来ないで欲しかったのに。
仕事は遊びじゃないから、あの子が居たら邪魔なだけよ。

男性はまだ幼い妹と思っているから、我が儘を言っても優しくするのは目に見えている。
だから、ソフィアは周りに迷惑を掛ける前に妹の尻拭いをした。
ソフィアに邪魔され、内心は不貞腐れながらも男性がいる場では猫を被るジーナは、猫撫で声でお礼を述べる。

「まあ、優しいお姉様!どうもありがとう。それじゃあ、私は疲れた皆さんを癒す愛情たっぷりのお茶を入れるわ」

こうして役割を交代したまま、午前の仕事を終え、昼食を皆ですました。
引き続き、午後の作業を始めると、ソフィアはジーナに小声で話し掛けられる。
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