竜の姫を守りたい

三条 よもぎ

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第8話 宰相の追及

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翌日、マリウスは政治を司る議会へ出席していた。
いつも通り、提案された議案について話し合い、採決をとっていく。

「本日の議題は以上となります。他に何もなければ本日の議会は終了と致します」

そう議長が発言した時、宰相が手を上げて口を開いた。

「マリウス国王に1点、質問がございます。もう竜の姫の儀式を行う月が過ぎておりますが、いつ行う予定ですか?このままでは災いが起きてしまいます」

突然の宰相の発言の意味が皆は分からず、辺りがざわつき始めた。
一方、マリウスは真意を知っているが、儀式を行うつもりは無いためはぐらかす。

「一体何の話だ?」

儀式は王家しか知らないはず。
それなのになぜ宰相は知っているのか。

訝しく思いながらも王家の秘密をここで暴露する訳にはいかないため、悪いと思いながらもマリウスは知らない振りをする。
しかし、宰相は全てを知っていたようで追及してきた。

「とぼけても無駄ですぞ。我が一族は王族が生け贄を差し出さない時に身代わりになるよう代々言い伝えられています」

その宰相の発言を聞いたマリウスは目を見開く。

父上も母上も宰相が知っているとは言っていなかった。
まさかこんなことになるとは……。

突然の出来事に言葉が出ないマリウスに宰相であるダミアンは選択を迫る。

「私の娘であるセシリアを差し出すか、王妃様を差し出すかご決断下さい。ただし、身代わりの生け贄では軽度な災いが起きることは重々承知して下さい」

その言葉に対して、誰も生け贄に捧げる気は無いマリウスはきっぱりと反論する。

「どちらも生け贄に差し出す必要は無い。災いに関しては今まで対策してきた。だから、洪水が起こる心配も誰かを犠牲にする心配もしなくてよい」
「対策をしたと言っても被害が出ない保証はありません。国民の大勢の命と王妃1人の命、どっちが大事なのですか?」

一方の宰相も追及を諦めない。
ダミアンにもこの国を災いから守る使命があった。
そして、マリウスにとっては愛するアナベルだけで無く、全ての国民の命も大事なため、答えは決まっている。

「どちらが大事かと聞かれれば、それは勿論どちらも大事である」
「それは綺麗事です。それではどちらも守れませんぞ」

最初は何の話か分からなかった周囲の人達も話を聞いている内にある程度の内容が分かってきた。
この日から議会が国王派と宰相派に割れることとなる。


1週間後、アナベルが子ども達の剣の稽古をしていると兄であるテオドロスがやって来た。

「あれっ、急にどうしたの?今は仕事中じゃないの?」

夫であるマリウスを護衛中のはずの兄が昼間にアナベルの元を訪れることは初めてであった。
アナベルに近付くとテオドロスは小声で声を掛ける。

「今、議会中だから同僚に頼んで抜けてきたんだ。話があるのだが、少し席を外せないだろうか?」

その願いを聞いてアナベルは子ども達をメイドに託して兄と共に別室へ移動した。

「話ってどうしたの?」

もしかしてマリウスに何かあったのではとアナベルは不安な表情になる。
一方、テオドロスは深刻な表情で現在の状況をアナベルに伝えた。

「今、議会がお前か宰相の娘を生け贄にするかで揉めている。マリウス様は優しいから言っていないと思って伝えに来た。後の判断はお前に任せる」

初耳の出来事にアナベルは固まる。
そして、恐れていた事態が起こったことに気付き、青白い顔となった。

「そんな……。マリウスは何も……」

狼狽する妹を慰めたかったが、仕事を抜け出して来ているテオドロスは長居出来ず、一言断ると足早に去っていく。
衝撃的な真実を知らされて残されたアナベルが平静さを取り戻すには時間が掛かった。


その夜、アナベルはマリウスに話を聞くことにした。

「ねえ、議会が荒れているって噂で聞いたんだけど、もしかして儀式のこと?」

その質問を受けて遂にアナベルまで話が届いたことを知ったマリウスは全てを打ち明ける。

「隠していてすまない。心配を掛けたくなくて言わなかったがその通りだ。だが、誰も犠牲にするつもりは無いから心配しないでくれ」
「そのために2人で頑張ってきたものね。大変な時に何も出来なくてごめんなさい。何でもするからいつでも言ってね」

政に携わっていないアナベルはマリウスの言葉を信じて待つしか出来なかった。
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