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第6話 全てを知って
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マリウスの部屋で向かい合わせに座ると、まず落ち込んだ表情のアナベルが口を開いた。
「あのね、図書館で調べたんだけどお伽噺ばかりで生け贄も災いも見つからなかったの……。力になれなくてごめんなさい」
俯くアナベルにマリウスは優しい言葉を掛ける。
「ううん、謝らないで。一生懸命調べてくれたことだけでも嬉しいよ」
それを聞いてアナベルは顔を上げる。
そして、調べながら心の中に生じていたある疑問を口にした。
「ただ、これだけ調べて書いていないなら元々災いは存在しなくて生け贄も不要なんじゃないかしら?」
アナベルは淡い期待を抱いていたが、マリウスが調べた結果は違ったようでその質問には首を振る。
「いや、残念ながら災いは存在するようなんだ。実は王家の書物庫で過去の歴史を調べていたら見つけたんだ」
そう言うとマリウスは1枚の紙を取り出し、アナベルに見せながら説明する。
そこにはマリウスが調べた王族のみが知る情報が書かれていた。
「最初はお伽噺のように竜に会いに行っていたんだ。そして、いつの時代かある王様が竜の娘のようにずっと誰かが竜の元にいた方が寂しくないのではないかと言ったんだ。そこから100年に1度、王の妻が山頂に残るようになったみたい」
「なるほど、これが生け贄の始まりなのね」
初めて知る情報にアナベルは頷きながら耳を傾ける。
マリウスが調べた情報はまだまだあるため、話を続ける。
「だけど、それを嫌がる王様もいた。すると、その年に長雨で洪水が発生したんだ。そこから必ず妻を捧げるように厳命が下るようになったみたい。ほら、歴史の時間に習っただろう?あのカスペルの大洪水がこの時のことだよ」
「あー、えーっと、ああ、あれね!うん、聞き覚えがある気がするわ。へえー、それがその洪水の原因なのね」
マリウスにほらと言われたが、何の事があまり思い出せないアナベルは慌てて誤魔化す。
アナベルの目が泳いでおり、いつもアナベルに勉強を教えているマリウスはアナベルが誤魔化していることに気付いたが、幼馴染のよしみで黙っていることにした。
そして、調べていて気になったことをマリウスは口にする。
「ただその後、100年毎に生け贄を捧げているはずだけど、記録を見ていると時に洪水が起きている年があるんだ。大洪水程ではないから偶然かもしれないけど、生け贄さえいれば安心という訳ではなさそうだ」
マリウスは心配そうな顔をしているが、一方のアナベルはマリウスの説明を聞いて嬉しそうな顔をしていた。
「なるほど、それなら洪水対策をすればマリウスと結婚出来るのね。ああ、よかったわ!やっぱりマリウスは優秀ね!たくさん調べてくれてありがとう」
そう簡単に言い切ってしまうアナベルにマリウスは不安な気持ちを吐露する。
「本当にいいのかい?僕は君を生け贄に捧げるつもりはないが、もし災いが起こったら君まで批判を受けてしまう。皆、生け贄の存在は知らないが、賢い人なら記録を照らし合わせて推測でこの事実を導き出せる。だから、本当はこんなことに君を巻き込みたくないんだ……」
また泣きそうになりながら思いを口にするマリウスに、そんな心配はいらないと明るい声でアナベルは返事をする。
「大丈夫よ!私はそんなにやわじゃないわ。それに災いが起きたらあなた1人で生け贄になるつもりでしょう?私はその方が嫌だわ。もしかしたら上手くいくかもしれないし、駄目だったらその時はその時よ。だから、それまでは2人で足掻きましょう」
その言葉に遂にマリウスの涙腺が決壊する。
元々は1人で責任を取るつもりだったのに真実を知ってもなお、アナベルが隣にいたいと言ってくれたことが深く心に響いたのだ。
「ううっ……、アナベル、……ありがとうっ。うぐっ……、愛しているよ……」
「もう泣き虫さんね、私の方こそありがとう!ぐすん……、何だか私まで……」
マリウスとの結婚を諦めなくてもいいことが分かり、安心感から気持ちが緩んだアナベルはマリウスにつられて嬉し涙が出てくる。
そして、2人は涙を流しながら抱き合い、お互いの愛を確かめ合うのであった。
「あのね、図書館で調べたんだけどお伽噺ばかりで生け贄も災いも見つからなかったの……。力になれなくてごめんなさい」
俯くアナベルにマリウスは優しい言葉を掛ける。
「ううん、謝らないで。一生懸命調べてくれたことだけでも嬉しいよ」
それを聞いてアナベルは顔を上げる。
そして、調べながら心の中に生じていたある疑問を口にした。
「ただ、これだけ調べて書いていないなら元々災いは存在しなくて生け贄も不要なんじゃないかしら?」
アナベルは淡い期待を抱いていたが、マリウスが調べた結果は違ったようでその質問には首を振る。
「いや、残念ながら災いは存在するようなんだ。実は王家の書物庫で過去の歴史を調べていたら見つけたんだ」
そう言うとマリウスは1枚の紙を取り出し、アナベルに見せながら説明する。
そこにはマリウスが調べた王族のみが知る情報が書かれていた。
「最初はお伽噺のように竜に会いに行っていたんだ。そして、いつの時代かある王様が竜の娘のようにずっと誰かが竜の元にいた方が寂しくないのではないかと言ったんだ。そこから100年に1度、王の妻が山頂に残るようになったみたい」
「なるほど、これが生け贄の始まりなのね」
初めて知る情報にアナベルは頷きながら耳を傾ける。
マリウスが調べた情報はまだまだあるため、話を続ける。
「だけど、それを嫌がる王様もいた。すると、その年に長雨で洪水が発生したんだ。そこから必ず妻を捧げるように厳命が下るようになったみたい。ほら、歴史の時間に習っただろう?あのカスペルの大洪水がこの時のことだよ」
「あー、えーっと、ああ、あれね!うん、聞き覚えがある気がするわ。へえー、それがその洪水の原因なのね」
マリウスにほらと言われたが、何の事があまり思い出せないアナベルは慌てて誤魔化す。
アナベルの目が泳いでおり、いつもアナベルに勉強を教えているマリウスはアナベルが誤魔化していることに気付いたが、幼馴染のよしみで黙っていることにした。
そして、調べていて気になったことをマリウスは口にする。
「ただその後、100年毎に生け贄を捧げているはずだけど、記録を見ていると時に洪水が起きている年があるんだ。大洪水程ではないから偶然かもしれないけど、生け贄さえいれば安心という訳ではなさそうだ」
マリウスは心配そうな顔をしているが、一方のアナベルはマリウスの説明を聞いて嬉しそうな顔をしていた。
「なるほど、それなら洪水対策をすればマリウスと結婚出来るのね。ああ、よかったわ!やっぱりマリウスは優秀ね!たくさん調べてくれてありがとう」
そう簡単に言い切ってしまうアナベルにマリウスは不安な気持ちを吐露する。
「本当にいいのかい?僕は君を生け贄に捧げるつもりはないが、もし災いが起こったら君まで批判を受けてしまう。皆、生け贄の存在は知らないが、賢い人なら記録を照らし合わせて推測でこの事実を導き出せる。だから、本当はこんなことに君を巻き込みたくないんだ……」
また泣きそうになりながら思いを口にするマリウスに、そんな心配はいらないと明るい声でアナベルは返事をする。
「大丈夫よ!私はそんなにやわじゃないわ。それに災いが起きたらあなた1人で生け贄になるつもりでしょう?私はその方が嫌だわ。もしかしたら上手くいくかもしれないし、駄目だったらその時はその時よ。だから、それまでは2人で足掻きましょう」
その言葉に遂にマリウスの涙腺が決壊する。
元々は1人で責任を取るつもりだったのに真実を知ってもなお、アナベルが隣にいたいと言ってくれたことが深く心に響いたのだ。
「ううっ……、アナベル、……ありがとうっ。うぐっ……、愛しているよ……」
「もう泣き虫さんね、私の方こそありがとう!ぐすん……、何だか私まで……」
マリウスとの結婚を諦めなくてもいいことが分かり、安心感から気持ちが緩んだアナベルはマリウスにつられて嬉し涙が出てくる。
そして、2人は涙を流しながら抱き合い、お互いの愛を確かめ合うのであった。
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