上 下
5 / 22

突撃お嬢様の誕生

しおりを挟む
また次の月もプラムは騎士団の食堂を訪れた。

「失礼します。副団長のアラン様はいらっしゃいますか?」
「……ああ、少し待っていてください。外は寒くなってきたので、他の場所を探してきます」

また来ると言ったが、まさか翌月も来るとは思っていなかったアランは何も考えておらず、戸惑った。
しかし、追い返す訳にもいかず、空き部屋を見つけ、そこにプラムを誘った。

「前回のパウンドケーキもおいしかったです。ありがとうございました。今日、お会いすると思っておらず、何もお礼を用意していなくてすみません」
「いえ、お菓子作りは私の趣味ですので、お気になさらないでください。おいしいと言ってもらえて嬉しいです!今日はトリュフチョコレートを作ってきました!」

今日は机を挟んで向かい合わせに座っているため、アランと目が合い、プラムはまた舞い上がっていた。
お菓子の作り方を話したり、世間話をしているとあっという間に時間が過ぎた。

「そろそろ日暮れですので、お送りしますよ」
「いえ、学園寮まですぐなので1人で帰ります。お忙しい中、ありがとうございました」

学園の誰かに見られるのが恥ずかしいと思い、断ったが、帰りながら送ってもらえばもっと話せたことに気付き、プラムは少し後悔した。
しかし、アランと話せた時間が幸せで、自室に戻ってから、マグノリアとの会話が消灯まで終わらなかった。


次の月もプラムはお菓子を抱えて食堂を訪れたが、アランは不在だった。
代わりに別の騎士から花束とカードを受け取って自室に帰ってきた。

「今日は早かったわね。どうしたの?」
「今日はお会い出来なかったわ。きっとお仕事がお忙しいのね。だけど、花束は用意してくださっていたの!しかも、自筆のカードつきよ!」

これから毎月プラムは食堂を訪れるが、アランに会えず、別の騎士から花束を受け取り、お菓子を渡すのが恒例となった。
プラムは会えないのはアランが忙しいからだと思っており、いつか会える時を信じて、毎月通っていた。

こうして1年が経ち、本人は気付いていないが、プラムは突撃お嬢様として噂をされるようになっていた。

そんなある日、その噂を聞いてよく思わない人物がプラムに声を掛けてきたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います

ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には 好きな人がいた。 彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが 令嬢はそれで恋に落ちてしまった。 だけど彼は私を利用するだけで 振り向いてはくれない。 ある日、薬の過剰摂取をして 彼から離れようとした令嬢の話。 * 完結保証付き * 3万文字未満 * 暇つぶしにご利用下さい

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

愛する義兄に憎まれています

ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。 義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。 許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。 2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。 ふわっと設定でサクっと終わります。 他サイトにも投稿。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...