家畜少年の復讐譚〜虐められていた俺はアクマ達を殺した〜

竹華 彗美

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四十三話 シュジンとしてのケジメ

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 今、裁決を取れば確実に『松川死刑』だ。

 でもこいつはテスタ裁判長と楜澤を殺しただけの罪ではない。


 『忘れさせた2日間の記憶』


 それが俺のこの裁判での本番だった。


 二月十八日ふたつき じゅうとはちにち。その朝、俺は松川の罠にまんまとハマり投獄された。
 そしてその夜、松川が面会に来た時やつはたしかに『を楽しみにしている』と言った。


 なのに今日、テスタ裁判長に成りすました松川は裁判の始まりに『二月十九日ふたつき じゅうとくにち』と日にちを述べた。


 そして今日の正確な日時はナズザーリン国王が言った『二月 二十一日ふたつき にじゅうといちにち』であることをご理解願いたい。



 松川にとってこの『空白の2日間』──いや、訂正。松川と鈴木にとっての『空白の2日間』。

 俺は二人のこの2日間の全ての記憶を復讐者アベンジャーを使って奪ったのだ。
 つまり俺は昨日──二月 二十日ふたつき にじゅうにち、王との謁見前に松川と鈴木と会っている。
 会いに来たと言った方が正確で、奴らは俺に対しての嫌味とさらに衝撃的なことを本人からベラベラと話した。

 その場にエキソンが透明になっているとも知らず、松川は放心状態のをしている俺に分身でなく、本人で来た。
 話が終わり、俺から背中を向けたところで暴れたをして二人に無理矢理触ったのだ。


 馬鹿な奴ら。と本気で思った。
 『放心状態』『食事も出来ていない無関心状態』という看守の声を本気で聞き入れて、分身ではなく『本物』で来ると言うバカさに笑わなかった俺を褒めてくれ。
 その時既に看守にも例の動画を見せていて、協力してくれていた。そんなこと気付かずに来た奴ら。

 全くの『無能』だった。



 ルエルの言った『信頼』はこの裁判で最も有効な武器だった。『証拠』なんかよりも全く比べ物にならない武器。



 それをこの世界で何十、何百の人と培っていたルエルとエキソン。その二人に『信頼』された俺──最初から負ける要素はなかった。

 



 そして今、この裁判において松川への『信頼』は無。
 対して『人殺し組の復讐隊』への『信頼』は最大だ。













「エキソン。これは本物なのか? ルエル、スキルで確認しなさい。」


 王は確認のために再度聞く。それに応えたのは『エキソンの口』ではなく、場内に響いた『エキソンの心の声』だった。



『王への忠誠に誓って、私の命を差し出してでも本物であります。』



 ルエルのスキルの力──と言いたいところだが答えは『否』だ。
 これは録音音声。だがそれは裁判長である国王がよくわかっていること。

 ルエルは確かにスキルを発動している。

 『対象者の心の声を一定範囲内にいる他者に聞かせることができる』

 とスキル説明をしたが、どの範囲の『一定範囲内』に心の声が聞こえるかは言っていない。


 更にいえばナズザーリン国王は『精霊族のように人の本音を口に出さずとも聞ける』と言っただけで、どう聞こえて、発動内容は何なのかも言っていない。


 が、この場にいる者たちはルエルのスキルを使用することを承諾した。
 そして何も気づかないままに先程のエキソンの発言は『ルエルのスキルによるもの』と勝手に解釈している。



 
 この裁判は大体の"シナリオ"が昨日の国王との面談で完成していた。
 録音音声を流すことも決まっていた。
 なぜこんなことをしなければならなかったのかはルエルのスキルの限界があるから。


『自身から近い位置にいると口に喋らずとも本音で話ができる』


 というもの。
 これでは確実に5人以上いる裁判の場ではスキルは使えない。

 だからあの場で"弁護側"と"容疑者側"だけでも本音で語り合った。
 俺、国王、ルエル、エキソンの四名で擦り合わせを行い、重要な証言を録音する。
 松川が『黒』。それはそこで完全確定した。





 

 その"心の声"で一気に冷たい視線が松川に向く。富川もだ。多分無罪になってもここでは生きていけないな。


「松川、この映像に対して反論は?」
 

「………」


 
 この世界にも黙秘権は存在する。でもこの黙秘は本当のことだと言っているようにしか見えない。
 

「何も答えない、か。──では次にいく。」
 

 『部外者』達は"次"という言葉に引っかかったであろう。




「松川、鈴木は齋藤が捕まってからこの裁判が始まるまでの2日間。この事件の一件で最もしてはならないことをしていた。
 異世界召喚者に部屋での待機命令が下った一日目。ある人物を『部屋の中に監禁』し、更に『性的暴力、凄惨な行為』を行った。
 そのは今日未明、酷い有様で彼女の部屋の外に放置されているのを巡回中の兵士が見つけた──。

 彼女は『犯罪者の齋藤』と仲がよかったというだけで汚されたのだ。そして彼女は満身創痍ながらもこの場に出席をしてくれると言った。
 ベッドに寝た姿での『証人』だ。」
 
 

 そう言った後に運ばれてきたのは、無惨に傷つけられた碓氷 千鶴うすい ちづるの姿だった。

 回復魔法や回復薬を投与してもなかなか治ることの無い傷の深さ。

 これが『家畜の運命』だと言ってしまえば簡単だが、傷つけられた『家畜』の傷は決して癒えることはない。


 
 

 碓氷が酷い目に遭っているのを聞いたのは捕まった日の夜。その時にエキソンが撮ってきた映像だった。

 テスタ裁判長殺害と楜澤の自殺の映像のあと見せられたそれには富川、松川、瀧澤、鈴木。そして鈴木のスキルで映し出された映像の中には拷問されている碓氷の姿があった。

 見るに堪えないその映像。
 俺が体験してきたどの暴力にも勝る程の一方的な拷問だった。




 そして王との謁見前に松川が尋ねてきたのもその件だった。
 松川は碓氷に施した胸糞悪い拷問の詳細を事細かに説明してきた。


『碓氷、お前なんかに懐いちゃってかわいそうに。』

 いや違う。
 俺があいつをモノにした。俺に逆らえない都合のいい所有物モノに。


『齋藤のためなら何があっても口を割らない。』

 それも違う。
 "口を割らない"じゃなくて"割れない"だけだ。



 でも、この一件が片付いたら言ってあげたい。


『ありがとう』ってさ。














 俺は碓氷の所有者しゅじんとして、"完璧な復讐者"として果たすべき使命がある。
 










「──しかし皆、見ての通り、ウスイはとても喋れる状況ではない。
 そのため事前に容疑者、齋藤からある決定的な証拠の提示をされた。この証拠は王である儂が、そして嘘を見破るルエルが"本物"だと位置づけたものだ。
 
 昨日の夜、齋藤の元に面会に訪れた際、彼がマツカワ及びスズキに言われたこと。その"記憶映像"だ。そしてその場に同席した衛兵との記憶とも擦り合わせた結果、"100パーセント事実"である証拠として今この場で音声のみを聞かせたい。」
 
 
 これは俺の願いだった。
 碓氷に俺のせいで酷い目にあわせた、俺の精一杯の『償い』だった。


 

 でも俺は決して碓氷に傷つけられたことは忘れることは無い。

 でもこれをやり遂げなければ、俺は"復讐者"ではなく、俺の大嫌いな"クラスメイトやつらと同等になってしまう──それは「死んでもいや」なんだ。





「王の忠誠により、この記憶が正しいものだと誓います!」






────────
 
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感想 4

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みんなの感想(4件)

日吉亜流斗
2019.11.25 日吉亜流斗

お疲れ様です。
2回目ですね。

まあ、ヘイトシーンは息が詰まりそうになり、心臓が止まりそうになりますが、やはり続きが気になります。

どんなに時間額かかっても良いので必ず完結させてください。お願いします。

2019.11.26 竹華 彗美

二吉 亜流斗さん、二度目の感想頂きありがとうございます!


 残酷描写で息が詰まりそうだったり、心臓が止まりそうになったら、休み休み読んでくださいね!



 体と相談しながらコツコツと書き上げていきます。

 それにこれだけ主人公をひどい目に遭わせた以上、中途半端では終われませんしね(笑)


これからもよろしくお願いします!
 

解除
日吉亜流斗
2019.10.08 日吉亜流斗

確かに面白いです。

壮絶なイジメを通り越した暴力はきついです、
個人的には先が読めないですが、ワクワクします。

2019.10.08 竹華 彗美

日吉亜流斗さん、コメントありがとうございます!


そう言って頂けて嬉しいです!
暴力描写を書いている時、時々主人公に謝っています(笑)


自分でもワクワクしながら描いています。それを伝えられるように作品作り、精一杯やらせて頂きます。

これからもどうぞよろしくお願いします

解除
グリムラグナ

面白い。

2019.10.08 竹華 彗美

グリムラグナさん、コメントありがとうございます!


そう言っていただけると非常に嬉しいです!


これからもこのような評価をいただけるよう精一杯書いていきます。これからもどうぞよろしくお願いします!

解除

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