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二十六話 家族

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 ルエルは独房の鍵を開け、泣いていた俺に抱きつく。


「絶対、お前は奴隷にさせない。」



 泣きじゃくる俺の右耳元で彼はそう囁いた。
 今俺が一番会いたかった人、話したかった人、謝りたかった人は俺をさらに強く抱きしめる。
 懐かしい匂い。あたたかい体。鼓動する心臓──それをこの寒く冷たい独房で感じる。俺の涙は自然と止まり、狂いそうだったココロも平常を取り戻した。


 さらに子供をあやすように、後ろに回した手が背中を優しく叩く。


「もう、大丈夫だ。俺はまことを守る。」

 耳元でそう囁く。低くて滑らかで透き通ったその声は、俺の頭に直接響く。人のあたたかさ。俺が今までの人生で感じたことの無いそれを、この世界に来て初めて与えてくれたルエルはこんな状況でも温かく抱きしめてくれた。
 俺はそれが嬉しかった。アクマ達に穢されたカラダを癒してくれた時も俺を抱きしめてくれた。





 俺は自分の味方なんて最初から誰もいないと思ってた。

 世界はどこへ行っても理不尽で、誰も助けてくれる人なんていない。両親もクラスメイトも先生も誰も俺を救ってはくれなかった。逆に傷つけられるだけだった。
 ただ一人、優しくしてくれたあの妹もこうして俺に触ってくれたことはあっただろうか。電話越しに勇気をくれたあの大切な妹は──分からない。本当は嫌いだったのかもしれない。兄の無能さに呆れて、それでも兄だから仕方ないと電話していたのかもしれない。


 もう何もわからない。でもただ一つ事実としてあるならば、この世界に来てルエルだけは初めて会った時から、俺の"仲間"だったってことだ。これは単に俺の思い込みかもしれない。
 でもここまでのことをされて信じてはいけないだろうか。このあたたかさを"仲間"とは呼ばないのだろうか。
 俺は『愛』も『友情』も分からない。──でもルエルは信じたい。





「……ル、ルエル……?……なんで?」





 掠れた声でそう言うと、ルエルから得られた返事は優しさしか感じられない声で、俺の心を熱く、しかし同時にきつく締めた。

「……なんでって。そりゃあ、大切な隊員かぞくに会いたかったからだよ。もう僕にとってまことは、大事な家族だ。」



 
 『家族』





 それは俺が望んでいたもの以上だった。
 瞼が熱くなる。
 涙が自然と目から溢れる。
 胸が"キューッ"と締め付けられて──俺はそんな経験したことなかった。いつも俺の涙は冷たく、いくら泣いても苦しいだけだった。
 人に利用されて、道具と同様になってしまったの俺は、涙なんてとっくに忘れていた。
 

「ぁぁぁぁぁぁああああ……………」


 だから俺はこの幸福感が、苦しみだけではない熱い涙が──全てが初めてのものでルエルに抱きしめられながら、泣き喚いた。先程とは真逆の"それ"は、狭く暗く、冷たい空間に響く。



「ああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁあ────」


 

 俺が泣いている間、ルエルはずっと俺を強く抱きしめていた。耳元で『大丈夫』と囁きながら。
















 
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