家畜少年の復讐譚〜虐められていた俺はアクマ達を殺した〜

竹華 彗美

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二十一話 誠とルエルの共通点

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『おにいちゃん、元気にしてる?』


 今日も酷い一日だったよ、コトハ。でもなお兄ちゃん、お前がいればそれでいい。


『もちろん。俺は元気さ。』
『良かったぁ。──でさ今日ねっ──』

 コトハはいつもそうだ。
俺が元気だと伝えると心底満足そうな声で『良かった』と言うのだ。
  その後は俺がどんなに両親から虐待を受けても、学校でいじめにあっても、それを笑い飛ばしてくれる・忘れさせてくれる。嘘か本当かも分からない話を聞かせてくれる。──俺はその時間が生きてる中で一番幸せだった。
 コトハがいてくれなきゃ、俺は今頃とっくに死んでいた。


『──でね、そうしたら、音声さんが『コトハ、ありがとな。』
『ん?お兄ちゃん、急に何さ!こっちこそありがとう!私、また頑張れるよ。』


 コトハも辛かったのかもしれない。
 辛くてどうしようもない時に電話してきたのかもしれない。でもそれなら俺はコトハの心の拠り所になれていたのかな。俺は役に立ててたのかな。

『あ、お兄ちゃん!またねっ!これから明日からの撮影の打ち合わせだから。』
『……ん?……あぁ。頑張ってな!』
『お兄ちゃんも……がん──「おい!まこと!しっかりしろ!おいっ!!」

 聞き覚えのある声にはなの声はかき消され、意識が覚醒する。

「ル、エル?」
「あぁ。起きたか、そうだよ、僕だ。」
「あ、ルエル。おはよう……痛ッ。」

 ルエルの顔が真上にある。
 俺は窓の太陽の差し込み方加減でこの現状を理解した。寝坊だ。それでルエルは俺の部屋に来た。
 だから俺は体を動かそうとするが、それは壮絶な痛みのせいで叶わない。

「だめだ、そんなカラダじゃ!動くんじゃない!」

 いつもの俺ならこんな傷、どうってことないのに、今日は全く動かない。

「まずはこのポーション飲め!」

 ルエルは俺の口元に小さな試験管のようなものを当て、その中に入っている液体を口に少しずつ流し込む。

「昨日の夜、部屋に帰ってないと思ったら、なんだ、この傷はッ!今回ばかりは許せない。なんで、まことがここまでされなきゃいけないっ!!」

 いつも冷静で、怒ることなどしないルエルは、悔しそうな顔をして憎悪に満ちていた。

「い、いんだよ……お、れは……。このくらいの傷、なんて……まだ、まだ、甘いもんさ……」
 
 俺は手を床につき、体を起こそうとする。しかし体を動かす度に、体中が悲鳴をあげて思うように動かせない。
 恐らく、右腕の骨が折れていてそれでも動かそうとしたから、さらに痛くなる。

「だめだ!動くな!!せめてポーションが効くまでは………………お願いだ。まことはもう大事な仲間なんだよ!」

 俺はそのルエルのなんとも苦しそうな顔を見て体を動かすのをやめた。

「なか……ま?」
「そうだ。まことらはもう、僕の部隊の仲間なんだ。もう、僕の家族なんだよ。大切な家族がこんな姿になって、体も動かせないぐらい痛めつけられて………」


 ルエル、そこまでで十分だよ。俺をそこまで思ってくれてありがとう。
 でも俺はやっぱり──


 その時だった。
 ルエルは俺の体を抱いた。

「それ以上は言わせない。──僕はまことがどんなに酷いことをしても、あいつらに復讐しようとしてももう咎めない。僕はまことを見てると過去の自分を思い出すんだよ。──僕もまことと同じように、人を殺したんだ。」
「………え……?」

 俺はその一言に硬直する。

「僕はね、この座に上り詰めるために優秀な少将を殺したんだ。」
「ルエルが……人を殺した?」

 その時の笑みは俺を震わせるものがあった。──なんだろう、この人は。

 ああ、この人も俺と同じなのか。

















 俺はルエルの話を聞いた。

 ルエルがグレミーシア家の出来損ないだったこと。
 その事でいじめを受け、母親から虐待を受けていたこと。
 そんななか、エキソンが不出来なルエルを助け、慕ってくれたこと。
 今のスキルを手に入れ、将校になるために、エキソンに近づくために、将来有望な少将を自殺に追いやったこと。


 全てを聞いて悟った。


『この人も目的は違えど、俺とやってきたことは同じ。でも彼にはそうするしかなかった』と。




 人にはそれぞれ事情があって、苦しいことも辛いことも、嫌なことも受け入れなければならない。それに伴い、己の弱さも、惨めさも感じて苦痛の渦に吸い込まれる。
 
 俺でいえば己の才能のなさ。
 ルエルでいえば、エキソンと同等にたてない現実である。
 
 それを挽回することは不可能に近い。底辺の人間は──家畜が勝ち組になる方法は方法が一億あるとして、一回あればいい方だ。それを探している期間はなんとも長く、また人に利用されるしか生きれない。
 
 生きるということは誰かを蹴落とし、誰かを見捨てることだと思う。だから「みんなが幸せでみんなが豊かになる」なんてできるはずがない。誰かの屍の上に生きるしか出来ない。それが自然の摂理、法則だ。
 
 それが分かった負け組や家畜たちは、数多ある方法の中で「人を蹴落とし、見捨てる」ことを模索し始める。それが『家畜が勝ち組になれる』方法だからだ。
 従来人を殺めることは『悪』だと認識されてきた。それがどうだ。現状、家畜が勝ち組に下克上することは「人を殺める」という点で可能になった。

 俺が武田を殺し、三神姉妹を殺し、今後俺はクラスメイトを全員殺し、頂点に立つように。
 ルエルは少将を殺し、今の座を手に入れ、昇進しているように。

 
 ではこれは『悪』として法で裁かれるのだろうか。──否、この考えは忌避されるだろう。
 暴力を振るわれ、罵られ、全てを失った弱者が何をしようとも『悪』だと言われる。オマケに殺された──今まで加害者だった人間が守られるのがこの世界の筋だ。そんなことは分かっている。
 でも俺は、ルエルはそうすることしか出来ない。己の苦しさ、辛さを受け入れた結果、『悪』の道に進むのが『幸せ』になる方法だから。







「ルエル、全部最初から分かってたんだ。俺が持っている"復讐者アベンジャー"も、武田や三神のことも。」
「僕に隠してるつもりだった?」
「いや、半分半分かな。もしかしたら分かってるかもしれないって思ってた。」
「でも僕も焦ったよ。もし、あきらに喧嘩売ってスキル取られたらどうしよう、てさ。そしたら僕は終わりだからね。それに触れられたらランダムでモノ取られちゃうんでしょ?怖かったほんと。」
「それにしては朝から俺に触れてきたじゃないっすか。俺だってルエルからはなんにも取りたくなかったから、触れないように必死だったし、今も俺抱き抱えてもし触れちゃったらどうするの?」

 ルエルは俺がそう言うと、俺の顔を見て大笑いする。何かと思ってムスッとした。

「あーごめんごめん。気づいてないんだって思ったら、笑っちゃったよ。」
「何が?」
「アハハ……もうまこと、僕からは取れないよ。なんにも。」
「………え?」
「だって、さっき、僕に自分のスキルの名前言っちゃったでしょ!」

 俺は先程の自分の発言を振り返る。

「…………たしかに。」
「それが発動阻止条件だって、僕が知らないとでも?」

 そう言いまた笑われる。
 俺はこの時初めて、ルエルにムカついた。──でもなんだろう。この多幸感は。笑われているのに、馬鹿にされているのに怒れない自分がいた。初めての感覚だ。

「ルエルのインチキ!!」
「ハハハ!!騙されるのが悪いんだぁ!」

 

──────
 

 二人の笑い声は廊下まで響いていた。そして二人のその声を聞いた者は、二人いた。

「良かったな、ルエル。お前にも信頼出来る仲間ができて。」とエキソンはまことの部屋の前で言う。

 もう一人は──すぐ様主人の元へと帰っていった。


──────


「ルエル、体はもう大丈夫だよ。訓練行こう!」
「いや、今日はまこと休んでろ。」
「いや、大丈夫だって!もう治ったから!」
「いや、だめだ。これは隊長命令!」

 そこまで言われては仕方がない。俺は引き下がった。
 ルエルは俺をベッドの上に横たわらせ、布団をかける。
 
「今日ちゃんと治して、明日から出てこいよ!」

 そう言って部屋を出ていった。

 俺はその後、夕飯の時間になるまで深い眠りについた。
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