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第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑳」
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①
結論から言うと、僕は天使のとき、ろくな奴じゃなかった。
慢心があった。
盲信があった。
欺瞞があった。
楽観があった。
俯瞰があった。
憐憫があった。
原因は無数にあれど、結局のところ僕は、天使であるだけで最も天使とは遠い存在であった。
その結果が今である。
その結果の今である。
つまり、今の前提としてあの頃がある事を、僕はどうしても看過する事が出来なかった。
ゆえに口を噤んできた。
ゆえに不誠実に努めてきた。
しかし、でも、
あんな声で、あんな顔で、
信じられてしまったら、頼られてしまったら、
そりゃあもう
年貢の納め時としては申し分なかった。
「尾方の...お主......!」
後ろから蹴り抜かれた筋頭は体勢を難なく立て直すが、その顔色には困惑の色がありありと現れていた。
「どしたの筋頭さん? そんなに痛くもないでしょ僕の蹴りなんかじゃ?」
尾方は「イタタ...」と蹴った足を痛そうに擦る。
「蹴り抜いたのお主。それも権能か...? まるで天使の膂力だぞ?」
その不自然さを言って聞かせるように筋頭は言う。
「ああ、その話? それなら答えをもう自分で言ってるじゃない?」
尾方はポケットに両手を突っ込んでだらけて言う。
「昔、天使をやっておりました。悪魔の尾方でーす」
「な―――」
筋頭が信じられないと言う表情をした一瞬の間、
ズガガガガガガガッッッ!!!!
尾方をギリギリ避ける形で電信柱郡が筋頭を強襲した。
意識の間を付かれた筋頭は正面からそれを受けるが、
「ぬん!」
腕の一振りでそれを粉砕しなぎ倒す。
辺り一面に砂埃が舞い広がる。
その煙を纏い、正面から筋頭に迫る影が一つ。
当然の様に筋頭はこれに応じる。
ガキッ!!
影と筋頭は手四つの形に取っ組み合う。
影がゆらりと語りかける。
「王手かな、天使殿?」
衝撃で消し飛んだ煙から現れたその正体は、悪道替々。
「権能【 ひかれ者の小唄(アンダードッグ)】」
触れた相手と身体能力を入れ替える権能の持ち主。
ここに限りなく薄かった筋肉の天使への勝利条件を満たす構図が完成した。
「僕が天使であった事、コレを使いましょう」
提案者は尾方であった。
「僕が天使であったことを明かせば、まず間違いなく筋頭さんには隙が出来ます。一瞬でしょうけど。ここを突くしかない」
真剣な眼差しで尾方は言い切る。
この自信に葉加瀬は少し不安げである。
「た、確かにそれは衝撃の事実ではあるッスけど...戦闘中の天使が隙を見せるッスかね?」
尾方は頷いて言う。
「確かに、これが通じるのは一部の天使だけだ。でも一部の天使は、必ずなにかしらの反応を示す。筋頭さんは間違いなく後者だと僕は断言出来る」
これを聴いてこめかみを押えて熟考していた姫子が口を開く。
「よい。今は詳しい事は聞かぬ。信じて良いのだな尾方?」
「...多分」
尾方はヘラっと愛想笑いに言う。
しかし
「よい! 尾方の分も、ワシが信じる!」
などと姫子がいうので、
その顔はどこか遠くを見た微笑みに変わった。
尾方の策は成功し、状況は考えられる最善を描いていた。
だがしかし、そんな二人の力比べは、なんと拮抗していた。
お互いに意外そうな顔をする両者。
「へぇ...まさか私の権能にキャパシティオーバーがあったとはねぇ...! もう役に立つ事はないだろうが勉強になったよ...!」
「どんな権能かは知らぬがわしと張り合うか御老人...! これだから天使はやめられないのう...!」
この拮抗は完全に予想外、尾方と搦手は足を...
止める事無く次の行動へ移っていた。
筋頭を挟むような形でポジショニングした二人は、両側から強襲をかける。
尾方は蹴りを、搦手は岩石を、
手四つで替々と張り合っている筋頭は直撃を免れない。
その時、
「むん!!!」
筋頭が力むと、衝撃波が筋頭を中心に発生。
岩石は割れ、尾方は体勢を崩す。
陣形が崩れ...てはいない。
衝撃波の直前、替々は手を振り払い天使の余剰の力でスピン。
衝撃波をいなし、その勢いで筋頭に突きを決めていた。
その一瞬を、悪魔達は逃さない。
搦手は体勢が崩れた尾方の足元に鉄骨を射出。
尾方はソレを足場にもう一度飛び上がると筋頭の後ろ頭に飛びまわし蹴りを決めた。
ガンッッッ!!!!
音がスタジアムに響き渡る。
確かな手応え。
筋頭はゆらりと揺れると。
替々の腕を掴んで投げる。
それにはいつもの勢いはない。
尾方が替々をキャッチして替々が着地。
搦手もこの隙に距離をとった。
スタジアムに静寂が走る。
少しでも効いててくれ。
三人は切に願う。
その願いに応える様に、筋頭の頭から、一筋の血が流れた。
効いている!
不壊の筋肉も、替々の権能で下がればダメージを与えられる。
それは絶望的な戦力差に差し込む光だった。
しかし、
「ふふ......はは...ははははっはははっははは!!!!」
沈黙していた筋頭はこれでもかと豪快に笑う。
笑う。それだけで発するその圧に、三人は動けないでいた。
心底楽しそうに筋頭は言う。
「いつ振りかのう!! 手前の血を見るなんぞ!! 本当に久しぶりだ!! いやぁ結構結構!!!」
尾方達は圧にあてられながらもジリジリと距離を伺う。
「よい! 認めた!! お主等は良き悪魔、良き戦士じゃ!! わしも手を抜いては失礼と言うもの!!」
その言葉に、搦手が口を開く。
「あら、天使が悪魔相手に手加減なんて優しいのね? でも少し予想通り過ぎるかしら? 天使が正装使わないのに本気とはいえないものねん?」
その言葉に筋頭は肩に手を当てていう。
「ああ、それなんだが。ワシの手抜きと言うのは難しい小細工や正装の事ではない」
肩に当てられた手に力が入る。
「難しいことは苦手でな。正に言葉通りなんじゃわしの手抜きは」
ゴキンッッ!!
スタジアムに鈍い音が響き渡る。
それはまるで、かけていた部分に部品がはまる様な...
「わしな、常時肩の骨を外しておる。手抜きじゃろ? さて、ここからが本番じゃな?」
振り上げた拳が振り落とされる映像を。
尾方達は確かに目にしたが。
その音と衝撃は...後から遅れて尾方達を襲った。
結論から言うと、僕は天使のとき、ろくな奴じゃなかった。
慢心があった。
盲信があった。
欺瞞があった。
楽観があった。
俯瞰があった。
憐憫があった。
原因は無数にあれど、結局のところ僕は、天使であるだけで最も天使とは遠い存在であった。
その結果が今である。
その結果の今である。
つまり、今の前提としてあの頃がある事を、僕はどうしても看過する事が出来なかった。
ゆえに口を噤んできた。
ゆえに不誠実に努めてきた。
しかし、でも、
あんな声で、あんな顔で、
信じられてしまったら、頼られてしまったら、
そりゃあもう
年貢の納め時としては申し分なかった。
「尾方の...お主......!」
後ろから蹴り抜かれた筋頭は体勢を難なく立て直すが、その顔色には困惑の色がありありと現れていた。
「どしたの筋頭さん? そんなに痛くもないでしょ僕の蹴りなんかじゃ?」
尾方は「イタタ...」と蹴った足を痛そうに擦る。
「蹴り抜いたのお主。それも権能か...? まるで天使の膂力だぞ?」
その不自然さを言って聞かせるように筋頭は言う。
「ああ、その話? それなら答えをもう自分で言ってるじゃない?」
尾方はポケットに両手を突っ込んでだらけて言う。
「昔、天使をやっておりました。悪魔の尾方でーす」
「な―――」
筋頭が信じられないと言う表情をした一瞬の間、
ズガガガガガガガッッッ!!!!
尾方をギリギリ避ける形で電信柱郡が筋頭を強襲した。
意識の間を付かれた筋頭は正面からそれを受けるが、
「ぬん!」
腕の一振りでそれを粉砕しなぎ倒す。
辺り一面に砂埃が舞い広がる。
その煙を纏い、正面から筋頭に迫る影が一つ。
当然の様に筋頭はこれに応じる。
ガキッ!!
影と筋頭は手四つの形に取っ組み合う。
影がゆらりと語りかける。
「王手かな、天使殿?」
衝撃で消し飛んだ煙から現れたその正体は、悪道替々。
「権能【 ひかれ者の小唄(アンダードッグ)】」
触れた相手と身体能力を入れ替える権能の持ち主。
ここに限りなく薄かった筋肉の天使への勝利条件を満たす構図が完成した。
「僕が天使であった事、コレを使いましょう」
提案者は尾方であった。
「僕が天使であったことを明かせば、まず間違いなく筋頭さんには隙が出来ます。一瞬でしょうけど。ここを突くしかない」
真剣な眼差しで尾方は言い切る。
この自信に葉加瀬は少し不安げである。
「た、確かにそれは衝撃の事実ではあるッスけど...戦闘中の天使が隙を見せるッスかね?」
尾方は頷いて言う。
「確かに、これが通じるのは一部の天使だけだ。でも一部の天使は、必ずなにかしらの反応を示す。筋頭さんは間違いなく後者だと僕は断言出来る」
これを聴いてこめかみを押えて熟考していた姫子が口を開く。
「よい。今は詳しい事は聞かぬ。信じて良いのだな尾方?」
「...多分」
尾方はヘラっと愛想笑いに言う。
しかし
「よい! 尾方の分も、ワシが信じる!」
などと姫子がいうので、
その顔はどこか遠くを見た微笑みに変わった。
尾方の策は成功し、状況は考えられる最善を描いていた。
だがしかし、そんな二人の力比べは、なんと拮抗していた。
お互いに意外そうな顔をする両者。
「へぇ...まさか私の権能にキャパシティオーバーがあったとはねぇ...! もう役に立つ事はないだろうが勉強になったよ...!」
「どんな権能かは知らぬがわしと張り合うか御老人...! これだから天使はやめられないのう...!」
この拮抗は完全に予想外、尾方と搦手は足を...
止める事無く次の行動へ移っていた。
筋頭を挟むような形でポジショニングした二人は、両側から強襲をかける。
尾方は蹴りを、搦手は岩石を、
手四つで替々と張り合っている筋頭は直撃を免れない。
その時、
「むん!!!」
筋頭が力むと、衝撃波が筋頭を中心に発生。
岩石は割れ、尾方は体勢を崩す。
陣形が崩れ...てはいない。
衝撃波の直前、替々は手を振り払い天使の余剰の力でスピン。
衝撃波をいなし、その勢いで筋頭に突きを決めていた。
その一瞬を、悪魔達は逃さない。
搦手は体勢が崩れた尾方の足元に鉄骨を射出。
尾方はソレを足場にもう一度飛び上がると筋頭の後ろ頭に飛びまわし蹴りを決めた。
ガンッッッ!!!!
音がスタジアムに響き渡る。
確かな手応え。
筋頭はゆらりと揺れると。
替々の腕を掴んで投げる。
それにはいつもの勢いはない。
尾方が替々をキャッチして替々が着地。
搦手もこの隙に距離をとった。
スタジアムに静寂が走る。
少しでも効いててくれ。
三人は切に願う。
その願いに応える様に、筋頭の頭から、一筋の血が流れた。
効いている!
不壊の筋肉も、替々の権能で下がればダメージを与えられる。
それは絶望的な戦力差に差し込む光だった。
しかし、
「ふふ......はは...ははははっはははっははは!!!!」
沈黙していた筋頭はこれでもかと豪快に笑う。
笑う。それだけで発するその圧に、三人は動けないでいた。
心底楽しそうに筋頭は言う。
「いつ振りかのう!! 手前の血を見るなんぞ!! 本当に久しぶりだ!! いやぁ結構結構!!!」
尾方達は圧にあてられながらもジリジリと距離を伺う。
「よい! 認めた!! お主等は良き悪魔、良き戦士じゃ!! わしも手を抜いては失礼と言うもの!!」
その言葉に、搦手が口を開く。
「あら、天使が悪魔相手に手加減なんて優しいのね? でも少し予想通り過ぎるかしら? 天使が正装使わないのに本気とはいえないものねん?」
その言葉に筋頭は肩に手を当てていう。
「ああ、それなんだが。ワシの手抜きと言うのは難しい小細工や正装の事ではない」
肩に当てられた手に力が入る。
「難しいことは苦手でな。正に言葉通りなんじゃわしの手抜きは」
ゴキンッッ!!
スタジアムに鈍い音が響き渡る。
それはまるで、かけていた部分に部品がはまる様な...
「わしな、常時肩の骨を外しておる。手抜きじゃろ? さて、ここからが本番じゃな?」
振り上げた拳が振り落とされる映像を。
尾方達は確かに目にしたが。
その音と衝撃は...後から遅れて尾方達を襲った。
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