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第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑰」
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①
足が震える。
手足の感覚が薄い。
心臓が悲鳴を上げる。
自分の生を否定するほどの痛み、苦しみ。
地に足を着く。
それらは置換されてなくなる。
突然の静寂。
心が軋みを訴える。
無視して前に進む。
以下繰り返し。
もう何度目だろう。
自分の生存を強く意識する。
生きている。
そのはずである。
ふと不明慮な懐かしさを覚える。
前にもこの感覚に囚われたことがある。
あの時は確か......
「國門...もうその辺にせんか?」
不意に筋頭に話しかけられ、國門は朦朧とした意識を振り払う。
「おじき...」
國門の体に傷はない。
何故なら地に足着く限りその痛みは、傷は、損害は、なにかに置換されるからである。
しかし、
「主の体は大丈夫かも知れん。だが、心はそうではなかろうが」
そう、心、精神は無傷とは行かない。
体が傷つくと、少なからず心にも傷がつく。
次の痛みに備えるため或いは避けるため。身がすくみ。身じろぎし。能動を否定する。
その消耗は、國門の権能では補完出来ない。
結果、短時間での能力の酷使は、彼の精神を磨耗し、消耗させる。
半開きの眼で、國門は筋頭を睨みつける。
「無傷の体で...泣き言も何もないでしょうが...」
筋頭は眉間に皺を寄せる。
「無傷に見えるんは表面だけじゃ。前々から言ってきたじゃろうが...負け方にも色々あると」
「...まだ負けてません。負けるつもりもありません」
國門は真っ直ぐと筋頭を睨みつける。
しかしその目は虚ろである。
筋頭は拳をゆっくりと握り締める。
「お主には、こうなる前に諦めて欲しかった。だが、お主が今そこに立っているのはわしの責任でもある」
拳を体の後ろに振りかぶる。
「せめて苦しまずに、即死で勘弁してくれ」
國門は霞んだ目でその姿を眺める。
心じゃと?
國門の霞が架かった脳内にとある思考が浮かぶ。
体が傷つけば心も傷つくじゃと?
限界が来るじゃと?
それは認められない。
俺には認められない。
だって、そうだとしたら。
実際に死んでいるアイツは――――
もはや反応も出来ない状態の國門に、筋頭が拳をぶつける。
その拳は國門の接地部を抉り飛ばし。
國門は一瞬宙に浮く。
その瞬間、筋頭は目にも止まらぬ速さでもう一度國門の体を打ち抜く。
その致命の一撃は地面に足をつかない國門が置換しえる物ではない。
その拳は國門の頭を叩き潰し、文字通りの即死を國門に届かせた。
はずだった。
國門は無傷のまま地面に着地する。
置換されるダメージもなく。
無機質に置換される事もなく。
だが確かにその一撃は、一つの命を奪っていた。
「尾方の...!」
筋頭の右拳に胸を貫かれた男は、血を吐く口で笑う。
「筋頭さん。僕は早速二敗目な訳だけども。も少し付き合って貰えますか?」
尾方巻彦は、死するその時まで、自分の胸を貫いたその腕を、離す事をしなかった。
第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑰」END
第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑱」へ続く
足が震える。
手足の感覚が薄い。
心臓が悲鳴を上げる。
自分の生を否定するほどの痛み、苦しみ。
地に足を着く。
それらは置換されてなくなる。
突然の静寂。
心が軋みを訴える。
無視して前に進む。
以下繰り返し。
もう何度目だろう。
自分の生存を強く意識する。
生きている。
そのはずである。
ふと不明慮な懐かしさを覚える。
前にもこの感覚に囚われたことがある。
あの時は確か......
「國門...もうその辺にせんか?」
不意に筋頭に話しかけられ、國門は朦朧とした意識を振り払う。
「おじき...」
國門の体に傷はない。
何故なら地に足着く限りその痛みは、傷は、損害は、なにかに置換されるからである。
しかし、
「主の体は大丈夫かも知れん。だが、心はそうではなかろうが」
そう、心、精神は無傷とは行かない。
体が傷つくと、少なからず心にも傷がつく。
次の痛みに備えるため或いは避けるため。身がすくみ。身じろぎし。能動を否定する。
その消耗は、國門の権能では補完出来ない。
結果、短時間での能力の酷使は、彼の精神を磨耗し、消耗させる。
半開きの眼で、國門は筋頭を睨みつける。
「無傷の体で...泣き言も何もないでしょうが...」
筋頭は眉間に皺を寄せる。
「無傷に見えるんは表面だけじゃ。前々から言ってきたじゃろうが...負け方にも色々あると」
「...まだ負けてません。負けるつもりもありません」
國門は真っ直ぐと筋頭を睨みつける。
しかしその目は虚ろである。
筋頭は拳をゆっくりと握り締める。
「お主には、こうなる前に諦めて欲しかった。だが、お主が今そこに立っているのはわしの責任でもある」
拳を体の後ろに振りかぶる。
「せめて苦しまずに、即死で勘弁してくれ」
國門は霞んだ目でその姿を眺める。
心じゃと?
國門の霞が架かった脳内にとある思考が浮かぶ。
体が傷つけば心も傷つくじゃと?
限界が来るじゃと?
それは認められない。
俺には認められない。
だって、そうだとしたら。
実際に死んでいるアイツは――――
もはや反応も出来ない状態の國門に、筋頭が拳をぶつける。
その拳は國門の接地部を抉り飛ばし。
國門は一瞬宙に浮く。
その瞬間、筋頭は目にも止まらぬ速さでもう一度國門の体を打ち抜く。
その致命の一撃は地面に足をつかない國門が置換しえる物ではない。
その拳は國門の頭を叩き潰し、文字通りの即死を國門に届かせた。
はずだった。
國門は無傷のまま地面に着地する。
置換されるダメージもなく。
無機質に置換される事もなく。
だが確かにその一撃は、一つの命を奪っていた。
「尾方の...!」
筋頭の右拳に胸を貫かれた男は、血を吐く口で笑う。
「筋頭さん。僕は早速二敗目な訳だけども。も少し付き合って貰えますか?」
尾方巻彦は、死するその時まで、自分の胸を貫いたその腕を、離す事をしなかった。
第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑰」END
第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑱」へ続く
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