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第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑮」
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前回のあらすじ
大天使級のマッスル
①
インパクトの瞬間、俺は受け流す衝撃の大体の大きさを知ることが出来る。
それは実に感覚的な表現になるが、巨大な四角のブロックが自分に向かって全速力で向かってくる感覚。
その直感的な四角の大きさで、俺は衝撃の大きさを計る。
だが今回、俺はその四角を感じる事が出来なかった。
四角ではなく、隙間などない巨大な壁が迫ってくる感覚。
認識出来ないほどの巨大な四角。
全体像を感じられないほどの圧倒的な力を、俺は無防備に受け止める。
勝てる勝てないじゃない。
俺はこの立場でこの人とこの場所で争わないといけないんだ。
俺は、もう、悪魔なんだから。
スタジアムの中央で衝突する二つの影、手四つで取っ組み合う二人の足元から地面が大きくひび割れる。
そのひびは一瞬でスタジアム全体に広がり、大きな音を立てて照明がいくつか天井から降って来る。
「相変わらずとんでもない力だなおじきは!」
國門は手を振り払い一旦距離をとる。
「なぁに、これぐらいは準備運動よ! お主も受け流す力の範囲が段違いに広がったのう! まさか今のを受け流されるとは思わなんだ!」
筋頭は快活に笑って落ちてきた巨大な照明を事も無げに打ち払う。
その時、國門の頭上にも照明が落下して来た。國門は頭上に手を上げる。
しかし、その照明が國門に振ってくることはなかった。
筋頭が先にその照明を遥か彼方に蹴り飛ばしたのだ。
「目移りか! 焼けるのう!!」
力の塊はそのまま國門に落下し、力任せに右拳を振り下ろす。
すると國門はその場でタンッとジャンプし、向かって来る拳に足を向ける。
「『竹箆返し(スルーパス)』」
國門の足に筋頭の拳が触れた瞬間、ドンッッ! という殴りつけるような衝撃が筋頭の拳を弾き飛ばす。
「ぬぅ!」
國門 忠堅、権能『不撓式(カットアンドトライ)』
【体への損害が全て足元の物質に置換される】
その物質は人体であれ例外ではない。
しかし、自分の拳の衝撃を真に受けた筋頭はそれでも直ぐに体を回転させ、裏拳で國門をなぎ払う。
「ぐッ!」
國門は衝撃を逃がす事が出来ずにこれを受け、スタジアムの壁まで吹き飛ばされる。
受身も取れず壁に叩きつけられた國門は血反吐を吐きながら地面に倒れる。
が、直ぐに激突時以上の血を吐きながら地に足を着ける。
すると。体中の傷は地面への衝撃に変換され、ひび割れる地面の代わりに、國門の体の傷はスゥッと消える。
消える事のない地面のひび割れと、自分の血を踏みにじり、國門はスタジアムの中央へ歩みを進める。
「さぁ、もう一度じゃ、おじき」
「相変わらずじゃのう、お前は...」
二人は先ほどよりボロボロになったスタジアムの中央で再度相対する。
これが何度目の相対かなど気にする事もなく。
②
「私の権能?」
こちらはスタジアムを目指す尾方一行。
道すがら、葉加瀬からの質問に答えていた搦手はその一言に少し考える素振りをする。
「はいッス。もう同盟を組んでスケットに来て頂いている間柄ですし、そろそろ権能も教えていただけると連携しやすいんスけど」
搦手は渋い顔をする。
「まぁ、聴かれるわよねぇそうよねぇ...」
ソレを見て、尾方は苦笑いを浮かべる。
「随分渋るねぇ、なにか後ろめたい事でもあるんじゃないの?」
「そりゃあるわよ。まだ敵に回る可能性はゼロじゃないわけだし」
ケロッとした顔で搦手は答える。
「ああ、そう...」
尾方はげんなりした顔をする。
するとドローンからまた別の声が聴こえてくる。
「ワシも知りたいのう。搦手殿の権能、駄目かの?」
「説明しよう!」
尾方はげんなりした顔を続ける。
搦手 収、権能『尽芯掌握(スライハンド)』
【手の平で触れた無機物を、手の中に収まる程の大きさに変換する。この際、質量は変更された小ささに比例して小さくなり、搦手から1メートル離れると元の大きさに戻る】
「なるほどねぇ、それで手中か。洒落が効いてるねぇ」
尾方はいつかの電信柱を思い出しながら納得したように言う。
「大御所の副団長だけあってすごい権能ッス。ちなみに手に収める大きさに限度はあるんスか?」
「さぁ、今のところは出来なかった物はないわね」
搦手は手をひらひらさせながら言う。
「なんとも心強いのう! 百人力とはこの事じゃな!」
「ありがとー♪ 全力を尽くすわねん♪」
搦手は上機嫌である。
とてもノリで機密情報を開示した後とは思えない。
「じゃあついでに聴いちゃうけど、貴方の権能は? 尾方ちゃん」
この問いかけに尾方は一瞬眉をひそめる。
「知ってるとおりだよ。七転八倒(トライアンドエラー)。敗北の際に限り五体満足で復活する負け犬御用達の権能」
「知ってるのはそこまでよ。敗北の定義は? 限界は? 副産物的な能力はないの?」
「あ、それ私さんも気になるッス」
「わしもわしも」
「貴方自分の組織の人間にも詳しく説明してないの? 無責任ねぇ」
矢継ぎ早の介入に尾方は苦笑いをする。
「その辺りは僕にもよく分からないんだよ。限度とか定義とか、まさか試すわけにも行かないしねぇ」
「それでもいままでの経験から分かるところはあるでしょう? ...そうねぇ、敵以外の攻撃で死んだ場合とか勝敗うやむやじゃない? あと自殺はどうなのかしら?」
尾方は諦めたように一息ついて口を開く。
「...仲間だと思っていた奴に殺されたときも権能は発動したよ。あと、自殺はした事がないから分からないし今後もするつもりもない。以上」
その言葉にドローンの本部二人組みはハッと息を呑む。
「ふんふんなるほどねん、敗北っていうより死んだ時って言った方がいいんじゃないその権能?」
「僕に言わないでよ。無責任な神様が押し付けてきた時に言ってたんだから」
失礼極まりない言い方である。
こんなにピッタリなのに。
「ま、まぁ、その辺りで良いではないか? そろそろ急がないと投げ飛ばされた若頭も気になるしのう」
「そっすよそうっすよ。搦手さん合流での一悶着で時間もかかってますし、そろそろ急ぐッスよ」
空気を読んだのか本部二人組みが仲裁に入る形で足を速めるよう促す。
「...ハァーイ、それもそうね。そうと決まれば急ぐわよ尾方ちゃん! 中央のスタジアムはこの先の大広間を抜けた先よん!」
「いや知ってるけれども。ていうか逆になんで知ってるの? 怖いんだけど?」
尾方は先に駆け出した搦手に着いていく形で走る。
次第に激しくなる地響きと鈍い音に嫌な予感を感じながら。
第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑮」END
第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑯」へ続く
大天使級のマッスル
①
インパクトの瞬間、俺は受け流す衝撃の大体の大きさを知ることが出来る。
それは実に感覚的な表現になるが、巨大な四角のブロックが自分に向かって全速力で向かってくる感覚。
その直感的な四角の大きさで、俺は衝撃の大きさを計る。
だが今回、俺はその四角を感じる事が出来なかった。
四角ではなく、隙間などない巨大な壁が迫ってくる感覚。
認識出来ないほどの巨大な四角。
全体像を感じられないほどの圧倒的な力を、俺は無防備に受け止める。
勝てる勝てないじゃない。
俺はこの立場でこの人とこの場所で争わないといけないんだ。
俺は、もう、悪魔なんだから。
スタジアムの中央で衝突する二つの影、手四つで取っ組み合う二人の足元から地面が大きくひび割れる。
そのひびは一瞬でスタジアム全体に広がり、大きな音を立てて照明がいくつか天井から降って来る。
「相変わらずとんでもない力だなおじきは!」
國門は手を振り払い一旦距離をとる。
「なぁに、これぐらいは準備運動よ! お主も受け流す力の範囲が段違いに広がったのう! まさか今のを受け流されるとは思わなんだ!」
筋頭は快活に笑って落ちてきた巨大な照明を事も無げに打ち払う。
その時、國門の頭上にも照明が落下して来た。國門は頭上に手を上げる。
しかし、その照明が國門に振ってくることはなかった。
筋頭が先にその照明を遥か彼方に蹴り飛ばしたのだ。
「目移りか! 焼けるのう!!」
力の塊はそのまま國門に落下し、力任せに右拳を振り下ろす。
すると國門はその場でタンッとジャンプし、向かって来る拳に足を向ける。
「『竹箆返し(スルーパス)』」
國門の足に筋頭の拳が触れた瞬間、ドンッッ! という殴りつけるような衝撃が筋頭の拳を弾き飛ばす。
「ぬぅ!」
國門 忠堅、権能『不撓式(カットアンドトライ)』
【体への損害が全て足元の物質に置換される】
その物質は人体であれ例外ではない。
しかし、自分の拳の衝撃を真に受けた筋頭はそれでも直ぐに体を回転させ、裏拳で國門をなぎ払う。
「ぐッ!」
國門は衝撃を逃がす事が出来ずにこれを受け、スタジアムの壁まで吹き飛ばされる。
受身も取れず壁に叩きつけられた國門は血反吐を吐きながら地面に倒れる。
が、直ぐに激突時以上の血を吐きながら地に足を着ける。
すると。体中の傷は地面への衝撃に変換され、ひび割れる地面の代わりに、國門の体の傷はスゥッと消える。
消える事のない地面のひび割れと、自分の血を踏みにじり、國門はスタジアムの中央へ歩みを進める。
「さぁ、もう一度じゃ、おじき」
「相変わらずじゃのう、お前は...」
二人は先ほどよりボロボロになったスタジアムの中央で再度相対する。
これが何度目の相対かなど気にする事もなく。
②
「私の権能?」
こちらはスタジアムを目指す尾方一行。
道すがら、葉加瀬からの質問に答えていた搦手はその一言に少し考える素振りをする。
「はいッス。もう同盟を組んでスケットに来て頂いている間柄ですし、そろそろ権能も教えていただけると連携しやすいんスけど」
搦手は渋い顔をする。
「まぁ、聴かれるわよねぇそうよねぇ...」
ソレを見て、尾方は苦笑いを浮かべる。
「随分渋るねぇ、なにか後ろめたい事でもあるんじゃないの?」
「そりゃあるわよ。まだ敵に回る可能性はゼロじゃないわけだし」
ケロッとした顔で搦手は答える。
「ああ、そう...」
尾方はげんなりした顔をする。
するとドローンからまた別の声が聴こえてくる。
「ワシも知りたいのう。搦手殿の権能、駄目かの?」
「説明しよう!」
尾方はげんなりした顔を続ける。
搦手 収、権能『尽芯掌握(スライハンド)』
【手の平で触れた無機物を、手の中に収まる程の大きさに変換する。この際、質量は変更された小ささに比例して小さくなり、搦手から1メートル離れると元の大きさに戻る】
「なるほどねぇ、それで手中か。洒落が効いてるねぇ」
尾方はいつかの電信柱を思い出しながら納得したように言う。
「大御所の副団長だけあってすごい権能ッス。ちなみに手に収める大きさに限度はあるんスか?」
「さぁ、今のところは出来なかった物はないわね」
搦手は手をひらひらさせながら言う。
「なんとも心強いのう! 百人力とはこの事じゃな!」
「ありがとー♪ 全力を尽くすわねん♪」
搦手は上機嫌である。
とてもノリで機密情報を開示した後とは思えない。
「じゃあついでに聴いちゃうけど、貴方の権能は? 尾方ちゃん」
この問いかけに尾方は一瞬眉をひそめる。
「知ってるとおりだよ。七転八倒(トライアンドエラー)。敗北の際に限り五体満足で復活する負け犬御用達の権能」
「知ってるのはそこまでよ。敗北の定義は? 限界は? 副産物的な能力はないの?」
「あ、それ私さんも気になるッス」
「わしもわしも」
「貴方自分の組織の人間にも詳しく説明してないの? 無責任ねぇ」
矢継ぎ早の介入に尾方は苦笑いをする。
「その辺りは僕にもよく分からないんだよ。限度とか定義とか、まさか試すわけにも行かないしねぇ」
「それでもいままでの経験から分かるところはあるでしょう? ...そうねぇ、敵以外の攻撃で死んだ場合とか勝敗うやむやじゃない? あと自殺はどうなのかしら?」
尾方は諦めたように一息ついて口を開く。
「...仲間だと思っていた奴に殺されたときも権能は発動したよ。あと、自殺はした事がないから分からないし今後もするつもりもない。以上」
その言葉にドローンの本部二人組みはハッと息を呑む。
「ふんふんなるほどねん、敗北っていうより死んだ時って言った方がいいんじゃないその権能?」
「僕に言わないでよ。無責任な神様が押し付けてきた時に言ってたんだから」
失礼極まりない言い方である。
こんなにピッタリなのに。
「ま、まぁ、その辺りで良いではないか? そろそろ急がないと投げ飛ばされた若頭も気になるしのう」
「そっすよそうっすよ。搦手さん合流での一悶着で時間もかかってますし、そろそろ急ぐッスよ」
空気を読んだのか本部二人組みが仲裁に入る形で足を速めるよう促す。
「...ハァーイ、それもそうね。そうと決まれば急ぐわよ尾方ちゃん! 中央のスタジアムはこの先の大広間を抜けた先よん!」
「いや知ってるけれども。ていうか逆になんで知ってるの? 怖いんだけど?」
尾方は先に駆け出した搦手に着いていく形で走る。
次第に激しくなる地響きと鈍い音に嫌な予感を感じながら。
第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑮」END
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