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第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑧」
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①
「さて、そろそろかな...」
替々は自分でロックした大会議室前の廊下で暫く本を読みながら佇んでいたが、時計を確認して足を前に進めた。
そして、まだ開錠されていない扉をコンコンっと軽くノックする。
「失礼、ここの扉を閉めた者なんだがね。誰が残ったかな?」
そう言うと、替々は扉の正面を避けるように横に数歩ズレる。
その瞬間、先ほどまで替々が居た場所に巨大な拳が扉を突き破り振り下ろされた。
替々は拳が当たらないギリギリの場所でそれを涼しげな顔で眺めていた。
「まぁ、大凡想像通りかな。いやなに、君の様なのが生き残ると思っていたんだよ、私は」
突き破った扉から、右の腕だけが異様に巨大化した男が息を荒げながら出てくる。
「蠱毒で生き残る蟲を予想するのは極めて困難だが、どの様な蟲が生き残るかは粗方想像出来る」
男は替々の話が聴こえているのか聴こえてないのか、充血した目で替々を睨みつける。
「小手先の技など、あの乱戦の中じゃ意味を為さないだろう。また、いかに強力な毒を持っていようとも連戦で削れれば最後までは立てないだろう」
男は、その巨大な腕を再度振り上げる。
「正解は、純粋な体力。いかに生物として強い生命力を有しているかが、先ほどまで行われていた余興では重要となる」
巨大な拳が替々に向かって放たれる。
「つまり、私の格好の得物が残るわけだ」
替々が拳に向き直った次の瞬間。
「ご老人!!! 危ない!!!!」
替々の後ろからけたたましい声が響き、瞬間何者かが替々へと迫り来る巨大な拳に突撃、それを粉砕した。
「――な」
呆気にとられる替々。
乱入者は突撃した相手がダウンしているのを確認すると替々の方に向き直る。
「危ないところでしたなご老人!! しかし心配後無用!! この直進の天使、直角 進が来たからには!! この先の安全は確保されたも当然です!!!」
直角と名乗ったその青年は、声高らかに叫ぶ。
とにかく声が五月蠅い。
替々はサッと表情を直すと深々とお辞儀をする。
「これはこれは危ない所を助けて戴き誠に有り難う御座います。あんな化け物、私では如何し様もありませんでした」
直角はサッと礼を制する様に手を相手に向けながら言う。
「いえいえいえ!! 天使として当然の事をしたまでですよ!! 礼には及びません!!」
替々は頭を上げるとにこやかな笑顔で言う。
「なんとご立派な天使様でございましょうか。そうだ、ここで会えたのもきっと何かの縁、少しご一緒出来ませんか? 助け合える事もあるでしょう?」
「そこまで言われては仕方がない!! いいですよ!!」
直角は快諾する。
そして、ここに奇妙なツーマンセルが結成された。
悪巧み悪魔と声デカ天使。
彼らは、お互いの事もよく知らずに、アジトを奥へと進んで行った。
②
「そうです!! まだ私は正装持ちではないのですが!! 腕っ節には自信があり!! 戒位も百をこの間割りました!!!」
アジトの廊下に、響き渡る自分語り、直角 進は元気に敵陣で話しに花を咲かせていた。
「しっかし!! 私以外にも筋頭さんを追って来る熱血漢がいるとは!! 感動ですな!!」
「ええ、私も驚きました。とても喜ばしい事です。しかし、私達二人だけなのでしょうか?」
替々は事も無げに話を合わせる。
「いや!! 筋頭さんの人望は凄まじい!! きっと後からまだまだ駆け付けてくれるさ!!」
替々は苦笑いをする。
「そういえば、私は筋頭さんへの気持ちがはやるばかりでここに来てしまったのですが、筋頭さんが出るなんて今回はよっぽどの作戦なのですかな?」
「ハハハ!! はやる気持ちとはご老人も気が若いですな!! なに!! 四大組織解体作戦の次段階ですよ!! このアジトを侵攻の核にするのです!!」
「ああ...あの作戦はもう次段階に入っていたのですな。ははは、年寄りは置いていかれそうなほどの勢いですな」
「何を言うご老人!! これからですよ!! 共に頑張りましょう!!」
ハハハ!! と直角は声高らかに笑う。
ははは...と替々は失笑する。
対照的な二人はそれからさらにアジトの奥へと歩みを進める。
そしてそろそろ中央のドームに近づいて来た頃、
ズンズン前を歩いていた直角が再び口を開く。
「そろそろ筋頭さんと合流出来そうですね!! この先では後から参戦する天使も混ざって混戦が予想されるでしょう!! そこで私が天使と悪魔を見分けるコツをお教えしましょう!!!」
「おお、それは有り難い。一瞥では判断し辛い故、苦慮していたのですよ」
替々は何食わぬ顔で言う。
すると直角は突然その場で大きく振りかぶる。
「では!! まずはこうやって!! 適当な地面を振り抜きます!!!」
そして目の前の地面を思いっきり殴り抜いた。
当然、その衝撃で地面は抉られ、破片が飛び散る。
その破片が、隣に居る替々の頭に掠り、血が出る。
「そして!! その破片で傷ついた者が悪魔!! 無傷なのが天使です!!」
ニカッと直角は替々の方を振り向く。
そこには、頭から血を流した悪魔の姿があった。
「騙したな!!!!?」
膨れ上がる殺気に替々は咄嗟に後ろにステップする。
するとその目の前を拳が通り過ぎる。
地面に突き刺さった拳は再度破片を飛ばす。
替々は腕で顔を守るが、破片はその腕の皮膚を裂く。
「...ふぅ、私は一言も自分が天使だなどとは言ってはおりませんが?」
パッパッと砂埃を払いながら替々は言う。
「問答無用!! 覚悟しろ悪党!!!」
再び直角が振りかぶった時、
替々がバッと左手を相手に向けてその動作を制す。
「お待ちを天使殿。私は非力で、貴方に勝つのはおろか、逃げることも無理でしょう。しかし長年悪魔をやってきた矜持があります。せめて名乗り合いの後に果し合って貰えないだろうか?」
その言葉に、直角はピタッと動きを止め、少し考える。
替々は直角の正面に立ち、スッと右手を差し出す。
「さぁ...」
替々が促すと、直角はその手に自分の右手を近づける。
この天使、直角 進は熱血漢であったが、悪魔にはどこまでもドライな男であった。
無論名乗り合いなどした事はないし、この時も、手を握り潰して顔を殴り抜くつもりであった。
しかし、
「......?」
直角は実に優しく、やんわりとした握手を替々と交わした。
無論、直角は手に力を目一杯入れているつもりである。
しかし力を入れれば入れるほど、普段の自分との力の違いに、脱力してしまうような感覚に襲われる。
これはおかしい、と直角は手を振り解こうとする。
しかしそれを、替々は許さなかった。
替々の手には力が入っているようには思えない。しかし、その手は微動だにしない。
直角の体に冷たい汗が滲む。
ニヤリと笑い顔で替々が口を開く。
「自己紹介がまだでしたな。私は転覆の悪魔、悪道 替々」
替々の手に少しづつ力が入っていく。
「権能は【 ひかれ者の小唄】。私と、接触している者との、身体能力を入れ替える能力です。単純でしょう?」
直角の血の気が引いていく。
「さて、間合いですよ天使殿? 手を握り潰しますか? 顔面を殴り飛ばしますか? それとも腕を振り払って一旦逃げましょうか?」
替々の口角がこれ以上ないほど上がる。
「ま、私では無理でしょうけどね」
「さて、そろそろかな...」
替々は自分でロックした大会議室前の廊下で暫く本を読みながら佇んでいたが、時計を確認して足を前に進めた。
そして、まだ開錠されていない扉をコンコンっと軽くノックする。
「失礼、ここの扉を閉めた者なんだがね。誰が残ったかな?」
そう言うと、替々は扉の正面を避けるように横に数歩ズレる。
その瞬間、先ほどまで替々が居た場所に巨大な拳が扉を突き破り振り下ろされた。
替々は拳が当たらないギリギリの場所でそれを涼しげな顔で眺めていた。
「まぁ、大凡想像通りかな。いやなに、君の様なのが生き残ると思っていたんだよ、私は」
突き破った扉から、右の腕だけが異様に巨大化した男が息を荒げながら出てくる。
「蠱毒で生き残る蟲を予想するのは極めて困難だが、どの様な蟲が生き残るかは粗方想像出来る」
男は替々の話が聴こえているのか聴こえてないのか、充血した目で替々を睨みつける。
「小手先の技など、あの乱戦の中じゃ意味を為さないだろう。また、いかに強力な毒を持っていようとも連戦で削れれば最後までは立てないだろう」
男は、その巨大な腕を再度振り上げる。
「正解は、純粋な体力。いかに生物として強い生命力を有しているかが、先ほどまで行われていた余興では重要となる」
巨大な拳が替々に向かって放たれる。
「つまり、私の格好の得物が残るわけだ」
替々が拳に向き直った次の瞬間。
「ご老人!!! 危ない!!!!」
替々の後ろからけたたましい声が響き、瞬間何者かが替々へと迫り来る巨大な拳に突撃、それを粉砕した。
「――な」
呆気にとられる替々。
乱入者は突撃した相手がダウンしているのを確認すると替々の方に向き直る。
「危ないところでしたなご老人!! しかし心配後無用!! この直進の天使、直角 進が来たからには!! この先の安全は確保されたも当然です!!!」
直角と名乗ったその青年は、声高らかに叫ぶ。
とにかく声が五月蠅い。
替々はサッと表情を直すと深々とお辞儀をする。
「これはこれは危ない所を助けて戴き誠に有り難う御座います。あんな化け物、私では如何し様もありませんでした」
直角はサッと礼を制する様に手を相手に向けながら言う。
「いえいえいえ!! 天使として当然の事をしたまでですよ!! 礼には及びません!!」
替々は頭を上げるとにこやかな笑顔で言う。
「なんとご立派な天使様でございましょうか。そうだ、ここで会えたのもきっと何かの縁、少しご一緒出来ませんか? 助け合える事もあるでしょう?」
「そこまで言われては仕方がない!! いいですよ!!」
直角は快諾する。
そして、ここに奇妙なツーマンセルが結成された。
悪巧み悪魔と声デカ天使。
彼らは、お互いの事もよく知らずに、アジトを奥へと進んで行った。
②
「そうです!! まだ私は正装持ちではないのですが!! 腕っ節には自信があり!! 戒位も百をこの間割りました!!!」
アジトの廊下に、響き渡る自分語り、直角 進は元気に敵陣で話しに花を咲かせていた。
「しっかし!! 私以外にも筋頭さんを追って来る熱血漢がいるとは!! 感動ですな!!」
「ええ、私も驚きました。とても喜ばしい事です。しかし、私達二人だけなのでしょうか?」
替々は事も無げに話を合わせる。
「いや!! 筋頭さんの人望は凄まじい!! きっと後からまだまだ駆け付けてくれるさ!!」
替々は苦笑いをする。
「そういえば、私は筋頭さんへの気持ちがはやるばかりでここに来てしまったのですが、筋頭さんが出るなんて今回はよっぽどの作戦なのですかな?」
「ハハハ!! はやる気持ちとはご老人も気が若いですな!! なに!! 四大組織解体作戦の次段階ですよ!! このアジトを侵攻の核にするのです!!」
「ああ...あの作戦はもう次段階に入っていたのですな。ははは、年寄りは置いていかれそうなほどの勢いですな」
「何を言うご老人!! これからですよ!! 共に頑張りましょう!!」
ハハハ!! と直角は声高らかに笑う。
ははは...と替々は失笑する。
対照的な二人はそれからさらにアジトの奥へと歩みを進める。
そしてそろそろ中央のドームに近づいて来た頃、
ズンズン前を歩いていた直角が再び口を開く。
「そろそろ筋頭さんと合流出来そうですね!! この先では後から参戦する天使も混ざって混戦が予想されるでしょう!! そこで私が天使と悪魔を見分けるコツをお教えしましょう!!!」
「おお、それは有り難い。一瞥では判断し辛い故、苦慮していたのですよ」
替々は何食わぬ顔で言う。
すると直角は突然その場で大きく振りかぶる。
「では!! まずはこうやって!! 適当な地面を振り抜きます!!!」
そして目の前の地面を思いっきり殴り抜いた。
当然、その衝撃で地面は抉られ、破片が飛び散る。
その破片が、隣に居る替々の頭に掠り、血が出る。
「そして!! その破片で傷ついた者が悪魔!! 無傷なのが天使です!!」
ニカッと直角は替々の方を振り向く。
そこには、頭から血を流した悪魔の姿があった。
「騙したな!!!!?」
膨れ上がる殺気に替々は咄嗟に後ろにステップする。
するとその目の前を拳が通り過ぎる。
地面に突き刺さった拳は再度破片を飛ばす。
替々は腕で顔を守るが、破片はその腕の皮膚を裂く。
「...ふぅ、私は一言も自分が天使だなどとは言ってはおりませんが?」
パッパッと砂埃を払いながら替々は言う。
「問答無用!! 覚悟しろ悪党!!!」
再び直角が振りかぶった時、
替々がバッと左手を相手に向けてその動作を制す。
「お待ちを天使殿。私は非力で、貴方に勝つのはおろか、逃げることも無理でしょう。しかし長年悪魔をやってきた矜持があります。せめて名乗り合いの後に果し合って貰えないだろうか?」
その言葉に、直角はピタッと動きを止め、少し考える。
替々は直角の正面に立ち、スッと右手を差し出す。
「さぁ...」
替々が促すと、直角はその手に自分の右手を近づける。
この天使、直角 進は熱血漢であったが、悪魔にはどこまでもドライな男であった。
無論名乗り合いなどした事はないし、この時も、手を握り潰して顔を殴り抜くつもりであった。
しかし、
「......?」
直角は実に優しく、やんわりとした握手を替々と交わした。
無論、直角は手に力を目一杯入れているつもりである。
しかし力を入れれば入れるほど、普段の自分との力の違いに、脱力してしまうような感覚に襲われる。
これはおかしい、と直角は手を振り解こうとする。
しかしそれを、替々は許さなかった。
替々の手には力が入っているようには思えない。しかし、その手は微動だにしない。
直角の体に冷たい汗が滲む。
ニヤリと笑い顔で替々が口を開く。
「自己紹介がまだでしたな。私は転覆の悪魔、悪道 替々」
替々の手に少しづつ力が入っていく。
「権能は【 ひかれ者の小唄】。私と、接触している者との、身体能力を入れ替える能力です。単純でしょう?」
直角の血の気が引いていく。
「さて、間合いですよ天使殿? 手を握り潰しますか? 顔面を殴り飛ばしますか? それとも腕を振り払って一旦逃げましょうか?」
替々の口角がこれ以上ないほど上がる。
「ま、私では無理でしょうけどね」
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