残党シャングリラ

タビヌコ

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第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑤」

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前回のあらすじ

中年、帰郷



旧メメント・モリ、アジト。

それは神宿の端にある巨大なドーム上の建物を土台に建築された悪魔が誇る大アジトである。

その施設の殆どは地下に張り巡らされており、その全貌は明らかにされていない。

正に悪魔側の持つ最大の秘密基地であった。



そして今宵、そんなドームの入り口に立つ人影が三つ。

月はそれを、雲の隙間から眺めていた。



「で、國門君、その兵隊というのはどこに居るのかな?」

アジトの入り口まで着た一行は、そこで國門忠堅の招集した部下たちと合流する予定だった。

しかし、そこには誰の姿も見えなかった。

「どうゆうこつじゃこりゃ...」

國門は動揺を隠せずに周りを見渡している。

『どうしたんじゃ尾方? 状況を説明せい』

OGフォンから姫子が問いかける。

すると横から葉加瀬の声が割って入った。

『その必要はないッスよ姫子さん。無論、旧OGフォンの機能は全部網羅してるッスから』

そう言うやいなやOGフォンは見覚えのあるドローンの形に変形する。

そして周りの風景を高画質で姫子達に届けた。

『これは...!』

そう、誰も居ないアジトの入り口は、激しい争いの痕を残していた。

血痕や抉る様な傷痕、それは尋常ならざる力の存在を示唆している。

『天使か...?』

不安そうに姫子が囁く。

それを受け、替々が口を開く。

「この様相だ、可能性は高いだろうね。悪魔同士の抗争の線も拭い切れないが...」

替々は振り返る。

「尾方はどう思うかね?」

話を振られた尾方は、アジトの入り口をジッと見つめて微動だにしない。

「尾方...?」

再度替々が名前を呼ぶと、

「あ、はいはい、なんでしょうか師匠?」

ふと我に返り替々の方を向いた。

「おやおや大丈夫かい尾方? 戦場で呆けるなんて君らしくもない」

尾方は申し訳なさそうに頭を下げる。

「面目ない。久々なもんで...ここ...」

「それもそうか。君にとっては因縁の地な訳だものねここは。...も少し感傷に浸って行くかね?」

「ご冗談、もう浸りつくしてふやけてますよ、僕は」

尾方は失笑しながら数歩前に出て周りをよく観察する。

「天使...っぽくはないですな。どの地面のひび割れも何かをぶつけられた様なものに見える。天使なら思いっきり踏み込むだけで地面がひび割れるからね。こんな大味じゃない」

「と言うと?」

「他の悪の組織からの襲撃。その線が濃いかな」

すると周りをうろついていた國門が戻ってきて言う。

「どこの組織じゃそんな舐めた真似するのは...!」

「そこまでは流石に...全滅した大組織のアジトが欲しいなんて奴らは、それこそ星の数ほど居るからねー」

尾方の言葉を受け、國門は屈んで考え込む。

「どこのどいつじゃ一体...まさか...いや、じゃが...」

ブツブツと呟く國門を尻目に替々が入り口の奥を覗き込む。

「血痕はアジトの奥に続いているね。尾方の読みが正しいなら急いだ方がいいんじゃないかね?」

替々の言葉に國門はバッと立ち上がる。

「こうしちゃ居れん! 先に行くぞ!」

そう言うが早いか、國門はアジトの入り口目掛けて駆け出した。

「あ、こら、國門少年! 一緒に行動したほうが良いって!」

尾方が制止するが國門は構わず駆ける。

そしてアジトに入ろうとしたその瞬間、

ドンッッッッ!!!

途轍もなく大きな何かが落ちたような衝撃と音。

「なんじゃあ!?」

走っていた國門も足を止める。

振り向くと、尾方たちの後方に巨大なクレーターが出来ていた。

一体なにが落ちてきたと言うのか?

尾方達は、緊張しながらその立ち上がる砂埃をジッと見つめる。

するとそこに、巨大な影が姿を現した。

生き物の様なそれは、こちらの様子を覗っているように見える。

そして――

「おお、こりゃ久しぶりだのう國門」

巨大な影は土煙の中からフッと消え、尾方達の向こう。國門の目の前に突然巨漢が現れた。

「お――」

そして國門はその巨漢に腕を掴まれてアジトの中央、ドームの上空高く投げ飛ばされた。

その姿が一気に豆粒のように小さくなる。

「まぁ、向こうでゆっくり話そうや」

そう言うと、巨漢はゆるりと尾方たちの方へ振り向いた。

尾方はその顔を見て深い溜息をする。

「なんで僕の知り合いって揃いも揃って...」

「おう、誰かと思えば尾方のじゃないか。奇遇だのう」

巨漢は尾方の方を見て二カッと笑う。

その巨漢は、正端清の旅館の常連にして尾方の顔馴染み。

筋頭崇【すじがしら たかし】、その人だった。





『なんじゃ尾方! 知り合いか!?』

OGフォンから姫子が語りかける。

「うん、少しね...」

尾方は苦笑するしかなかった。

そうして巨漢の方に向き直り、口を開く。

「貴方もなんですか筋頭さん...」

尾方は再度深い溜息を漏らす。

「まぁ、そう言うこともあろうよ尾方の。そう気を落とすな」

尾方の心情を知ってか知らずか筋頭は快活に笑う。

尾方は仕方がなさそうに筋頭に声をかける。

「顔馴染みのよしみで教えて欲しいんですけど、ここに来た目的ってなんです?」

「おう、侵攻だ」

その言葉は、場の空気をピリッとひり付かせた。

「それは...なんとも穏やかじゃないね」

「そうとも、戦争だからのう」

ビリビリと空気が揺れるような威圧感。

そこに居るのは既に顔馴染みの男ではなく――

「戒位二十九位、筋肉の天使。筋頭崇」

「メメント・モリ一般戦闘員、屈折の悪魔。尾方巻彦」

名乗り上げと共に筋頭は筋肉を肥大化させ上半身の服が弾け飛ぶ。

「行くぞ、尾方の!!」

間合いを踏み躙るように筋頭の巨体が尾方目掛けて飛んで来る。

大きく振り被った体勢は次の右拳の振り下ろしを告げていた。

尾方は直前まで肘のプロテクターで受ける姿勢をとっていたが、勢いを見るや否や瞬時にこれを避ける判断に移行。

出来るだけ身体を半身に捻り、後方に回転しながら飛び退く。

ドゴッッッ!!!!

先ほどまで尾方が居た場所にこれまた大きなクレーターが出来た。

拳圧に吹き飛ばされた尾方は体勢を立て直して着地する。

「師匠! 離れて! 接近戦は不味い!」

尾方が替々を心配して声を上げるが、その師匠はもうその場にいなかった。

「なにをキョロキョロしとる尾方の。おいとの一騎打ちじゃ不満かいな?」

筋頭も尾方の事しか見ていないようだ。

「(あの師匠黙って逃げやがった!!)」

尾方は声にならない声で糾弾する。

ドゴッッッ!!!

再度尾方の居た場所に拳が振り下ろされる。

寸でのところで避けた尾方は離れた場所に着地して苦笑する。

「些か派手過ぎじゃない? も少し色々抑えてさぁ」

パッパッと砂埃を払う。

「実戦とは鍛えた筋肉の披露宴よ! 抑えるなんて勿体無いこと出来んわい!」

尾方の真上からその声は聞こえた。

咄嗟に尾方は肘を上に向ける。

そこへ筋頭の両拳が降って来る。

ガキィン!!!!!

激しい金属音と共にとんでもない衝撃が尾方を襲った。

全身の骨が悲鳴を上げる。

そして押し潰されそうになった次の瞬間、

バチッ! と肘のプロテクターから電流が筋頭へ流れた。

「おう!?」

突然の衝撃に筋頭は後ろに下がる。

何が起こったか理解が追いつかない尾方だったが、この好機を逃さず体勢が崩れた筋頭を狙う。

「せい!」

尾方は筋頭の顔面に飛び後ろ回し蹴りを浴びせる。

尾方が知っている中で最も力が乗る蹴りだ。

しかし、蹴った感触がいつもと違いすぎる。

蹴り抜いた筈なのに、蹴り抜ける距離なのに。

「狙いは良いが筋肉不足だのう尾方の」

筋頭は顔面で蹴りを受け止めていた。

その表情筋で、その首で、衝撃は完全に殺されていた。

「あ、不味い――」

尾方が足を引くより速く、筋頭は尾方の足を掴み軽く放る。

その挙動は、本当に軽くであったが、尾方は宙に回転をつけて投げ出される。

遠心力で体勢を立て直すことも出来ない。

「さて、尾方の。すまんな」

筋頭はそう言うと、右肩を左手で押さえ、右手を横に伸ばす。

「断頭ラリアット!!」

その鉤手は、的確に回る尾方の首を捉え、尾方の体から、綺麗に首だけが弾け飛んだ。

尾方は刹那。

「謝ることないですよ」と言ったが、その音が震わせる喉はもうなかった。
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