残党シャングリラ

タビヌコ

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第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル④」

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前回のあらすじ

中年、着せ替え人形になる。



時は夜。

場所はシャングリラに向かう電車の中。

流れに逆らわず、吊革に掴まり揺れる影が三つ。

現メメント・モリの戦闘員である尾方巻彦と悪道替々、そして協力者(仮)の國門忠堅。

三人は予定通り、シャングリラにある旧メメント・モリのアジトに向けて出発していた。

電車に乗って暫く経った時、替々が横目で二人を見ながら言った。

「その、なんというか、花の無い絵になったねぇ...」

「仕方がないじゃないですか師匠、そも数も少ないですし」

尾方は苦笑いしながらそう返す。

「いや、面子の事じゃなくて君のことさ尾方。あんなに煌びやかな服が沢山あったのに選んだのがそんな質素な服なんて...」

「僕の服の事はもういいじゃないっすか...これでも圧されてコートなんて羽織ってるんすよ?」

そう言う尾方の肩には、確かに見慣れない黒いコートが掛けられていた。

いつものヨレヨレのスーツに比べると随分と綺麗なため、少し浮いている。

「いや、黒いスーツに黒いコートって...ねぇ?」

替々は國門へ振る。

「地味じゃ地味。組織のお門が知れるわ」

國門は鼻で笑ってそう答えた。

それを受け、尾方は心底興味なさげに言う。

「組織の末端は地味ぐらいが丁度いいの。目立っても碌な事がないんだから」

「下ん者はせめて目立ってアピールせんと、誰も見てくれんぞ」

「見られなくていいんだよ。その方がやり易いし」

「はん、合わんのうつくづく」

「そりゃそうでしょうねぇ、君と僕だし」

フンッと國門はそっぽを向いて意を示す。

替々はその様子をやれやれといった風に見ていたが、ここで口を開く。

「ところで國門君、兵隊の人数は如何ほどなのかね?」

そう、國門は今回の作戦にあたり、使えそうな兵隊を集めてくると昼間に公言していた。

人数自体は集まり、現地で合流予定である旨は、出発前の集合の際に言っていた。

「百人弱といったところやの。組織のツテで集めた信頼の置ける連中じゃ。それがどうかしたがじゃ?」

「いいや、一応人数ぐらいは把握しておかないと。今はメメント・モリの戦力に数えられるわけだし」

「...わかっちょるだろうが俺の管轄で動かすからの。文句は言わせんぞ?」

「無論ないとも。そんな大人数を動かすのは私には無理だろうからね。信頼しているって言いたかったのさ」

「はん、どうだか」

國門は再びそっぽを向く。

そうこうしている内に電車は目的地の駅に到着。

三人は一呼吸おくと、各々目付きを鋭く変え、電車を後にした。





それから三人は、目的地である神宿エリアの隣、旧メメント・モリのアジトへ徒歩で向かった。

道中、不意の襲撃等に目を光らせて歩いていた三人だったが、その道程は驚くほど静かなものだった。

目的地の少し前、流石に様子が変であると思った三人が同時に口を開く。

「その...」

「えー...」

「おい...」

三人は被ってしまった事に面くらい気まずそうな顔をして仕切り直す。

「まぁ、先ほどの反応から察せてはいるようだが一応言うよ? 様子がおかしい」

替々の言葉に二人は無言を持って肯定する。

替々は頷いて続ける。

「万が一がある。ここからは更に慎重に進むとしよう。尾方が前、私は中央、後ろが國門君だ」

「ほー、余所者に背中を預ける度胸があるんか」

「消去法だよ。前も後ろも私には無理だろうからね。それにさっきも言ったけど―」

「信頼しちょる、じゃろ? あんま言葉を重ねーと嘘っぽくなんぞ」

「私は嘘など付かないとも。仲間には特に付かないさ」

「胡散くさ...」

尾方も最前で溜息を付く。

何はともあれ、三人は隊列を作りシャングリラ内を目的地へ進んでいった。

そして目的地到着の少し前、三人は少し開けた裏路地の空き地で足を止めた。

「この辺でいいかな...? 重くってさぁこれ」

尾方はそう言うとずっと持って歩いていた黒いトランクを地面に置く。

実はこれ、葉加瀬が出発前に尾方達に持たせた物であり、目的地の少し前に広い場所を探して置くように頼まれていたのだ。

トランクは地面に置いて少しすると、無機質な電子音を響かせて変形を始めた。

その姿は小さな塔の様な形になり、静止する。

すると、

『トゥルルル...』

尾方のOGフォン(二代目)が呼び出し音を鳴らした。

尾方はたどたどしい手つきでそれに出る。

「もしもし、メメカちゃん?」

尾方がそう語りかけると、

「あ! やっと繋がったッス! 姫子さん! 出たッスよ!」

電話に出るや否や葉加瀬が騒がしく姫子を呼ぶ。

間も無く姫子の声が通話に入ってくる。

『尾方か!? 遅いぞ! ワシは心配で心配で!! ...ムグムグ』

「お菓子を食べてたと」

『居ても立っても居られんでついの...』

いいご身分である。

『と、とにかく! 回線が繋がったと言う事は、もうアジトの近くまで来とるんじゃの?』

「うん、もう目と鼻の先だよ。トランクこれで良かったのかなメメカちゃん?」

尾方はメカに手の平を向けながら言う。

『おkッス。これで電波は良好、御三人方のサポもバリ3で出来るッスよ』

そこで話しを聴いていた替々が割って入る。

「失礼、サポートと言うのはどのような事を我々は受けられるのかな?」

『そうッスねー。個々人の位置の把握、あと離れていても会話の中継が出来るッス』

「ほう、それは戦場では大変な助けだ。頼もしいネ」

替々は満足そうに一歩引く。

すると今度は國門が会話に入ってくる。

「会話の中継ってどうするんじゃ? まさか念力でも使えるんか?」

『それは今からおっさんが配るイヤホン型の通信機で行うッス。居場所特定の発信機でもあるッスからくれぐれも失くさないように注意するッスよ』

促されたことで尾方は不意に思い出した様で、慌てて通信機を取り出す。

『そか、ならええんじゃ』

國門は通信機を受け取りながら後ろに下がる。

三人は通信機を耳にセットする。

すると通話の音声はそのイヤホンから聞こえる様になった。

「なるほど便利、流石はメメカちゃん」

『これぐらい朝飯前ッス。それより義手の調子はどうッスか?』

尾方は左手をグーパーさせる。

「言われるまで義手だって完全に忘れてたよ。パーフェクトだ、ウォルター」

『感謝の極み』

この期に及んで遊んでいる二人。

しかし、準備は整った。

三人は視線を裏路地の先へ向ける。

「さて、それじゃあまぁ...」

「行くとするかネ」

「行っちゃるか」

「行きますか」

三人は視線の先へ歩き始めた。

その視線が三人別々の方向を向いている事を、露にも知らず。
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