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第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル②」
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前回のあらすじ
騒動の前の静けさ
①
「では、決行は今夜。投入戦力は総員三名。集合は十八時で問題ないッスね」
姫子の号令と共に始まった運営会議は、極めて円滑に進み。
新生メメント・モリにとって初となる組織ぐるみのシャングリラ侵攻の計画が決定された。
組織の面々は各々、様々な表情でその決定を受けた。
そしてそのまま集会は解散となり、夜の集合時間までは自由時間が設けられた。
解散の合図に伴い、尾方はそそくさとその場を去ろうとする。
目敏くそれに気づいた姫子が釘を刺す。。
「これ尾方、どこへ行く? お主にはまだ用事があるのだ。ゆっくりするがよい」
姫子は隣の座布団をテシテシ叩き着座を促すと、葉加瀬に目配せをする。
これを受け、葉加瀬も続けて言う。
「そうッスよおっさん。ゆっくりしていってくださいッス」
二人に促され、尾方は嫌な予感がしながらも流されるままに着座する。
「尾方よ、初任務にあたり、なにか欠けているモノがあるとは思わんか?」
尾方が座るなり、姫子は尾方に質問を投げかける。
「え? なになに? お金なら悲しいぐらい持ってないよ?」
ここだけ見ると完全におっさん狩りである。
「そうじゃないッスよー。おっさんそんな血まみれの服で初任務に挑むのかって話ッス」
葉加瀬が続けて言う。
「え? あ? ごめん? すぐ家に帰って着替えてくるから...」
「そうじゃなくてじゃな」
姫子が再度葉加瀬と目を見合わせる。
「新たな任務には?」
「新たな装いッス!」
「では始めるか! 名づけて! 尾方の新装備発表会じゃ!」
「ドンドンパフパフー! ッス!」
「...え?」
尾方が心底状況を読み取れていない中、
「あ、尾方。俺は夜まで悪海組の親近組織から兵隊集めてくっから、なんか知らんけど気張っちょれよ」
若頭がスッとフェードアウトした。
「いや、ヒメ? おじさんの装備なんかよりあの若頭さんとお話したほうがいいんじゃない? 本当に味方してくれるか微妙なところよアレ?」
「まぁ尾方が連れて来た奴だし大丈夫じゃろ(棒)。そんな事より着せ替え人形になれ尾方」
「そんな事よりの大なり小なり間違ってない?」
「観念するッスよおっさん。なんたってこの一週間の半分はおっさんの装備に費やしてるッスからね? 諦めて付き合うッスよ」
「おじさんの装備に半分!? 時間配分間違ってるよ!?」
「間違ってないッスよ? だってほら」
そう言って葉加瀬が差し出した機械は、金属で出来た手のように見えた。
「時間かかるッスよ。義手なんて作った事なかったッスから」
それは、尾方の失われた左手を模した。機械の義手だった。
②
「まぁ、発表会だなんだと銘打ちましたが、実際は只の動作テストッスよ」
葉加瀬と姫子に促されるままに元応接室に連れて行かれた尾方は、葉加瀬がなにやら打ち込んでいるディスプレイを難しい顔で覗き込んでいた。
そこへお盆にお茶を載せた姫子が入室してくる。
「ワシは大々的に発表会をするべきだと思っとるんじゃが、今日も夜にも決行となると時間がのう。ほれ、お茶」
尾方は軽く会釈してお茶を受け取りながら渋い顔をする。
「いいよ、ただでなくでもおじさんに新装備なんて恐れ多いのに発表会なんてされた日には...」
「逃げるッスね」
「逃げるのう」
「いや正解なんだけどなんとも物悲しい...」
尾方は渋い顔でお茶を啜る。
すると、モニターを見ていた葉加瀬が視線を尾方に移して言う。
「さて、おっさん。この義手、『葉加瀬式外操作筋電義手ハカセハンド』。縮めて『ハカハン』についての説明をさせてもらうッス」
「うんおーけー、ハカハンねハカハンだけ覚えた」
尾方は腕を組みうんうんと仕草だけでも頷いてみせる。
葉加瀬は気にする様子も無く進める。
「通常の筋電義手は、筋肉が収縮する際に発生する微弱な電流を電極で採取して利用するんスが、『ハカハン』はなんと、内部から電流で操作することが出来るッス!」
「...なるほど?」
尾方は首を傾げる。
すると横から姫子が割って入る。
「ハカセハカセ、それは些かおかしいのではないか? 外から操作出来るならいざ知らず内から? どういう理由でその機能を付けたのじゃ?」
「流石は姫子さん鋭いッス。そこのしたり顔で頷いてるおっさんには浮かばない疑問ッスね。勿論、わざわざ内部と言ったのには理由があるッス」
葉加瀬はよっころと立ち上がり、部屋の端に積まれていたブラウン管テレビの電源を付ける。
二人はその様子を疑問符を浮かべながら覗う。
「義手っていうのは本来、長い訓練とコツ、また妥協が必要ッス。しかもそこまでしても、おっさんの思った事の半分の事も出来ないと考えていいッス」
テレビにはスノーノイズがザーザーと音を立てて流れている。
「しかし、おっさんのやりたい事を感じ取り、意のままに義手を操作できる人間が中に入れば別ッスよね?」
ザッザッっとスノーノイズが不規則にブレ出す。
「そ、それはそうじゃが、そんなこと...」
姫子の言葉を遮るようにジッ!っと音を出してブラウン管のテレビに映像が映し出される。
「「そんなこと出来るッスよ。私さん達なら!」」
葉加瀬の声が二重に聞こえる。
そして不可思議なことに、ブラウン管テレビには葉加瀬の姿が映っていた。
「本邦初公開! これが私さん達の権能! 命名私さん! 【遊戯脳】ッス!」
葉加瀬はテレビに映ったもう一人の葉加瀬と、両手の人差し指を合わせて、例の合体のポーズを決めた。
騒動の前の静けさ
①
「では、決行は今夜。投入戦力は総員三名。集合は十八時で問題ないッスね」
姫子の号令と共に始まった運営会議は、極めて円滑に進み。
新生メメント・モリにとって初となる組織ぐるみのシャングリラ侵攻の計画が決定された。
組織の面々は各々、様々な表情でその決定を受けた。
そしてそのまま集会は解散となり、夜の集合時間までは自由時間が設けられた。
解散の合図に伴い、尾方はそそくさとその場を去ろうとする。
目敏くそれに気づいた姫子が釘を刺す。。
「これ尾方、どこへ行く? お主にはまだ用事があるのだ。ゆっくりするがよい」
姫子は隣の座布団をテシテシ叩き着座を促すと、葉加瀬に目配せをする。
これを受け、葉加瀬も続けて言う。
「そうッスよおっさん。ゆっくりしていってくださいッス」
二人に促され、尾方は嫌な予感がしながらも流されるままに着座する。
「尾方よ、初任務にあたり、なにか欠けているモノがあるとは思わんか?」
尾方が座るなり、姫子は尾方に質問を投げかける。
「え? なになに? お金なら悲しいぐらい持ってないよ?」
ここだけ見ると完全におっさん狩りである。
「そうじゃないッスよー。おっさんそんな血まみれの服で初任務に挑むのかって話ッス」
葉加瀬が続けて言う。
「え? あ? ごめん? すぐ家に帰って着替えてくるから...」
「そうじゃなくてじゃな」
姫子が再度葉加瀬と目を見合わせる。
「新たな任務には?」
「新たな装いッス!」
「では始めるか! 名づけて! 尾方の新装備発表会じゃ!」
「ドンドンパフパフー! ッス!」
「...え?」
尾方が心底状況を読み取れていない中、
「あ、尾方。俺は夜まで悪海組の親近組織から兵隊集めてくっから、なんか知らんけど気張っちょれよ」
若頭がスッとフェードアウトした。
「いや、ヒメ? おじさんの装備なんかよりあの若頭さんとお話したほうがいいんじゃない? 本当に味方してくれるか微妙なところよアレ?」
「まぁ尾方が連れて来た奴だし大丈夫じゃろ(棒)。そんな事より着せ替え人形になれ尾方」
「そんな事よりの大なり小なり間違ってない?」
「観念するッスよおっさん。なんたってこの一週間の半分はおっさんの装備に費やしてるッスからね? 諦めて付き合うッスよ」
「おじさんの装備に半分!? 時間配分間違ってるよ!?」
「間違ってないッスよ? だってほら」
そう言って葉加瀬が差し出した機械は、金属で出来た手のように見えた。
「時間かかるッスよ。義手なんて作った事なかったッスから」
それは、尾方の失われた左手を模した。機械の義手だった。
②
「まぁ、発表会だなんだと銘打ちましたが、実際は只の動作テストッスよ」
葉加瀬と姫子に促されるままに元応接室に連れて行かれた尾方は、葉加瀬がなにやら打ち込んでいるディスプレイを難しい顔で覗き込んでいた。
そこへお盆にお茶を載せた姫子が入室してくる。
「ワシは大々的に発表会をするべきだと思っとるんじゃが、今日も夜にも決行となると時間がのう。ほれ、お茶」
尾方は軽く会釈してお茶を受け取りながら渋い顔をする。
「いいよ、ただでなくでもおじさんに新装備なんて恐れ多いのに発表会なんてされた日には...」
「逃げるッスね」
「逃げるのう」
「いや正解なんだけどなんとも物悲しい...」
尾方は渋い顔でお茶を啜る。
すると、モニターを見ていた葉加瀬が視線を尾方に移して言う。
「さて、おっさん。この義手、『葉加瀬式外操作筋電義手ハカセハンド』。縮めて『ハカハン』についての説明をさせてもらうッス」
「うんおーけー、ハカハンねハカハンだけ覚えた」
尾方は腕を組みうんうんと仕草だけでも頷いてみせる。
葉加瀬は気にする様子も無く進める。
「通常の筋電義手は、筋肉が収縮する際に発生する微弱な電流を電極で採取して利用するんスが、『ハカハン』はなんと、内部から電流で操作することが出来るッス!」
「...なるほど?」
尾方は首を傾げる。
すると横から姫子が割って入る。
「ハカセハカセ、それは些かおかしいのではないか? 外から操作出来るならいざ知らず内から? どういう理由でその機能を付けたのじゃ?」
「流石は姫子さん鋭いッス。そこのしたり顔で頷いてるおっさんには浮かばない疑問ッスね。勿論、わざわざ内部と言ったのには理由があるッス」
葉加瀬はよっころと立ち上がり、部屋の端に積まれていたブラウン管テレビの電源を付ける。
二人はその様子を疑問符を浮かべながら覗う。
「義手っていうのは本来、長い訓練とコツ、また妥協が必要ッス。しかもそこまでしても、おっさんの思った事の半分の事も出来ないと考えていいッス」
テレビにはスノーノイズがザーザーと音を立てて流れている。
「しかし、おっさんのやりたい事を感じ取り、意のままに義手を操作できる人間が中に入れば別ッスよね?」
ザッザッっとスノーノイズが不規則にブレ出す。
「そ、それはそうじゃが、そんなこと...」
姫子の言葉を遮るようにジッ!っと音を出してブラウン管のテレビに映像が映し出される。
「「そんなこと出来るッスよ。私さん達なら!」」
葉加瀬の声が二重に聞こえる。
そして不可思議なことに、ブラウン管テレビには葉加瀬の姿が映っていた。
「本邦初公開! これが私さん達の権能! 命名私さん! 【遊戯脳】ッス!」
葉加瀬はテレビに映ったもう一人の葉加瀬と、両手の人差し指を合わせて、例の合体のポーズを決めた。
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