残党シャングリラ

タビヌコ

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第三章「中年サヴァイヴァーと徒然デイズ⑰」

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前回のあらすじ

中年、約束をする。


「ああ、今日も懲りずに来たんですね尾方さん。仕方がないので適当に掛けて下さい」
心底ウンザリした様な。とことん無関心な様な。そんな声で少女は中年を出迎える。
ここは町一番の造船所『小船屋造船所(おふねやぞうせんじょ)』。
尾方は葉加瀬に頼まれて、この造船所に連日通っていた。
対応しているのは、この造船所の社長の娘、ご令嬢『小船屋 綾海(おふねや あやみ)』。
葉加瀬と同じ学校に通う同級生であり、ご令嬢曰く、葉加瀬の唯一最高の親友なんだそうだ。
そう、唯一最高の親友である。
尾方が初対面の際に、「葉加瀬のお友達?」と確認した際、「唯一最高の親友です」と強く訂正を申し出たのだ。間違いはないだろう。
事の成り行きはこうである。
葉加瀬は、今後のメメント・モリの運用、作戦等で使用する機器類を作製したいが、(姫子の)お金に限りがあり、正直厳しい。
すると、(どこからか)その話を聴きつけたこのご令嬢が、「親友のお願いは断れない」と、造船所で余った資材を格安で譲りたいという話を持ちかけて来たのである。
結果、日夜機械の作製に追われる葉加瀬に代わり、尾方がその資材の受け取り、運搬を依頼されていた。
そして今日も尾方は、葉加瀬から渡されたメモを片手に、造船所を訪れたのである。
件のご令嬢は、尾方にお茶を出しながら言う。
「昨日も言いましたかも知れませんけれど、芽々花の頼みで仕方がなく貴方を招き入れているのですからね。そこの所、重々肝に銘じておいてください」
彼女は尾方に当りが強い。というか、邪険にしているとすら言える。
尾方もその事について、当初は気にしていたが、もうそういうお年頃なんだろうと高をくくっていた。
「そういう割りにはお茶まで出して毎日出迎えまでしてくれるじゃない?」
ご令嬢はフンッとそっぽを向く。
「芽々花の知り合いだからです。他意は一切合切これっぽっちもありません」
尾方は苦笑いしながらお茶を一口飲む。
「随分メメカちゃんと仲良いんだね?」
その言葉を聴くと、さっきまでの冷たい無機質な感じから一変、小船屋は静かに目を輝かせる。
「そう見えるかしら? まぁ、当然といえば当然ですけど? そう見えるのね?」
尾方はなんとなく会話が弾んだと勘違いし、適当に相槌を打つ。
「うん、見える見える。それより資材の話なんだけど――」
「中々どうして見る目はありますね尾方さん。特別に私と芽々花が出会った時のお話しをしてあげましょう」
尾方の話を遮り、小船屋は突然饒舌に話を続ける。
「あれは高等学校入学式の日、私はこれから始まる退屈な学園生活を憂い、心の活力を求め、心ときめく娘を捜していました」
「心ときめく子...?」
「そして私は、気に入った娘を三人ほどに絞り、その三人の身辺調査を始めたのです」
「身辺調査」
「当初この三人の中に、芽々花は入っていませんでした。当然です、だって彼女は、入学式の日から一度も学校に来ていなかったのですから。私だって顔は知ってるというぐらいでした」
「一度も来てないのに...?」
「そして運命の日は訪れました。私が身辺調査の結果、最も後が無い娘に話し掛けようと駆け寄ったその時」
「最も後が無い」
「廊下の角から出てきた、【葉加瀬製遠隔操作式偽装通学ロボット、『メメカー09』】とぶつかったのです」
「なんて?」
「そして彼女は、ああ、なんて奥ゆかしいのでしょう。私にメメカー09内に保管されているレモン味の飴をくれると。颯爽と去って行ったのです。それが私と芽々花の初めての出逢いでした」
「それ出会ってはなくない?」
「まぁ、出逢いから察せられる通り、その後私は芽々花と親しくなり、現在に至るわけです」
「出逢いからは察せられないよね? 端折った部分でどう巻き返したの?」
「以上、ご静聴ありがとうございました」
「あ、うん、ごめんね。ご静聴出来なくて」
散々好き勝手に喋った小船屋は、一呼吸置いて紅茶を呷る。
紅茶を呷る。このフレーズ二度と使わないと思う。
でもそうとしか言いようの無い呑みっぷりである。
呼吸を整えた小船屋はスッと目の輝きを消して最初のテンションに戻る。
「わかったかしら、私と芽々花の関係は?」
尾方は疲れた様子で返答する。
「余人の入り込む余地がないことがよく分かったよ」
小船屋は満足そうに言う。
「そ、理解も早いのね。嫌いじゃないわ」
すると、造船所の社員と思われる男が外から入ってきて、小船屋に目配せする。
どうやら資材の搬入が終わったらしい。
やれやれ、やっとこの娘から解放されると安心する尾方。
すると、
「では、その資材をこの住所まで送りなさい。お父様には私から話を通しておくわ」
と付け加えた。
尾方は目を丸くする。
「え? いや、運びますよ僕が? 車あるし」
すると小船屋は髪を翻して言う。
「駄目よ。貴方は私の話を聴くの。全八章の上下巻セットで続きがあるのだから」
「それどこのハリーポッター!?」
「まず第一章、『Hurryメメカーと令嬢の意思』よ」
「無理くり寄せすぎでしょ!?」
結局、小船屋の話は数時間に及び、尾方はツッコミにより喉が枯れた。
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