20 / 58
第三章「中年サヴァイヴァーと徒然デイズ⑬」
しおりを挟む
前回のあらすじ
中年、修行回リベンジ
①
「おお、尾方! よく来たの! 上がれ上がれ!」
今日も今日とて姫子の出迎えは迅速だった。
尾方がチャイムを押してすぐに姫子は玄関から顔を出した。
いつも通り尾方は手を引かれるままに、促されるままに居間に上がる。
何処か既視感がある様子で姫子は二枚の座布団を並べると横に座るようポンポンと叩く。
その様子にいつかを思い出したのか、尾方は緊張気味に座る。
「どうしたのじゃ尾方? 柄にも無く姿勢など正して?」
その様子に気づいた姫子に指摘される。
尾方は不味いと、姿勢を崩しながら言う。
「いや、組織のボスと話す時は緊張して当たり前じゃない?」
すると姫子は満更でもなさそうにする。
「うむうむ、そうかそうか緊張するか! 苦しゅうないぞ!」
尾方その様子を見て、やれやれと少し安心した。
「ところでヒメ、今日はなんのお話をするんだい? 昨日は組織の勢力拡大の話から飛びに飛んでアリジゴクの話してたよね」
「うむ、昨日は飛躍しすぎて途中からよくわからん話になってしもうたの。アリジゴクの話面白かった...猛省じゃ」
姫子はグッと両拳を握り、悔しそうな表情をする。
「今日は気をつけよう。さて、何の話をするかのう」
姫子はおもむろにメモ帳を懐から取り出しページをパラパラとめくる。
尾方がその様子を見て言う。
「ヒメがよく見てるその手帳ってなにが書いてあるの?」
姫子はページをめくる手を止める。
「企業秘密じゃ。現メメント・モリの最重要機密が多数記されておる」
「その割りにはセキュリティがペラペラなのでは?」
「特殊なインクを使っておっての。ワシ以外がこの手帳に触れると全文字が消去されるのじゃ」
「ヒメって結構SF好きなの?」
「葉加瀬が作った」
「うっ、急に信憑性が上がった...絶対出来ないとはいえない恐ろしさ...」
姫子はふふふっと笑い手帳のとある一ページを開く。
「尾方は特別ゆえ記載されている内容の一部分を教えてやろう。ずばり、おじじ様の悪の英才教育の一部始終がこれには記載されているのだ! 正に悪の大教典! 家宝じゃ!」
「ふーん」
尾方はふーんであった。
「こら! 反応が薄いぞ尾方! おじじ様だぞおじじ様! お主にも関係しているであろ!」
姫子はおこである。
「いやぁ、だっておじさん一般戦闘員だったわけで、オヤジとは言ってもボスは社長よ社長。縁遠くてイマイチ実感がねぇ」
尾方は手に顎を乗せて言う。
「ダウトじゃ、おじじ様が自宅で組織の話をする際に名前が出たのはお主、尾方だけじゃぞ。そんなお主が縁遠いじゃと? なにか隠しておるなワシに? おじじ様との関係...」
姫子は立ち上がり、手をワキワキしながら尾方ににじり寄る。
尾方は旗色が悪そうな顔をする。
「あっ、そうだ。駅前に出来たケーキ屋さん知ってる? あそこのチーズケーキが...」
「尾方」
「...あ、アリジゴクの巣って丸じゃなくて長い楕円形だって知ってた...?」
「尾方」
「......」
暫く尾方の顔をジッと観た姫子は笑顔で翻る。
「ま、話したくないのであれば良いのじゃ。またの機会にするとしよう」
「諦めてはくれないのね...」
「ワシも誰かほどではないが諦めが悪くての」
姫子は悪戯っぽく笑う。
「全く、誰に似たんだが...」
尾方はやれやれといった風に笑う。
そして少し考えると姫子に向かって言う。
「そうだ、たまにはヒメの話を聞かせてよ。おじさんヒメの事知りたいなぁ」
尾方の言葉に姫子はオッと顔を明るくする。
「そうかそうか、尾方はワシの事が知りたいか! 全くしょうがないな尾方は、特別だぞ!」
姫子は立ち上がると尾方の正面の位置に移動する。
「さて、何が聞きたい尾方。なんでも申して見よ」
腕を組みフンッと胸を張る姫子。
尾方は少し考える。
「座右の銘とかある?」
「塞翁が馬じゃな」
「好きなお菓子は?」
「煎餅じゃな」
「好きな飲物とかある?」
「暖かいお茶じゃな」
「100万円あったら何に使う?」
「貯金するじゃろ。組織の運営資金じゃ」
姫子は手帳を見ながら次々に答える。
「...」
「どうした尾方?」
「ヒメいまオヤジの話をしてるんじゃないよね?」
「なにを言っておる。全部ワシの話じゃぞ?」
姫子は首を傾げる。
尾方も首を傾げる。
「いや、その回答、オヤジと全く一緒なんだよ」
「...まぁ、ワシはおじじ様の愛孫じゃからな。自然と似てくることもあるじゃろう」
「ヒメ、カンニングしてる?」
「ギクッ」
今日日、口に出してギクって言う奴は中々いない。
尾方はわざと拗ねた様な顔をして言う。
「あーあ、おじさんヒメの事を知りたいんだけどなぁ」
すると姫子は少し俯く。
「ワシは、ワシには、おじじ様しか居なかった。それ以前は...覚えておらぬ。故に、ワシはおじじ様と同じものが好きで、おじじ様と同じ事を...」
「あ、いや、ヒメ、違くてね。おじさんは――」
地雷を踏み抜いた感を察した尾方が慌ててフォローに入ろうとしたその時、
「こらこら尾方、ボスを虐めるなんて、私はそんな子に育てた覚えはないヨ」
襖を開けて仲裁に入ってきたのは、『おじじ様』の弟、悪道替々だった。
中年、修行回リベンジ
①
「おお、尾方! よく来たの! 上がれ上がれ!」
今日も今日とて姫子の出迎えは迅速だった。
尾方がチャイムを押してすぐに姫子は玄関から顔を出した。
いつも通り尾方は手を引かれるままに、促されるままに居間に上がる。
何処か既視感がある様子で姫子は二枚の座布団を並べると横に座るようポンポンと叩く。
その様子にいつかを思い出したのか、尾方は緊張気味に座る。
「どうしたのじゃ尾方? 柄にも無く姿勢など正して?」
その様子に気づいた姫子に指摘される。
尾方は不味いと、姿勢を崩しながら言う。
「いや、組織のボスと話す時は緊張して当たり前じゃない?」
すると姫子は満更でもなさそうにする。
「うむうむ、そうかそうか緊張するか! 苦しゅうないぞ!」
尾方その様子を見て、やれやれと少し安心した。
「ところでヒメ、今日はなんのお話をするんだい? 昨日は組織の勢力拡大の話から飛びに飛んでアリジゴクの話してたよね」
「うむ、昨日は飛躍しすぎて途中からよくわからん話になってしもうたの。アリジゴクの話面白かった...猛省じゃ」
姫子はグッと両拳を握り、悔しそうな表情をする。
「今日は気をつけよう。さて、何の話をするかのう」
姫子はおもむろにメモ帳を懐から取り出しページをパラパラとめくる。
尾方がその様子を見て言う。
「ヒメがよく見てるその手帳ってなにが書いてあるの?」
姫子はページをめくる手を止める。
「企業秘密じゃ。現メメント・モリの最重要機密が多数記されておる」
「その割りにはセキュリティがペラペラなのでは?」
「特殊なインクを使っておっての。ワシ以外がこの手帳に触れると全文字が消去されるのじゃ」
「ヒメって結構SF好きなの?」
「葉加瀬が作った」
「うっ、急に信憑性が上がった...絶対出来ないとはいえない恐ろしさ...」
姫子はふふふっと笑い手帳のとある一ページを開く。
「尾方は特別ゆえ記載されている内容の一部分を教えてやろう。ずばり、おじじ様の悪の英才教育の一部始終がこれには記載されているのだ! 正に悪の大教典! 家宝じゃ!」
「ふーん」
尾方はふーんであった。
「こら! 反応が薄いぞ尾方! おじじ様だぞおじじ様! お主にも関係しているであろ!」
姫子はおこである。
「いやぁ、だっておじさん一般戦闘員だったわけで、オヤジとは言ってもボスは社長よ社長。縁遠くてイマイチ実感がねぇ」
尾方は手に顎を乗せて言う。
「ダウトじゃ、おじじ様が自宅で組織の話をする際に名前が出たのはお主、尾方だけじゃぞ。そんなお主が縁遠いじゃと? なにか隠しておるなワシに? おじじ様との関係...」
姫子は立ち上がり、手をワキワキしながら尾方ににじり寄る。
尾方は旗色が悪そうな顔をする。
「あっ、そうだ。駅前に出来たケーキ屋さん知ってる? あそこのチーズケーキが...」
「尾方」
「...あ、アリジゴクの巣って丸じゃなくて長い楕円形だって知ってた...?」
「尾方」
「......」
暫く尾方の顔をジッと観た姫子は笑顔で翻る。
「ま、話したくないのであれば良いのじゃ。またの機会にするとしよう」
「諦めてはくれないのね...」
「ワシも誰かほどではないが諦めが悪くての」
姫子は悪戯っぽく笑う。
「全く、誰に似たんだが...」
尾方はやれやれといった風に笑う。
そして少し考えると姫子に向かって言う。
「そうだ、たまにはヒメの話を聞かせてよ。おじさんヒメの事知りたいなぁ」
尾方の言葉に姫子はオッと顔を明るくする。
「そうかそうか、尾方はワシの事が知りたいか! 全くしょうがないな尾方は、特別だぞ!」
姫子は立ち上がると尾方の正面の位置に移動する。
「さて、何が聞きたい尾方。なんでも申して見よ」
腕を組みフンッと胸を張る姫子。
尾方は少し考える。
「座右の銘とかある?」
「塞翁が馬じゃな」
「好きなお菓子は?」
「煎餅じゃな」
「好きな飲物とかある?」
「暖かいお茶じゃな」
「100万円あったら何に使う?」
「貯金するじゃろ。組織の運営資金じゃ」
姫子は手帳を見ながら次々に答える。
「...」
「どうした尾方?」
「ヒメいまオヤジの話をしてるんじゃないよね?」
「なにを言っておる。全部ワシの話じゃぞ?」
姫子は首を傾げる。
尾方も首を傾げる。
「いや、その回答、オヤジと全く一緒なんだよ」
「...まぁ、ワシはおじじ様の愛孫じゃからな。自然と似てくることもあるじゃろう」
「ヒメ、カンニングしてる?」
「ギクッ」
今日日、口に出してギクって言う奴は中々いない。
尾方はわざと拗ねた様な顔をして言う。
「あーあ、おじさんヒメの事を知りたいんだけどなぁ」
すると姫子は少し俯く。
「ワシは、ワシには、おじじ様しか居なかった。それ以前は...覚えておらぬ。故に、ワシはおじじ様と同じものが好きで、おじじ様と同じ事を...」
「あ、いや、ヒメ、違くてね。おじさんは――」
地雷を踏み抜いた感を察した尾方が慌ててフォローに入ろうとしたその時、
「こらこら尾方、ボスを虐めるなんて、私はそんな子に育てた覚えはないヨ」
襖を開けて仲裁に入ってきたのは、『おじじ様』の弟、悪道替々だった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜
菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。
私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ)
白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。
妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。
利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。
雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。
後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符
washusatomi
キャラ文芸
西域の女商人白蘭は、董王朝の皇太后の護符の行方を追う。皇帝に自分の有能さを認めさせ、後宮出入りの女商人として生きていくために――。 そして奮闘する白蘭は、無骨な禁軍将軍と心を通わせるようになり……。

一人じゃないぼく達
あおい夜
キャラ文芸
ぼくの父親は黒い羽根が生えている烏天狗だ。
ぼくの父親は寂しがりやでとっても優しくてとっても美人な可愛い人?妖怪?神様?だ。
大きな山とその周辺がぼくの父親の縄張りで神様として崇められている。
父親の近くには誰も居ない。
参拝に来る人は居るが、他のモノは誰も居ない。
父親には家族の様に親しい者達も居たがある事があって、みんなを拒絶している。
ある事があって寂しがりやな父親は一人になった。
ぼくは人だったけどある事のせいで人では無くなってしまった。
ある事のせいでぼくの肉体年齢は十歳で止まってしまった。
ぼくを見る人達の目は気味の悪い化け物を見ている様にぼくを見る。
ぼくは人に拒絶されて一人ボッチだった。
ぼくがいつも通り一人で居るとその日、少し遠くの方まで散歩していた父親がぼくを見つけた。
その日、寂しがりやな父親が一人ボッチのぼくを拐っていってくれた。
ぼくはもう一人じゃない。
寂しがりやな父親にもぼくが居る。
ぼくは一人ボッチのぼくを家族にしてくれて温もりをくれた父親に恩返しする為、父親の家族みたいな者達と父親の仲を戻してあげようと思うんだ。
アヤカシ達の力や解釈はオリジナルですのでご了承下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる