残党シャングリラ

タビヌコ

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第三章「中年サヴァイヴァーと徒然デイズ⑬」

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前回のあらすじ

中年、修行回リベンジ



「おお、尾方! よく来たの! 上がれ上がれ!」

今日も今日とて姫子の出迎えは迅速だった。

尾方がチャイムを押してすぐに姫子は玄関から顔を出した。

いつも通り尾方は手を引かれるままに、促されるままに居間に上がる。

何処か既視感がある様子で姫子は二枚の座布団を並べると横に座るようポンポンと叩く。

その様子にいつかを思い出したのか、尾方は緊張気味に座る。

「どうしたのじゃ尾方? 柄にも無く姿勢など正して?」

その様子に気づいた姫子に指摘される。

尾方は不味いと、姿勢を崩しながら言う。

「いや、組織のボスと話す時は緊張して当たり前じゃない?」

すると姫子は満更でもなさそうにする。

「うむうむ、そうかそうか緊張するか! 苦しゅうないぞ!」

尾方その様子を見て、やれやれと少し安心した。

「ところでヒメ、今日はなんのお話をするんだい? 昨日は組織の勢力拡大の話から飛びに飛んでアリジゴクの話してたよね」

「うむ、昨日は飛躍しすぎて途中からよくわからん話になってしもうたの。アリジゴクの話面白かった...猛省じゃ」

姫子はグッと両拳を握り、悔しそうな表情をする。

「今日は気をつけよう。さて、何の話をするかのう」

姫子はおもむろにメモ帳を懐から取り出しページをパラパラとめくる。

尾方がその様子を見て言う。

「ヒメがよく見てるその手帳ってなにが書いてあるの?」

姫子はページをめくる手を止める。

「企業秘密じゃ。現メメント・モリの最重要機密が多数記されておる」

「その割りにはセキュリティがペラペラなのでは?」

「特殊なインクを使っておっての。ワシ以外がこの手帳に触れると全文字が消去されるのじゃ」

「ヒメって結構SF好きなの?」

「葉加瀬が作った」

「うっ、急に信憑性が上がった...絶対出来ないとはいえない恐ろしさ...」

姫子はふふふっと笑い手帳のとある一ページを開く。

「尾方は特別ゆえ記載されている内容の一部分を教えてやろう。ずばり、おじじ様の悪の英才教育の一部始終がこれには記載されているのだ! 正に悪の大教典! 家宝じゃ!」

「ふーん」

尾方はふーんであった。

「こら! 反応が薄いぞ尾方! おじじ様だぞおじじ様! お主にも関係しているであろ!」

姫子はおこである。

「いやぁ、だっておじさん一般戦闘員だったわけで、オヤジとは言ってもボスは社長よ社長。縁遠くてイマイチ実感がねぇ」

尾方は手に顎を乗せて言う。

「ダウトじゃ、おじじ様が自宅で組織の話をする際に名前が出たのはお主、尾方だけじゃぞ。そんなお主が縁遠いじゃと? なにか隠しておるなワシに? おじじ様との関係...」

姫子は立ち上がり、手をワキワキしながら尾方ににじり寄る。

尾方は旗色が悪そうな顔をする。

「あっ、そうだ。駅前に出来たケーキ屋さん知ってる? あそこのチーズケーキが...」

「尾方」

「...あ、アリジゴクの巣って丸じゃなくて長い楕円形だって知ってた...?」

「尾方」

「......」

暫く尾方の顔をジッと観た姫子は笑顔で翻る。

「ま、話したくないのであれば良いのじゃ。またの機会にするとしよう」

「諦めてはくれないのね...」

「ワシも誰かほどではないが諦めが悪くての」

姫子は悪戯っぽく笑う。

「全く、誰に似たんだが...」

尾方はやれやれといった風に笑う。

そして少し考えると姫子に向かって言う。

「そうだ、たまにはヒメの話を聞かせてよ。おじさんヒメの事知りたいなぁ」

尾方の言葉に姫子はオッと顔を明るくする。

「そうかそうか、尾方はワシの事が知りたいか! 全くしょうがないな尾方は、特別だぞ!」

姫子は立ち上がると尾方の正面の位置に移動する。

「さて、何が聞きたい尾方。なんでも申して見よ」

腕を組みフンッと胸を張る姫子。

尾方は少し考える。

「座右の銘とかある?」

「塞翁が馬じゃな」

「好きなお菓子は?」

「煎餅じゃな」

「好きな飲物とかある?」

「暖かいお茶じゃな」

「100万円あったら何に使う?」

「貯金するじゃろ。組織の運営資金じゃ」

姫子は手帳を見ながら次々に答える。

「...」

「どうした尾方?」

「ヒメいまオヤジの話をしてるんじゃないよね?」

「なにを言っておる。全部ワシの話じゃぞ?」

姫子は首を傾げる。

尾方も首を傾げる。

「いや、その回答、オヤジと全く一緒なんだよ」

「...まぁ、ワシはおじじ様の愛孫じゃからな。自然と似てくることもあるじゃろう」

「ヒメ、カンニングしてる?」

「ギクッ」

今日日、口に出してギクって言う奴は中々いない。

尾方はわざと拗ねた様な顔をして言う。

「あーあ、おじさんヒメの事を知りたいんだけどなぁ」

すると姫子は少し俯く。

「ワシは、ワシには、おじじ様しか居なかった。それ以前は...覚えておらぬ。故に、ワシはおじじ様と同じものが好きで、おじじ様と同じ事を...」

「あ、いや、ヒメ、違くてね。おじさんは――」

地雷を踏み抜いた感を察した尾方が慌ててフォローに入ろうとしたその時、

「こらこら尾方、ボスを虐めるなんて、私はそんな子に育てた覚えはないヨ」

襖を開けて仲裁に入ってきたのは、『おじじ様』の弟、悪道替々だった。
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