残党シャングリラ

タビヌコ

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第三章「中年サヴァイヴァーと徒然デイズ⑫」

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前回のあらすじ

中年、禁固一週間



そこから一週間、尾方は実際に出来る限りに全ての事をやった。

朝は清との修行、昼まで姫子に構い、夕方まで替々と修行をしたら、夜まで葉加瀬の手伝いをした。

今回はその日々から、とある一日を抜粋してお送りしよう。

とある日、

約束どおりシャングリラには行かなかった尾方は、快眠で朝を迎える。

目の下に出来かけていたくまは、すっかり良くなっていた。

朝食を手早く済ませた尾方は、早速最低限の物をポケットに詰め込んで外出する。

家の前では、いつも通り、清が旅館前を箒で掃いていた。

尾方はその姿を確認するといつも通り挨拶をする。

「や、おはようキヨちゃん。今日も今日とて精が出るね」

挨拶を受けた清は尾方のほうを確認すると澄んだ髪を翻して挨拶を返す。

「おはようございます。尾方さん、今日は調子良さそうですね?」

尾方は、顎に手を当てて笑顔で答える。

「あら、そう見える? 夜更かし出来ないからかな?」

清はなるほど、っと最後の一掃きをする。

「それは良い事です。夜更かしはお肌の敵ですからね」

「おじさんのお肌がツルツルになって誰が喜ぶんだろう...」

清は少し考えるような仕草をして、ハッと思いついたように言う。

「恐らく姫子さんは喜びます。この間、尾方さんの肌がガサガサだって嘆いてましたから」

「ヒメはおじさんの肌に何を期待しているんだ...」

「せめておじじ様よりモッチリ肌になって欲しいとも言ってました」

「え!? 僕の肌、オヤジよりガサガサなの!? 急に危機感だよ!」

「まぁ尾方さん。その話は置いておいて今日も始めましょうか?」

「えぇ...置いておくには重い話しだったんだけど...」

尾方はやれやれと渋々ながら半身に構える。

今日もと言うのは修行の話だ。

尾方は今日も清から繰り出される不可視の箒を避ける訓練を開始する。

清が正装【不知火】に触れたのを確認すると、バッと人三人分ほど後方に飛びのいた。

尾方のイメージではこれで一太刀避けている。

そして着地後、間髪入れずにその場にしゃがむ。これで二太刀。

次はしゃがんだ状態で横にタンっと空中で側転しながら飛ぶ。これで三太刀。

最後に着地した尾方はすかさずバク転をして後方に大きく飛びのいた。これで四太刀。

さて、尾方の体内時計でここで六秒。

避け切れていれば空を斬る音が四回するはずだが...

パァン! パン! ガン! カッ!

「あいだだだだ!?」

結果は全斬命中だった。

尾方はその場でピョンピョン跳ねる。

「残念でした尾方さん。ですが感じは掴んでいますね。予測ではなく、確信を持って私の動きを見てください」

尾方は涙目で言う。

「これ実際に見えるキヨちゃんの攻撃を避けるところから始めちゃ駄目なの? 見たこともない相手の太刀筋なんて避けれる気がしないって言うか」

尾方の泣き言に清はビシっと答える。

「それは出来ません。意識がある私と無意識の私は太刀筋が全く違います。眼で見て変な癖がついては困ります」

尾方はソレを聞いて、疲れ顔をする。

「そんなこと言ってぇ...手の内見せたくないだけじゃないの大天使様?」

「......」

「いや黙らないでよ怖いよ!」

そんなこんなで二人の修行は、昼前まで続いた。

尾方は箒で叩かれてない場所がの方が少ないほど叩かれた。

突っ伏した尾方は苦笑いで言う。

「いてて...上達してる気がしないなぁ」

息一つ乱していない清は笑顔で返す。

「いえいえ、最初に比べればかなり惜しいところまで来ています。尾方さんには当たったという事実しか残らないので分かり難いかもですが、着実に前進していますよ」

尾方は息を整えながら立ち上がる。

「そうだと嬉しいねぇ...さて、今日は修行はこのぐらいでいいかなキヨちゃん?」

「ええ、そうしようと考えてました。尾方さんお忙しいでしょうし」

キヨはどこから取り出したかペットボトルのお茶を尾方に渡す。

「ありがとうキヨちゃん助かるよ」

尾方はお茶を半分ほど飲み干すと、それを清に返す。

「じゃあ、キヨちゃんまた夜ね」

「ええ、お待ちしております尾方さん」

尾方はその場から駆け足で去っていった。

清はその姿が見えなくなるまで手を振る。

そしてその姿が見えなくなり、旅館に戻ろうとした時、

自分が手にしている物の意味に気づいた。

「このペットボトル...尾方さんが...?」

清はペットボトルとにらめっこをしている。

そして清の手が、蓋に恐る恐ると伸びたその時、

「おお、若女将! 今日も精が出るのう!」

後ろから話しかけられ、清はペットボトルを取りこぼしかける。

「す、すすす筋頭さん!? おはようございます! いい天気ですね!?」

話しかけて来たのは、清の旅館の常連客のマッチョ。筋頭崇だった。

「おお、驚かせてしまったみたいだのう。すまんすまん」

ガハハと筋頭は豪快に笑う。

清はゴホンっと咳払いをして姿勢を正す。

「どうしたんですか筋頭さん? マッサージにはまだ早い時間ですよね?」

すると、筋頭は真剣な表情になり言う。

「いや、今日用事があるのは、旅館でも若女将でもない」

「...と、いいますと?」

「お主じゃ、正端清殿」

その言葉を聞いて、清はスッと目を閉じる。

「わかりました。お話、伺いましょう」

次に開いた眼は、剪定者の目をしていた。

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