残党シャングリラ

タビヌコ

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第三章「中年サヴァイヴァーと徒然デイズ⑪」

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前回のあらすじ

中年、噂され倒す



「あ、すんません尾方のおっさん。一点だけいいッスか?」

第二回メメント・モリ+α女子会が終わると、なぜか一同はもう一度居間に集合し、各々好き勝手に語らっていた。

そこで葉加瀬がふと思い出したように言う。

「ん? どしたのメメカちゃん?」

尾方は膝に乗った姫子の髪をツインテールにして遊んでいたが、その手を止めて耳を傾ける。

「いや、例の基地への偵察の話なんスけど、おっさん放っといたら今日にでも行きそうなんで、少し待って貰えないッスか?」

葉加瀬は手元にあった煎餅を手に取り、ギザ歯でガリガリと噛み砕く。

尾方は少し考えながら姫子の頭を軽くグリグリ動かす。

「んー、確かに今日行くつもりだったけど、なにか不都合があったかな?」

尾方はケロっと言うが、他数名はギョッとしている。特に老紳士。

やっぱりと葉加瀬は少し呆れ気味である。

「技術班としての必要準備時間ッスよ。前回の突発的なシャングリラ観光とは違って、今回は組織的な動きをするんスから、協力して貰うッスよ」

葉加瀬はもう一枚煎餅をとり半分に割って尾方に渡す。

尾方はそれを受け取る。

「技術班様からのご要望とあらば従わざるえませんなぁ。して、お時間のほどは?」

葉加瀬は少し考える仕草をした後、煎餅に二本指を添えて言う。

「二週間でどうッスか?」

尾方はそれを受けて煎餅を半分に折る。

「もう一声!」

「べらんめぇ!一週間ッス!」

「わーい」

尾方は満足そうに半分の煎餅を食べる。もう半分の煎餅は姫子の口元に持っていくと二秒でパクついた。

するとその様子を眺めていた清が言う。

「私が口を出すのもなんですが、あんな決め方でいいんですか...?」

同じく眺めていた替々も言う。

「組織には組織ごとのやり方って言うモノが存在するんだよ。私もここに頑張って慣れなければだがネ」

色々言いたげである。

続いてされるがままに尾方にポニーテールにされている姫子が口を開く。

「尾方は一週間もシャングリラに行けなくても大丈夫かの? 発作とか起きないかの?」

尾方は完成した姫子のポニーテールの先っぽを弄ぶ。

「なによ発作って? おじさんシャングリラ中毒とか患ってるの?」

「シャグ中じゃな?」

「シャブ中みたいに言わないで?」

すると横から現れた葉加瀬が姫子の髪を三つ編みにしながら言う。

「でも実際のところ、おっさん時間持て余しそうッスよね? なんかアテあるんスか?」

尾方は姫子のポニーテールを放して考える。

それを見て替々が割って入ってくる。

「なんなら久々に私が稽古をつけてあげようか? 隻腕になって色々勝手が違うだろうし慣れも必要だろう?」

すると横でお茶を飲んでいた清が涼しい顔で言う。

「修行といえば私ですよ尾方さん。私と一緒に空いた時間を有意義に使いましょう」

すると尾方の膝の上から姫子が言う。

「ボスも構え尾方! ワシと組織の行く末について語り合うのじゃ!」

またまた後ろから葉加瀬が言う。

「手が空いてるなら、技術班への物資の搬送を手伝って欲しいッス。正直私さんは作るので手一杯なので」

各々の話を聞くと、尾方はピタリと動きを止めて目を回まわす。

「うぅーん......」

このメンツ...全員が尾方の性質を知っているだろうに...案の定尾方は停止する。

葉加瀬が尾方の顔の前でヒラヒラと手を往復させて言う。

「あー、駄目ッスね。ギャルゲー並の選択肢の多さに完全にお目目ぐるぐるッス。...仕方ない、姫子さん」

葉加瀬が促すと、姫子が膝の上で尾方の方を向く。

「これ尾方、選ぼうとするな。ボス命令じゃ全部せい」

尾方は、意識を戻して半覚醒した目で言う。

「全部...?」

姫子はここぞどばかりに続ける。

「そうじゃ、出来る出来ないじゃない。全部するのじゃ! よいな」

すると尾方は少しボーッとしていたが、ハッと目を覚まして、頭を掻きながら言う。

「ボス命令ならしかたないかぁ...」

その様子に皆はやれやれと言った風に笑う。

迷う前に全部やれ、これは姫子が考えたムチャクチャだが尾方を動かす最善手であった。

尾方は姫子を肩車すると立ち上がる。

その目にはもう迷いの色はなかった。

「さて、じゃあ久々にご教授願いましょうか師匠」
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