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第三章「中年サヴァイヴァーと徒然デイズ⑥」
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前回のあらすじ
中年、天使を笑わせる
①
「また顔を出しなさい」
守本書店の閉店作業を手伝った尾方は、そう言って守本に見送られて古本屋を後にした。
後ろに控えた血渋木が、「二度と来るな」と言っていた様な気がしたが、尾方には聴こえなかった。
時計を見て、時間的にまだ少し余裕があることを確認した尾方は暫くぶらぶらと町を歩くことにした。
当ても無く、ただ思うままに足を前に進める尾方が辿り着いたのは、町を一望できる展望台だった。
少し前まで、漠然とした焦燥感に追われ、そんな余裕はなかった尾方であったが、今は少し余裕を持って町を見渡すことが出来た。
タバコを持ってきて正解だったと、尾方は静かに煙を纏う。
「(この展望台に来るのも随分久しぶりだなぁ)」
昔は、それこそ組織に居た頃の尾方は、よくここに来て町を見渡していた。
「(理由? カラスとなんたらは高いところがってやつですよ)」
ハハハッと一人カラ笑いする尾方は、思い巡らすついでに一つのことを思い出した。
「(そういえば最初にここに来たキッカケは...)」
すると、尾方一人しかおらず、静寂が広がっていた展望台に、小さな足音が入ってきた。
尾方は振り向き、その来訪者を確認して言う。
「そう、君だったね、メメカちゃん」
そこに現れたのは、新生メメント・モリの協力者にして今は亡きメメント・モリ技術局長の娘。
葉加瀬 芽々花だった。
②
ある日、一人の幼い少女が思った。
こんな所に居たら、お父さんもお母さんも、近いうちに必ずいなくなってしまう。
そんな場所が嫌だった。そんな組織が嫌だった。
少女は、少女に好くしてくれる人々が、パッと目の前からいなくなるこの場所が、
堪らなく嫌だった。
でも、少女の願いに反して、皆は笑って言う。
夢に殉じると。
少女には理解できなかった。
少女は怖くなり、少女は焦り、
堪らず、自分に出来る全てを投じて、親の真似事をした。
『自分の望んだ事の出来る道具を作ること』
少女は望んだ。戦いの終わりを。
少女は望んだ。皆の無事を。
そんな道具が出来ると、信じて疑わなかった。
だが、いつも考えていたことは、その望みを上回る。
少女は無意識に望んでしまった。
この場所の終わりを。
故に出来たのは、作った少女のスケールに合うくらいの、
この場所を吹き飛ばす程度の爆弾だった。
丁度それが出来たタイミングだった。
少女の父親が部屋に入って来たのは。
少女は慌ててそれを隠そうとし、思わずそれを床に落とした。
無機質な電子音は、少女が設計した爆発の合図。
その一瞬は、
少女が、自分で望んだモノの意味に気づくのには十分な時間だった。
頭が真っ白になった少女は、その時を待つように静止する。
だが、強く後ろに体が引っぱられ、意識を戻される。
後ろに倒れながら少女が見たのは、少女の望みに覆いかぶる、一人の青年の姿だった。
③
「あ、え? 尾方のおっさん? なに、してるんスか...? こんなところで...?」
展望台に姿を現した葉加瀬は、尾方の姿を観て困惑の表情を浮かべていた。
尾方はタバコを消して携帯灰皿に入れると、いつもの調子で話しかける。
「やっほ、メメカちゃん。こんな所で会うなんて奇遇だね。おじさんかい? おじさんはお散歩だよ」
休暇貰っちゃってねーっと尾方は振り返り、町を眺める。
「......そ、そッスか」
それだけ言うと葉加瀬は押し黙ってしまう。
すると、尾方は独り言のように語り出す。
「懐かしいなぁ。ちょうどここに初めて来た時のことを思い出しててさ。覚えてる? メメカちゃんが初めて家出した時のこと」
「......」
黙する葉加瀬に構わず尾方は続ける。
「いやー、あの時はおじさんも若かったよね。技術局長の命令無視して飛び出したりしてさぁ。いま考えると総毛立っちゃうよ」
「......」
「でも今は後悔してないよ。おじさん不器用だから、上手にメメカちゃんの役に立てたかどうか、当時は分からなかったけど」
「......」
「あの組織嫌いだったメメカちゃんが今、メメント・モリに協力してくれてるっていう現状を見てると。やっぱり間違ってなかったって思う」
「......」
「おじさん片腕になっちゃったけど、メメカちゃんもいるから、これからも頑張って行こうかなって元気が貰えるよ」
「......ッ」
「だから――」
そこまで言って尾方が振り返ると、そこには目一杯に涙を貯め、今にも泣き出しそうな葉加瀬の姿があった。
尾方はこれでもかと慌てる。
「ど、どどどどうしたのメメカちゃん!? 目にゴミ入った? おじさんの昔語り痛かったかな?」
すると震える声で葉加瀬は言う。
「なんで...なんでおっさんは怒ってくれないんスか...? 私さん...私、これで二度目ッスよ...? おっさん傷つけるの...」
少女の頬を涙が濡らす。
「覚悟して来てたんス...今回は...おっさんが傷ついても...泣かずに着いて行って...役に立つって...あの頃とは違うって...」
二筋、三筋と涙が溢れ出す。
「でも...また...私のせいで...尾方さん、腕亡くなっちゃって...ねぇ...私駄目ッス...駄目駄目ッス...尾方さん...怒って...怒ってください...」
腕で涙を拭って言う。
「私が...! 二度とこんな事しないように...! 二度とこんな場所に来ないように...! あの時の分まで...!」
そう、あの日、少女は、完膚なきまでに折れていた。
全てを諦めるには、十分な結果を出してしまっていた。
しかし、耐えられず、逃げ出した自分を捜しに来たのは、
あの場所から消えてしまったはずの人で、
その人は、私の手を引いてあの場所まで私を戻してくれた。
あの場所から居なくならないその人。
その事実だけが、私の中に強く印象付けられた。
それだけで、嫌いな場所を少しマシに感じることが出来た。
それだけで、暫く会えなくても、あの場所に戻り、役立てる自分になろうと頑張れた。
しかし、今度は、その絶対的な、居なくならないその人の、片腕が帰ってこなかった。
必ず居るその人は、居なくなる、その片鱗を覗かせた。
その事実は、少女をあの日、この町を眺めた少女に戻すには十分だった。
少女の方をジッと見る尾方。
ふぅっと一息着くと、少女の目の前まで歩く。
スッと上げられた右手に、少女は一瞬ビクッとするが、
その手は、優しく、とても優しく少女の頭に置かれた。
「ごめんね。おじさん、そのお願いは聞けないな。だって...怒れないよ、こんな優しい子」
「へ...?」
「メメカちゃんみたいな利口な子が気づいてないわけないんじゃない? メメカちゃんがいやに気にしてるらしい二件の事故には、共通した事がある」
「共通した...こと...?」
葉加瀬は鼻を啜って聞き返す。
尾方は優しく笑って語り出す。
「なぜそれをしたのか。動機だよ。一回目の爆弾をなぜ作ったのか? おじさん知ってるよ。爆弾はあんな顔して作る物じゃない。皆のためを思って、メメカちゃんは手を動かしていた」
「そ、それは...」
「二回目なんて明確じゃない? 口にしてたよね。組織の今後のために有意義だって。それにこの腕がなくなったのは他の誰でもない。僕の責任だ」
「で、でも...そんなこと言っても...結果...尾方さんは...」
「そんなことじゃない。一番重要な部分だよメメカちゃん。誰がため...何かを想って作ったもの、行動が...もし裏目に出たとしても。その根底は覆らない。その想いは変わらない」
「......ッ!」
「結果、悪いことが起きてしまったとしても、メメカちゃんが気にすることじゃない。動機を想い、結果を飲み込むのも...大人の役目なんだからさ」
尾方は優しく葉加瀬を撫ぜながら言う。
「だから、おじさんが言うのは感謝だ。ありがとうメメカちゃん。組織を、皆を想ってくれて。気づかないことに気づくメメカちゃんは、さぞ苦労するだろうけど今後もよろしくってね」
そしてそのあと、尾方は付け加える。
「あ、でもそれ以外の件で一件怒る事あったぞ。最初に、ヒメがおじさんを追いかけてた際に、ナビしてたのメメカちゃんだったでしょ? あれ大変だったんだからね? 的確すぎてさー」
葉加瀬は、撫ぜる尾方の右手に手をそっと置いて、「ごめんなさい...」と一言言うと、また泣き出してしまった。
暫くして、泣きつかれた葉加瀬は展望台のベンチに腰を掛けていた。
そこに、少し離れていた尾方が近寄る。
「はい、メメカちゃん。温かいお茶だよ。落ち着いたかな?」
近くの自販機まで行っていた尾方が買ってきたお茶を渡して隣に座る。
「何から何まで申し訳ないッス。尾方さん...」
目を腫らした葉加瀬が弱々しく言う。
「おっさんでいいよ。気に入ってる」
尾方は笑って言う。
葉加瀬は少し俯いて言う。
「ありがとうッス。尾方のおっさん...」
尾方はニッと笑う。
「どういたしまして」
葉加瀬もたどたどしく笑うと、お茶を一口飲む。
「しっかし、偉そうに見当違いのこと言ってたらごめんね? 昔思い出して少し熱血入っちゃったかな?」
尾方が照れくさそうに言う。
「いえ、助かったッス...色々気づきがあったッス。ただ...」
葉加瀬が少し言葉尻を濁す。
「ただ...?」
尾方が促すと、
「おっさん。私のこと過大評価しすぎッス。私は皆とか組織とか、そんな大きな事なんて考えられるほど大きな器を持ってないッス」
「あっはっは、それは謙遜だなぁ...でも、もしそうだとすると何を想ってたんだい?」
葉加瀬は俯いて口をダッフルコートの中に入れると、小さな声で「鈍感...」と呟いた。
「え? ごめん? なんだって...?」
尾方が聴き返すと、
「世界平和ッスよ」とニカっと口を出して笑った。
尾方は笑って、
「そりゃあいい」
と言うと付け加えて言う。。
「そいえばメメカちゃん気になってたんだけどさ。そのコートどしたの? 昔は着てなかったよね?」
中々デリカシーの無い質問であるが葉加瀬は気にせず言う。
「お洒落ッスよオシャレ。こういうのが若い子の間で流行ってるんスよ?」
葉加瀬はバッと立ち上がると全身が見えるようにポージングをして言う。
「そなの? 進んでるなぁ若人は。でも、おじさんは前のジッパーぐらいは開けていいんじゃないかなって思うよ。メメカちゃんの可愛いお顔が見えないのは勿体無い」
ポージングのまま固まった葉加瀬は少し考えると、
「じゃ、じゃあ...」
と前のチャックだけ開けて再度ポーズをとる。
「ど、どッスか?」
今度固まるのは尾方の番であった。
葉加瀬はコートの下にTシャツとショートパンツを着用していた。そこまではいい、そこまでは良かったが。
最近の子の発育って凄い。
尾方はなんとかその言葉を呑みこみ。
葉加瀬のチャックを首元まで上げると、
「か、可愛いけどもう夜も冷えるし、ココ位まででいいんじゃないかな?」
と言ってそそくさとベンチに座り込んだ。
その心知ってか知らずか。
葉加瀬は微笑むと、
「そうするッス!」
とそのまま尾方の隣に座り、尾方の頬にお茶を当ててからかいだした。
一人の中年と、少女の声は、星々が空に輝くまで続いた。
中年、天使を笑わせる
①
「また顔を出しなさい」
守本書店の閉店作業を手伝った尾方は、そう言って守本に見送られて古本屋を後にした。
後ろに控えた血渋木が、「二度と来るな」と言っていた様な気がしたが、尾方には聴こえなかった。
時計を見て、時間的にまだ少し余裕があることを確認した尾方は暫くぶらぶらと町を歩くことにした。
当ても無く、ただ思うままに足を前に進める尾方が辿り着いたのは、町を一望できる展望台だった。
少し前まで、漠然とした焦燥感に追われ、そんな余裕はなかった尾方であったが、今は少し余裕を持って町を見渡すことが出来た。
タバコを持ってきて正解だったと、尾方は静かに煙を纏う。
「(この展望台に来るのも随分久しぶりだなぁ)」
昔は、それこそ組織に居た頃の尾方は、よくここに来て町を見渡していた。
「(理由? カラスとなんたらは高いところがってやつですよ)」
ハハハッと一人カラ笑いする尾方は、思い巡らすついでに一つのことを思い出した。
「(そういえば最初にここに来たキッカケは...)」
すると、尾方一人しかおらず、静寂が広がっていた展望台に、小さな足音が入ってきた。
尾方は振り向き、その来訪者を確認して言う。
「そう、君だったね、メメカちゃん」
そこに現れたのは、新生メメント・モリの協力者にして今は亡きメメント・モリ技術局長の娘。
葉加瀬 芽々花だった。
②
ある日、一人の幼い少女が思った。
こんな所に居たら、お父さんもお母さんも、近いうちに必ずいなくなってしまう。
そんな場所が嫌だった。そんな組織が嫌だった。
少女は、少女に好くしてくれる人々が、パッと目の前からいなくなるこの場所が、
堪らなく嫌だった。
でも、少女の願いに反して、皆は笑って言う。
夢に殉じると。
少女には理解できなかった。
少女は怖くなり、少女は焦り、
堪らず、自分に出来る全てを投じて、親の真似事をした。
『自分の望んだ事の出来る道具を作ること』
少女は望んだ。戦いの終わりを。
少女は望んだ。皆の無事を。
そんな道具が出来ると、信じて疑わなかった。
だが、いつも考えていたことは、その望みを上回る。
少女は無意識に望んでしまった。
この場所の終わりを。
故に出来たのは、作った少女のスケールに合うくらいの、
この場所を吹き飛ばす程度の爆弾だった。
丁度それが出来たタイミングだった。
少女の父親が部屋に入って来たのは。
少女は慌ててそれを隠そうとし、思わずそれを床に落とした。
無機質な電子音は、少女が設計した爆発の合図。
その一瞬は、
少女が、自分で望んだモノの意味に気づくのには十分な時間だった。
頭が真っ白になった少女は、その時を待つように静止する。
だが、強く後ろに体が引っぱられ、意識を戻される。
後ろに倒れながら少女が見たのは、少女の望みに覆いかぶる、一人の青年の姿だった。
③
「あ、え? 尾方のおっさん? なに、してるんスか...? こんなところで...?」
展望台に姿を現した葉加瀬は、尾方の姿を観て困惑の表情を浮かべていた。
尾方はタバコを消して携帯灰皿に入れると、いつもの調子で話しかける。
「やっほ、メメカちゃん。こんな所で会うなんて奇遇だね。おじさんかい? おじさんはお散歩だよ」
休暇貰っちゃってねーっと尾方は振り返り、町を眺める。
「......そ、そッスか」
それだけ言うと葉加瀬は押し黙ってしまう。
すると、尾方は独り言のように語り出す。
「懐かしいなぁ。ちょうどここに初めて来た時のことを思い出しててさ。覚えてる? メメカちゃんが初めて家出した時のこと」
「......」
黙する葉加瀬に構わず尾方は続ける。
「いやー、あの時はおじさんも若かったよね。技術局長の命令無視して飛び出したりしてさぁ。いま考えると総毛立っちゃうよ」
「......」
「でも今は後悔してないよ。おじさん不器用だから、上手にメメカちゃんの役に立てたかどうか、当時は分からなかったけど」
「......」
「あの組織嫌いだったメメカちゃんが今、メメント・モリに協力してくれてるっていう現状を見てると。やっぱり間違ってなかったって思う」
「......」
「おじさん片腕になっちゃったけど、メメカちゃんもいるから、これからも頑張って行こうかなって元気が貰えるよ」
「......ッ」
「だから――」
そこまで言って尾方が振り返ると、そこには目一杯に涙を貯め、今にも泣き出しそうな葉加瀬の姿があった。
尾方はこれでもかと慌てる。
「ど、どどどどうしたのメメカちゃん!? 目にゴミ入った? おじさんの昔語り痛かったかな?」
すると震える声で葉加瀬は言う。
「なんで...なんでおっさんは怒ってくれないんスか...? 私さん...私、これで二度目ッスよ...? おっさん傷つけるの...」
少女の頬を涙が濡らす。
「覚悟して来てたんス...今回は...おっさんが傷ついても...泣かずに着いて行って...役に立つって...あの頃とは違うって...」
二筋、三筋と涙が溢れ出す。
「でも...また...私のせいで...尾方さん、腕亡くなっちゃって...ねぇ...私駄目ッス...駄目駄目ッス...尾方さん...怒って...怒ってください...」
腕で涙を拭って言う。
「私が...! 二度とこんな事しないように...! 二度とこんな場所に来ないように...! あの時の分まで...!」
そう、あの日、少女は、完膚なきまでに折れていた。
全てを諦めるには、十分な結果を出してしまっていた。
しかし、耐えられず、逃げ出した自分を捜しに来たのは、
あの場所から消えてしまったはずの人で、
その人は、私の手を引いてあの場所まで私を戻してくれた。
あの場所から居なくならないその人。
その事実だけが、私の中に強く印象付けられた。
それだけで、嫌いな場所を少しマシに感じることが出来た。
それだけで、暫く会えなくても、あの場所に戻り、役立てる自分になろうと頑張れた。
しかし、今度は、その絶対的な、居なくならないその人の、片腕が帰ってこなかった。
必ず居るその人は、居なくなる、その片鱗を覗かせた。
その事実は、少女をあの日、この町を眺めた少女に戻すには十分だった。
少女の方をジッと見る尾方。
ふぅっと一息着くと、少女の目の前まで歩く。
スッと上げられた右手に、少女は一瞬ビクッとするが、
その手は、優しく、とても優しく少女の頭に置かれた。
「ごめんね。おじさん、そのお願いは聞けないな。だって...怒れないよ、こんな優しい子」
「へ...?」
「メメカちゃんみたいな利口な子が気づいてないわけないんじゃない? メメカちゃんがいやに気にしてるらしい二件の事故には、共通した事がある」
「共通した...こと...?」
葉加瀬は鼻を啜って聞き返す。
尾方は優しく笑って語り出す。
「なぜそれをしたのか。動機だよ。一回目の爆弾をなぜ作ったのか? おじさん知ってるよ。爆弾はあんな顔して作る物じゃない。皆のためを思って、メメカちゃんは手を動かしていた」
「そ、それは...」
「二回目なんて明確じゃない? 口にしてたよね。組織の今後のために有意義だって。それにこの腕がなくなったのは他の誰でもない。僕の責任だ」
「で、でも...そんなこと言っても...結果...尾方さんは...」
「そんなことじゃない。一番重要な部分だよメメカちゃん。誰がため...何かを想って作ったもの、行動が...もし裏目に出たとしても。その根底は覆らない。その想いは変わらない」
「......ッ!」
「結果、悪いことが起きてしまったとしても、メメカちゃんが気にすることじゃない。動機を想い、結果を飲み込むのも...大人の役目なんだからさ」
尾方は優しく葉加瀬を撫ぜながら言う。
「だから、おじさんが言うのは感謝だ。ありがとうメメカちゃん。組織を、皆を想ってくれて。気づかないことに気づくメメカちゃんは、さぞ苦労するだろうけど今後もよろしくってね」
そしてそのあと、尾方は付け加える。
「あ、でもそれ以外の件で一件怒る事あったぞ。最初に、ヒメがおじさんを追いかけてた際に、ナビしてたのメメカちゃんだったでしょ? あれ大変だったんだからね? 的確すぎてさー」
葉加瀬は、撫ぜる尾方の右手に手をそっと置いて、「ごめんなさい...」と一言言うと、また泣き出してしまった。
暫くして、泣きつかれた葉加瀬は展望台のベンチに腰を掛けていた。
そこに、少し離れていた尾方が近寄る。
「はい、メメカちゃん。温かいお茶だよ。落ち着いたかな?」
近くの自販機まで行っていた尾方が買ってきたお茶を渡して隣に座る。
「何から何まで申し訳ないッス。尾方さん...」
目を腫らした葉加瀬が弱々しく言う。
「おっさんでいいよ。気に入ってる」
尾方は笑って言う。
葉加瀬は少し俯いて言う。
「ありがとうッス。尾方のおっさん...」
尾方はニッと笑う。
「どういたしまして」
葉加瀬もたどたどしく笑うと、お茶を一口飲む。
「しっかし、偉そうに見当違いのこと言ってたらごめんね? 昔思い出して少し熱血入っちゃったかな?」
尾方が照れくさそうに言う。
「いえ、助かったッス...色々気づきがあったッス。ただ...」
葉加瀬が少し言葉尻を濁す。
「ただ...?」
尾方が促すと、
「おっさん。私のこと過大評価しすぎッス。私は皆とか組織とか、そんな大きな事なんて考えられるほど大きな器を持ってないッス」
「あっはっは、それは謙遜だなぁ...でも、もしそうだとすると何を想ってたんだい?」
葉加瀬は俯いて口をダッフルコートの中に入れると、小さな声で「鈍感...」と呟いた。
「え? ごめん? なんだって...?」
尾方が聴き返すと、
「世界平和ッスよ」とニカっと口を出して笑った。
尾方は笑って、
「そりゃあいい」
と言うと付け加えて言う。。
「そいえばメメカちゃん気になってたんだけどさ。そのコートどしたの? 昔は着てなかったよね?」
中々デリカシーの無い質問であるが葉加瀬は気にせず言う。
「お洒落ッスよオシャレ。こういうのが若い子の間で流行ってるんスよ?」
葉加瀬はバッと立ち上がると全身が見えるようにポージングをして言う。
「そなの? 進んでるなぁ若人は。でも、おじさんは前のジッパーぐらいは開けていいんじゃないかなって思うよ。メメカちゃんの可愛いお顔が見えないのは勿体無い」
ポージングのまま固まった葉加瀬は少し考えると、
「じゃ、じゃあ...」
と前のチャックだけ開けて再度ポーズをとる。
「ど、どッスか?」
今度固まるのは尾方の番であった。
葉加瀬はコートの下にTシャツとショートパンツを着用していた。そこまではいい、そこまでは良かったが。
最近の子の発育って凄い。
尾方はなんとかその言葉を呑みこみ。
葉加瀬のチャックを首元まで上げると、
「か、可愛いけどもう夜も冷えるし、ココ位まででいいんじゃないかな?」
と言ってそそくさとベンチに座り込んだ。
その心知ってか知らずか。
葉加瀬は微笑むと、
「そうするッス!」
とそのまま尾方の隣に座り、尾方の頬にお茶を当ててからかいだした。
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