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第二章『中年リベンジャーと物好きコープ's②』
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前回のあらすじ
中年、深夜徘徊開始。
①
「はいはい皆さんこんばんわ。絶賛爆睡中の私さんこと葉加瀬でございますッス」
「生き急いでる...いや、死に急いでるのか。まぁそのおっさんが深夜にもかかわらずシャングリラに入ろうとしてるってんで急遽開催するッス」
「出張版!葉加瀬のなぜなにシャングリラのコーナー!」ドンドンパフパフ
「今回はそう、ずばり、シャングリラってどんなところ? どうやって行くの? ってお話しッス」
「この世界では日常に溶け込んでおり、日夜の報道から、ついすぐそこ、隣にあるような感覚に囚われるシャングリラッスけどその実、私さんたちが住む世界とは【違う場所】にあるッス」
「それは遠いとか、近いとかそういう距離的な話をしてるわけではないッス。空間的な意味でこことは【ズレた】場所に存在する神様のおわす土地。それがシャングリラッス」
「広さは、ほとんど私さん達人間が住む上元町と同じ大きさになっているッス。地形・特色は場所によって様々で、中には神の力の一端が味わえるなんでもあり空間なんかもあるッス」
「次に天使と悪魔の勢力図ッスが、これは日夜変化してるッス。でも基本的には南側に行くほど天使が、北側に行くほど悪魔が強い勢力を持ってるッス」
「ちなみに勢力図の真ん中、この勢力の境目をシャングリラ戦線と呼んでるッス。最近は後退と前進を繰り返してジワジワと悪魔側が圧されてるって言うのは昼も話したとおりッス」
「次に行き方ッス。シャングリラには上元町の中央にある駅。上元駅から電車で行くことが出来るッス。無論、シャングリラへ行く列車に乗れるのは天使と悪魔だけッス」
「また天使と悪魔で乗る列車も違うッス。行き先が違うッスからね。これ間違えたら大事件なんで大変注意が必要ッス。各々の列車の行き先はそれぞれ神様のお膝元。最南端と最北端ッスからね」
「お膝元。つまり拠点に着いた悪魔は自分の所属する組織の基地に向かうのがほとんどッス」
「そのままシャングリラ戦線に殴りこみに行くバーサーカーや、組織に所属せずウロウロする根無し草も時々いるッスけどそれは例外ッス。ちな尾方のおっさんはこの後者ッス」
「天使は丸々で一組織なので、拠点に着いたら、自分の所属先の担当地区へ各々向かうッス」
「基本、悪魔のような単独行動や根無し草は存在しないと考えて間違いないッス。ただ大天使級の天使達は例外ッス。彼らはどこにいるかなにをしているかも不明なので」
「とまぁ大体、概要はこんな感じッス」
「なんか難しいし面倒だなって思う人は、【ある場所】は自分から見てゲームの世界。そこに行ける電車で出社してるって考えればいいッス」
「いいッスねぇーゲームの世界。行ける電車ないッスかねぇー」
「とまぁ夢の中で夢の話を語ったところで私さんのお話はおしまいッス」
「次は起きてる時にお会いしましょう。アデューノシ」
はい、説明ありがとう。
たった今、解説があった様にシャングリラには駅を介して電車で行くこととなる。
もちろんこのやつれた中年にも例外はなく。駅のホームで電車が来るのを新聞を読みながら待っていた。
「ふーん、悪魔劣勢ねぇ。確かにどこの新聞読んでも載ってないなぁ。確かな情報だとしたら新聞だけじゃ時代遅れ呼ばわりされるわけだなぁ...」
ふぅっと新聞をしまった尾方は着いた電車に乗り込む。
天使の電車と違い、悪魔の電車は空気が悪い。なんたって皆が皆味方ではないのだ。
同じ陣営に属した他の組織の人間は敵対していないだけで味方ではない。
当然この電車内も非戦当地区となっており悪魔達は暗黙のルールとしてここで知り合いを発見しても名前等の個人情報を出さない。
悪魔の情報は各組織にとっても貴重かつ有用な交渉材料になる。安易にこの場でそれが露呈することを各組織が良く思っていないのは言うまでもない。
故に、この悪魔の車両には常に緊張感のようなものが付きまとうのだ。
「(はぁ、今日も今日とて一人も欠かさずピリピリしてるなぁ...)」
尾方はこの空気が昔から苦手だった。故に新聞等で顔を覆い、終点までやり過ごすのがいつもの尾方の回避方である。
今日もその方法でやり過ごそうと新聞に手を伸ばしたその時、
「よぉ、偶然ってのはあるもんだなぁ?」
正面に座る男に声をかけられた。
反射的にその男の顔を見た尾方は絶句する。
包帯でグルグル巻きになっていて判断し辛いが、
そこにいたのは、つい先日尾方巻彦と死闘を繰り広げた快血の天使。
血渋木昇で間違いなかった。
「...やめて? 本当やめて? これ以上おじさんに面倒を巡り合わせないで?」
頭を抱えて周りの様子を伺う尾方。
それもそうだ。彼は風貌、性格は置いておいてれっきとした天使である。
周りに知れれば非戦当地区とはいえ大事件である。
直前まで話していた自分も無関係とはいかなくなるだろう。
幸いこの車両は空いており。周りにはあまり悪魔はいなかった。
だが最悪の事態を避けるべく、小さな声で尾方は抗議する。
「君なにやってるか分かってんの? 乗り間違えたって言うならおじさんが何とかするから大人しくしてて?」
「なぁーに言ってんだよ? 乗り間違いなわけねぇだろ? 俺は、自分の意思でここにいて。悪魔の本拠地に突っ込んでんの」
「なんだってそんなことするの? 若さか! いいね! でも限度があると思うのおじさん!」
「俺だって出来ることならこんなこたぁやりたくねぇよ。でも仕方がねぇだろ。天罰なんだからよぉ」
最初に出遭った時と違いどこかけだるげな印象の血渋木。OFFはこうなのだろうか。
「天罰? もしかしておじさんとの一件?」
「そうだよ。流石に今回はお上さんも見逃せなかったんだろうよ」
はぁ、っと心底面倒くさそうに頭を掻く血渋木。
天罰とは、神から天使に命じられる罰則のペナルティである。
決められたルールを破った天使は神より直々に一つ課題をだされ。その完遂を持って任に戻るのである。
「えぇ、善の神様って厳しいんだねぇ。悪魔の列車に乗るような天罰でしょう?」
「まぁ、今月四回目だし。流石に堪忍袋の緒が切れたのもな」
「君が悪かったかー。優しいんだね善の神様」
「いや、お前が悪い。手ぇ貸せ」
「冗談でしょ? 髪の毛一本も貸さないよおじさん」
「見返りがある」
「へぇ、一応言ってみて?」
「この電車内で俺と殺り合わなくてよくなる」
「...それ君にメリットある?」
「お前と心中出来るならありあり有るな」
頭を掻いて少し考える尾方。やがて観念したように溜息を吐く。
「ハァ...なにすればいいの?」
「俺の天罰は悪の拠点からシャングリラ戦線までの徒歩横断。その間に遭遇した天使を何とかしろ」
「...なんで天使? 悪魔でしょ普通?」
「いいだろ別に、色々あんだよ」
ふむ、っと一考する尾方だったがすぐに顔をあげて
「まぁそれならいいよ、受けよう。どうせ天使に出遭ったら戦闘は避けられないし。ここで暴れて欲しくないしね」
「なんだよすんなりだな。暴れ概のねぇ野郎だぜ」
「それに個人的に君には興味があるしね。どうせなら話しながら行こうよ。随分【ウチ】に、詳しそうじゃない?」
尾方の声色が少し低くなる。
「ハッ、そっちのが似合ってるぞ狸じじい。無理に飄々とする意味がわからんね俺は」
「どっちも素だよおじさんはね。君だってオンとオフで随分感じ違うじゃない?」
「楽しいことやってるときは誰だって元気なもんだろうが。天罰なんか受けてなかったら俺だって元気だっての」
「へぇ、意外。世間体とか気にするんだねぇ」
「馬鹿、世間なんざどうだっていい。神様に怒られるのが癪なんだ俺は」
「...信仰深いんだねぇ」
「お前よりはな。行くぞ」
ここで電車は終点に着き、二人はドアからホームへ降りる。
「そうでもないと思うよ」
小さな声で呟いた尾方の声は、ホームの喧騒に呑まれて消えた。
②
ここはシャングリラ、悪の最北端。
名を逢魔駅。悪の神の座る場所にしてシャングリラの悪の出発点。
その様相は悪によく似合う荒れ模様である。広さは兎も角、この駅から喧騒と騒ぎが納まることはない。
日夜、悪魔が最も多い場所である。そんな混沌がもっとも普通の光景なのだ。
そんな場所に。
そんな場所に舞い降りたるは。
血濡れの敬虔な天使。
彼は、ニヤリと嗤う。
横にいた尾方が察する。
「(あ、仕事モードだ)」と。
「ねぇ血渋木君。一応確認なんだけど。今回の約束内容に悪魔と戦うってのは入ってないよね?」
「無論言ってねぇからな。だがよぉ、巻き込まれは自己責任な」
「あちゃー...」
頭を抱える尾方。
頭を振り上げる血渋木。
「俺様の名は血渋木 昇!! 戒位三百十二躯!!! 快血の天使だ!!!!」
雷が落ちたかのような衝撃と音で叫ぶ血渋木。
「あー、戒位落ちたんですねー...」
尾方は声の大きさに隣で目がチカチカしている。
周りの悪魔達は一瞬呆気に取られていたが、直ぐに血渋木、あと尾方を取り囲む。
一際大柄な悪魔が腕を鳴らしながら苛立ちを隠さず言う。
「おいテメェ。冗談でも許されねぇぞ。一応聞くが目的はなんだ?」
血渋木はだらんっと脱力した肩で嗤って返す。
「【シャングリラ横断】だ。テメェらの血でずぶ濡れになって誇らしく神様のところに帰還すんのさぁ!」
物怖じ一つせず天使は嗤う。
ちなみに尾方は横でホールドアップしている。
「大した度胸だ天使様。そんな苦労しなくても俺が【お前ら二人】の首だけ持って神様に届けてやるよぉ!!」
男が声を荒げたのを皮切りに周りの悪魔が一斉に襲い掛かってくる。
「あ! やっぱりおじさんも入ってるのね!?」
尾方は泣き言を言いながら向かい来る悪魔を流れるように三人いなして囲みを一つ抜ける。
後ろから既に返り血に塗れた血渋木がグンっと抜けてくる。
「おう! 二手に分かれんぞ! 外で待ち合わせな!」
「この状況で待ち合わせ!? 待つも待たせるも不可能でしょ!?」
「確かに男同士で駅前待ち合わせって見目良くねぇなぁ!」
「なに言ってんの!? もうやだこのネジ飛び天使!! おぶぇ!!?」
尾方が巨大な鉄球に飛ばされたのを皮切りに二手に分かれる二人。
「いや、二手って言うか二世に分かれちゃってるからね? おじさん今ので普通に死んだからね?」
壁に鉄球ごと叩きつけられた尾方は立ち上がりながらブツブツ文句を言っている。
「なんだこいつ? 死んでねぇのか?」
鉄球をぶつけて来た悪魔が近づいてきながら言う。
「ちゃんと死んだよ。観察力無いって組織内で言われてない君?」
やれやれと流れた血を拭いながら尾方は挑発する。
「なんだとテメェ! ぶっ殺して...」
パァン!!
悪魔が挑発に乗ってもう一歩踏み出した瞬間、
乾いた破裂音のような音が響く。
「はい一対一。どうてーん」
それは間合いに入った悪魔の顎を尾方が蹴り抜いた音だった。
「テメェ何者だ!?」
周りの悪魔がざわつく。
「悪魔に名乗る名なんかないよ。それよりこっちばっかり見てていいの? 後ろの快血の天使さんに切り刻まれちゃうよ?」
その言葉に一斉に悪魔は背後振り向く。そこには。
誰もいなかった。ベタなブラフだったが、全員が全員既に尾方のペースに呑まれていた。
「誰もいねぇじゃねぇかてめ...!?」
もう一度尾方の方を向いた頃には尾方はすっかり姿をくらましていた。
「この状況で一瞬で消えやがったぞ!」
「バカ!正装だ! 攻撃がくるぞ!」
「クソ! やってられるか!」
悪魔達は尾方を捜す者とこの場から逃げようとする者でごったになりちりじりに散っていった。
暫くしてその場に誰もいなくなった頃、
「はぁ、協調性なんて言葉も知らなそう...」
転がった巨大鉄球の裏に寄りかかっていた尾方が溜息混じりに出てくる。
パンパンッと膝の砂を払った尾方は、変装のつもりなのか鉄球悪魔がかけていたサングラスを奪って駅の出口へ歩く。
「逆に目立つよそれ」とは誰にも言われないのを良い事に尾方は口笛交じりにその場を去っていった。
③
「逆に目立つわよそれ」
意気揚々と悪魔の巣窟を抜けた悪魔の尾方を待っていたのはまた悪魔だった。
「むせる」
「なにがよ。失礼しちゃうわもう」
しかもオカマだった。
端正な顔つきだがどこか化粧が濃い男オンナが、駅の出口へ向かう尾方の前に立ちはだかっていた。
「おにい...おねえさん? なにか御用かな? こう見えておじさん忙しくてさぁ」
「知ってるわよぉ。だから手伝ってあげちゃおうと思ってここで待ってたのん」
「...なんの手伝いかな?」
「モチロンここの脱出よぉ。ただし理由は教えない。これが条件になるかしらん」
「怪しいなんてもんじゃないねぇ。ここまで怪しいともう逆にほいほい着いて行きたくなっちゃうなぁ」
「あら、約束が必要ならここでするわよ。『私、搦手 収は尾方巻彦に一切の手出しを行いません』ってね」
「名は体を表すって言うよね?」
「言葉より行動が大切とも言うわよね?」
「知らない人に着いて行くなってオヤジが行ってたし」
「やだわん、もうお互いに名前も知ってる中じゃない?」
「僕、おねえさん苦手かも...」
「あら、私はおにいさん気に入ったわ。特別に私のことはオサムちゃんって呼んでくれていいわよん」
「あー...」
尾方の背中がゾワッとする。尾方にも苦手なものはもちろんある。
そのひとつがこれ。手八丁、口八丁でどうにもならないタイプの人間である。
こうなると尾方は素直である。慣れ親しんだ後は野となれ山となれモードに入ってしまう。
「じゃあ、よろしくお願いします...」
「んぅオッケー! 着いてきなっさーい!」
意気揚々とスキップする搦手とトボトボ着いていく尾方。
搦手はスイスイと人通りの少ない経路を既に知っていたかのように進んでいく。
まるで初めから今日尾方を案内するために準備していたかのように。
流石に疑問に思った尾方が道すがら口を挟む。
「流石に聞かなきゃだと思うから余計な詮索するんだけどさぁ。僕の事どこまで知ってるの?」
「あら、条約違反にならないように気をつけて質問を投げてるのね。好感持てるわぁん」
「話したくないってんなら別にいいんだけど一応ね」
「ふふ、慎重なのね。いいわ、教えてあげる。答えは貴方という悪魔以外全く知らないが正解」
「ふぅん、僕を僕だと知って手助けがしたいなんてますます気になるなぁ」
「お互いにメリットになることなのよ。心配しなくても近いうちに分かるわ」
ふぅんっと尾方が口を閉じると、逆に搦手が口を開く。
「じゃあ次はこっちの番ね。貴方の目的はなんなの? なにがしたくて毎夜シャングリラを訪れているのかしら?」
「あら、そこまでは分かってないんだ。これは有用な手札なのかな?」
「いいえ、これは単に私の個人的な疑問だからそこまでではないわね」
「へぇ、じゃあこの道案内は個人的では無いなにかなわけなのかな?」
「どうかしら、誰だって自分の中にある目的の在り処を明確に分けることは出来ないものでしょう?」
「違いないねぇ」
そうこう話しているうちに駅の出口が見えてきた。
「あらら、あそこもう出口じゃない? 本当におじさん襲わなくていいの?」
「モチのロンよ。手出ししないって約束したじゃない。私は義理堅い悪魔なのよん」
「そりゃどうも。助かったよオサムちゃん。また機会があったら会いましょ。...本当にいっちゃうよ?」
不安そうに行く道を指差す尾方、それを見て搦手は笑う。
「大丈夫だってば。こんなところで【手の内】を明かしたりしないわよ」
搦手は握った右手を左手で隠すようなジェスチャーをする。
「でもそうだわねぇ。一つだけいいかしら?」
「ん――」
「【どかん】」
そう言いながら搦手が閉じていた右手を開く。
その瞬間、凄まじい轟音と共に地面を削りながら現れた電信柱が尾方がいる場所を吹き飛ばした。
そこは大量の降ってきた瓦礫と砂埃でなにも見えなくなる。
「これぐらいはいいわよね。私だって私的な目的があるし」
砂埃を眺めながら搦手はパンパンと手を払う。
「生きてても死んでても会話出来るでしょう? どうだったかしら? 今の見えた?」
――――。
ビュン!!
すると砂埃の中より石礫が一線を描くように搦手目掛けて飛んで来た。
「あら?」
スゥっと搦手はそのこぶし大の石を手の内に収める。
「意外だったわね。避けるなんて」
砂埃が晴れてくるとそこには流血すらしていない尾方が立っていた。
「それが権能かい? よし、これで対等かな。名乗っていいよ?」
ヒラっと左手の手のひら搦手に見せて尾方は挑発する。
「正直驚いたわ。噂以上なのね貴方?」
挑発は意にも介さず賞賛の言葉を送る搦手。
「やだな、どんな噂? おじさんそういうので簡単にナイーブになっちゃうんだよねぇ」
それを見ると臨戦態勢に入ってたかのように見えた尾方が、スッといつもの感じに戻る。
「ふふ、面白い悪魔ね。私に敵意がなかったとして、攻撃したことは咎めなくていいの?」
「いいよ。ギリギリかわせる弾を選んで撃ったオサムちゃんに免じて許してあげよう」
それを聞くと搦手はクスクスと笑う。
「ふふふ、さっきの挑発より私には効果的よそれ。また必ず逢いましょう」
「心配しなくてもおじさんとは死んだってまた会えますよ。どっちかでね」
搦手は「違いないわね」と笑いながら尾方に背を向ける。
「手中の悪魔。搦手 収よ」
「ん、屈折の悪魔。尾方 巻彦」
「ふふ、忘れないわね」
そういうと右手を開き、さっきの石を空中に放った。
尾方が一瞬その石に意識を向けたその後、搦手 収の姿はすっかり消えていた。
「はぁ、死ぬかと思った...悪魔ってのはこう、なんで狂気割り増し連中が多いんだろうねぇ...」
周りを軽く見渡した尾方はトボトボと駅の出口を潜って行った。
「おせぇ」
約束の駅前では血に塗れた天使が待ちぼうけを食らっていた。
これでもかと言うばかりに身体は血だらけである。
「ごめんごめん、曲がり門でオカマにぶつかっちゃって。しかし君も律儀だよねぇ。わざわざ待たずに先にいっちゃえばいいのに」
謝礼のつもりか尾方はどこから取り出したのかコーヒー缶を血渋木に投げる。
黙って缶をキャッチした血渋木はその場で直ぐ開けて飲み始める。
「そりゃこっちの台詞だ。あのまま逃げればよかったなかったじゃねぇかよ? 悪魔さん? ...苦いなこれ」
どうやら天使は甘党のようだ。
「それもそうだねぇ。君は悪魔の才能があるよ血渋木君」
「お前は悪魔向いてねーな」
「...かもね」
少し俯いて答える尾方はどこか遠い目をしていた。
血渋木が缶コーヒーを飲み干したのを合図に二人は駅を後にした。
目指すはシャングリラ戦線。
奇妙にも天使と悪魔が肩を並べて歩く風景を、月も真上から見下ろす。
夜はまだ更けない。
④
「メメント・モリのこと。どこまで知ってる?」
尾方の道案内に沿ってシャングリラを目指す二人、
その道中、不意に尾方が血渋木に質問した。
「ああ? なんで?」
血渋木は声色からも分かるほどに不愉快そうに返事をする。
「いや、先日さぁ。いやにメメント・モリのこと敵視してたじゃない? なんでかなーって」
「天使が悪魔の組織を敵視するのは普通のことだろうが」
「そりゃあ普通だけど。アレは、それだけじゃなく特別なものにも見えたからさぁ」
チッっと舌打ちした血渋木は振り返る。
「知らねぇのか? 神様から通達が来てんだよ。メメント・モリの生き残りを狩れってよぉ」
尾方は口をきゅっと閉めたがすぐに溜息交じりで言う
「...薄々感じてはいたけどね。はぁ、やっぱりそうなのね」
「なんだよ? 心当たりがあるのか?」
「ないこともないけど。君には教えられないかなぁ。またいつ敵対するかわからないからねぇ」
「いや、いまも敵対してっけど?」
「...もう三歩ぐらい離れて歩かない?」
尾方が言葉通り数歩後ろに下がったその時
『ピピピピ!ピピピピ!』
尾方のポケットから不意にけたたましい電子音が鳴り響いた。
「うわぁ!? なにぃ!?」
「おま...マナーモードにしとけよ! これだから悪魔は...」
苦言を呈する血渋木を尻目に慌てた様子でポケットからなにかを取り出す尾方。
「なにこれ!? 僕の携帯こんなじゃないんだけど!? 誰の!?」
「いや知るかよ...とりあえず出てみろようるせーし」
「パカパカするやつじゃないんだけど? どうやって出ればいいの?」
尾方の手にはスマートフォン風の電子機器があった。
「いやガラケーってお前...しかしうるせぇな貸してみろ」
尾方の手から電子機器を奪い取った血渋木はおもむろに画面をタッチする。
すると
『あ、もしもしおっさ......誰ッスか貴方』
『ぎにゃああああ!! 天使ぃぃぃぃぃぃ!!』
電子音より数倍けたたましい叫び声が電子機器から発された。
「うわ! 超うるせぇ!!」
思わず電子機器を投げ飛ばす血渋木。
慌ててそれをキャッチする尾方。
「おっとと、その声。ヒメとメメカちゃん? なにこれ? どうなってるの?」
画面を覗き込むとそこには葉加瀬の姿があった。
『おお、おっさん! 捜したッスよ! これは私さん特製おっさん用簡易通信機【OGフォン】ッス。それよりなんなんすかさっきの人。姫子さん逃げちゃったんスけど?』
画面の後ろの方に部屋の隅で座布団を被って小さくなっている姫子の姿が確認出来る。
完全にトラウマになっているらしい。
「あー、彼は色々あって共闘中の天使、血渋木君。血みどろだけども血よりも熱い熱血漢ダヨ」
「刺すぞ?」
「あー...これは彼の故郷の言葉でこんにちわって意味でね?」
『そ、そうなんスか? て、そんなことよりおっさん! 勝手にシャングリラに行くなんてなに考えてるんスか!』
『そうじゃぞ尾方! ワシは心配で心配で! あとその天使と共闘なんて信じぬぞ! ありえぬからな!』
やっとのことで部屋の隅を脱した姫子も加わって尾方を糾弾する。
尾方は困り顔で画面に向かって謝る。
「ごめんごめん、おじさんにとっては夜にシャングリラに行くのが日々のルーチンでさぁ。ふと夜に目が覚めてよくよくも考えずに行っちゃった」
『いや、そんな深夜にお腹空いたからコンビニに行っちゃったみたいに言われても困るッスけど...』
『まぁ、今回はよいが。しかし経緯を説明せよ。なぜ天使と行動を共にしているのか』
溜息をついた尾方は歩きながらこれまでのいきさつを二人に説明した。
その間に尾方は血渋木に三回刺された。
⑤
『いや、尾方が逃げる隙は山ほどあったじゃろ。もう少し上手く立ち回れんのかお主』
「あ、いや、はい...」
『本当ッスよおっさん。共闘関係っていうか普通に脅されてるじゃないッスか。駆け引きとか本当に苦手ッスよね昔から...』
「うん、そうだね、本当だね...」
「お前協力者が女子供って...いや悪魔向いてるわお前...」
「いや、これは...うん、はい...」
尾方巻彦三十五歳、普通に泣きそうである。
ド正論過ぎていつものらりくらり逃法の見る影も無い。
『まぁ、なってしまったものはどうしようもない。気は進まぬがそ、そやつの願いを成就させるしかあるまい』
『そうッスね。もう位置的には目的地まで半分は過ぎてるッスし、さっさと終わらせて帰ってくるッスよ』
「あいよー。これ切った方がいいの?」
『いや、このまま繋げておくのじゃ。適宜、葉加瀬とワシでアドバイスするでの』
『おっさん一人じゃまたどんなトラブルに巻き込まれるか分からないッスから保険ッス』
「おじさんの信頼とは一体...」
『いや、ある意味信頼はされてるッスよ。それよりそのOGフォンのホームボタンを三回連続で押して貰っていいッスか?』
「え、ホームボタン? これ?」
横にいる血渋木に聞く尾方。
「お前なに時代の人間だよ...そうだよそこだよ」
「ありがとう、ここね」
ぎこちない手でOGフォンのホームボタンを三回押すと。
後ろからプロペラが出てきて尾方の手を離れ、ドローンのように宙に浮いた。
「うわぁ!? なにこれ!?」
『これはOGフォン追跡フォームッス。ポケットに入れられても周囲の状況が確認できなくなるんでこの状態で追従させてもらうッスよ』
「へぇー、すごいなこれ。見てみて血渋木君。すごくない?」
年甲斐も無くはしゃぐ中年。
「確かにスゲーわ。ただの女子供じゃないってことか。警戒しとこ」
オンオフがハッキリしている天使。
そうして1天使1悪魔1ドローンのスリーマンセルが完成し、目的地まで前進する。
何事も無く暇だったのか、ふと葉加瀬が血渋木に質問を投げかけた。
『ちょっといいッスか血渋木さん』
「...なんだぁ?」
『一つ気になるんスけど、この依頼。天使からの交戦を請け負うってものだと思うんスけど。つまり血渋木さんは天使に狙われてるんスか?』
「あってるがあってねぇ。天使ってのは原則仲間内の戦闘はご法度だが、天罰中の天使って言うのは天使だが天使じゃねぇ身分になるんだよ。だからそこを狙って襲ってくる同僚がいんだ」
『心当たりがあるんスか?』
「俺は悪魔上がりだからな。星の数ほどあらぁな」
『ん? ハカセ、悪魔上がりとはなんじゃ?』
横から姫子が疑問を挟む。
『所謂、元悪魔の天使ッスね。天使側の受け入れ態勢って大らかなんでよくある話しなんスよ』
『なんじゃその物言いは! 悪魔が下みたいな考え方が気にいらん!』
憤慨する姫子を他所に納得する尾方。
「なるほどねぇ。まぁそんなことだろうとは思ってたけど、大方メメント・モリとの確執も悪魔時代のものなのかなぁ」
「うるせぇ、話し逸らすんじゃねぇぞ。俺は天使になって後悔の一つもしちゃいねぇ。やめる気もねぇ。だからこうやって七面倒な天罰を真面目にやってるんだろうが」
「真面目? 悪魔のおじさんの手借りちゃってるけど?」
「やれること全部やってんだ。真面目だろうが」
「まぁ確かに、君は生真面目だとは思うよ」
「誰が生真面目だぁ? 俺はなぁ...」
血渋木が反論をしようとしたその時、
「トォォォォォォォォォォウ!!!」
耳に障るほどの轟音が尾方達が歩いている路地風のエリアに響き渡った。
声の主は三階ほどのビルの上から飛び降り着地する。
ヒーロー着地である。
ちっさい声で「ヒザイッタ」という呟きが聞こえる。
そしてこちらをビシっと両手の指差し指で指すとポーズを決める。
「見つけたぞ! 悪魔上がりの穢れた天使! 血渋木昇!」
その男は顔が整っているだけにロングのツインテールと真っ白な服が嫌に目立つ奴だった。
唖然にとられている尾方を他所に血渋木は呆れ顔である。
「奇襲もせずに...。ああいうのを生真面目って言うんじゃねぇのか?」
「...ああいうのはバカ真面目っていうんだよ」
尾方も追いつき呆れ顔をする。
こちらを全く気にせず続けるバカ真面目。
「私の名を刻め非道の輩よ! 我こそはダブルツヴァイツインセカンドマークⅡ次男坊! 戒位222躯! 二枚目の天使! 弐枚田 弐樹!!」
なんて?
「なんて?」
私の代わりに尾方が言ってくれた。正直助かる。
「二度までなら言ってやろう! 不逞の輩よ! 某こそはダブルツヴァイドスドゥマークⅡ次男坊! 戒位222躯! 二枚目の天使! 弐枚田 弐樹!!」
なんて?
「なんて?」
「三度目はない!! 無礼者!!!」
『バカ真面目っていうかバカッスねアレは』
端的に葉加瀬が説明してくれる。
うん、それでいいと思う。
「じゃあ、俺あいつの相手してると頭痛くなってくるから任せたぞ尾方巻彦」
ヒラヒラと手を振りながら背中を見せる血渋木。
「ちょ、ちょっと待ってよ。アレとやるの? 天使でいいんだよね?」
「天使だよ天使。お前ら悪魔の宿敵。じゃあな。次会うときは容赦しねぇから」
そういうと血渋木は路地の裏に消えていった。
「あーあ、行っちゃった。もう少し色々聞きたかったんだけどねぇ。しかも変なの押し付けるし...」
恨めしそうに路地を見つめる尾方。
『これ尾方! 天使の前だぞ! 油断するな!』
OGフォンからの姫子の声で我に返った尾方は正面に向き直る。
件の天使は襲い掛かることもせずになにやらポーズを決めている。
「えーっと、弐枚田さん? 攻撃とかしなくていいんですか?」
恐る恐る尾方が尋ねる。
「いや! そっちの名乗りを待ってるんだろう! 早くしてくれたまえよ!」
ビシッと尾方を二本指で指差す弐枚田。動作が一々五月蠅い。
「あ、ああ、ごめんごめん。屈折の悪魔。尾方巻彦。どうぞよろしく」
「ああ! よろしく!!」
両手の親指を立てて歓迎する弐枚田。
これが戒位上位者の天使かぁ...。天使側も苦労してるんだなぁ...。
『のうのうハカセ、疑問だったのじゃが尾方達はなぜ戦う前にお互い名乗り合うのかの? 不意打ちとかし辛くないのかの?』
OGフォン向こうの姫子が葉加瀬に疑問を投げる。
『ああ、あれは儀式みたいなものッスね。起源は神様達の時代にまで遡るらしいいんすけど、戦う前にお互いに名乗りあうことを神様が定めたんスよ』
『まぁ、いまや形骸化してしまっていて、やる人とやらない人がまちまちって感じッス。尾方のおっさんは前者、まず名乗る側みたいッスね。この業界ながいからかな?』
『ほーう、尾方も真面目なところがあるんじゃのー』
「おじさんのは真面目っていうかもう癖みたいなものだけどね。落ち着かないのよやらないと」
皆でわいわいやっている間も弐枚田は攻撃してこない。
「いや、弐枚田さん。別に気にせず攻撃してきていいんだよ? お互い名乗り合ったんだし」
流石に尾方が苦言を呈すると。
「人が話し合っているときに横から妨害するなんて出来るか! 舐めるな!!」
すっごい怒った。
これにはカウンターを狙っていた尾方も正面を向かざるを得ない。
存外戦い難い相手であることを悟り少し苦笑いになる。
「じゃあ、やろうか弐枚田君」
渋々構える尾方。こうでもしないと始まりそうもないからである。
「うむ、我が正装【二つ結び】によって幾度と無く地面に這い蹲らせてやろう」
弐枚田はチャっと懐から二丁拳銃を取り出し構える。
「幾度と無く地面に? そりゃそうだ。いつもの事だよ」
尾方も正装を見て静かに腰を落とす。
ヒソヒソ声でOGフォンに話しかける尾方。
「ほら、メメカちゃんが二丁拳銃はロマンとかいうからおじさんが苦手な飛び道具来ちゃったじゃん」
『いや、私さんは悪くないでしょ。持ち主のせいでロマン要素蒸発してるし。...てかちゃんと聴いてたんスか!?』
「なんかアドバイスとかなぁい?」
『正装なんできっぱりはいえないッスけど、装弾数が少なそうッス。もし狙うならリロードの瞬間ッスね』
『弾数はワシが数えておく、負けるなよ尾方』
「それ、おじさんに言う?」
ボソボソ小さな声で話しているとスッと弐枚田が構えを解いた。
「ふ、尾方くん。私の獲物になると言う逃れられぬ哀れな運命に免じて、前もってこの正装の能力を教えてあげよう」
「そいつはありがたいね。是非とも教えてもらおうかな」
ジリっと半身に構え後ろ足に力を入れる尾方。
弐枚田はおもむろにポケットからコインを出してコイントスの形をとる。
「私の正装の能力はいたって簡単!」
そういうと力一杯コインを真上にトスする。
天使の力である。コインは一瞬で見えるか見えないかギリギリの高さまで急上昇した。
「左手の銃で撃ったモノと右手の銃で撃ったモノの位置を入れ替える能力さ!!」
『! おっさん危ない!』
葉加瀬が叫ぶと同時に二枚田は左手の銃を真上に、右手の銃を尾方に向けて発砲した。
尾方も避けようと横に飛ぶが光速の光弾が正確に二つの的を射抜く。
次の瞬間。尾方がいた場所にはコインがチャリンっと落ち。
尾方は遥か上空にパッと放り出された。
『尾方!』
『おっさん!』
二人の声も届かないほどの上空。
弐枚田はポーズを決めて笑う。
「ハーハッハッハッハ! パーフェクト! 使用弾数2! 今回も弐枚田弐樹に傷はなし!」
両手をバッと広げて指をダブルピースにくるりと回る。
そして最後のポーズに入る。
「フィニーーーーシ
グシャァァア!!!
上空から落ちてきた尾方のニークラッシュがフィニッシュポーズを決める弐枚田弐樹の顔面に落ちてきた。
白目を向いた。弐枚田はピクリとも動かない。
尾方はヨロヨロと立ち上がる。
「...」
『...』
『...』
...。
「いこうか」
尾方はその場を後にした。
⑥
『ところで大丈夫なのか尾方。事故とはいえあんな高さから落下してどこか怪我しておらぬか?』
「ああ、うん。偶然クッションがあったからね。多少節々が痛むけどなんてことはないよ」
何事も無くシャングリラ戦線周辺まで辿り着いた尾方は少し休憩していた。
『しかしおっさん。なぜシャングリラ戦線方面に向かってるッスか? 用事も済んだことだしもう帰っていいんじゃないッスか?』
「いや、折角ここまで来たから少し様子を見ていこうと思ってね。情報は足で集めろって下っ端時代によく言い聞かされててさぁ」
『おっさんの下っ端時代は現在進行形で継続中ッスよ?』
「あら、そういえばそっかぁ」
『尾方が望むのであればNo.2の地位を授けるぞ? どうかの?』
「んー、ないなぁ。パスで」
『そんなカードゲームのような気楽さでパスるでない! 人生のターニングポイントじゃぞ!』
「申し訳ないけどおじさんの人生は真っ直ぐいって途切れての繰り返しなので」
『インク切れかけのマッキーみたいな人生ッスね...』
尾方はおもむろにポケットからコインを取り出してトスする。
『なにをやっておるのじゃ尾方?』
「いや、たまには運任せもいいなぁと思ってね。ここから近いシャングリラ戦線の主要な戦場は二つ。どっちに行くか決めて貰ってたんだ」
『適当ッスねぇー。そんなで命運分けるシャングリラ戦線の行き先を決めていいんスか?』
「いいのいいの。おじさんの命運なんて大凶も裸足で逃げ出す沼の底なんだから。どっち少し見たら帰るつもりだしねぇ」
「さて、表が出たら森林エリア、不治ノ樹海。裏が出たら都市エリアの神宿にしようか」
スッと手を開ける尾方。コインは裏向きを示していた。
「ほい、神宿ね」
そういうと尾方は腰を上げる。いつものように悠長にしている暇は無い。
少し離れているとはいえここはシャングリラ戦線。善と悪の戦争最前線。
世界でもっとも危険な場所である。
一箇所に留まれば留まるほど会敵のリスクが高まる。
【シャングリラ戦線では入って出るまで全力疾走が基本】というのが新人時代の尾方の先輩の口癖だった。
「(僕には駆け足ぐらいが丁度いいと思うッスけどね)」
常々思っていたことを思い出に向かって想う尾方。
『なにを微笑んでおるのだ尾方?』
「ん? いや、思い出って優しいからさ。たまに甘えるんだよね」
『??』
「なんでもないよ。さ、行こうかシャングリラ戦線」
月が少し後ろから尾方を見下ろす。
夜は更け始める。
⑦
『神宿。そこは数あるシャングリラ戦線エリアの中でも極めて現在的な、人工都市の姿をしたエリアッス。所謂コンクリートジャングルッスね。その狭く複雑な地形から両陣営攻めあぐね長い間中立を保っている激戦区ッスよ』
道すがら葉加瀬が今向かっているシャングリラ戦線の説明をしてくれる。
『尾方、そんな激戦区行きをコイントスで決めておったがよかったのか?』
「大丈夫大丈夫、どっちシャングリラ戦線に平和な場所なんてないよ。それに様子みたら直ぐ帰るって」
流石の尾方もここでは駆け足をしながら話をする。
既に現在チックな様相のエリアに入っているので低いビルの屋根から屋根にパルクールさながらにピョンピョン涼しい顔で駆け抜けていた。
『...昔から思ってたんスけど、おっさんいやに運動神経激イイッスよね? 影で特訓とかしてるんスか?』
「まさか? 特訓修行はおっさんからもっとも遠いものだよ。これはいうなれば年の功かな。毎晩シャングリラ来てたらこうもなるって」
『そうかそうか! 流石は尾方じゃな!』
『そんなもんスか? まぁ唯一の戦闘員が強靭なのはいいことッスけど』
「強靭じゃなくて柔軟ね。要は慣れなのよ」
『優柔不断ではあるッスね』
「言葉尻捕まえるにしても無理がないかい!?」
そんなこんなしてる内に辺りに立ち並ぶビルは高さを上げ、たびたび遠くから戦闘音と思われる音が響いてくるようになった。
「さて、もう入ったかな」
ふぅっと一息ついて尾方は辺りを見渡す。
「メメカちゃん、少し飛ばす位置下げて、こっからなにがどうなっても不思議じゃないからねぇ」
『りょッス。おっさんの背中に張り付いて飛ぶッスよ』
ここでは経験値の差があるのも承知のようで葉加瀬も素直に尾方に従う。
『して、尾方の今回の目標はなんなのじゃ? 突発とはいえ新生メメント・モリの初シャングリラ戦線じゃ。なにかしらの成果を期待するぞ』
「そだねー。現在この地区で戦闘している悪魔勢力の確認なんかどうかな?」
『悪魔? 天使ではないのかの?』
「元々この区画はメメント・モリが主力の戦闘地区だったんだ。だから、その後釜を狙ってる組織、ないし収まっている組織を確認したい」
『なるほど、まずは確認しやすい内部からってわけッスね』
「内部でもないけどねぇ。情報収集してるなんてバレたら天使も悪魔も関係ないしココは」
『ハカセからの講義でも聴いたがそんなに悪魔側の組織間は仲が悪いのかの?』
「悪いっていうより元々が別の理念、頭を沿えて集まった別の組織だからねぇ。同盟とか協力をすることはあるけど組織間のいざこざなんて日常茶飯事だよ」
『ふむ、そんなものか』
「そんなものだねぇ。ウチは穏健派だったから内輪もめは少なかったけどね」
そういうと尾方はビルとビルの間の狭い裏路地にベランダや排水溝の管を足場に器用に降りていく。
地面に付くとOGフォンに向かってシーっと人差し指を口の前に持っていき静かにのジェスチャーをする。
『...』
言われたとおりに葉加瀬と姫子は口を閉じる。
服の擦れる音から姫子が大きく頷いていることを察せられて尾方も穏やかに微笑む。
しかし、すぐにスッと裏路地の出口の角に張り付き聞き耳を立てた。
角の先、大通りに数人の悪魔と思われる人影が話し合っていた。
尾方はすぐに手帳を取り出し、ペンのキャップを口で外すと聴こえた単語を片っ端からメモする。
そして話し声の主達が去ったのを確認するとまた裏路地の奥に引っ込んだ。
「ふぅ、随分お喋りな悪魔もいたものだねぇ、お陰で色々聞き出せたけど」
『念のため私さんも録音しておいたッスけど必要なさそうッスね』
「ええ...? そんなこと出来るの? こんな小さいのに凄いなぁ」
『いやジェネレーションギャップ的なのはいいッスけど、なにか有力な情報あったッスか?』
「うん、さっきの人たちが所属してる組織と天使側の話を少しね。録音してるんだったら帰ってから答え合わせしようか?」
『お? いいんスか? ハカセ先生は厳しいッスよ。とめはねはらい、甘いと減点ッスからね』
『ワシもメモしたので一緒に採点よろしくじゃハカセ先生!』
「あ、やっぱりやめとこうか...なんかオチ読めたよおじさん...」
その後、尾方達は同様の手法を繰り返し情報収集に努めた。
「ふぅ、大体こんなところかな。お疲れさまヒメ、ハカセちゃん。そろそろ帰ろうか」
『これ尾方、まだ油断するでない。家に帰るまでが遠足じゃぞ』
「遠足気分だったんだね...」
『あ、帰る前に一ついいッスか? どこかこの辺で一番高いビルの上に行けないッスかね?』
「うん、まぁ行けなくもないけど。 どして?」
『折角ここまで来たので周辺のマップを作りたいんスよ。見渡せれば十分なんで』
「なにそれすごい。そういうことならリスクはあるけど価値が勝るなぁ。ヒメも賛成でいい?」
『うむ、今後の展開のためにも重要じゃな。だが、無理に危険に飛び込む必要もなし。このOGフォンだけで上空に飛んで撮影出来ぬのか?』
『あー、出来なくもないッスけど、帰りの分のバッテリー使い切っちゃうんスよね...おっさんの場合、帰りのが心配ッスし』
『うむ、それは仕方がないの。尾方、面倒をかけるが行ってやってくれぬか?』
「今の会話内容だと面倒かけてるのおじさんっぽく聴こえたんだけど...まぁいいか」
「よし、じゃ、いこうか。少し走るから注意して着いて来てね」
そういうと尾方はまた近くのビルの屋上に上り、駆け出した。
向かう方向より行き先は直ぐに察することが出来た。
眼前に堂々とそびえるはこの神宿一の高層ビル【ト庁】。
その周辺はこの神宿一の激戦区である。
⑧
「...おかしい」
ト庁方面に少し進んだところで尾方が呟いた。
『あ、すまぬ尾方...このビス子が最後の一枚でな...尾方といえど挙げられぬ...』
「もしかして緊迫したこの状況で突然【...お菓子ぃ】って呟いたと思われてる? あともしかしなくてもおじさんがこんなに頑張って走り回ってる中でヒメはお菓子食べてる?」
『気のせいッスよ気のせい。ここ正念場ッスよ? 集中してるに決まってるじゃないッスか? あ、姫子さん。そこのポッキー取って下さいッス』
「隠そうって思うなら思うでもうちょっと頑張ってくれない!? お菓子パーティしてるでしょ君達!」
『バレたら仕方がないッス。申し訳ないのでおっさんも写真だけ額縁に入れて参加させるッスよ』
「ああ! 見える! いい歳したおっさんの葬式にお菓子が供えられてるのが見えるよ!」
『ところでなにがおかしいんスか?』
「え? 全部だよね?」
『いや、おっさんのお葬式のことではなくて、シャングリラ戦線の様子ッスよ』
「あ、そっちか。急に話戻すから首痛めるところだったよ。静かすぎるんだよ...いくらなんでもここまでト庁に近づいて、会敵ゼロ、戦闘音も響いてないってのは普通ありえない」
『まだ少し距離があると思うッスけどそんなもんッスか? まぁ、確かに静か過ぎるとは思うッスねさっきの場所に比べても』
「おじさんがこの辺ウロウロしてた頃はここまで近づくと天使と悪魔が混戦状態だったよ。...念のため下歩こうか」
『りょッス』
尾方の提案通りビルから降りて裏路地を慎重に進む。
その間も特に戦闘音等は聞こえてこなかった。
尾方も首を捻る。
「ここまで静かだとなんか逆に落ち着かないね。ヒメ、なにかお歌を歌ってちょうだいよ」
『よいぞ、津軽海峡でよいか?』
「選曲! 演歌!? さては親父の擦り込みだな...自分の趣味を孫に押し付けるかね普通...」
『静かで落ち着かないならリン○リンダ流すッスよ?』
「二重の意味で隠す気ないでしょ? 一応隠密任務中なんだから...」
『そうじゃの...こぶしは抑え目に頑張るぞ』
「いや、ごめん。演歌はまたの機会にお願いします」
そうして進むうちにト庁前の広場前まで着いてしまった。
「ここまで来てなんにもないってことはもう決まりだね。何事かあってるよここで」
『自分で言ってアレなんスけど、もう帰ってもいいッスよ? ただ事じゃなさそうッスし』
「いや、逆を言うと無傷でここまで近づける機会なんてほとんど無い。ここはGOサインでしょヒメ監督」
『うむ、カットじゃ!』
「それ止めるやつね」
尾方は裏路地からこっそりト庁前広場を覗き込む。
辺りに人影は見えない。
しかし、辺りには激しい戦闘痕が残っていた。
意を決した尾方は裏路地から出て広場に向かう階段に足を掛ける。
その足取りは軽かった。実は尾方には一つ心当たりがあったからだ。
そしてその心当たりは。ト庁入り口の階段中央に腰を掛けていた。
それは、血みどろの。血まみれになった快血の天使。
血渋木 昇だった。
月は後方へ。
空は白さを思い出し始める。
それでも夜は、まだ少し続く。
中年、深夜徘徊開始。
①
「はいはい皆さんこんばんわ。絶賛爆睡中の私さんこと葉加瀬でございますッス」
「生き急いでる...いや、死に急いでるのか。まぁそのおっさんが深夜にもかかわらずシャングリラに入ろうとしてるってんで急遽開催するッス」
「出張版!葉加瀬のなぜなにシャングリラのコーナー!」ドンドンパフパフ
「今回はそう、ずばり、シャングリラってどんなところ? どうやって行くの? ってお話しッス」
「この世界では日常に溶け込んでおり、日夜の報道から、ついすぐそこ、隣にあるような感覚に囚われるシャングリラッスけどその実、私さんたちが住む世界とは【違う場所】にあるッス」
「それは遠いとか、近いとかそういう距離的な話をしてるわけではないッス。空間的な意味でこことは【ズレた】場所に存在する神様のおわす土地。それがシャングリラッス」
「広さは、ほとんど私さん達人間が住む上元町と同じ大きさになっているッス。地形・特色は場所によって様々で、中には神の力の一端が味わえるなんでもあり空間なんかもあるッス」
「次に天使と悪魔の勢力図ッスが、これは日夜変化してるッス。でも基本的には南側に行くほど天使が、北側に行くほど悪魔が強い勢力を持ってるッス」
「ちなみに勢力図の真ん中、この勢力の境目をシャングリラ戦線と呼んでるッス。最近は後退と前進を繰り返してジワジワと悪魔側が圧されてるって言うのは昼も話したとおりッス」
「次に行き方ッス。シャングリラには上元町の中央にある駅。上元駅から電車で行くことが出来るッス。無論、シャングリラへ行く列車に乗れるのは天使と悪魔だけッス」
「また天使と悪魔で乗る列車も違うッス。行き先が違うッスからね。これ間違えたら大事件なんで大変注意が必要ッス。各々の列車の行き先はそれぞれ神様のお膝元。最南端と最北端ッスからね」
「お膝元。つまり拠点に着いた悪魔は自分の所属する組織の基地に向かうのがほとんどッス」
「そのままシャングリラ戦線に殴りこみに行くバーサーカーや、組織に所属せずウロウロする根無し草も時々いるッスけどそれは例外ッス。ちな尾方のおっさんはこの後者ッス」
「天使は丸々で一組織なので、拠点に着いたら、自分の所属先の担当地区へ各々向かうッス」
「基本、悪魔のような単独行動や根無し草は存在しないと考えて間違いないッス。ただ大天使級の天使達は例外ッス。彼らはどこにいるかなにをしているかも不明なので」
「とまぁ大体、概要はこんな感じッス」
「なんか難しいし面倒だなって思う人は、【ある場所】は自分から見てゲームの世界。そこに行ける電車で出社してるって考えればいいッス」
「いいッスねぇーゲームの世界。行ける電車ないッスかねぇー」
「とまぁ夢の中で夢の話を語ったところで私さんのお話はおしまいッス」
「次は起きてる時にお会いしましょう。アデューノシ」
はい、説明ありがとう。
たった今、解説があった様にシャングリラには駅を介して電車で行くこととなる。
もちろんこのやつれた中年にも例外はなく。駅のホームで電車が来るのを新聞を読みながら待っていた。
「ふーん、悪魔劣勢ねぇ。確かにどこの新聞読んでも載ってないなぁ。確かな情報だとしたら新聞だけじゃ時代遅れ呼ばわりされるわけだなぁ...」
ふぅっと新聞をしまった尾方は着いた電車に乗り込む。
天使の電車と違い、悪魔の電車は空気が悪い。なんたって皆が皆味方ではないのだ。
同じ陣営に属した他の組織の人間は敵対していないだけで味方ではない。
当然この電車内も非戦当地区となっており悪魔達は暗黙のルールとしてここで知り合いを発見しても名前等の個人情報を出さない。
悪魔の情報は各組織にとっても貴重かつ有用な交渉材料になる。安易にこの場でそれが露呈することを各組織が良く思っていないのは言うまでもない。
故に、この悪魔の車両には常に緊張感のようなものが付きまとうのだ。
「(はぁ、今日も今日とて一人も欠かさずピリピリしてるなぁ...)」
尾方はこの空気が昔から苦手だった。故に新聞等で顔を覆い、終点までやり過ごすのがいつもの尾方の回避方である。
今日もその方法でやり過ごそうと新聞に手を伸ばしたその時、
「よぉ、偶然ってのはあるもんだなぁ?」
正面に座る男に声をかけられた。
反射的にその男の顔を見た尾方は絶句する。
包帯でグルグル巻きになっていて判断し辛いが、
そこにいたのは、つい先日尾方巻彦と死闘を繰り広げた快血の天使。
血渋木昇で間違いなかった。
「...やめて? 本当やめて? これ以上おじさんに面倒を巡り合わせないで?」
頭を抱えて周りの様子を伺う尾方。
それもそうだ。彼は風貌、性格は置いておいてれっきとした天使である。
周りに知れれば非戦当地区とはいえ大事件である。
直前まで話していた自分も無関係とはいかなくなるだろう。
幸いこの車両は空いており。周りにはあまり悪魔はいなかった。
だが最悪の事態を避けるべく、小さな声で尾方は抗議する。
「君なにやってるか分かってんの? 乗り間違えたって言うならおじさんが何とかするから大人しくしてて?」
「なぁーに言ってんだよ? 乗り間違いなわけねぇだろ? 俺は、自分の意思でここにいて。悪魔の本拠地に突っ込んでんの」
「なんだってそんなことするの? 若さか! いいね! でも限度があると思うのおじさん!」
「俺だって出来ることならこんなこたぁやりたくねぇよ。でも仕方がねぇだろ。天罰なんだからよぉ」
最初に出遭った時と違いどこかけだるげな印象の血渋木。OFFはこうなのだろうか。
「天罰? もしかしておじさんとの一件?」
「そうだよ。流石に今回はお上さんも見逃せなかったんだろうよ」
はぁ、っと心底面倒くさそうに頭を掻く血渋木。
天罰とは、神から天使に命じられる罰則のペナルティである。
決められたルールを破った天使は神より直々に一つ課題をだされ。その完遂を持って任に戻るのである。
「えぇ、善の神様って厳しいんだねぇ。悪魔の列車に乗るような天罰でしょう?」
「まぁ、今月四回目だし。流石に堪忍袋の緒が切れたのもな」
「君が悪かったかー。優しいんだね善の神様」
「いや、お前が悪い。手ぇ貸せ」
「冗談でしょ? 髪の毛一本も貸さないよおじさん」
「見返りがある」
「へぇ、一応言ってみて?」
「この電車内で俺と殺り合わなくてよくなる」
「...それ君にメリットある?」
「お前と心中出来るならありあり有るな」
頭を掻いて少し考える尾方。やがて観念したように溜息を吐く。
「ハァ...なにすればいいの?」
「俺の天罰は悪の拠点からシャングリラ戦線までの徒歩横断。その間に遭遇した天使を何とかしろ」
「...なんで天使? 悪魔でしょ普通?」
「いいだろ別に、色々あんだよ」
ふむ、っと一考する尾方だったがすぐに顔をあげて
「まぁそれならいいよ、受けよう。どうせ天使に出遭ったら戦闘は避けられないし。ここで暴れて欲しくないしね」
「なんだよすんなりだな。暴れ概のねぇ野郎だぜ」
「それに個人的に君には興味があるしね。どうせなら話しながら行こうよ。随分【ウチ】に、詳しそうじゃない?」
尾方の声色が少し低くなる。
「ハッ、そっちのが似合ってるぞ狸じじい。無理に飄々とする意味がわからんね俺は」
「どっちも素だよおじさんはね。君だってオンとオフで随分感じ違うじゃない?」
「楽しいことやってるときは誰だって元気なもんだろうが。天罰なんか受けてなかったら俺だって元気だっての」
「へぇ、意外。世間体とか気にするんだねぇ」
「馬鹿、世間なんざどうだっていい。神様に怒られるのが癪なんだ俺は」
「...信仰深いんだねぇ」
「お前よりはな。行くぞ」
ここで電車は終点に着き、二人はドアからホームへ降りる。
「そうでもないと思うよ」
小さな声で呟いた尾方の声は、ホームの喧騒に呑まれて消えた。
②
ここはシャングリラ、悪の最北端。
名を逢魔駅。悪の神の座る場所にしてシャングリラの悪の出発点。
その様相は悪によく似合う荒れ模様である。広さは兎も角、この駅から喧騒と騒ぎが納まることはない。
日夜、悪魔が最も多い場所である。そんな混沌がもっとも普通の光景なのだ。
そんな場所に。
そんな場所に舞い降りたるは。
血濡れの敬虔な天使。
彼は、ニヤリと嗤う。
横にいた尾方が察する。
「(あ、仕事モードだ)」と。
「ねぇ血渋木君。一応確認なんだけど。今回の約束内容に悪魔と戦うってのは入ってないよね?」
「無論言ってねぇからな。だがよぉ、巻き込まれは自己責任な」
「あちゃー...」
頭を抱える尾方。
頭を振り上げる血渋木。
「俺様の名は血渋木 昇!! 戒位三百十二躯!!! 快血の天使だ!!!!」
雷が落ちたかのような衝撃と音で叫ぶ血渋木。
「あー、戒位落ちたんですねー...」
尾方は声の大きさに隣で目がチカチカしている。
周りの悪魔達は一瞬呆気に取られていたが、直ぐに血渋木、あと尾方を取り囲む。
一際大柄な悪魔が腕を鳴らしながら苛立ちを隠さず言う。
「おいテメェ。冗談でも許されねぇぞ。一応聞くが目的はなんだ?」
血渋木はだらんっと脱力した肩で嗤って返す。
「【シャングリラ横断】だ。テメェらの血でずぶ濡れになって誇らしく神様のところに帰還すんのさぁ!」
物怖じ一つせず天使は嗤う。
ちなみに尾方は横でホールドアップしている。
「大した度胸だ天使様。そんな苦労しなくても俺が【お前ら二人】の首だけ持って神様に届けてやるよぉ!!」
男が声を荒げたのを皮切りに周りの悪魔が一斉に襲い掛かってくる。
「あ! やっぱりおじさんも入ってるのね!?」
尾方は泣き言を言いながら向かい来る悪魔を流れるように三人いなして囲みを一つ抜ける。
後ろから既に返り血に塗れた血渋木がグンっと抜けてくる。
「おう! 二手に分かれんぞ! 外で待ち合わせな!」
「この状況で待ち合わせ!? 待つも待たせるも不可能でしょ!?」
「確かに男同士で駅前待ち合わせって見目良くねぇなぁ!」
「なに言ってんの!? もうやだこのネジ飛び天使!! おぶぇ!!?」
尾方が巨大な鉄球に飛ばされたのを皮切りに二手に分かれる二人。
「いや、二手って言うか二世に分かれちゃってるからね? おじさん今ので普通に死んだからね?」
壁に鉄球ごと叩きつけられた尾方は立ち上がりながらブツブツ文句を言っている。
「なんだこいつ? 死んでねぇのか?」
鉄球をぶつけて来た悪魔が近づいてきながら言う。
「ちゃんと死んだよ。観察力無いって組織内で言われてない君?」
やれやれと流れた血を拭いながら尾方は挑発する。
「なんだとテメェ! ぶっ殺して...」
パァン!!
悪魔が挑発に乗ってもう一歩踏み出した瞬間、
乾いた破裂音のような音が響く。
「はい一対一。どうてーん」
それは間合いに入った悪魔の顎を尾方が蹴り抜いた音だった。
「テメェ何者だ!?」
周りの悪魔がざわつく。
「悪魔に名乗る名なんかないよ。それよりこっちばっかり見てていいの? 後ろの快血の天使さんに切り刻まれちゃうよ?」
その言葉に一斉に悪魔は背後振り向く。そこには。
誰もいなかった。ベタなブラフだったが、全員が全員既に尾方のペースに呑まれていた。
「誰もいねぇじゃねぇかてめ...!?」
もう一度尾方の方を向いた頃には尾方はすっかり姿をくらましていた。
「この状況で一瞬で消えやがったぞ!」
「バカ!正装だ! 攻撃がくるぞ!」
「クソ! やってられるか!」
悪魔達は尾方を捜す者とこの場から逃げようとする者でごったになりちりじりに散っていった。
暫くしてその場に誰もいなくなった頃、
「はぁ、協調性なんて言葉も知らなそう...」
転がった巨大鉄球の裏に寄りかかっていた尾方が溜息混じりに出てくる。
パンパンッと膝の砂を払った尾方は、変装のつもりなのか鉄球悪魔がかけていたサングラスを奪って駅の出口へ歩く。
「逆に目立つよそれ」とは誰にも言われないのを良い事に尾方は口笛交じりにその場を去っていった。
③
「逆に目立つわよそれ」
意気揚々と悪魔の巣窟を抜けた悪魔の尾方を待っていたのはまた悪魔だった。
「むせる」
「なにがよ。失礼しちゃうわもう」
しかもオカマだった。
端正な顔つきだがどこか化粧が濃い男オンナが、駅の出口へ向かう尾方の前に立ちはだかっていた。
「おにい...おねえさん? なにか御用かな? こう見えておじさん忙しくてさぁ」
「知ってるわよぉ。だから手伝ってあげちゃおうと思ってここで待ってたのん」
「...なんの手伝いかな?」
「モチロンここの脱出よぉ。ただし理由は教えない。これが条件になるかしらん」
「怪しいなんてもんじゃないねぇ。ここまで怪しいともう逆にほいほい着いて行きたくなっちゃうなぁ」
「あら、約束が必要ならここでするわよ。『私、搦手 収は尾方巻彦に一切の手出しを行いません』ってね」
「名は体を表すって言うよね?」
「言葉より行動が大切とも言うわよね?」
「知らない人に着いて行くなってオヤジが行ってたし」
「やだわん、もうお互いに名前も知ってる中じゃない?」
「僕、おねえさん苦手かも...」
「あら、私はおにいさん気に入ったわ。特別に私のことはオサムちゃんって呼んでくれていいわよん」
「あー...」
尾方の背中がゾワッとする。尾方にも苦手なものはもちろんある。
そのひとつがこれ。手八丁、口八丁でどうにもならないタイプの人間である。
こうなると尾方は素直である。慣れ親しんだ後は野となれ山となれモードに入ってしまう。
「じゃあ、よろしくお願いします...」
「んぅオッケー! 着いてきなっさーい!」
意気揚々とスキップする搦手とトボトボ着いていく尾方。
搦手はスイスイと人通りの少ない経路を既に知っていたかのように進んでいく。
まるで初めから今日尾方を案内するために準備していたかのように。
流石に疑問に思った尾方が道すがら口を挟む。
「流石に聞かなきゃだと思うから余計な詮索するんだけどさぁ。僕の事どこまで知ってるの?」
「あら、条約違反にならないように気をつけて質問を投げてるのね。好感持てるわぁん」
「話したくないってんなら別にいいんだけど一応ね」
「ふふ、慎重なのね。いいわ、教えてあげる。答えは貴方という悪魔以外全く知らないが正解」
「ふぅん、僕を僕だと知って手助けがしたいなんてますます気になるなぁ」
「お互いにメリットになることなのよ。心配しなくても近いうちに分かるわ」
ふぅんっと尾方が口を閉じると、逆に搦手が口を開く。
「じゃあ次はこっちの番ね。貴方の目的はなんなの? なにがしたくて毎夜シャングリラを訪れているのかしら?」
「あら、そこまでは分かってないんだ。これは有用な手札なのかな?」
「いいえ、これは単に私の個人的な疑問だからそこまでではないわね」
「へぇ、じゃあこの道案内は個人的では無いなにかなわけなのかな?」
「どうかしら、誰だって自分の中にある目的の在り処を明確に分けることは出来ないものでしょう?」
「違いないねぇ」
そうこう話しているうちに駅の出口が見えてきた。
「あらら、あそこもう出口じゃない? 本当におじさん襲わなくていいの?」
「モチのロンよ。手出ししないって約束したじゃない。私は義理堅い悪魔なのよん」
「そりゃどうも。助かったよオサムちゃん。また機会があったら会いましょ。...本当にいっちゃうよ?」
不安そうに行く道を指差す尾方、それを見て搦手は笑う。
「大丈夫だってば。こんなところで【手の内】を明かしたりしないわよ」
搦手は握った右手を左手で隠すようなジェスチャーをする。
「でもそうだわねぇ。一つだけいいかしら?」
「ん――」
「【どかん】」
そう言いながら搦手が閉じていた右手を開く。
その瞬間、凄まじい轟音と共に地面を削りながら現れた電信柱が尾方がいる場所を吹き飛ばした。
そこは大量の降ってきた瓦礫と砂埃でなにも見えなくなる。
「これぐらいはいいわよね。私だって私的な目的があるし」
砂埃を眺めながら搦手はパンパンと手を払う。
「生きてても死んでても会話出来るでしょう? どうだったかしら? 今の見えた?」
――――。
ビュン!!
すると砂埃の中より石礫が一線を描くように搦手目掛けて飛んで来た。
「あら?」
スゥっと搦手はそのこぶし大の石を手の内に収める。
「意外だったわね。避けるなんて」
砂埃が晴れてくるとそこには流血すらしていない尾方が立っていた。
「それが権能かい? よし、これで対等かな。名乗っていいよ?」
ヒラっと左手の手のひら搦手に見せて尾方は挑発する。
「正直驚いたわ。噂以上なのね貴方?」
挑発は意にも介さず賞賛の言葉を送る搦手。
「やだな、どんな噂? おじさんそういうので簡単にナイーブになっちゃうんだよねぇ」
それを見ると臨戦態勢に入ってたかのように見えた尾方が、スッといつもの感じに戻る。
「ふふ、面白い悪魔ね。私に敵意がなかったとして、攻撃したことは咎めなくていいの?」
「いいよ。ギリギリかわせる弾を選んで撃ったオサムちゃんに免じて許してあげよう」
それを聞くと搦手はクスクスと笑う。
「ふふふ、さっきの挑発より私には効果的よそれ。また必ず逢いましょう」
「心配しなくてもおじさんとは死んだってまた会えますよ。どっちかでね」
搦手は「違いないわね」と笑いながら尾方に背を向ける。
「手中の悪魔。搦手 収よ」
「ん、屈折の悪魔。尾方 巻彦」
「ふふ、忘れないわね」
そういうと右手を開き、さっきの石を空中に放った。
尾方が一瞬その石に意識を向けたその後、搦手 収の姿はすっかり消えていた。
「はぁ、死ぬかと思った...悪魔ってのはこう、なんで狂気割り増し連中が多いんだろうねぇ...」
周りを軽く見渡した尾方はトボトボと駅の出口を潜って行った。
「おせぇ」
約束の駅前では血に塗れた天使が待ちぼうけを食らっていた。
これでもかと言うばかりに身体は血だらけである。
「ごめんごめん、曲がり門でオカマにぶつかっちゃって。しかし君も律儀だよねぇ。わざわざ待たずに先にいっちゃえばいいのに」
謝礼のつもりか尾方はどこから取り出したのかコーヒー缶を血渋木に投げる。
黙って缶をキャッチした血渋木はその場で直ぐ開けて飲み始める。
「そりゃこっちの台詞だ。あのまま逃げればよかったなかったじゃねぇかよ? 悪魔さん? ...苦いなこれ」
どうやら天使は甘党のようだ。
「それもそうだねぇ。君は悪魔の才能があるよ血渋木君」
「お前は悪魔向いてねーな」
「...かもね」
少し俯いて答える尾方はどこか遠い目をしていた。
血渋木が缶コーヒーを飲み干したのを合図に二人は駅を後にした。
目指すはシャングリラ戦線。
奇妙にも天使と悪魔が肩を並べて歩く風景を、月も真上から見下ろす。
夜はまだ更けない。
④
「メメント・モリのこと。どこまで知ってる?」
尾方の道案内に沿ってシャングリラを目指す二人、
その道中、不意に尾方が血渋木に質問した。
「ああ? なんで?」
血渋木は声色からも分かるほどに不愉快そうに返事をする。
「いや、先日さぁ。いやにメメント・モリのこと敵視してたじゃない? なんでかなーって」
「天使が悪魔の組織を敵視するのは普通のことだろうが」
「そりゃあ普通だけど。アレは、それだけじゃなく特別なものにも見えたからさぁ」
チッっと舌打ちした血渋木は振り返る。
「知らねぇのか? 神様から通達が来てんだよ。メメント・モリの生き残りを狩れってよぉ」
尾方は口をきゅっと閉めたがすぐに溜息交じりで言う
「...薄々感じてはいたけどね。はぁ、やっぱりそうなのね」
「なんだよ? 心当たりがあるのか?」
「ないこともないけど。君には教えられないかなぁ。またいつ敵対するかわからないからねぇ」
「いや、いまも敵対してっけど?」
「...もう三歩ぐらい離れて歩かない?」
尾方が言葉通り数歩後ろに下がったその時
『ピピピピ!ピピピピ!』
尾方のポケットから不意にけたたましい電子音が鳴り響いた。
「うわぁ!? なにぃ!?」
「おま...マナーモードにしとけよ! これだから悪魔は...」
苦言を呈する血渋木を尻目に慌てた様子でポケットからなにかを取り出す尾方。
「なにこれ!? 僕の携帯こんなじゃないんだけど!? 誰の!?」
「いや知るかよ...とりあえず出てみろようるせーし」
「パカパカするやつじゃないんだけど? どうやって出ればいいの?」
尾方の手にはスマートフォン風の電子機器があった。
「いやガラケーってお前...しかしうるせぇな貸してみろ」
尾方の手から電子機器を奪い取った血渋木はおもむろに画面をタッチする。
すると
『あ、もしもしおっさ......誰ッスか貴方』
『ぎにゃああああ!! 天使ぃぃぃぃぃぃ!!』
電子音より数倍けたたましい叫び声が電子機器から発された。
「うわ! 超うるせぇ!!」
思わず電子機器を投げ飛ばす血渋木。
慌ててそれをキャッチする尾方。
「おっとと、その声。ヒメとメメカちゃん? なにこれ? どうなってるの?」
画面を覗き込むとそこには葉加瀬の姿があった。
『おお、おっさん! 捜したッスよ! これは私さん特製おっさん用簡易通信機【OGフォン】ッス。それよりなんなんすかさっきの人。姫子さん逃げちゃったんスけど?』
画面の後ろの方に部屋の隅で座布団を被って小さくなっている姫子の姿が確認出来る。
完全にトラウマになっているらしい。
「あー、彼は色々あって共闘中の天使、血渋木君。血みどろだけども血よりも熱い熱血漢ダヨ」
「刺すぞ?」
「あー...これは彼の故郷の言葉でこんにちわって意味でね?」
『そ、そうなんスか? て、そんなことよりおっさん! 勝手にシャングリラに行くなんてなに考えてるんスか!』
『そうじゃぞ尾方! ワシは心配で心配で! あとその天使と共闘なんて信じぬぞ! ありえぬからな!』
やっとのことで部屋の隅を脱した姫子も加わって尾方を糾弾する。
尾方は困り顔で画面に向かって謝る。
「ごめんごめん、おじさんにとっては夜にシャングリラに行くのが日々のルーチンでさぁ。ふと夜に目が覚めてよくよくも考えずに行っちゃった」
『いや、そんな深夜にお腹空いたからコンビニに行っちゃったみたいに言われても困るッスけど...』
『まぁ、今回はよいが。しかし経緯を説明せよ。なぜ天使と行動を共にしているのか』
溜息をついた尾方は歩きながらこれまでのいきさつを二人に説明した。
その間に尾方は血渋木に三回刺された。
⑤
『いや、尾方が逃げる隙は山ほどあったじゃろ。もう少し上手く立ち回れんのかお主』
「あ、いや、はい...」
『本当ッスよおっさん。共闘関係っていうか普通に脅されてるじゃないッスか。駆け引きとか本当に苦手ッスよね昔から...』
「うん、そうだね、本当だね...」
「お前協力者が女子供って...いや悪魔向いてるわお前...」
「いや、これは...うん、はい...」
尾方巻彦三十五歳、普通に泣きそうである。
ド正論過ぎていつものらりくらり逃法の見る影も無い。
『まぁ、なってしまったものはどうしようもない。気は進まぬがそ、そやつの願いを成就させるしかあるまい』
『そうッスね。もう位置的には目的地まで半分は過ぎてるッスし、さっさと終わらせて帰ってくるッスよ』
「あいよー。これ切った方がいいの?」
『いや、このまま繋げておくのじゃ。適宜、葉加瀬とワシでアドバイスするでの』
『おっさん一人じゃまたどんなトラブルに巻き込まれるか分からないッスから保険ッス』
「おじさんの信頼とは一体...」
『いや、ある意味信頼はされてるッスよ。それよりそのOGフォンのホームボタンを三回連続で押して貰っていいッスか?』
「え、ホームボタン? これ?」
横にいる血渋木に聞く尾方。
「お前なに時代の人間だよ...そうだよそこだよ」
「ありがとう、ここね」
ぎこちない手でOGフォンのホームボタンを三回押すと。
後ろからプロペラが出てきて尾方の手を離れ、ドローンのように宙に浮いた。
「うわぁ!? なにこれ!?」
『これはOGフォン追跡フォームッス。ポケットに入れられても周囲の状況が確認できなくなるんでこの状態で追従させてもらうッスよ』
「へぇー、すごいなこれ。見てみて血渋木君。すごくない?」
年甲斐も無くはしゃぐ中年。
「確かにスゲーわ。ただの女子供じゃないってことか。警戒しとこ」
オンオフがハッキリしている天使。
そうして1天使1悪魔1ドローンのスリーマンセルが完成し、目的地まで前進する。
何事も無く暇だったのか、ふと葉加瀬が血渋木に質問を投げかけた。
『ちょっといいッスか血渋木さん』
「...なんだぁ?」
『一つ気になるんスけど、この依頼。天使からの交戦を請け負うってものだと思うんスけど。つまり血渋木さんは天使に狙われてるんスか?』
「あってるがあってねぇ。天使ってのは原則仲間内の戦闘はご法度だが、天罰中の天使って言うのは天使だが天使じゃねぇ身分になるんだよ。だからそこを狙って襲ってくる同僚がいんだ」
『心当たりがあるんスか?』
「俺は悪魔上がりだからな。星の数ほどあらぁな」
『ん? ハカセ、悪魔上がりとはなんじゃ?』
横から姫子が疑問を挟む。
『所謂、元悪魔の天使ッスね。天使側の受け入れ態勢って大らかなんでよくある話しなんスよ』
『なんじゃその物言いは! 悪魔が下みたいな考え方が気にいらん!』
憤慨する姫子を他所に納得する尾方。
「なるほどねぇ。まぁそんなことだろうとは思ってたけど、大方メメント・モリとの確執も悪魔時代のものなのかなぁ」
「うるせぇ、話し逸らすんじゃねぇぞ。俺は天使になって後悔の一つもしちゃいねぇ。やめる気もねぇ。だからこうやって七面倒な天罰を真面目にやってるんだろうが」
「真面目? 悪魔のおじさんの手借りちゃってるけど?」
「やれること全部やってんだ。真面目だろうが」
「まぁ確かに、君は生真面目だとは思うよ」
「誰が生真面目だぁ? 俺はなぁ...」
血渋木が反論をしようとしたその時、
「トォォォォォォォォォォウ!!!」
耳に障るほどの轟音が尾方達が歩いている路地風のエリアに響き渡った。
声の主は三階ほどのビルの上から飛び降り着地する。
ヒーロー着地である。
ちっさい声で「ヒザイッタ」という呟きが聞こえる。
そしてこちらをビシっと両手の指差し指で指すとポーズを決める。
「見つけたぞ! 悪魔上がりの穢れた天使! 血渋木昇!」
その男は顔が整っているだけにロングのツインテールと真っ白な服が嫌に目立つ奴だった。
唖然にとられている尾方を他所に血渋木は呆れ顔である。
「奇襲もせずに...。ああいうのを生真面目って言うんじゃねぇのか?」
「...ああいうのはバカ真面目っていうんだよ」
尾方も追いつき呆れ顔をする。
こちらを全く気にせず続けるバカ真面目。
「私の名を刻め非道の輩よ! 我こそはダブルツヴァイツインセカンドマークⅡ次男坊! 戒位222躯! 二枚目の天使! 弐枚田 弐樹!!」
なんて?
「なんて?」
私の代わりに尾方が言ってくれた。正直助かる。
「二度までなら言ってやろう! 不逞の輩よ! 某こそはダブルツヴァイドスドゥマークⅡ次男坊! 戒位222躯! 二枚目の天使! 弐枚田 弐樹!!」
なんて?
「なんて?」
「三度目はない!! 無礼者!!!」
『バカ真面目っていうかバカッスねアレは』
端的に葉加瀬が説明してくれる。
うん、それでいいと思う。
「じゃあ、俺あいつの相手してると頭痛くなってくるから任せたぞ尾方巻彦」
ヒラヒラと手を振りながら背中を見せる血渋木。
「ちょ、ちょっと待ってよ。アレとやるの? 天使でいいんだよね?」
「天使だよ天使。お前ら悪魔の宿敵。じゃあな。次会うときは容赦しねぇから」
そういうと血渋木は路地の裏に消えていった。
「あーあ、行っちゃった。もう少し色々聞きたかったんだけどねぇ。しかも変なの押し付けるし...」
恨めしそうに路地を見つめる尾方。
『これ尾方! 天使の前だぞ! 油断するな!』
OGフォンからの姫子の声で我に返った尾方は正面に向き直る。
件の天使は襲い掛かることもせずになにやらポーズを決めている。
「えーっと、弐枚田さん? 攻撃とかしなくていいんですか?」
恐る恐る尾方が尋ねる。
「いや! そっちの名乗りを待ってるんだろう! 早くしてくれたまえよ!」
ビシッと尾方を二本指で指差す弐枚田。動作が一々五月蠅い。
「あ、ああ、ごめんごめん。屈折の悪魔。尾方巻彦。どうぞよろしく」
「ああ! よろしく!!」
両手の親指を立てて歓迎する弐枚田。
これが戒位上位者の天使かぁ...。天使側も苦労してるんだなぁ...。
『のうのうハカセ、疑問だったのじゃが尾方達はなぜ戦う前にお互い名乗り合うのかの? 不意打ちとかし辛くないのかの?』
OGフォン向こうの姫子が葉加瀬に疑問を投げる。
『ああ、あれは儀式みたいなものッスね。起源は神様達の時代にまで遡るらしいいんすけど、戦う前にお互いに名乗りあうことを神様が定めたんスよ』
『まぁ、いまや形骸化してしまっていて、やる人とやらない人がまちまちって感じッス。尾方のおっさんは前者、まず名乗る側みたいッスね。この業界ながいからかな?』
『ほーう、尾方も真面目なところがあるんじゃのー』
「おじさんのは真面目っていうかもう癖みたいなものだけどね。落ち着かないのよやらないと」
皆でわいわいやっている間も弐枚田は攻撃してこない。
「いや、弐枚田さん。別に気にせず攻撃してきていいんだよ? お互い名乗り合ったんだし」
流石に尾方が苦言を呈すると。
「人が話し合っているときに横から妨害するなんて出来るか! 舐めるな!!」
すっごい怒った。
これにはカウンターを狙っていた尾方も正面を向かざるを得ない。
存外戦い難い相手であることを悟り少し苦笑いになる。
「じゃあ、やろうか弐枚田君」
渋々構える尾方。こうでもしないと始まりそうもないからである。
「うむ、我が正装【二つ結び】によって幾度と無く地面に這い蹲らせてやろう」
弐枚田はチャっと懐から二丁拳銃を取り出し構える。
「幾度と無く地面に? そりゃそうだ。いつもの事だよ」
尾方も正装を見て静かに腰を落とす。
ヒソヒソ声でOGフォンに話しかける尾方。
「ほら、メメカちゃんが二丁拳銃はロマンとかいうからおじさんが苦手な飛び道具来ちゃったじゃん」
『いや、私さんは悪くないでしょ。持ち主のせいでロマン要素蒸発してるし。...てかちゃんと聴いてたんスか!?』
「なんかアドバイスとかなぁい?」
『正装なんできっぱりはいえないッスけど、装弾数が少なそうッス。もし狙うならリロードの瞬間ッスね』
『弾数はワシが数えておく、負けるなよ尾方』
「それ、おじさんに言う?」
ボソボソ小さな声で話しているとスッと弐枚田が構えを解いた。
「ふ、尾方くん。私の獲物になると言う逃れられぬ哀れな運命に免じて、前もってこの正装の能力を教えてあげよう」
「そいつはありがたいね。是非とも教えてもらおうかな」
ジリっと半身に構え後ろ足に力を入れる尾方。
弐枚田はおもむろにポケットからコインを出してコイントスの形をとる。
「私の正装の能力はいたって簡単!」
そういうと力一杯コインを真上にトスする。
天使の力である。コインは一瞬で見えるか見えないかギリギリの高さまで急上昇した。
「左手の銃で撃ったモノと右手の銃で撃ったモノの位置を入れ替える能力さ!!」
『! おっさん危ない!』
葉加瀬が叫ぶと同時に二枚田は左手の銃を真上に、右手の銃を尾方に向けて発砲した。
尾方も避けようと横に飛ぶが光速の光弾が正確に二つの的を射抜く。
次の瞬間。尾方がいた場所にはコインがチャリンっと落ち。
尾方は遥か上空にパッと放り出された。
『尾方!』
『おっさん!』
二人の声も届かないほどの上空。
弐枚田はポーズを決めて笑う。
「ハーハッハッハッハ! パーフェクト! 使用弾数2! 今回も弐枚田弐樹に傷はなし!」
両手をバッと広げて指をダブルピースにくるりと回る。
そして最後のポーズに入る。
「フィニーーーーシ
グシャァァア!!!
上空から落ちてきた尾方のニークラッシュがフィニッシュポーズを決める弐枚田弐樹の顔面に落ちてきた。
白目を向いた。弐枚田はピクリとも動かない。
尾方はヨロヨロと立ち上がる。
「...」
『...』
『...』
...。
「いこうか」
尾方はその場を後にした。
⑥
『ところで大丈夫なのか尾方。事故とはいえあんな高さから落下してどこか怪我しておらぬか?』
「ああ、うん。偶然クッションがあったからね。多少節々が痛むけどなんてことはないよ」
何事も無くシャングリラ戦線周辺まで辿り着いた尾方は少し休憩していた。
『しかしおっさん。なぜシャングリラ戦線方面に向かってるッスか? 用事も済んだことだしもう帰っていいんじゃないッスか?』
「いや、折角ここまで来たから少し様子を見ていこうと思ってね。情報は足で集めろって下っ端時代によく言い聞かされててさぁ」
『おっさんの下っ端時代は現在進行形で継続中ッスよ?』
「あら、そういえばそっかぁ」
『尾方が望むのであればNo.2の地位を授けるぞ? どうかの?』
「んー、ないなぁ。パスで」
『そんなカードゲームのような気楽さでパスるでない! 人生のターニングポイントじゃぞ!』
「申し訳ないけどおじさんの人生は真っ直ぐいって途切れての繰り返しなので」
『インク切れかけのマッキーみたいな人生ッスね...』
尾方はおもむろにポケットからコインを取り出してトスする。
『なにをやっておるのじゃ尾方?』
「いや、たまには運任せもいいなぁと思ってね。ここから近いシャングリラ戦線の主要な戦場は二つ。どっちに行くか決めて貰ってたんだ」
『適当ッスねぇー。そんなで命運分けるシャングリラ戦線の行き先を決めていいんスか?』
「いいのいいの。おじさんの命運なんて大凶も裸足で逃げ出す沼の底なんだから。どっち少し見たら帰るつもりだしねぇ」
「さて、表が出たら森林エリア、不治ノ樹海。裏が出たら都市エリアの神宿にしようか」
スッと手を開ける尾方。コインは裏向きを示していた。
「ほい、神宿ね」
そういうと尾方は腰を上げる。いつものように悠長にしている暇は無い。
少し離れているとはいえここはシャングリラ戦線。善と悪の戦争最前線。
世界でもっとも危険な場所である。
一箇所に留まれば留まるほど会敵のリスクが高まる。
【シャングリラ戦線では入って出るまで全力疾走が基本】というのが新人時代の尾方の先輩の口癖だった。
「(僕には駆け足ぐらいが丁度いいと思うッスけどね)」
常々思っていたことを思い出に向かって想う尾方。
『なにを微笑んでおるのだ尾方?』
「ん? いや、思い出って優しいからさ。たまに甘えるんだよね」
『??』
「なんでもないよ。さ、行こうかシャングリラ戦線」
月が少し後ろから尾方を見下ろす。
夜は更け始める。
⑦
『神宿。そこは数あるシャングリラ戦線エリアの中でも極めて現在的な、人工都市の姿をしたエリアッス。所謂コンクリートジャングルッスね。その狭く複雑な地形から両陣営攻めあぐね長い間中立を保っている激戦区ッスよ』
道すがら葉加瀬が今向かっているシャングリラ戦線の説明をしてくれる。
『尾方、そんな激戦区行きをコイントスで決めておったがよかったのか?』
「大丈夫大丈夫、どっちシャングリラ戦線に平和な場所なんてないよ。それに様子みたら直ぐ帰るって」
流石の尾方もここでは駆け足をしながら話をする。
既に現在チックな様相のエリアに入っているので低いビルの屋根から屋根にパルクールさながらにピョンピョン涼しい顔で駆け抜けていた。
『...昔から思ってたんスけど、おっさんいやに運動神経激イイッスよね? 影で特訓とかしてるんスか?』
「まさか? 特訓修行はおっさんからもっとも遠いものだよ。これはいうなれば年の功かな。毎晩シャングリラ来てたらこうもなるって」
『そうかそうか! 流石は尾方じゃな!』
『そんなもんスか? まぁ唯一の戦闘員が強靭なのはいいことッスけど』
「強靭じゃなくて柔軟ね。要は慣れなのよ」
『優柔不断ではあるッスね』
「言葉尻捕まえるにしても無理がないかい!?」
そんなこんなしてる内に辺りに立ち並ぶビルは高さを上げ、たびたび遠くから戦闘音と思われる音が響いてくるようになった。
「さて、もう入ったかな」
ふぅっと一息ついて尾方は辺りを見渡す。
「メメカちゃん、少し飛ばす位置下げて、こっからなにがどうなっても不思議じゃないからねぇ」
『りょッス。おっさんの背中に張り付いて飛ぶッスよ』
ここでは経験値の差があるのも承知のようで葉加瀬も素直に尾方に従う。
『して、尾方の今回の目標はなんなのじゃ? 突発とはいえ新生メメント・モリの初シャングリラ戦線じゃ。なにかしらの成果を期待するぞ』
「そだねー。現在この地区で戦闘している悪魔勢力の確認なんかどうかな?」
『悪魔? 天使ではないのかの?』
「元々この区画はメメント・モリが主力の戦闘地区だったんだ。だから、その後釜を狙ってる組織、ないし収まっている組織を確認したい」
『なるほど、まずは確認しやすい内部からってわけッスね』
「内部でもないけどねぇ。情報収集してるなんてバレたら天使も悪魔も関係ないしココは」
『ハカセからの講義でも聴いたがそんなに悪魔側の組織間は仲が悪いのかの?』
「悪いっていうより元々が別の理念、頭を沿えて集まった別の組織だからねぇ。同盟とか協力をすることはあるけど組織間のいざこざなんて日常茶飯事だよ」
『ふむ、そんなものか』
「そんなものだねぇ。ウチは穏健派だったから内輪もめは少なかったけどね」
そういうと尾方はビルとビルの間の狭い裏路地にベランダや排水溝の管を足場に器用に降りていく。
地面に付くとOGフォンに向かってシーっと人差し指を口の前に持っていき静かにのジェスチャーをする。
『...』
言われたとおりに葉加瀬と姫子は口を閉じる。
服の擦れる音から姫子が大きく頷いていることを察せられて尾方も穏やかに微笑む。
しかし、すぐにスッと裏路地の出口の角に張り付き聞き耳を立てた。
角の先、大通りに数人の悪魔と思われる人影が話し合っていた。
尾方はすぐに手帳を取り出し、ペンのキャップを口で外すと聴こえた単語を片っ端からメモする。
そして話し声の主達が去ったのを確認するとまた裏路地の奥に引っ込んだ。
「ふぅ、随分お喋りな悪魔もいたものだねぇ、お陰で色々聞き出せたけど」
『念のため私さんも録音しておいたッスけど必要なさそうッスね』
「ええ...? そんなこと出来るの? こんな小さいのに凄いなぁ」
『いやジェネレーションギャップ的なのはいいッスけど、なにか有力な情報あったッスか?』
「うん、さっきの人たちが所属してる組織と天使側の話を少しね。録音してるんだったら帰ってから答え合わせしようか?」
『お? いいんスか? ハカセ先生は厳しいッスよ。とめはねはらい、甘いと減点ッスからね』
『ワシもメモしたので一緒に採点よろしくじゃハカセ先生!』
「あ、やっぱりやめとこうか...なんかオチ読めたよおじさん...」
その後、尾方達は同様の手法を繰り返し情報収集に努めた。
「ふぅ、大体こんなところかな。お疲れさまヒメ、ハカセちゃん。そろそろ帰ろうか」
『これ尾方、まだ油断するでない。家に帰るまでが遠足じゃぞ』
「遠足気分だったんだね...」
『あ、帰る前に一ついいッスか? どこかこの辺で一番高いビルの上に行けないッスかね?』
「うん、まぁ行けなくもないけど。 どして?」
『折角ここまで来たので周辺のマップを作りたいんスよ。見渡せれば十分なんで』
「なにそれすごい。そういうことならリスクはあるけど価値が勝るなぁ。ヒメも賛成でいい?」
『うむ、今後の展開のためにも重要じゃな。だが、無理に危険に飛び込む必要もなし。このOGフォンだけで上空に飛んで撮影出来ぬのか?』
『あー、出来なくもないッスけど、帰りの分のバッテリー使い切っちゃうんスよね...おっさんの場合、帰りのが心配ッスし』
『うむ、それは仕方がないの。尾方、面倒をかけるが行ってやってくれぬか?』
「今の会話内容だと面倒かけてるのおじさんっぽく聴こえたんだけど...まぁいいか」
「よし、じゃ、いこうか。少し走るから注意して着いて来てね」
そういうと尾方はまた近くのビルの屋上に上り、駆け出した。
向かう方向より行き先は直ぐに察することが出来た。
眼前に堂々とそびえるはこの神宿一の高層ビル【ト庁】。
その周辺はこの神宿一の激戦区である。
⑧
「...おかしい」
ト庁方面に少し進んだところで尾方が呟いた。
『あ、すまぬ尾方...このビス子が最後の一枚でな...尾方といえど挙げられぬ...』
「もしかして緊迫したこの状況で突然【...お菓子ぃ】って呟いたと思われてる? あともしかしなくてもおじさんがこんなに頑張って走り回ってる中でヒメはお菓子食べてる?」
『気のせいッスよ気のせい。ここ正念場ッスよ? 集中してるに決まってるじゃないッスか? あ、姫子さん。そこのポッキー取って下さいッス』
「隠そうって思うなら思うでもうちょっと頑張ってくれない!? お菓子パーティしてるでしょ君達!」
『バレたら仕方がないッス。申し訳ないのでおっさんも写真だけ額縁に入れて参加させるッスよ』
「ああ! 見える! いい歳したおっさんの葬式にお菓子が供えられてるのが見えるよ!」
『ところでなにがおかしいんスか?』
「え? 全部だよね?」
『いや、おっさんのお葬式のことではなくて、シャングリラ戦線の様子ッスよ』
「あ、そっちか。急に話戻すから首痛めるところだったよ。静かすぎるんだよ...いくらなんでもここまでト庁に近づいて、会敵ゼロ、戦闘音も響いてないってのは普通ありえない」
『まだ少し距離があると思うッスけどそんなもんッスか? まぁ、確かに静か過ぎるとは思うッスねさっきの場所に比べても』
「おじさんがこの辺ウロウロしてた頃はここまで近づくと天使と悪魔が混戦状態だったよ。...念のため下歩こうか」
『りょッス』
尾方の提案通りビルから降りて裏路地を慎重に進む。
その間も特に戦闘音等は聞こえてこなかった。
尾方も首を捻る。
「ここまで静かだとなんか逆に落ち着かないね。ヒメ、なにかお歌を歌ってちょうだいよ」
『よいぞ、津軽海峡でよいか?』
「選曲! 演歌!? さては親父の擦り込みだな...自分の趣味を孫に押し付けるかね普通...」
『静かで落ち着かないならリン○リンダ流すッスよ?』
「二重の意味で隠す気ないでしょ? 一応隠密任務中なんだから...」
『そうじゃの...こぶしは抑え目に頑張るぞ』
「いや、ごめん。演歌はまたの機会にお願いします」
そうして進むうちにト庁前の広場前まで着いてしまった。
「ここまで来てなんにもないってことはもう決まりだね。何事かあってるよここで」
『自分で言ってアレなんスけど、もう帰ってもいいッスよ? ただ事じゃなさそうッスし』
「いや、逆を言うと無傷でここまで近づける機会なんてほとんど無い。ここはGOサインでしょヒメ監督」
『うむ、カットじゃ!』
「それ止めるやつね」
尾方は裏路地からこっそりト庁前広場を覗き込む。
辺りに人影は見えない。
しかし、辺りには激しい戦闘痕が残っていた。
意を決した尾方は裏路地から出て広場に向かう階段に足を掛ける。
その足取りは軽かった。実は尾方には一つ心当たりがあったからだ。
そしてその心当たりは。ト庁入り口の階段中央に腰を掛けていた。
それは、血みどろの。血まみれになった快血の天使。
血渋木 昇だった。
月は後方へ。
空は白さを思い出し始める。
それでも夜は、まだ少し続く。
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私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ)
白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。
妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。
利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。
雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

一人じゃないぼく達
あおい夜
キャラ文芸
ぼくの父親は黒い羽根が生えている烏天狗だ。
ぼくの父親は寂しがりやでとっても優しくてとっても美人な可愛い人?妖怪?神様?だ。
大きな山とその周辺がぼくの父親の縄張りで神様として崇められている。
父親の近くには誰も居ない。
参拝に来る人は居るが、他のモノは誰も居ない。
父親には家族の様に親しい者達も居たがある事があって、みんなを拒絶している。
ある事があって寂しがりやな父親は一人になった。
ぼくは人だったけどある事のせいで人では無くなってしまった。
ある事のせいでぼくの肉体年齢は十歳で止まってしまった。
ぼくを見る人達の目は気味の悪い化け物を見ている様にぼくを見る。
ぼくは人に拒絶されて一人ボッチだった。
ぼくがいつも通り一人で居るとその日、少し遠くの方まで散歩していた父親がぼくを見つけた。
その日、寂しがりやな父親が一人ボッチのぼくを拐っていってくれた。
ぼくはもう一人じゃない。
寂しがりやな父親にもぼくが居る。
ぼくは一人ボッチのぼくを家族にしてくれて温もりをくれた父親に恩返しする為、父親の家族みたいな者達と父親の仲を戻してあげようと思うんだ。
アヤカシ達の力や解釈はオリジナルですのでご了承下さい。
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