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第一章『中年ルーザーと復興プリンセス①』
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①
この世の中には、絶対に負けてはいけない戦いと言うものが存在する。
その戦いには大抵、命が懸かっているか、またはそれ以上のものが賭けられている。
基本的にはこの戦い、勝者の物語しか語られない。
だが、確かに存在する。
この絶対に負けられない戦いの数と同じだけ、それに敗れた者が存在する。
これは、そんな絶対に負けられない戦いに敗れ続け、それでも諦めなかった。
不屈の敗者の、これまた敗北の物語。
②
時は現在、携帯電話が少なくなりスマートフォンが復旧する世の中。
この世界には、かつて神々が保有した理想郷、シャングリラがあった。
しかし、この土地を巡って残り二柱となった神様が対立。
かたや善の神を名乗り、人に身体強化と特殊な武器を与え天使を名乗らせ。
かたや悪の神を名乗り、人の身体を作り変え特殊な能力を与え悪魔を名乗らせ。
それぞれ特殊な武器と能力を持ったもの同士がぶつかり合う混沌の浮世となってしまっていた。
......というのはシャングリラ周辺の戦闘許可区に限られた話で。
世の中は平和そのもの。
シャングリラの戦闘模様はニュースや新聞に取り上げられるだけ、民の娯楽の一つと化していた。
私は、そんな世の中を見渡すありふれた一個人ではあるのだが。
これから、とある男が繰り広げる。シャングリラを騒がす一連の騒動を、紹介させてもらおうと思う。
敗北の女神に微笑まれた哀れな挑戦者の。
最大の敗北をご覧あれ。
③
「ハァ、うまーい......」
裏路地でタバコを吹かす影が一つ。
「バイト抜け出して吸うタバコは格別だよね」
「どうもこんばんわ」
「おじさんの名前は尾方巻彦、しがないフリーターやってる三十五歳」
「そう、三十五歳。で、フリーター。やばくない?」
「でもおじさんは慌てない。もういい歳だからね。血圧に響くの」
「これでも昔は、悪の組織に所属してブイブイ言わせてたんだよ?」
「まぁ、万年一般戦闘員の下っ端だったけど」
「え? 悪の組織ってなにだって?」
「おやおや最近の若いのと来たら、新聞読んでないの?」
「毎日ニュースでもやってるじゃない」
「神様の代理戦争。天使と悪魔の陣取り合戦」
「通称、シャングリラ戦線」
「ここじゃあ、それが日常じゃない?」
髪はぼさぼさ、ワイシャツには皺、スーツのズボンにも皺、ネクタイはヨレヨレである。
この、バイトをサボり、猫に愚痴を言ういかにもさえない中年のオッサン。
信じられないことに、彼が今回の騒動の主犯となる。尾方巻彦その人である。
「そろそろ戻らないと、店長怒ると怖いんだよなぁ」
年下店長の怒りを恐れるこの男はまだ知らない。
この日を境に始まる、自分を中心としたシャングリラを騒がす大騒動を。
④
「いや、結局怒られちゃったよ。目が怖い。目がね。あの店長」
トボトボと帰路につく尾方。その足取りは重い。
とっくに日は落ちており、街頭に照らされた帰り道をフラフラ歩く。
「いつまでこんな生活してるんだろ僕...あれから...」
ふと、歩みを止めた尾方は、持ち歩いている手帳のカレンダーを見て呟く。
「あれから、もう、一年になるのか......」
そう、今日は彼が所属していた悪魔組織「メメント・モリ」が壊滅してからちょうど一年が経つ日だった。
事件の当日、彼は組織のアジトに駐在し、警護に当たっていたが。
なにが起こったかわかることもなく。気がついたら組織構成員が全員惨殺されているという不可解な事件に直面したのだ。
意味も分からず組織は壊滅、残ったのは一般戦闘員の自分ひとりだけ。
それから彼は、抜け殻のように日々をただ過ごしていた。
「一般戦闘員だったけど、毎日にハリがあったよなぁあの頃はさぁ......」
くたびれた襟を直しながら、賃金2万円の郊外アパートの自室に入る。
「ただいまー......」
無論、家には誰もいない。だが、それでもただいまを言うことが彼にとっては肝要なのだ。
だって、寂しいじゃない。
散らかったテーブルの上に雑にスペースを作った尾方は、コンビニ弁当を食べながら新聞を読む。
注視するのはシャングリラ戦線欄、いまや離れてしまった界隈の話しだがやはり気にはなるのであろう。
「へー、あそこの組織がねぇ......」
「うーん、とすると、今日はどうするかねぇ...」
中年特有の独り言に夢中になっている尾方だったが、
その時、
「トントン」
ノックの音が静かな部屋の中に響いた。
この部屋に住んで一年、来客なんて勧誘業者以外皆無である尾方は、聞き間違いと断じて無視を決め込むこととした。
だが、
「ドンドンドン!」
音が大きくなる。もうノックじゃない。
「ドン!! ドン!!」
そしてその音は、何かがドアに体当たりしているような音に変わった。
「わっ! わっ! なに!?」
流石に慌てた尾方は走って玄関に向かいドアを開ける。と次の瞬間。
ドン!!
「ぎゃう!」
自分の腰ぐらいの大きさの何かがぶつかって来た。
「うぉ!?」
思わずよろけて尻餅をつく尾方。
「あいたたたた! なんなのもう......」
前を見上げると、そこには真っ黒なドレスを着た少女が立っていた。
尾方をジッと見つめている。
「えーっと、誰さん家のお子さんかな? 部屋、間違えちゃってるよ?」
どう見ても自分の関係者ではないと回れ右を促す尾方だったが。
「そなたが尾方巻彦じゃな?」
思いもよらず自分の名前が飛び出してきたものだから、立ち上がるのも忘れて目を丸くしてしまう。
「そ、そうですが。え、どちらさん?」
少女は、尻餅をつく尾方を見下ろし尊大に言い放つ。
「ワシの名前は悪道姫子! メメント・モリが長! 悪道総師が孫娘!」
「着いて参れ! メメント・モリ最後の生き残りよ! ワシとそなたで、組織の復興を果たすのじゃ!」
⑤
「はぁ、タバコ吸いたい......」
尾方巻彦は困惑していた、急にボスの孫娘を名乗るゴスロリ少女が家に乗り込んできた挙句。
部屋にずかずかと押し入り、聞いてもないのにこれまでの経緯と身の上話をつらつらと聞かされたのだ。
まとめるとこうだ。
メメント・モリのボス【悪道総師】は、放浪していたこの少女を保護し、孫娘として育てていたらしい。
そして組織亡き後、復興を掲げて活動をしようとしていたが当てが無く。
風の噂でメメント・モリの生き残りがいるということを聞き、単身乗り込んで来たのだそうだ。
「何か言ったか尾方巻彦?」
「いいえ、なにも、お嬢さん。でもおじさん、今日はバイト上がりで疲れているから、その話明日にしない?」
心底興味がなさそうな尾方。しかしご令嬢の追撃は続く。
「何を隠そう。この悪道姫子。拾われてより三年間の間、おじじ様より悪の英才教育を受けていてな」
「歳こそまだ小学を後にしたばかりではあるが、組織経営と悪の道を敷くことには絶対の自信があるのじゃ」
部屋に自分の座るスペースを作りながら尾方はうんざり顔である。
「流石は悪のエリートコース様だ、人様の家に乗り込んできて有無を言わさずご高説とは、親父もさぞや鼻が高かろうよ...」
遠まわしな尾方の抗議にエリートコース様は「うむ!」と胸を張って答える。
「その通りじゃ尾方巻彦! おじじ様も自慢の孫だとしきりにワシを称えておった!」
会話のドッジボールである。しかもかたやバスケットボールの。
やれやれと自分の座るスペースを確保した尾方は、腰を落ち着かせて一息つく。
「はい、じゃあオジサンから質問いいかな、お姫様」
「うむ、よかろう言ってみよ」
「その喋り方、いま若い子で流行ってるの?」
「いいや、おじじ様の真似じゃ」
「その服は? 自分で買ったの?」
「おじじ様に貰ったのじゃ」
「悪の英才教育って具体的には?」
「おじじ様を観察しておったのじゃ」
ハァ...と溜息をして尾方は状況を整理する。
「(つまり、勝手に親父の後を継ごうとしている背伸びした子供って事ね。てか親父...こんな趣味あったの? あと孫には甘々じゃんね?)」
「どうした尾方? 質問は終わりか?」
ひときわ大きな溜息をついた尾方は後に続ける。
「最後に一つだけ、組織の復興って詳しくはなにするの?」
その質問を聞いて、今まで自信に満ち満ちていた少女の顔は曇る。
「そ...それは、今から...そ、そう! 尾方と考えるのじゃ! ...のう? 尾方巻彦...?」
「いや、のう? って言われても...答えはNOだけども...オジサンもうそういうのやめたっていうか」
少女の血相が変わる。驚きに目をまん丸にしている。
「え、いま、なんと言ったのかの...? やめた...? 尾方はもう、メメント・モリを辞めてしまったのかのう...?」
急激なシオシオ加減に尾方はたまらずフォローに入る。
「いや! 辞めてはないっていうかぁ...でも、ほら、なくなっちゃったからさぁ...そうせざる得なかったっていうか?」
なあなあに収めようと真偽の真ん中を取りに行った尾方であったが、
「ああ! なんじゃそんなことか! それなら問題はないぞ!」
彼女はパッと笑顔を取り戻し先ほどの調子で語りだす。
「お主が残っておるではないか! そしてワシが加わる! 晴れてここはメメント・モリじゃ!」
次は尾方が目を丸くする番であった。
「い、いやいやいや、なに言ってんのお嬢さん? 組織は壊滅したんだって。俺なんか一般戦闘員が残ってても仕方がないの? でしょ?」
「おぬしこそ何を言っておる。ワシだって全滅したと思っておった。でも、お主が残っておったではないか?」
少女は、心からそう思っているようである。そして言い放つ。
「だったら問題はない。お主をもって組織存続の証じゃ。組織が残っておってワシは心底安心したぞ」
まるでボスから言われているようで、怯む尾方だったが。
一つ大きく呼吸を置いて、姫子の方を観る。
「いいかい、お嬢ちゃん。オジサンだって最初はそう思ってた。そしてやったよ、色々さ。でもオジサンの手には余っちゃって...だから、もうそういうことはオジサンしないことにしたの。ごめんね役に立てなくて...」
と上記の台詞を哀愁たっぷりに言おうと思ったが。
尾方巻彦は大人なので、大人らしく、最もわだかまりの無い解決方法を取る事とした。
「うん! 一旦保留ゥゥゥゥゥ!!」
そう叫ぶと尾方巻彦は、少女の制止の言葉も聴かずに。
夜の街に走って消えた。
この世の中には、絶対に負けてはいけない戦いと言うものが存在する。
その戦いには大抵、命が懸かっているか、またはそれ以上のものが賭けられている。
基本的にはこの戦い、勝者の物語しか語られない。
だが、確かに存在する。
この絶対に負けられない戦いの数と同じだけ、それに敗れた者が存在する。
これは、そんな絶対に負けられない戦いに敗れ続け、それでも諦めなかった。
不屈の敗者の、これまた敗北の物語。
②
時は現在、携帯電話が少なくなりスマートフォンが復旧する世の中。
この世界には、かつて神々が保有した理想郷、シャングリラがあった。
しかし、この土地を巡って残り二柱となった神様が対立。
かたや善の神を名乗り、人に身体強化と特殊な武器を与え天使を名乗らせ。
かたや悪の神を名乗り、人の身体を作り変え特殊な能力を与え悪魔を名乗らせ。
それぞれ特殊な武器と能力を持ったもの同士がぶつかり合う混沌の浮世となってしまっていた。
......というのはシャングリラ周辺の戦闘許可区に限られた話で。
世の中は平和そのもの。
シャングリラの戦闘模様はニュースや新聞に取り上げられるだけ、民の娯楽の一つと化していた。
私は、そんな世の中を見渡すありふれた一個人ではあるのだが。
これから、とある男が繰り広げる。シャングリラを騒がす一連の騒動を、紹介させてもらおうと思う。
敗北の女神に微笑まれた哀れな挑戦者の。
最大の敗北をご覧あれ。
③
「ハァ、うまーい......」
裏路地でタバコを吹かす影が一つ。
「バイト抜け出して吸うタバコは格別だよね」
「どうもこんばんわ」
「おじさんの名前は尾方巻彦、しがないフリーターやってる三十五歳」
「そう、三十五歳。で、フリーター。やばくない?」
「でもおじさんは慌てない。もういい歳だからね。血圧に響くの」
「これでも昔は、悪の組織に所属してブイブイ言わせてたんだよ?」
「まぁ、万年一般戦闘員の下っ端だったけど」
「え? 悪の組織ってなにだって?」
「おやおや最近の若いのと来たら、新聞読んでないの?」
「毎日ニュースでもやってるじゃない」
「神様の代理戦争。天使と悪魔の陣取り合戦」
「通称、シャングリラ戦線」
「ここじゃあ、それが日常じゃない?」
髪はぼさぼさ、ワイシャツには皺、スーツのズボンにも皺、ネクタイはヨレヨレである。
この、バイトをサボり、猫に愚痴を言ういかにもさえない中年のオッサン。
信じられないことに、彼が今回の騒動の主犯となる。尾方巻彦その人である。
「そろそろ戻らないと、店長怒ると怖いんだよなぁ」
年下店長の怒りを恐れるこの男はまだ知らない。
この日を境に始まる、自分を中心としたシャングリラを騒がす大騒動を。
④
「いや、結局怒られちゃったよ。目が怖い。目がね。あの店長」
トボトボと帰路につく尾方。その足取りは重い。
とっくに日は落ちており、街頭に照らされた帰り道をフラフラ歩く。
「いつまでこんな生活してるんだろ僕...あれから...」
ふと、歩みを止めた尾方は、持ち歩いている手帳のカレンダーを見て呟く。
「あれから、もう、一年になるのか......」
そう、今日は彼が所属していた悪魔組織「メメント・モリ」が壊滅してからちょうど一年が経つ日だった。
事件の当日、彼は組織のアジトに駐在し、警護に当たっていたが。
なにが起こったかわかることもなく。気がついたら組織構成員が全員惨殺されているという不可解な事件に直面したのだ。
意味も分からず組織は壊滅、残ったのは一般戦闘員の自分ひとりだけ。
それから彼は、抜け殻のように日々をただ過ごしていた。
「一般戦闘員だったけど、毎日にハリがあったよなぁあの頃はさぁ......」
くたびれた襟を直しながら、賃金2万円の郊外アパートの自室に入る。
「ただいまー......」
無論、家には誰もいない。だが、それでもただいまを言うことが彼にとっては肝要なのだ。
だって、寂しいじゃない。
散らかったテーブルの上に雑にスペースを作った尾方は、コンビニ弁当を食べながら新聞を読む。
注視するのはシャングリラ戦線欄、いまや離れてしまった界隈の話しだがやはり気にはなるのであろう。
「へー、あそこの組織がねぇ......」
「うーん、とすると、今日はどうするかねぇ...」
中年特有の独り言に夢中になっている尾方だったが、
その時、
「トントン」
ノックの音が静かな部屋の中に響いた。
この部屋に住んで一年、来客なんて勧誘業者以外皆無である尾方は、聞き間違いと断じて無視を決め込むこととした。
だが、
「ドンドンドン!」
音が大きくなる。もうノックじゃない。
「ドン!! ドン!!」
そしてその音は、何かがドアに体当たりしているような音に変わった。
「わっ! わっ! なに!?」
流石に慌てた尾方は走って玄関に向かいドアを開ける。と次の瞬間。
ドン!!
「ぎゃう!」
自分の腰ぐらいの大きさの何かがぶつかって来た。
「うぉ!?」
思わずよろけて尻餅をつく尾方。
「あいたたたた! なんなのもう......」
前を見上げると、そこには真っ黒なドレスを着た少女が立っていた。
尾方をジッと見つめている。
「えーっと、誰さん家のお子さんかな? 部屋、間違えちゃってるよ?」
どう見ても自分の関係者ではないと回れ右を促す尾方だったが。
「そなたが尾方巻彦じゃな?」
思いもよらず自分の名前が飛び出してきたものだから、立ち上がるのも忘れて目を丸くしてしまう。
「そ、そうですが。え、どちらさん?」
少女は、尻餅をつく尾方を見下ろし尊大に言い放つ。
「ワシの名前は悪道姫子! メメント・モリが長! 悪道総師が孫娘!」
「着いて参れ! メメント・モリ最後の生き残りよ! ワシとそなたで、組織の復興を果たすのじゃ!」
⑤
「はぁ、タバコ吸いたい......」
尾方巻彦は困惑していた、急にボスの孫娘を名乗るゴスロリ少女が家に乗り込んできた挙句。
部屋にずかずかと押し入り、聞いてもないのにこれまでの経緯と身の上話をつらつらと聞かされたのだ。
まとめるとこうだ。
メメント・モリのボス【悪道総師】は、放浪していたこの少女を保護し、孫娘として育てていたらしい。
そして組織亡き後、復興を掲げて活動をしようとしていたが当てが無く。
風の噂でメメント・モリの生き残りがいるということを聞き、単身乗り込んで来たのだそうだ。
「何か言ったか尾方巻彦?」
「いいえ、なにも、お嬢さん。でもおじさん、今日はバイト上がりで疲れているから、その話明日にしない?」
心底興味がなさそうな尾方。しかしご令嬢の追撃は続く。
「何を隠そう。この悪道姫子。拾われてより三年間の間、おじじ様より悪の英才教育を受けていてな」
「歳こそまだ小学を後にしたばかりではあるが、組織経営と悪の道を敷くことには絶対の自信があるのじゃ」
部屋に自分の座るスペースを作りながら尾方はうんざり顔である。
「流石は悪のエリートコース様だ、人様の家に乗り込んできて有無を言わさずご高説とは、親父もさぞや鼻が高かろうよ...」
遠まわしな尾方の抗議にエリートコース様は「うむ!」と胸を張って答える。
「その通りじゃ尾方巻彦! おじじ様も自慢の孫だとしきりにワシを称えておった!」
会話のドッジボールである。しかもかたやバスケットボールの。
やれやれと自分の座るスペースを確保した尾方は、腰を落ち着かせて一息つく。
「はい、じゃあオジサンから質問いいかな、お姫様」
「うむ、よかろう言ってみよ」
「その喋り方、いま若い子で流行ってるの?」
「いいや、おじじ様の真似じゃ」
「その服は? 自分で買ったの?」
「おじじ様に貰ったのじゃ」
「悪の英才教育って具体的には?」
「おじじ様を観察しておったのじゃ」
ハァ...と溜息をして尾方は状況を整理する。
「(つまり、勝手に親父の後を継ごうとしている背伸びした子供って事ね。てか親父...こんな趣味あったの? あと孫には甘々じゃんね?)」
「どうした尾方? 質問は終わりか?」
ひときわ大きな溜息をついた尾方は後に続ける。
「最後に一つだけ、組織の復興って詳しくはなにするの?」
その質問を聞いて、今まで自信に満ち満ちていた少女の顔は曇る。
「そ...それは、今から...そ、そう! 尾方と考えるのじゃ! ...のう? 尾方巻彦...?」
「いや、のう? って言われても...答えはNOだけども...オジサンもうそういうのやめたっていうか」
少女の血相が変わる。驚きに目をまん丸にしている。
「え、いま、なんと言ったのかの...? やめた...? 尾方はもう、メメント・モリを辞めてしまったのかのう...?」
急激なシオシオ加減に尾方はたまらずフォローに入る。
「いや! 辞めてはないっていうかぁ...でも、ほら、なくなっちゃったからさぁ...そうせざる得なかったっていうか?」
なあなあに収めようと真偽の真ん中を取りに行った尾方であったが、
「ああ! なんじゃそんなことか! それなら問題はないぞ!」
彼女はパッと笑顔を取り戻し先ほどの調子で語りだす。
「お主が残っておるではないか! そしてワシが加わる! 晴れてここはメメント・モリじゃ!」
次は尾方が目を丸くする番であった。
「い、いやいやいや、なに言ってんのお嬢さん? 組織は壊滅したんだって。俺なんか一般戦闘員が残ってても仕方がないの? でしょ?」
「おぬしこそ何を言っておる。ワシだって全滅したと思っておった。でも、お主が残っておったではないか?」
少女は、心からそう思っているようである。そして言い放つ。
「だったら問題はない。お主をもって組織存続の証じゃ。組織が残っておってワシは心底安心したぞ」
まるでボスから言われているようで、怯む尾方だったが。
一つ大きく呼吸を置いて、姫子の方を観る。
「いいかい、お嬢ちゃん。オジサンだって最初はそう思ってた。そしてやったよ、色々さ。でもオジサンの手には余っちゃって...だから、もうそういうことはオジサンしないことにしたの。ごめんね役に立てなくて...」
と上記の台詞を哀愁たっぷりに言おうと思ったが。
尾方巻彦は大人なので、大人らしく、最もわだかまりの無い解決方法を取る事とした。
「うん! 一旦保留ゥゥゥゥゥ!!」
そう叫ぶと尾方巻彦は、少女の制止の言葉も聴かずに。
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