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最終話 あなたに幸あれ――

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「でだ……このおっさんを気絶させたはいいが、これからどうするんだ?」

 俺がそう皆に向かって言うと、涼音ちゃんと美夜ちゃんが前に出てきた。

「あとはわしらに任せろ……」
「一応、異能の専門家っすからね」

 俺はその言葉に頷いてその場を二人に任せる。二人は突っ伏しているおっさんの近くに座ると、その体に触れて何やら呪文を唱え始めた。

『これは封神の儀ですね……』

 不意にヒメが俺の側に現れた。俺は彼女に質問する。

「封神の儀? それでなのがどうなるんだ?」
『はい……呪術師……、いわゆる陰陽師たちは、昔から荒ぶる神々への対処をしてきた、人間唯一の対神呪法の専門家なんです』
「へえ……、そうなん?」
『まあ、人間と神とでは霊格が違うので直接戦闘では無力ですが、何らかの理由で一度無力化された神格に封呪をかけて処理可能な状態にすることが出来るんです。……それを封神法と呼びます』

 ――なるほど、ヒメちゃんの言によると、神に対抗するための人造兵器である式神(人造神)を用いて一度神格を無力化して、封神法でその力を封じてしまうのが陰陽師たちの対神戦闘の基本という事らしい。まあ、それら式神は普通対人間では使用されないものらしいので、今回の戦いに持ってくる暇がなかったという事だとヒメちゃんは話してくれた。

『封神法で彼の力を封ずれば……おそらく』
「……なあ、ヒメ」
『何ですか?』
「あの女性たちは、どうにかならんのかな?」
『それは……』

 俺は眠り続けている女性たちが起きた時の事を考えていた。真実を知った時どれだけの思いを得るのかは想像に難くない。

「神様なんだから、パパーっと彼女らを過去に返すとかできないのか?」
『残念ながら……現実の神は万能神ではないんです。いち土地神がどうにかできる問題ではなく……、それに』
「ん?」
『もし彼女らを……、元の時間軸に返したとしても、それでは後の貴方たちの選んだ選択が意味をなさなくなります』
「む……、じゃあ若返らせるとか」
『もしできるなら……、彼も……矢凪龍兵もやっていたでしょうね』
「そりゃそうか……」

 結局、どうにもならんのか――。俺がそう暗い顔で考えていると。

『司郎君……、彼女たちの事は、彼女ら自身……そして元凶である矢凪龍兵自身が解決すべき問題なんです。なんでもあなたが解決する意味はありません』
「そう……なんだけどね」
『それでも……女性の事を心配するのは、まさしく司郎君らしいですが』

 そう言ってヒメは微笑んでくれた。俺はその笑顔を見て少しだけ救われた気がした。
 その後、数分して二人の儀式が終わったようだ。
 涼音ちゃんたちがおっさんの体に手をかざすと、そこから淡い光が漏れ出し、おっさんは目を覚ました。
 おっさんは起き上がると辺りを見渡し、俺たちの姿を見ると目を大きく見開いて驚いていた。
 だがすぐに、自嘲気味に笑って小さく呻くように呟いた。

「そうか……俺の、罪を清算する時が来たのか」

 おっさんの言葉を聞いているのかいないのか、二人は黙ったままじっとしている。――すると美夜ちゃんの方が口を開いた。
 その声には怒りが込められていた。
 美夜ちゃんは静かに言葉を紡ぐ。まるで感情を抑えるかのように――。

「言いたいことはいろいろあるっす。あんたが母上の姉さんを攫ったせいで、うちらの……、土御門と蘆屋一族の関係はかなり拗れたっすからね」
「そうか……、まさしく全方位に罪を抱えているのだな」
「その通りっす。だから、これからは……その罪を償うためにその力を使うことになるっす。それが世間に仇なした荒ぶる悪神への罰っすからね」
「わかった……もはや、何も抵抗はしない」
「……でも、その前に謝るべき人たちがいるっす」

 その言葉におっさんはびくりと体を震わせた。そのおっさんを見つめる複数の目があったからである。
 それは――、

「目覚めたみたいじゃのう……おぬしら」

 涼音ちゃんがそう言って隠し扉の向こうを見る。そこには目覚めたばかりの女性たちがいた。

「おぬしらの間の事じゃから我々は関与しない。……が、なるべく穏便に、おぬしらの手を汚すことのないように……な」

 その言葉の意味を俺はため息をつきながら聞いた。これから先は――、彼らが彼らの意思で決めるべきことだろう。
 ――と、不意にその向こうから見知った声が聞こえてくる。

『司郎君……』
「姫ちゃん……、助けに来たぜ」
『うん……ありがとう』

 その女神さまの瞳には、初めて見る綺麗な涙が光っていた。

 
 ――最終試練、攻略完了。
 

 ◆◇◆◇◆


 ――あれから、ハーレムマスター契約による試練の日々から一か月がたっていた。
 矢凪龍兵とそのハーレムの女性たちがどうなったのかは俺は知らない。
 ただ、乱暴な解決がなされたわけではなく、女性たちも比較的冷静であることだけは涼音ちゃんから聞いていた。

「う~ん……」

 今日も今日とて、俺は学校の屋上で寝転がりながら青空を見つめていた。
 いやね? 最近になって気が付いたんだけどさ……俺ってば本当にエロにしか頭使ってないよね。
 まぁそりゃそうだよな。結局俺もあのおっさんと同じく、女の子たちの事を失った愛情の代価としか見ていなくて――、
 彼女らを個人的に好きとか――そういう話ではないのかもしれない。だから、彼女らの心ではなく体にしか興味がいかないのではないのか?

「う~ん……」

 だとしたら、俺は一生このままなのかな……? そんな風に考えていたら、突然屋上の入り口の扉が開く音がした。

 ――ガチャリ……。

 その音に視線を向けると、そこには――。

「みんな……」

 ――ドクンッ! 俺の心臓が大きく跳ね上がる。
 そこにいたのは、かなめ、日陰ちゃん、香澄、藤香さん、かいちょー、多津美ちゃん、ミリアム、アリス、ミコト、涼音ちゃん、美夜ちゃん。

「司郎……、こんなところにいたんだ」

 皆が笑いながら俺を見る。あれから――結局、俺は彼女らとエッチをしていない。
 別に俺が不能だったとかそういう意味じゃないぞ? まあいざという時になって、いつものごとく女の子たちが言い合いを始めたんで、中断してそのままになっているのである。
 まあそうだよね――、やっぱり女の子って、好きな人には自分を一番に愛しててもらいたいものだ。
 結局ハーレムは俺の我がままでしかなくて――。
 そう考えると、なんだか凄く申し訳なくなってきてしまって――それでこうして学校では一人でいる事が多いのだ。

「……どうしたんだよ?」

 俺は立ち上がると、彼女たちの方へと歩いて行く。すると――。

「ねえ司郎、そろそろ答えを出してくれないと――」

 かなめが怒りの表情をつくって俺を睨む。その通りだ――、俺はやっぱり彼女らの為にも、ハーレムの解散を宣言しなくてはならないのだ。

「わかった……、みんな、苦しめてごめん」

 俺がそう言って頭を下げると、皆は少し驚いた表情をした。そして――。

「やっと……わかってくれた……」

 日陰ちゃんが少し微笑んで言う。

「じゃあ、もう考えはまとまったのね!」

 香澄がそう言って笑顔を向ける。

「まあ……、それなら待った甲斐があったと言うものですわね」

 藤香さんが満足そうに頷く。
 俺は言葉を選ぶために考える。ハーレムの解散なんてしたことないからな。

「……で、答えはどうなったんだ?」

 かいちょーが意地悪そうな笑顔で俺を見る。

「まあ……司郎先輩の言葉なら従うほかないですし」

 多津美ちゃんがそう言ってそっぽを向く。

「……どうしましょう? ここで脱ぎましょうか?」

 ミリアム――、君はいまいち何考えてるんです?

「はは……まあ司郎君の発言を待とうよ」

 結構冷静に答えるのはアリスだ。

「まあ……そうだね。急いても仕方がないし」

 ミコトは優し気な笑顔を俺に向けている。
 俺はそんな彼女らの言葉で心が温かくなる。――少なくとも彼女らは、俺のハーレムとかいうわがままに真面目に付き合ってくれたのだ。

「……司郎。君の決断をわしは尊重するよ」

 そういって涼音は俺に笑顔を向ける。

「まあ……ウチもそんな感じっすね」

 美夜もまた笑顔を俺に向けてくれる。
 ――ああ、この娘たちはなんていい娘たちなんだ!!!! 俺は心からそう考えて感動していた。
 だからこそ!!! 俺は決断する!!!!!
 彼女らを裏切ることなどできない!!!!!!!!!!
 彼女らの為にも――、俺は長年のハーレムの夢を捨てなければならない!!!!!!!!!!!!!

「みんな!!!!!!」

 俺が声を上げると、皆が一斉に注目をする。

「俺決めたんだ! 君たちを不幸にするわけにはいかない! だから――」

 俺は大きく息を吸うと、彼女らを見つめて次の言葉を放とうとした――。その時――。

「で? 誰を一番にするの?」
「え?」
「だから、司郎とエッチする一番目の娘は誰だって……」
「へ?…………えぇ!?」

 かなめの質問の意味がよくわからない。俺とエッチする一番目? それはつまり――。

「あの……、司郎君? 私は……いつでも準備できていますから……」

 日陰ちゃんが頬を染めながら俺の方に近づいてくる。

「ちょ、ちょっと! 日陰ちゃん抜け駆けはなしですよ!」

 香澄が慌てて日陰ちゃんを引き留める。

「そうよ……、一応司郎が決めないと、こっちじゃ言い合いになって決めらんないからね」

 少し疲れた顔でかなめが言う。

「……まあ、殿方の性質から行って、数日にわたる可能性も高いですから……、いや司郎君なら二人同時にとか……いけたりします」

 藤香さんがあまりにあまりなことを口走る。

「それなら……、私……かなめちゃん一緒がいいな」

 日陰ちゃん――君は何を口走っているんです?

「あら? ……まあ、日陰ちゃんがそう言うなら……」

 かなめ――、君はどうしてこんな状況で落ち着いているの?

「まあ、確かにウチも二人同時がいいかな……涼音と」

 美夜――、君はやっぱりそっち系のケもあるんですか――。
 ――とりあえず、俺はその彼女らの言葉に冷や汗をかく。どうやら彼女らは俺の考えていることの先を行く、とんでもない女性達であるらしい。
 まあ、俺の好きになった彼女達だしね。
 そう――、俺は彼女らが好きだ。それは断言できる。
 いつも一緒にいてくれた――、そして今もみんなの中心で笑っているかなめが俺を見て言う。

「で? 誰とエッチしたいの? 早く決めなさい」

 ――うむ、俺の――、そして彼女らの未来は、どこに向かうのかはまだわからない。
 いつかは分かれてしまうのか――、それともこのままなのかもわからない。
 でも――、今ハッキリしている未来が一つある。
 ――多分、しばらく後に、俺は精力を彼女らに全部搾り取られるだろう。
 
 とりあえず、彼女らに見捨てられないような、最高の男にこれからならないとな!!!!


 ◆◇◆◇◆


『結局……ふられちゃったね』
 
 ただ一人、天城比咩神アマギヒメノカミは神社の境内で黄昏ている。あの後、司郎に神になることを断られたからである。
 ――そう、彼女は司郎に話していないことがあった。
 このハーレムマスター契約は、試練をすべて攻略したときに一度だけ、神への道を進むか人間としての生を全うするかの選択ができるのである。
 それは対となる男性神として――、自分の伴侶になることであり――。

『もちろん、期待していたわけではないですが』

 でも、神としての魂を得ると、永遠の生を得る代わりに、彼は多くの別れを経験することになる。
 それは、彼にとっては何より嫌なことだろうと彼女は理解していた。

『ああ――、司郎君。私はあなたを幼い時――あの日から見ていたんですよ?』

 それは司郎が幼稚園から逃げ出して、初めて神社へと足を踏みいれた時――、

『私はその日から、貴方を見守っていたんです』
 
 そうして見守っていたからこそ、彼こそが全ての試練を乗り越えられると信じたのだ。

『フフ……、伴侶に出来なかった事はとても残念ですが。でも――』

 彼の未来はおそらく明るい――、彼が今の両親と出会い、かなめという少女と出会ったことで、彼は悪しき運命から逃れる言ことが出来ていた。
 別の世界線では――絶望のまま死を迎えるはずの運命を――。

 だから彼女は祈る――、

『司郎君……、私の大事な子供の一人……、貴方に……』


 
 ――幸あれ。


 ◆◇◆◇◆


「姫ちゃん?」
『ん? 司郎君?』
「こんなところで何黄昏てるん?」
『……アレ? あなたは何をしにここに?』
「いや……何って。普通に遊びに来たんだが」
『……』
「姫ちゃん……ここから一応離れられるんだろ?」
『それはどういう意味……』
「どういう意味って……、遊びに行こうぜ! デートだデート!!」
『ふふ……』
「どうしたの? 姫ちゃん……」
『私は女神なので……ちょっと相手するのは大変ですが? もしかしたら命をとられるかもしれませんよ?』
「いや……まあ、女の子の為なら命を懸けるさ」
『そうか……そうですね』

 ――かくして二人は繁華街へと消えていく。その先にあるものは?
 きっと――。




<美少女名鑑その12>
名前:天城比咩神(姫ちゃん)
解説:スリーサイズなどは神ゆえに可変w。
矢凪龍兵の試練の時に生み出された分霊。
姉である先代を救うために、未来を信じる相手である司郎をその対抗として神にしようとした。
作中ではフラれる形になったが――、それはあくまで司郎が神になることを拒否しただけで、恋愛的にフラれたわけではない。
その未来は――。
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