11 Girl's Trials~幼馴染の美少女と共に目指すハーレム!~

武無由乃

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第二十話 FWO(フェアリーワールドオンライン)

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 ――その日、深夜零時、天城市において密かに異変が起きていた。
 それは一般の人間には分かろうはずのない異変――、異能の天蓋の消失である。
 それは外界と天城市を、において隔絶していた存在であり。
 唯一それを理解できる異能の者のみ、その大きな変化に驚愕し、そして困惑を得ていた――。

 その異能の天蓋の中心に位置する巨大なビル――、【】。
 その頂点にある一室で、とある男が独り言をつぶやいていた。

「そうか……、かの少年は、すでに七つの試練を乗り越えているのだな」
 
ならば――、と男は薄く笑うと、独り言を続ける。

「残る試練はあと……か」
「いいえ違いますよ……あとです」
「……」

 独り言を中断し男は新たな声の主の方を見る。――そして、何か懐かしいものを見るかのような優しい笑顔を向けた。

「やあ……久しぶりだね……」
「私の事をその呼び方で呼ぶな……、矢凪龍兵……」
「ふふ……これは嫌われたものだな……、天城比咩神アマギヒメノカミ
「……」

 その男――、矢凪龍兵の言葉に怒りの表情で答える天城比咩神アマギヒメノカミ
 彼女は龍兵を睨みつつ言った。

「矢凪龍兵……なぜ、この段階でを消したの? そんな事をすれば、貴方の存在を、私が思い出すって分かってたでしょうに」
「そうだね……」

 彼女の問いに対し、龍兵は楽しげな笑顔で答える。

「俺のは神格・天部にすら影響する……。それゆえに、お前は俺の事をすべて忘れ、別人である……同姓同名の別人だと思い込んでいた」
「そう……、貴方はかつての先代天城比咩神アマギヒメノカミが行ったの契約者……。あの時の女の子達と行方不明になった矢凪龍兵……。……いいえ、正しくはみんなが行方不明になったと思い込んでいた……」
「ふふ……まだ記憶が混乱しているようだね? そうやって、本来の記憶を反芻しないといけないとは……」
「矢凪龍兵……、彼女たちはどこにいるの?」
「……その問いは無意味だな」
「何を言って……」

 ――不意に天城比咩神アマギヒメノカミの全身から力が抜ける。声も出せずにその場に倒れるしかなかった。

「……今の君が私に対抗できると思っていたのかね? こうなることは予想できただろうに……」
「あ……く、そ……うか……。龍……兵」
「そうだよ……。天蓋を開放したのは……、一つは上座司郎君の試練達成の手助けをするため……。もう一つは……こちらこそ本命だが……」
「わ……たし……」
「そう……君だよ……
 
 その時点になってやっと、天城比咩神アマギヒメノカミは自分がこの男にハメられたことを理解した。
 この男は自分を誘い出すために――、記憶の混乱をそのままに、怒りだけで自分の所にやってくるであろうことを見越して罠を貼っていたのだ。
 
(司郎君……)

 彼女は薄れる意識の中、自分が心から信じる少年の事を想う。

(そんな……これじゃ、司郎君が……)

 その心に絶望が湧き出してきて、そして満たされていく――。
 男は――矢凪龍兵は、楽しげに笑いながら言う。

「君の言う通り……、残りの試練はだよ……。でも、最後の一つは決して、彼では乗り越えられないんだ」
「あ……う……、し……ろう……くん」
「だから……、そして……」

天城比咩神アマギヒメノカミはその瞳から一筋の涙をこぼす。

「上座司郎は……最後の試練を乗り越えられずに……」

 ――。

 ――それは、まさしく司郎にとっての死神の宣告であった。


 ◆◇◆◇◆


 ――一週間後、オンラインゲーム【ラグナワールド】の集会場にて。

白柴犬「よし! 今日のデイリークエ全部終わり!」
ブリジット「僕も同じく……」
白柴犬「……そうか、じゃあもうそろそろ遅いし落ちようかな」
ブリジット「イベクエにはいかないのか?」
白柴犬「やりたいのはやまやまだが……。明日学校が速いし」
ブリジット「学生は大変だな……」
白柴犬「そう言うお前は仕事とかいいのか?」
ブリジット「社会人じゃないし……」
白柴犬「え? そうなん? でも学生にしては、一日中深夜まで……。もしかしてヒッキーとか?」
ブリジット「怒るぞ」
白柴犬「いや、ごめん……。プライベートに突っ込んだらマズいよな」
ブリジット「いいよ……、確かに僕はそう言った感じだし」
白柴犬「……なあ? ブリジット」
ブリジット「なんだ?」
白柴犬「なんか悩みがあったら言えよ? 俺はお前のダチだからな?」
ブリジット「……」
白柴犬「ごめん……、こんな事、オンラインゲームの同チームとはいえ、素性の分からん奴に言われても……」
ブリジット「ありがとう……白柴犬」
白柴犬「……」
ブリジット「……なんて、別に悩みなんかないから安心しろよ! それより……」
白柴犬「なんだ?」
ブリジット「幻のブラゲって知ってるか?」
白柴犬「何それ? ブラゲ……ブラウザゲーム?」
ブリジット「そうだ……、噂では、そのブラゲにログインすると、異世界転移が出来るんだと……」
白柴犬「……まじか? そんな話……」
ブリジット「ネットには、そのブラゲにログインして……、そのまま行方不明になったやつの話とか流れてるぜ?」
白柴犬「う~~~ん? ソレってヤバい奴?」
ブリジット「ヤバい奴かもしれんが……異世界……行ってみたいな」
白柴犬「……本気か?」
ブリジット「……」
白柴犬「ブリジット?」
ブリジット「なんて……冗談だよ。お前とクエストするの楽しいから、当分はいくつもりないぜ?」
白柴犬「当分でなくても行くのはダメ……」
ブリジット「はいはい……(笑)」

 僕はそうチャットに書き込んでからため息をついた。
 彼は本当に心配性なんだな……、そう苦笑いしながら彼の顔を思い浮かべた。

 ――上座司郎。
 それがチャット相手【白柴犬】のプレイヤーの本名、僕はそれを知っている。
 まあ彼の方は僕の事は知らないんだけどね。
 
 僕は――、名前は無津呂むつろ みこと。私立天城高等学校に通っていた、れっきとした女子高生である。
 まあ――、という言葉でわかるように、今は通ってはいない――いわゆる不登校児なのである。
 その原因は入学当初からすぐに始まったいじめである。
 何が気に障ったのか、私はクラスの金持ち女子に目を付けられ――苛め抜かれた。

(でも……あの時司郎が助けてくれたんだよね)

 いつものように僕をいじめていた女子たちは、いきなりのセクハラの嵐に巻き込まれた。
 上座司郎――学校一のオープン痴漢男。
 彼のセクハラに連中は逃げ出し、僕はいじめから助けられる格好となった。
 それが偶然なのか――それとも意図して助けてくれたのかはわからない。
 でも、それは僕の心に刻まれる結果になった。

 それでも――結局はいじめはなくならなかった。
 だから――私はある日学校に通うのをやめた。
 
 そうして日がな一日オンラインゲームをしていた僕は、ある日この【ラグナワールド】で彼と再会することになる。
 
(ぶっちゃけ……司郎君ってば、個人を特定出来る固有名詞をしゃべりすぎなんだよね)

 僕はそう言って苦笑いする。――その彼が口走る固有名詞の代表が【】という名である。
 正直、変な詐欺に引っ掛かるのではないかとヒヤヒヤする。

 そんなことを考えながらチャット画面を見ると。

白柴犬「わるい! かなめが早く寝ろって言うから……もう落ちるわ」
ブリジット「そうか(笑)。かなめさんによろしく」
白柴犬「おう!!!!」

 そのまま彼は【ラグナワールド】から姿を消した。
 ――っていうか、おそらく彼は僕の事を男だとおもってるんだろうな。
 ふとそう意味のないことを考える。

「まあ……、それがどうしたって話だけど」

 ちょっとだけ落ち込みながら、僕はゲームの世界を駆け抜けた。

 ――そして、それからしばらくたって、深夜の二時を時計が示したころ、僕はふとあの噂を思い出した。

(幻のブラゲ……、そのいくつかある噂の一つ)

 その噂によって、そのブラゲのゲーム名を知ることが出来る。

 ――FWO――フェアリーワールドオンライン。

「別に異世界に行くつもりはないけど……」

 僕はPCのブラウザを立ち上げてその名を検索する――。すると――、

「あ……」

 それは確かに存在していた。ブラウザの検索の一番上にソレはあった。
 僕はつばを飲み込みつつその名称をクリックする――。すぐに画面が更新されて――、

「これが……、FWO?」

 それはとても簡素なログイン画面だった。

(まさか本当にあるなんて……、でも……)

 僕はさすがに怖くなって一度ブラウザを落とす。

(異世界……か)

 現実は嫌なことばかり――、いつか異世界に行きたいと思ってはいた。でも――、
 僕は再びブラウザを立ち上げる。そして――、

(あんなもん、ただの噂だよ……。そう、噂……)

 僕はFWOのログインマークにカーソルを重ねる。

(そう……ちょっとだけ……。ちょっと見て危なければブラウザを落とせば……)

 それはただの好奇心――、無論期待がなかったと言えば嘘になるが――。
 僕はそのままログインマークをクリックした。


 ◆◇◆◇◆


「眠り病?」
「そう……。今この天城病院にその患者がいるんだって」
「そんな病気があるんだな」
「うん……それで、その患者ってのが、天城高校の私たちの同級生らしいのよ」

 天城病院の受付で、かなめの話をぼんやり聞いていた俺は、それを聞いて首を傾げた。

「ふ~~ん? そんな話、学校で聞いたっけ?」
「うん……、話は聞かなかったよね? それもそのハズ、その子っていじめで不登校になってた【無津呂 命】って子らしいのよ」
「え?!」

 その段になってやっと俺の頭ははっきりする。
 彼女の事は覚えている、別クラスだったがそのクラスの女子どもからいじめを受けていた娘。
 見ていられなくて何度か助けて――、でも結局学校に来なくなってしまった娘。

「知ってるの?」
「ああ……、その子なら……」

 かなめはその俺の言葉に何やら気づいた様子で言った。
 
「病室……どこか調べようか?」
「え?」
「その子、知り合いなんでしょ?」
「ああ……」

 俺のその言葉にかなめは受付へと向かって走っていく。そして――、
 
「病室……どこか分かったから、行こうか」
「ああ……」

 俺はかなめに腕を引っ張られて、その病室へと向かったのである。

「あなた方は?」

 その病室に待っていたのは彼女の母親であった。
 俺は自分が天城高校での知り合いだと名乗り――、それを聞いたその人は深く頭を下げた。

「そう……、あの子にもお友達がいたのね」

 そう言って悲しげな表情で病室のベットを見る母親。
 そこに死んだように眠る少女がいた。

「これは……なんでこんなこと?」
「それが、いっこうに原因がわからないんです。わかっていることは、直前にパソコンでゲームをしていたことだけで……」
「パソコンゲーム?」
「はい……、たしか画面にはフェアリーなんとかって」
「フェアリーワールドオンライン?」

 俺がそう言うと母親は大きく頷いた。

「そう! そうです!」
「……」

 俺は黙ってベッドで眠り続ける少女を見た。

「何か知っているのですか?」
「いえ……、ただちょっと調べたいことがあるんで……、命さんのパソコンを見せてもらっていいですか?」
「え? それで何かわかるんですか?! ……お願いします!! 娘を助けて!!」

 俺に向かって何度も頭を下げる母親。
 その時の俺は嫌な予感を感じていた。

「その……フェアリーワールドオンラインって…何のこと?」

 横で黙ってみていたかなめが俺に聞く。

「ああ……、ちょっと前に、気になって調べてた【幻のブラゲ】の名前だよ……」
「幻のブラゲ?」

 その噂にはいくつかのパターンがあった。
 そのブラゲは異世界への扉を開く――。
 そのブラゲの名はFWO――。
 そのブラゲにログインしたものは――、異世界から帰れなくなってそのまま――。


 ◆◇◆◇◆


「それで? なんでアタシを呼んだんだい?」

 かいちょーは眠そうな目で俺を見てそう言った。俺は答える。

「この問題を解決するには、かいちょーの頭脳が必要だからね……」
「ふ~~~ん、信頼されたのはいいが……。この家……」

 ――そう、いま俺たちがいるのは、眠り病患者である【無津呂 命】の家である。
 その彼女の部屋のパソコンの前に、俺とかなめ――そしてかいちょーが立っている。

「不登校児【無津呂 命】か……。最近妙な病気にかかったって話だったけど」
「その眠り病……、もしかしたら異能かもしれないんだよ」
「異能だって?」

 さすがにかいちょーも驚きを隠せない。
 異能とは、最近俺たちがかかわった現実ではありえない現象の事。

「なんでそう思う?」
「以前、俺のゲーム仲間から聞いたんだよ。異世界へと転移できる幻のブラゲ……」
「まさかそれが?」

 いまパソコンの電源はオンになっている。そしてブラウザが立ち上がって、その画面には――。

「フェアリーワールドオンライン?」
「そう……これがそれだよ」
「ふむ……」

 かいちょーは顎に手を当てて考え込む。

「でも、なんでシロウはこれが原因で眠り病になったと考えたんだい? あまりに突拍子もない話だろうに」
「彼女がブリジットだからだよ……」
「ブリジット?」
「俺のゲーム仲間……ついさっきまでは男だって思ってたけど……。彼女だったんだ」

 俺は彼女のパソコンを見つめて言う。
 その画面の端には【ラグナワールド】のアイコンが見えている。

 俺は、病院での話の後、彼女の母親に頼まれてパソコン内を調べることになった。
 そして、それを調べるうちに、彼女が【ラグナワールド】のユーザーであり、そのキャラクター名がブリジットであることを知ったのだ。
 そして、それだからこそ、俺は彼女の眠り病の原因が幻のブラゲにあると考えた。
 アイツは――、ブリジットは、俺の忠告も聞かずに異世界へと旅立ったのだ。

「そうか……、その子がお前がいつも遊んでいたゲーム仲間で……、そいつから異世界へといけるブラゲの話を聞いて……」
「それがこのフェアリーワールドオンライン」

 かいちょーとかなめがそう言ってパソコン画面を見る。
 そこにはFWOのログイン画面が写っている。

「なるほど……、幻のブラゲという異能による異世界転移……、それによる現実世界の眠り病……、その二つはリンクしていると考えたのか」

 かいちょーは珍しく感心したような目で俺を見る。
 
「俺は……、ブリジットを連れ戻したい」
「それは……」
「あの後、医者に聞いたんだ……。彼女は本来ではありえないスピードで衰弱しているって……、このままだと一週間もたないって……」
「……」
「アイツは……ブリジットは俺のダチなんだよ……」

 このままでは彼女は衰弱して死に至る。それを俺は見過ごすことが出来なかった。

「……そうか、でもそれなら。もしそいつが異世界に行ってしまっているなら。助ける方法は一つだろうな」
「それは?」
「お前も異世界に行って連れ戻すしかない」
「……やっぱり、そうか……」
「半分は分かってたみたいだな司郎……」

 かいちょーの言葉に俺は頷く。

「そうかい……。まあお前が知る人間の中で、一番パソコンができるのはアタシだからね。自分がこいつにログインした後のサポートをしてほしいってんだろ?」
「ああ……」
「ぶちゃけめんどくさくて……、かなり危険だぞ?」
「それでも行く……」
「……まあ、お前ならそう言うだろうね」

 かいちょーはため息をつくと深く頷いた。

「いいよ、行ってきな……。その後にアタシができることは、全部してやるから……」
「すまん」

 俺がそう言って頭を下げると、かいちょーは歯を見せて笑って見せた。

「かなめ……かいちょー。後は頼んだ……」

 俺はそう言うとブリジットがいつも座ってたであろう机の椅子に座る。
 そして――、

(ブリジット……、待ってろよ)

 俺はそのままログインボタンをクリックした。
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