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第十三話 憎しみと悲しみと!

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やっとこの時は来た―――、アイツに復讐するときが―――。
アレから私は皆の前から姿を消した―――、お兄ちゃんが邪魔をする可能性があるからだ―――。
仕事にかまけて、想いを忘れたお兄ちゃんに邪魔をされるわけにはいかない―――。

―――そう、私は確実にあの男”皇 総馬”を殺して見せる。



-----



「いやあ―――今日は楽しかったっすよ」

俺はそう言って愛想笑いをする。
目の前のババアは嬉しそうに答えた。

「そう―――私も楽しかったわ。
 あなたのような有名人と食事が出来て、楽しい時間だったわ」

ああ―――反吐が出そうだぜ。
どこにババアと食事して喜ぶやつがいる。
―――特に目の前のコイツ―――、

高円寺こうえんじ あきら”―――、

―――金持ちのお偉いさんでなければ、こんなにへこへこする事もなかった。
親父の―――”皇王司”のたっての願いだから聞いてやっただけなのに、目の前のこのババアは―――、

「総馬くん?
 まだ時間があるのでしょう?
 いいお店があるのよ? ―――そこによって行きましょう」
「ええ―――いいですね」

いいことあるかよ―――、クソババア―――。
おそらくこいつは、最後はホテルにでも連れ込む気なのだろう―――。
ごめん被る話だ―――、

「タクシー呼びましょうか?」
「いいえ―――近くだし歩いていきましょう」

そういってババアは先を歩いていく。
逃げ出そうかな―――、そうもいくまい。

俺はそいつの後をついて天城公園へとたどり着いた。

「いい月っすね―――」
「―――ふふ、そうね」

なぜかババアが楽しげに笑う。
ああ、マジで逃げ出したい―――、何か起こらないかな?
―――と、その期待に応えるように、俺の背後からいつも感じているアレを感じた。

―――殺気。

俺は―――これでこのババアから解放されると喜んだのである。



-----



「―――」

私は最大に気配を殺して背後からそいつに襲い掛かる。
一撃を決める―――、
それで内臓を揺らして動きを止め―――そのまま一気に―――。

「は―――」

と不意に総馬が動きを止める。
―――まさか!!!!

そのまさかだった―――、その裏拳が私に向かって閃光のように走った。

「く!!!!!!」

私は避けざるを得なかった。
奇襲は完全に失敗したことを悟った。

「くそ!!!!!!」

私はそう叫んで、一度態勢を立て直して総馬に襲い掛かる。

「なんだ?! 可愛いお嬢ちゃんじゃないか!!!」

私を見て心底楽しそうに総馬は笑う。
―――奴は私を覚えていない。
まあ奴なら当然だ―――。

私は心を憎悪で塗りつぶす。

殺す―――、必ず殺す―――。
父さんと母さんの敵をとる―――。

「はは―――いいね!!!
 遊ぼうぜ!! お嬢ちゃん―――」
「皇―――総馬!!!!!!!」

―――と、不意に私を遮る大きな壁が現れる。
それは―――、

「やっと見つけた―――」
「お兄ちゃん?!」

それは”苅谷かりや 大河たいが”―――、
私の年の離れた兄だった。



-----



「こんなところで何やってる―――」
「お兄ちゃん」

私たちが駆け付けた時、すでに状況は起こってしまっていた。
刈谷さんが男と―――あの”多津美”の間に入って止めている。

「アンタ――――――、あの時の宮守要?
 それと―――」

私の方を向いて多津美がつぶやく。
私の背後には司郎もついてきていた。

「もうやめろ―――多津美」
「なんで?」

刈谷さんがそう言って多津美を押しとどめる。
多津美は感情の籠らない目で苅谷さんに言う。

「―――なんで邪魔をするのお兄ちゃん?
 目の前に父さんと母さんのかたきがいるのよ?」
「そうだとしても、やめるんだ―――」
「―――何それ―――、
 お兄ちゃんは本当に臆病ね―――、
 総馬に負けるのが怖いの?」
「そんな事じゃねえ―――」
「そんな事でしょ? 本当はお兄ちゃんが率先して、奴を殺さなきゃならないのに―――、
 仕事にかまけて―――憎悪を捨てて―――、
 ―――何してるの?」

私はその多津美の言葉に、悲しみを感じるとともに怒りを感じた。

「―――あんた、刈谷さんの気持ちを知らないでよくそんなことを―――」
「フン―――弱い子供は黙っててよ―――。
 復讐の邪魔をするなら―――あんたも―――」
「やってみなさい―――、私は負けない―――」

私は多津美の前へと歩いていく。
背後から司郎の視線を感じた。

「―――いってくる」
「ああ―――」

私の言葉と司郎の言葉が交差する。
私の心は決まった―――。

「なんだ? この茶番劇は―――」

不意に皇総馬が口を開く。
刈谷さんが警戒しながらそちらを伺い、―――それに司郎も加わった。

「アンタをボコボコにして―――負かす―――。
 そして―――復讐を止める」
「―――ふふ、面白いわ―――」

私の拳が多津美に向けられた―――。
―――負けられない戦いが始まる。



-----



私はその娘、宮守要に拳を向ける。

「―――本当に面白い―――、
 弱くてアマちゃんのくせに私を止めるって?」
「そうよ―――あんたには負けられない」
「負けられない?
 オトコを傷つけられて怒ったの?
 その報復なのかしら?」
「ふん―――、アイツは女に殴られるのは慣れてるからね。
 私的には怒ってはいるけど―――、今のアタシはそれだけではここにいない」
「―――”復讐を止める”ね―――、アンタみたいにぬくぬく甘く育った奴が言いそうな言葉ね?」
「なんとでも言いなさい―――、アンタだって刈谷さんの気持ちを何もわかってないくせに」
「わかるわけないでしょ?
 復讐を忘れて―――恨みを捨てて、仕事にかまけてるあの男の事なんか―――」

その言葉にかなめが怒りの表情を作る。

「―――ふ、何度でも言ってあげる。
 本当ならこんなこと―――お兄ちゃんが率先してしなきゃいけない事なのに―――、
 アイツは総馬の力に怯えて動かなかったのよ―――。
 そんな奴の気持ちなんて知るもんですか―――」
「アンタは本当に―――何も―――」

かなめはそう言って私に向かって走る。
その動きは予測していた。

刈谷流空手は”手わざ”を基本とする。
その鍛え上げた動体視力で素早く相手の動きを読み、最も正確に素早く動作できる”手わざ”で対応するのだ。
かなめの拳が弧を描いて私へと延びる、でも―――、

「見えてるよ―――」

私は苦も無くそれを手で反らすと、カウンターで拳を打ち込んだ。

「がは!!!!」

その一撃でかなめはくの字に体を折る。
―――ああ、本当に弱い。
なんでこんなアマちゃんが私の前に立つのか?
復讐を止める?

まさかこいつは―――”両親はそんな事望まない”とでもいうつもりなのか?
―――そんな事、

「私には関係ないのよ―――」

そのまま私はその手の平をかなめに伸ばす。
”破皇掌”―――、内蔵へ浸透する打撃で―――痛みを与えよう。
ソレは私の心の痛みに比べれば些細なものだが―――、
この程度のアマちゃんはそれで十分だろう。

「破―――」

手のひらがかなめに伸びる。

「皇―――」

ただ冷たい目でかなめを見る。

「掌―――」

―――そのままかなめは後方へと吹き飛んだ。

「かなめ!!!!」

あの司郎という男の声が響く。
あの男もなぜこんなことを彼女にやらせるのか?
くだらない男だ―――、自分の彼女がボロボロに負けるのだというのに。

「ふ―――」

私は一息の間、その男を見る―――。
その男の顔には絶望がある?
―――いや―――?

「―――いけ!!!!! かなめ!!!!!!!!!!!」

その男は確かにそう叫んだのである。

「!!!!!!!!!!!!!!!!」

衝撃が私の身体に走った。

ドン!!!!!

それは神速の前蹴り。
一瞬でも隙を見せてしまった私はそれを避けることはできなかった。

「は!!!!!!!!!!!!!!!」

息が止まる―――激しい痛みが意識を白く塗り変える。

「く―――」

それでも何とか私は意識を押しとどめた。

「この―――」

私はかなめを観察して次の攻撃に備える。
―――回し蹴りが飛んできた。

無駄―――、私はそう考えながら蹴りの軌道を反らそうとする。
しかし、手が触れるその瞬間に、蹴りがその軌道を大きく変化させた。

「!!!!!!!!!!!!!!!」

ドン!!!!!!!

容赦のない回し蹴りが意識を刈りに来る。
―――不味い。
それは格闘家だからこその警戒信号―――、
その蹴りはあまりにも重い。

「悪いね―――あの時は―――」

不意にかなめがそう言って私に声をかける。

「アンタの事情を知らなかったから本気を出せなかった―――」
「何を―――」
「事情を知った以上―――、私はあんたに負けない―――。
 司郎を傷つけたことは許せない―――、
 でもそれだけじゃない―――」

私は体勢を立て直してその手をかなめに伸ばす。

「破―――」
「無駄―――」

その手が前蹴りで反らされた。

「アンタはわかってないよ―――、なんで刈谷さんが復讐をしないのか」
「弱いから―――」
「違うわ―――強いから」

何を言っているのか?
強いならあんなクズをいつでも殺せるだろうに。

「何を言ってるの?
 それじゃあなんで男を殺さない?
 ―――ソレが弱いことの証明じゃない―――」
「貴方たちを捨てて?」
「?」

かなめは怒りの表情をつくる。

「―――捨てられるわけないじゃない。
 大切な家族を―――、アンタたちは死んだ両親と違って”生きてる”んだから」
「―――ん?」
「刈谷さんがアイツを殺して―――、その先はどうなる?
 あんたたちを育てるために―――、何より捨てられない”家族”のために―――、
 ”家族”なんかより不要な”復讐心”を捨てたのよ―――」
「!!!!!」

その瞬間やっと理解する。
いつも苦し気に―――でも笑顔で私たちの食事を作ってくれていたお兄ちゃん。
それは―――、何より私たちが大事だったから―――。

「そんな事―――」

私は心を乱されて動きが止まる。
その隙をかなめは見逃さなかった。

「アンタは―――捨てるの?
 弟を―――、大切な家族を―――。
 あんたのその”復讐心”のために?」
「あの子が苦しんでるのよ!!!!」

私は叫ぶ―――。

「恨みを晴らしてくれって!!!!!!!!!!!」
「それは―――弟のせいで自分は殺人者になるって意味?」
「―――?!!!!!!!!!!!!」

私ははっきり理解した。
私の復讐心は所詮私だけのものだ―――。
これでは弟に罪をかぶせているみたいじゃないか。

「アンタの弟は―――大輔君は言ってたそうよ。
 もう僕は恨んでないから―――、帰ってきて―――って」
「あ―――」
「―――だから今は負けなさい。
 この次、本当の意味で立ち上がればいいから―――」
「く!!!!」

私は脚に力を籠める。
もう復讐心などでは立ってはいなかった。

「かなめ!!!!!!!!!!!」
「天―――」

その瞬間、私の身体がよろける。

「龍―――」

その一撃で意識が真っ白になる。

「きゃああああああああああああく!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

そのまま私は―――、



-----



何とも面白くない茶番劇だった。
女二人がお遊戯の格闘ゴッコで遊んでいるだけで―――、面白くもなんともない。
―――はあつまらん。
目の前の男たちは俺に襲い掛かってくる気配もない。
―――襲い掛かってきても返り討ちに出来るが。

その時、ババアが格闘ゴッコを見つめて真剣な目をしているのに気付いた。
つまらんことにならないといいが―――、
俺は一息ため息をついた。

―――そして、格闘ゴッコの決着はつく。
蹴り技主体の女の圧勝だった。



-----



「かなめ―――」

俺は確かに信じた通りの決着を見た。
―――それはかなめの圧勝だった。
多津美は何とか意識があるようで、なんとか立ち上がろうともがく。

「休んでいなさい―――」

かなめがそう言って優しく見つめた。

「司郎―――」

かなめの笑顔が俺に向く。
俺は拳を握って称えた。

「何なんだあんた等―――」

不意に背後から男の声がする。
俺はそいつに向かって怒りを向けた。

「よくわからんが―――、遊びたいならよそでやれよ」
「なあお前―――」
「あん?」

俺の言葉につまらなそうな目を向ける男。

「彼女の事を覚えているか?」
「は? 知らねえよ―――」
「お前が昔襲った道場の家族だ―――」
「―――」

男の顔が冷たい表情に変わる。

「何を言ってんの?
 俺がいつそんなことを―――」
「お前が忘れても被害者は覚えているぞ?」

その言葉を聞いて、側に立っている夫人が言葉を発する。

「そう―――そんなことが」
「何言ってんですか? こいつらの言葉信じないでください」
「―――でも、彼女の目は真剣だったわ。
 私にはその想いが確かに伝わってきた―――」

夫人がそう言って多津美の方へと歩いていく。
そして―――、

「つらかったのね?
 心までボロボロになって―――」

そう言って多津美の頭を撫でた。
その光景に男が怒りに満ちた表情を向ける。

「おいババア!!
 いい加減にしろよ!!!」
「―――」

その言葉を無視して多津美をいたわる夫人。
男は拳を握って夫人のもとへと歩いていこうとした。

「―――まて」

その視界を俺が遮る。

「どけガキ―――潰すぞ?」
「謝れ―――」
「何?」
「彼女たちに―――被害者に謝れ!!!!!」
「は?」

男は笑っておどける。

「昔の事なんて忘れたよ―――、
 知った事じゃないし―――どうでもいい」
「―――お前、見下げ果てるクズだな」
「なんだと―――」

その男の目が鋭く変わる―――。

「いい加減にしないと警察呼ぶぞ?
 警察呼ばれて困るのはお前らだぜ?」
「優しいパパがついてるからか?」
「―――」

男は無言で俺の襟をつかむ。

「は―――確かに俺は昔、殺ったよ―――。
 弱っちい道場主が反撃しようとしたが返り討ちにしてやった。
 ボコボコに殴ったら動かなくなったんで―――それを見てたババアも殴った。
 それがどうした? ガキ―――」
「貴様!!!!」

ゴリっちが怒りに満ちた顔で男を見る。

「―――俺には親父がついてる。
 何しても悪になるのはお前らだぜ?
 ほら―――襲って来いよ―――。
 出来ないだろうが―――」
「く―――」

多津美が怒りのままに立ち上がろうとする。
それを夫人が止めた―――、

「事情は理解しました―――、
 あなたがどういう人間なのか―――」

そう言う夫人の目は冷たく男を見据えていた。
男はおかしそうに笑いながら言う。

「はは!!!
 ―――もうどうでもいい。
 お前ら全員聞いたな?
 聞いたよな?
 なら―――死ねよ」

そいつが一瞬で刈谷へと間合いを詰める。

「!!!!!!!!!!!!」

一瞬でゴリっちは吹き飛ばされた。

「―――とりあえず厄介そうなのはこれで沈めた。
 あとはガキとババアだけだな―――」

男は残忍に笑う。
俺は―――、

「あの―――このことは見なかったことでいいです?」

その夫人に向かって言った。
夫人は確かに頷く。

「―――大丈夫です。
 私は何も見なかったし。見ていませんから。
 存分に返り討ちにして差し上げて―――」
「ありがとう―――」

俺はそう言って頭を下げた。



-----



は―――ガキがいい気になって立ち向かってくるか?
俺は世界で見有数の格闘家―――”拳皇”と呼ばれているほどの存在だ―――、
日本のただのガキに後れを取るわけがない―――。

俺は一瞬にして間合いを詰める。
ガキは反応出来ていない。―――当然だこのままガキを沈めたら、あとはあの女どもを処理する。
後は親父に電話をして対応してもらえばいい―――そう、いつもの事。
俺はそうやって生きてきた―――、どんなことをしても俺は自由だ―――。
このババアが何者だろうか知るか―――、

余計なことを知ったやつらは処理してしまえばいい―――。

俺は拳の連撃をガキに叩き込む。
そいつは確かに体を揺らし吹き飛ぶ。

俺は―――笑った。これで終わりだ―――。

―――しかし、そいつは倒れなかった。
そしてこう呟いたのだ。

「お前の拳―――軽いな」



-----



俺はその連撃をあえて受けた。
意識を加速しその連撃の軌道を読み、そのまま身体そのもので衝撃を反らす。
それでも―――その攻撃は少なからず俺に痛みを伝えた。

(こんなものを―――ゴリっちの両親は何度も受けたのか)

その痛みは決して軽いものではない。
一般人なら一撃でも意識が消えるだろう。でも―――、
なんでこんなに軽く感じるんだろうな?

―――そのままを俺は口に出す。

男はその言葉を聞いて怒りの表情を作った。

「は!!!! やせ我慢が!!!!!!」

お前の拳はあまりに軽すぎる。
それこそはお前の心の重さと等価なのだろう―――。

その時、俺の拳の星印は確かに輝いていた。

「ゴリっちの両親を傷つけ―――、
 ゴリっちの心を気付つけ――――」

意識が回復したゴリっちが俺を見つめる。

「大輔の心を汚し―――、
 多津美ちゃんを苦しみ抜いた―――」

多津美ちゃんが俺を見つめる。

「―――そんな拳がこの程度だって?
 馬鹿にするのもいいかげんにしろよお前―――」
「な?!」
「大輔は―――苦しんだんだぞ!!!!!!!!!!!!!
 それでもお姉ちゃんを助けてって――――!!!!
 もうお前の事は恨んでないって!!!!!!!!!!!!!!
 ―――本当はそんな事ありえないのに!!!!!!!!!!!!!」

俺の絶叫に多津美が一筋の涙を流す。

「―――恨みは消えないのに!!!!!!!!!!!
 一生引きずって生きて行かなきゃならないのに!!!!!!!!!!!!
 てめえはそんなこともわからず恨みを――――憎しみを周囲に振りまいてきたのか?!!!!!!!!!!!!!!!」

男は初めて怯えるような眼を俺に向ける。

「―――お前の事は殺さねえ―――。
 てめえごときの命と、俺の人生は等価じゃないんでな―――、
 ―――だからその軽すぎる命を永らえて、一生嘆いた人達の想いを背負って生きていけ!!!!!!!!」

男が叫びながら連撃を放つ。
しかし、その拳は俺に一つも届くことはなかった。

宮守流蹴連撃法の2―――、

<地龍脚>

高速の蹴りの連撃が男の身体に吸い込まれていく。
―――そして、

「はあああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

地面に顔面から激突した、男のその拳にむかって俺は最後の一撃を放った。



-----



あの事件から三日が経った―――。
何者かに襲撃された皇総馬は―――そのケガからもはや格闘界からの引退を余儀なくされた。
―――そして、それに関連して皇王司の警察幹部との癒着が発覚して―――、総馬の過去の罪が暴かれる結果となった。

俺はかなめとともに天城病院へとやってきていた。

「あ!!!! 司郎お兄ちゃん!!!!!」

大輔が嬉しそうに俺に抱き着いてくる。

「おう!!! 今度手術だってな!!!!
 がんばれよ!!!!」
「うん!!! もうお姉ちゃんたちに迷惑かけたくないから!!!!」
「そうか―――目が見えるようになったら、今度はお前がお姉ちゃんたちを助けなきゃな」
「うん!!!」

その光景を微笑んで見つめるかなめと多津美ちゃん。

「あの―――かなめ…さん」
「うん?」
「ごめん―――」
「もういいよ―――」

かなめは多津美ちゃんの言葉に笑顔で返す。
俺はその笑顔を見て確かに多津美ちゃんの目から暗い影が消えたことを理解した。

「―――やっぱそのほうがいいよ」
「ん―――」

その俺の言葉に多津美ちゃんが顔を赤くする。
その表情を見てかなめが苦笑いした。

「司郎―――」
「あ―――ごめん」

かなめの言葉に赤い顔の多津美ちゃんが謝罪する。
―――彼女の―――、多津美ちゃんの本当の人生はこれからだ。


―――第五の試練、攻略完了。
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