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第七話 女王様と従者たち
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「それで?
三日使ってみて彼の評価はどうですの?」
三浦家使用人の長である松坂に、藤香は少しも笑いもせずそう言った。
松坂は答える。
「いや―――、なかなかに惜しい人材ですな。
体力はあるし頑丈で情熱もある―――、
多少頭が悪く要領が悪いところはあるものの、教えれば間違いなくこなすことが出来る―――、
正直、本気で我が部下に欲しいと思ってしまう少年です」
「ふうん?
それは―――、なかなかの評価ですわね」
その言葉を聞いて藤香は考える。
(―――フム。
彼は労働者としてはこの上なく優良な人材ではあるみたいですね。
経営を教えればそちらへの適正すらあるのかもしれません)
あの時上座司郎は言った。
『俺は―――藤香さんに本気っす!!』
(あの言葉は―――、何か裏があるような気が私にはします。
何かを隠しているような―――、でも―――)
少なくとも彼から悪意は感じられない―――と藤香は考える。
(―――もうしばらく見守る必要がありそうですわね)
そう言って藤香は目を瞑るのであった。
-----
今俺は藤香さんの屋敷で使用人見習いをしている。
それもちょうど三日目、仕事はなかなかの重労働だが、そこそこ慣れてきたところだ。
無論、その間も学校はあって、藤香さんについて回って世話をしているが―――、
ソレのせいで―――と言ったらなんだが―――かなめや日陰ちゃん、香澄とは顔を合わせることはほとんどなかった。
(心配してるかな―――)
正直、みんな話して納得してもらった方がよかったのかも―――とも考える。
第三の試練―――三浦藤香さんに関わってくるのは、あの”拳銃男”ではないのかと俺は考えていた。
だから、彼女らには危険な目にあってほしくなくて、かなめにだけ話して俺や藤香さんから彼女らを遠ざけてもらったのである。
「ふう…」
いつになく真面目に働いている俺は、現在美少女欠乏症にある。
無論、屋敷には可愛いメイドさんもいるが―――、彼女らは別に俺に笑いかけてはくれず、事務的な対応しかしてくれない。
だから、唯一藤香さんだけが俺のオアシスになりつつあった。
―――と、不意に屋敷の玄関が騒がしくなる。
俺が、何事かとそこへ向かうと―――。
「―――私たちをメイドとして雇ってください!!!」
「そんな事、いきなり言われても―――」
使用人の一人である加治さんが、うろたえた表情で何者かと会話をしていた。
「加治さん? ―――どうした…
!!!」
その、加治さんが対応している相手を見て、俺は驚愕で目を見開いた。
なぜなら―――、
「あ…司郎君…」
「日陰ちゃん?」
それは日陰ちゃんと―――、
「あ!! 司郎君!!!」
「ふう…」
俺を見つけて嬉しそうな香澄と、小さくため息をつくかなめだった。
「なんで?」
俺がそう呟くとかなめが―――、
「―――隠し通せなかった。
っていうか普通に気づかれた」
そう言って苦笑いをした。
「司郎君…ごめんなさい。
いけないとは思ったけど…心配で」
「そうよ!! 何一人で背負い込もうとしてるの!!!」
日陰ちゃんが申し訳なさそうに呟き、香澄は頭に怒りマークを作って抗議してきた。
「でも…」
「デモもストライキもあるか!!!
危険ってわかってて、アンタを一人に出来るわけないでしょ!!」
香澄の言葉に俺は少しうろたえる。
「…そういうコト。
まあ、私も本当は―――こうするのが正しいんだろうと思ってたんだけど…ね」
「かなめ―――」
「―――司郎。
ごめん、やっぱ我慢できなかったよ。
司郎が私たちを心配してくれるのはわかる―――、
でもそれと同じように私たちも司郎が心配なのよ」
「…」
俺はそのかなめの言葉に黙り込む。
正直、心の中では嬉しくてたまらなかった。
「その方たちは―――」
不意に背後から藤香さんの声が聞こえてくる。
「あら? 貴方は―――」
「三浦さん!! 私たちを雇ってください!!」
「―――」
そのかなめ達の言葉に、一瞬藤香さんは俺を見た後―――、
「いいでしょう―――、
とりあえず入ってきなさい」
そう言って彼女たちを招き入れるのだった。
-----
その後、藤香さんはかなめたち三人を自分の執務室へと招いた。
その中でどのような会話がなされたのかはわからないが、再び俺がかなめたちと再会したとき、彼女らは全員メイドの恰好をしていた。
―――こうして、俺とかなめたちは同じ屋敷の中で、使用人として働くこととなった。
俺は正直複雑な気持ちではあったが―――、
何より俺を心配して来てくれたことがうれしかった。
―――そして、屋敷での日々は瞬く間に過ぎていった。
-----
俺が藤香さんの屋敷で働くことになって、ちょうど一週間にもなろうとしていた時、俺は藤香さんの執務室に一人で来るように言われた。
執務室についた俺を待っていたのは、穏やかな表情の藤香さんだった。
「一週間本当にご苦労でしたね、司郎君」
「いや!!! どうってことないっす!!!」
「本当によくやってくれています。
松坂も褒めていました」
「はは!! 藤香さんのお側に居られるんだから、本当に幸せでがんばれるっす!!」
「ふむ…」
その俺の言葉に少し笑みを消して言った。
「わたくしを好き―――、貴方はそう仰っていますね?」
「はい!!!」
「それは―――」
藤香さんは一息ためると、はっきりと言った。
「かなめさんや、日蔭さん、香澄さんたちと比べて―――、上でしょうか?」
「!!!!」
俺は驚いた顔で言葉を詰まらせる。
その反応に藤香さんは満足げな顔をして言った。
「フフフ―――、さすがに下でしょうね。
少し妬けますわ―――」
「そ―――それは」
「―――言わなくても分かります。
あなたと私はついこの間出会ったばかりでお互いをよく知りません。
―――一目ぼれ、もあるかもしれませんが、貴方がそれだとはわたくしには思えません」
「う―――」
「わたくしをエッチな目で見ていることは事実ですが、―――まあそれはいいでしょう」
そこまで言うと、藤香さんは両手を組んで俺を見つめる。
「―――それで、貴方は何の目的でわたくしに近づいたのか?
―――なんて思っていたのですが―――、
貴方が、害意があってわたくしに近づいたのではない事だけは予測できました」
俺は何も言えなくなった。
この藤香さんは恐ろしく頭がよく、俺の裏の心を見抜いてしまっていた。
「お―――俺は―――」
「フフ…いいんです。
私はあなたを責めていません。
あの娘たちがあなたを信頼し―――、だからこそ屋敷で一緒に働いていることはわかりました」
藤香さんは、さらに「だからこそ―――」と言って、真剣な表情でさらに続ける。
「わたくしは、貴方は信頼に足る人物だと判断いたしました。
もし話せる時が来たら、貴方の事情―――目的を話してくださいませんか?
無論、今でなくてもいいです―――」
俺は藤香さんのその言葉を聞いて―――、
「わかりました藤香さん。
全部話します―――、信じてもらえるかわかりませんが」
そうして俺は藤香さんの前でこれまでの事―――、
そして、彼女に迫る危険をすべて話すこととなったのである。
-----
その夜、俺は一人で月明かりが照らす屋敷の、廊下の窓辺で考え事をしていた。
(―――話を聞いた藤香さんは黙っていた。
そして考えさせてくれと言っていた)
さすがに、ハーレムマスター契約の事まで話したのは不味かったかもしれない。俺は今更後悔した。
「ふう―――」
俺がため息をつくと―――、
「どうしたの司郎」
それを聞きつけたかのようにかなめが現れた。
「眠れない?」
「―――ん?」
「なんか悩みでもある?」
「―――」
そのかなめの顔を見た時、俺はふとあることを思いついた。
それをそのまま口に出す。
「俺は―――、何のために試練を越えようとしてるんだろな?」
「何それ」
かなめが不思議なものを見るような表情で俺に聞き返す。
「俺は―――女の子が好きだ。
囲まれてエッチなことしたい。
だからハーレムマスター契約をして、何とか試練を乗り越えてきた」
「うん? 司郎らしいじゃない?」
「俺は沢山の女の子が、俺の事を好きになってほしい―――、
イチャイチャしたい―――、
―――でも」
「…」
「俺ってただエロいことをしたいだけで―――、
みんなの事を本当に好きなんだろうか?」
そこ言葉を聞いたとき、かなめは少し笑って言った。
「なに? いまさら自分が気が多い事に悩んでるの?
女の子をエロの対象としか見ていないのかって?」
「俺は女の子とエッチしたい。
でも―――ソレってただの性欲だけで―――、
女の子の事、なんも考えてないんじゃないかって」
「ふむ」
かなめは少し考えると言う。
「司郎は日陰ちゃんのことどう思ってる?」
「日陰ちゃん?
う~~ん、助けてあげたい娘かな?」
「それはなぜ?」
「日陰ちゃんはいつも自信なさげで、自分を卑下している節があるから、かな?
日陰ちゃんは十分魅力的な娘だって証明してあげたい」
「じゃあ香澄の事は?」
「香澄は、一緒にいっぱい楽しいことをしたい娘かな?」
「なぜ?」
「香澄って、結構自分の心を押さえこんでるから―――、
それを開放して一緒に遊べば楽しいだろうって」
「なら―――」
かなめは不意に真剣な表情になって言う。
「私は?」
「え?」
「―――」
「ちょっと、本人の前では―――」
俺は少し顔を赤くして言う。
「ふ~~~ん」
少しジト目で睨まれた。
「そう言うお前は、俺の事どう思ってるんだよ!」
「司郎が言わないなら、あたしも言わない」
そう言ってかなめは小さく舌を出した。
「むう」
「フフ…」
不意にかなめが笑う。
「今は―――、今の司郎でいいんじゃない?」
「え?」
「気が多くてエッチばかりしか頭にないけど―――、
一生懸命に頑張ってる司郎は、とってもカッコいいよ」
「む―――」
そのときの俺はどんな顔をしていたのか?
俺はかなめに見せないようにそっぽを向いた。
―――と、
パン!!!!!
「?!!!」
夜の闇に、何やら破裂音のようなものが響く。
それは確かに、屋敷の玄関の方から聞こえて来た。
「これって―――」
俺はイヤでも思い出す。俺の腹を打ち抜いた拳銃の音。
その音を聞いて、俺はかなめに目で合図をする。
「―――行こう!」
俺たちは玄関へ向かって走った。
-----
俺達が走って玄関にやってくると、そこは修羅場になっていた。
「松坂さん!!!!!」
屋敷のメイドの叫び声が響く。
「うるさい!!! 静かにしろ!!!!!」
その男は、メイドを人質として羽交い絞めにしながら、その右手の拳銃で松坂さんに銃弾を撃ち込んでいた。
松坂さんは腰から血を出してその場に突っ伏している。
「おい!!! あの女を出せ!!!!
こいつを殺すぞ!!!!」
男はそう言って銃口をメイドの顔に押し当てながら叫ぶ。
(ち…これじゃあ、下手に動けねえ)
俺とかなめは男との間合いを図りながら隙を伺う。
しかし―――、
「早くしろ!!!! 十分以内に来ないならこいつを殺す!!!!」
狂った目の男は唾を吐きながらそう叫ぶ。
男に向かってかなめが言った。
「あの女って誰の事です?
それを言ってくれないと、連れてくることは―――」
「三浦藤香だ!!!! あいつを連れてこい!!!!」
(やっぱり―――)
俺たちの予想が確信に変わる。
これが第三の試練で間違いない。
―――と、
「司郎君?! なんの騒ぎっ…て、アイツ?!」
香澄が俺の背後から顔を出す。
男の顔を見て驚きの表情を浮かべた。
「司郎…君」
「日陰ちゃんも来たのか?」
騒ぎを聞きつけて日陰ちゃんまで現れる。
さすがに危険なんで来てほしくなかったんだが―――。
「日陰ちゃん―――、香澄―――、とりあえず二人は下がってて」
「「う…うん」」
二人はとりあえず素直に頷いた。
その間にも時間は過ぎ―――、
「これ以上待てないぞ!!!!
奴が来ないならこいつを―――!!!」
男の怒りは頂点に達し、その銃口をメイドの頬に押し当てて引き金を引こうとした。
(まずい!!!!)
俺たちが無理を承知で突っ込もうとしたとき―――、
「待ちなさい!!!!!
わたくしはここですわ!!!!」
その声と共に藤香さんが現れる。
「三浦―――藤香―――」
その時、男の表情が憎悪に歪む。
「お前のせいで―――お前が―――」
「―――」
その歪んだ眼を正面から受け止める藤香さん。
「貴方は―――、そう言う事でしたの―――」
「そうだ!!! 俺だ!!!!
三浦藤香!!!!」
藤香さんは何か納得した表情で男を見つめ、男は怨嗟に満ちた声をあげた。
俺は藤香に問う。
「こいつの事知ってるんですか?」
「それは―――」
彼女が語ろうとしたとき、男が声をあげる。
「お前のせいで!!!!!
俺の会社はつぶれたんだ!!!!
お前に潰されたんだ!!!!」
「?!!!」
その言葉に俺たちは息をのむ。
「お前に会社を潰されたせいで!!!!!
俺の家族はバラバラになった!!!!!
全部お前のせいで!!!!!」
―――まさか、と俺は思った。
「藤香さん? 本当なんですか?」
かなめが藤香さんを見つめてそう言った。
藤香さんは、少しため息をつくと言葉を返す。
「彼は―――、わたくしが運営している会社の、下請けであった橋山工業の社長だった男ですわ」
「え? ソレって…」
「そう―――二年前ほど前に取引をやめましたが―――、倒産していたのですね」
その言葉を聞いた男は叫ぶ。
「何を他人事のように言ってる!!!!
全部お前のせいだろ!!!!
お前が俺の会社を追い詰めて潰したんだろ!!!!!」
「―――」
藤香さんは黙ってこたえない。
「おかげで俺は―――、妻も子供も俺から離れてったんだ!!!!
俺がこうなったのはお前のせいだ!!!!!
―――だから殺してやる!!!!
お前を!!!!
俺たち中小企業を馬鹿にして搾取した挙句―――、
用無しになったら潰すクズ女が!!!!!!!」
男は口からつ場をまき散らしながら吠える。
その罵詈雑言は聞いていられないほど醜かった。
(藤香さんが本当にそんなことを?
―――でも)
俺はその男の言葉が信じられなかった。
そして―――その疑問はすぐに解けることになる。
「―――そう、貴方はそう解釈したんですね」
藤香さんは深くため息をつくとそう言った。
男は唾を吐きながら叫ぶ。
「なにが”そう解釈した”だクズ女!!!!」
「お黙りなさい!!!!」
―――その瞬間、藤香さんの叱咤の声が飛ぶ。
「!!!」
「貴方は勘違いしていますわ―――。
我が家は―――わたくしは、下請けである中小企業を―――、
蔑むことも―――
侮ることも―――
ましてや恐れることもしたしません」
「なに?!」
「貴方の会社程度を潰すことで、わたくしの会社に利益があると―――
本気で思っているのですか?」
「な―――」
「貴方の会社―――、橋山工業とは、わたくしのおじいさまの代からの付き合いでした。
先代、先々代と、深く付き合ってきた大事な会社でした。
しかし、ある日を境に橋山工業は運営形態を大きく変え、大きく利益を減らし、損益すら出した―――。
―――そう、貴方か社長に就任してからです」
「―――」
「わたくしは当然、運営を正しく戻すように再三言いました。
しかし、貴方は聞き入れなかった。
―――だから、私はあなたの会社を切らざるをえなかった」
藤香さん男を睨んで言う。
「―――それから、しばらくして倒産したのでしょうね?
貴方なら―――おそらく、わたくしの会社に切られたことで焦って―――、
無茶な投資に手を出したと言ったとこですか?」
「ぐ―――」
マジか―――、どうやら図星らしい。
「あなたのご家族も大変だでしょうね―――。
あなたのような経営の出来ない、ろくでなしに関わってしまったのですから」
「く―――」
男はあまりの事に口から泡を吹き始める。
(こりゃ不味い―――、これ以上挑発したら―――)
俺がそう考えると、まさにその通りに男は動いた。
「うああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
絶叫した男は、その銃口を藤香さんへと向けたのである。
そして―――、
ダン!!!!!!!!!
銃声が鳴り響く。
「藤香さん!!!!!!」
全速で駆けた俺が藤香さんを庇うのと、銃弾が地面を穿つのは同時だった。
「な!!!!」
男は驚愕の表情を浮かべる。
俺は藤香さんを抱えて転がる。銃弾は命中しなかった。
俺は、呆然と俺を見つめる藤香さんをその場に寝かせて、立ち上がると男に向かって言った。
「あ~~~やだね。
女の子を傷つけることしかできないカス野郎は」
「なんだと…」
男が俺を睨む。俺は構わず言う。
「まあ、俺はお前と違って―――、
女の子を気持ちいい~~~天国に連れていけるが…!!!」
その俺の言葉を聞いて―――、
かなめはため息をつき―――、
日陰ちゃんは赤面し―――、
香澄は怒りマークでツッコミを入れる―――、
「こんな状況で何言ってんだ!!!!!!!」
男は困惑顔で俺を見る。
「お前…何を訳の分からんことを」
「はん? 俺の事を忘れたのか?」
「!!!!」
男はやっと思い出す。
かつてある女子高生を狙ったときに邪魔した―――、
「貴様―――」
「思い出したかカス野郎」
「またお前は―――俺の邪魔を」
男は銃口を俺に向けなおす。
それを見てかなめたちが叫んだ。
「司郎!!」
「大丈夫―――」
俺は男を睨んだまま笑う。
「ほら撃ってみろよ―――、まあテメエみたいな玉無しには俺を殺すのは無理だろうが」
「貴様!!!!!」
男は怒りのまま撃鉄を引こうとする。
次の瞬間―――、
ダン!!!!!
銃弾が銃口から放たれる。しかし―――、
その時、確かに俺の右手の星は輝いていた。
「な!!!!」
それは誰しもが驚く光景だった。
なぜなら―――、俺は銃弾を避けて見せたのだから。
それは岡崎香澄の”特技”。
カチ…カチ…
男は必死にトリガーを引くが銃弾は出てこない。弾丸がなくなったからである。
その光景を見て俺は笑ってやった。
「はは!!
お前、本当の玉無しになったな―――、
俺は女の子たちを全員相手できるほどギンギンだがな!!!!!」
その俺の言葉を聞いて―――、
かなめはため息をつき―――、
日陰ちゃんは赤面し―――、
香澄は怒りマークでツッコミを入れる―――、
「そう言うところだぞ、お前!!!!!!!」
男はうろたえながら後退る、そこにいつの間にかかなめがいた。
「はい―――終わり」
かなめの拳が男の顔面に飛び、男はそのまま昏倒した。
「―――」
それまで呆然と成り行きを見守っていた藤香さんは黙って立ち上がる。
俺はその手をとって笑った。
「ありがとう―――司郎君」
その時やっと藤香さんは、俺に本当の笑顔を見せてくれたのである。
―――第三の試練、攻略完了。
三日使ってみて彼の評価はどうですの?」
三浦家使用人の長である松坂に、藤香は少しも笑いもせずそう言った。
松坂は答える。
「いや―――、なかなかに惜しい人材ですな。
体力はあるし頑丈で情熱もある―――、
多少頭が悪く要領が悪いところはあるものの、教えれば間違いなくこなすことが出来る―――、
正直、本気で我が部下に欲しいと思ってしまう少年です」
「ふうん?
それは―――、なかなかの評価ですわね」
その言葉を聞いて藤香は考える。
(―――フム。
彼は労働者としてはこの上なく優良な人材ではあるみたいですね。
経営を教えればそちらへの適正すらあるのかもしれません)
あの時上座司郎は言った。
『俺は―――藤香さんに本気っす!!』
(あの言葉は―――、何か裏があるような気が私にはします。
何かを隠しているような―――、でも―――)
少なくとも彼から悪意は感じられない―――と藤香は考える。
(―――もうしばらく見守る必要がありそうですわね)
そう言って藤香は目を瞑るのであった。
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今俺は藤香さんの屋敷で使用人見習いをしている。
それもちょうど三日目、仕事はなかなかの重労働だが、そこそこ慣れてきたところだ。
無論、その間も学校はあって、藤香さんについて回って世話をしているが―――、
ソレのせいで―――と言ったらなんだが―――かなめや日陰ちゃん、香澄とは顔を合わせることはほとんどなかった。
(心配してるかな―――)
正直、みんな話して納得してもらった方がよかったのかも―――とも考える。
第三の試練―――三浦藤香さんに関わってくるのは、あの”拳銃男”ではないのかと俺は考えていた。
だから、彼女らには危険な目にあってほしくなくて、かなめにだけ話して俺や藤香さんから彼女らを遠ざけてもらったのである。
「ふう…」
いつになく真面目に働いている俺は、現在美少女欠乏症にある。
無論、屋敷には可愛いメイドさんもいるが―――、彼女らは別に俺に笑いかけてはくれず、事務的な対応しかしてくれない。
だから、唯一藤香さんだけが俺のオアシスになりつつあった。
―――と、不意に屋敷の玄関が騒がしくなる。
俺が、何事かとそこへ向かうと―――。
「―――私たちをメイドとして雇ってください!!!」
「そんな事、いきなり言われても―――」
使用人の一人である加治さんが、うろたえた表情で何者かと会話をしていた。
「加治さん? ―――どうした…
!!!」
その、加治さんが対応している相手を見て、俺は驚愕で目を見開いた。
なぜなら―――、
「あ…司郎君…」
「日陰ちゃん?」
それは日陰ちゃんと―――、
「あ!! 司郎君!!!」
「ふう…」
俺を見つけて嬉しそうな香澄と、小さくため息をつくかなめだった。
「なんで?」
俺がそう呟くとかなめが―――、
「―――隠し通せなかった。
っていうか普通に気づかれた」
そう言って苦笑いをした。
「司郎君…ごめんなさい。
いけないとは思ったけど…心配で」
「そうよ!! 何一人で背負い込もうとしてるの!!!」
日陰ちゃんが申し訳なさそうに呟き、香澄は頭に怒りマークを作って抗議してきた。
「でも…」
「デモもストライキもあるか!!!
危険ってわかってて、アンタを一人に出来るわけないでしょ!!」
香澄の言葉に俺は少しうろたえる。
「…そういうコト。
まあ、私も本当は―――こうするのが正しいんだろうと思ってたんだけど…ね」
「かなめ―――」
「―――司郎。
ごめん、やっぱ我慢できなかったよ。
司郎が私たちを心配してくれるのはわかる―――、
でもそれと同じように私たちも司郎が心配なのよ」
「…」
俺はそのかなめの言葉に黙り込む。
正直、心の中では嬉しくてたまらなかった。
「その方たちは―――」
不意に背後から藤香さんの声が聞こえてくる。
「あら? 貴方は―――」
「三浦さん!! 私たちを雇ってください!!」
「―――」
そのかなめ達の言葉に、一瞬藤香さんは俺を見た後―――、
「いいでしょう―――、
とりあえず入ってきなさい」
そう言って彼女たちを招き入れるのだった。
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その後、藤香さんはかなめたち三人を自分の執務室へと招いた。
その中でどのような会話がなされたのかはわからないが、再び俺がかなめたちと再会したとき、彼女らは全員メイドの恰好をしていた。
―――こうして、俺とかなめたちは同じ屋敷の中で、使用人として働くこととなった。
俺は正直複雑な気持ちではあったが―――、
何より俺を心配して来てくれたことがうれしかった。
―――そして、屋敷での日々は瞬く間に過ぎていった。
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俺が藤香さんの屋敷で働くことになって、ちょうど一週間にもなろうとしていた時、俺は藤香さんの執務室に一人で来るように言われた。
執務室についた俺を待っていたのは、穏やかな表情の藤香さんだった。
「一週間本当にご苦労でしたね、司郎君」
「いや!!! どうってことないっす!!!」
「本当によくやってくれています。
松坂も褒めていました」
「はは!! 藤香さんのお側に居られるんだから、本当に幸せでがんばれるっす!!」
「ふむ…」
その俺の言葉に少し笑みを消して言った。
「わたくしを好き―――、貴方はそう仰っていますね?」
「はい!!!」
「それは―――」
藤香さんは一息ためると、はっきりと言った。
「かなめさんや、日蔭さん、香澄さんたちと比べて―――、上でしょうか?」
「!!!!」
俺は驚いた顔で言葉を詰まらせる。
その反応に藤香さんは満足げな顔をして言った。
「フフフ―――、さすがに下でしょうね。
少し妬けますわ―――」
「そ―――それは」
「―――言わなくても分かります。
あなたと私はついこの間出会ったばかりでお互いをよく知りません。
―――一目ぼれ、もあるかもしれませんが、貴方がそれだとはわたくしには思えません」
「う―――」
「わたくしをエッチな目で見ていることは事実ですが、―――まあそれはいいでしょう」
そこまで言うと、藤香さんは両手を組んで俺を見つめる。
「―――それで、貴方は何の目的でわたくしに近づいたのか?
―――なんて思っていたのですが―――、
貴方が、害意があってわたくしに近づいたのではない事だけは予測できました」
俺は何も言えなくなった。
この藤香さんは恐ろしく頭がよく、俺の裏の心を見抜いてしまっていた。
「お―――俺は―――」
「フフ…いいんです。
私はあなたを責めていません。
あの娘たちがあなたを信頼し―――、だからこそ屋敷で一緒に働いていることはわかりました」
藤香さんは、さらに「だからこそ―――」と言って、真剣な表情でさらに続ける。
「わたくしは、貴方は信頼に足る人物だと判断いたしました。
もし話せる時が来たら、貴方の事情―――目的を話してくださいませんか?
無論、今でなくてもいいです―――」
俺は藤香さんのその言葉を聞いて―――、
「わかりました藤香さん。
全部話します―――、信じてもらえるかわかりませんが」
そうして俺は藤香さんの前でこれまでの事―――、
そして、彼女に迫る危険をすべて話すこととなったのである。
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その夜、俺は一人で月明かりが照らす屋敷の、廊下の窓辺で考え事をしていた。
(―――話を聞いた藤香さんは黙っていた。
そして考えさせてくれと言っていた)
さすがに、ハーレムマスター契約の事まで話したのは不味かったかもしれない。俺は今更後悔した。
「ふう―――」
俺がため息をつくと―――、
「どうしたの司郎」
それを聞きつけたかのようにかなめが現れた。
「眠れない?」
「―――ん?」
「なんか悩みでもある?」
「―――」
そのかなめの顔を見た時、俺はふとあることを思いついた。
それをそのまま口に出す。
「俺は―――、何のために試練を越えようとしてるんだろな?」
「何それ」
かなめが不思議なものを見るような表情で俺に聞き返す。
「俺は―――女の子が好きだ。
囲まれてエッチなことしたい。
だからハーレムマスター契約をして、何とか試練を乗り越えてきた」
「うん? 司郎らしいじゃない?」
「俺は沢山の女の子が、俺の事を好きになってほしい―――、
イチャイチャしたい―――、
―――でも」
「…」
「俺ってただエロいことをしたいだけで―――、
みんなの事を本当に好きなんだろうか?」
そこ言葉を聞いたとき、かなめは少し笑って言った。
「なに? いまさら自分が気が多い事に悩んでるの?
女の子をエロの対象としか見ていないのかって?」
「俺は女の子とエッチしたい。
でも―――ソレってただの性欲だけで―――、
女の子の事、なんも考えてないんじゃないかって」
「ふむ」
かなめは少し考えると言う。
「司郎は日陰ちゃんのことどう思ってる?」
「日陰ちゃん?
う~~ん、助けてあげたい娘かな?」
「それはなぜ?」
「日陰ちゃんはいつも自信なさげで、自分を卑下している節があるから、かな?
日陰ちゃんは十分魅力的な娘だって証明してあげたい」
「じゃあ香澄の事は?」
「香澄は、一緒にいっぱい楽しいことをしたい娘かな?」
「なぜ?」
「香澄って、結構自分の心を押さえこんでるから―――、
それを開放して一緒に遊べば楽しいだろうって」
「なら―――」
かなめは不意に真剣な表情になって言う。
「私は?」
「え?」
「―――」
「ちょっと、本人の前では―――」
俺は少し顔を赤くして言う。
「ふ~~~ん」
少しジト目で睨まれた。
「そう言うお前は、俺の事どう思ってるんだよ!」
「司郎が言わないなら、あたしも言わない」
そう言ってかなめは小さく舌を出した。
「むう」
「フフ…」
不意にかなめが笑う。
「今は―――、今の司郎でいいんじゃない?」
「え?」
「気が多くてエッチばかりしか頭にないけど―――、
一生懸命に頑張ってる司郎は、とってもカッコいいよ」
「む―――」
そのときの俺はどんな顔をしていたのか?
俺はかなめに見せないようにそっぽを向いた。
―――と、
パン!!!!!
「?!!!」
夜の闇に、何やら破裂音のようなものが響く。
それは確かに、屋敷の玄関の方から聞こえて来た。
「これって―――」
俺はイヤでも思い出す。俺の腹を打ち抜いた拳銃の音。
その音を聞いて、俺はかなめに目で合図をする。
「―――行こう!」
俺たちは玄関へ向かって走った。
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俺達が走って玄関にやってくると、そこは修羅場になっていた。
「松坂さん!!!!!」
屋敷のメイドの叫び声が響く。
「うるさい!!! 静かにしろ!!!!!」
その男は、メイドを人質として羽交い絞めにしながら、その右手の拳銃で松坂さんに銃弾を撃ち込んでいた。
松坂さんは腰から血を出してその場に突っ伏している。
「おい!!! あの女を出せ!!!!
こいつを殺すぞ!!!!」
男はそう言って銃口をメイドの顔に押し当てながら叫ぶ。
(ち…これじゃあ、下手に動けねえ)
俺とかなめは男との間合いを図りながら隙を伺う。
しかし―――、
「早くしろ!!!! 十分以内に来ないならこいつを殺す!!!!」
狂った目の男は唾を吐きながらそう叫ぶ。
男に向かってかなめが言った。
「あの女って誰の事です?
それを言ってくれないと、連れてくることは―――」
「三浦藤香だ!!!! あいつを連れてこい!!!!」
(やっぱり―――)
俺たちの予想が確信に変わる。
これが第三の試練で間違いない。
―――と、
「司郎君?! なんの騒ぎっ…て、アイツ?!」
香澄が俺の背後から顔を出す。
男の顔を見て驚きの表情を浮かべた。
「司郎…君」
「日陰ちゃんも来たのか?」
騒ぎを聞きつけて日陰ちゃんまで現れる。
さすがに危険なんで来てほしくなかったんだが―――。
「日陰ちゃん―――、香澄―――、とりあえず二人は下がってて」
「「う…うん」」
二人はとりあえず素直に頷いた。
その間にも時間は過ぎ―――、
「これ以上待てないぞ!!!!
奴が来ないならこいつを―――!!!」
男の怒りは頂点に達し、その銃口をメイドの頬に押し当てて引き金を引こうとした。
(まずい!!!!)
俺たちが無理を承知で突っ込もうとしたとき―――、
「待ちなさい!!!!!
わたくしはここですわ!!!!」
その声と共に藤香さんが現れる。
「三浦―――藤香―――」
その時、男の表情が憎悪に歪む。
「お前のせいで―――お前が―――」
「―――」
その歪んだ眼を正面から受け止める藤香さん。
「貴方は―――、そう言う事でしたの―――」
「そうだ!!! 俺だ!!!!
三浦藤香!!!!」
藤香さんは何か納得した表情で男を見つめ、男は怨嗟に満ちた声をあげた。
俺は藤香に問う。
「こいつの事知ってるんですか?」
「それは―――」
彼女が語ろうとしたとき、男が声をあげる。
「お前のせいで!!!!!
俺の会社はつぶれたんだ!!!!
お前に潰されたんだ!!!!」
「?!!!」
その言葉に俺たちは息をのむ。
「お前に会社を潰されたせいで!!!!!
俺の家族はバラバラになった!!!!!
全部お前のせいで!!!!!」
―――まさか、と俺は思った。
「藤香さん? 本当なんですか?」
かなめが藤香さんを見つめてそう言った。
藤香さんは、少しため息をつくと言葉を返す。
「彼は―――、わたくしが運営している会社の、下請けであった橋山工業の社長だった男ですわ」
「え? ソレって…」
「そう―――二年前ほど前に取引をやめましたが―――、倒産していたのですね」
その言葉を聞いた男は叫ぶ。
「何を他人事のように言ってる!!!!
全部お前のせいだろ!!!!
お前が俺の会社を追い詰めて潰したんだろ!!!!!」
「―――」
藤香さんは黙ってこたえない。
「おかげで俺は―――、妻も子供も俺から離れてったんだ!!!!
俺がこうなったのはお前のせいだ!!!!!
―――だから殺してやる!!!!
お前を!!!!
俺たち中小企業を馬鹿にして搾取した挙句―――、
用無しになったら潰すクズ女が!!!!!!!」
男は口からつ場をまき散らしながら吠える。
その罵詈雑言は聞いていられないほど醜かった。
(藤香さんが本当にそんなことを?
―――でも)
俺はその男の言葉が信じられなかった。
そして―――その疑問はすぐに解けることになる。
「―――そう、貴方はそう解釈したんですね」
藤香さんは深くため息をつくとそう言った。
男は唾を吐きながら叫ぶ。
「なにが”そう解釈した”だクズ女!!!!」
「お黙りなさい!!!!」
―――その瞬間、藤香さんの叱咤の声が飛ぶ。
「!!!」
「貴方は勘違いしていますわ―――。
我が家は―――わたくしは、下請けである中小企業を―――、
蔑むことも―――
侮ることも―――
ましてや恐れることもしたしません」
「なに?!」
「貴方の会社程度を潰すことで、わたくしの会社に利益があると―――
本気で思っているのですか?」
「な―――」
「貴方の会社―――、橋山工業とは、わたくしのおじいさまの代からの付き合いでした。
先代、先々代と、深く付き合ってきた大事な会社でした。
しかし、ある日を境に橋山工業は運営形態を大きく変え、大きく利益を減らし、損益すら出した―――。
―――そう、貴方か社長に就任してからです」
「―――」
「わたくしは当然、運営を正しく戻すように再三言いました。
しかし、貴方は聞き入れなかった。
―――だから、私はあなたの会社を切らざるをえなかった」
藤香さん男を睨んで言う。
「―――それから、しばらくして倒産したのでしょうね?
貴方なら―――おそらく、わたくしの会社に切られたことで焦って―――、
無茶な投資に手を出したと言ったとこですか?」
「ぐ―――」
マジか―――、どうやら図星らしい。
「あなたのご家族も大変だでしょうね―――。
あなたのような経営の出来ない、ろくでなしに関わってしまったのですから」
「く―――」
男はあまりの事に口から泡を吹き始める。
(こりゃ不味い―――、これ以上挑発したら―――)
俺がそう考えると、まさにその通りに男は動いた。
「うああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
絶叫した男は、その銃口を藤香さんへと向けたのである。
そして―――、
ダン!!!!!!!!!
銃声が鳴り響く。
「藤香さん!!!!!!」
全速で駆けた俺が藤香さんを庇うのと、銃弾が地面を穿つのは同時だった。
「な!!!!」
男は驚愕の表情を浮かべる。
俺は藤香さんを抱えて転がる。銃弾は命中しなかった。
俺は、呆然と俺を見つめる藤香さんをその場に寝かせて、立ち上がると男に向かって言った。
「あ~~~やだね。
女の子を傷つけることしかできないカス野郎は」
「なんだと…」
男が俺を睨む。俺は構わず言う。
「まあ、俺はお前と違って―――、
女の子を気持ちいい~~~天国に連れていけるが…!!!」
その俺の言葉を聞いて―――、
かなめはため息をつき―――、
日陰ちゃんは赤面し―――、
香澄は怒りマークでツッコミを入れる―――、
「こんな状況で何言ってんだ!!!!!!!」
男は困惑顔で俺を見る。
「お前…何を訳の分からんことを」
「はん? 俺の事を忘れたのか?」
「!!!!」
男はやっと思い出す。
かつてある女子高生を狙ったときに邪魔した―――、
「貴様―――」
「思い出したかカス野郎」
「またお前は―――俺の邪魔を」
男は銃口を俺に向けなおす。
それを見てかなめたちが叫んだ。
「司郎!!」
「大丈夫―――」
俺は男を睨んだまま笑う。
「ほら撃ってみろよ―――、まあテメエみたいな玉無しには俺を殺すのは無理だろうが」
「貴様!!!!!」
男は怒りのまま撃鉄を引こうとする。
次の瞬間―――、
ダン!!!!!
銃弾が銃口から放たれる。しかし―――、
その時、確かに俺の右手の星は輝いていた。
「な!!!!」
それは誰しもが驚く光景だった。
なぜなら―――、俺は銃弾を避けて見せたのだから。
それは岡崎香澄の”特技”。
カチ…カチ…
男は必死にトリガーを引くが銃弾は出てこない。弾丸がなくなったからである。
その光景を見て俺は笑ってやった。
「はは!!
お前、本当の玉無しになったな―――、
俺は女の子たちを全員相手できるほどギンギンだがな!!!!!」
その俺の言葉を聞いて―――、
かなめはため息をつき―――、
日陰ちゃんは赤面し―――、
香澄は怒りマークでツッコミを入れる―――、
「そう言うところだぞ、お前!!!!!!!」
男はうろたえながら後退る、そこにいつの間にかかなめがいた。
「はい―――終わり」
かなめの拳が男の顔面に飛び、男はそのまま昏倒した。
「―――」
それまで呆然と成り行きを見守っていた藤香さんは黙って立ち上がる。
俺はその手をとって笑った。
「ありがとう―――司郎君」
その時やっと藤香さんは、俺に本当の笑顔を見せてくれたのである。
―――第三の試練、攻略完了。
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