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第四章 影を祓う絆、そして亀裂の兆し――
第四十七話 夜明けに宴は終わり、真なる悪鬼はその名を得る
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夜が明け、白みゆく空の下で、源満仲の屋敷に起こった死者の宴がようやく終わりを迎えようとしていた。
空に光が灯り、その光が屋敷内にも差し込み始めた時、牟妙法師の逃走によって大きく力を失っていた死者の群れは、満仲配下の武者たちによってその数を急速に減らしてゆき――、
「これで最後――」
そういう荒太郎の言葉と共に、最後の死体が動きを止めたのであった。
かくして、襲撃の喧騒は静寂に取って代わり、屋敷内外は疲労と破壊の痕跡だけが残った。
――夜通し続いた死との戦いが、ようやく終結を迎えたのである。
しかし、この夜明けはすべての者にとって希望の光となったわけではなかった。
「――それでは、満忠は……」
屋敷の奥――、捕縛者を留める牢の前に、満仲配下の武者の死体が転がっていた。晴明は傍に立つ頼光と共にその死体を見聞しつつそう言葉を発した。
「門前に赴く前に警告はしていたのですが――、これは明らかに……」
晴明はそう言って顔をしかめる。この逃走を手引きした者は間違いなく――。
「この切り傷は、恐ろしく鋭い剣術によるもの――、間違いなく藤原満顕によるものでしょう」
そう答える頼光に晴明は深く頷いた。頼光はさらに話を続ける。
「すでに検非違使は、私の報告を元に彼らを追っています。しかし――」
その表情は暗く沈み――、それを見た晴明はため息をついて答えた。
「――おそらく、もはや平安京を出ているでしょうね。聞いた話――、彼らの父親である満成も」
「はい……、彼の屋敷で何者かに切り殺されているのが発見されています。それをしたのも――」
「藤原満顕――、果たして彼らは何処へと向かうつもりなのでしょうね?」
その晴明の呟きに頼光は頷く。
夜明けとともに終わりを告げた満仲屋敷の襲撃は、後にまで残る終わりのない問題を生んだのであった。
――そして……、
◆◇◆
平安京の郊外――その森を密かに奔る二人がいる。それは無論、藤原満顕、満忠――、その兄弟である。
彼らは森を奥へと走りぬけて、そして古びた建物の前までやってきた。
それは今にも崩れそうで、壁にはツタが這っているような小屋である。
兄弟はお互いの顔を見合わせると、その小屋の扉を開いて――、その中へと入って行った。
「満忠――、そして満顕殿モ、よク来たな――」
そう言って屋敷内で兄妹を迎えたのは牟妙法師である。
牟妙法師の声は静かでありながら、その中には重々しい何かが感じられた。
満忠は不安と期待が交錯する心境の中、牟妙法師の前に膝をつく。
「――師よ、お救いいただきありがとうございます」
「ほほ――、そのヨうな事、弟子の為なラ当たり前の事……」
そう言って笑う牟妙法師は、軽くせき込みながら次の言葉を放った。
「――もはや、平安京には帰れヌであろう?」
「はい――、悔しい話ではありますが」
満忠は暗い顔で俯いて言う。それを見て満顕は静かに言った。
「父は――、俺が屋敷に赴いた時には、すでに何者かに切られ……死んでおった。おそらくは安倍晴明……あるいは源満仲の手のものであろう」
「く――父上……」
その会話を静かに聞く牟妙法師は、小さく頷いて満忠の肩に手を振れた。
「満忠よ――、もはヤ帰るところも……、藤原の家もオ前は失った――。それはすなワち……、藤原を名乗る必要もなクなったという事」
「――師よ」
「これより我がモとで――、本格的な呪ヲ学び……、自らの成したイことを成すのだ」
牟妙法師は静かに――、そして決定的な重みのある言葉でそう呟く。
満忠は、その言葉に一瞬考えを巡らせると――、
「師よ――、私はこれよりあなたに従います。私に何を求めるのですか?」
そう言って深く頭を下げた。
その満忠の言葉に、牟妙法師は深い闇に包まれた笑みを浮かべる。
「ほほ――、いや……我に従ウ必要はないのだ――。これよりお前は――人の心ノ全てを深く探求し、その力を我ガものとするがよい」
「ヒトのココロ?」
「そうダ――、我が死怨院呪殺道の基礎がそこニはある……そして――」
牟妙法師は一枚の紙を取り出すと、そこにとある名を書き記す。
「藤原満忠――、お前はこれヨり、その名を捨テて”死怨院乱道”――そう名乗るがヨい。それは遥か未来ヘ続き――そして死怨院呪殺道ヲ切り開く者の名」
「死怨院乱道――」
「その果てに――、お前ノ望みを叶えるのだ」
その牟妙法師の言葉に、満忠――、いや死怨院乱道は頭を下げる。
彼にとって、この新たな名前は、過去の自分と決別し、新しい自己を受け入れる証となるのだった。
◆◇◆
かくて死怨院乱道は――遅い産声をこの世にあげた。
それこそは冥府魔道を進む真なる悪鬼――。
それこそは憎悪を以て憎悪を育む邪悪の化身――。
それこそは千年後にすら悲しみと怒り――、嘆き――、恐怖――、死と怨を世界に放ち――
この世に争いを――”乱を呼ぶ”悪神――。
ああ――、死怨院乱道……。
今はまだその宿命を知らぬ幼子にも似た存在であるが――。
――それは、日本は愚か……世界に戦争と破壊――、争いと憎しみを振りまく根源――
悪神の卵――。
自ら腐敗し、そして腐敗させる神――。
その”悪しき千年”の始まりがここに起こったのであった。
空に光が灯り、その光が屋敷内にも差し込み始めた時、牟妙法師の逃走によって大きく力を失っていた死者の群れは、満仲配下の武者たちによってその数を急速に減らしてゆき――、
「これで最後――」
そういう荒太郎の言葉と共に、最後の死体が動きを止めたのであった。
かくして、襲撃の喧騒は静寂に取って代わり、屋敷内外は疲労と破壊の痕跡だけが残った。
――夜通し続いた死との戦いが、ようやく終結を迎えたのである。
しかし、この夜明けはすべての者にとって希望の光となったわけではなかった。
「――それでは、満忠は……」
屋敷の奥――、捕縛者を留める牢の前に、満仲配下の武者の死体が転がっていた。晴明は傍に立つ頼光と共にその死体を見聞しつつそう言葉を発した。
「門前に赴く前に警告はしていたのですが――、これは明らかに……」
晴明はそう言って顔をしかめる。この逃走を手引きした者は間違いなく――。
「この切り傷は、恐ろしく鋭い剣術によるもの――、間違いなく藤原満顕によるものでしょう」
そう答える頼光に晴明は深く頷いた。頼光はさらに話を続ける。
「すでに検非違使は、私の報告を元に彼らを追っています。しかし――」
その表情は暗く沈み――、それを見た晴明はため息をついて答えた。
「――おそらく、もはや平安京を出ているでしょうね。聞いた話――、彼らの父親である満成も」
「はい……、彼の屋敷で何者かに切り殺されているのが発見されています。それをしたのも――」
「藤原満顕――、果たして彼らは何処へと向かうつもりなのでしょうね?」
その晴明の呟きに頼光は頷く。
夜明けとともに終わりを告げた満仲屋敷の襲撃は、後にまで残る終わりのない問題を生んだのであった。
――そして……、
◆◇◆
平安京の郊外――その森を密かに奔る二人がいる。それは無論、藤原満顕、満忠――、その兄弟である。
彼らは森を奥へと走りぬけて、そして古びた建物の前までやってきた。
それは今にも崩れそうで、壁にはツタが這っているような小屋である。
兄弟はお互いの顔を見合わせると、その小屋の扉を開いて――、その中へと入って行った。
「満忠――、そして満顕殿モ、よク来たな――」
そう言って屋敷内で兄妹を迎えたのは牟妙法師である。
牟妙法師の声は静かでありながら、その中には重々しい何かが感じられた。
満忠は不安と期待が交錯する心境の中、牟妙法師の前に膝をつく。
「――師よ、お救いいただきありがとうございます」
「ほほ――、そのヨうな事、弟子の為なラ当たり前の事……」
そう言って笑う牟妙法師は、軽くせき込みながら次の言葉を放った。
「――もはや、平安京には帰れヌであろう?」
「はい――、悔しい話ではありますが」
満忠は暗い顔で俯いて言う。それを見て満顕は静かに言った。
「父は――、俺が屋敷に赴いた時には、すでに何者かに切られ……死んでおった。おそらくは安倍晴明……あるいは源満仲の手のものであろう」
「く――父上……」
その会話を静かに聞く牟妙法師は、小さく頷いて満忠の肩に手を振れた。
「満忠よ――、もはヤ帰るところも……、藤原の家もオ前は失った――。それはすなワち……、藤原を名乗る必要もなクなったという事」
「――師よ」
「これより我がモとで――、本格的な呪ヲ学び……、自らの成したイことを成すのだ」
牟妙法師は静かに――、そして決定的な重みのある言葉でそう呟く。
満忠は、その言葉に一瞬考えを巡らせると――、
「師よ――、私はこれよりあなたに従います。私に何を求めるのですか?」
そう言って深く頭を下げた。
その満忠の言葉に、牟妙法師は深い闇に包まれた笑みを浮かべる。
「ほほ――、いや……我に従ウ必要はないのだ――。これよりお前は――人の心ノ全てを深く探求し、その力を我ガものとするがよい」
「ヒトのココロ?」
「そうダ――、我が死怨院呪殺道の基礎がそこニはある……そして――」
牟妙法師は一枚の紙を取り出すと、そこにとある名を書き記す。
「藤原満忠――、お前はこれヨり、その名を捨テて”死怨院乱道”――そう名乗るがヨい。それは遥か未来ヘ続き――そして死怨院呪殺道ヲ切り開く者の名」
「死怨院乱道――」
「その果てに――、お前ノ望みを叶えるのだ」
その牟妙法師の言葉に、満忠――、いや死怨院乱道は頭を下げる。
彼にとって、この新たな名前は、過去の自分と決別し、新しい自己を受け入れる証となるのだった。
◆◇◆
かくて死怨院乱道は――遅い産声をこの世にあげた。
それこそは冥府魔道を進む真なる悪鬼――。
それこそは憎悪を以て憎悪を育む邪悪の化身――。
それこそは千年後にすら悲しみと怒り――、嘆き――、恐怖――、死と怨を世界に放ち――
この世に争いを――”乱を呼ぶ”悪神――。
ああ――、死怨院乱道……。
今はまだその宿命を知らぬ幼子にも似た存在であるが――。
――それは、日本は愚か……世界に戦争と破壊――、争いと憎しみを振りまく根源――
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自ら腐敗し、そして腐敗させる神――。
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