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第二章 果てなき想い~道満、頼光四天王と相争う~
第十一話 道満は遥か師を想い、頼光四天王と相対する
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――ああ、嫌になる。拙僧の性格が恨めしい――。
ガキン!
とある樹木が生い茂った山の奥――、鋭い剣線が空を奔り、それを術式の光盾が防ぎ打ち砕いている。
森の闇に紛れて相対し、殺し合う二人――、その相対する二人のうちの一人は誰あろう蘆屋道満である。
そして――、
「フン――、なかなかやる――、だがここまでだ。道満――、悪しき妖魔に絆された愚かさを呪うがいい」
「――ち」
道満は舌打ちしつつ術式を展開する。その光の盾は――、今は相手の太刀筋を防いではいる――が、
(相手は――相当な達人……、さすが腐っても頼光四天王――か)
道満の術式の守りを相手の剣術は上回りつつある。そう――、今道満が相対している人物は――。
「悪しきを討ち、平安を都にもたらすは我らが使命――、それを邪魔する者は……かの晴明殿の弟子でもゆるさぬ」
「――ち、勝手な話を――、渡辺源次。アイツらの想いも……言葉も、まったく聞く気もない頑固者が――」
「妖魔は悪なり――、それが真実でありすべてだ――」
その渡辺源次の言葉に、さらに顔を歪ませる道満。もはや彼には言葉は通じぬだろう。
「――は、真実だとか……てめえの思い込みはどうでもいい。こうなったからには、拙僧が貴様を殴り飛ばして思い知らせる」
「出来るものか――、先の者達と私を同じにするな?」
道満はその返しにただ黙って印を結ぶ。その戦いの決着の時は近かった。
――本当に拙僧というヤツは、とっさに激情に奔る傾向がある。
それがたとえ自分にとって最悪とも呼べる選択であっても――、拙僧は感情に嘘をつくことはできない。
だから今回も――、本当なら仲間である頼光と――その配下”頼光四天王”相手にやらかしているのだ。
――ああ、恨めしい……。でも――、
蘆屋道満は、自分が救うと決めた二人を想う。だからこそ――、
自身の性格を恨めしいと思いはすれど――、その選択だけは後悔すまい。
(すまぬ師よ――、もはや拙僧は、平安京には帰れぬかもしれん)
それは悲痛な決意。――はっきり言えば、彼らに対しそこまでする義理があるかというと――そうではない。
――でも彼は決めてしまった。彼らの想いを守るために命を懸ける決断した。
それは――、天元三年。道満が晴明の弟子となって三年の月日が経った時。
蘆屋道満の未来を決める――、そして、後の全ての始まりとなる戦いが、ここに始まったのである。
◆◇◆
天元三年――、道満の歳が二十に到達したこの年――道満は日課となった仕事を繰り返す日々を送っていた。
晴明にもたらされる様々な依頼――、それを晴明に代わって解決していくのである。
ここにきて――、道満は平安京の者達にもよく知られるようになっていた。何しろ――晴明に依頼すると必ず彼が来て問題を解決してくれるのだから。
「このままでいいのか? 師よ――」
「何がです?」
「――最近は、師より俺に対して依頼をしてくる者も増えただろう?」
それを聞いた晴明は朗らかに笑う。
「いい事ではないですか? ――道満が活躍すると私もうれしいですよ?」
「――ふう、師は――、本当に出世欲も何もないようだな。少しは危機感を感じたらどうだ?」
「――何の危機感ですか? 私には危機など迫ってはいませんが?」
道満はただ呆れて師を見つめる。もう三年以上の付き合いになるが、いまいちこの人の本来の性格を理解することが出来ない。
師はおそらく目的があってこのような事を続けているのだろう。それは薄々理解できてはいるが――。
(果たして――、このまま師の下にいてよいのか?)
道満は――、最近の日常をつまらなく思い始めている。
晴明に”参った”を言わせる野望もはるか遠く――、最近は現状に慣れてしまっている自分を感じている。
(ここらで――、自分の力を示す機会は訪れないか?)
それで――、現状を打破し、晴明の縛から離れれば――、或いは自分なら、
「師よ――このままでは拙僧に、すべてを追い抜かれるぞ?」
そう言って晴明を見つめる。晴明と言えば――。
「無論――師を越えることを望んでいますとも」
そう言って楽しげに笑ったのである。
◆◇◆
――……様、ああ――。
――。
――わかっております。これは……――。
――――。
この身が滅びようとも私は――、ああ……様。
平安京に一つの事件が起こった。それは婚姻を控えたとある貴族の姫が――、ある妖魔にさらわれたというのである。
その妖魔は――、その貴族の私兵や検非違使すら退けて、悲鳴をあげる姫を攫って行った。
その段になって時の朝廷は、その妖魔の討伐を行うよう勅を出し。――そして、その討伐に白羽の矢が立ったのが、清和源氏の若君――、
現在は検非違使においてもそこそこの地位となっている、源頼光と――その直属の配下である”頼光四天王”であった。
源頼光にしたがう四天王と呼ばれる人物たちは、いずれも一騎当千の強者ばかりであり――、その多彩な能力も評判であった。
第一に――、
渡辺源次は、平安京最高峰の剣術の使い手にして、純粋な剣術であれば頼光を越えるほどの実力者。
第二に――、
坂上季猛は、頼光のお目付け役にして、最高峰の弓術と――、恐ろしいまでの霊威の高さからくる対呪術耐性の持ち主。
第三に――、
荒太郎は、山岳信仰の術を習得し――、補助術においては右に出るものなしという人物にして、その杖術は岩をも砕くとされる。
第四に――、
金太郎は、最も若い四天王にして、動物の言葉を理解し、その怪力は比べるものなしと言われる快男児。
彼らは、対妖魔戦闘のプロであり、平安京における最強戦力の一つでもあった。
――そして、慎重に慎重を期した朝廷は、さらにその彼らに支援をつけることにする。それは当然のごとく”安倍晴明”であり――、
それゆえに、その討伐の旅には”蘆屋道満”が晴明の名代として同行する事となったのである。
――そして、それこそが、後の事態を招く――、”全ての始まり”となるのである。
ガキン!
とある樹木が生い茂った山の奥――、鋭い剣線が空を奔り、それを術式の光盾が防ぎ打ち砕いている。
森の闇に紛れて相対し、殺し合う二人――、その相対する二人のうちの一人は誰あろう蘆屋道満である。
そして――、
「フン――、なかなかやる――、だがここまでだ。道満――、悪しき妖魔に絆された愚かさを呪うがいい」
「――ち」
道満は舌打ちしつつ術式を展開する。その光の盾は――、今は相手の太刀筋を防いではいる――が、
(相手は――相当な達人……、さすが腐っても頼光四天王――か)
道満の術式の守りを相手の剣術は上回りつつある。そう――、今道満が相対している人物は――。
「悪しきを討ち、平安を都にもたらすは我らが使命――、それを邪魔する者は……かの晴明殿の弟子でもゆるさぬ」
「――ち、勝手な話を――、渡辺源次。アイツらの想いも……言葉も、まったく聞く気もない頑固者が――」
「妖魔は悪なり――、それが真実でありすべてだ――」
その渡辺源次の言葉に、さらに顔を歪ませる道満。もはや彼には言葉は通じぬだろう。
「――は、真実だとか……てめえの思い込みはどうでもいい。こうなったからには、拙僧が貴様を殴り飛ばして思い知らせる」
「出来るものか――、先の者達と私を同じにするな?」
道満はその返しにただ黙って印を結ぶ。その戦いの決着の時は近かった。
――本当に拙僧というヤツは、とっさに激情に奔る傾向がある。
それがたとえ自分にとって最悪とも呼べる選択であっても――、拙僧は感情に嘘をつくことはできない。
だから今回も――、本当なら仲間である頼光と――その配下”頼光四天王”相手にやらかしているのだ。
――ああ、恨めしい……。でも――、
蘆屋道満は、自分が救うと決めた二人を想う。だからこそ――、
自身の性格を恨めしいと思いはすれど――、その選択だけは後悔すまい。
(すまぬ師よ――、もはや拙僧は、平安京には帰れぬかもしれん)
それは悲痛な決意。――はっきり言えば、彼らに対しそこまでする義理があるかというと――そうではない。
――でも彼は決めてしまった。彼らの想いを守るために命を懸ける決断した。
それは――、天元三年。道満が晴明の弟子となって三年の月日が経った時。
蘆屋道満の未来を決める――、そして、後の全ての始まりとなる戦いが、ここに始まったのである。
◆◇◆
天元三年――、道満の歳が二十に到達したこの年――道満は日課となった仕事を繰り返す日々を送っていた。
晴明にもたらされる様々な依頼――、それを晴明に代わって解決していくのである。
ここにきて――、道満は平安京の者達にもよく知られるようになっていた。何しろ――晴明に依頼すると必ず彼が来て問題を解決してくれるのだから。
「このままでいいのか? 師よ――」
「何がです?」
「――最近は、師より俺に対して依頼をしてくる者も増えただろう?」
それを聞いた晴明は朗らかに笑う。
「いい事ではないですか? ――道満が活躍すると私もうれしいですよ?」
「――ふう、師は――、本当に出世欲も何もないようだな。少しは危機感を感じたらどうだ?」
「――何の危機感ですか? 私には危機など迫ってはいませんが?」
道満はただ呆れて師を見つめる。もう三年以上の付き合いになるが、いまいちこの人の本来の性格を理解することが出来ない。
師はおそらく目的があってこのような事を続けているのだろう。それは薄々理解できてはいるが――。
(果たして――、このまま師の下にいてよいのか?)
道満は――、最近の日常をつまらなく思い始めている。
晴明に”参った”を言わせる野望もはるか遠く――、最近は現状に慣れてしまっている自分を感じている。
(ここらで――、自分の力を示す機会は訪れないか?)
それで――、現状を打破し、晴明の縛から離れれば――、或いは自分なら、
「師よ――このままでは拙僧に、すべてを追い抜かれるぞ?」
そう言って晴明を見つめる。晴明と言えば――。
「無論――師を越えることを望んでいますとも」
そう言って楽しげに笑ったのである。
◆◇◆
――……様、ああ――。
――。
――わかっております。これは……――。
――――。
この身が滅びようとも私は――、ああ……様。
平安京に一つの事件が起こった。それは婚姻を控えたとある貴族の姫が――、ある妖魔にさらわれたというのである。
その妖魔は――、その貴族の私兵や検非違使すら退けて、悲鳴をあげる姫を攫って行った。
その段になって時の朝廷は、その妖魔の討伐を行うよう勅を出し。――そして、その討伐に白羽の矢が立ったのが、清和源氏の若君――、
現在は検非違使においてもそこそこの地位となっている、源頼光と――その直属の配下である”頼光四天王”であった。
源頼光にしたがう四天王と呼ばれる人物たちは、いずれも一騎当千の強者ばかりであり――、その多彩な能力も評判であった。
第一に――、
渡辺源次は、平安京最高峰の剣術の使い手にして、純粋な剣術であれば頼光を越えるほどの実力者。
第二に――、
坂上季猛は、頼光のお目付け役にして、最高峰の弓術と――、恐ろしいまでの霊威の高さからくる対呪術耐性の持ち主。
第三に――、
荒太郎は、山岳信仰の術を習得し――、補助術においては右に出るものなしという人物にして、その杖術は岩をも砕くとされる。
第四に――、
金太郎は、最も若い四天王にして、動物の言葉を理解し、その怪力は比べるものなしと言われる快男児。
彼らは、対妖魔戦闘のプロであり、平安京における最強戦力の一つでもあった。
――そして、慎重に慎重を期した朝廷は、さらにその彼らに支援をつけることにする。それは当然のごとく”安倍晴明”であり――、
それゆえに、その討伐の旅には”蘆屋道満”が晴明の名代として同行する事となったのである。
――そして、それこそが、後の事態を招く――、”全ての始まり”となるのである。
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