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西暦2092年

遥かなる橋~ハルカナルハシ~

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西暦2092年4月8日――。深夜11:27。
月明かりに照らされながら、二機のCXX強襲輸送機が北東へ向かって飛行している。
その周囲には2機のF5C戦闘機が護衛としてついて警戒を行っている。

「目標まで約20分だぜ? みんな準備はいいか?」

「こちらは準備OKだよ。それで――敵の動きは?」

「やっと敵の気圏戦闘機がこちらに気付いたところだな。
2機ほど高速で迫ってきている」

その機長の言葉に”第六師団第六特務施設大隊第三中隊第一小隊”、小隊長”稲田いなだ 爽志そうし”二等陸尉は鼻を鳴らした。

「撃墜されんでくれよ?」

「任せておけって――」

輸送機の護衛の、F5C戦闘機が高速で前方へと奔っていく。接近する2機の気圏戦闘機を迎撃する腹である。
そのまま数分後に、空対空ミサイルの応酬が起こり、さらに気圏戦闘機同士のドッグファイトへと変化していく。

「敵機1機撃墜――。順調だ」

「よし、それならもうそろそろだな?」

「おう、パーティー会場に到着だぜ! 綺麗なドレスを破かれんようにな?」

低空飛行を行い降下態勢に入ったCXX強襲輸送機は、下部ハッチを開いてそれぞれ二機づつのTRAの姿をさらす。
そんな輸送機に向かって、地上からの地対空ミサイルが襲い掛かる。しかし、その攻撃はCXX強襲輸送機のチャフやデコイによって防がれ、CXX強襲輸送機はそのまま安定した飛行を続けた。

「アルファチーム降下開始!! GOGO!!」

闇の中を4機のTRAが下方の大河に向かって降下していく。その先には大河を横断する巨大な橋が見えた。
アルファチームの4機のTRAは、橋の両端に二機ずつ着陸すると直ぐに警戒姿勢で走って遮蔽物でその身を隠した。

「橋の両端にそれぞれ主力戦車2、偵察装甲車1、自走対空ミサイル1!!」

「排除!!」

副官であるアンドロイド”ジーン6”の索敵によって暴かれた敵の数を理解した小隊長・稲田は、全機体の隊員に排除命令を下す。

ダダダダダダダダ!!!!!

配下の機体の40㎜小銃ら弾薬が吐き出されて対空車両――そして敵部隊の目である偵察車を破砕してしまった。

ドン!!!

敵主力戦車がその155㎜戦車砲を放つ。それを寸でのところでよけた稲田は、その手に持つ88㎜重機関銃を主力戦車に向けて放ったのである。

ボボボボボ!!!!!

すさまじい咆哮と共に1両――また1両と吹き飛ぶ主力戦車。
そのわずかの間に、その場には主力戦車が二両しか残っていなかった。

ビー!!!!

サイレンが橋の周囲に響き渡り始める。それに呼応するように周囲にある軍事施設の明かりがともり始め、あわただしい雰囲気が周囲位に漂い始めた。
――と、その時、上空に巨大な機影が見えた。それはTRA搭載用のC-322特設輸送機の陰であった。
上空に現れた二機のC-322特設輸送機はその後方ハッチを開いて見せる。そこにはそれぞれ4機づつのTRAが見えた。

「アルファチーム、お待たせ!!
パーティの下準備は順調かな?」

その声を発したのはベータチームリーダーである土井どい二等陸尉である。そのまま返事を聞かずに計8機のTRAは順番に降下を始めた。 
警報に呼び出されて周囲に主力戦車、偵察車両、そして対TRA車両が集まってくる。――さらに。

ババババババババ……!!!

「対戦車ヘリ2機確認!! 優先排除!!」

その声を発した土井に反応して、ガンマチームリーダー長瀬ながせ二等陸尉のTRAに設置された二連装地対空ミサイルが放たれた。

ドン!!!

二発のミサイルは的確に対戦車ヘリを粉々に撃墜する。TRAにとってうるさい羽音が消えてなくなった。
もっとも、それで脅威が消えたわけではない。

「先に目を潰せ!!」

誰かの言葉に答えるように、各TRAが手にする小銃の咆哮が闇に響く。
軽装甲の偵察車両は次々に粉砕されていった。

ドン!!!

それに抵抗するように対TRA砲を積んだ装甲車両がその主砲を放つ。

ドカン!!!

運が悪い味方の一機がそれを脚に受けて歩行不能へと追いやられてしまった。

「ち!!」

稲田は舌打ちするとその88㎜重機関銃を対TRA車両に向かって放つ。
次々に粉砕されていくそれらの車両を乗り越えるように敵部隊の本命が姿を現した。

「RONの最新多脚戦車”四式神亀”確認!!!
四両もいやがる!!」

四式神亀の一両が、脚を失った味方に狙いを定める。
その目的を理解したベータチームリーダー土井は、その肩に設置された兵装のトリガーを引いた。

ガン!!!!

土井のTRAが装備する90式電磁速射砲の弾丸が四式神亀の装甲を貫通する。――そのまま吹き飛んで沈黙した。
残った四式神亀は、その周囲に超零場式神楯を展開し、さらにその砲塔に設置された副砲を放ってきた。

「く!!!!」

土井はそう叫びながらなんとかその光弾を避けたのだった。

四式神亀には、主砲として重力波レールキャノンが搭載されている。
しかし、対主力戦車兵装であるそれは、超零場式神楯展開中は放つことができなかった。
そのような主砲を放てない状況に対応するため、四式には副砲として重力波砲が搭載されていた。
この副砲は、近接目標にしか使用できないが、最強の超零場式神楯を展開しながら放つことができたのである。
こうなったが最後、四式神亀に対し物理攻撃手段は効かず、こちらは逆に一方的に攻撃を受ける羽目になる。

「ち――」

最悪の状況にアルファチームリーダー稲田は舌打ちをした。
そんな時――、

「こいつらの相手はあたしがするっす。ほかの排除をよろしく」

そう言って闇から現れたのは、1機の92式戦術機装義体C型であった。
その登場パイロットは――、

(まあ、お仕事を始めましょうかね――)

あの大西おおにし 龍生たつきと共にいた女性”湊音みなと”であった。
湊音はその手に持った機剣”フツノミタマ”を起動する。
そしてそれを構えた状態で、闇を四式神亀に向かって駆けたのである。

(龍生さん――、今のところは利害が一致しているから協力するっすよ。
日本人を助けるなんてゾッとしないっすが――)

闇の中、その暗い瞳を光らせながら、闇を抱える1人の漆黒の剣士はその魔剣を振るったのである。


◆◇◆


かくして、この日『遥かなる橋A Bridge Too Far作戦』は実行に移された。
RONの部隊によって占拠状態にある、マニス共和国の重要拠点である北部都市ドルニス。
ドルニスはマニス首都と大河で隔たれ、さらに周囲に険しい山脈があることから、進軍するための手段がドルニス南西部にあるホートレス大橋しかなかった。
そこには当然、ドルニスへの侵攻を阻む機甲部隊が展開しており、RON側の状況が悪化すれば最悪大橋を爆破する可能性すらあった。
今回、特務施設科が行った任務は、空挺強襲によって橋の周囲の機甲部隊を排除。大橋の安全を確保したうえで、後続の味方機甲部隊の到着まで大橋を守り切ることであった。
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